2019/06/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/路地」にルビィ・ガレットさんが現れました。
ルビィ・ガレット > 先日、煙とナントカは高いところを――と言われたばかりだが。
また女は、誰かの家の屋根上にいた。屋根のてっぺん。
転落するかも知れないことを恐れず、そこで立ちながら地上を眺めていたが。

「――美形だなあ、あいつ。ダニーとかエリスのほうが私のタイプだけども」

半吸血鬼の視線の先は、人気のない路地。そこでひとつの影を認める。
男だ。夜目の利く自分には相手の顔もちゃんと見える。その上で誰か、別の男の名前を出して引き合いにする。彼に聞こえないだろうと踏んで、不躾な発言。

「……っ」

遅れて気づき、半歩分後ずさる。――彼が人ではないことに。
自分がちょっかいを出したいのは人間の男だ。彼だと分が悪い気がする。
しかし、後ろへ少しよろめいた際、物音を立ててしまった。気づかれたか。

カイン > 人の気配らしい気配のない路地の、
しかしながら貧民地区とは違い潜める気のない人の気配がする建物の数々。
そんな当たり前の営みを少し楽しげに眺めながらの道程の最中、
ふと足が止まる。何か気配を感じた為では有るのだが、
直後に鳴り響いた音にソレは確信に変わった。
しかし、だからといって攻撃してくるような素振りはないことも同時に確認して顎に手を当て。

「ふむ。…何の用事かは知らないが、そんな所で何をしてるんだ?」

少しの思案の後に好奇心には負けた様子で軽く声をかけてみせる。
両手を軽く両手を上げて何も持ってないことをアピールするようにひらひらと左右に振って、
謎の人影の方をじっと見据えたまま様子を伺う。
最も、男の側は楽しげな様子を隠す気もない気楽な調子であるのだが。

ルビィ・ガレット > 「……ちっ」

小さな舌打ち。やはり気づかれたことに苦々しい表情を浮かべる。
明らかに、屋根上の自分に向かって声をかけられれば、なんて返そうかとしばし思案。
その最中、腹が立っていた。相手の気楽な調子に。

「今そっちに行く――なんで楽しそうにしているんだよ」

体を無数の、青く発光する蝶の群れに変え、緩やかに地上に降りてくる。
蝶がふわふわと撒き散らす、鱗粉のような光の粒には幻惑作用がある。
ただ、彼にはあまり通じないかも知れないが。

地上に降り立てば、姿を人に瞬時に戻した。彼の前に立つ。
外套が女のほぼ全身を包み隠している。その上で彼女はフードも被っている。
辛うじて、相手にはこちらの顔の雰囲気が伝わるくらいか。

カイン > 降り立った相手に一瞬腰を落として対応するものの、
危険が無さそうだと見て取ればそのまま両手を下ろして姿勢を整える。
何とも野暮ったい格好の相手に浮かんだのは少しだけ以外そうな表情だ。
てっきり血気盛んな少年か何かの悪戯と思っていたのだがあてが外れたらしい。
だが、だからこそ面白いと喉を鳴らして緩く笑い。

「何が楽しいのかと言われれば、こんな誰も居ない夜道の散歩でお前さんみたいなのに出くわせたのが楽しいからさ。
 何事も楽しまなきゃ損ってもんだろう。――不思議な技を使うな。
 ま、俺はただの仕事帰りの散歩をしてるだけのしがない男だよ。
 そう警戒しなくてもいいぜ、良かったら少し話し相手になってもらえりゃ嬉しいけどな、お嬢さん?」

幻術の類が全く効果がない、といえば嘘になる。
眼前の相手の全体像を男は掴みきれていない。
だが、その上で相手の性別を女性と断じてからかうように声を投げる。
半分は今までの人生経験から培った勘。残り半分は、完全なる当て推量。つまるところハッタリである。

ルビィ・ガレット > 意外そうな顔をされても女の不機嫌そうな、無表情に近い顔はそのままだ。
彼を少し警戒しているのもあるが、自分と同じ魔の者にそんな反応をされても
「たいしたことがない」と判断しているのが大きい。

彼女は人間を弄ぶのが好きだ。特に、彼らの余裕のない表情や意表を突かれた感じが好みで……。
つまり、目の前の彼では「おもちゃにしづらそう……」という理由で。表情に険が出てしまっている。
甚だ身勝手な理由で愛想を無くしていた。

