2019/02/20 のログ
■エア > 「わは。よかった。人おったー」
ぱーっと八重歯の見える明るい笑顔。
いや、普通戸があくのなら人はいるはずで居ないとヤバイ事態なのだが。
「うんっ。お仕事の帰りなんよ。これくらいの時間も珍しないよ?」
夜会やなんやらの歌い手と情報の運び手をしていると
これくらいの時間になることは多い。
主催者の気前が良ければそのまま寝室を用意してもらえるが、今回はそうではなかった。
自分を見下ろす背の高いお姉さんを見上げる。
赤と青がぱちっと対比的な感じだ。
「えー。知ってるんですよー?お酒と一緒に出るご飯って美味しいんでしょー」
大人ずるいっ。なんていいながら、どうにも此処に入りたい様子。
赤の短いポニテが何故かしっぽのように左右に揺れる。何故だ。
■ソウレン > 聞き覚えのある喋り方だな、と思う。
王都にもこういう口調が増えているのか。
「……まぁ、構わないよ。食事くらいは出せる。」
入っておいで、と店の中に招き入れるように。
子供の仕事を否定するつもりはない。
稼がないといけない子は王都では珍しくもないからだ。
まるで子犬だな、と思いながら調理場へ。
「カウンターへ座るといい。…何か食べたい物はあるかな?」
お任せでも構わないよ、と言いながら白い紐を取り出す。
半纏ごとたすき掛けにして袖をまとめながら、さてどうするかな、と食材とにらめっこ。
■エア > 「わ。やったー。お邪魔しますっ」
懐事情に関してはだいぶ裕福な家ではある。
情報を扱うという性質上、長く扱っている信頼が必要となる。
どちらにとってもだ。
両親が老境にかかっているため、少し早い代替わり。
だけどそれより歌うほうが好きな子犬がこれなのである。
「はいっ。 んー。うーん。……。東の国のお料理どれもおいしいし……
おまかせでおねがいしますっ」
好き嫌いはなく、なんでも食べる。
遅くに押しかけてしまったのもあるし、細かい指定はなしでいこう、という子供なりの気遣いであった。
■ソウレン > 「ほう、東の料理を知っているのか。」
それは珍しいな、と感じた。
東の料理を楽しむのは概ね旅好きな商人や、傭兵。
あとは出身が東の国か、物好きな食通の貴族くらいだと思っていたからだ。
感心感心、というわけではないが、それならば、と魚を用意しよう。
さすがに酒は飲まないだろう。と思いお茶を沸かしておく。
炉に小鍋を用意し、湯を沸かす。材料を入れ、軽く煮て出汁をとる。
その間に柵取りした魚を用意し、炭火で軽く炙る…。
慣れた手際で調理をする傍ら、湯呑を用意してお茶を淹れる。
「今日は寒くはなかったかな?」
そう言いながら、湯気のたつ湯呑を出してやる。
中身は緑茶。
渋み、苦みの少ない茶葉をチョイスしておいた。
話ながらも、手は止めないだろう。
■エア > 「はいっ。なんか、じんわーりする味が好きです」
王族の開く夜会にはそういうものも出る。こういう街の料理人からレシピでも買っているのだろうか。
見つけたら歌えなくなる寸前までパクパク食べる。
まあ、その「歌えなくなる」のラインが厳しいため
そのあとに冷めた料理、冷めても大丈夫な料理しか食べられないのだが。
料理をする手付きは、いつ誰のものを見ても楽しい。
自分には出来ないし、とてもきれいだ。
じいっと見入る。やはりお店をしている人は流れるようできれいだ。
「んー、そうですねー。ココ最近ちょっとさむいかも……
あ。ありがとです」
子供は風の子、なんていうが寒いものは寒く。
湯呑をうけとると、こちらのものではない茶葉の香りが芳しい。
「お姉さんも寒くないですか?その東の服、あんまり分厚くないやつですし
寒いの強い?」
■ソウレン > じんわりする味。と少し考える。
