2021/01/01 のログ
■影時 > 呑んでも心底より酔い潰れるということは、ここ十数年で覚えたことは無い。
否、無いわけではないか。
干からびるという形容が似合う位まで氣力を振り絞って、身を休めた時に呑んだ酒は酩酊感が強かった。
結跏趺坐をして、五体に氣と息を巡らせていれば酒毒も抜けるのだ。
この地にとって、己は異物である。
異物は異物なりの立ち振る舞いと分別を弁えるべきである。
そう、何せ何処に目があるかどうか分かったものではないのだから――。
「ン?」
そんなに変な言葉でも言っただろうか。
もとより喧伝していることでもなければ、馴染みは薄いかもしれないが。
だが、それでも教授、教練をしている弟子であり。雇い主から預かっている子である。
只人から見れば、変化を解いたその身は脅威であり、脅威をそのままで統制なく終わらせるには、惜しい。
故にこそ――何よりも弁える。よく考えることを何よりも常々言っている。
バレなければ良いにしても、限度もある。
「そいつは良かった。
こっちは少々遠出したが、まァ、いい結果は得られた。時節の締めくくりの仕事には悪くない」
人の姿をしていても、野生がどうしても抜けないらしい。
攫われるかどうか、聊か不安なところが皆無ではなかったが――結果として問題なければ良い。それでいい。
■ラファル > 酒に関して言えば、幼女は酔う事が薄い、理由としては、人間ではないからと言うのが大きい。酒を飲んでも酔う事が薄く。
唯々、かパかパと飲める、笊とか、上戸、とかそういうのではなく、体のつくりが違うからと言うのが大きいのかもしれない。
ドワーフの火酒は酒精が強すぎて美味しくなーいと言うのがあるけれども。
「だって、弟子なんて、言ってくれるの、余り無いし。」
もじもじ、もじもじ。
弟子なんて言われて照れるのは、ラファルだからだろう、変な言葉ではなくて嬉しくて、思わずすりすりと、すり寄ってしまう。
一杯教えてくれる人。お父さんよりもお父さん見たいな人。
幼女の手綱のうち一つとして、確かに彼はある。
「じゃあ、この後はお家に帰るの?だったら、トゥルネソルに行く?ご飯食べられるよ?」
先程、グリム君と、メイド長シスカちゃんが買い物をしていた。
師匠が来なかったらグリム君に加えられてのお持ち帰りでの実家コースだっただろう。
年明けのお祝いという訳ではないが料理をふるまう位はするだろう、沢山の食材があったのを幼女は見逃さない。
それに、お屠蘇だったか、去年姉にそれを教えてくれたのは彼だ。
東洋のお祝いを教えてくれたのだから、其れのお返し位はしても良いじゃないだろうか、と。
ちなみに、ちゃんと攫われてます。とある女性ヒーラーのお家に、子猫のように厄介になってます。
こんな風にうろついている時点で、大丈夫なのでしょうけれど。
■影時 > 竜を酔わせる酒となれば、どうだろうか。
故郷の神話、逸話に語られる酒であれば――存外、酔わせられるかもしれない。
そんな気がする。入手のしようがないということを差し置けば、ではあるが。
だが、旨いと味わって呑める酒となるとまだまだ子供には難しいだろう。
ドワーフ仕込みの火酒はその最たるものだろう。
「たまには、なァ。弟子だと誰かに紹介するよーな機会もそうそう無ェし」
すりすりと、すり寄ってくる姿を傍に起きつつ、太腿の間に酒瓶を挟んで蓋をする。
そうして右手が空けば、金糸が流れる頭を撫でてやろう。
見た目と構図だけを言えば、容姿の云々を除いても父娘のそれとよく似るだろう。
血のつながりは当然ながらない。けれども、教え諭した指針とは身を律する由縁として在るか。
「そンつもりだが、嗚呼。イイのか? イイってならお邪魔させてもらうがね」
宿に帰って特別に何かが……あるというものでは、ない。
調息と瞑想をして、身を清めて休む。それくらいだろうか。