「……律儀に応えるなよ。調子が狂うだろ――私の。
 人でも生意気に神秘に近いことを成せるやつがいるだろう。だから、私のは普通だ。
 ――ちっ、顔が良くて女に実際モテそうなやつほど、そういうことを言うんだ。しがなくはないだろうが。
 ……………」

彼女の言い方では、遠まわしに「自分は人間だ」と言っているようにも聞こえるし、
反対に「自分は人外だ」と伝えているようにも思われた。どちらにも受け取れる、嫌な言い方、
曖昧な表現は、彼女の性根を垣間見せている。

照れた様子もなしに、相手の容姿を肯定すれば。しばし黙して。
面を上げた。身長差の関係で彼を見上げるようにしながら。

「わかった。いいぜ」

カイン > 「ある程度誠実でなければ傭兵なんて仕事は務まんなくてね、
 お褒めに預かり光栄……ということにしておくよ」

こちらもからかい混じりに、以外に堂に入った一例をして見せる。
相手の不機嫌そうな空気は感じているものの、それもどこ吹く風と行った体。
飄々と受け流しながら、軽く腰に手を当て。

「なに、俺としては美人の困り顔も乙なものだと思うんでね。
 特に困らないから問題ないさ。…それにしても、あんまり使い手のいるもんでもないと思うがな。
 なんせ幻術の類ってのは、人間だろうとそれ以外だろうと多少は用心深くないと使いこなせない」

白々と、相手に負けず劣らずの身勝手さを隠しもせずに言い放つ。
次いでの言葉は遠回しの褒め言葉のようで居て、ひねくれてるんじゃないかという疑惑も混ぜた物言いだ。
相手の素性がどちらかなど、男にしてみればこの際どうでもいいのかもしれないが。

「申し出を受けてもらって感謝するよ、っと。
 それじゃまずは自己紹介から、俺はカインというしがない傭兵さ。よろしくね?
 ひょっとして見つかるとなにか問題の有ることの最中だったのかね」

挨拶は大事だと冗談めかして見せながらゆっくりと右手を差し出し。

ルビィ・ガレット > 「社交辞令や処世術の一環というわけか。あなたの顔以外は特に褒めていないわ」

入り口がまずかった。出会い方が普通なら、こちらも人間を装い、愛想を良くしたのだが。
その必要性が感じられないと、素の高慢さを出してしまう。
幸い、彼がそういったことをあまり気にしない人物であるようで。

というか、今の段階では「打てば響く」という印象を彼女は持ち始めていて。
ぶっきらぼうに、直線的な物言いは、無意識に「相手の反応で遊ぼう」と下心。

「……趣味、悪いわね。――この街で用心深くないやつなんているの?
 ただでさえ、生きていて何があるかわからないと言うのに。……ところで、さ。
 美人と言ってくれてナンだけど、あなた本当に私の顔が見えてるの?」

美人、という言葉には、そ…と僅かに視線を逸らした。
自身の内情を、照れを誤魔化すように。平静を装いつつ、一般論だと信じていることを述べる。
かと思いきや。……右頬、唇の右端だけを器用に持ち上げながら、そう、唐突に問いかけて。

彼にどこまで幻惑作用がいったか、正直こちらはわからない。
だから、見透かしているようなていで確認しようと。

「どうってことないわ。
 ……私はルビィ・ガレット。見ればわかるかも知れないけど、冒険者。
 ――あなたと比べれば私、きっと後ろめたいことは少ないはずだわ?」

相手の謝意を軽く受け流せば、こちらも名乗る。
差し出された右手を掴みながら、相手の人となりをよく知りもしないで。
不躾なことを。質問にも、答えているようでちゃんと応えていない。

彼には彼女の手が少し冷えて感じられるだろう。
夜風で冷えた……程度に思うだろうか。

カイン > 「おや、顔は褒めてくれるのかい?そりゃ嬉しいね」

相手の言葉に思わず笑い飛ばしながらクックと喉を鳴らして言い返す。
存外、素直なのか何なのか思ったことを口に出すらしい様子にツッコミを入れるのもどこか楽しげである。
女であることを先程否定しなかったのも含めて、案外根っこが素直なのだろうかと妙なことを勘ぐり。

「逆に、この町で大なり小なり趣味が悪くないやつがいると思うのかい?
 ま、たしかに楽しく生きるなら用心深くないと問題のある場所だな、色々と。
 んー?いやまあ、大体、だな」

