2020/12/31 のログ
ファリエル > 声を掛けられる人を探してはいたものの、逆に声を掛けられてしまうと吃驚してびくりと身を震わせる。
一瞬、腰が引けて逃げ出す体勢になってしまってから、声を掛けてきた相手のほうへと視線を向ける。
それが騎士らしい服装を身に纏った女性だと分かると、傍目にも分かるほどにほっと肩の力が抜けて。

「――はい。恥ずかしながら、この辺りの地理には明るくなくて。
 一応、地図は描いて貰ってはきているのですけれど……。」

相手の素性が分かったわけではないけれど、悪い人には見えない。
そう判断すると、困り切った表情を隠すこともせずに、素直に事情を訴える。
これでまだ人出が少なければ、地図を頼りに辿り着くこともできたのだろうけれど、道が人で埋もれるほどとあっては、小道など分かろうはずもなく。

「ここのお店なのですけれど、ご存じありませんか?」

手にしていたメモを差し出し、ストレートに尋ねてみる。
せっかく声を掛けてきてくれた相手の貴重な時間を使ってしまっても申し訳ない。
そこに書かれた店名は、この辺りでは大店に属する商店のひとつ。
年端も行かない子どもがひとりでお遣いに行くような店ではないのだけれど、それを相手がどう捉えるかまでは考えが及んでいないらしく。

ルイン > 急に声をかけたことに驚いたのか体を震わせたことに足を止め。
こちらに視線を向ける少女を安心させるように笑みを浮かべ。

「つまりは迷子ですね。
地図があるのでしたら行き先を教えて頂ければ案内できますよ」

少女を見れば少々幼いが可愛く好みと言える。
しかし今はお仕事中とナンパは我慢して話を真面目に聞いていき。

「ちょっと失礼しますね。
ここですか……。大丈夫ですよ、案内しますけどはぐれないように手をつなぎます?」

見せられたメモに描かれた地図を見て笑顔で頷き。
この辺りでは大きな商店なのでよく知っている場所。
ただ少女のような子供が一人でと首をかしげてしまうがそれはそれ。
案内しますと請け負い、案内をはじめようとするが…人の多さにそんな提案をして。

ファリエル > 優し気な笑みを浮かべた女性は、予想通り親切な人だった。
迷子と言われてしまうと、少々言いようのない複雑な気分が湧き上がる。
一応、屋敷への帰り道は分かるから、正確には迷子ではないはず――と、そんな言い訳を口にしたくもなったけれど、ここは我慢。
ただ、こちらの率直な問いかけに、道を教えてくれるばかりか、案内まで買って出てくれたことには、慌てたように顔の前で手を振ることに。

「お忙しいのにそんなお手間を取らせるわけには参りません。
 道を教えていただければ、それで十分ですので。」

事実、上司には『行けばすぐに分かります』と教えられていたのだから、目立つ建物なのだろう。
相手が本当に騎士なのだとしたら、巡回の任務中なのだろうから、道案内などに時間を取ってしまっては申し訳ない。

「え…? 手、ですか? いえ、ほんとにひとりでも大丈夫で……きゃっ!?」

差し出された手を見て、次いで自分の手へと視線を落とす。
もう一度、視線を女性の手のほうへ。それからようやく女性の顔へと視線を戻す。
これくらいのお遣いがひとりで出来ないとなると、専属メイドなど何時まで経っても務まらない。

けれど、大丈夫だとそう言った矢先に、後ろから歩いてきた男性が背負っていた荷物にぶつかってしまう。
幸い硬いものではなかったので痛くはなかったのだけれど、そのままつんのめって女性のほうへと寄りかかってしまい。

ルイン > 「大丈夫ですよ。案内も仕事ですから。
それに…これだけ人が多いと大変ですよ」

少女が向かおうとしている商店はこの辺りではすぐに分かる建物。
しかしこれだけ人がいて、そして背の低い少女では到着するのが大変だろうと。
そして少しだけ巡回よりもかわいいと思う女の子の案内の方が良いという考えもあり。

「そうですか?絶対に迷いますよ。って、危ないですよ」

親切心からの提案に少女の視線が自分の手、少女の手、そして自分の手に戻ってくればどうぞと差し出し。
そうして顔に視線が向けば、どうしました?と首をかしげて。

もしかして迷惑だったかなと手を引っ込めようとした瞬間、少女がふらつき慌てて受け止める姿勢。
寄りかかってきた少女を抱き留めれば、胸で顔を受け止めるという事故はあったが倒れずに済んだと一安心。

「こういうことがありますから…手を繋ぎましょうね?」

危ないですからと念を押すように告げては抱き留めた少女を見下ろして微笑み。
それから手を握って商店へとゆっくりと向かおうとして。

ファリエル > ぶつかってきた相手にも悪気はなかったのだろう。
というか、謝罪のひとつもなかったのは、もしかしたら気づいてさえいないかもしれない。
華奢な身体がよろけて、咄嗟に差し出されていた手に摑まろうとしたのまでは良かったけれど。

「わぷっ……! も、申し訳ありません…っ」

踏ん張り切れずに、相手のほうへと倒れこむ。
そして、とても柔らかい何かに受け止められる感覚に包まれる。
あろうことか顔をその柔らかな谷間に埋めてしまうなんて破廉恥な真似をしてしまったと気づくと、慌てて飛びのこうとして。
けれども、それよりも先にしっかりと手を掴まれてしまう。

