2019/04/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にソウレンさんが現れました。
■ソウレン > ずいぶん温かくなってきたな。
カウンターに座って来客を待ちながらそんな事を思う。
今は閑古鳥で調理をしていないのでそれほど匂いは立っていない。
静かな店内で一人、ゆったりと過ごしていた。
しかし、暇は暇。
「………本でも借りてくればよかったか。」
図書館、なるものも存在するようで足を伸ばせばよかっただろうかと考える。
王都のレシピ集なぞあればそれはそれで読んでみたい。
こんな暇な時はよく野良の相手をしたりもしているが、今日はまだ見かけていない。
来れば裏の戸口で声がするのですぐにわかる。
最近はこれくらい暇な時はなかったのだが、と小さくあくびを一つ。
…つまるところ、ソウレンは実に暇な時間を過ごしていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にアルブムさんが現れました。
■アルブム > ……ガタンッ! ガッ!
突然、『幽世』の裏手にある勝手口から激しい物音が響く。何かが扉へと強く体当たりしたような衝撃音。
耳を澄ますなら、戸の外には3つの気配、3つの荒い吐息。うち2つは獣の吐息で、残る1つは……。
「……こ、来ないでくださいっ、あっち行ってください!」
残る1つは、恐怖に喘ぐ少年の吐息と悲鳴。
アルブム、またしても野良犬2匹に追い立てられ、路地を逃げ惑っていたのだ。
『幽世』の勝手口の戸を背にし、引け腰ながらも杖を前に突き出しながら、痩せた野良犬に威嚇の仕草を向ける。
野良犬達は喉を唸らせながら、アルブムから2mほどの距離をとり、こちらも威嚇。睨み合いとなっている。
「……だ、だれか助けて……《かみさま》……」
今にも泣き出しそうな声が漏れる。
■ソウレン > 「……?」
何やら裏口から激しい音。
野良猫やドアノックという感じではなかったな、と重い腰を上げる。
調理場を抜けすぐの裏口へ。
ふむ、と荒げた気配を三つ感じ取り少し思案。
が、聞こえる声は少年のもの。残り二つは獣のような吐息。
珍客だな、と考えながら裏口の傍に立つ。
ふぅっ、と満ちる気配。
温かな春の夜気、それがあからさまに冷え込んだような―――。
裏口の扉の向こうで『何か』強大な獣がいるような気配が満ちた。
普通の人なら少しおかしいと思う程度だろう。
しかしそれは自然に生きる獣達に『恐れ』を抱かせるもの。
言葉も道具もいらず、ただ扉の向こうの気配のみで飢えた痩せ犬を威圧する。
■アルブム > ぞくり。
「…………!?」
背筋にひやりとした波を感じ、アルブムの丸まった背中が束の間、ひきつったように伸びる。
飢えた痩せ犬の剥き出しの獣性とは全く異なる威圧感を、背後の家屋内から感じたのだ。
まるで風ひとつ起こさずに花を散らすような、そんな冷気。しかしそれが自分に向けられたものでないこともわかる。
直接ソウレンの威圧のオーラを受けた野良犬達は、弾かれるようにその場を飛び退き、散り散りに去っていった。
「…………な、何だったのでしょう、今のは。《かみさま》がやってくれたんですか?」
危機が去ったことに一息つきつつ、アルブムは戸の前に立ち尽くしたまま独り言をつぶやく。
その声色には声変わりの予兆すらなく、女声とほとんど区別のつかない甲高さ。
何かしら問うセリフを吐いたあと、数秒の間。ふと、アルブムは後ろを向く。
「…えっ。この家の人が、犬を追い払ってくれたんです? どうやって?」
続く独り言。アルブムは青い瞳を見開き、勝手口と思しき戸を見上げる。
この家はなんだったか。確か民家ではない。異国の食事屋だったような。
「……す、すみませんっ! あの、多分ですけど……犬、追い払ってくれたんですよね。
ありがとうございますっ! 助かりました!」