弟子に負けずの大飯喰らいではないにしても、普段食しないものを味わいに行くというのは良い機会だろう。
僅かな思案を経て、良いなと判断する。
そう言えば、今年の屠蘇でも仕込みに行くのも悪くはあるまい。
使えそうな薬種の類は一旦宿に行けば、持ってくこともできる。
別の意味で攫われているというのは、知っているが拘束されている風情ではない。
その点に於いてはほっとしている。弟子の教練ができなくなるのも、こまるだけに。
■ラファル > その辺りはどうなのだろう、幼女は酒に酔うことはない。普通の酒では。
彼の考えるような、竜を酔わす酒であれば酔う事もあるのだろうが―――わざわざそういう物を探して取って来て酔いたいとは思わない。
酔うという事は、判断力が鈍る、行動が制御できなくなる。忍びとしては、良い事ではない。
酔うという物を知り、酔う振りをするには良いので、一度くらいの経験は欲しいとは思うが、その程度。
「だよねー。そもそも。紹介できる相手自体が、居ないというか。」
そういう相手と言うのは、いい関係といって良いのだろうか、忍びの世界、師匠ほどに深く入り込んでいる気がしないので、弟子だと自慢できるのは良い事ではないと思えて。
頭をなでられてしまえば、もっと、もっと、と頭を擦りつけて見せる幼女。
お酒を飲みながらでも、相手をしてくれる、構ってくれる彼には、感謝しかない。
「え?ダメな理由はないよ?」
なにせ、普段から幼女が世話になっている、勉強も教わっている。
トゥルネソルが手を焼いている幼女をこんなにも躾けてくれる相手に料理をふるまわないなんて考えられない。
というか、実家にとっては孫だけ奔放なのだろう。
商家からすれば、幼女の動物性行動方針は、頭の痛い所なのでもある。
なので、来た時にごちそうをふるまうと言うのは、むしろ、願う事でもある。
一応、報酬として定期的にお金は渡しているが。それとは別に、感謝の気持ちはあるのだ、と。
なので、連れて行くつもり満々な幼女だった。
放さない、と言わんばかりに、ひしっと抱き着く。
■影時 > 竜――否、龍を酔わせる酒となれば、鬼を酔わせる呪物にも匹敵することだろう。
それも伝説的なほどのだ。
ただの忍びではなく抜け忍となった己となれば、それ等を探求する愉しみは見込める。
あとは、気兼ねなく遣れるかだ。とんぼ返りするには故郷は既に余りに遠い。遠すぎる。
「そう。居ねェんだよなあ。いや、居た処でどうだという気もしなくも無ぇな。
忍びの一門を作りてェ訳でもないし」
知っておかなければ、困る。把握しておかねば厄介だと。
そういう手勢や何やらが自分達を知っておきたい、雇っておきたい等という位にだろう。
そう考える。もっとばかりにせがむような様を見れば、首根っこを一瞬摘まんで己が膝の上まで持ってこようか。
猫を愛でるように顎下や耳裏でも擽るかと思ったが、それは何か違うだろうと考えて。
「なら、気兼ねは要らねェわな」
拾ってしまった、入手してしまったとはいえ屠龍の太刀を保有し、管理している身である。
竜の一大勢力とも言える商人の屋敷に邪魔するとなると、雇い主に慮る、少なからず配慮しようと思う処がある。
ちゃんと適切に管理している、保管用の櫃などに入れる前提であるならば、問題ないだろう。
今までもそうだったと件の屋敷を訪れた際のことを思い返しつつ、ご馳走に預かると決める。
逃げないから心配すンなと。ひしっっと抱き着く姿の背を宥めるように軽く叩いて。
■ラファル > 八塩折之酒―――だったか、東洋の竜を酔わす酒と言われるものは。それを探して見つけることは可能ではあろう。
ただ、彼の祖国に行くとなると、少しばかり面倒臭い、行けるかいけないかでいえば、行けるのだけども言ったことの無い場所だ。
師匠と共に行くのであっても、それなりの時間が。行きの際には掛かるだろう。
帰りはそうでもないとは思うが。