「……ご面倒をお掛けします。」

諭すような口調に、しゅんと項垂れつつ、大人しく囚われの身に。
見ようによっては、騎士に捕まってしまった悪ガキ―――もとい家出少女くらいには見えてしまうかもしれない。
実際、繋いだ細い指先は一見水仕事などしたことがないかのような綺麗なもの――よく触ってみれば、若干の手荒れがあるのは分かるかもしれないけれど、それも些細なもので。

手を繋ぎながら、人並みの溢れる大通りを並んで歩く。
とはいえ、人の流れは一定ではなく。向こうからやってくる人もあれば、後ろから追い抜いていく人もあり。
かと思えば、急に立ち止まって商談を始める者までいる。
そんなわけだから、どうしても足取りはゆっくりしたものになってしまい。

「この辺りは、すごく賑やかなんですね。
 私が知っているのは、向こうの地区だけなので…。」

きょろきょろしていると、またぶつかってしまいそうなので、前のほうを注意しながら。
それでも歩く速度がゆっくりであれば、多少のお喋りをするくらいの余裕はあり。

ルイン > 「大丈夫ですよ。それよりも怪我はありませんね?」

普通は慌てたり照れたりとするものだろうが、少女の顔を柔らかな谷間で受け止めても変わらない笑み。
それよりも怪我の心配をしながらしっかりと手を握っているちゃっかりさん。

「本当に気にしなくて大丈夫ですよ。
お仕事よりもかわいい女の子が優先ですから」

しゅんと項垂れた少女に嘘か本気かわからない声色で告げて歩き出す。
繋いだ手の感触は本当にすべすべとしたもので綺麗、少し肌荒れがあることと服装にどこかの使用人の見習いかとつい見てしまい。

退屈だった巡回は少女の道案内という楽しい仕事に代わって足取りも軽くなり。
やってきたり追い抜いていく人々にぶつからないようにし、止まった人を避けて歩き。
そして少女の歩幅に合わせて歩くとどうしても商店への距離は遠くなって。

「ここの大通りはいつも賑やかですよ。
今は年終わりと言う事もあって普段よりも凄いですけど。
それにこれだけ人が多いと悪いことをしようという人も増えますからね、ですから案内をしたかったのですよ。
向こう…富裕地区ですね」

また少女がぶつかりそうになれば先に抱き寄せるようにして相手を避け。
通り過ぎれば並んで歩くのを再開して。

「そういえば何を探しに来たのですか?大きいのだと持って帰るのも大変ですよ?」

この人込みですしと興味本位で話しかけては商店に付くまで問いかけたりとして。

ファリエル > 「はい、だいじょうぶです。その……おかげさまで。」

怪我の有無を尋ねられると、こくこくと少し慌てたように首肯する。
余り動じていないように見えて、思わず余計な一言まで付け加えてしまうくらいには、パニックになっていた。
まるで社交界での気障な貴公子のような台詞を耳にすると、ぱちくりと瞳を瞬かせて固まってしまい。

「あの……ご案内いただけるのはありがたいのですが、お仕事のほうを優先してくださいね?」

どこまでが本気なのか分からないけれど、一応そう釘を刺しておく。
他にやるべき仕事があるのなら、そちらを優先して貰わないと困る人が自分の他に出てくるわけで。
ただ先程案内も仕事だと聞いたので、問題はないのだろう。
それ以上は野暮なことは言わずに、大人しく手を引かれるままについていく。

「悪いこと……スリとか、ひったくりとか、でしょうか?」

すれ違う人にぶつからないようにと気を付けていると、どうしても歩調は遅くなる。
そればかりか余り間を空けていると、他の人の邪魔になってしまうので、自然とふたりの距離が近くなり。
―――というか、ぶつかりそうになって不意に抱きしめられる。

「え? え?」

何が起きたかわからずに、相手の腕の中から困惑した声が漏れる。
こういう場所で起きる悪いことと言えば、スリにひったくりに、痴漢といったところだろうか。
実際に来たのは初めてだけれど、上司から気を付けるようにと言われた案件を思い返す。
そういう時は遠慮せずに、大声で叫びなさいと言い聞かせられていたのだけれど、眼を白黒させているうちに解放されて。

「え? あ、はい。その、えっと……お酒、です。新年の宴に供するシャンパンの買い付けに。
 銘柄もいつも決まっているらしいので、量だけお伝えすればちゃんとお届けいただけるそうで。」

何事もなかったように、再び歩き始められると、困惑したまま。
遅れてようやくぶつかりそうになったのを助けて貰ったのだと気づいたけれど、お礼を言うタイミングを逃してしまって。

ルイン > 問いかけへの肯定とお礼の言葉には笑顔で返し。
急に固まってしまったことに何かやってしまったかなと慌てそうになって。

「お仕事…頑張ってるんですよ。でも私はどちらかと言えば巡回よりも案内の方が…」

釘を刺されると笑みに困った色が混じり小さな言い訳をこぼし。
自分以外にも巡回をする衛兵や騎士がいるので少しぐらいは抜けてもいいかなと考えていて。
それ以上の言葉がないことにほっとして歩き。

「それもありますけど…あなたみたいに可愛い子はお持ち帰りされちゃいますよ?」

ですから路地の入口は危険ですとアドバイスのように口にして。
気が付くと手を握ったまま肩が触れ合うような距離になっていて。

そしてぶつからない様に抱き寄せた少女からの戸惑うような声。
一言言ってからの方が良かったかなと思いはするが後の祭り。
勘違いされる前にと開放をして。

「新年の宴用のですか。きっといいシャンパンなんでしょうね。
あ、そういえばそんなサービスもありましたねっと…到着ですよ」

何故か困惑した様子の少女の様子に何かした方が良かった?というような笑みを向け。
理由を聞けば直ぐに納得して羨ましいとつい溢し。
そうして話していれば目的地である商店の前についてしまって。

