2018/12/17 のログ
ご案内:「平民地区 市場通り」にレオンハルトさんが現れました。
レオンハルト > 東の空が群青の色彩を蒼へと変じ始めた冬の早朝。市場通りの平民達が忙しなく働き始めた傍らを、吐き出す白息を棚引かせて歩く長身の青年。ジュストコールの襟元を飾る毛皮や腰に佩いた長剣こそ羽振りの良い冒険者といった風情なれど、冬風に戯れる金髪の色艶や、切れ長の碧眼が作る品の良さは育ちの良さを滲ませる。身につけた着衣は飾り刺繍も上等な仕立てで、貧民地区から然程の距離も無いこの場所においては些か浮いて見えるだろう。青年の長脚が歩みの度に奏でる拍車の涼音が、それを益々助長していた。

「人肌に暖められたベッドから抜けるのは些かきついが、この身を切る寒さは悪くない。私の放蕩ぶりもいくらか引き締まろうと言うものだ。」

などと嘯くも、小走りに往来を行き交う労働者を見つめながらの散歩と洒落込むこの男、つい先程まで名も知らぬ娘と一夜の火遊びを終えたばかりの朝帰り。すれ違う相手の鼻孔を擽る仄かな香りの甘やかさからもそれが伺える事だろう。

ご案内:「平民地区 市場通り」にルーシディータさんが現れました。
ルーシディータ > ──時折、竪琴の調べを響かせる機会とともに、僅かばかりの報酬をいただき、酒場にて演奏を終えての帰り道。
いつもよりも、少しばかり遅くなったどころか、朝の帰還となれば家に様々な心配や疑念をかけられる可能性はあったものの、喉のざらつきを感じられるほどには、歌の機会を得られたことはなによりもありがたく。
朝靄の中に白い息を混じらせながら、少しばかり機嫌よさげに大切そうに竪琴を抱いて石畳を歩む少女の姿。
自然と、報酬にならぬ鼻歌も混じり。余韻に帰宅の脚を速める気にもなれず、ゆっくりとした足取りにて市場通りを往きがかる。

ふと。
耳に混じる朝の賑わいとは別の金属音に、自然と視線が引き寄せられた。

「──………ぁ」

目に留まったのは、雑多な人々の行きかう市場という場所とはいえ、この朝の時刻にはいささか不似合いにも思える貴族然とした姿の青年。
視線を長く止めるのも失礼かと、目線にて会釈を送り──

レオンハルト > 早朝の喧騒の中、小鳥の囀りに混じって聞こえる微かな歌声。長脚の歩みを止めて、音の出処を探ろうかと双眸を閉ざした所で小さな声音と引き換えに止まる鼻歌。次いで感じる視線に閉ざした目蓋を持ち上げた青年の碧眼が、こちらを見上げる小柄な少女の姿を目に留めた。白い肌に白い髪。その中にあってぱっちりと開いた瞳の薄紫がアメジストめいて色鮮やかに印象に残る。そんな瞳を伏せるかの目礼に対する青年貴族は、横に一歩長駆をずらすという返しを見せる。少女に対して道を譲ったのではなく、逆に彼女の行き先を塞ぐ形で長駆を割り込ませたのである。

「おはよう、レディ。先程の鼻歌は君の囀りかな?」

軽く傾げた小首が金の艶髪を揺らしながら問いかける。細身に見えて存外に広い肩幅と長い手足は、柔和な表情とは裏腹に小柄な少女には少しばかり威圧的に見えるかも知れない。それもそのはず、そこは既に青年貴族の刃圏の中。涼やかなれど、獲物を品定めする双眸の気配に気付いて逃げ出そうとしても、彼の長い手足は優雅な所作を崩さぬままに少女の肢体を捉える事だろう。

