2021/01/17 のログ
ジーゴ > 小さなミスを繰り返しながらも懸命に働く少年の夜は更ける。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からジーゴさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフォンティーンさんが現れました。
フォンティーン > 「んー……、ううん、怖気づいている訳じゃないの。
 落ち着いて考えてみて。その依頼は正式にギルドに出した方が良い。
 一人なら――相当熟練度がいる。わたしには難しいし、…残念ながら紹介できる伝手もない。」

昼下がりの鍛冶屋の店先。
――この街に訪れて知り合いになった鍛冶師の男に声を掛けられ、
麗らかながら雑多な空気を残す中、調整を頼んでいた手甲を受け取りながら首を傾ぐ。

[貴族の依頼に使う魔獣の毛皮を取ってきて欲しい]

依頼としては単純な、ある程度経験を積んだ冒険者なら有り勝ちな物。
それが正規の経路を通していない依頼だというのも、根付いた冒険者になら持ちつ持たれつ。
但し、其れがこの辺りの固有種で、個体差がある
――しかも、情報が確定していない相手だとすれば可也条件は厳しい、厳しい、筈だ。
未だ拙い経験ながら、細い両手を胸の前に掲げると鍛冶師を制するように向けて、
まるで子供に相対するかの様に説き伏せようとする一幕。

依頼人が貴族という事で時間的な焦りもあるだろう。
組織を介し、人数を増やせば確度は上がるが旨味が減る、そんな打算も多少あるだろう。
此方が聊か判断に自信無さそうだと云うのも、押せば行けると思わせるのか。

中々退かぬ男を前にちら――と、懸念気に店内に視線を流すのは、丁度店の空く時間帯。
徒弟達も昼食に席を外しており、他の客の対応をするべき人間が目の前の男しか居ない所為。
他の客がいなければ良いのだが、若し居たとすれば随分と放置している事になるのだから。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にライエさんが現れました。
ライエ > 平素からイラついているような顔の作りであるが今は生まれのせいでなくイラついていた
普段遣いの短剣や投げナイフと言った小物を纏めて研ぎに出したのが数日前
今日はそれらを受け取りにやってきたのだが、一向に手元に戻ってこない
店を訪れた時に対応した徒弟は確かに『すぐにお持ちしますね』と言ったがそれきり店内で待たされ、
半刻ほどが過ぎている。対応した徒弟らしき男は先程、何用か店を出ていってしまったし、
店主らしき鍛冶職人は、何時まで立ってもあそこで問答を繰り返している
初めのうち、店内に飾られている武器防具を見ては時間を潰していたけれども、
それもいい加減、限界だった。これならば普段から頼む、いつもの鍛冶屋に持ち込むのであった、と後悔すらした

問答を繰り返している小柄な人影の背後に立つと、その肩越しにずい、と腕を伸ばす
細かな戦傷や古傷が残るが逞しく如何にも戦士といった腕が、小柄な人影越しに店主の胸ぐらを掴み、
それからぎゅ、と節くれだった指先が、ぎゅっ、と店主の喉元を掴む

「あんたがあれや、これやと問答をするのは自由だが、その話は客を待たす程、大事なもんなのかね?
 こちとら、砥代だってちゃぁんと事前に支払っているんだぜ?」

首を掴んだ指先にきゅっ、と力がこもればヒッと口から空気が漏れたような声を漏らし、
突然のことに眼を白黒させる店主。その怯えた顔を見れば幾らか溜飲が下がり、
先程のまでのイライラも次第に霧散していったが、怒気を孕むような天性の顔つきである
首を掴んだ指先を緩め、そっと伸ばした腕を引っ込めれば、早くしてくれ、と店主に眼で訴える
慌てて店の奥に店主が消えていけば、チッと軽く舌打ちして

「話の最中に悪かったね、どうも待たされてイラついてたもんで」

と店主と問答を繰り返していた小柄な人影に一言詫びを入れた

フォンティーン > 手に余る依頼を断りたい者と、何とか受け取らせたい者と――
互いの利害が完全に真逆を向いている以上平行線のやり取り。
困り顔は見た目にも明らかで、半ば息継ぎのように揺らした視線の先、
にゅ――と他者の腕がフードを掠めて間近を通り、此方の背筋も伸びた。