…薄味? というよりは一口目より二口目、という味の事だろうか。
子供にしては難儀な注文をする、と思った。
ただまぁ、今の時間・ストックではそこまで凝ったものも作れないかもしれない。
「あまり期待をしすぎないようにな。」
和えておいた野菜を小鉢に盛りつけ、さく、さくと漬物を切る。
出汁のとれた小鍋に味噌を溶けば、店内にふんわりと香りが広がっていく。
「私は寒さには強い方だよ。
まぁ、あまり冷やして風邪などひかないようにな。」
なんだかんだで子供には穏やかな口調なのである。
長細い包丁で、炙った魚を切って角皿に盛りつけていき…。
最後に、湯気の立つ白飯を椀に盛る。
「お待ちどうさま。」
盆に全てを乗せて、少年の前に。
魚のアラ汁、菊菜と人参の白和え。
アイナメのタタキと、沢庵漬け…定食一人前、という感じだ。
■エア > じんわりする味。香味野菜などから作ったソースでも、果実のソースでもない。
肉を煮たものでもない。砂糖や香辛料でもない。
そう。出汁の味。どこかほっとするその味が、じんわりとして、好きなのだ。
だし、というものをこの子供は知らないが。
「はあい。でもします」
あったかいお茶をすする。香ばしくて、甘い。おいしい。
ああ、料理のこの香り。この香りがすきなんだ。
たまたま此処を通ってよかったなあ。
「ふむむー。ならええんですけど……。
はーい。風邪ひいたら寝てるのひまですし」
女性は冷えるとどうのこうの、母がいっていたようなきがするが
まあ個人差なのだろう。あんまり踏み入るのも悪い。
料理が出来ていくのを見るのが、嬉しい。
「わっ。ありがとーございますっ」
目をきらきらと輝かせて料理を見る。
本当に、この国の食堂では見れないものだし、魚のなかを生にしているから
きっとちゃんとした東の料理。
一度、由緒ある料理人の披露した生魚が夜会でだされたが
すぐになくなってしまって食べられなかった思い出がある。
「わ、わ。えー香り……これです。じんわりするのっ
えへへー。ほんなら、いただきます、です」
笑顔満面で、ぺこ、と頭を下げるように。
■ソウレン > 期待をするなというのに全く困った子だ、と若干の苦笑。
調理を終えて、自分の分の湯呑に残った茶を注ぎながら少年の食べる姿を眺めるだろう。
「大人の心配なんてするものではないよ。
特に、子供のうちはね。」
子供のうちは自分の楽しみを優先するべき、とは思う。
ま、説教臭いのはこの辺にしておこう、と湯呑に口を付けた。
「味噌汁は骨に気を付けてな。タタキ…その魚はタレで食べるといい。
あとはごはんが欲しければサービスしてあげよう。」
湯呑を置けば、ゆっくりとした様子で調理に使った道具を洗い始める。
特に包丁は念入りに。
その間も、少年の食べる様子を時折眺めている。
■エア > 「むー。でも気になってまうんです
……うん。そういうてくれるんなら」
この国の人間らしい、あまり熟練はしていない箸の握り。
それでも食べすすめるには十分で。
まずいちばんに味噌汁に口をつけて。
「ほあ~……。じんわりする~……」
大好きな味もそうだが、体が芯からあたたまる。おいしい。
たしかに魚の骨がつんつんしている。
ふむふむタレで。そう魚をひときれつまんで。
ああ。魚が甘い。タレもおいしい。
そんなかんじで、ずっとずっと笑顔。
「んー、こんなにおいしいと、やっぱりごはんがほしいですっ
おねがいしますっ」
どれもこれも、普段は食べないし美味しい。
食事は楽しくて幸せじゃないとと思うので、満たされる。
■ソウレン > 不慣れな手つきも見慣れたものだ。
あまり苦手なようならフォークなどを用意しようかと思ったが、不要なようだ。
それだけでも、珍しい、と言えるだろう。