「師匠を、独り占め、にしし。」
言うべき相手が居ない、増やす必要や気がない、そういう事であれば、今後も唯一の弟子としていられる。
こう、独占欲的な物が幼女の中にあり、それが嬉しさとなって笑い声に零れる。
首根っこ捕まれて膝の上に移動されれば、その胸板に頭を預けて、くつろぐことにするのだ。
暖かな―――と言うが、幼女の体温の方がきっと暖かいのだろう。
「たぶん、此処でお誘いせずに帰ったら、おねーちゃんに怒られる。」
そして、屠龍の刀に関しては、姉は酷く怯える、と言うか、自分も怖いのだそれは。
竜を殺す概念で作られたと言わんばかりの刀であり、どのような防御であれ、するりと抜けて殺しにかかってくる。
牙も、鱗も紙のように切り裂かれてしまうのが、あの刀。向かい合うだけで、死を感じる。戦いなどできぬ一番上の姉は、見ただけでパニックを起こしてしまう程だ。
一応、入り口で純粋な人間のメイド長が受け取って保管してくれるから、今は、大丈夫。
姉が、その刀入りの箱をみなければ。、見たら卒倒する。今でも、そういうのに耐性は無いのだ。
幼女の持つ、守りの刀でも、悲鳴上げそうになるのだし。
「んにゃー。」
逃げる逃げないではなく、臭い付け―。と言うのは動物のようで。
お気に入り。なので。
■影時 > まぁ、構うまい。そんな超常、神話の時代に踏み込んだような代物でなくとも、酒は旨いのだ。
酒の味がそのうち分かり、味わって呑むことが出来るようになれば酔いも得るだろう。
種によっては、予想だにしないものが酒の如く酔えるということもあるのだと聞く。
そんな奇想天外なことだって、若しかしたらこの弟子やその血族もある――のかもしれない。
「もとより、弟子を拾うがために此の地までに来たワケじゃねェからな」
逃亡であり。未知の探索であり。蒼空を雲が流れるがままに、至った。
その果ての偶然として、弟子とする者を見出した。
拾い上げるように膝上に引き上げて、寒くはないだろうにしても風除けになるよう羽織の裾を掻き寄せる。
体温の二文字だけで云えば、明らかに弟子の其れの方が高い。
寒さで音を上げるような鍛え方はしていないが、暖を取るには丁度良いかと。そう考えながら。
「分かった分かった。
逃げも隠れもしねェから、安心しろ。そっちに行くからアレ用意しといてくれと伝えといてくれや」
本義的な意味で、例の太刀を振るったことはない。
属する冒険者ギルドで極稀に災害を起こしているような、強力な竜を討伐してほしいという依頼はない訳ではない。
だが、それを請けて達成して下手に目を付けられるのが億劫なだけだ。
武勲を挙げたい、武者修行したいがための旅ではないの。好き勝手に気ままに生きるがための過程でしかないのだから。
己が念話で話を通しても良いが、此れはきっと弟子の方から通しておく方が筋は通ろう。
そう頼みつつ、膝上の弟子を抱え上げよう。太刀を佩いた左腰側ではなく、右脇側に荷物を抱えるように。
「つけるにゃ良いが、程々にな?」
装束は適宜出立前に燻蒸など、匂い消しの処理をしている。
そうすると、また一からになってしまうと。少し困ったように目尻を下げ、弟子を諭して。
■ラファル > 「たしか、豆腐とか、味噌とか、醤油……だったっけ?」
最初は、トゥルネソルの商会の方の品物―――東方の調味料を求めてきた所、偶々リスが対応したのだったか。
偶然からの、弟子入りだったと思う、姉が見つけたというだけで。
どうだったっけなーと思い出していると、羽織が、肩に掛かる。体温の残る其れは暖かく、風から身を守ってくれる。
風に関しては、気にすることはないのに、とは思うが、其れよりも匂いに包まれているようでうれしくてぎゅ、と羽織を握る。
普段からこの姿で空を飛んでいる、実は、吹雪の中でもこの格好のまま歩いて問題ない程度には、寒さに強い。