まるで獣のような立ち振る舞いで気配少なに背後に立った影を、
瞬いて見上げると怒りを噛み殺した顔。
其れだけ大分時間を無駄に使わせられたのだろうと察せられる程に。
次いで野太い呻き声が響き、真ん前を向けば鍛冶師に絡む力強い指に「わ」と小さな声があがる。

「ごめんなさい。――あなたが怒るのも無理はないのだけれど、
 断り切れずに長引かせたわたしも悪い。」

鍛冶師も十分に身体を使い鍛え上げられた体格をしていたし、
荒くれ者の相手等其れこそ日常茶飯事ながら、急所を掴まれて仕舞えば四の五の言う隙も無い。
一息力が籠められれば何らかの支障が残る事もあるこの状況。
引かれていく腕に片手を添え、背後の人物へと謝罪を告げると、
力強い腕の側面を叩き彼の慈悲を願う仕種。

「ううん、――寧ろ、正直助かった。わたしの手には余る話だったから。」

逆に相手の謝罪を受ければ軽く笑って首を振り、鍛冶師が奥へ消えたのを見てから口を開いた。
此れで依頼どころの話では無くなっただろうと、人心地ついた気分。
長身の人物の影で、強張っていた身体を緩め。

ライエ > 無為に過ごした時が戻るわけでは決して無いが、鍛冶屋の驚きと怯えの滲んだ表情は
溜飲を下げるには過不足なく、伸びた腕に慈悲を求めて触れる細く白い指先には少々面食らってしまった
こちらからは背後の姿しか見えなかったものだから使いの丁稚の少年か何かだと思っていたのだけれど、
白い指先に微かに漂う甘い香りは日がな一日、肉体労働に働き詰めの奉公人という風ではない

「そりゃあ、良かった
 俺の手元には刃物が戻る、アンタは問答を中断できる…お互い、損は無いわな」

伸ばしていた腕を引っ込めると一歩、二歩、と彼女から後ずさる
女と知らずに距離を詰めてしまったのは如何にもバツが悪かったのもあるし、
少年だと勘違いしてしまったのもバツが悪い。普段であればなんせ狼であるから、
話し声や僅かに漂う匂いで判りそうなものであるが、イラついてつい、そちらに意識が向いていなかった

どうやら、彼女にとって都合の悪い話であったらしい
そんな事も聞き取れないほど、イラついていたか、と自分自身に苦笑を浮かべれば、
店主が戻り預けた刃物一式が手元に戻る。店主が再び、彼女との問答を繰り返す気配であったから、
チラリ、とざんばらに切った毛先の奥から一瞥をくれれば、店主はすごすごと仕事に戻ったようであった

「…余程、アンタに頼みたい用があったらしい」

どうやら諦めたようだが、と肩をすくめて見せれば、布にくるまれた刃物一式を脇に抱え直した
少年と見誤った事を詫びるべきであるか一瞬悩んだが、これは自分自身が口に出さねば気が付かれぬことであろう、と
謝罪の言葉を飲み込み素知らぬ顔をした

フォンティーン > 不意に背後の人物の動きが固くなったように思え、ひっそりと両目を瞬く。
不用意に触れた事が気に障ったのかと思い当たれば此方の手も妙に強張った調子で相手の腕から放した。
「済まない」と重ねて謝罪する言葉は独り言風に、
まさか性別を誤認させたことが後を引いているとは思わず。

「わたしには全く。あなたは少し損があるでしょう。時間とか…
 普段は違う鍛冶屋を使っているの?」

確かに苛立ちに乗せて先の行動を取ったとしか思えない大らかな仕切りについつい笑って、
野性の獣のように遠ざかる彼を振り返ると一歩距離を詰めて持ち出す、他の店舗に関わる話。
幾分声を潜めて、この店の主を気にした様子にしながら雑談半分。情報収集半分。

其処に奥から戻る足音が聞こえて声を詰まらせ、今は背を向けた背後を気にし始める。
青年との用事を済ませれば早々、此方とのやり取りを再開しそうな店主には表情を曇らせて青年の影に入ろうと。