ファリエル > 「こ、困ります。その、ちゃんと帰らないと、心配されちゃいますから……!」

抱き締められた後に、意味深な笑みを向けられると、その直前に「お持ち帰り」なんて言う話をしていたものだから、ぷるぷると首を横に一生懸命に動かして。
具体的に何をされるかはよく分かってはいないけれど、それは夜会で気を付けるべき事項のひとつとして教えられたもの。
やっぱりどこまでが冗談なのかよく分からない。
とはいえ、ぶつかりそうになったのを助けてくれたのだから、やっぱり悪い人ではない…はず。

「はい、とお答えしたいところなんですけれど、私は試したことがないので、何とも。
 一般の方にも開放される日もあるかと思いますので、その際にはぜひ。」

向けられた笑みに、微妙な表情を返してから、気を取り直して質問に答える。
まだ早いと言われてお酒は嗜んだことはない。
ひとつ年を取ったわけだし、新年にはほんの少し試してみてもいいかもしれない。
お酒に興味のありそうな様子には、飲めるかもしれない機会もありますよと伝え。

そんな話をしていると、件の商店の前へと辿り着く。
商う品は何もお酒だけではない。主に遠方の品を手広く手掛けて、成長してきた新鋭の商店のひとつ。
その証拠に、店前に佇むほんの僅かな間にも、ひっきりなしに人の出入りが見て取れる。

「ご案内いただき、助かりました。
 このお礼はいずれ改めて。―――お仕事、頑張ってくださいね。」

店先で丁寧に頭を下げると、店内へと消えていく。
どうやら事前に連絡が行ってあったらしく入り口で番頭が出迎えてくれたあたり、お遣いの意味があったのかどうか。
そこは深く考えないことにして。

―――その日の夕刻に、親切な女性騎士様へと宛名書きされたシャンパンの小瓶がひとつ騎士の詰所に届けられ。

ルイン > 「んー…もっと危機感を持たないと駄目ですよ?お持ち帰りされたら帰れなくなっちゃう事もありますからね?」

首を横に振る少女に本当に気を付けないとと念を押し。
運が悪ければ帰れない事もしっかりと伝えておく。
可愛い子相手、そして職務中ではどうしてもいい人になってしまい。

「むしろ普通に返された方が困るから安心しましたよ。
その日を楽しみにしていますね」

もし少女が飲みなれていればそれはそれで困ってしまう。
なので微妙な表情に何度か頷き、飲めるかもしれないという機会を楽しみにして。

何度か来た事はあるがやはり繁盛をしていると目的の店を見上げ。
人の出入りの多さを見れば今の時期は一番の書き入れ時なのだと。

「いえいえ、私が強引に同行しただけですよ。
ふふ、楽しみにしていますね。あなたもお気をつけて」

そうして店内に消えていった少女を見送れば巡回へと戻っていき。

仕事を終えた夕方、詰め所に届けられたシャンパンを受け取れば満面の笑みを浮かべ。
そしてその時に名前を名乗っていなかったと気が付いて…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からファリエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からルインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地」にタン・フィールさんが現れました。
タン・フィール > 王都の平民地区、商店街と住宅地をつなぐ人通りの少ない路地。

冬に体を温める効能のある食材や薬の材料などを買い出しに来た小さな薬師が、
ぱんぱんに素材が詰め込まれた紙袋や革袋、おおきなリュックサックを背負って、
十数歩歩んでは一休み、 一休みしてはまたなんとか歩き出す懸命な行軍を繰り返していた。

「っふーーーっ!…ちょっと、よくばって買いすぎちゃった、かも…」

寒い冬の日が続くなか、少年が自らの住まいとし、薬屋としても開いているテントのなかの、
薪ストーブや焚き火の温もりはなかなか抗いがたい安らぎで、
なるべく外出の頻度を下げるために、少年の細身では持ち帰るのも難しいほど、
ごろごろとした野菜や果物、干物やキノコ類などを買い漁ってしまった。
その合計の重量は10キロにせまるほど。

筋骨隆々の兵士や冒険者とはいかない小さな薬師の腕や足腰が限界にきて、
いったん荷物を下ろすたびに「ずん」と鳴るほどの重量に途方にくれながら、
じんわり汗ばんできた額を桃色のシャツの裾で拭って、
まだ自分のテントが見えてこないか、路地の遠くの方を赤い目をぱちくりさせながら見据え、息を整えている。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地」にファリエルさんが現れました。
ファリエル > 昨日に引き続き、今日もお遣いのために街へと出てくる。
決してお屋敷の中で仕事をすると、物を壊してしまうだとか却って散らかしてしまうだとかそういうことではないはず。
全く失敗していないかと言えば、そんなことはないのだけれど、そこまでではないと上司のことを信じることにして。

何はともあれ、無事にお目当ての商店へと手紙を届け終わっての帰り道。
今日も今日とて人通りは多く、自然と足は人の少ないほうへと流れていく。
元々、あまり喧しいのは得意ではないために、人の波が途切れるとほっと息をつき。