ルーシディータ > 己の視線に気づかれたのか、耳についていた拍車の音色が途絶えた。
青年との重なる視線に、一瞬、戸惑い。 目礼は返したものの、気づけば家路への道を、僅かに塞がれるよう滑らかな移動に阻まれ、自然と歩みは止まった。
結果、真正面から相貌に出くわし──人波の中に垣間見ていた時には気づかなかったその造作に、高貴な人かもしれないと思えば、自然と視線を俯かせる。

「……ぁ。…申し訳、ありません。お耳汚しで、御座いましたか…? 金の髪の御方…」

名も知らぬ男性、とはいえ上流の人物であれば、直接名を尋ねることも憚られるがゆえに、形容と敬称にて目の前の青年へと、まずは口にするのは謝罪。それも、上流階級の御方へと、接するための礼儀として刻み込まれていた所以だろうか。
おず…と上げる黄昏色の瞳、その小さな姿ではどうしても見上げる形になり、それが余計に注がれる双眸の色合いに圧を感じ、僅か、尻込みをするように一歩、下がりかけた。
まるで、その青玉の瞳が、己を品定めしているかのように思える色合い──おそらく、自意識過剰だと、そう己に言い聞かせ、失礼にも逃げ出したくなる本能をねじ伏せた。

レオンハルト > 子供にしか見えぬ華奢な小躯は、しかしはっきりと女を主張する膨らみを有している。過剰に男を誘いはせずとも、子を孕むのに十分な生育。一見して欠点の見つからぬ整った顔立ちは、白髪の隙間から覗く耳先の尖りを見て納得に変わる。王都においてもそれほど見かけることのないエルフ。それに比べてコンパクトな形状の尖耳は、彼女が妖精族の血を半分受け継ぐハーフなのだと示していた。数刻前まで他の娘と情熱的に交わって、軽い眠りを終えて彼女のベッドを抜け出したばかりだと言うのに、我ながら節操の無い事だと軽く呆れる。とは言え、出会いという物は一度機を逃したが最後、あっさり幕を閉ざして二度目は無い等という事も多い淡白な代物である。などと心の中で言葉を飾るも、結局の所は『肉料理の後の口直しに果物を』といった感覚だった。

「あぁ、すまない。怯えさせてしまったね。耳汚しどころか、実に心地よい歌声だった。うん、喋る声音も可愛らしいね。 ……ただ――――」

後ずさる少女の控えめな所作に比べ、こちらは長脚のストロークを十全に活かした大胆な一歩を踏み出し距離を狭め、ス…と持ち上げた白腕が細い喉首に絡みつく。少女に比べて二回りは大きかろうという手が、長い指先を持って細首を絞めるかの動き。しかし、軽い接触は繊細に見えても無骨に膨らむ剣ダコの存在と青年貴族の体温を首筋に伝えるばかりで圧迫の気配は見せない。そのまま長駆の腰を折り、口付けでも交わすように寄せた顔が、耳孔を擽るテノールボイスで囁いた。

「――――少し掠れているね。若干の疲れも見える。」

言葉に合わせて少女の喉を労る様に絡めた指を動かせば、さり気なさを装って擽る性感帯が彼女の背筋に妖しい愉悦を送り込む。

ルーシディータ > 石畳にて立ち竦む姿は、どこか頼りなげで戸惑う様子を隠しきれず。見上げる長躯に朝陽を遮られ影を落とされるよう。
注がれる視線に怯み、この場を去るための建前を口にしようとするのだが、すぐには思いつかないほどには正直者であったか。
それでも。貴族然とはしていても、貴公子めいた上品な姿は、そうそう乱暴や無体を働くような雰囲気には思えず、まだまだ世間に疎い楽師は逃げ出す切欠に迷うことになってしまうのだ。