嘘はいっていないが本当のことも行っていない。
どれだけみえるのかと言えば、鮮明にとはいい難いものである。
それでも美人といい切るのは女性はどうあれ褒めるというのが身に染み付いてるからだろうか。

「宜しく、ルビィ。…さてどうかな?俺だってそんなに後ろめたいことなんてないさ。
 強いて言うなら、そうだな。古くここに住み着いてるせいで、古い知り合いが多いので面倒事が多くなるのは確かか」

それに関しては違いないと笑い飛ばして見せながらも、
掴まれた手を軽く揺らして見せれば感じる体温に若干のいぶかしさを感じるものの顔には出さず、
そのままクイと握った手を引っ張り体を抱き込むことで顔を覗き込んでしまおうとし。

「…ま、さっきも言ったとおり遠目じゃ見えにくいから寄ってもらわないとな?
 ついでに下心も有るわけだが。この後のご予定はなにかあるのかい?」

良ければ酒でもどうだと流れるように口説いてのけるのは、
場馴れの問題だろうか。照れた様子を感じた女に対して畳み掛けるように述べ。

ルビィ・ガレット > 取っ付きにくいであろう自分の言葉に、堪えた様子がない彼。
それに小さく息を吐いた。ただ、反省も諦めもない。せいぜい心中、「路線を変えていじらないとダメか」とか。
「こいつの弱点は何だろう」とか。ロクでもないことが行き交っていて。

「……っ。この」

悪趣味について意趣返しに近い言葉を喰らって、言葉に詰まる。
道理のはずれた滅茶苦茶な理屈で言い返してもよかったが、それだと子どもっぽい。
バカっぽい。しかも知性が低い感じがする。ぐ…と張り合うのを堪えた。

「古く。住み着いて。……妙な言い方をするのね?」

一応、いぶかしむように言うのだが、実は見当は付いている。
彼はおそらく、自分と同じ人外だ。見た目にそぐわない年月を生きているのだろう。
心当たりがあるのにわざわざ指摘するのは、彼本人から彼の情報を引き出したいからだ。

「……っ。夜目、遠目、傘の内と言うものな……曖昧に見えるものを美化して、
 『美人』と言われたのだったら 私もつまらない。――それで、感想は?」

不意に手を引っ張られ、過度に近い距離。外套越しとは言え、人にしては不自然な冷気を纏っていることに気づかれるか。
突然のことに声を上げそうになって、すんでのところで堪えた。紅茶色の双眸でまっすぐ彼を見据えながら、笑みを浮かべ。
軽口を叩いてみせる。片手が自由なら、その手でフードを自ら取り払い、顔全体を彼に晒すだろう。

「お父様が心配されるから、そろそろ帰るくらいかしら。――別に無視してもいいんだけどね」

予定を問われ、相手が引き留めなさそうなことを言ってみる。……の、割に。
すぐに前言撤回に等しいことを言った。気があるんだか無いんだか、よくわからない言。

「下心って、具体的にはなーに? ……それによるかな」

白い頬を赤く染めながら、妖艶に笑う。叶うなら相手の肩に両手を添え、引き離そうと。
さすがに距離が近い。今は努めて平然、余裕のある振りをしているのだ。落ち着いて話しにくい。

カイン > 「ま、悪意の一つ二つは受け入れたほうがこの街じゃ楽しくやっていけるさ。
 このあたりはまだしも俺が普段根城にしている貧民地区のあたりだとなおのこと、な」

こともなげに行って見せながらも相手がこらえた様子にクックと思わず喉が鳴る。
そのまま、ゆっくりと目を細めながら相手を見返し。

「もちろん、多少ミステリアスなくらいが男は女にモテるんでね。
 言い回しの一つや二つ、思わせぶりじゃないとな?
 本当に長生きしてるのかどうか、なんて考えを馳せてもらえたほうが楽しいだろう」

