2018/11/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にサーラさんが現れました。
■サーラ > 賑やかな街の広場、其の片隅に設置された掲示板の前。
暫く前からじっと其処に佇んで、眼鏡の奥の双眸を気難しげに細め、
貼り出された大小さまざまな掲示の内容をひとつひとつ検分していた。
何処其処の通りに新しい店が出来た、とか、お尋ね者の情報、とか、
中でも求人広告だけに的を絞って、じっくりと。
経験者優遇、という文言が書いてあるものは、まず無理だろう。
かといって、未経験者歓迎、というのは、だいたいあまりお金にならない。
幾つか見終えたところで、ふうう、と溜め息を吐いて肩を落とし。
「なかなか、良いお仕事ってありませんね…」
何とかして新しい仕事を見つけなければ、学問を続けられなくなる。
其れだけは避けたい事態であるけれど、此の侭では不可避、となりそうだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にルシアンさんが現れました。
■ルシアン > 困りごと、と言うのはいつでもどこでも絶えないわけで。
仕事を求める者が居るなら、人を求める者も、また必ず居たりする。
「…まあ、そもそもあんまり美味しいとは言えないしな…」
は、と小さく息を付きながら、ゆっくりとした足取りで掲示板へとやってきた青年。
これで何度目だろうかはもう忘れたけれど、其処に貼っていた紙を一度はがして、別の物へと張り替える。
求人の広告なのだが、期日までに誰も来なった様子。条件を少し変えて、改めて…という所か。
「…これで誰か来てくれれば…ん……?」
真新しい広告を見つめつつ、渋い顔。
だけども、ふと、傍でも何だか自分と似たような表情をしていると思しき人影が、一つ。
暫し、迷ったりもするのだけど。
「…そこの人。仕事を探してたりするのか…?」
結局、やや遠慮がちに、その少女へ声をかけてみたり。
■サーラ > ヒト、求ム、という希望も、仕事、求ム、という希望も、
どちらも決して珍しいものではない。
ただ問題は、双方の条件が合致する確率が、其れ程高くない、ということだろう。
うーん、と思い悩む己の傍らで、誰かが掲示を剥がしたり、
新しい紙を貼り直したりしているのは目に入っていたけれど、
考え事に集中していたため、特に反応は示さず。
けれど勿論、相手から声を掛けられれば別である。
「え、………あ、はい……?」
きょと、と眼鏡の奥の双眸を瞬かせ、丸く見開いて小首を傾げる。
右掌を浮かせて、己の胸元へそっと宛がいながら。
「え、と……ええ、はい。
あの、貴方は……?」
相手が貼りつけた掲示と、相手の顔とを見比べてみる。
とはいえ、掲示の方は少し遠くて、何が書いてあるのか見えなかったけれど。
■ルシアン > まあ、人を求める側としてもそこはそれ、ダメモトと言う奴であって。
ただ紙を張り出すだけよりはマシだろう、と声をかけてみたのは良いものの。
自分よりは少々年下、だろうか。また服装から、どうも学生らしいと察すれば、自分も野外活動用のマントなどでなく真っ当な服でも着て来るべきだったか、などとちらりと考えたりも。
「ああ、すまない。僕はルシアンと言う。
…見ての通り…ってこの格好じゃ見て分からないか。その、実は仕事を受けてくれる人を探してるんだ」
誰何の声を掛けられれば、まずは自分の名前を名乗ってみて。
先ほど掲示板に張り付けた紙を丁寧にはがす。それを手にして少女の元へ数歩近づき。
手にした依頼書を差し出してみて。
「一応、ここの孤児院に世話になってる者だ。
それで…此処の職員が数人足りなくなってる。誰か手伝ってくれる人がいないか、探してるんだ」
――依頼の主は、町はずれの孤児院。小さな施設故に町の物でも名を知っているかどうかは微妙か。
其処での仕事の手伝いを求める、アルバイトの募集の通知。経験不問、仕事内容や給金などは要相談、とある。
「もし、気が向くなら見てもらえないだろうか?…どこかの学生だとしても、来てくれれば助かるんだが」
言葉の端には少しだけ疲れたような響き。何度か来た人も、結局長続きはしなかったり。
少々不安げな様子は、なるべく見せまいとするのだけども。
■サーラ > お金に困っていて、彼方此方でバイトをさせて貰ったりしているけれど、
残念ながら世間知らずの己には、相手の外見から何かを読み取る力は無い。
相手の格好がどうあれ、警戒したり疑ったりしない、というのは、
美点と捉えて良いものかどうかは、きっと議論の余地があるけれど。
ともかくも、名乗ってくれた相手なら、もともと無いに等しかった警戒のハードルは、ほぼ完全に無くなる。
掛けていた眼鏡を左手で外し、ガウンの懐へ滑らせてから、ぺこりと頭を下げて。
「ルシアン、さん……はじめまして、私、サーラ、といいます。
―――――此れ、……お仕事、ですか……?」
差し出された紙を受け取り、きゅ、と眉根を寄せて文面に見入る。
知った名前では無いけれど、どうやら怪しい内容の求人では無さそうな。
――――もっとも己の場合、怪しくても見極められない可能性も高いが。
「え、と……学生でも、ということでしたら、勿論、とても有り難いお話ですが……