「丁度便利に使えそう――だと思われて仕舞ったかな。
 っ…あの、もう少し話を聞きたい。そうだ、迷惑をかけた詫びに食事とか。余り高い所は難しいが…」

何とか話を避けようと逃げの姿勢でいる間に、鋭い牽制で守られた事は見逃したから、
何故か声を発しかけた店主が言いたい言葉を飲み込んで、一旦は仕事に戻る様子を不思議げに見遣る。
依頼した品を抱え直す様子に反射で青年の腕かマントか、兎に角手の届きそうな所をぎゅうと掴もうとした。
言葉だけ聞けば小柄な少年風の人物に粉を掛けられる戦士という妙な図。
取り合えず彼と共にこの場を去る理由が欲しいという、青年を利用する言葉で誘い、

ライエ > そっと白く細い指先が離れていく頃には、思いの外、驚き面食らってしまっている、
自分への驚きに変わっていたように思う
それから、愉快な発見をしたものだ、という風に考え、そのうちに落ち着いてしまう
すまない、と謝罪する彼女の声にやや間を置いて、「いや…」と軽く流したかと思えば、
自分の内なる思考が面白くて僅かばかりか鼻を鳴らした

「留めておけないものを失った所でどうということはない、それに少しばかり面白い経験だった
 …ん?ああ、行きつけの鍛冶職人はここん所の寒さで腰をいわしちまってな…」

彼女には判らぬであろう返事をし、それから普段よく武器や防具のメンテナンスを頼む鍛冶屋の話をした
一歩を距離を詰められても気にする様子はなく、頑固であるが腕の良い鍛冶職人の事について語りだす
商売敵であろう事を気にしてか、声を潜める彼女に対して此方は、全く気にすることのない声量で、
話すものだから店の奥より舞い戻った店主は嫌な顔の1つもしたかもしれない

未だに物言いたげな様子であった店主が鋭い一瞥に店の奥に引っ込んでしまえば、
脇に隠れようとしていた彼女に視線を向ける。余程、しつこくされたのであろうと、
少々不憫にすら思ってしまう…はっきりと断れぬのは彼女の人柄であるやもしれない

「さて、どうかな…少なくとも強面を口説くよりは余程、容易くは感じたろうが…
 ん……?そうだな、あまり恩義に感じる事もないがそれでアンタの気が済むのなら、
 温かい飲み物の一杯も奢ってくれれば良いさ。待ちぼうけくらって立ちっぱなしだったからな」

少し冷えた、とニヤリと笑うと彼女の提案にうなずく
いつの間にやら、ぎゅっ、とマントを握られているらしいことに気がつけば、
意地悪く白く鋭利な歯を覗かせながら笑って言った

「そんなに怖い男ではなかったろ?
 確かにアンタよりは幾分、身体も大きな男であったが」

マントを掴む彼女の様子がおかしかったらしく、笑いを噛み殺そうとしながらも出来ず、
彼女を伴って鍛冶屋を後にしようとして

フォンティーン > 短い間にも判る大らかで恐らく豪胆であろう人物が何処か惑い悩んでいる様子は、
如何も不釣り合いで気が引かれる。己と違うのは肉体一つで世を渡ってきた自負か。
大きく変わる訳でも無いのに随分と豊かに感情が浮かぶものだと、興味深く見遣り、

「返す返すも――余程待ち惚けたのだな。ああいう怒り方を普段する人ではなさそう。
 面白いのは、先ほどの鍛冶師の顔か?……ふむ。」

当初は唐突に見えた苛立ちの所作に驚きもしたが、時間が経つ程逆にその行動に違和感を覚え。
青年の心情は読めないから率直な問い掛けをしつつ、合わせて得る情報を記憶に刻む。

全く声を潜める所のない青年には少し眉尻を下げるが、強制できることでもない。
此方は礼儀程度に声を落としてはいるが、――拗れれば暫く娘の足が遠ざかる事位は鍛冶師も計算しただろうし、
逆に言えば遠のいても売り上げの大勢には影響しないと思われたから頼まれたのだろう。

首尾良く、脇に身を半分隠せば見下ろす視線に気づいて顔を上げ、
視線が合うと気まずげに唇を尖らせる。
とはいえ笑って此方の願いを受け入れてくれるのであれば、
その上そう高く付きそうのない落としどころに安堵を浮かべた。