「――? あの、大丈夫でしょうか?」

ふと横筋の路地を見ると、小柄な女の子? 男の子?が重たそうな荷物を前に、屈んでいるのが見えた。
具合でも悪いのであれば人を呼んだほうが良いかもしれない。
ゆっくりと近づいて、声が届く距離まで来ると、遠慮がちにそう声を掛け。

タン・フィール > 「んっ? …あ、ぁあ、だいじょぶ。
ちょっとお買い物、はりきりすぎちゃって…
じゃまに、なっちゃってたら、ごめんなさいっ」

荷物を引きずるわけにもいかず、息を整えていた小さな背丈をくるり、と振り返らせて、
長いまつげをぱちくりさせながら、声をかけてきた少女に応える。

大きめのサイズのシャツをワンピースのように素肌に一枚羽織っただけの格好で、
曝け出されている足の華奢さは少女と見分けがつかないシルエット。

心配してもらっていることに気づき、申し訳なさそうに頭をかきながら
道を開けようと荷物を再度手に踏み出そうとすれば、
ころんっ!と紙袋から、一般にはあまり見慣れぬピンクと紫と蛍光緑がマーブル状の模様を描く、
薬の材料になるであろう不思議なキノコが地面にころがった。

「わっ…っと…!」

ファリエル > 近づいてみてみれば、どうやら男の子らしい。
年のころは自分よりも、まだ少し幼い感じ。
ただ、それよりも何よりも、その寒そうな恰好にぶるりとこちらが震えてしまう。
こちらはと言えば厚手のシャツにスカート、その上にコートという重装備。
日中で陽があるといっても、風は冷たく突き刺すようで。

「邪魔ではないんですけれど……それよりも、寒く……ありませんか?」

曝け出されている素足が、何よりも寒そう。
子どもは風の子なんて言うけれど、ちょっとばかり度が過ぎている。
とはいえ、顔色が悪いかと言えば、少し疲れは見えてもそんなことはないようで。

「あら……買ったばかりなのに、落ちちゃダメですよ?」

こちらの方へところころと転がってきた変わったキノコ。
それを拾い上げて、しげしげと眺め。食べるには勇気が要りそうな変わった色合いのマーブル模様はじっと見ていると目が回りそう。
傷がついていないか確認してから、男の子のほうへと差し出して。

タン・フィール > 「う~ん、ボク、けっこう体ぽかぽかしてる体質だから、
普段ならそこまで寒くないんだけど…たしかに今日はちょっと寒いかも。
…ちょっとお買い物して、すぐかえるつもりだったから、油断しちゃった」

と、おどけた様子で軽やかに歩み寄る様子や血色の良さ、
全く震えていない肌は、確かに見た目通りの体の冷えを感じてはいない様子で…
けれども、そんな少年でもなお、ストーブや暖炉が恋しくなるような天候だった。

「あっ、ありがとうっ! 今度の新作のお薬につかう、大事なキノコなんだ。
…ボクは、タン・フィール。
この先の空き地のテントで、おくすりやさん、やってるんだ。

おねえちゃんは、おかいもの? なにしてるひとー?」

にっこり微笑んでキノコを受け取り、自己紹介。
キノコを受け取る際に手が触れれば、確かに少年の手指は、カイロのように暖かく感じるだろう。

少年の視線は、あまりじろじろと失礼ではない範囲で、
少女の整っているといえる身なりを興味深そうに見つめていた。

ファリエル > 確かに男の子が自分で言うとおり、顔色も悪くなければ、触れた手もぽかぽかだった。
むしろこちらのほうが冷たいくらいで、そのままずっと握っていたくなってしまう。
年下とはいえ、男の子の手をずっと握っているわけにも行かずに、名残惜しそうに手を放し。

「お薬用なんですね。
 ご紹介ありがとうございます。ファリエルと申します。
 富裕地区のお屋敷で働かせていただいてます。」

先に名前を名乗られると、こちらもスカートの裾をちょんと摘まんで軽く膝を折る。
家名は失わずには済んだけれども、没落貴族の家名をあまり言い回っても、主人に迷惑が掛かってしまうかもしれない。
何より今は使用人なので、必要がなければ名乗るのは名前のみで。

「テントでおくすりやさん? 風で飛ばされたりしませんか?
 お遣いで出てきたんですけど、もう終わったので。よかったら荷物運ぶのお手伝い致しましょうか?」

冬場の強い風は、時に嵐のようにもなる。
今は穏やかだけれど、雪の前には荒れることもある。
空き地にテントと聞いて、少し心配そうに男の子の顔を覗き込む。
ついでに、重たそうな荷物も半分……1/3くらいは手伝えるかもしれない。

タン・フィール > 「ふぁりえる、ファリエルおねえちゃん、だね、よろしくっ!
へぇ、お屋敷ではたらいている…メイドさん?なんだ?
なんだか、おねえちゃんのほうがお屋敷にくらしてそうなくらい、キチンとしてて、きれいなのに。」

と、その仕草やふるまいから、まったくの当てずっぽうで彼女のほうこそ、
メイドに世話をさせて優雅に過ごすような気品を感じて、そのままに口にしてしまう子供っぽさ。

そんな不思議そうな表情は、彼女の申し出に対して嬉しそうに、
けれども幾分かの遠慮もみせながら

「ううん、これまでは、あんまり飛ばされちゃったりはないかなぁ。
ふふ、こう見えても結構、テントをはるの上手なんだよ。

…ええ?ほんと?…う~ん…それじゃあ、タダで手伝ってもらうのもわるいから、
ボクのお店までいっしょにきてくれたら、体がぽかぽか温まるハーブティとか、ごちそうしたげる!