大仰な様子で肩をすくめながら言い放つのは非常に碌でもない言葉出る。
そのまま喉を鳴らす仕草の後にゆっくりと目を細めながら、引き寄せた女の顔を改めて覗き込み。

「なるほど、やはり俺の直感は間違ってなかったな。
 美人だというのが良く分かる面立ちだ」

にんまりと笑うまま、間近で顕になった女を見返してそう告げる。
そのまま、引き続いた相手の言葉を聞けばおやと声を上げ。

「お父様とな。そりゃあ、親御さんを心配させるのは大変だ。
 が、それを承知でというのも中々燃えるものだな?」

クツクツと自然と喉がなるのを感じるままに、
頬の染まる女の様子に押し時と見たのか込められた力をねじ伏せ体を寄せ。

「もちろん、酒の酌に付き合ってもらえるならそれで良し。
 あわよくば、一晩を共に出来ればとまでは思ってるさ。
 ……どっちも無理強いするきはないけどな」

そのままそっと耳元でささやくように告げてみせる。
自分の欲帽を隠すこと無く伝え、どうするかと問いながら改めて相手の顔を覗き込み。

ルビィ・ガレット > 「その悪意って、不特定多数"の"ではなく、あなた"の"……って言う風に聞こえるんだけど? カイン」

胡乱な目線を彼に向ける。彼の住まいを知れば、「なるほど……」と言った具合に息を漏らして。
彼の言い方だと、「自分の悪意の一つや二つを受け入れたほうが――」と言う風に女は聞こえた。
曲解かも知れない。彼は何と応えるか。

「楽しいのはあなたのほうでしょう? ……私は相手の本性を炙り出すほうが好きだし、
 最初のうちはいいが、いつまでも思わせ振りだとめちゃくちゃにしたくなる。
 ――そいつの、内面を引きずり出したくなってくる」

好戦的な笑みを浮かべる。彼に喧嘩を売っている訳ではない。
これは自己開示だ。その分、彼も己を多少は晒してくれないか……と、薄い期待に基づいての。
どちらにせよ、相手の反応が見たかった。

「直感で美人判定するな。順番がおかしいだろう。――私以上に、適当なやつめ……。
 ――おい、カイン。品が無い」

調子を崩した様子でため息を吐く。呆れのほうが強くて照れることはなく。
続く彼の、背徳を好むような言葉には真顔でそう指摘した。諭すように。
……内心、ドキリとしたし、こちらとて心惹かれるものがあったのは内緒だ。

「……お前はこんな側でないと私の声が聴き取れないのか?
 ――酒はやらない主義。私は酔えないし、あれの味はよくわからない。
 一晩を共にって、今一緒に過ごしているじゃない……そろそろ離せよ」

力任せに離れるのを阻止されても、のらりくらりかわすような言は続く。
「離せよ」の「は」のあたりから急にひと際声が低くなったかと思えば、
女の力とは思えない腕力で、強引に彼の肩を掴み、お互いを引き剥がした。

リミッターを外さずとも、成人男性の2倍以上の腕力は出る。
距離を取ることが叶えば、彼を一瞥して。

カイン > 「もちろん、不特定多数のさ。ただ、この場合に関してはそれに俺が含まれてるかもな?
 ……ま、そこに関してはお互い様さ」

白々しい物言いは引き続き、そういう側面が有ると隠しもしない。
しかしながら、逆にそれを向けられても拒みしはしないということもまた隠してないのだが。

「勿論、俺が楽しいってのは否定はしかねるな。
 そいつは、何というか物好きだな?
 本性、本性なあ…それで言うならケダモノだってのは間違いないと思うが」

この状況を見れば判るだろうと抱き寄せた状況を見下ろして喉を鳴らす。
それこそ欲の赴くままの行動だと言う点に裏表はなさそうでは有るのだが。

「…なんせ、こんな時間に一人ってのも寂しかろ?」

フッと少しだけ間をおいて笑って付け足した。
そのまま、女の品のないという指摘を受ければ思わず喉が鳴る。
押しのける力に今度こそ抗うこと無く強い力がかかったのを感じれば身を引き。

「おっと。声を聴くのは近ければ近ければいいさ、それこそ睦言だったらな尚更な。
 ……ま、その力思ったとおりと言うか何というか普通の人間ってわけでもなさそうだな。俺もそうだが」

少なからず感づいていたらしい様子は感じていただけに、
あっさりと明かしてみせて腰に手を当てる。
男にしてみれば多少強引でも往なして見せたご褒美といった所かもしれない。

ルビィ・ガレット > 「私が他者に悪意を向けるのはいい。他者が私に悪意を向けるのは……それも、いい。
 ――嬲り殺す口実になるものねえ?」

お互い様と言われ、まどろっこしいのはそろそろ止めにしようかと。
喉を鳴らし、白い歯を見せて嗤った。口角の両端が持ち上がる。
人ならざる者の性分を明かして高揚する。