「強面になってこの苦労が無くなるなら喜んでなりたい所だ。
 温かい飲み物か。屋台で買って行くか、お湯を貰えれば故郷の茶も振舞える。
 ふふ、お疲れ様だったな。 

 ――……っ
 大きさで云えばあなたの方が大きいからな。別に怖がっている訳じゃないもの。」

必死さが出て何でも良いから独りにするなと言いたげな仕種。
重たいマントの布地を遠慮無く握り締めた仕種を自認すれば、流石に耳元から首筋にかけてが赤らんだ。
揶揄うような物言いに文句めいた口を聞きながらも掴んだマントは放さないと云う、何の説得力も無い状態で、
人の好さを借り受けた安全な軒下に隠れて鍛冶屋から脱出を図り

ライエ > 新緑に光る瞳が興味深げに此方に向けられているのが何やら擽ったい
何がそこまで興味を引いたか判らぬから余計に擽ったく思えてしまう

「いや、それは思い違いだ。俺は何時までたっても夕餉の席につかぬ子供を急かす母親程には気が短いし手も早い
 店主の尻を叩いてやっても良かったが、生憎と俺はあの店主の母親ではないからな」

何が面白かったのか、と問われてもさてね?と僅かに首を傾げ口元を楽しげに歪めるに留める
店主の首筋を掴んだのはたままた、彼女越しにそこが一番掴みやすかったと言うだけの話
思うにただ、預けた刃物一式を受け取るだけの事が待ちぼうけを食らい、
店主や徒弟には放って置かれたのが腹に据えかねたと言うだけの話である

店主が消え彼女と2人、店の中に残される
冗談に顔を赤する彼女に一歩先んじて、マントを掴んだままの彼女を引っ張るようにして店を出る
彼女に背を向けるようにして歩いているが、しかと彼女の首筋から耳元が僅かに染まるのをこの眼に見た

「そうだな、湯を沸かす前にアンタが湯だってしまわぬと良いが…
 いや、この空気の冷たさであれば心配するだけ無駄であったかな?」

弱みと見れば誂いたくなる性分であった
酒の一杯でも、と思っていたが、茶と聞けばそれもまた良いか、等と思いつつ
マントを掴んだ彼女を付いてくるまで引っ張り回し、屋台をめぐり、
茶菓子の幾つかと彼女の故郷の茶をご馳走になりながら、世間話に花を咲かせ

「まだ、名を名乗っていなかったか
 ―――ライエという。ただのライエでいい」

と別れ際に名前を名乗ればご馳走になったと、謝礼を一言付け加えて雑踏に紛れて行ってしまうのだ―――

フォンティーン > 「母親――…
 下手な例えをすると、本当に母御と呼んで仕舞うけれど?」

余りにも長躯の人物とは懸け離れた単語が出てきて言葉に詰まる。
一度可笑しく思えば其れに纏わる何を聞いても可笑しくて、
初対面の人物に対し明け透けに突っ込むのも如何かと下手な遠慮も出て二の句が無い。
漸く衝動が収まった後で涼しい顔の人物に視線を投げて一言。

曖昧な誤魔化しと煙に巻かれ、
時折「ん?」と眉根を寄せて話の真意を考えようとするも上滑り。
マントごと彼の歩行に引っ張られ一歩歩くごとに二歩早歩き。
時折はためいてよろめきそうになるのをバランスを取りつつ、

「……な、何の話かわからないけれど。
 何となく判っていて言っているなと問い詰めたい気持ちになるな。」

屋台を巡る中で時々思い出したように流れた疑問を問い掛けたり、
或いは酒に視線の言ったのを見てホットワインを注文して差し入れたり、等賑やかに。
その間名前等然して重要では無かったから気付きを受けて此方も気づいたという程度。

「ライエ。わたしはフォンティーン。フォンで良いよ。今日は助かった。
 如何か君の明日に幸運があるように。」

笑み混じりに返せばずっと手の相手をしてくれていたマントの裾を持ち上げて、騎士の様に口づけを一つ、
――できたかどうかは、離れる彼の足の速度次第。
ともあれ、無謀な依頼に頭を悩ませる事はなくなったという話。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からライエさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からフォンティーンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエリアさんが現れました。
エリア > 「―――やりました。撒けましたわ」

