2018/02/18 のログ
■カイン > 「とりあえずどこか酒を飲みに行こうかね。
真昼間かってのもなんだが、その分騒がなきゃ歓迎されるしなっと」
甘い物を飲んでると辛さが恋しくなってくる。
手にした容器の中身を一気に喉の奥に流し込んでから、
手近な目についた酒場方へとふらりと足を向けていく。
暫しの間、そこで酒を楽しむ事にするのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/繁華街」からカインさんが去りました。
ご案内:「平民地区/市場」にフォーコさんが現れました。
■フォーコ > 本日は非番。 することがない私は目新しい物がないかと市場に顔を出した。
本日の目当てはマジックアイテムの類。
面白い物があれば師団の装備に入れるのも面白い。
「これは…。 なるほど、こうするのか。」
露店の主から声をかけられ、見せられた品は小型の笛。
曰く、とある魔獣を封じ込めた品で吹けばたちどころに強力な魔獣が姿を見せるとか。
「本当か? 紛い物だったりしたら後で返金してもらうぞ。」
私は今日機嫌が良かったこともあり、店主の言い値で笛を買うことにした。
渡された笛を手で弄びながら市場の隅にあったベンチへと腰を下ろして。
「まさかここで吹くわけにもいかないしな。
さて、どこで試そうか。」
■フォーコ > 買ったばかりの笛はとても小さい。
端的に言えば、呼子だ。
「魔獣どころか役人が来そうな笛に見えるのだがな。」
手のひらの上で弄っていると、確かに魔力は感じる。
しかしそれほど強力なものがこんなチャチな笛に収まるものなのだろうか。
どちらにせよ、試すのなら街の外になるだろうか。
ご案内:「平民地区/市場」にスナさんが現れました。
■スナ > ベンチの前を、年の頃11~2ほどの銀髪の少年が通りかかる。
作業着めいて頑丈な作りの厚布服はところどころ薄汚れており、腰に下げた雑嚢も様々な道具でいびつに膨れている。
どこぞの工房か工場にでも所属していそうな雰囲気を醸し出している。実際は無職だけれど。
西日が強いわけでもないのに、目はまるで糸のように細まり、前が見えているのかどうかも怪しい。
この瞬間までは見知らぬ同士。少年はすたすたと事も無げにベンチの前に差し掛かり、通り過ぎようとするが。
ふと、スナの目の端にフォーコの持っている笛が映る。
「………む! お前さん。その笛……。もしや、そこの露天で買ったのか?」
少年は足の向く先を変え、フォーコの目の前まで寄ってくると、そう問うた。
未だ幼く見えるシルエットと裏腹に、声色は低く、堂々としている。見れば喉仏は大きく出張っている。
「俺も少し前に見かけて、ちょいとばかり気になっておったんだがの。
……あ、いや、譲って欲しいというわけではないがな。本当にちょっと、気になっていただけ」
■フォーコ > 「ああ、先ほどな。 結構いい値がしたよ。
君はこういう品に詳しいのかい?
見たいのなら好きなだけ見てくれ。
但し、魔獣が出てくるらしいのでここで吹くのは控えた方が良いな。」
糸目の少年の方へと笛を差し出す。
見た所年若い平民地区の少年といった姿だが出てくる声と漂わせる雰囲気からただの少年ではないと思った。
そんな少年が興味を持つだけあって本当に凄い品なのだろうか?
私の中で僅かな期待が産まれる。
少年がこの場で吹いてしまう可能性を考えないわけでもなかったのだが、
この場には巡回中の兵士も居るのだし、最悪私が取り押さえれば良いだろうと思っている。
■スナ > 「らしいな。何らかのバケモノが封印されておるという。俺も露天の奴にそう教わった。
即買わんで、図書館やらで詳しい情報を調べてから買おうと思っとったが、詳しいことはよぅ分からんでな。
そうやって躊躇しとる内にお前さんに先を越されたっちゅーわけだわな。ククッ、優柔不断は悪い癖じゃな。
……そうそう、俺はスナと言う。この街に暮らしておる、ただのプー太郎じゃよ」
差し出された笛を、スナと名乗った少年は受け取らず、ニマニマと薄ら笑みを浮かべながら見つめている。
「うむ、ここで吹くのは危険じゃの。じゃが……本当に魔獣が封印されておるのか気になりはせんか? 俺は気になる。
ほれ、そこの路地に入って、一度吹いてみるってのはどうかね?