「ふふ。冬の間はそういう汁物は美味しく感じるものだね。」
自分も好きだな、と笑う。
冬は魚があまり獲れないが、味は良いものが多い。
骨や頭もこうして出汁をとってやれば立派な食材になりうる。
少年の要求に応えて、椀に白いご飯を盛ってやる。
少し大盛。食べ盛りならしっかりと食べてもらうとする。
「ほら、お待たせ。」
嬉しそうな様子。
そんな様子を見るのは別に少年が初めてというわけではないが、
それでも美味しく食べてもらえるのは嬉しいものなのだ。
■エア > 本場の人に不慣れを見られるのは少し恥ずかしいけれど
それはまあ仕方ない仕方ないと開き直ってみる。
「うん……このスープむっちゃすき……やわらかーい……」
本当にこのときが好き。味も温度も優しいから。
魚のスープはあるにはあるけれど、こういう味にはならない印象が強い。
やっぱりこの黄色いものが決めてなのだろうか。なんて考えながら、考えが幸せでまとまらない。
「わ。まっしろごはんー。ありがとうございますっ」
お椀にこんもりともられたご飯。
知ってる知ってる。この大根のピクルスがあう。
「~~~~~♪」
なんかもう顔全体から♪や♡をちらして、口いっぱいに頬張ってたべる。
育ち盛りの子供満点というかんじ。
それにしてはチビなのだが、見た目よりずっと食べる方だ。
「はー……この白いのも好き。むっちゃおいしい……♡」
■ソウレン > 味噌汁に浮かぶ骨や、カマについた身が脂と共にとろりと崩れる。
アラ汁の旨さ、というやつだろう。
変に嫌う人でなければ美味いと言わせる自信はある。
…まぁ、手軽な料理ではあるのだが。
「よく食べるね。良い事だ。」
きっとそのうち背も伸びるな、と笑いかける。
ずず、と甘めの緑茶を啜れば、ほう、と息を吐いた。
…うむ、どうも今日はこの子で最後の来客かな、と考える。
「慌てて食べて詰まらせないようにね。」
そう言いながら調理場を出る。
引き戸を開ければ、暖簾だけを店内に仕舞ってしまう。
店じまいに早いという事もないだろう。
少年にはゆっくり食べていって構わない、とだけ告げておく。
■エア > 別にマグメールの料理が嫌いというわけではないのだが……
東の味のほうが自分は大好きすぎる。
詳しく知らないけれど、食べたもの全部がすごく合う。
「えへへ。いっぱいたべな大っきくなれへんし。伸びたらええのになあーー」
本当に、チビ助にもほどがあるので早く冒険者の酒場に居るような、オーガみたいなおじさんのように大きくなりたい。
ごめんなさい言い過ぎました。お姉さんよりちょっと大きいくらいでいいです。
「はあい。いっぱいかみますっ」
お姉さんは店じまいの準備。でもゆっくりしていいって。
自分が最後の一人。なんだか贅沢な気分。
ごはん、スープ、お魚、お野菜。どれもが美味しいから、今度お料理の歌でもつくってしまおうか。
戸の外で暖簾をしまうお姉さんの音。空間に二人いたから
一人になると一気に寂しいのは、ううん、自分の性格があまえたなのか。
■ソウレン > 暖簾を仕舞えば戻ってきて、また調理場の中へ。
隅にある椅子を引き出して、それに腰掛ければまたお茶を一口。
「なれるだろう。食事と一緒で、慌てない事だな。」
案外時間をかけたほうが伸びるかもしれない。
食事もバランスよくとれるかもしれないのだし。
早々に伸びてしまう子もいるにはいるのだが。
「好き嫌いもないようだしね。
気に入ったのならまたおいで。代金はいただくけれどね。」
どれを食べても笑顔を零す少年を微笑ましそうに見ながら、
のんびりと仕事終わりの時間を満喫する。
余ったものは後で晩酌のあてにでもするか…そんな事を考えながら。
■エア > お姉さんが帰ってくると、どこかほっとして。
うーむ。10も過ぎたのになあ……?
