2018/04/26 のログ
ご案内:「平民地区 魔法雑貨店」にオフェリアさんが現れました。
■オフェリア > 雨上がりの夕刻。まるで泣き腫らした様な夕焼け空の下、大通りは徐々に人気を取り戻す。
人々が行き交う影を、曇り硝子の窓から横目に眺めていた女の視線が手許に下りる。
目の前の作業台に並ぶ幾つかの品を、端から順に赤い眸が追った。
白く塗られた小さな小箱。
小指の先程の硝子玉が嵌め込まれた簡素な指輪。
先日市場で買い込んだ、数種類の毒草の束。
睫を緩慢に上下させ、そっと持ち上げた片手を束ねた毒草の上へと伸ばす。
ご案内:「平民地区 魔法雑貨店」にレイン・レジネスさんが現れました。
■レイン・レジネス > びちゃ、びちゃ……と、妙に水気の多い足音。
先ほどまでの雨の為であろうかと目を向けたなら、それは半分は然り、半分は否である。
「うう……さむい、さむい……」
シェンヤン風のゆったりとした服を、雑に帯で体に巻きつけた女だった。
靴を履いていなかったが、それは足音の原因ではない。何せその足は、泥水に濡れてはいないのだから。
元凶は――その体から幾つも伸びた触手の群れであった。
腹や背、腰の辺りから伸びた数本の触手が、その女の体を地上から僅かに浮かせて運んでいた。その為、軟体生物が濡れ歩くような奇妙な音が生じたのである。
その女は足音もそのまま、作業台に近付き、
「やあ。魔術絡みの品を探してるんだけど――」
と、案外に端整な顔立ちで、気取って言う。
「――あと、タオルも」
しまらない。
■オフェリア > ゆるり、気紛れに繰り返していた瞬きを止めた眸に、己の翳した手の甲が映り込む。
―呼吸を一つ。微かに開いた紅い口唇から細く呼気を漏らした。
掌の下、収束させた意識が虚無を歪ませて、形を――成す、直前。
来客を知らせるドアベルの音が凛と店内へ響き渡り、店主は咄嗟に息を呑み、卓上へ翳していた手を退けた。
不意の入店に驚いた仕草は見せない。穏やかに手許から上げた貌、赤い眸に、客人の異形を見出しても、尚。
客人の躯からぞろりと生えた触手が床上を這い、濡れた痕跡を曳いて居るのを一瞥。
刹那の間を取り、口許へ浮かべた微笑で来客者の顔へ視線を向ける。
「いらっしゃいませ。
…そう、 先ずは如何云った品物をお探しか、普段はお尋ねするのですけれど 」
静かに応える声音と共に、店主は作業台から一歩身を退いて、台の下に備えられた引き出しの中を検める。
収納の一つへ仕舞われた純白のタオルを一枚、取り上げて腕へ掛け、それからもう一度客人の方へ視線を向けた。
「…其の前に、 タオルは、何枚あれば足りるかしら。
其方のお御足の数ほど?」
■レイン・レジネス > 雨水に濡れてカーテンのように、双眸に覆い被さる黒髪。その向こうに碧眼が二つ細められている。
眼前の店主の顔が、常ならば有り得るような形に歪まぬことを愉快と思うたか、こちらは分かり易く微笑みを浮かべながら。
「触手の数に合わせると、幾ら有っても足りなくなる。数に限りの無いことが自慢だからね」
しゅるり。数多の触手は、女の体内へと引きずり込まれ、彼女は初めて己が両足で店内に立つ。
それからもう一歩作業台へ、殆ど覆い被さるような距離にまで近付くと、
「一枚で構わない、丁度その手に収まっている分で」
と言いながら首を差し出す。
その様は、〝その手で拭け〟と傲慢に命じているようでもありながら、断首を待つようでもあるが。
何れにせよこの店の有る街並みには些か似合わぬ、貴族階級の、〝よいもの〟で作られた滑らかな首筋が曝け出される。
「ふう……此方は、他に店員さんは居ない? そうであることを祈りたいけれども。