いいトコの葉っぱやハーブをつかうから、おやしきでもだせるかもだよ?」

と、握った手の、相手の冷たさを気遣って、ギブアンドテイクの提案。
もし彼女が了解してくれるならば、感想素材や野菜類など、
比較的重くはない…けれども、両手で抱えたい程度の分量の荷物を少女におまかせして、
「こっち、こっちー」
と向かう先を指差しながらテントへと向かう。

10分ほどもあるかぬうちに、「薬屋」の看板を下げた、空き地にちょこんと立った大きめの旅人用のテントが見えてきて、そこに案内するだろう。
店内は4畳半ほどの広さで、さまざまな薬や香料の、甘さや苦さを感じる不思議な匂いの空間。
とろ火で鍋を熱していた薪ストーブの暖かさが心地よい店内。

ファリエル > 「ファル、でも構いませんよ? 呼びやすいように呼んでくださいね。
 お仕事ではきちんとしないといけませんから。」

これまで子ども扱いされることはあっても、あまりお姉ちゃん扱いはされたことがなく。
なんだか可愛い弟ができたようで嬉しくなってしまう。
暮らしているというのなら、今も住み込みでお屋敷に部屋をいただいているのだけれど。
そんな細かいことはさておき、礼儀作法は上司の仕込みもあるために、ほんの少し胸を張る。

「お任せください。こう見えて、お屋敷では力仕事も、少し……ほんの少しくらいは手伝ったりしてるんですから。」

お屋敷には夕方までに戻ればいいと言われているから、報酬のハーブティーをいただく時間も十分あるだろう。
見かけよりも重くない大きな荷物を両手で抱えて、狭い路地を男の子に先導してもらいながら進んでいく。
さほど掛からずにぽっかりと空いた広場にぽつんと佇むテントが見えてくる。

「ここがタン様のテントなんですね。思ったよりも丈夫そうで安心しました。
 それに暖かくでほっとします。こちらはどこに置けばよろしいですか?」

詳しくは分からないけれど、素人目にも少し風が吹いたくらいでは飛んだりはしそうにない。
何よりも入った瞬間に、どこか不思議な香りのする暖気に迎え入れられて、冷えて強張っていた顔が緩んでしまう。

タン・フィール > 「ぅん!じゃあ、ファルおねえちゃんで。
ボクのことも、好きに呼んでくれていいからねっ」

と、少年自身も、様付けの呼び方に不慣れなこそばゆさがある様子だが、
照れくさくてはあっても新鮮で悪い気は起こらない様子。
呼び捨てでも、君でも、様でも、ご随意にと、おゆうぎめいたお辞儀を、お礼と一緒にぺこりと一礼。

そうして路地からテントへとたどり着いて、
どこに荷物を置くべきかという彼女の問いに、
素材をすりつぶす薬研や鍋が置かれたカウンター用の折りたたみ椅子を指差して

「ええと、じゃあそこにおいといて。
いま、あったかぁいお茶、淹れるねーっ。

いっぺんにたくさん飲んじゃうと、よっぱらったみたいになったり、
元気になりすぎちゃったりするから…きをつけてねっ」

と、ひととおり荷物を置き終えればてきぱき手際よくお湯とハーブティの準備をし、
ものの2分ほどで、僅かな柑橘とミントが香る黄緑のお茶と、砂糖とミルクを提供する。

それらは彼女の外出で冷えた体を温め、今日一日、眠るまで…
明日の起きがけにかけてまでも、内側から一定の体温を意地させる、
滋養強壮や冷えによく効く、砂糖を入れずとも甘さを感じる良質のお茶。

人によってはぽかぽかと暖まる作用や強壮作用が効きすぎて、ぼんやりとしたり、精力や性欲までをも高めてしまうケースもあるので、
一応は、と少年は薄めにそれを淹れておいた。
よほど効きが良すぎる体質か、がぶがぶと矢継ぎ早に飲み続けぬ限りは大丈夫であろうと。

ファリエル > 荷物は言われた場所へと丁寧におろす。
恐らくはお薬の材料だろうから、どれだけ丁寧に扱っても過ぎるということはないはず。
それに辺りには見慣れない道具も置かれているから、下手にぶつけてひっくり返しでもしたら大変。
お屋敷では失敗することもあるけれど、ここではそういう失敗は許されない。
慎重に、気を付けて、ゆっくりと荷物を下ろし。

「ありがとうございます。
 お酒、みたいな効能があるんですね…?」

薬屋さんの店主が慣れた様子でお湯やハーブを準備するのを眺めていると、ふわりと香りが漂ってくる。
ミントの爽やかな香りと相まって、とても美味しそう。
カウンター前の折り畳み椅子をお借りして、腰を下ろすと湯気の立つカップを受け取って。
色合いも綺麗で、まずはひと口。お砂糖もミルクも入れないままに、ふぅーっと冷ましてから口をつけ。

「そのままでも十分甘くて、とっても美味しいです。」

両手でカップを包むように持ちながら、ふわりと表情を綻ばせ。
口の中に広がる爽やかな香り。後味のほのかな甘みも好みかもしれない。
もうひと口、美味しそうに飲んでから、今度はミルクを垂らし。
くるくると先ほどのキノコに似たマーブル模様を描きながら、かき混ぜる。

身体の奥からぽかぽかと温まってくるかのようで、コートは脱いで膝にかけ。
ミルク色が混ざり合い、飲みやすい温度になったそれを啜る。
ミントの爽やかさが落ち着き、代わりに甘さがより強く感じられ。