「おおー……。じゃあ、うん。じっくり。じっくり……」
年齢的にまだまだ子供ではあるのだけれど、やっぱり周囲はうらやましい。
背の高い子は大人くらいあるし。
慌てないで……たくさん食べて。あとは、お祈りとかは全然だ。
「好き嫌い。んー、ここなら多分大丈夫です
はい!また絶対きます! お代はちゃーんと、お仕事してますしっ」
ちょっと胸を張ってほこらしげ。
食べる白米も、お魚も、スープも少なくなってきて。
お腹もずっしり満足感を得てきて。
このお店での楽しい時間も、今夜はきっとここまでなのだろう。
だから。
「え。ええっと、お姉さん」
■ソウレン > 腰掛けたまま、洗い終えた器具の水気を布で拭きとっていく。
きゅっこ、きゅっこ、と心地よい音。
「そうそう。じっくりだ。
誰でも伸びる時があるのだからね。」
しゅうっと包丁の水気をとる。
切れ味の良い鋼の品物は、手入れを怠ってはすぐにさびてしまう。
一つ一つの道具を大事にするように手入れをしていくだろう。
「私もこれが仕事だからね。
ふふ、そうか。じゃあ、しっかり働かないとね。
美味しいごはんにありつくためにも。」
と、呼ばれて顔を上げる。
なんだい?という風な優しい目で少年を見ているが…?
■エア > 洗い物の音。
家みたいな音。
落ち着く音。
「うん。僕はまだ、なんかな。その時まで、いっぱいたべる」
家庭以上にそれは、仕事道具のお手入れ。自分も竪琴の手入れは丁寧にする。
だからその様がよくわかる。
「はいっ。いっぱい来て、いっぱい食べます!
美味しいご飯は幸せです」
優しい目。切れ長の穏やかな目から、優しさを受けて
なんだかドキドキしてしまう、けど
「あの。……お名前、なんですか?
僕は。僕は、エアっていいます」
ちょっとドキドキで胸をつまらせながら。
名前が知りたい。 知りたい。と。
■ソウレン > 食事もそろそろお終い。
少年のお腹もだいぶ落ち着いた様子である。
「次に来た時はまた違うメニューを用意できるといいな。」
今日出していないものといえば、煮物とか。
まぁ何かしら考えておくか、と内心で思い。
「ん?名前?…私はソウレンという。
エア君だね。覚えておくよ。」
記憶力はいい。
その辺はまたちょっと、人、とは違うのだ。
それは口には出さなかったけれど。
さて、という様子で代金を告げる。
一人前の定食だが、王都の平均よりは少し安いくらい。
酒場というくくりであればリーズナブルに感じるかもしれない。
■エア > 「わ。違うのが食べられると嬉しいなあ……」
でもそればっかりは仕入れが関係するのだろうし
またこのメニューでもすっごく美味しいのだし。
「ソウレン……ソウレンさん……」
何度か反芻する。仕事柄覚えがよくなくてはつとまらないが
忘れないように。
「はい。覚えててくれると、嬉しいです」
笑顔を向ける。
そして、お財布から硬貨を何枚か。
あんなに美味しいのに安い……。
これは通わない理由がなくなった。
「ごちそうさまでした、ソウレンさんっ」
■ソウレン > 少年から硬貨を受け取る。
確かに、という風に受け取れば袖の中にしまい込み。
きちんとごちそうさまという少年に笑顔を向ける。
「お粗末様。満足してもらえたようで何よりだよ。」
それから、少年を見送る為に調理場から出てくる。
引き戸の外はまだ冷えていそうだ。
まぁ、食事をしたのだから身体は温まってくるだろう。
少年が戸の傍に来るのを待って、引き戸を開けるだろう。
「ありがとう。またのお越しを。」
そういうのは定番の見送りの言葉だ。
■エア > 「もー、すごい満足ですっ。美味しかったー……」
もう夜も更けている。外は多分寒いだろう。
けど、お腹の中から温かいから、たぶん平気。