二人切りの方が、口説くのには相応しいから」
そして、こうべを差し出したまま、唐突に戯れごと。
とは言え、下を向いたままの顔をわざわざ覗き込んだのなら、それは案外に真面目な顔をしているのだ。
■オフェリア > 「…まあ 、其れを聞いて安心しましたわ。
家中のタオルが必要になるかと 、」
笑みの形に狭まる瞳、放たれる台詞にもう一枚とタオルを追加させようとした手が止まり、緩慢な瞬きの中で客人の顔を見た。
ひとの形、をした両脚が、床の上に降り立つ調度其の瞬間を目の当たりにして、そっと引き出しを押し込んで僅かに屈めた姿勢を戻す。
要望通り用意した一枚だけを手に持ち直し、歩み寄る客人がやがて留まるのを待つが、
「――…私だけ、ですが、
…前を、失礼致しますね」
台を越し、直接的な言葉もなく差し向けられた首。僅かに丸めた眸に濡れた黒髪を宿し、はた、はたと雫が滴る音を耳に拾う。
意図を察した店主は口許へ片手を持ち上げ小さく笑い、それからもう一方に携えたタオルを客人の髪へ当てた。
軽く押し当てる程度では到底追い付きそうもない。どこから拭うべきか、眺めながらに思惟していると、持ち上がる面とひたりと目が合った。
世間話の風体が、次の瞬間塗り替えられる。真偽の程は定かで無いが、控えめな笑い声を言葉に混ぜた店主は其のどちらとも受けては居ないような口振りで、
「…此方で扱う商品は、どれも扱い易いものばかりですから。
熱心に口説かれる必要は、 余りないかと存じます」
■レイン・レジネス > 「貴女だけか、ならば良かった……ふふ。睦言を他人に聞かれるのは流石に、ちょっと、ね?」
罪人のような姿勢で首を差し出したまま、頭髪に染みた水気が落とされるのをただ甘受する。
自ら首を動かそうだとか、手を用いようとか、そういう発想の見られない怠惰ぶり。
これもまた一部の貴族階級に見られる傲慢と怠惰の産物やも知れぬが――
「……ところで、ねえ、貴女」
髪を拭かれる過程で持ち上がった顔が、近間から相手の顔と向き合った。
血と呼ぶよりは宝玉に近い紅の瞳。穏やかさを示すが如き瞼のライン。眩い金糸と、腹の底を隠す笑み。
その前に置かれた怠惰なる女の顔は、何か疑問に行き当たったかのように、眉間に皺を寄せた。
「いつぞやの夜会でお会いしなかった? 踊っていただけたらとお声をかけた記憶は無いけれども」
ナンパの常套句のような言い回しではあるが、そうではない。
明晰であるとの自負がある己の記憶が、現状とあまりに整合性が取れぬからの疑問符だ。
何せその記憶は、幾分か昔、自分がまだ美女を口説いて回らぬころまで遡るが――それはつまり、身の丈が今の半分ほどだった時分だからだ。
或いは他人の空似やも知れない。或いは親族と間違えているのやも知れない。
が――眉間に皺こそ寄れども、女は、〝そうであれ〟と願うように、眠たげな瞳に熱を灯していた。
■オフェリア > 「あら、 フフ、…衆目を気になさる様な方には、見えませんでしたのに」
客人にタオルを受取る素振りはなく、矢張り店主自ら拭おうと手を伸ばした選択は、相手に取って正解だったのだろう。
水滴を拭い去ろうと云う気も感じられぬような柔い手付きで、水気をタオル地へ染み込ませる傍ら。襟から覗く首筋に、濡れて艶めく漆黒の細い髪に、纏う衣服の質感に、それと無く順を追い視線を配ってゆく。
言動や、所作、其れよりも相手を創り纏った装いで、この辺りの住人でないと判断出来た。
中性的な容姿から、それこそ引き合いに出した来店時の印象の頃は呼び方を決め兼ねて居たが、近くで見詰めてみれば判る。
「――…私も、同性の方にお誘い頂いた事は御座いません。