空は、上空高く成るほど気温が下がる、それを飛び回る幼女だから、冬でもこの格好で問題ないのであった。
「あーい。あれ、用意させておくねー!」
と言いながら、視線は師匠から、トゥルネソルの家の方。
今頃、家令長がこちらを見ているので、口を動かして読唇術で用意してもらう物を伝える。
当然、師匠の刀を収める封印の箱、である。
刀を見るとパニックを起こす弱いドラゴンが多いので、それは仕方ないのだ、一番上の姉を筆頭に。
話を通すというか、話は通したというか。
もう、意思疎通は完了した模様、大丈夫だよ、と言いながら持ち上げられる。
「ふみゅう。」
だらん、と力なく持ち上げられる幼女。
これがドラゴンなのだ、これで、ドラゴンなのだ、誰が見ても信じられないだろう。
ほどほどにな、と言われて、あい、と言いながらも、ぷらーんと担がれるお荷物幼女。
そのまま、ご機嫌にぷらぷらと、実家に連行されるのだった―――
■影時 > 「どーれも此れもこっちじゃァ得難ぇ奴ばっかりだな。
や、味わえなくて困るってコトはないが」
だが、極たまに。その味を思い出したくなるものである。
現地調達をするにしても、非常に運よくできたとして「代用品」の域を出ない。
それこそ、今来ている服もそうだ。
型紙の類はボロボロになっていたとはいえ、荷物の底に残っていた。
戦闘に耐えるだけの丈夫な織物が当地にあった。であるが故に布を買って裁ち、縫い上げることに手間はなかった。
しかし、弟子の言うものの大半は醸造の兼ね合いが非常に難しい。
そう思い返しながら、羽織を握る手の様を見遣る。
せがむなら、同じものを採寸の上で繕うのは難しくない。
もう一枚せめて何か着て欲しいものだが、気質を知っていればとやかくは言い難いが。
「玄関口で仕舞っておかねぇと、困るからなァ。主にお前さんらが」
己がいつ来るかどうかわからないとなれば、もしかすると直ぐに出せる位置に常備しているかもしれない。
契約もある以上、刃を向ける気はないにしても、矢張り脅威なのだろう。この太刀は。
大丈夫と聞けば、分かったと頷いて弟子を抱え、立ち上がろう。空いたもう一方の手で酒瓶を拾うのも忘れない。
「よォし。そんじゃまァ、――走るか。偶にはこういうのも良いだろう!」
ドラゴンを抱える。字面だけでは凄いが、今の見た目を見ればちょっとどころかあやすぃのはご愛敬か。
ご機嫌そうな姿に愉しげに息を吐き、気配を減じつつ建物の天井を飛び移るように奔るのだ。
夜陰に紛れつつ、溶け込みつつ向かう先は例の屋敷。新年早々の挨拶と御馳走に預かるために――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」からラファルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」にアンネリーゼさんが現れました。
■アンネリーゼ > 冬の大通りでは、新しい年を寿ぐ祭りが行われていた。
様々な出店が連なり、昼夜を問わず人で賑わうハレの日だ。
この数日ばかりは、世の憂いも忘れてただ楽しむ。そんな気概が見て取れる。
「――とは言え、退屈なことには変わりないわねぇ」
そんな往来の中を、少女はふらりと彷徨っていた。
右手にホットワインの入った木のカップを、右手に古めかしい短杖を携えて。
当て所もなく気の向くまま、求めているのは何かしらの享楽や愉悦だ。
その種類は問わない。奇術だろうが、奴隷の見世物だろうが、処刑だろうが。
(さぁ、何か面白いものはないかしら。或いは可愛い子でも良いのだけれど)
ちらりと周囲に視線を向ける。同時に、甘い花の香がふわりと舞った。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 大通り」にジーゴさんが現れました。
■ジーゴ > 大通りは人通りも多く、多くの出店が見ているだけでも楽しいからついつい人目を気にするのを忘れた。