そこの路地の奥まった行き止まりは、ちょうどそいつをお前さんに売った露天商の家に面しておる。
万一ヤバいやつが召喚されても、まず被害に合うのは売りつけた露天商、自業自得といえよう?」
スナは、親指でクイクイと付近の路地の入り口を指差し、誘おうとする。
……この少年、実は嘘をついている。笛が気になっていた、先に買われた、というのはデタラメ。
実はスナはこの笛を売りつけた露天商とグルなのだ。
笛の魔力の正体、中に入っている獣の正体が気になった者を焚き付け、笛を吹いてみたい気分にさせる。
吹いてみたら、スナが自身の能力で幻覚を作り、魔獣が召喚されたように見せる。
何の変哲もない笛を魔法の笛と信じ込ませられれば、偽物を売りつつも露天商の信頼は保たれるだろう。
見返りにスナも色々と便宜を計ってもらえるというわけだ。
さて、うまくいくかどうか……。
■フォーコ > 「図書館で調べようとしていたのか。
なるほど、その考えは一利あるな。 君は賢いな。
しかし、その間に私が買ってしまったとあっては申し訳ない。
私はフォーコ。 王国所属の騎士をしている。」
笛に興味があるのかと思いきや、少年は笛を受け取らず笑みを浮かべるだけであった。
「そうだな、私も気にはなるのだが。
いやいや、そういうわけにはいかんだろう。
万が一危ない魔物が現れたとしたらそれは店主がちゃんとした品を売った証拠だ。
その彼を危ない目に合わせるわけにはなあ。」
笛そのものにも魔力を感じていたが、このスナと言う少年にも多少なりとも魔力を感じる。
そして、何故か私に笛を吹かせようともちかけてくるではないか。
私は彼の意図が分からず、瞳を瞬かせていた。
昔からこういう探るようなことは苦手なのである。
「それよりも君が調べてみることは出来ないのか?
見れば私よりも頭も良さそうだ。
なんなら貸してもいいぞ。
ちゃんと調べてくれれば報酬も出す。」
私は一度ひっこめそうになった笛をスナの前に出した。
彼がどのような人間かはまだ分かっていないが賢くて物知りであることは間違いないだろう。
あとは邪な類の人間でなければ良いのだが。
■スナ > 「フォーコか。……む、騎士様じゃったか。それはそれは。
非番なのかね、ド平民ごときが気軽に声を掛けちまってすまなかったの」
身分を聞くと、スナは謝罪めいた言葉を紡ぎながら軽く頭を下げる。
だが薄ら笑いは張り付いたまま。本気で気後れしているわけではない、そちらも気を遣うな、と暗に諭すように。
……しかし、余裕ぶっている仕草とは裏腹に、スナは内心舌打ちをしていた。
この国の騎士に所属できるようなエルフがいたとは。相当に堅物で、勘も強いだろう。難敵だぞ……と。
「……なるほどな、それは一理ある。やはり街中で吹くのは危なかったかぇ。
それに確かに、騎士様でも止められぬような魔獣が出てきたら、露天商の家がどうこうで済む話でもないな。
最悪フォーコの経歴にシミが着くかもしれぬ」
スナは顔を歪めて笑みを消し、今度はフォーコが持った笛を忌々しく睨みつけるような仕草をする。
「……お前さんが買った笛を、俺が調べる、なぁ。本や杖ならいいが、笛だからの。口に触れて吹くモノじゃぞ。
まぁ……でもお前さんが良いというなら、俺が少し調べてみようかの。
一応俺もこの手の道具に通じとらんわけではないからな」
言うと、スナは改めて差し出された笛を今度は慎重に両手で受け取った。
そして鼻に掛けた丸眼鏡をクイと正すと、笛をじろじろと全方位から睨むように検分し始める。
……しかし、10秒もしないうちに、「ふむ」と得心したような声を漏らすと。
スナはおもむろにそのホイッスルめいた笛の吹口に唇を触れさせ、息を吐いた。
ピィ、と甲高く小さな音色がしばし響く。
「………む!」
途端、スナの頭上に3つの小さな綿雲が音もなく膨らみ、弾けた。
中からは、黒い毛並みの猫が3匹現れる……しかし、彼らの背中にはコウモリめいた翼が。そのまま2人の頭上を旋回し始める。
夕闇に溶ける黒は、周囲の民衆からは気付かれづらそうだ。
「……出たな。コレはたしか……けっとしーとか何とか言ったか。可愛らしい魔獣じゃの?」