夜の街をドレスの裾をからげるようにして足早に敢えて人込みを選んで縫うように進んでいた、その蜜髪の女は狭い小路の一つに逃げ込むように身を顰め。跡を誰もついて来てはいない事をほんの少しだけ顔を出して、通りを伺いながら、弾んだ声で呟いた。

普段は共をつけずに行動する事は中々難しい身。今夜も当然の様に従者がくっついてきて、下がって宜しい、寧ろ小遣いをやるからどこかで遊んでいらっしゃいと唆してもそうそう首を縦に振らない堅物だったもので、強硬手段を取り、人込みで上手く撒いてやって今に至る。

まんまと成功した令嬢は表情を嬉し気に綻ばせ、ほんのりと頬を染めながら、さて身軽になってどこへ遊びに行きましょうか、と模索し始めた。
その思慮は無意識に声にも発されていて。

「――やはり、普段は多量に摂取してはいけない、と注意されているニンニク料理のお店ですかしら。
屋敷では絶対に供されない、大きなお皿に色んな料理が山の様に盛られているものも捨て難いですわ。
ああ、一晩で回り切れますかしら……」

軍資金は潤沢にあるし、寒さ対策として一枚羽織るだけで暖かい魔法の掛かったストールを纏っているため一見軽装だが全く問題はない。
寒さで凍えるどころか、わくわくとした興奮で頬が上気すらしている程だ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 寒風が吹き荒ぶ冬空の下、マントの前を合わせながら、
身を縮こまらせて一人の中年男が狭い路地を歩いていく。
途中、何やら慌てた様子の男達とすれ違うが、面倒事には我関せずと、
特に騒動に首を突っ込む事もなく通過して暗い夜道を歩き。
だが、不意に目の前から聞こえてくる興奮混じりの声に足を止めるときょとんと双眸を丸めた。

「くっ、くく、……若いお嬢ちゃんが、ニンニク料理や山盛りの皿を大声で御所望とは」

何事かと見て見れば、貴族令嬢風の女が、その外見に似合わぬ台詞を口にしている。
その奇想天外なギャップに驚きを隠せず、次第にその驚きは関心と愉悦に変わる。
思わず、口端から笑い声を漏らして、肩を小刻みに揺らせば、彼女の姿を眺める。
寒空の下、ドレスにストールを羽織った薄手の格好だが、夜目にも仕立ての良いものに見える衣服。
それに先程の台詞から察するに、実際に何処かの商家や貴族の令嬢なのだろう。
先程、遭遇した男達の事が頭を過ぎるが、巻き込まれるならば彼等よりも彼女の方が何倍もマシだろう。
そんな考えを抱きながら、平民地区で大志を抱く女性の方へと近付いていき。

エリア > 夜は短し、遊べよ乙女、等と浮かれた自分詩を詠みながら、さて夜の街に繰り出しましょう、と軽やかな足取りで人で賑わう通りへ躍り出て行こうとしたが、

「……?
あら、聞こえておりまして? お恥ずかしい事……。
どうぞお気になさらないで下さいませね、こんな所を見られていたとあってはまた、お小言を喰らってしまいますもの」

ふと近づいて来る気配と、その人物が己の台詞を聞きとがめて笑っていたと察すると、微苦笑気味に頬に手を当てて首を緩く傾け。
そして、夜の暗がりを照らす街燈に彼が差し掛かり、少々不穏当な雰囲気の相手の風体に気づくと、あらまあ、とおっとりとした声を発して。

「逃げるべきですの?」

真面に相手に訊くと言う常識外れの反応を取った。
街には危険な人物も多く、迂闊に接触しては何が起こるか判らない、とは常日頃言い聞かされているし、今夜街へ出る前にも侍従に散々釘を刺されたのだ。
――しかしそれは功を奏して居なかった様だ。
呑気な事を言ってる内に、駆け出してしまう事もしないのだから。