今だ恐怖の余韻で声を震わせつつも、りんと声量を張って、中にいる人物に向けた言葉が響く。
■ソウレン > 「…ふ。」
わざわざ戸の奥に向かって礼を言う言葉に少しだけ笑みを浮かべる。
礼儀正しいというか、人が良いのか。
多分男の子なのだろうが、ずいぶんと可愛らしい声だ。
こんこん、と裏口の奥から戸を叩く。
いかんせんこれは押し扉だ。戸の前に立たれては扉も開けれない。
少年が後ろに下がればかちゃりと戸を開けよう。
「…火の気配でも感じたのではないかな。
ここは料理屋だしね。怪我はないかな?」
しれっとそんな言葉を吐きながら、少年に向かって微笑みかける。
どうやったか、なんて事は言わない。
言って得になる事もなし。少年に怪我が無ければ問題あるまい。
そう思いつつ、王都でもあまり見ない服装の少年をじっと見つめる。
切れ長の瞳は鋭さこそあるものの、穏やかな印象を与えるだろう。
■アルブム > 「……あ、ご、ごめんなさいっ」
戸の向こう側に人の気配。そして中からノック音。
そこまで来てようやく、アルブムは人の家だか店だかの戸口を塞いでいたことを自覚したのだ。
追われていたとはいえ、さっきは強く戸にぶつかってしまった。さぞ迷惑だったことだろう。
路地の方へと身を引き、中から現れる人影に視線を向けると……。
「…………わぁ」
現れたのは長身の女性。異国の衣装に身を包み、どこもかしこも細っこい。
かといって折れそうなか弱さ印象はまったく感じられず、むしろ包み込まれてしまいそうな偉容すら感じる。
……白いローブに身を包んだ少年は、空色の瞳をまんまるに見開き、二回りも大きな女性をまじまじと見つめていた。
口は束の間半開きのままとなり、ほのかに頬が桃色に染まる。
「………え、あ、はい。だ、大丈夫れす。怪我、ないです。お姉さんのおかげで助かりました」
声を掛けられたあとも数呼吸は呆然としたままだったが、急に我に帰り、とりあえずの返答を返す。
「……あ、やっぱり、ここ食事屋さんだったんですね。ごめんなさい、騒がしくしちゃって。
その……お詫びになるかわかりませんが、せっかくなのでお食事、召し上がって行って良いですか?
も、もちろんお金はちゃんと払います!」
切れるように細い双眸をまっすぐに見つめながら、アルブムは時々舌をもつれさせながらも、そう言う。
すこしお腹が空いていたのもある。このまま帰ると、まだ近くにいるかもしれない犬にまた見つかるかもしれない。
そういった事情もあるが、この不思議な魅力をもつ女性のことをもっと知りたい、という欲求もあった。
■ソウレン > 少年に見上げられてもそれほど動じず。
怪我がないのを確認すればよしよしと微笑む。
照れているのか、微笑ましい様子の少年の頭に手を伸ばし、
嫌がられないならぽんぽんと軽く頭を撫でてあげよう。ちょっと子供扱いである。
「何、気にする事はないよ。私はそれほど何かしたわけでもないし、ね。」
気にする事はない。あとは気を付けて帰ればいい、と思っていたが…。
少年の提案に、ふむ、と少し思案。
まぁ、今は客もいないし構わないか、と短く考えを切る。
「あぁ、構わないよ。本来は酒を呑む所だが、今日は暇だしね。
ここは裏口だから、そこから表に回ってもらえるかな。」
建物のすぐ横の細い路地を示す。
建物脇を抜ける道を通れば、提灯の下がる表に回れるだろう。
少年が移動を始めれば、裏口をきっちりと閉める。
それから、白いたすきで着流しと半纏の袖を手早くまとめてしまう。
カウンターの向かい、調理場に立って少年を出迎えるだろう。
「いらっしゃい。」
先ほどと同じく、笑顔を浮かべて。
少年が席に着けば、清水で絞ったお絞りを出してあげる事にする。
■アルブム > 「そうなんです? お姉さんが犬を追い払ってくれたって《かみさま》が……。
……いえ、なんでもないです。と、ともかく助かりましたっ!」
料理の火を恐れたのか? ほんとうにこの女性はただの人間の女性なのか?