戸の側へと歩いていくと、引き戸を開けてもらって。
「はいっ!また来ますね!」
笑顔で見上げて。
美味しくて幸せな時間だったから
笑顔のまま小さく手を振って、店の外へ。
夜空が見える。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からソウレンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にカインさんが現れました。
■カイン > 人気のない路地を一人の男がゆっくりとした足取りで歩く。
通りをまたいだ先は繁華街なのか、この遅い時間帯でも囁かな喧騒を運んでくるものの、
他に響く物と言えば男の足音くらいの静かな空間である。
「…何かこれはこれで落ち着かないな。
貧民地区のあの路地の危険地帯具合のほうがおかしいのは判るんだが」
いつも何処かに誰かが潜んでいる気配のする貧民地区とは異なり、
比較的治安がいいからだろうかいつもの癖で路地の気配を探ろうとしても、
空振りに終わることばかりで逆に何処か落ち着かない様子。
自然とその考えが口から滑り落ちて苦笑いに変わり。
■カイン > 「仕事上がりに普段行かない場所を通るかと言う欲何か出すもんじゃなかったかね。
貧民地区と違って歩き回っていれば何処かに突き当たる筈だが」
仕事終わりに興が乗り、普段とは違う道筋で根城を目指す散歩の最中である。
半ば迷子のようなものだが、貧民地区での迷子とは異なり区画の整理された平民地区なら迷った所でそう困りはしない。
一度足を止めて自分の歩いてきた繁華街の方へと視線を向け。
「最悪回り回ってあっちに戻ったら、普段どおりの道筋で帰るとするかね」
そこまで自分に方向感覚がないとは思いたくないがと独りごちて肩をすくめる。
■カイン > 「ま、たまには少し遠回りになるのは悪くはないか」
そう急ぐような話でもないと気を取り直すように漏らして、
繁華街とは逆の方へとゆっくりと歩いていくのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からカインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にモカさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
■モカ > 平民地区にある市場、そこは活気に満ちる生活圏の中枢の一つだろう。
この市場は特に冒険者や戦場へ向かうものへの商品を取り扱う者が多く、駆け出しの鍛冶屋が安い剣を売っているのもあれば、行商人が世界から取り寄せた名品を扱っている事もある。
そんな中、雑踏に紛れるようにちょこんと座り、自身も店を開いていた。
手縫いの大きな敷物を広げ、そこに女の子座りで腰を下ろしながら、手前に並べたのは魔剣。
薄っすらと青い光沢の波を打つレイピア、見たところ普通のショートソードの様に見える剣を二振りを1セット、もう1つは刃から根が生えたように柄が絡みつく、無骨なバトルアックス。
見るからに妙な武器を並べているが、値段は書かれていない。
代わりに、欲しい方はお声掛けくださいという立て看板が置かれてある。
「……」
そして、売り主の当人は何をしているかと言えば、編み物をしている。
傍らに転がる毛糸の塊を、野良猫がいたずらに前足でパンチするのも気にせず、ぼんやりとした表情のまま指先だけを細かに動かす。
時折手を止めては、出来具合を確かめつつ編み続けるのは、小豆色の手袋。
