2017/01/16 のログ
■ラティ > 「……チッ」
いつまでも此処に居たってしょうがない。
傍にあった果物の木箱を押し退け、露店の合間を縫うようにして歩き出した。
どこに行くかは決めていない。気の赴くままに。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からラティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にシルヴィアさんが現れました。
■シルヴィア > ――王都マグメール平民地区
酷く寒い夜の時間帯、まだ眠りに堕ちぬ人々が享楽にふけ、一夜限りの楽しみに溺れるそんな夜更けの事。
大通りに並ぶ店の半分は閉まり、半分はそんな人々の賑やかな声が通りの方まで木霊して、決して少なくない通りを行き交う人々の雑踏がその音を掻き消す、何時もの日常、何時もの光景。
その日常に今宵は一つだけ小さな亀裂が走る。
誰も気がつかない、誰も認識でない、誰も感じれない小さな小さな亀裂。
それはまず最初に通りの中心にポっと淡い黒紫の鬼火が輝きとして現れ、鬼火は輝きを増す事無く、直ぐに霧散してふわりと広がると、刹那其処には人影が一つ現れていた。
誰もが彼を見ていない、誰もが彼女を認識していない、誰もが知らず知らずのうちに鬼火のあった場所を避けて歩いている。
彼を彼女を認知している者など今通りを行き交う人の中にはいないだろう……、それを見ようとするかそれに選ばれるかしない限りは其処に存在するのは不可視の空白。
だが、それも人影が完全に姿を見せるまでのほんの僅かな時間だけ、其処に最初から存在していたかの様に黒紫の陽炎纏う小さな人影が完全に実体化すれば人々は時折ちらりと小さな人影に視線を向け、不思議そうに首をかしげて通り過ぎていく。
――街に有り触れた銀色の髪、しかしその長さは異様の一言に尽きる。
前髪は長く相貌を隠し、薄い唇だけをくっきりと目立たせる長さ、後ろ髪も人影の膝裏に触れる長さである、一度見れば二度見してしまう姿だろう。
服装もまた不思議なもので袖の長い白い簡素な服に素足という寒そうな衣装に、其処から伸びる送信痩躯、絵本に出てくる幽鬼だと誰かが呟いてもきっと誰も否定できないそんな姿だ。
「………賑やか、こんな時間なのに、眠くらないのかな?」
輝く長い前髪が隠す相貌から唯一零れでている唇で小さく小さく独り言のように呟き、誰に向けるでもなく、軽く小首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる。
この賑やかさは何時になっても慣れない不思議な物で、姿を見せるたびに同じような事を呟いているのだと、呟き終わってからハッと気がついて、今度は頬が軽く引き攣りあがる。
此処までが何時もの事、今宵は直ぐに姿を消すのではなく、そんな呟きを零した後に少しだけ賑やかな夜を散歩する事にした。
地面についているようで、ついていない素足で、ひたひたと通りを歩いていく、目的もなく、ただただ空気を味わう為に。
■シルヴィア > 白い簡素なシャツから伸びる痩身痩躯ながらスラリと長い手足に指先、衣服のあちらこちらから露出している肌でさえまるで死人の如く青白い、それに身に纏う魔力や霊力の適正者には見える黒紫の陽炎、それは髪の一本一本全てにおぼろげに纏っている、その姿は人に非ず、と認識するに容易いが、行き交う人々の眼には寒そうな少年が歩いているな、程度にしか認識出来ないだろう。
だがよくよく観察すれば眼の渇きを潤す為の瞬きは緩慢で、吐く息は白く湯気のように濁る事はなく、新陳代謝も何もかもが人からズレて見える筈である。
それをしないのはそんな「国」であり「住人だから」だろうか、それを良い事に死人は生者の世界を彷徨う、誰かを探す素振りは欠片もなく、歩く事を時々店を覗く事を楽しみにしている風に……。
実際暗い記憶しか持ち合わせていないので、楽しくはあるのだ。
眼に映る何もかもは新鮮で生きている事には夢に見たものばかりだ。
忌々しき地下の世界、此処は明るく騒がしい地上の世界、汚したくて汚したくて汚したくて喰らいたくて喰らいたくて喰らいたくて幸せそうな顔を誰しも浮かべている憎くて焦がれる世界。
――でもそれを壊す事も汚す事もしない
取り込んだ魂たちがそれを良しとせず、故に指先は魂を無尽蔵に吸い尽くすマネは出来ない、だがそれも良い、壊すのも楽しむのも死霊にとってはどうでもいい、結果楽しければよいのだ。
……と鼻腔を擽る芳しい香りが一つ
鼻先をひくっとさせて匂いを嗅ぎ、足はふらふら~っと頼りない足取りでにおいの下へ歩いて行ってしまう。
その先にあるのはこんな時間でも賑やかな屋台の一つ、匂いからして串に肉でも刺して焼いているのだろうか、ゴクと生唾を自然に飲み込んで喉を潤す感触を味わいながら、本能と定めに従いふらふらふわふわ。
「………いいにおい………。」
嘘偽りない言葉、死者で有りながら食事を必要とする身体を同時に持ち合わせているからの言葉。
細かく言えば餓死する事はなし、痩身痩躯のこの身体はカロリーを必要とはしない、だが、だが精神が安定の為か食を求めるのだ。
■シルヴィア > ふらり、ふらり、ゆらゆら……
と、おぼつかない足取りで向う一軒の屋台。
イイ匂いの元である事は間違いないのだが、屋台の主人がうずくまり、どうもお店は開店休業中らしい、何故?と思わずうずくまる主人の方にひたひたと足を向けると、一目見て主人がどうしてうずくまっているか理解する。
その者が死者であるが故に
死者の眼は生者の魂を見抜き
欠けた箇所を認識する………
死者の少年の瞳に映るのは主人の左手だけが
魂が美味しそうに焼け爛れて死者の色に黒に染まりかけた姿。
故に死者は再び生唾を飲み込む、美味そうな「匂い」と美味そうな魂に思わずゴクリと……。
しかし、死者が選ぶのは魂ではなく屋台の上に並ぶ死肉……という名の串焼き肉。
恐ろしく長い前髪の合間から浮かぶ唇で淡い笑みを浮かべると、聊か強引に主人の左手を両手で包み込み、高らかに治癒の魔法を歌う。
「………………………………。」
人ならぬ人の歌声、魔力を持つものには鳴き声と聞こえる奇跡を願う歌声、死者だから今は血を与える事ができないからこそ、歌を魔法に変えて、死者が呪う傷を与える魔法を逆転させて、治癒の魔法に変換させて、主人の傷を癒そう。
――堕ちた天使の歌声は暫くして肉を美味そうに咀嚼する音へと変わるだろう。
何事にも対価は必要なのだ特に疲れた時には肉は最高なのだ。
主人から貨幣の代わりに肉を受け取った死者は治癒の歌ではなくただの鼻歌を歌いご機嫌で再び歩き出す。
目的地も行く先も当て所なくふらりふらりふわりと…
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシルヴィアさんが去りました。