「──……ぁ。 ありがとう、御座います…。 お褒めの言葉、恐縮に…」

歌を褒められれば、自然と唇も笑みの形に緩む。
その瞬間に、踏み出された一歩によって、先ほどとった距離をそれ以上に詰められたことにもすぐには気づかなかった。
ただ、白い華奢な首へと絡みつく手に、びくりと躰が強張る。
生物としての本能、文字通り急所を握られた状態に近くなったことに、瞳の怯えは僅かに色濃くなるだろうか。肌越しに伝わる手の形は、一見女性の如く繊細に見えて、その実大きく、ひどくかさついて凹凸を感じる──推定、権を握ることに慣れた掌。
喉を圧迫されることを恐れ、そのまま動けなくなる。
耳朶へと注がれた低音の甘やかな響きは、ぞくりと躰を戦慄かせ。それは、響きへの恍惚か、喉を潰されるかもしれぬ可能性への怖れか。

「……さ、酒場にて… 少し、歌を…過ごしすぎました…。──…楽師を、生業に…しておりますゆえ」

喉の柔らかな皮膚を擽るかのような指の動きに、びく、と密かに身が戦慄く。力は籠もらずとも、まるで愛でられているかのような擽りに、吐息が震え。

レオンハルト > 「なるほど、道理で良い声音だと思ったわけだ。なれば殊更によろしくないね。そして同時に君は運が良い。私は丁度痛めた喉に良く効く薬湯を所持していてね。ほら、この時期は空気が乾くし病魔も多く徘徊する季節だ。備えは大事だろう?」

詩でも吟じるかに滔々と語る言葉は実に胡散臭いが、舞台俳優に勝るとも劣らぬ容貌と長駆の作るしなやかなシルエットは妙に様になっている。

「このまま別れた後に君が喉を痛めて、その歌声がしばしの期間とはいえ失われるのは世の損失。 ―――そこで、だ。 君の囀りの虜となった私に、その喉を労る機会を賜らせてはくれまいか?」

台詞自体は貴族が平民に向けた物とは思えぬ程に謙り、少女の許しを乞い願う内容である。 しかし、優しげに細めた碧眼の奥に灯るのは、獲物を威圧する猛禽の気配。彼女の白喉を甘く擦っていた手指にも僅かに力が込められて、柔肌を抑える軽い圧迫が一瞬の息苦しさを錯覚させる事だろう。貴族の誘い、断るのならばただでは置かぬという言外の脅迫を感じさせる所作。 ――――実の所、そうした意図こそ含ませてはいるものの、その脅しを実行に移すつもりは毛頭ない。獲物を手にする努力はしても、逃げ出す兎を必死になって追いかける程の熱は無い。 とは言え、そんな本音を知らぬ少女にとっては恐ろしい状況と言えるだろう。愛らしい少女のそんな怯えにすら愉悦を覚える貴族の悪趣味。

ルーシディータ > 「……薬湯? ……喉に、効く…?」

鸚鵡返しに、確かめるように問い返すのは、やはり己の喉を気にして、気が惹かれたことが大きいだろう。
冷たい朝の空気の中、歌い手としては声のざらつきはやはり気になるというもの。
目の前の貴公子が滑らかに吟じるかのような声音は、ごく自然にも思え、疑念を払拭させつつあった。

「──…お、畏れながら、損失といわれるほどのものでは…御座いません。 けれど…その。」

奴隷上がりの、従わされることに慣れた少女にとっては、彼の言葉は驚くほどに下手からのもので。
しかし、それとは別に向けられる視線の色合いは奇妙に獣めいて感じられた。この色合いを、知らぬわけではない。
喉に加わる僅かな圧迫に、小さく噎せこみそうになり、怖れはさらに強くなるものの、言外に秘められたかのように思える貴族としての威圧に、自然と射竦められる。
心身に躾けられ、知らしめられた上の立場の存在への従順が、ごく自然に働いた。
長い睫毛が影落とす瞳がわずかに伏せられ。竪琴を抱く手に、小さく力が籠った。頬が淡く上気し。