ところどころ毛糸を変えているのか、手の甲の辺りに白いひし形模様が入っていたりと、手の込んだものを作っていた。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 王都の市場と言えば、国内外を問わず様々な商品が集まる場所として名を馳せている地区。王国そのものは既に斜陽といえども、未だ此の場所の朗らかな熱気は衰えてはいないだろう。
そんな市場に似つかわしくない、豪奢な身形の少年が、高価そうな衣服を纏った商人と共に市場を歩いていた。
出店を眺め、時折商人と話し込み、やがて話がついたのか商人と別れて市場の散策を開始する。
生鮮品を取り扱う市場から、冒険者や傭兵の姿が目立つ地区へと足を踏み入れた時、何気なく眺めた雑踏の中に見知った顔を視界に捉えるだろう。
「……相変わらず、王都の商人共が舌打ちしそうな物を売るのだな。値段すら書かれていないが、私がくれと言えば譲ってくれるのか?」
編み物に集中する少女を見下ろし、並べられている武具を眺めながら声をかける。
並べられている商品の出来栄えに感心しながら、相変わらずの高慢な口調と共に首を傾げているだろう。
■モカ > 頭上から降り注ぐ声に、毛糸にじゃれていた猫がピャッと駆け出し、路地裏へと消えていく。
その瞬間、後ろ姿を見送りつつ 猫… と寂しそうに呟いた辺り、じゃれている様子に和んでいたのかもしれない。
そして、そんな猫の様子の後に、彼へと顔を上げれば、相変わらず表情の変化の薄めな顔がじっと彼を見つめていく。
「別に……沢山売ってないし。売るかは、その子達次第だけど……」
魔剣といえど、精霊や霊魂を宿した依り代でもある。
そのまま視線を武器の方へと落としていけば、自身にだけ見える世界の景色で、武器達の答えを確かめていく。
レイピアは、彼に揺蕩う水面の如き穏やかさと共に、冷静さを見出すなら受け入れる。
剣は、自由奔放であり、独創性と共に楽観的である主を求めて刃に宿った双子。
そして斧は、質実剛健に自身の研磨に励み、努力と忍耐の末に戦士としての心身を持つ者を探す。
元々知っているご要望と重ねるなら、彼とはそう噛み合うタイプではないだろうと思いながらも、ちゃんと確かめている辺りは真面目なのかもしれない。
「それと……そんなに上から目線な言葉だと、嫌われるよ? 根はいい人なのに」
高慢な言いようも、本当に中身の性根まで腐った悪人でないことを知っているが故に、少し噛み合わない印象を覚えていた。
わずかに眉を顰めて、苦笑いを浮かべながらクスッと可笑しそうに笑う。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 路地裏へと消えていく猫を自然と目で追い掛けていれば、残念そうに呟く少女の声が耳を打つ。
突然声をかけて悪い事をしてしまったかな、と考えて居るうちに、紫色の瞳が此方を見上げていた。
「一本一本が、金貨の山になりそうな物を並べておいて良くもまあ。しかし、私の様な者に付き従う武具など早々あるまいよ」
控えめな言葉で告げる少女には、呆れた様な笑みを一つ。
本来であれば、大通りの高級武具店に置いていてもおかしくはない魔剣が"欲しい方は御声掛けください"と無造作に並べラテいるのだから、欲の皮が張った同業者程気が気では無いだろう。
とはいえ、真面目に魔剣へと何かを訪ねたらしい少女の姿には、苦笑いと共に小さく肩を竦めてみせる。己の様な人間に、精霊の類が好意的な答えを返すとは露程も思っていない――のだが。
「…根はいい人、というのはどういう意味だ。こんな性悪貴族を現わすには随分と牧歌的な言葉だが」
思わず肩の力が抜けそうになるのを感じながら、怪訝そうな瞳で少女を見下ろす。自分の様な男を良い人等と判断するのは些か無警戒過ぎないかと思って居たり。
■モカ > 人の世に疎いのもあってか、大金になると言われても少々キョトンとしていた。