気になることは多くても、踏み込む勇気もなければ義理もない。言葉に詰まり気味になりつつ、ペコペコと頭を下げるアルブム。
そして、改めて表口から入るよう促されれば、「あ、そうですよね!」と照れ笑いながら小走り気味にそちらへと走る。
ここが料亭ならば、裏口は台所に繋がる場所。神聖なる台所に客がずけずけ入り込むわけにはいかない。
「……お、おじゃまします…」
暖簾をくぐり、あらためて少年が店内へと足を踏み入れる。
宿住まいのアルブム、酒呑み処での食事も日常的なコト。とはいえ、はじめてのお店はどうしても気後れする。
ましてや、『幽世』と銘されたこの店、今まで入ったどんな店とも雰囲気が違う。
別の国に来てしまったのではないかという錯覚とともに、アルブムは誘われるがままカウンターに座る。
「……ぼ、僕、アルブムっていいます。お酒は飲めませんが……好き嫌いはない方です。
で、でも……ごめんなさい、突然のことだったんで、このお店がどういう食べ物出すか、よく知らないんです。
……変な頼み方になっちゃいますが。お姉さんのオススメ、なにかお願いしていいですか?」
座ったあとも、肩は縮こまり、恐縮しきりな様子。あるいは店の雰囲気に気圧されてるのか。
冷たいおしぼりで手を拭き、そして汗がにじむ顔をぬぐう。
ふわり、と白檀の香りがアルブムと名乗る少年の方から漂う。まるで香水でも纏っているかのよう。
■ソウレン > 少年が入ってくる姿は如何にも不慣れ。
ただ、それはソウレンにとってはいつもの事。
初めてこの店に入った客の反応というのは大体は同じようなもの。
不思議そうに店内を眺め、期待と不安の混じったような顔つきになる。
おすすめを頼まれれば特に迷う事なく頷こう。
初見、一見の客はここで頼めるものがよくわからず、店主任せになる事は多い。
「構わないよ。ここは…そうだな、東国の料理と酒を楽しむ店、という所かな。」
先ほどから香る白檀の匂い。鋭敏な感覚はそれもしっかりとつかんでいる。
持っていた杖のものかな、と当たりをつける。
少し待っていてくれ、と言って食材庫と少し相談を始めた
若い少年。少し濃い目でボリュームもそこそこと言った所かな、と考える。
よし、炉に網と小鍋を用意する。
まな板の上に出したのは下ろした魚の骨など。それと、自家製の豆腐、野菜など。
小鍋で湯を沸かし、野菜をゆでる準備。その間に豆腐の水を軽く切り、魚の骨を叩いて小さくしていく。
■アルブム > 「東の国……ですか」
地図を思い浮かべる。
アルブムは《まれびとの国》と呼ばれるこの国の東の外れの辺境から、ここ中央へと旅をしてきたのだ。
確かに、その地域よりもさらに東にいくつも国家があるという話も習ったような気がする。
……とはいえ、その存在や風土というものを彼の身で実感するのはこれが初めてだ。
それだけ閉鎖的な村だったのだ、アルブムの故郷は。
杖をカウンターの縁に立てかけ、ふぅ、と一つ深い吐息。
二言三言もかわせば、さすがにアルブムの緊張も抜け始めている。
そして、カウンターの向こうでソウレンが料理の支度を始めれば、今度は背筋を伸ばし、その様子を覗き込もうと。
「……そ、その白いの、なんですか? 角砂糖……じゃないですよね。柔らかそうだし」
取り出された素材のうち、豆腐に視線が集中する。アルブムの目にしたことがない素材だ。
物珍しさに目を丸くしながら、やや声を抑え気味にしつつも質問を投げかける。
料理に集中する女性の邪魔をしちゃいけない、という意識は働きつつも、どうしても興味を抑えられない。
■ソウレン > 湯が沸けばさっと野菜をゆでる。
今が旬の菜の花を柔らかくなるくらいに。
潰した豆腐と調味料を和え、一口程度に刻んだ菜の花と和えていく。
「ん、これかい? これは豆腐という。大豆が原料なんだけどね。」
あまりこっちでは見ないかもしれないな。
そう言って、小皿に豆腐を一切れとる。
刻んだネギを添えて、軽く醤油をかけてから冷奴として少年の前に出してやる。
「少しならお腹にも溜まらないだろう。食べてみるといい。」
王都で売っているわけもなく、日持ちもしないこれはソウレンのお手製である。
柔らかな口当たりと濃い大豆の風味が楽しめる一品。前菜に、と言う客もそこそこいる。
それが終われば鍋を洗い、水と魚のアラ、臭み取りの生姜をほんの少しだけ入れ炉にかける。
同時に網も火にかけ、熱しておく。
鍋の灰汁をとりつつ、片手間に鶏肉をカットして塩を振っておく。
胡椒もあればいいが、あれは死ぬほどお高いので使えない。
少々残念に思いながら鶏肉を網の上に転がし、焼いていく。
■アルブム > 「トウフ……えぇ、大豆ぅ? とてもそうは見えませんが……」
小皿に乗る程度の直方体に切られ、冷奴として供されたそれを、アルブムはしげしげと見つめる。
四角くてプルプルとした見た目はむしろお菓子に近い気がする。
しかし、掛けられた黒い汁はカラメルではなく、塩気の強い香りを放っている。