「……は、ぃ。 …勿体ない、お言葉に御座います。 ──…お慈悲を、賜りくださいませ…」

レオンハルト > 薬湯への興味は強く示しつつも、続く言葉と言外の威圧に怯えながらの逡巡を見れば、彼女が余程の覚悟を決めたのだと知れた。元々他者に従う事を良しとする性質なのか、はたまたそうした立場にしばらくおかれていたのか、どちらにせよ押しに弱そうな少女は強引に迫ればあっさりと最後まで身を許してしまいそうな危うさ―――レオンハルトにとっては都合の良さが見え隠れしている。 しかし、此度は然程に時間の余裕も無い。故に青年貴族が企むのは、彼にとっては挨拶代わり程度に軽く、少女にとってはそこまで軽くも考えられぬだろう淫靡な戯れ。

「ハハッ、許しを賜ったのはこちらなのだ。君は偉そうに『うむ、よしなに頼むぞ』とでも答えれば良いのだよ。ともあれ―――そうだね、ここでは流石に場が悪い。少し場所を移そうか? 君がここで構わないというのであれば、私に否やがある訳も無いがね。」

少女が恐々と青年貴族の誘いを受けるなら、レオンハルトは満足げな笑みを浮かべて喉の圧迫を解き、代わりに滑らせた手指で熱を帯びた少女の頬を軽く撫でつつ傍らに流し目を向けた。長身の青年貴族と白髪の美少女の取り合わせは、ただ言葉を交わしているだけであっても人目を惹く。日の出と共に往来の激しさを増していく大通りの片隅、すれ違う人々は一様に二人に目を向けて、後ろ髪を引かれるかの表情と共にそれぞれの目的に戻っていくという状態であった。そして少女の返答を待つ間、青年貴族が懐から取り出したのは包み紙に覆われた翡翠の宝玉めいた何か。それを開いた口にヒョイと放り込み、カラコロと転がしはじめる様子を見れば、飴玉の類なのだと分かろうか。精悍に整った顔立ちの頬を飴玉でぷくっと膨らませる様子は、子供じみた愛嬌すら漂わせる。そうして口腔で琥珀の玉石を溶かしつつ、少女が場を移すことを承服するなら人気の無い路地裏へと連れ込もう。ここで構わないと答えるならば、その時は整った顔立ちに悪戯小僧の様な、少女に取っては不穏な笑みを見る事となるだろう。

ルーシディータ > 奴隷上がり。さらには、大店の養女として引き取られたとはいえ、その身は様々な商談の場に引き出されるための楽師として育てられているのだから、上の身分の者へと強く拒否を示すことに慣れていない。
求められれば大人しく愛でられる覚悟を、簡単に決めさせられることが常であったのだから。

「き、貴族の御方に……そのような口の利き方、できません。 ──…ぁ。……は、はぃ…」

反射的に強く言葉を紡ぐと、頑なな一面を垣間見せ、首を左右にへと揺らせば、雪白の髪が踊るように揺れた。
解かれていく喉に絡んだ大きな掌。 ホ…と細い息を安堵とともに押し出せば、頬に触れる手の感覚に、さらに熱は淡く上昇していく。
ほんのわずかなやり取りの中──とはいえ、興味深げにその様子を見遣りつつ通り過ぎていく雑踏の気配に、少しばかり慌て。

「──…こ、此処は…その。 ご勘弁くださいませ。 …さすがに、その…傍迷惑になります…」

そういう問題ではなかっただろうが、竪琴抱く少女自身は大真面目でもある。
目の前で飴玉を含む貴族の青年に、少し怪訝な表情でそれを見上げていれば、子栗鼠のように頬膨らませる姿はユーモラスに見えて、つい、小さく笑みを浮かべた。怯えが僅かに拭い去られたかのように、緊張と怯えが緩むだろう。
そのまま、手を取られるように、貴族の青年に導かれるように、手を取られて人気のない路地裏へと導かれていく──