トーラス > 「あぁ、ばっちりしっかりはっきりと聞こえていたぜ。
 何しろ、こんな人気もない路地裏だ。声は良く響くからな」

己の声が彼女に届くように、彼女の声も自分の耳にはっきりと届く。
かつんかつん、と地面に靴音を響かせながら、街燈の下へと姿を現わせば、
次いで女の口から零れ落ちた言葉に再び、双眸を丸くして、一度、背後を振り返り、続いて己の姿を見下ろした。
彼女を探していたと思われる男達が追い掛けてきたのかと思いきや、そうではなく、
自分自身が不審者扱いされて、更には何処か間の抜けた彼女の台詞に口端を緩めると、
軽やかな足取りで相手との距離を詰め、その片腕を掴もうと手を伸ばす。

「くくっ、面白いな。駄目だぜ、そんな事を言う前に逃げないとな。
 俺みたいな悪い奴にこうやって捕まって、連れ去られてしまうぜ。
 ――――にんにくマシマシで安くて美味くて量も多い飯屋、とかにな。」

女に顔を近付けながら告げるのは斯様な悪魔の如き誘い。
如何だ、と尋ねながら、女が頷くならば、彼女の手を取って小走りに駈け出そうとする。

エリア > 韻を踏んでまで聞こえていたと肯定する言葉に、まあまあ、と困った声ながら全く以って毛程も困っていない様子で、首を右に緩やかに傾けた。

「お小遣いを差し上げますから、なかった事に」

貴族らしく買収に走った。大抵の事は金子でカタが着きますと教育されていた身。タダで忘れろと言うのも悪いとでも思ったのか、そんな交渉をのんびりと行っていたが――…。

「え? あ、あらあら……悪いお方、攫ってしまわれては困ります――今夜中に屋敷に戻らねば、謹慎させられてしまいますもの――……、どうぞお駆けにならず、エスコートしてくださいませ。転んでしまいますわ……」

見知らぬ男性に顔を近づけられると反射的に半身引いてしまう。手を取り駆けだそうとされれば、華奢で歩きづらそうな靴を履いている普段から甘やかされた脚ではついて行けず、ぐ、と非力ながら力を込めて留めるように手を己の方へ引き、食堂に向かうのは異論ないものの、丁寧になさって下さらねば嫌です、と要求した。

トーラス > 金銭での買収工作に口端を歪めると益々愉快そうに笑い声が響き渡る。
余程に育ちが良いのか、それとも、警戒心がないのか、
捕まれた手を払い除ける事もせず、丁寧に扱えとの彼女の要求に頷き返して。

「ははっ、だったら、謹慎させられないように足早に歩くんだな。
 早くしないと、お愉しみの時間がなくなっちまうぞ」

そんな台詞を吐き、急かしながらも歩調を緩めて歩き出し、
彼女の手を取って路地を縫い進み、辿り着いたのは一軒の店。
店内の奥に宿屋を兼ね備えた酒場じみた薄汚い店の中にはゴロツキめいた荒くれや、
彼等の相手で金を稼ぐ娼婦達で騒々しく賑わい、繁盛しているのか人で溢れている。
既に一杯のテーブル席を抜け、カウンターまで彼女の手を引けば、
椅子を引いて、恭しく一礼をして見せて、彼女を座席にエスコートして見せるだろう。

「こちらへどうぞ、お嬢様。……そういや、あんた、名前は?
 あ、マスター、いつもの奴を大盛りで二つ。にんにくマシマシで頼むぜ」

カウンター奥の店主は場違いな女性客と男の取り合わせと注文に一瞬、怪訝な視線を向けるも、
受けた注文に、野太い声にて、応じて見せると鍋にパスタの麺を入れて調理を始め。

エリア > 賄賂でこの場を収めようとしたが、結果的には一笑に付されて終わってしまう。何が可笑しかったのかと不思議そうに疑問符を浮かべていたが、要求通り駆け出すのを留まって貰えば少々安堵気味に、早くと促された所で、大して速度は上がらない、彼からすればのろのろとした歩みでついて歩き。

「急いでおりますのよ、これでも。――ですが、この辺りの舗道は歩き難いんですのね、踵が持っていかれそうですわ」

貧民地区よりはマシだが、普段通る富裕地区のしっかりと舗装され、一部にはタイルまで敷かれているような歩きやすい道とは異なる。それに霜が降りて凍った箇所もあって何とも難儀だ。
それでも、自分なりに脚を速めながら、賑わう一軒の食堂に連れられて。とても上品とは言えない構えに、あらあらと小さく零しながら、カウンターの席を促されて、恭順ささえ感じる所作に、軽く瞬いてから、着席し。