しばし旋回を目で追っていたスナだが、フォーコに向き直ると、柔和な笑みを作って向けた。
……当然だが、このケットシーもスナが作った幻覚である。妖狐の幻術、見抜けるか。
■フォーコ > 「なあに、私はそういうことはきにしない方でな。
今後とも気軽に声をかけてくれ。」
彼は薄ら笑いを浮かべたまま頭を下げてきた。
私も笑みを返しているが先程から警戒心が湧いてきている。
彼はひょっとしたらなかなかの食わせ者かもしれない。
「まさしく君の言うとおりだ。
世の中、分岐点と言う物はどこで転がっているかわからない。
この笛を吹いたことで街の暮らしが一変するかもしれないぞ。」
そんなことは無いだろうと思っているが、確証がない以上無暗に試すことは出来ない。
「それは助かる。
私はそう言ったことは大の苦手でな。」
スナの表情が険しくなったことが不思議ではあった。
元から興味があるのなら調べたくないのだろうかと。
とにかく、私は彼に笛を託すことにした。
笛を見つめる姿は鑑定をしている技術者と言った所。
私は静かにそれを見守っていた。
わずか数秒の間が私にはより長く感じられた。
「おいおい、吹いても大丈夫なのか?」
突然噴き出したことに驚いてしまう。
大丈夫だろうか。
しかし、どうやら杞憂であった。
頭上に雲が現れたかと思いきや姿を見せたのは翼の生えた3匹の猫である。
「おお、なんとも可愛らしい猫ではないか。
で、この子らのどこに強力な要素があるのだ?」
私はこの3匹の猫が幻術であるとは気づかず、一人で喜んでいた。
スナも優しそうな表情を浮かべている。
だが、そうなると店主が言っていた強力な魔獣とはこの子らになるのだが。
見る限り強力にはとても思えなかった。
■スナ > しばし頭上で輪を描く魔猫の姿を目で追っていたスナだったが。
再び笛を口に加え、ピ、と先程よりもさらに短く息を切って音を発すると、3匹のケットシーは再び白い煙に戻った。
渦を巻き、引き伸ばされるように笛の鳴口に引っ張られ、吸い込まれてしまった。
「ふーむ、やはりな……」
スナは笛の口を細目の間から覗き込み、わざとらしく指で顎をいじって見せながら、思案する仕草をする。
「本で読んだアイテムとよく似ておると思ったが、たしかにコレは魔法のアイテムじゃろうな。
《妖精喚びの笛》、さっきの猫も妖精の一種じゃ。魔獣とはちと違ったが……ククッ、俺らにとっては似たようなものかもな」
スナはにこりと人当たり良さげな笑みをフォーコに向け、流暢に説明する。
もちろん嘘八百。だが先んじて脳内設定は綿密に練り上げているため、その説明によどみはない。
語りながら、スナはフォーコから預かった笛を強く振り、唾液を地面に飛ばす。吹き口を服の袖で軽く拭う。
そしてフォーコへと差し出した。
吹き口は二度咥えただけだしきちんと拭ったが、鼻を近づければ異国の香木の香りが残っているだろう。
「いいかい、騎士様。さっきの猫も無害に見えるが、ただの猫よりも遥かに知能が高いと言われておる。
うまく行使すれば、仲間への情報の伝達や、見知らぬ地の偵察にも使えよう。何事も工夫じゃよ。
それに……俺が仕入れた情報が確かなら、吹く強さによってもっと強い妖精も呼べるらしいの。
自衛や戦いの助けになる妖精もおるじゃろ、そういったのを喚んで味方にできるなら、いいアイテムじゃないかね?」
フォーコに差し出した笛をニコニコと見下ろしながら、スナはこのアイテムの正しい(?)使い方を教授する。
実際、似たような力を持つ召喚具は探せば見つかるだろうし、弱いアイテムにも弱いなりの使い方はある。
……この笛は、きちんと卸された同種のアイテムに比べれば明らかに安価だったけれど。
「ほら、フォーコも吹いてご覧。弱く吹けば、きっとさっきの猫がまた出てくるよ。
何が出ても、短く詰めて吹けば送還されるはずじゃ。……と本には書いてあったが。さっきもそうなったしの」
■フォーコ > 「おお、凄いではないか!」
笛に吸い込まれる所を見ていると、私は気が付くと両手で拍手をしていた。
声も興奮気味で、声量も大きくなっている。