レオンハルト > 「―――迷惑? ククッ、実際の所は迷惑どころか、彼らを悦ばせる事になると思うけど………試してみるかい?」

これから行われる事に淫らな意味が含まれているのだと理解しているのだろう。可愛らしい白頬を朱に染めた少女に向けるのは、このままここで"行為"を始めようと誘うかの意地の悪い台詞。そんな言葉で少女を更に慌てさせつつ市場を後にする青年貴族が向かうのは、そこから通りを一本入り込んだ、それだけで大通りの雑踏が嘘の様に遠くなる狭路地の暗がり。この時間、周辺の家屋からも人気が消えるそこは、不気味な程の静寂に包まれていた。

「―――さて、レディ。その喉に良く効く薬湯だがね。これは専属の薬師が私用に調合してくれた物なのだよ。故に、私の唾液に溶かされて初めて完成するという代物でね………これ以上の説明は必要かな?」

小首を傾げて問いかけるその笑みは、出会った当初と変わらず優雅な物。しかし、周囲を高い建物に囲まれた日差しも届かぬ狭路地の暗がりの中、漂う気配は間違いなく淫靡な物。余程に鈍い生娘でもなければ『このままここで犯される』という危機意識がどうしようもなく湧き上がるだろうシチュエーション。少女を壁に追い詰めるかの歩みはしかし、いっそ雅な動きで距離を狭めていく。

ルーシディータ > 「あ、あの…市場の…往来を、遮ることは、十分に、迷惑な行為になると…思われます…! 善良な方々の、日々の営みを邪魔をしては…だめ、…です…──」

思わず、といった様相で一瞬声を跳ね上げ、人形めいた造作と所作を、この一瞬罅割れさせた。
そして、自身があげた声に、恥じ入るように赤く頬を染めて、声のトーンをどんどんと落としながら、途切れた時には俯いてしまう。
導かれるままに脚を進めていくのは、裏路地の一角か。少女自身は決して自分から脚を踏み入れることはないだろう、静まり返った場所。
通り一本ずれただけの思わぬ静寂に、落ち着かない気持ちも湧き上がり。

「──……え」

心惹かれた薬湯、明かされたその実態に、しばし脳内が停止し、思考が途切れた模様。それが再起動した折には、青年の言わんとした言葉をじわじわと理解したのだろう。
追い詰める足取りに、簡単に背は壁へと往きあたり、それ以上は下がれぬ状態となって。
危機意識と、鬩ぎあう従順。微かな逡巡の気配を漂わせながらも、背丈の小さな半エルフの少女は、そっと踵を浮かせた。

「……薬湯を、くださいませ…」

小さな桜色の唇が、そう、言葉を綴り。貴族の青年の求めに応じるかのように、瞼を閉じた。

レオンハルト > 「―――ハハッ、君は存外硬い考えを持っているのだね。よろしい、次の機会があるのなら、その時は実際に試してみよう。私が君に施す行為で、立ち止まる事になった人々が実際に迷惑するのかどうか。」

気弱な少女の意外に強い語調の反撃に一瞬碧眼を丸くした青年貴族は、直後に息を吐きつつ笑みを浮かべて白髪も艷やかな頭部をぽんぽんと優しく撫でる。しかし、"餌場"へと連れ込んだ後は、そうした子供扱いを一変させて、少女の身体を女として見つめる。

「理解と覚悟が早くて助かるね。では有り難く味見させて貰お―――……おっと、違った。薬湯を差し上げようか。」

覚悟を決めて双眸を閉ざし、踵を伸ばした不安定な少女の姿勢。それをダンスに応じる様な優雅な手付きが、しかし、はっきりと牡を感じさせる力強さで抱き寄せる。十分な生育を見せる少女の柔乳が、意外な程に分厚く硬い男の胸板に押しつぶされる。仄かに香る男の女の情事の残滓と、それを品良く覆う香水の匂いに少女の鼻孔が擽られた次の瞬間、青年貴族の唇が、ピンクの色彩も可憐な唇を奪っていた。

