2020/06/02 のログ
影時 > 幸か不幸か、と言えるのはこの辺りの剣術の動きを見憶えていたことだ。
今の得物としている太刀と遇う前まで、長物の類については現地調達をしていた。
武器を選ばないというよりは、選べないという状態であれば、その扱い方を学びにいくことに躊躇いはない。

「叩きつけンじゃなくてな、切りに行くってコトを忘れるなよ? 
 どんな名剣でも研ぎたての剣でもな、刃筋立ってなきゃ斬れるわきゃ無ぇ。

 ン? ……自信ない? なら棍棒の方が楽だなァ。刃毀れしなくてイイぞ」

壁際にいくつか設置された訓練用の木製の標的に向かい、盾を片手に刃引きされた剣を打ち込む姿に声をかける。
駆け出し然とした少年だ。その彼に励ますように声を送る少女は、恐らく同じ徒党を組む仲間だろう。
微笑ましいものだ。だが、余り実戦慣れしていないのか。
動かぬ標的に当たりはしても、いい音がしない。芯がまだ通っていない。

「……殺し慣れて無ぇなら、こうもなるか。

 ン? 手本見せろって? ――仕方無ェなぁ」

ぼそりと零せば、手本を見せろと。此方は少年ではなく、食い詰めた中年然とした男が声をかけてくる。
どぉれ、と。立ち上がっては腰に刀を差す。だが今回、己が得物に出番はない。
刃は潰されていないが、訓練用に手頃な鋼の剣を取って訓練用の標的の一つの前に立とう。

影時 > 「空いてる盾は、無いか。
 普段遣いの得物じゃないがな。――斬れるぞ」

他の訓練者たちと同じように盾の類があれば良かったが、無いものは仕方がない。
右手で剣を下げ、気勢を整えながら標的を正面に捉える。
緩やかに振り被った剣を擡げ、空いた左手については肘を曲げて盾を持ってるかの如く擬して構える。
そして、すっと踏み込みながら剣を勢いよく、振り抜くのだ。
研ぎ澄まされた刃が標的の頭頂部を小気味良いと音と共に切り裂き、返す刃で切り下ろす。
狙いとしては首筋或いは目元、そして額を切りに行くものだ。
見本になるかどうかは人それぞれだが、手頃な重さが乗っていて鋭利な刃がついていれば成すのは難しくない。

「思いっきり打ち込むのもイイが、体の軸がぶれる。
 それに、確実に止めをさせなきゃ話にならん。格好つける前に、敵の息の根を止めるこった。

 ン? 俺の刀と同じ奴が欲しい?
 そうさなァ。トゥルネソル商会に行ってみるといい。頼めば用立てられるかもしれねぇな」

然るべき処に切先を打ち込めれば、人は死ぬ。魔物もまた然り。
弁えていれば普段遣いの得物ではなくとも、この位は出来ると実演しつつ、様々な問いに答えよう。
己が左腰の太刀に物珍しい視線を送る姿には、雇い主の宣伝もかねてそう言おう。
けっして間違いではない。刀身は兎も角、現在の外装を仕立てて貰った処でもあるのだから。

影時 > 先刻のように打ち込むにあたり、氣を遣うことはない。だが、少なからず注意を払う。
訓練用とはいえ、用意されているのは粗雑に作られた剣だったのが幸いした。
戦場や赴いた先で、一層に粗悪な剣を握らざるを得ないことは否応なしに起こりえる。
斯様な理不尽に遭遇した際の対応力、事前にどれだけ危機となる要素を減らせるか。

「しかし……、実技を教えるにゃ別にイイが、徒党組めない、組もうとしねぇ奴らをどうにかするのも必要じゃねえかな」

戦うやり方を知りたいだけであれば、別段冒険者になる必要はないだろう。
兵士になる方が恐らく早い。それに質は兎も角として、衣食住の保証は付く筈だ。
冒険者となる者は、歌物語などで語られる華々しさを求める者ばかりではない。
変わり者も少なからず居る。集団に馴染めない者も居る。
他所での経験の蓄積故に駆け出し以上に動ける己ととて、溝攫いや低位の魔物退治等を積み重ねて、今がある。

「とりあえず、何か聞いておきてェ奴は居るか? 連れ添い云々以外のコトなら答えてやるぞ」

気を取り直そう。一応、講師として今ここに立っているのだ。それらしいことはもう少ししておこう。
過日の記録を見た者が居るのか、色々と聞いてくるところを回答できる範囲で答えようか。

影時 > 連れ添い云々については、とやかく聞かれても困る。
会話の合間で昨今の事情や、噂話めいた事項を拾い聞きしながら、約束された報酬に足る仕事をしよう。
訓練を積むことで、多少は無駄死が減れば、その分だけ経験を積んだ者が他の者も同様に教えることだろう。
長期的なスパンや視点が絡む話だが、無駄ではあるまい。

「まァ、まだ行ける――遣れると思った時が一番危ねぇんだ。
 旨い話程大概ろくなことが無ぇ。地味でも良いから、堅実にな。そうすりゃ死なずに帰って来れる」

それが、いい冒険者の条件であると。事務員たちも囁く言葉を己が代弁しつつ教練の夜をこなす――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にネメシスさんが現れました。
ネメシス > この日、聖バルバロ騎士団による平民地区内での取り調べが行われていた。
平民地区に並ぶ複数の施設や建物を騎士団が取り囲み、ゴロツキ同然の団員の手で建物内の入居者、利用者などを尋問する。

出身はどこか、何しに来たのか、身元を証明する者はないのか、等。

満足いく回答が得られないものは両手両足を縄で縛った上で荷馬車に載せられる。

「はいはい、ちゃっちゃと調べて行って頂戴ね。」

副団長のネメシスは荷馬車の前で団員に淹れさせた茶を寛いでいた。
ちなみに荷馬車は三台用意されており、容姿の美しい者のは1台に集められている。

当然のことながら、ネメシスが居るのはその一台の荷馬車の所で。
連れて行かれた先でどのような"取り調べ"が行われるかは想像できるだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からネメシスさんが去りました。