「君にとっては似たようなものかもしれないが、私にとっては
まるで別物に見えるのだが。 見ているだけで気が狂いそうな強力なものを期待
していたのだがなあ。 まあ、実際に出てくるだけで喜ぶとしよう。」
スナの説明は実に分かりやすく、私の頭では何も不思議に思わなかった。
首を縦に振って頷きながら聴いていた。
綺麗に拭ってから返された笛を両手で受け取る。
彼は紳士的な人物の様だ。
私の中の印象が書き換えられていく。
「その手の事なら団のメンバーに幾らでも出来る者がいるのだがな。
とにかく面白い品が手に入っただけでも喜ぶとしよう。
調べてくれて助かったよ。」
私は受け取った笛を角度を変えてあちこちと見やりつつ、彼の説明を聴いていた。
話しの内容的に、期待していた用途とは異なるが面白い品ではあったようだ。
「では、私も吹いてみるぞ。」
スナに促されるままに短く笛を吹く。
果たして、出てくるのは先ほどの猫達か。
それとも別の魔物達か。
■スナ > 「ククッ、いついかなるときにも仲間の騎士の助けを得られるとは限らぬじゃろう。
そんなときに、こんなちっぽけな笛1つ持ってたゆえに、状況を打開できるというケースもあるじゃろ。
魔法道具というのはそういうもんじゃ。よく斬れる剣、火を噴く杖ばかりが魔法道具ではない」
このあたりのセリフはスナの本心……もとい、身をもって知った知識。歴戦の冒険者もきっと同じ結論に至るだろう。
さてさて、いよいよフォーコもスナの口車に乗って、笛を吹こうとする。
スナは作り笑いを維持しながら、内心で心構えを作り、神経を集中させる。
フォーコを驚かせる幻術の精度を上げるために。そして、自分が作り出す幻像を見て、吹き出し笑いをしないように。
「………む!」
短い音色が鳴ると同時に、スナがやったときと同様に、フォーコの頭上に3つの煙玉が音もなく弾けた。
中から出てきたのはやはり黒い毛並みを持った家猫サイズの有翼獣……だが、その様相は「猫」とは全く異なった。
身体の大半は黒い毛に覆われているが、首から先は薄茶色の皮膚が剥き出しになっている。
そして頭があるべき場所に生えているのは……なんと巨大な陰茎。頭蓋のかわりに粘膜色の亀頭がくっつき、鈴口がぽかりと開く。
よく見れば、4本の脚の先、尻尾の先も同様に男性器めいて粘膜が露出し、先端を亀頭としている。
フォーコが当初予想していたような「見ているだけで気が狂いそうな」姿の獣。
3匹はコウモリの翼を拡げてしばし旋回していたが、うち1匹が音もなく高度を下げ、ベンチに座ったフォーコの膝に降りてくる。
《Pggggggggggrrrrrrrrrhhhhh…………》
その異形は砲門めいた鈴口をフォーコに向けると、豚の鳴き声を甲高く歪ませたような鳴き声を漏らした。
2人の周囲を、ひどい悪臭が包む。まるで煮詰まった恥垢のような性臭。
多くの者はとっさに鼻をつまみ……幾ばくかの性癖強者は興奮を掻き立てられるような匂いだ。
この匂いも、そしてフォーコが脚に感じる召喚獣の体重も、やはり幻覚だ。スナの幻術は五感を尽く欺瞞する。
「こ、これはなんとも……騎士様。消す時は短く吹くんじゃぞ。わかっておりますな」
スナはその匂いに鼻を曲げる仕草をしつつも、憮然とした面持ちと声でそう諭す。
■フォーコ > 「スナの説明は実に的確だな。
仰っている通りだ。
確かにこの小さな笛一つで状況が動くのなら団のメンバーにそろえても良い位だ。」
私はこの笛が一点ものであることが惜しく感じられた。
これほど便利な品なら団全員に渡したい。
私は笛がどのような結果を産むか少し不安でもあった。
しかし、それでも目の前にいる少年の魔力が高まっていることに気が付いた。
不意の事態に備えているのだろうと、この時は肯定的に捉えていたが。
「おお、これはまた見事な魔物が出てきたものだな。
まさに魔物と言うにふさわしいではないか。」
先程の猫とは違い、私の期待通りの醜悪な魔獣である。
剥きだしの皮膚に、巨大な一物の頭。
思わず自分のモノとどちらが大きいか比べそうであった。
しかし、ここでようやく気付いてしまった。