「―――――――……んっ。」

舌先で少女の口腔を割り開き、ねっとりととろみを帯びた翡翠色の液体を流し込む。精液の様にいやらしく口腔粘膜へと絡む感触。それでいて果実の甘みを上品に薄めた様な清涼な味わいが、青年貴族の唾液を溶かし込んだ人肌の熱と共に注がれていく。無論、それだけで済むはずもない。未だに溶け残った飴玉の欠片を彼女の舌上に乗せ、それを互いの舌で挟み込むかに溶かして塗りつける。手慣れた口付けは時に舌先で上顎を擽り、舌の底を舐め上げて、ぢゅるぢゅると卑猥な水音を立てて唾液のカクテルを啜った後に改めて彼女の喉奥へと流し込む。そんな淫らな口付けは、少女の思考が甘悦と酸欠で溺れる寸前まで続けられた後に、翡翠の色彩を薄く残す唾液の糸を引いて離れていった。

ルーシディータ > 「…硬い、でしょうか? ──…ぁ。…い、いいえ…想像だけで…十分では…と思います。 高貴な方が、下々に…迷惑に、偏るかも、しれぬこと…なさるのは……と。」

思いがけず上げてしまった反論に、自分のほうが狼狽えてしまいながらも、髪に落とされる手にあやされるようにわずかに落ち着く。もっとも、この静まり返った場にて注がれる視線の色合いは、やや剣呑にも感じるもので、己の内側に生じるざわめきを抑えることにやや苦労をした。
己の求めに応じての返答に、何やら混じった青年貴族の本音の一端に、頬の温度は更に上がり。

「──…………ん」

まるで、舞踏のリードをされるかのように、絡む存外強靭そうな腕。しかし、その手つきは品よく優しくすらある。
優雅に、絡めとられていくかのような錯覚。ほっそりとした肢体が抱き寄せられれば、見た目からは信じられないほどの逞しさを内包しているのだろう胸板へと身を添わせれば、柔らかな膨らみは自然、彼のもとで拉げて。
女性の香水の匂いの混じる口唇が、少女のそれと重なる。
薄く柔らかなそれを割り拓くようにして、流し込まれる液体を受け入れ、かすかに己からも吸い取るように受け止めた。
口腔に満ちる、ほのかな甘み。それは清涼で、こんなときなのにそっと息を吐いて味わいたくなる心地。
覚えているよりも小さくなっている気のする飴玉を押し込まれるままに受け、まるで深く口吻合うかのように、薄く小さな舌先が互いにそれを舐めあうかのよう。絡み、混ぜあい。
次第に、その巧みな口吻に、ぼう…と理性が霞むかのような心地が忍び寄る。彼だけでなく、気づけば己の唾液まで混ぜあうかのような淫猥な水音が周囲に響き──

「……ふ、ぁ…」

こく、と喉が嚥下の形に動き、委ねられた「薬湯」を飲み下す。
口唇が離れた時には、熱っぽく頬を火照らせ、明らかな悦を隠すこともできずに、甘やかな吐息が漏れた。
伝う銀色の糸がふつりと切れれば、それを小さな指先が拭い、ちろりと、薬湯を味わったばかりの舌先が、濡れた指を甘く吸って──

「──……あり、がとう……御座います」

レオンハルト > 少女の気質から想像していた、ただただ怯えて縮こまる所作とは異なり、存外積極的に応じられた口舌の交わり。無論、それは青年貴族にとっても望む所。ナメクジの交尾の如く卑猥に舌を絡ませ合い、薬湯の糸引く唾液をぐちゃぐちゃに撹拌しては白喉の奥へと流し込む。そうしてたっぷり少女の口唇を味わって、男の下腹にもじんわりと熱が集まった頃合いに顔を離し、淫魔めいて妖しい少女の所作を堪能した青年貴族は

