2020/09/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にジーゴさんが現れました。
■ジーゴ > 日が暮れた頃には少し肌寒くなる季節。
比較的治安は良いはずの平民街の食品店や日用品店、雑貨屋などが並んでいるエリア。
薬屋の前でなんだか大きな声とそれにかき消される小さな声。
「だから…くすりがほしいんです」
薬屋の店先で居心地が悪そうに何度も同じ言葉を繰り返す少年がなぜか素足なのも悪目立ちしている原因だろう。
『だから、何度も言っているが、お前に売る薬はない』
店先に同じく立っているのは薬屋の店主。
先ほどからもう何度もこの繰り返しで、周囲を通る人たちは関わり合いになりたくないとばかりに避けたり、怪訝そうに振り返ったりするばかりだ。
「おなかいたい…」
小さな声でそう訴える少年の顔はどこか青ざめていて。シャツも幾つかボタンが飛んでいるし、店主が入店を拒むのも無理のないような様子で。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にパーサさんが現れました。
■パーサ > 「あら…………あのミレーの子…………………」
宵の口の商店街、人波に煽られつつもマイペースに歩く修道服の女。
薬局の前でなにやら揉めあっている様子の2人に気がつくと、しばし立ち止まってその様子を伺い。
やがてそう間をおかず、その歩みを再開する。
行き交う人々がみな我関せずの態度を貫くなか、うっすら張り付くような笑みを湛えた女性は真っ直ぐ薬局の入り口に向かい…。
「…………どうされましたか、ジーゴ?」
狼耳に向けて、慈しみの籠もった声をかける。
振り向くなら、いつぞや水遊場で出会った女性、パーサがすぐ傍に立っている。……ちょっと近すぎるかもだが。
■ジーゴ > おなかいたい、と、くすりほしいを何回も繰り返しているが、店主は首を縦に振らない。
正直、立っているのもそろそろ限界な気がする。
おなかいたいし、フラフラする。視界もあまりはっきりしない。
それでも薬屋の店主は店内に入れてくれないし、事態は硬直しきっていたけれど。
突然かけられた声に驚いて、少年は振り返った。
「だ…れ?」
相手を下から上まで眺める訝しげな瞳。
驚いて立ったままの大きな獣耳。
自分の名前を知っている人なんてそもそも少ないはずなのに、相手が誰かしばらく分からずに。
数秒しっかり沈黙した後に
「あ!あの…えっと……水遊場のときの?」
気がついて急に、青ざめていた頬に赤みがさす。
格好が違うからか、相手が誰か分かるのにしばらく時間がかかったが。
媚薬のせいだろうか。あの日何があったかはあまりはっきりとは覚えていないけれど、何かとても恥ずかしいことがあったような気がしていて。
「オレ、おなかいたいの」
ボタンが幾つも無くなっているシャツ。
薄汚れた髪に靴をはいていない足。
もしも鼻がよければ、血の匂いに混ざった精の匂い。
なにか酷いことが彼の身に起こったことが推察されるだろうか。
■パーサ > 「ええ、はい。水遊場でお会いしましたね。あの時は大変お世話になりました……♪」
にっこりとほほえみ、小柄な少年をまっすぐに見下ろす。
邂逅済みなのだから分かっているだろうけど、このパーサという女性にはミレーへの偏見は一切ないようだ。
「……あらあら。おなかが痛い……。
痛みを和らげるお薬をさがしておられたのですねぇ。でも………」
腹痛を訴えるジーゴには、パーサの笑顔も曇り、沈痛な面持ちをみせる。
そして、頑なにジーゴを拒否する薬局の店主のほうも見やって……しかし、何も言わない。
ただただ、悲痛な表情を向けるだけ。それはそれで相手の心に変化をもたらすかも知れないけれど。良かれ悪しかれ。
――パーサ自身に偏見はなくても、この国・この街にはミレーへの差別が強く残っていることを知っている。
そしてそれは長い歴史に裏打ちされた偏見であり、《赦しの神》の信徒であるパーサを持ってしても決して覆せないものである。
それを別にしても、崩れた風体のジーゴを怪しい客として拒否する気持ちも分からなくもない。
説得は難しそうである、ならば……。
「…………私であれば、ジーゴの苦しみを癒せるかもしれません。
詳しいお話をお伺いしたいのですが、場所を移しませんか?」
ひとまず店先から離れるべきだろう。そっとジーゴの手を握り、まっすぐ彼を見つめながらそう諭してくる。
■ジーゴ > 「はずかし…い…」
たいへんおせわになりました…?
何をしたのかはっきりと思い出して、少年の顔が赤くなっていく。
平民街では獣の耳がどうしても目立ってしまって、
今日のように入店を拒否されることは多い。
ただ、貧民街では手に入る薬の質が悪い。
悩んだ末に平民街で、店主と揉めるはめになったのだけれど。
「おなかいたいの治る?」
取られた手はそのままに、近くにいる相手を見上げるように見つめた。痛みからかその表情はどこか幼くてきょとんと丸い獣の瞳。
返事に関わらず、相手がどこかへ移動すれば、そのまま素直にを追うだろう。
■パーサ > 「……あらあら。何が恥ずかしいのでしょうかぁ…?