だが、直ぐに困ったような苦笑いを浮かべていけば、緩く頭を振っていく。
「そうでもないよ? この子達は誰でもいいわけじゃないから。酷いと、気に入らない相手を殺しちゃう魔剣だってあるし」
今日の魔剣はそこまで危ない子はいないが、それでも意志の主張ははっきりしている。
彼の様子を確かめた剣達は、一様に彼に好意は示さなかったが、敵意も見せない。
適正があまり高くないと見れば、駄目みたいと呟きながら彼へと視線を戻してクスッと苦笑いを浮かべていく。
「……今、私がこうしてここに居る。あの日、ギュンターは……私を攫うことも、壊すことも、閉じ込めることもできたのに」
宿屋で肌を重ね、彼の精を胎内に受け止めた夜の一幕を思い出しながら、紫色をゆっくりと閉ざした。
疲れ果てて、眠りこけて、翌朝になっても身体は無事だったのは、彼が悪さをしなかったからだ。
本当の悪党なら、今頃意志を操られて、魔剣を生み出す機械に変えられていたかもしれない。
だから、悪い人ではない。
嫌なことはしなかったから、いい人なのだと思う。
少し、あの夜のことを思い出したせいで頬が赤らむと、再び開いた紫玉は恥じらいながら、彼をのぞき見て、不格好な笑みになってしまった。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…振るうべき剣に殺されるというのはぞっとしない話だな。とはいえ、私とて剣を振るう事に憧れが無い訳でも無いのだが」
彼女に釣られる様に苦笑いを零しつつ、魔剣を眺めながら呟く。
やはり自分には魔剣よりも量産された武具が似合いかと内心溜息を零しつつ――
「……フン。随分とお人好しな事だ。貴様には、こうして自由に良質な魔剣を造らせた方が良いと判断したまで。それ以上でも、それ以下でもない」
幾分言葉に悩んだ後、ぶっきらぼうな口調と共に言葉を返す。
それは普段の高慢な態度とは違い、若干戸惑った様な年相応の態度でもあるだろう。
僅かに頬を赤らめて此方を見上げる少女の笑みをむぅ、と短く唸って見返した後、いきなり少女の横に腰を下ろした。
「……そんな顔で此方を見上げるな。もう少し警戒心を持て」
見上げられる事に耐えられなくなったのか、少女の横に腰掛け、視界を僅かに逸らせて小さく呟くだろう。
■モカ > 「でしょ? だから、誰でもいいわけじゃないの」
そんな欠陥を抱えた武器を、大金に出来るかと言えば難しいだろう。
だから困ったように笑っているわけだが、何処と無く、彼の言葉に一抹の寂しさというべきか、憧憬を感じ取れば一瞬唇が開きかけた。
――それなら、ギュンターを受け入れる魔剣を探してあげる。
その言葉を言わず、飲み込んでしまったのは、それが自分にとって最大の秘密だから。
一瞬、バツが悪そうに視線を反らしたのは、その為だった。
「……でも、それでギュンターにいいことがあるの?」
悩んだ末の言葉が、何処と無くズレているのに気づくと、ぱちぱちと瞳を瞬かせた後、こてりと小首をかしげていく。
自分は魔剣を売って、少しだけお金を稼ぎつつ、冒険心を満たしたい彼らを送り出せる一石二鳥の状態。
だが、それが彼に利益を齎すとはどうにも思えなく、理由を求めるように視線はさらに集中した。
「……誰にでも、こんなに仲良くしないよ。ギュンターも、一緒でしょ? 私には良い人」
視線を反らしながら隣に座る様子に、クスッと微笑みながら手にしたままだった編み物を鞄へしまう。
良い人と呼ばれるのに慣れないのか、抵抗があるのか。
そこは分からないが、自分にだけは少なからずそうだろうと思うと、少しだけ肩を寄せる。
さらりと銀糸が彼の肩をなでて、僅かにカカオの様な甘い香りが零れ落ちていく。
隣に座る、自分より少しだけ大きな彼を見上げながら穏やかな笑みが浮かび上がる。