「どうだい? 喉の爛れた部分がじんわり暖かくなっているのが分かるだろう? 薬が聞いている証拠だよ。 そのまま数時間もすれば、君の喉はすっかり元通り。 ――――…ただ、それまでは迂闊に声を出さない事をお勧めするよ。」

物のついでといった調子で付け足された言葉の理由は、実際に声を出してみればすぐに分かるだろう。震える声帯が腰砕けになるほどの肉悦で背筋を震わせるだろうから。男にとってはよく効く喉薬に過ぎぬそれは、何故か女の身体が摂取すると数時間の間喉を強烈な性感帯へと変化させるのだ。小声で呟くだけでも膣内に埋めた淫具が振動する様な甘い刺激を発するそれは、歌など歌おう物ならば、一曲終えるまでに何度か絶頂を覚える事となるだろう。大声など上げればたた一声だけで法悦の極みに至る代物である。

「まぁ、声を出した方が薬の馴染みも早くなる。それを考えるなら、自室で一人、発声練習に励むのもいいかも知れないね? ふぅ……その場に居合わせる事の出来ない多忙な我が身を嘆くばかりだ。」

続く言葉で発声オナニーとでも言う様な淫猥な一人遊びを示唆したレオンハルトは、実に満足げな表情でスラリとした長身の腰を折って別れの挨拶を述べる。

「さて、最後となってしまったが名乗りを告げておこう。私はレオンハルト。故あって家名は開かせぬがね。では、レディ。自愛したまえ。」

白シャツの胸元に片手を添えて軽く頭を下げて名を伝え、去り際に今一度触れるだけの首絞めを与えてから背を向ける。さて、残された彼女は喉奥に生じる卑猥な喜悦に耐えて名乗りを返すかどうか。そして自宅へ戻ったその後は、治療の促進という建前の元に倒錯的な一人遊びに興じるのか。そんな思索がもたらす薄笑みは、戻った館で執事に指摘されるまで続くことになったとか。

ルーシディータ > 「……──?」

ねっとりと濃厚に交わされる口吻から解放されれば、ほどなく喉に感じるほの暖かな違和感。
それに不審を覚えて、己の細指を喉へと沿わせ、僅かに首を傾げた。

「……ぇ。……声、を…? ──………っ!」

青年貴族の齎す薬湯に関する情報を問い返そうとして、途切れた声は、今まで感じたことのない感覚を、己の喉へと齎した。
思わず、唇をはくはくと小さく動かし、あげようとした抗議の言葉を無音に変える。
もしも、それは正しく綴られていたならば、今までの少女からは想像できなかったかもしれない、怒涛の抗議が歌い手としての喉から迸っていたかもしれない。
恨みがまし気に、上目遣いにて上背のある青年貴族を見遣り、喉への違和感を一人抱えて、声を出すことも躊躇われて、結局は時には口よりも雄弁であるという、視線と仕草にて己が意を伝えるかもしれない。
──密かに、中指を立てて。

名乗りを受ければ、返礼をするのは作法の基本ではあるが、声を出せば思わぬ熱に悶絶する羽目になる。それを、僅かな発声で自覚すれば、己の口唇の動きで名を告げるが──それも読み取れるかどうかは、わからない。
一瞬の仕草の罵倒以外には、少なくとも礼法の基礎を守り、少女はそっと外套の裾を摘まみ上げるようにして、淑女の礼を送り、その長躯が消えるまで見守った──

──……少女が、帰宅の挨拶もないままに、しばし部屋に閉じこもっていたこと、さらに部屋でも沈黙を守っていたことに、家人たちが不審がってはいたというが、それはきっと、理不尽な熱を抱えることになった少女には些細なことではあっただろう。

ルーシディータ >
ご案内:「平民地区 市場通り」からレオンハルトさんが去りました。
ご案内:「平民地区 市場通り」からルーシディータさんが去りました。