「ちょっと飲んだだけでもぽかぽかしてきました。
 はふ……このままだと外に出られなくなっちゃうかもです……」

なんだかとってもまったり。絨毯でもあれば、ふにゃーと猫のように伸びてしまうかもしれず。
そんな感じに、どこかとろんとした様子で。

タン・フィール > 「うんっ、お酒は入ってないんだけど、ヒトによっては似たような感じで、とろーんってしちゃうみたい。
ちょっとしたらすぐ覚めるから、だいじょうぶだけど。」

と、ティーポットに残りのハーブティーを注いで、それと自分用のkァっ府も用意しながら、
彼女と隣り合うように折りたたみ椅子を並べ、ちょこんと座る。

少年は少年で、子供舌らしく甘いお茶に角砂糖を2つほどいれ、
ミルクもたっぷりと注いで、もはや甘いホットミルクにお茶の風味が溶け出している…といった様子の飲料にしてから飲み干していく。

少年の想定よりも少女はこの茶の影響を受けやすい体質らしく、
けれども、少なくともお屋敷に急に戻る用も無いとのことなので、
少しくらいはリラックスしていけばいいな、と思い

「あはは、そんなにちょっとでも、きいちゃった?
のんびりしたり、ねっころがったり、まったりしたかったら、遠慮なくしてったらいーよっ  
…あ…そだ!」

くすくすと、少し年上のおねえさんに対して、くつろいでいったらいいともてなす様子は、
見かけの幼さよりは自立した印象を与えて。

少女の様子を見るとなにかひらめいたように、一旦椅子から立ち上がり、
テントの中央…薪ストーブと、その予熱で鍋を煮る部屋の暖かさの中心に、
もふもふとした毛皮や毛布、異国の絨毯などを寄せて積み上げていく。

まるで遊牧民が寝そべりながら焚き火を囲んでくつろぐ場のような、
うずもれたくなるふかふかの床や、だきまくらのような凹凸を生み出すと、
ぽふん、とそこに大の字に寝そべって、ちょいちょいと小さな手を伸ばし、指を曲げてくつろぐよう招く。

「ほーら、もふもふのふかふかの、きもちーベッド、つくってみたよ~?」

と無邪気な声色で、仔猫のように転がりながら、もふもふの堕落へと誘う。

ファリエル > 「甘くて美味しくて、ついつい飲みすぎちゃいそう。」

寒い日の温もりは他では代え難い。
それがほんのり甘ければ、なおのこと。
外が寒かったこともあって、このままだとここに居座ってしまいそうで。

そんなに急いで飲んだ覚えはないのに、気づけば、カップの底が見えてしまっている。
マナーとしては少しはしたないかもしれない。そんなことを思ったりもするけれど、思考がなんだか働かず。
ぽやぁっと、眠そうな様子で折り畳み椅子の背もたれに身を任せていると、何やら少年のほうは忙しくなく動きだし。
それを目で追ってはいたけれど、何をしようとしているのかまでは休息中の思考では考えが及ばず。

「―――ふかふか、ですね~…」

手招きされると深く考えることもなく、素直に積み上げられた絨毯や毛皮の山のほうへと近づいて。
少年を真似てぽふっとその身をもふもふでふかふかの中へと沈み込ませる。
毛皮のファーが首元や頬に擦れて気持ちがいい。
しかもさっき以上にぬくぬくで。思考がダメになってしまいそう。
すりすりと仔猫のように身体を毛皮に擦りつけながら、とろんとした気持ちよさそうな表情を浮かべ。

「ふぁ……このまま寝ちゃったら……どうしましょう~……」

知らず知らずに、温もりのある方へと身体が寄っていく。
手近な熱源と言えば、薪ストーブか、もしくは少年の人肌で。夢うつつに身を寄せて。

タン・フィール > 「ふふー、いろんな冒険者さんとか商人さんに、お薬を売る代わりに…
いろんな国や地方の毛皮とか、交換してもらったんだ。

冬の寒い日は、こうしてもふもふにくるまって寝たりするの。
きもちーでしょーっ。」

そもそもの体質が常人とは違う少年ではあるが、薄着でも寒空の下を歩き回っていた理由の一つが、
内側からじんわりと温める効能の茶や薬を味見がわりに摂取しているからだと少女に実感させる効き目。

ころんころんと毛布の上を赤ちゃんアザラシのように転がって、ぽふ、と少女と並んで寝そべる格好になれば、
よしよしと寝かしつけるように、頭や背中をぽふぽふと撫でて

「ん~ふふ、ちゃあんとお屋敷の門限に帰れるんだったら、おひるね、しちゃってても、いーよぉ。
…でもでも、ちゃあんと起きれなかったら、イタズラしてでも、おこしちゃうんだから」

と、薪ストーブの近くのほかほかに温まった毛皮部分や、
少年の肩口にも無造作に身を寄せるほどリラックスしてしまった相手に、
きゅ、と顔を近づけてお茶の香りの吐息を額に吹きかけ、
少し妖しく目を細めて、少女のスカートごしではあるが、少女の膝あたりをその丸出しの足で絡めるように、きゅっと挟んでみる。

注意するどころかある意味では、さらに少女に、湯たんぽのような温もりを与えるだけなのだが。

ファリエル > 絨毯に寝転がるなんて経験は初めてのもの。
かつての家庭教師が見れば卒倒するかもしれない。
けれど今はそれを見咎めるような者は誰もおらず。むしろ一緒に居る少年が率先していけないことを教えてくれる状況。