その結果がこのざまである。
「キャンキャン!!」
『先にぶつかったのはそっちだろ』
ハレの日の大通りであがったのは獣が痛みを訴える声と酒に酔った男達の笑い声。
大通りの脇、出店で買った食べ物を食べることができる小さなスペースで、地面に転がるように倒れた少年を蹴ったり、殴ったりして楽しむ男達が幾人か。
出店に見とれよそ見をして歩いて、飲み歩きをしている柄の悪い男達にぶつかってしまったのが運の尽き。
気がつけば、地面に転がって、殴る蹴るの遊び道具にされている。
「ごめんなさい…蹴るのやめて!」
懇願するような声にはキャンキャンと獣が痛みを訴える鳴き声が混ざる。
地面に転がって痛みに耐えて、急所を守るために頭を抱えて丸まってお腹を守ることしかできない。
だれか…だれか
■アンネリーゼ > ホットワインを飲みながらの散策は、あまり捗ることはなかった。
眺めるに足る見世物も、食指を唆られる可愛らしい子も特に見当たらなかったのだ。
お祭りならば少しは魔族にも楽しみを残しておいて欲しいわ、等と内心で独りごちる。
嘆息しながら大通りを更に進む。やがて目の前に、何やら騒ぎの人集りが見えてくる。
「――あら、なにやら催し物かしら?」
何が起きているのかしら。人混みに紛れて、するりと最前列に顔を出す。
そこで行われていたのは、幾人かの男達による寄って集っての私刑だった。
話を聞くに、少年が男達にぶつかってしまったため、この騒ぎになったらしい。
全く、可哀想に。そうは思いながらも、少女はただ眺めるのみで、止めたりはしない。
或いは、少年が少女を頼り、何かを見返りとして差し出すなら別だが――。
■ジーゴ > 「キャン!キャン!」
男達をより興奮させないように懇願も止めて、ただただ耐えようとしていたけれど、
どうしても口から獣の悲鳴のような声が漏れる。
口を押さえて、声が漏れないようにしても、背中を強かと蹴り飛ばされる度に、
殴打の鈍い音と共に口からは声が漏れる。
『痛いなら痛いって言えよな。ニンゲンの言葉しゃべれるんだろ』
酒に酔って随分理性が飛んでいる男たちは楽しそうに
加減を忘れて、蹴ったり踏みつけたりを繰り返す。
こうなってしまっては少年が気絶するなり、騒ぎを見つけてやってきた警邏に止められるまで男達は少年で遊ぶことを止めないだろう。
「たすけて…」
閉じていた目を開いて、守るように腕の中に隠していた頭を集まった人たちの方に向ける。
目を細めたり、ヤジを飛ばしたり、顔を背けたり。
表情の差こそあれど自分を見世物としてしか捉えていない人たちの顔。
それでも、幾重にも少年と男達を囲む人垣の最前列に覗いた少女に助けを求めるように手をのばした。
■アンネリーゼ > 男達の打擲は、時間が経つ毎にエスカレートしていった。
殴打に蹴りや踏み付けが混ざり、少年にかけられる負荷が大きくなる。
責める箇所も、徐々に急所を狙う形に変わり、少年はますます身を縮めるのみになる。
その内、この場に警邏の者が来れば騒ぎも収まるのだろう。だが、この祭りの騒ぎでは何時になるか。
或いは少年がうんともすんとも言わなくなれば、面白みを無くした男達も溜飲を下げるだろう。
さて、どちらになるかしら。ホットワインの残りに口を付けた刹那、少年の手が伸びる。
「……あら、助けて欲しいの?」
少年の言葉に、少女はにこやかな笑顔を浮かべる。
目の前で行われている陰惨な見世物には、およそ似合わない花の笑顔を。
周囲の男達は、少女もまた観衆の一人であると思っているからか、ニヤつくのみだ。
少女に助けを求めた所で、男達を恐れて手出しはするまい。そんな打算もあるのだろう。
他方で、少女はただ少年を見つめて、少し悩んだような素振りを見せた後に。
「私が、貴方を助けてあげるメリットは有る?貴方は何を差し出せる?