…けれど、御客様がお出でになるような催しに、私のような街の女は不相応ではないかしら」
重なる視線は真っ直ぐに店主を射抜く様で、眼差しには僅かにでも力が篭って居る様な気さえした。軽口の延長、とは、恐らく違う。
緩く首を傾けて、微かに笑みを濃くした店主。是とも否とも付けぬ台詞で応じると、宛がうタオルの柔い生地を、そ、と彼女の頬へ向け、伝う雫を追い滑らせた。
■レイン・レジネス > 「……いいや。私は、記憶力には自信がある。相手が美人ならば尚更だ。それに――」
頬にあてがわれる繊維の感触を、当然のように受け取る。
誰かが自分の為に働くのは当然だと、思うことさえない。呼吸の方法をわざわざ考えないように、だ。
だが――相手の手際ばかりは、違和として思うもの。
「甲斐甲斐しいのだね、貴女。誰かに仕えることに慣れていらっしゃるようだ。
ただの〝街の女〟でいるには、それこそ不相応に思えるよ」
頬に触れるタオルを抑える、手。
その手の上に、自ら手を重ね、逃さぬように、蜘蛛の脚のように指を絡めながら。
「……欲しいものは三つかあるんだ。香水と、室内用の香と……最後の一つはまだ秘密。
世の女性方に喜ばれるようなものを、見繕っていただけるかな?」
■オフェリア > 彼女の言葉から連想される宵の会。才を集めて奏でられる優美な音楽と、絢爛な大広間。紐付く記憶の風景はどれも絵画を嵌め込めた様に、思い浮かぶどれもが躍動に欠ける。
其の景色の中に在るひとの集いに、彼女が居たか、如何か。記憶を呼び覚まそうとはしなかった。
―声を掛けられた、其の事実が無いのなら、店主が何時かの昔に見た光景へ彼女が立っていたとして、其れはきっと徒労に終わる。
気の所為であったと流されるものだとばかり思っていたが、絡め取られた指先に、今し方本人の云う記憶力の確かさを思い知らされた様だった。
憶えて居ないのは店主の方だけで、若しかすればこの女性は本当に、埋もれかけた過去に自分を見ていたのかも知れない。
赤い眸が、ほんの僅かに丸く揺れる。
手を捉えられたから、ではなく、見様に因れば不思議そうに疑問符を抱えた変化に取れる、そんな些細な移ろいだった。
「……香水なら、 術を付与して花の効果を強めたものが、御座います」
只の女、振舞う素振りは其の心算だった。確かに只の雑貨屋の店主なら、こうまで客を相手に世話を焼く事も無いのかも知れない。
思わぬ指摘に一度双眸を瞬かせて其の内に心情を瞼の裏へ隠してしまうと、絡まった細く白い指先に手にしたタオルを託そうと手の向きを変えながら、穏やかに言葉を繋いでいって。
「室内用でしたら、時間と人気を感知して香の種類を替える火の精を篭めた品が。
…どれもハーブ程度の効能を足したものですけれど、 女性の御客様にはご好評を頂いていますよ」
■レイン・レジネス > はぐらかし、眩ます――その実体に届かせないようにか。
己の正体を明かさぬままの甲斐甲斐しい奉仕を受けながら、髪の向こうの瞳は弱くも燃え続けたまま。
だが、その火が、
「……では、その二つを頂こうか」
その火が、消える。不意に、強い風に吹き消されたかのようにだ。
心を解くに易い相手と難い相手がいる。眼前の店主は後者だと知った。
故に女は一歩、作業台から退き、手とタオルから身を逃がす。
「御代はどれほど?」
と問い、言われるままの額を払い。そして女は、この店を去るだろう。
再び訪れることは――また雨でも降ればあるのやも知れない。
ご案内:「平民地区 魔法雑貨店」からレイン・レジネスさんが去りました。
■オフェリア > 「――…有り難う御座います。
…すぐにお持ち致しますわ。…お待ちを 」