それよりも、ジーゴがとても辛そうにしているのが心配で……早く、なんとかしましょうね…?」
水遊場でのことを思い出して赤面するジーゴと裏腹に、パーサは平然としている。『お世話になった』ことは真実だし。
一般常識でいえばそれは『恥ずかしい』邂逅ではあったのだけれど、パーサはどこか常識がズレているタイプの女性。
そして、今回の行動もやはりちょっとおかしい。
ジーゴの手を引き、場所を移そうと申し出たパーサだったが、その足はさほども歩かず、通りの真ん中ではたと止まる。
先程の騒ぎの余韻がまだ残っているようで、人々は哀れなミレーとそれを介抱する修道女を避けるように往来する。
そんな中で、パーサが何か祈るような仕草と、聞き取れないほど微かな詠唱を10句ほど紡いで見せると……。
――ジーゴとパーサの周囲の時間が止まる。
半径2mほどの円を輪郭として、それより外の世界が静止し、色さえも失われてモノクロとなる。
往来の喧騒は勿論、秋の夜風が吹く音や心地すらも消え去ってしまう。
パーサの《アヴァター》としての能力である。
「………《懺悔室》を作らせていただきました。ここでなら何を話されても、私にしか聞こえません。
私からあまり離れられると解けちゃいますので、気をつけてくださいね。
………それでは、ジーゴ。どうしてお腹が痛くなったのか、どう痛いのか……聞かせていただけますか?」
パーサは、この超常能力の発揮をさも当然といった雰囲気で、にっこりとジーゴに向き合うと。
やや屈んで目線を合わせ、柔和な表情を向けて、事情を問いただそうとする。
■ジーゴ > 「どこにいく…?」
他の薬屋に行くとかそのようなことだと思っていたのに。
往来の真ん中で立ち止まってしまう相手を不安げに見上げた。魔法の知識は無いし、何をしているのか分からず、相手を見つめることしかできなかったのも少しの間だけ。
「え!?」
気がつくと。何かいきなり空間が変わってしまう。
慌てて動こうとした体の動きは続く言葉の離れないようにと言う指示でなんとかその場に留まり。
ここがどこかを尋ねる間もなく、少年に繰り出された質問。
「おなかいたいのは…」
おずおずと説明しようとするも、相手からは視線を外して、言葉を選んでいる時間がしばらく続く。
「おなかいたいのは…おなかに痛いの入れられたから」
まだ生々しい蹂躙の記憶。思い出しただけで怖い。小さく震える体。
肝心の部分は誤魔化して言わないから、なにも説明していないような返事を小さな声で。
■パーサ > 「痛いのを………『入れられた』………ですか」
突然展開された《時空懺悔室》の力に、明らかな戸惑いを見せつつも返答してくれるジーゴ。
パーサは、しばしの沈黙を経て述懐してくれた曖昧な回答を受け、こちらも少し考える素振りをして。
「食べ過ぎたとか、悪いものを食べた、とかではなく『入れられた』のですか。
強く殴られたとか、冷やしすぎた、とかではなく『入れられた』のですか……。
それは、それは………ええ。大変痛ましいことですね……」
噛み砕くように、彼の返答を口に出して吟味するパーサ。
――パーサとジーゴの2人を除き、周囲の時間は完全に停止している。だが停止しているだけで、人々の姿はそこにある。
いまだ屋外、街中というロケーションにいることをパーサはまったく気にする様子はなく、少年の赤裸々な事情を口に出して。
そして、素直に憐れみの視線を向ける。たった一つの曖昧な返答だけで、概ねを察してしまったようだ。
「わかりました。ジーゴがされてしまったことを、できるだけ『なかったこと』にしてみようと思います。
できるだけ、ですけれど。それで痛みが少しでも和らげば、ジーゴもお薬に頼らずに済みますでしょう?
……ですから、もう少し詳しくお話をしてもらえるとありがたいです」
そう、ゆっくり言い含めるように語ると、パーサはさらに深く蹲踞めいた姿勢でしゃがみ、ジーゴの腰に顔を近づける。
かろうじて残ったボタンで繋ぎ止められている彼のシャツ、その上から彼のお腹に両手を触れる。
温かいパーサの掌の温度が、じんわりと伝わるだろう。
……それだけではなく、パーサの祈りの力、『過ちをなかったコトにする』因果律作用の力も同時に放たれているのだが。
しかし、治すべき事柄の詳細な情報がわからないと、その効果は薄い。
「とにかく……痛みが少しでも和らぐように……しましょうね……♪」
安心させようと、はにかみの表情で少年を見上げるパーサ。
……その鼻柱はジーゴのズボンのチャックのすぐ傍。少しでも突き出したり膨らませてしまえば触れてしまいそう。