「失礼いたします。――あら、先にそちらが名乗るべきではなくて? それからお答えいたしますわ。
もう、勝手に選ばれては困りますわ。――いただきますけど」

問答無用に注文を入れられて少し唇を尖らせるが。見目に反して大食いなのでそれをいただいても余剰はあるだろうと判じてオーダー中止まではせずに。店主の訝し気な様子には、慣れた物なのか鷹揚に微笑みかけておいた。

トーラス > 歩き難い未舗装の路をのろのろとした緩やかな歩みの彼女を引き連れて辿り着いた先。
騒々しい店内にて彼女がカウンター席に腰を降ろせば、己も隣りに腰掛ける。

「あぁ、そうだったな。俺はトーラスだ。
 ちなみにこの店にメニューなんて上等なものは置いてねぇんだよ。
 そんな大層な店じゃないってのは見て分かるだろ?」

彼女の御尤もな発言に頬肉を綻ばせながら名乗りをあげて、
女の微笑みに狼狽する店主に聞こえる声にて店の悪口めいた事を口にする。
その言葉を聞いた店主はフライパンを振り上げると五月蠅ぇと一喝して料理に取り掛かる。

「まぁ、でも、店構えの割りには味と量は保証するぜ。
 ちぃとばかし、お嬢さんのお上品な舌には濃い味付けかも知れないがな。」

振り上げたフライパンを火に掛けると赤唐辛子とふんだんの大蒜をオリーブオイルで炒め、
アンチョビやオリーブによる風味付けを行なった後、更にはトマトが加えられる。
丁度、茹で上がったパスタを絡めると大盛りの皿を彼女と彼の前に一つずつ置き、
トマトソースのパスタからはニンニクの匂いが立ち上り、食欲をそそらせる事だろう。

エリア > 「わたくしは、エリアとお呼びくださいませ。
それならば、いつもの、がない一見さんはどう注文しますの?」

馴染みの客ならばなんとかなるだろうが、初見の客は注文できないではないかと小首を傾けた。
悪口を言われて一喝してくる店主の声に思わず肩を竦めつつ、逆の喧噪で自然と声が大きくなってしまいながら。

「せっかくですもの、普段とは違う味付けの物が食べたいですから、望むところですわ」

カウンターの奥で手際よく行われる調理。ニンニクの香ばしさに目を細め、楽し気にその調理工程を眺め。やがてカウンターに並ぶと、まあ、と嬉し気な声を立て。

「うふふ、本当にニンニクがたっぷりですのね。美味しそうです。
――いただきます」

 待ちかねた、と早速フォークを取り店主に笑いかけてから、小さな口で食べ始めた。トマトソースをドレスに飛ばさないように慎重にフォークで絡めとり、口に運んでは、確かに粗野な味付けながらニンニクと唐辛子がしっかり利いていて食欲を呷る様で。
美味しい、と表情を綻ばせながら、ぱくぱくと食べ進んだ。

トーラス > 「大体、この店に来る客は注文を2つの単語で済ませるんだ。何か分かるか、エリア?」

不思議そうに小首を傾げる女の疑問に小さく笑うと、カウンターテーブルに頬杖をついて、
彼女の方を眺めながら、クイズと言わんばかりに逆に問い掛けを返して見せる。
味付けに対する注意事項に、挑戦的な意欲を見せる此の場にそぐわぬお嬢様の姿を眺め、
頼もしいと笑って見せるも、食べ切れなければ己が食べれば構わない、と腹具合を確かめ。
やがて、彼等の会話を遮るように差し出される大盛りのパスタに舌なめずりをして見せた。

「あぁ、マスターも奮発し過ぎたんだな。……食べ切れないようだったら、残しても構わないぞ」

冒険者や荒くれ者達に好まれる濃い味付けのパスタは、いつも以上に大蒜の香ばしい匂いを漂わせる。
彼女のような令嬢の食卓には先ず以って並べられる事がないだろう大衆食堂の逸品。
己もフォークでつつきながら、横目で彼女の様子を窺い見ていれば、同様に不安そうに見詰める店主と視線がかち合う。
だが、そんな男二人の心配を余所に健啖に大盛りのパスタを食べ進めていく彼女の様子に双眸を瞬かせる。