そしてその奥からほのかに漂ってくる大豆の芳香も、アルブムの鼻は敏感に感じ取る。
「……ほんとだ。大豆っぽい……気がします。いただきます……」
箸は使えない(というかそれが食器であるという認識すらない)ので、スプーンを手に取り、そっと豆腐を掬う。
崩れやすいそれをやや苦戦しながら一口大にとり、口に運ぶ。
咀嚼しようとする前に舌と上顎の間で崩れてしまうその脆さに驚きつつも、懸命に口の中を揺蕩わせ、味を見る。
「……あ、確かに大豆ですっ! 味は薄くなってるように思いますけど、豆そのままとは全然別物ですね。
冷たくて食べやすくて、ネギとソースとの相性もいい気がしますっ!」
最初甘味を想像してただけに豆腐そのものの味の薄さには少し面食らったが、それを補う薬味との調和は良い感じ。
これが異郷の味か、と、味わいよりも物珍しさで顔がほころぶ。
「……ん、お肉も焼いてるんですね。さっきはお魚さんも細かく刻んでましたし。
いろんな食材があるんですねぇ、ここ。調理器具もいっぱいです。
ぼくの故郷も東の方だったんですが、野菜とイノシシ肉くらいしか食べ物なかったですよー……あはは」
網の上で香り立つ鶏肉の匂いをかぎながら、次の料理を心待ちにしつつ、ちびちびと豆腐をついばんでいく。
■ソウレン > 小鍋にアラから出汁が出れば火から下ろし、味噌を溶く。
店内にふわりと味噌の香りが漂う。
見れば、汁の上に魚の脂が浮いているだろう。それを椀に掬い、山から採って来た三つ葉を散らす。
頃合い良く焼けた鶏肉も火から下ろし、皿に盛りつけていく。
「まぁ、豆腐そのものの食感を嫌う人もいるのだがな。
…大体が王都で食べなれたものを欲する人だな。」
困った客もいる、という事なのだろう。
その点、少年はそのままを受け入れ、楽しんでいる。良い事だ。
「ある程度王都の人間が食べているようなものも出せるようにはしてある。
鶏を焼いたものなんかは冒険者たちには喜ばれるし。
…イノシシ、という事はどちらかというと山育ちか。
なら菜花なんかは少しはなつかしいかもしれないな。」
小皿を一枚。漬けおいてある白菜の漬物を刻み、盛る。
昆布と潮。唐辛子をほんの少しだけ入れた自家製の漬物。
最後に白飯を椀に盛り、料理を全て盆に乗せて出す。
「さぁ、できたよ。」
白飯、魚のアラ汁、鶏の塩焼き、菜の花の白和え。それをお漬物。
定食一人前だな、と軽く料理の説明も。
■アルブム > 若者が去り、老人ばかりが残った寒村。
畜産をやる地力もなく、気候の許す限りに細々と野菜を育てることで食い扶持をつないでいた。
たまにありつける動物性タンパクも、罠にかかった野の獣くらい。降りかかる火の粉を払った対価程度のものだった。
アルブムはそんな村で10年ぽっちしか暮らしてないが、その時の食生活はよく身にしみている。
……だからこそ、王都で食べることができる料理はどれもこれも珍しいものなのだ。
「はいっ。菜の花もよく食べました。苦いですけど、その苦さが好きです。
……というか最近も、王都の外を歩くときはたまに摘んで昼飯や夕飯にしてますけどね。えへへ」
クセ毛気味の髪を掻きつつ、はにかむアルブム。揺れる髪束からさらに濃くサンダルウッドの香りが立つ。
食べ慣れてるとは言ったが、この女将が菜の花をどう調理するかはわからない。
語らいながらも、なおもその視線はソウレンの手指の先から離れない。
そうして、しばらく待ちわびて。通しの冷奴はすっかり食べ尽くし、皿に残った醤油までもずずっと啜り終えた頃。
お盆に乗せられ、定食が供された。
「……わぁ! お皿がいっぱいです!
色もいっぱい。野菜もお魚もお肉も、熱いのも冷たいのもあります!
……えへへっ。ぼく、自分の目の前にこんないっぱいの皿が並ぶの、はじめて見ました!」
1皿1皿の量は(普段他の店で食べる一品料理と比べれば)少ないものの、あまりにも種類が多い。
そのカラフルさに、アルブムは目をきらきらと輝かせ、華やいだように口を大きく開いて感嘆する。
そして一品一品を説明するソウレンの仕草には、彼女の口元と手元の皿とをせわしなく見比べ、その度に「へぇ~」と唸る。
「菜の花、これもさっきのトウフが混ざってるんですね。
このお汁は……ミソ……はじめて聞くソースの名前です。
……わぁ、食べたこと無い料理ばかりです。東の国の料理ってすごい種類多いですね!」
その物量に、もしや請求が高くつくのでは?と一抹の不安もよぎるが……それよりも食欲と味への興味が勝る。
とっかえひっかえ、皿を持ち替えながら、次々にと口に運んでいく。
「んふふっ、おいひっ、おいひいれすっ♪
こんなたくさんの料理をひとりで作っちゃうなんて、お姉さんってすご………ん?
ゴクッ……。そういえば、このお店って……ひとりだけでやってるんです?」
ふと、周囲の静けさが気になり、きょろきょろと視線を流す。眼の前の女将の他に店員の気配はなさそうだが…?