「貴様に言われたくない。――お前だって十分、物好きだろうが。
 ……せいぜい、知性のあるケダモノであってくれよ。バカは嫌いなんだ、私は」

尊大な口調が露骨に出る。最初のほうから無愛想だったが、あれでも多少の取り繕いはあった。
それを無くしていく。窮屈であった分、解放すれば心地よい。
散々、手持ちの宝箱の中身を相手に伏せて焦らした後、やっとその中身を見せる。

自覚したくないし、認めたくは無いが。そういうことに似ている気がした。
彼女の根は単純で、どこか人間臭い。

「寂しいなら、私みたいに人間を襲えばいいだろう。
 ……お前が私を鳴かせられると? 思い上がりもここまで来れば清々しいな。かえって気持ちがいい。
 カイン、あなたが普通の人間だったら……その首をへし折るか、頭蓋を割ってやったのに」

己が魔性の性質を示す言葉。もう遠慮はなく晒し。
尊大な言葉が続く。経験が薄い不慣れさを誤魔化すためであり、牽制のつもりでもあった。
本人を前に殺意がにじみ出る。言葉にはもうあふれ出てる。

自分の言葉に興奮したか、舌で上唇を舐め上げた。熱っぽい吐息が漏れる。
瞳が僅かに潤む。殺意を抱き、殺人を想像する。それだけで昂ぶれた。

カイン > 「はん、縊り殺すと来たか。そいつはまた碌でもないな、ヒトデナシってのはそういう事を言うんだろうさ」

クック喉を鳴らして言い返す言葉にも、
未だ楽しげな調子が消えないのは相手の様子が好ましいと思っている側面があるからだろう。
男は人と長く関わりすぎたせいか、はたまた性根でそれを嫌っているのか定かではないが、
相手を壊すという結果を求める事自体には興味が無かった。
だが、

「そりゃあ、こんな所に入り込んでまで長く長く人と生活してる身の上だからな。 
 俺はさぞ物好きなんだろう、よく言われる。…ルビィに嫌われないようには努めたいねえ?」

そうに至る過程、闘争そのものは男の好む所である。
やるならば受けて立つとばかりに軽く手を打って見せ。

「それじゃ面白くない。自分の思い通りにならない相手を口説いて、
 成功したら甘い一夜を、失敗したらみっともない自分を、どっちに転んでも酒飲み話が増えるんだ。
 その過程だって楽しまなきゃ損だろう」

結果だけ求めるのは趣味ではないのだと言い放ちながらも、
思い上がりと曰われれば自然目が細まり。

「鳴かせる手段は一つじゃないからな。
 さて、普通の人間じゃない俺相手にお前さんはどう楽しむつもりだい?」

口に出された言葉が人間相手の楽しみ方であるならば、
己相手は違うらしい。そう至極楽しげに笑うまま、
しかしその下に闘気を隠しもせずに問いを投げる。
女にとって殺しが愉悦なのと同様、男にとっては戦いこそが喜悦である。
そうであるならば、やるとなれば引く道理はどこにもない。

ルビィ・ガレット > 「人の道を踏み外す快感は人間共のほうがよく知っているだろう?
 ――私は生まれつき、人じゃないんだ。じゃあ、ヒトデナシ以前に『人であらず』なのだから。
 ……ロクでも無くないほうが不自然だろうが」

紳士的な同属を知り得ておきながらの、この発言。
言葉の最後のほう、響く低音。偽悪的だと我ながら思う。言葉にたいした意味はない。
それっぽければいい。雰囲気があればいい。それに、人間を見下すような物言いは好きだ。

「あなたはどうせ嫌われ慣れているんだろう。人からも、そうでない者からも」

高圧的な物言いから一転、声のトーンが下がって物言いも比較的穏やか、冷静なものに。
彼の性格に難があると言いたいのではない。長く生きていれば、厭われる経験も少なくなかったろうと。
それを踏まえた上での発言。……時折、律儀に真面目に突っ込むのは、自分でもよくわからない。