絡み付いた指が解け、退く身体ごと距離が空く。矢張り只宛がいなぞるだけでは湿った髪を拭い切る事は出来ず、艶めいた漆黒の髪の先から一滴、きらりと水滴が散った。
其の様を笑みに細めた眸で見詰め、タオルを作業台へ下ろすと請われた品を取りに棚へ歩を進めて行く。
二つ、勧めた品を包んで渡し代金を受取ると、扉へ向かい踵を返す彼女の背を見送った。
「…秘密、の ―…あと一つ、
何れそちらもお求め下さるのを、お待ちしております」
最後にそう、穏やかな微笑を模った口唇に乗せ、声を掛けながら。
ご案内:「平民地区 魔法雑貨店」からオフェリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にシエルさんが現れました。
■シエル > キョロキョロと屋外の小道を歩く。
周囲はざわざわと人が多くざわめいている。
色々な地方の商人が集まったこの場所では、地方独特の品が多数販売されていた。
少年としては購入よりも勉強という名目で来ているわけだが…。
どうにも、目移りばかりして遊びにきているという印象が抜けきらない。
でもまぁ…楽しいんだからいいかな、とも思うわけで。
「んー…。」
夕食は済ませているものの、美味しい匂いのする屋台があったりすると思わず覗き込んでしまったり、
安定して需要があるからどこでも捌けると酒を売っている商人の長話に付き合って飲まされそうになったり
これが流行の衣料品だよとちゃきちゃきした女性に押し売りされそうになったりと、
色々な場所をうろうろと歩き回っていた。
気を付けてはいるが、それなりの人混み。
ぶつかりそうになって慌てて避けたりもしているだろうし、多少ぶつかる事もあるかもしれない。
■シエル > そして少年は人混みへと紛れていった…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にアリウムさんが現れました。
■アリウム > 「………ふふ…、本当に、人間っていうのは見ていて飽きないね…。」
(優雅な午後のカフェテラス、富裕地区のそれではない場所。
男はカップに口を付けながら、行き交う人間たちを眺めていた。
表情を眺め、その服装を眺め、何よりたたずまいを見て。
貧民、庶民、富豪。
様々な呼び方を変えるのも面白いけれども、個性といえばいいのだろうか。
個人をあらわす文字、性格、それらを総括して人間といえばいいのだろうか。
なかなか減らないカップの中身に視線を落として、男は優雅に微笑んでいた。
この町は、人間というものは本当に面白い。)
■アリウム > (中身に手を付けずに、男はすっと席を立った。
その席にそのまま、代金を少しだけ多めにおいて、おつりは結構と右手を振る。
紅い瞳を光らせ、店員の女性を『気まぐれに』腰砕けにさせてから、街へと繰り出した。
太陽の光を浴び、ゆっくりと人込みをかき分けながら街を歩いていく。
風貌が完全に貴族なので、かき分ける必要などないのだが男は自ら人ごみに入っていく。
微笑みをうかべながら、自分からあえて人込みをかき分けていく。
平民地区の人間は、気を使っているのかそれとも、ぶつかって難癖をつけられるのを恐れているのか。
よけようと、よけようと動くのでそこに余計に人混みができる。)
「ふふ……。」
(それがまた、面白くて。
人気味にまぎれるようにというより、むしろ人ごみにもまれるかのように、
男は、人ごみの中をかき分けながら、街を進んだ。)
■アリウム > (そのまま、深紅の髪はいずこかへと消えていった…。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からアリウムさんが去りました。