先程触れた手の温もり以上に温かな肌の温もりに、知らないうちに身を寄せていて。
頭や背中を撫でられると、ふにゃーと普段は見せない無防備な笑みを浮かべて見せてしまう。

「お屋敷のベッドも、ふかふかなんですけれど、これには敵いませんね~
 タン様も温かくて気持ちいいですし……悪戯は嫌なので、ちゃんと起きます……起きますよぉ…」

撫でられていると眠気がやってくる。
こっくりこっくりと舟を漕ぎだしつつも、抱き枕の様に少年の身体は離さない。
顔を近づけられて、内緒話のように囁かれると、何故だかもっと温もりが欲しくなる。
少年のすべすべした素足がスカート越しに触れると、無意識のままに脚を絡めようと密着して。

「ふぁ……くすぐったくて……あったかくて…きもち、いいです……」

スカートがはしたなく捲れてしまっているのにも気づかない。
タイツに包まれた脚を絡めて、幸せそうに微睡に揺れる。
今ならまだ、ちょっと強く揺らせば起きるだろうけれど、そのままなら寝入ってしまうのも時間の問題。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地」からタン・フィールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地」からファリエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」にラファルさんが現れました。
ラファル > 平民地区の一角にある大通り、誰もが行きかうその場所、脇にあるベンチの上で寝る存在がある。
 べちょん、と言う表現がぴったりの張り付き方で、ベンチに全身を横たえているのは、未だ、幼女といって良い年齢の子供。
 金色の髪の毛を側頭部で結ぶツインテールと言う髪型で、髪の毛は肩に掛かるくらい、白い肌は幼くつるりとしているのが見える。
 そもそも、真冬のこの時期だというのにその服装は見て居て寒い、胸元にベルト、ズボンは短パン、肌の露出がこれでもか、としている子供だ。
 背中には、茶色の、子供の体格から見れば大きすぎるバックパックを背負っていて、腰のあたりには、紅い飾り紐の付いた武器が。
 見るものが見れば、東洋の刀に類するものだと判るだろうが、しかし残念かな、鞘の状態だ、知識が無ければ判るまい。
 そんな格好の幼女は、寒そうにする素振りはなく、ベンチの上でべ反と張り付いて、くう、くう、と眠っている。鼻提灯がぷかり、ぷかり。
 楽しそうに眠っているのか、幼い顔立ちは、ふにゃりとくずれて、涎まで垂れている。美味しい物を追っているのか、ぴくん、ぴくんと、一寸揺れる。
 道行く人々は、行倒れか何かか、と、そのベンチを避けて通っているようだ。
 しかし、生きているのは見てわかるだろう、嬉しそうにに焼けた笑いを零しながら寝ているのだ。

「むにぃ、むにゃぁ。」

 寝ぼけているのか、何やら訳の分からぬ単語を零している。
 これが、さっきからか、と言えば、昼間からこの様子であり、忙しいこの時期、幼女に声を掛ける事をしないで去っていく人ばかり。
 それはそれで、幼女はお昼寝を邪魔されているわけではないので幸せな時間と言う塩梅となっていた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」に影時さんが現れました。
ラファル > すぴょすぴょ、と眠るのは、其れこそトゥルネソルの野生児と呼ばれるラファルで、普段からそれこそ自由気ままに生きては自由気ままに転がっている。
 昨日は、その辺の屋台の屋根で寝ていたかと思えば、明日は九頭龍山脈のどこかで動物を追っているとかざらである。
 手綱は有るのかないのかわからないが、悪い事―――人に危害は加えない。冒険者としての依頼を受けての戦闘などはするが、その程度である。

「んぬぁ……うにゃ?」

 猫の様な声を上げてむくり、と身を起こして、周囲をくるくると見まわす。眠そうにしている幼女は、くあぁ、と大きく欠伸を零して伸びをして。
 それから、もう一度周囲を見回す。
 昼間から寝ていたが、もう夜も遅くなっている、ああ、おねーちゃん怒ってるだろうか、と思いながらも、のそり、とベンチに腰を下ろす。
 眠くて頭が回っていないので、動く気に成れず、ぼーっとした表情で、道行く馬車とか、人とか。
 こう、咥えて帰ろうとしているグリム君などを眺めている、あ、グリム君の上に、シスカちゃんもいる。
 お買い物鞄があるから、お買い物の帰りに見つけたから回収して帰ろうという感じだろう。
 やほぅ、わんこと、メイドに手を振ってから。

「―――。」

 師匠の気配を感じた。
 きょろ、きょろ、と、幼女は視線を動かす。匂いを、嗅いで、場所を特定する。
 まあ、だから、と急な反応はしない、なぜなら、師匠が何をしているのかは、今、まだわからないし、邪魔になったらいけないし。

影時 > 今日の仕事は此れで終いだ。
依頼人の求めに応じて遠くに赴き、依頼されたものを採取、獲得し、其れを納めることで褒賞を得る。
報告までを終えてしまえば、一連の流れを一括りに「仕事」ということが出来る。
需要もある上に、そこそこ希少な品だ。そうとなれば報酬額は決して安くはない。

財布で鳴る硬貨の重さに少しばかり気を良くしながら、街を歩く。

巷は年の瀬、という風情らしい。
黒い襟巻を口元を隠すように掻き寄せつつ、腰の太刀を揺らして人混みの流れを歩く。
不思議とぶつかることもなく、誰かに悟られるでもなく。そんな足取りの中で、