「享楽的なやつ。……だから魔族は嫌いなんだよ。ネジのはずれたやつが多過ぎる」

自分のことを棚に上げて、ため息混じりに。彼の言葉には小さく、やれやれ……頭を横に振った。
相手のことは否定して、自分はまとも振る。常識人振る。
そういうくだらないことが割と彼女は好きで。「魔族」という単語は想定で発した。

「どう愉しむも何も――やらん。あなたを殺す自信がない。勝つ自信もない。
 自信の多寡であまり物事を判断したくないけれど……勝算のないことはしたくない」

あっさり。両手を挙げ、白い手のひらを見せ、降参のポーズ。
殺人衝動は常にある。だから、慣れているし、衝動を抑えることだって彼女にはできて。
というか、無差別に襲い掛かる趣味も無く。

カイン > 「人間…に限らないがこの社会ってやつに最初から所属してるやつはな、
 存外そういう踏み外すってのを無意識にやるからなあ。勿体無いことに快楽などと思わんやつが多いのさ。
 外から入ってきたやつのほうがそういうのは良く分かるもんだぜ?
 ヒトってのは人間かどうかってのは実は問題じゃないのさ。
 逆に言えば踏み外せるってのはここで生活する上じゃ貴重な素養ってこったな、悪いことばかりでもないぜ」

この場合生まれも種族も大した問題ではないと言い放つ割に、
それを悪いことだとも思わないと豪語し喉を鳴らす。
たとえそれがポーズであろうとなかろうと、
楽しめるのならば愉しめばいいと言い放つさまは相手の言う通り実に大雑把で、享楽的だ。

「勿論そうだとも。好かれる方も慣れてるがな?」

ハッハッハと声を上げて笑い飛ばして見せながら、
腰に手を当てればゆるりと目を細め。

「享楽的、大いに結構じゃないか。あいにく俺は何とも関わりを持たず生きられるほど、
 孤高の存在ってわけじゃない。だからどんな形であれ刹那の逢瀬ってのは大事にするさ。
…ネジが外れてるってほどではないと思いたいがなあ」

最後のいちごだけは少しだけ困った調子が混ざる。
こればかりは、自分では判別しづらいのが困ったものである。

「……そりゃあ、残念。
 返り討ちにして組み伏せるってのもそれはそれで一興だったんだがな」

次いで、言われた言葉と態度にふっと闘気が霧散する。
そのまま二の句として放った言葉は心底残念そうで、内容が内容だけに完全にセクハラを通り越して色々とアウトである。
だがその欲望そのものに関しては既に表明してる以上隠す必要はないと言う判断のようで、

「それでルビィ、お返事はどうなんだい?」

最後の最後に一言、先程はぐらかされた酒とは別のもう一つのお誘いについて、
右手を差し出しながら蒸し返してみせるのだった。とびきり悪戯めいた笑顔とともに。

ルビィ・ガレット > 「……ふん。どうせ人が決めた規範など、元をたどれば気まぐれの産物だ。
 社会に属し、それを守ったところで自分らしく生きられないのだろう。
 ――お前さ、たまにまともなことを言うなよ。ひょっとして『賢いのでは?』と勘違いするだろう」

自分だってたまに素朴な疑問を口にしたり、常識の範囲内に収まろうとする態度もあるのに。
それを隅に置いて、隙があれば片頬を上げて笑い、彼を見下すような発言が目立つ。
挑発的なことを言って相手を刺激するのはもはや癖だが……内心、言い負かされたい気もしている。

弱みを完璧に握られるのは流石に嫌だ。
……なので、この胸の内はしまっておく。

「カインを好いたやつが気の毒だな……きっとあなたに騙されたのね」

裏表の少なそうな彼。好かれるとすれば、好いた者が彼を誤解していることも少なそうなのに。
その上でわざと、相手を悪者に仕立て上げるようなことをすらすらと言う。
なぜか辛辣な言葉、意地悪な言い回しなどはすぐ思いつきやすい。

「あなた、顔はいいけれどタイプじゃないもの。……人間じゃないし。
 いじめにくいし、殺しにくいし。豪胆なところとか、好ましくって大嫌い」

残念そうな顔をされてもどこ吹く風。比較的柔らかい、子どもみたいな口調で袖に振っていく。
最後のほうの言葉なんか、彼女がいかにひねくれていて天邪鬼なのか。
……汲み取る必要もないほど。

