2020/07/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフォティアさんが現れました。
フォティア > 夜ともなれば、僅かに涼気を含んだ風が平民地区の通りを吹き過ぎていく。
まだ雨の匂いの名残を残した大気が、陽が落ちて紺色に染まり、飲み屋や飲食街の道筋が明るく光を灯し、賑わいを届けてくれる。
大きな通りから一本外れた、静かな通りの一角に、まだ看板を出したままの小さな店が明かりを灯していた。
『貸本屋』の看板を掲げたその小さな店は、ご近所の子供やご婦人方の社交場になりがちだが、今はカウンターに一人の少女がちんまりと座って店番をしているのみだ。

「──……さて、と」

そろそろ店じまいの頃合いか。
いつもはもう少し早めの閉店なのだが、カウンターでつい新しく持ち込まれた本を読みふけってしまい、時間を過ごしてしまった。
黒いワンピースに白い前掛けをした少女が、ゆっくりと立ち上がってカウンターから出ると、店の軒先へと歩み出た。
時折湿り気を含んだ風にのって、酔漢の笑い声が聞こえてくる。
小さな手が、看板にかかり「んしょ」と小さな声を上げつつ、掛け金から外して店内に片付けようとした。

「あ。……雨、もう止んでる…」

本を読み始めた時には、雨音が激しかったことを思い出し、手を差し伸べて雨粒を確認するも、何も触れない。
そのことに安堵したように、淡く微笑んだ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にジーゴ(番号215642)さんが現れました。
ジーゴ(番号215642) > 今日は行ってみたい場所があった。それでも、昼間の平民街に出かけるのは少し、気後れしてしまうから。向かうのが少し遅れてしまった。

ぱたぱたと走る少年の靴の足音が静かな通りに響く。少し早足で、水たまりを踏み抜いて、飛沫が自分にかかることもとくに気にはせずに。


「あ…閉まった?」
目的の店が見えてきた頃に、その店の前で店員らしき少女が看板をしまおうとしているのが、見えてその場に立ち尽くした。軽く肩で息をしたまま、店の様子を伺っている。
文字は読めないけれど、きっとアレはOPENの看板で、それが片付けられた店が閉まっていることは知っている。

フォティア > 軒先に差し出した指先で今宵の天候を確かめていたが、やがて少しの涼気と湿気をともに孕んだ極普通の、星のない夜であると判断し、小さく頷いた。
湿気は、書物への大敵ではあるが、季節柄仕方がないし、雨の夜よりはましだ。
大きな湿気取りのシートで、店内の書架を覆って閉店の準備を始めようとして──ふと、気配に気づく。
首を捻じるようにして店の外へと視線を向ければ、そこに佇む姿一つ。
通りすがりの酔漢ではなさそうだ。

「? ……お店に、御用ですか?」

首をそっと傾げて、問いかけた。
見覚えのない初見さんのように思えるが、自身がこの店を継いでまだ間はない。
ゆえに、祖父の代からのお得意様である可能性もある。
看板は下ろしはしたものの、少し考え。

「もう少し、お時間はありますので、どうぞ?」

本当は嘘。
いつもはすっかりと片して閉める時間なのだが──本好きのお客様であれば、時間など関係ない。

ジーゴ(番号215642) > 帰ろうかと思っていたとき、店主らしき少女がこちらを向いた。驚いて獣の耳がぴくりと動く。
平民街では、ミレー族は嫌がられることがあるから少し怯えがちだけれども、相手の様子が落ち着いたものだったから、その場から逃げてしまうことまではせずに。

「あ、本をみたくて…」
どうやらまだ閉まってはいなかったと内心安堵して。わざわざ閉店しようとしているところを開けてくれていると気がつくほどの細やかさは彼にはなかった。

字も読めない少年はこの店に来るのは初めてだし、なによりも本屋に来ること自体が初めてだ。残念ながら古いお得意様ではない。
許されれば入店して、棚をぐるりと見渡す。ひとしきりきょろきょろした後に小さな声で尋ねてみる。

「あの…かんたんなやつありますか?」

フォティア > 『混じりもの』として忌避されることもままある少女にとっては、相対する相手の種族に関しては頓着する材料ではない。
一応、看板を店の片隅に立てかけて、手の仕草で店内へと招く。

「では、どうぞ。お好きなだけ。……とはいっても、閉店は近いですので」

最後は少し悪戯に付け加え、並ぶ書架と、本を吟味するためのソファセットを示した。自身は定位置であるカウンターへと歩み寄りながらも、物慣れない様子に首を斜めへと傾げ──

「…………あぁ…」

僅かに、得心がいったような短い声が漏れて、顎先に指先を触れさせ、しばし黙考。

「どのような物語がお好きですか? 見ているだけで心が浮き立つような、綺麗な挿絵の絵本も、各地の風景画が添えられた旅行記もありますよ? 騎士物語、冒険物語、少し怖いような怪談話。」

識字率が決して高くはない。ゆえにふんだんに挿絵の盛られた、見ているだけで楽し気な本が良かろうと、選択肢を差し出した。
こうして、雑多な本の群れから一冊を選ぶのも貸本屋のガイドとしての役目のひとつだ。

ジーゴ(番号215642) > 店内は見たこともないような数の本で埋め尽くされている。
そもそも本屋に行ったことがないから、その量に圧倒されて、しばらくきょりきょろを繰り返している。
本の背表紙を見ているだけでも楽しい。徐々に少年の目は輝きはじめて。
難しい本だろうか、分厚い本もあれば、鮮やかな挿絵が施された絵本もあるようだ。もっとも、文字は読めていないから装丁からの想像だけれども。