私、あの、子供さんたちのお世話、とか、あまり、やったことが無くて……」
お世話される側ならともかく、所詮は貴族の娘。
人手が足りない孤児院で、何処まで役に立つものか、と、やや困惑気味に相手を見上げて。
それから、――――ふ、と。
「あの、……もしかして、随分、お疲れなのでは?」
■ルシアン > 眼鏡をかけていた時と比べて、眼鏡をはずすと何処か幼くすら見える様な。
丁寧に頭まで下げられてしまい、きっと育ちのいい所の娘さんなのだろう、などと少し表情が柔らかくなる。
少なくとも、余り悪い事を考えたりするようには見えない。…自分の、人を見る目がどの程度なのかは、なかなか判断は難しいが。
「サーラさん、か。よろしく頼む。
…やっぱり学生さんか。うちでの依頼は、学生でも問題は無いんだが…」
依頼書を受け取ってもらい、読む姿を見守りつつ。
余り名も知られていない、規模も大きくない、それに…若干「訳アリ」な孤児院である。
その裏側まで係わるかは兎も角として、表向きはきちんとした依頼であるわけで。
「ん…そう、だな。依頼したい事は、色々あるんだ。
例えば施設の雑用や、調理場なんかに入ってもらってもいい。
子供の世話の手伝いをしてもらうにしても、いきなり一人で放り出す事も無いしね。
…元気で中々いう事を聞かないような子も多いけど、子供が好きなら何とでもなる、と思う」
こういう事はそれまでの経験より、好きか嫌いかという点が大きい。
子供嫌いな人には任せられないし、子供が好きな人であれば経験なんかは自然に身につくもの。
どうだろうか…と、少女を見つめていたら、不意にかけられた言葉に。
「え?……ああ、いや。そんな風に見えてるか。
…正直なところを言うと、ちょっと手が足りてない。最近、同僚が数人抜けたりしてね。
その辺を何とか少しでも…とは思ってるんだが」
初対面の少女に、そこまで見られるのもやや気恥ずかしい。
困ったように苦笑いをしてみて。
■サーラ > 学生でも問題は無い、と告げられれば、ほんの少し。
けれど明らかにほっとした表情で、ひとつ首肯を返した。
しかし、重要なのは『だが』の先である。
やや身を乗り出し気味に、相手の言葉を一言一句洩らさず聞こう、という姿勢になり。
「お料理は、えっと、あんまり……でも、お掃除やお皿洗いなら、
今までにもやらせて頂いたこと、あります。
子供さん、は、え、と……私、あの………」
嫌いではない、決して。
だが、しかし――――からかわれたり、悪戯のターゲットになったり、
子守りとしては役に立つとは言い難いような気もする。
だからつい言い淀んでしまったのだが、相手がどうやら本当に困っているらしい、
と知れば―――――きゅ、と両手をこぶしに握り、真剣そのものの表情で一歩、相手の方へ踏み出して。
「あの、でしたら、どなたか、もっと良い方が見つかるまでだけでも、
……私、お役に立てるかどうか分かりませんが、でも、
精一杯頑張りますから……」
取り敢えずは、そんなところでいかがでしょう、と。
もしかすると己を雇ったなら、孤児院は却って大わらわ、になる可能性もあるのだが――――。
■ルシアン > 中々、難しい仕事ではある、と思う。
それなりに長く関わっている自分ですら、やってられない、投げ出したい…そんな事を思う日が無いとは言えないのだし。
事実、今までも何人かは募集に応じた者も居たのだけど、自分には合わない…等で辞めてしまう事も多くて。
さてどうだろう、と内心では緊張したりもしていたのだけど。
「…っ。本当に!?あ……ありがとうっ!
すごく助かるよ。きっと、子供たちも喜んでくれると思うし。
はー……良かった、これで少しは安心できるかも……!」
控え目だけど、肯定の返事。とても真摯な表情で答えてくれた少女の姿。
その言葉を聞き、ぱっと表情が明るくなって。
思わず、少女の手を取って嬉しそうに軽くブンブン振ってしまったりも。
口調も何処か、砕けたものに…きっとこれが素なのだろう。
「あ…そうだ。受けてくれるのは凄く有り難いんだけど、サーラさんは何でこういう依頼を受けようと?
…その、見た所、割といい家の生まれの人じゃないかな、と思うんだけど」
はた、と少し落ち着きながら。浮いてきた疑問を、言葉を選びつつ投げかける。
あまりお金に困るような、そういう様子には見えないのだけれども…。
■サーラ > 「え、―――――ふぇ、っ……!?」
突然手を取られ、ぶんぶん振られたものだから、思わず変な声が出てしまった。
まん丸く目を見開いて、おどおどと、される侭に揺さぶられながら。
「い、いえ、あの……私の、方こそ、助かる、ので……あの、」
どうしよう、思ったよりずっと喜ばれてしまった。
此れでもし、とんでもない迷惑を掛けることになってしまったら―――
そんなことをふと考えてしまっていたところへ、ある意味、
雇用主の側からみれば当然の質問が投げかけられる。
ぎくん、と肩を震わせ、俯いて暫し―――――其れからおずおずと、
相手の顔を見上げて、小さな声で。
「……えっと、あの。
それ、って……言わなきゃ、雇っていただけません、か?」
此れから雇って貰う所の関係者、であっても、初対面の相手だ。
出来れば言いたくない、という気持ちを、全身で表現していたかと。
実際、もし其れを打ち明けねばならないのなら、折角の仕事だが、諦めようとすら考えていた。