「……っ」

唸るように息が漏れた。心持ち、開いていた距離。つかつかと彼に歩み寄り、再度右手を握り返す。
……が、先ほどより強い握力。露になっていく本性、もとい本来の姿。

「剣を握れなくするぞ……」

底冷えするような声。それに呼応するがごとく、強い風が吹いた。
彼女の目の色は赤く染まり、髪は白に近い銀髪へ。一部が赤く発光する、異質な髪。
羞恥と怒りから喰いしばる口元からは鋭い牙が見える。

風のせいで三つ編みはほどけ、耳元が髪で隠れてわかりづらい。
ただ、ほどける瞬間、小さく尖った耳を彼は垣間見たかも知れず。

本来の姿を解いたのは、彼の手の骨を折るため。
――叶えば、粉砕したい。

カイン > 「始まれが気まぐれだろうと、ずっとやってればそれは伝統ってものになるのさ。
 虚仮の一念なんとやら、だったか。どこぞの言葉だったな、
 そうなっちまったらそこから外れるのは大変だよな。…勿論、俺は賢しいさ。
 そうでなければこの国では生きられない、とルビィも似たようなこと行ってただろう?」

クツクツと喉を鳴らして言い返すと顎に手を当てる仕草をしながら、
続いた言葉に思わず盛大に吹き出していまう。

「ハッハッハ、違いないな。騙し騙され、そうやって世界ってのは回ってくもんだ。
 何、好かれた分一夜の夢くらいは持たせた自信があるからな、それで手打ちにしてもらいたいもんだ」

その後に来る恨みつらみは慣れている、とまで付け加えるロクでなし。
ソレこそ相手に言い放ったヒトデナシという発言、実際には男にも間違いなく適用される。

「なるほど。褒められるのは悪い気はしないがね」

そう言われたら仕方がないとわざとらしく言い放ちながら、
近寄ってきた相手に手を取られた瞬間嫌な予感が溢れ出る。
握力で言えば間違いなく相手より上を出せる自負は有る。
しかしながら、それを咄嗟に行えるかどうかは完全に別の問題だ。
ドスの効いた声と共に骨の軋む音を聞き、

「……これ、は…オーケーととって、いい…かい…?」

しかしながらギリギリで手が潰れることだけは避けていた。
よく見れば、男の手と女の手のひらの間になにか黒いものが巻き付いているのが見えるだろう。
物質化した影の操作……男の持つ特異な魔法が、本当にギリギリの所で手を分解される事を防いでいた。
とはいえ、罅程度は間違いなく入っているだろうし治療するまで握力にも差し支えそうでは有るが。

「とりあえず、手を潰されると抱くのにも差し支えるんでね。
 この辺までにしといてもらえると助かるが」

冷や汗と言うよりは脂汗を後ろで書きながらも、笑顔と飄々とした態度は崩さないで口説いてみせる。
それは男なりの矜持の形では有るのだろう。女に情けないところをよほど見せたくないらしい。
最も、往々にしてそれは女性の側からすると馬鹿な真似、という誹りを受けるものだが。

ルビィ・ガレット > 「『自分は愚かだ』と言えるのは幸いだ。……無知を自覚できているのだから。
 ――だけど、あなたはそう言わないのね。でも、間違ってないだろうから否定しない」

そっけない声。少し迂遠な肯定。

彼の話には呆れたようにため息を吐くものの、真っ向から否定はしない。
色男であると同時に誠実であるのは難いことだろう。そう思うから。

「……いつまでそんな戯言を言っていられるか。見物だな」

続く彼の軽口に凄惨な笑みを浮かべる。
骨の軋む嫌な音が心地よい。本当は彼の悲鳴を聞きたい。
……なのに。彼の能力なのだろう、質量のある影に邪魔される。

「片手を壊すだけで許してやる――おい、術を解け」

嗤いながら苛立ちの混じった声。慈悲のない言葉。
ここで魅了をかければ、辛うじて彼は言いなりになるかも知れない。
だが、それはしない。自分の意思で選択させることに意味がある。

わざと力を加減しながら、相手の出方を待つ。
空いている左手を彼の肩に添え、それを軽く支えにしながら、自らの上半身を寄せる。
顔を寄せる。彼の表情を間近で見るために。

「……今の表情が一番素敵」

甘い声。恍惚とした表情が彼の目の前に。

カイン > (継続)
ご案内:「王都マグメール 平民地区/路地」からカインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/路地」からルビィ・ガレットさんが去りました。