オススメを聞くと、よどみなく候補が出てきて、一瞬固まった。困り顔で黙り込む。冒険?騎士?旅行?そもそも物語を何一つ知らないから、好みも言えなかった。

「狼がでてくるやつ。犬でもいいけど」
小さな声で返事をした。
結果的にひどく狭い候補を挙げることしかできなかったが。

フォティア > 本のジャンルにもどうにもピンと来ないらしい初見さんの表情に、もう少しだけ考えこむ。
それなら、図鑑や絵本の挿絵がメインのもののほうがいいだろうという判断。
おそらく、まだ本のバリエーションに関して気持ちを馳せるほどの読書の経験がないのだろうという勝手な憶測を立てた。

「…………ふむ。 狼。……または、犬」

リクエストの断片に、しばしの沈思。この天井まで堆く積まれた書架に並ぶ本の中身は大体把握しているが、その中から頭の中で検索するにも時間がかかる。

「じゃあ、画集はどうでしょう? 画集、と言っても……様々な場所に生息する獣たちを綺麗にスケッチされ、生態を付記されたもので、大判の絵画がとても見ごたえがありますよ?」

画集は基本的に大判で重いので、下段だ。
腰をかがめるようにして、一冊の重厚な装丁の一抱えほどの本を探り出して、少年へと差し出した。

「この作者さんは、狼などイヌ科の動物に特に興味を持っていたようで、狼の様々な種類が記載されています。まあ……狼以外も、時折載っていますが」

どうでしょう、と言葉を足しながら開ける一頁目には、見開きで広い森林を群れとなってかける灰色狼の勇壮な姿。
欄外に、説明や場所が記載されているのだろう文字列が並んでいる。

ジーゴ(番号215642) > 相手のしばらくの沈黙に狼や犬の本はないのだろうか、それとも貸本屋で狼というのはなにか間違っていただろうかと内心焦り、獣耳もうなだれてしまうのだけれど、しばらくして差し出されたのは大きな本だった。

「がしゅう!」
相手の言葉づかいは少し難しくて、理解が及ばない部分もあるけれど、この大きな本のことを画集というのだろうと推測して、差し出された本に手をのばした。

「シンリンオオカミだ!」
笑みを零すと、狼と同じ牙を口の端から覗かせて。
図鑑の文字が読めたわけではない。狼の知識は少しだけ持っている少年は食い入るように図鑑を見つめて。
次の頁をめくるとそこには、もう少し大型で毛が長い種類の狼が載っている。

「オレ、シンリンオオカミの方が似てるね」
ページを最初のページに戻すと、森林を走る灰色の狼を指さした。少年のの耳と瞳が画集の狼にそっくりだ。

「ここって本が借りられるおみせ?いくら?」
貸本屋のシステムにもあまり詳しくない。
そもそも手持ちのお金で足りるだろうかと思って、先に尋ねた。

フォティア > 「物語のついていない絵を、こうしてたくさん集めている本を画集というんですよ」

簡単な説明をしながら、狼の頁に目を輝かせるお客の表情に、釣られたように唇はわずかに笑んだ。
そのまま、少し、少女には重い画集を、彼へと委ねた。

「ええ。各地の、色々な狼が描かれてます」

こくこく、と何度か首を縦に揺らすようにして彼の言葉を肯定し。
そして、少し意外そうに目を丸くした。
考えこむように、斜めになる首の角度。
少女は、ミレー族を動物と同一視したことがなかった。
だから、そのことで共通項を見出し、喜色を浮かべる横顔にしばし不思議そうな表情を浮かべていたものの。
それでも、好きなモノとの共通項が見いだせれば嬉しくなるものかもしれない。
そういえば、ここで井戸端に励む若い奥様が、どこかの吟遊詩人の髪型の真似をした、とか嬉々として語っていたこともあり、似たようなものだろうかと少女なりに理解しようとした。

「ええ。柔らかな毛並みと、お色が似てますね」

無邪気な様子が微笑ましく、ほんのりと笑いかけて、頷き返した。

「ええ、お好きな本をお貸ししています。供託金……あー、えっと。お貸しする前に、少し、お金をいただいて。本をお返しいただいたときに、そのお金の半分を、お返しします」

図書館ではないので、どうしても保証金というものが必要になる。
その貸本の値段もともに告げるのだが──

ジーゴ(番号215642) > 「絵がたくさんの本が画集」
相手の説明を自分なりに繰り返すと覚えたとばかりにうんうんと頷いた。

「シンリンオオカミはすごいかっこよくて、強くて、足もはやくて」
実物を見たことがないにもかかわらず、シンリンオオカミの魅力を伝えようとたくさん言葉を並べた。
ミレー族のそれも奴隷として生きてきた中で、獣扱いをされて、ヒト扱いされないことは数え切れないくらいあった。それでも自分はかっこいい狼と同じなんだと思うことは自尊心を保ってきた彼は狼への愛着が強い。
毛並みと耳や髪の色が狼に似ていると言われると、褒められたかのようにほくほくと笑った。

貸本屋の仕組みを聞くと、一つうなずいて画集を一度閉じて。黒いズボンのポケットを漁った。
「お金、これで足りますか?」
差し出されたのは小銭が数枚。併せて100ゴルド。
あまり計算もできないから、持っている小銭をとにかくすべて差し出した。