鼻につく臭いと、耳をつんざくような奇声を上げているにもかかわらず、
周囲の人々はそんな事実はないとでも言わんばかりの無反応であった。
こんな化物が3匹も突然現れたら、文句の一つでも言われそうなのだが。
そして、膝に座った化物は重さこそ感じるものの触れた所で
質量を感じず、代わりに魔力を感じた。
そう、目の前にいる少年と同じ魔力を。
「こういうことは感心せんなあ。
私が非番でなければとっくに荼毘に付しているぞ?」
鼻を塞ぐ仕草までしてみせる少年役者の頭にデコピンをお見舞いしよう。
尤も、届けばの話であるが。
■スナ > スナ本人ですらドン引きするレベルの醜悪な獣を、想像の軛から放ち、目の前の女性に見せつける所業。
当然この耳長の騎士様は悲鳴を上げ、慌てふためくだろう。それが普通の反応。とはいえ、細かい点で言えば反応は人それぞれ。
どのような反応を見せるかと心中でほくそ笑みながら、己の作った悪臭の幻に耐えつつフォーコを観察していたが……。
「………騎士様?」
異形の陰茎獣を視界に捉えても心乱さず、魔物と呼びながら感心するような仕草を見せる。
あまつさえ、スナへと何かしら咎めるような文句を吐き、デコピンまでお見舞いしてくる始末だ。
さすがに面食らい、デコを弾く一撃は避けられなかったが。
「……何を言っているのかぇ、騎士様。感心せぬ、とは。
フォーコは笛を吹いた。そしてこの獣が現れた。それだけ。だのに、俺が何かしたとでも言いたげな様子。
騎士様はこの獣が気持ち悪くはないのかね……これはまるで、その、チンポみたいではないかぇ」
スナは渋い面構えを作りながら、懸命に言葉を練り、自分自身も予想外だった風を装う。
とはいえ、当初から保っていた平然とした態度は徐々に崩れつつある。言葉の端々に詰まりと震えが混じる。
いらぬ騒ぎを起こさぬよう、幻覚の範囲をこの2人の周囲だけに絞っていたのが災いしたのかもしれない。
しかしそれを差し置いても、いやむしろ予想通りなのかもしれない、エルフの勘の鋭さはスナが思っていた以上だった。
スナの幻術は妖怪としての法力。魔術とは似て非なる物で魔力は介されないが、「意志の力が働く」という点では同じ。
そういった力の流れに敏感であれば、勘付かれることは決して皆無ではない。
「と、とにかく。フォーコはこの匂いがなぜか平気な様子じゃが、俺はちょいと耐えきれん。
周りの人に騒がれても困るし、一旦消すぞ」
スナは苛立たしげにフォーコの手から笛を奪おうとする。
うまく奪えたならば、先程と同様に笛を短く吹き、召喚獣を虚空に消そうとする。
スナが作った幻覚なのだ、消そうと思えば一瞬で消せるものだ。それでも、未だスナの芝居は続いているのだ。
この一貫性こそがスナの幻術に確固たるリアリティをもたらす。今となっては無駄な努力かもしれないが。
■フォーコ > 「確かに良い匂いや形をしているとは言えんが、こういう生き物も戦力になるのなら扱うべきだろう。
それよりもスナよ。 これだけの臭いを放っているのにまるで騒ぎになってないではないか。
あそこなぞ、飲食店だぞ。 営業妨害だとこちらに怒鳴り込んできても可笑しくない筈がまるで来ないではないか。」
デコを指先で弾くと、幻影の獣の頭を摩っている。
精液の様な粘ついた液体に触れた感触が伝わるが、一度幻と知れてしまえばどうと言うことは無い。
そして、私が口にした店は甘味を売っていた。 だが、店主らしき人物はこちらを気にすることなく
客に商品を売っている。 そして、買った客もその場で食べていた。
どうやら、この異臭を感じているのは私だけの様だ。
恐らく、スナ本人は何も感じていない状況で演技を続けているのだろう。
たいした役者ぶりだ。
「まあいい。 この笛は渡そう。
仮にこの笛が偽物であるならば店主の方を締め上げれば何か面白いことを吐きだすかも知れんしな。」
私は笛を奪おうとする少年に呼子を差し出す。
視線の先は少年ではなく、笛を売った店主だ。
今にして思えばこの少年が現れたタイミングも良すぎた。
どちらかだけでも捕まえて拷問にかけるのも面白いかもしれない。
私は酷く醜い顔で笑っていただろう。