「――……んー?」

ふと、視界の端に見えた。ベンチにぺたーんという擬音が似合う風情で身を横たえる姿に。
非常に見知った姿だ。
思いっきり寝ている。遠目にしても明らかな有様に起こすかどうかを少し考えて、こうすることにした。
た、と。気配も余分な音も、風も生むことなく。
足先の動きだけで地を蹴り、近場の露店の天幕を飛び石にして商家の天井まで飛び上がってみせるのだ。
そうやって屋根の上に腰を下ろし、頬杖を突きながら腰に付けた酒瓶を取る。
蓋を弾き、くぴくぴと口に運びつつ起きるまで、或いは気づくまで見守ることにすれば――思いっきり時間が過ぎる。

「……――、ったく」

どうやら、気づいたか。今の位置は風上となればそろそろいい加減気づくだろう。
最近口にしている酒の匂いが、向こうに届くのも。

ラファル > もう少し、師匠が来るのが来るのが遅ければ、幼女のお家のわんわんに咥えられてお持ち帰りされる姿が見えただろう。
 しかし、幼女のお迎えは残念ながら失敗した模様、狼犬のグリム君と、その上に乗っかっているシスカちゃん。彼らにまたねーと軽く挨拶をするのだ。
 起きたのを見たのだろう、そして、動き出すのを見たので、帰らないの、と言う問いかけに、まだよー。もう少しして帰ら帰ると、伝える事にする。
 心配そうにする彼女に、大丈夫大丈夫、と手を振って見せて、そして、帰っていく一人と一匹。グリム君は優秀なので安全に帰る事が出来るだろう。

「んー。」

 風が運ぶ匂いを追い、酒のにおいが混じるのを知り、視線は、匂いを追いかけるように動いていく。
 幼女は風の竜だから、風の流れも見ることが出来る、匂いを追って、視線を向けて、露天の上にある、商家の上に座る師匠。
 こちらの事を見ているのが判る、試しているのか、それとも。
 唯々、酒を飲んでいるという訳ではなさそうだ、師匠の服装から、冒険者としての動きの跡が見える。
 幼女は立ち上がれば、とたた、と走る。
 ぴょいんとジャンプ。ただ、目立つほどの物ではない。
 人としての常識の範囲で跳躍し、テントの上、商家の壁、淡々と、蹴って駆けあがり、師匠の隣へ。

「こんばんはっ!」

 にぱー。
 寝起きから目を覚ました幼女は元気に笑って、腕を上げて挨拶。

影時 > 欲を言えば、ツマミの類があれば良かったのだが、生憎とその手のは宿に置いてきた。
道程の事前調査と危機管理が出来ていれば、旅は最低限の荷物で済む。
もとより、あれやこれやと担いで移動するのは好みじゃない。
手持ちのものを遣り繰りするのも、出先で獲得できたものを使うのもひっくるめて旅であり、冒険だ。
故郷の地で暗闘に明け暮れていた時には、感じ得なかったものである。

(――弟子らしい弟子なんてモンも、そう云やァそうか)

部下、手勢の類はいない訳ではなかったが、直弟子というのはいなかった。面倒しなければ作らなかった。
故郷のそれではないが、出先で気になって買い求めた地酒を舐めて思う。
元より才能に溢れた、溢れすぎる位の弟子だ。手がかかり過ぎたという印象は薄い。
教えるとすれば、心構え、気構えだろう。此ればかりは種も違えば、何処まで教え切れるか。

思案は、一陣の風が吹いたような――感慨の後に。

「いよゥ、我が弟子。良い夜だなァ」

己の隣に遣ってくる小さな姿に陶製の甕のような酒瓶を掲げ、挨拶を返そう。挨拶は大事だ。
眼下に街の明かりを見下ろし、良く寝てたなと言い添えて。

ラファル > 近づくにつれて、夜目に、師匠の顔が見えてくる、と言うか、夜目どころか暗視持ちなので、闇の中でも見えるがそれは其れ。
 何か思案顔の師匠は、何処かのんびりしているようにも見える、酒を飲んでいるから、という訳ではなさそうだ。
 と言うか、師匠は酒を飲んでいても、何処か研ぎ澄ましているのが判る、今も未だ、研ぎ澄まされているのである。
 隙が無いと言うのが正しいのだろう、幼女はまじまじと師匠の顔を眺めながら考える。

「わ。」

 我が弟子。そんな風に言われるのは、余り無い、記憶に薄い言葉に、目を見張る。
 それでも、そんな風に言われるのは、認められたような気がして嬉しくなって、幼女はえへへ、と笑って見せる。
 色々な事を教えてくれる、技に、術に、思考に。
 一番印象に残るのは弁えるという言葉。
 幼女は、人竜であり、人と比べて強い存在である、間違いはない。
 しかし、此処は、人の街であり、人の住む場所である、其処で人為らぬものが暴れればどうなるのか。
 それだけではない、様々な事、自由という事は、無責任ではないという事も教えてくれた。
 それらをひっくるめて、弁えるという表現。
 素直に、この師匠には感謝しているし、尊敬もしている。そういう意味では、出会わせてくれた姉に感謝である。

「うん、とてもいい一日だったよ!心地よかったし、昼寝もすっごくぐっすりできたの!」

 眠っているところをみられていたらしい。
 えへーと笑うのは、別に寝てるところをみられるのは構わないから。
 竜も人も、寝てるところ見られて、気にしないのがいるが、ラファルはその方面。
 獣成分多いからか、寝てるのを邪魔されないなら、別にいい、と考える