エリア > 「? 一つ目は、「いつもの」でしょう?
二つ目は……なんでしょう?……「おすすめの」?ですかしら? それとも……「適当に」?」

不意に投げかけられる問いに考え込むように頬に手を当てて首を傾げ。いくつか考えて回答を発した。他には何があるだろうか、と思索している内にお待ちかねの料理が供されるもので、すっかりそちらに集中して、舌なめずりする所作に、まあ、お行儀が悪い、と小さく笑いながらも、さくさくと食べ進めるスピードは小口ながらも早かった。大食いは得てして早食いである。

「いいえ、注文を追加しても食べ切りますわよ。口に合いますし。
これでも大食ですの」

何という事もないといった風情で、食べ方こそ一口ずつソースが跳ね跳ばないように注意して運んでいるが、ぐいぐいと食べ進んで、隣で同じものを同じ量食べている彼よりも早いペースでパスタが飲み込まれていく。
辛い味付けなので、途中飲み物を注文しつつ。冷たい物で喉を潤しながら。

トーラス > 「一見の客は『いつもの』なんてないってのはエリアも言ったろ?
 正解は、『飯』か『酒』さ。だから、メニューがなくても一見でも大丈夫って訳だ」

食うか、飲むかで大半の客は注文を完結させる。
真っ当な食堂であれば食材も豊富に取り揃えているかも知れないが、
酒場や宿屋も兼ねるような此の店ではそもそも貯蔵する材料も限られる。
その辺りの事情を客の方も理解しているために、この手の店にてあれやこれやと頼む客も少なく。

「へぇ、意外だな。良かったな、マスター。あんたの料理はお嬢様の口に合うってよ。
 そうだ。ついでに、いつもの、あの酒を出してやってくれ」

小さい口で一口ずつ、丁寧にパスタが口に運ばれるが、その動きには、
先程、店に訪れる際に見せたようなのろのろとした緩慢さは見られない。
寧ろ、自分よりも速い速度で崩されていくパスタの山に驚きを禁じ得ず。
料理の代わりに追加で注文したのは、木製のグラスに注がれた葡萄酒。
普段、彼女が口にする上等な代物ではない安酒ながらスパイシーで個性が強く、
辛めの味付けのパスタにも負けずによく合い、益々、食が進む事だろう。
尤も、安い酒には相応のデメリットもあり、呑み慣れなければ酔いが廻るのも速い筈で。

エリア > 「常連の場合は含みませんのね。なるほど……何が出て来ても文句なしが条件ですのね……」

強制的に出て来る品は日替わりメニューとなるらしい。
店の営業スタイルについて一つ学んだ。好き嫌いがないので構わないが、それにしても昼食べた物と同じ物が出る可能性のあるこの店での食事はちょっとした賭けだなと考え。

「生パスタが好みですが、これはこれで悪くありませんわ。
普段少ーししか口にできないニンニクが沢山利いているのが嬉しいです。
あら、なんでしょう、赤ワイン…? 一杯だけなら……」

酒に弱いと言うより、安物の赤ワインは後で悪酔いする確率が高い。多くは呑まない様に気を付けながら、香辛料の利いたパスタと共に味わい。
単体では少し飲みづらいワインもパスタと一緒ならばそれなりに呑めて、酒と辛い料理にふう、と息を吐き出して肩に掛かるストールを下ろして膝に乗せ。
着々と食べ進んでいくと、皿はすぐに空になった。最後の一口を巻き終わると満足そうに吐息をつき。

「ああ……、これでは人前に出れませんわね。香水では誤魔化せないでしょうし……わたくし、こんなにニンニク臭くなったのは初めてですわ」

口許を抑えて忍び笑いながらもその吐息はニンニクの香りがしっかり。それが何だか可笑しく感じてくつくつと笑声漏らす。なんて下品な、と屋敷では大目玉を喰らうだろうなと覚悟をし。明日は総てお休みだと肩を揺らした。