生憎と、私は親切ではないの。貴方が私に利益をもたらすなら、助けてあげる」
正体を隠しては居るが、少女は魔族だ。かの男達など、その気になれば一捻りだ。
それでも、少女にとって重要なのは、少年が少女にとっての利益になるかどうかのみ。
対価を差し出せ。そう迫る少女は、確かな魔族らしさを見せつけることだろう。
■ジーゴ > 『なに、助けて貰おうとしてんだよ。悪いのはお前だろ。ほら、謝れよ』
男の足が少年の頭をぐりぐりと踏みつけて、男達の下卑た笑い声はますます強くなる。
目の前の小さな少女が少年を救うはずがない、と高をくくっている。
「めりっと…?りえき…?ぐあッ…」
伸ばした手は取られることはなかったが、無視をされたわけではないようで。それでも、少女が何を言っているかを理解するのに時間がかかって、小さく言葉を繰り返した。
意味を推察しようと働かせる頭の動きはいつもよりも鈍い。沈黙する間に、追加で数発、背中を蹴り上げられて
また、男達を楽しませてしまう呻き声を上げた。
「オレをひとばんッ…うがぁああッ…すきにしていいから」
少年が差し出せるモノなんて数えるほどもない。
ポケットに辛うじて入っている硬貨は出店の駄菓子が買えるか買えないかほどの金額。
それが、綺麗な服を着た目の前の少女が満足する金額ではないことくらい、計算に疎い少年にも分かる。
であれば、差し出せるモノは一つしかなかった。
それでご満足頂けるかは分からないけれど。
蹴りが肺中に響くような痛みと強い振動を与えて、言葉は途切れ途切れでも、一生懸命考えた末の提案。
「だから…たすけて……」
石畳の地面に投げ出さしていた手をもう一度相手の方に伸ばした。
■アンネリーゼ > 目の前で踏み躙られる少年。その哀れな姿に、憐憫と愉悦を覚える。
少年が縋る先に居るのは、見た目通りの存在ではない。少女に擬態した闇だ。
問答をする間も、少年に加えられる暴行は途切れない。更に数発の蹴りが飛ぶ。
その後に差し出された答え。その内容を吟味すると、少女はくすりと笑いながら。
「――そう。一晩、ねぇ。それなら少なくとも、暴力からは救ってあげる。
ねぇ、貴方達、その子を虐めるのも楽しいとは思うのだけど、もう少し素敵な事をしてみない?」
彼に暴力を振るう男達に声をかける。同時に、視線を合わせた瞬間に魅了の魔眼を放つ。
効果はごく限定的。少年に対して、殴打や打擲を加えなくなる。ただそれだけ。
それ以外の自由は奪うことなく、少女の提案に乗るかどうかは任せる所存。
そして、暴力が収まった一瞬で、少女は少年の前にしゃがみ込む。
同時に少年の前に差し出すのは、薄桃色の液体が入った小瓶で。
「さて、貴方が彼らを怒らせたのだもの。その後始末は貴方がしなければいけないわ。
だけど、痛ましいのは可愛そうだから、私の趣味嗜好も兼ねて、貴方の一夜を買ってあげる。
その薬は、貴方の傷を治す薬なのだけど……副作用があってね。性別が反転しちゃうの。
男の子を可愛がるのも嫌いじゃないのだけど、今日は女の子を虐めたい気分だから、飲んでくれる?」
飲まなければ、男達にかけた術を問いて、観客に戻るのみ。そんな無言の圧力を、強制を、少年に向ける。
或いは周りの男達が、少年のままでも良いと言うなら、男色を眺めるのも一興、と言った所か。
何れにせよ、今宵の少女はただ悪辣に、少年を嬲り倒すつもり。それも、彼自身に選ばせる形で。
■ジーゴ > 『あ?素敵なコトだぁ?』
下卑た笑いと共に少年に暴力をふるっている男達が顔を上げる。
小さな少女だからと舐めていた男達は、目が合った瞬間に簡単にその魅了の虜になって、同時に少年への暴力も止まった。
男達は魅了されたまま、ぼんやりとその場に立ち尽くしていて、少女の指示があればその通りに行動するだろうか。
「あ…ありがとう」
目の前にしゃがみ込む少女の気配に顔を上げて。
どのような方法かはわからなかったけれど、目の前の少女が暴行を止めてくれたいことは分かったから、おずおずとお礼を言った。
止まった暴行に体勢を立て直して、地面に座り込む格好になると、少女と目線が近くなる。
差し出される小瓶を見つめて、何かを考えるように獣の耳が上に大きく伸びた。それでも
「おくすり、のみます」
ふくさよう?おんなのこ?
何が起こるかは正直よく分からなかったけれど。
一晩を買って貰ったのだから、相手の指示には従わないといけないと思った獣は
こくりと小さく頷いて、それでも怖くて震える手を伸ばして小さな瓶を受けると瓶の蓋を開けて、一気に飲み干してしまう。