2016/11/18 のログ
マノとロノ > 「うわっ、飛んだ」

小さい体に翅、飛ぶことは想像できたが、その仕草を見せればさすがに赤目はたじろいだ。青目は微動だにしなかったが。
そして、こちらに襲いかかってこないことを確認すると、赤目も再びその小人に目線を合わせ、じろじろと臆面もなく観察している。
周囲を暖かく甘い空気が包む。赤目は、冬の路地に束の間生じたホットスポットの心地よさにうっとりと目を細め、鼻をさかんにヒクヒクとさせて匂いも堪能しているようだ。

「キミはティネっていうんだね。僕はマノ。こっちがロノ。はじめまして。
 ……女の子だったんだね。自分のことをボクって呼ぶ女の子、珍しい」

名乗られれば、名乗り返す。と言っても喋るのはやはり赤目のマノのみ。
ロノと呼ばれた青目は無表情で、口を開く素振りすら見せない。

「この暖かい空気もティネが作ってるんだ。小さいのに、すごい。
 僕たちも暖かい空気は作れるけど、こんなに大きく暖めるのはちょっと疲れるし、匂いは作れない。やるね、ティネ」

言いながら、赤目と青目の少年は、その間で結んだ手にわずかに力を込め、肩の高さまで持ち上げる。
すると、ティネの翅の後ろの空気が急速に暖まっていくのを感じるだろう。

ティネ > 「そりゃ飛ぶさ。こんな小さな体で歩け、って言うの?
 青目の子は恥ずかしがり屋さんなのかな」

ふわふわと、自分の有様を見せびらかすように目の前で旋回してみせる。

「はじめまして。ふふ、故郷じゃ男の子の友達が多かったからうつっちゃったのかもね。
 ……それ男の子に見えてたってこと? ちょっと傷つく~」

明るく弾む声に、特にしょげている様子はない。
じろじろと眺められたり、魔法の腕を褒められれば、少し気恥ずかしそうに笑う。

「へへー。ボクって才能ある? もっと褒めてくれてもいいよぉ。
 ……おっ、なんだこれ? すごくいい感じだ……?」

自分の背中がじんわりと暖かくなる。これは気持ちいい。
表情を緩め、リラックスした様子で宙で縦方向にくるりと一回転して喜びを表現した。

マノとロノ > 「ごめんね、ティネ。人間って、ある程度成熟してないと、見た目で男か女かってわかりにくいから。
 僕たちもたまに女の子に間違われたりするもん。ロノはそう覚えてる。
 ……あ、ロノはちょっと……えーと、喋るのが苦手なんだ。うん、恥ずかしがり屋。気にしないで」

饒舌と言えば饒舌、しかしその口調は淡々と。
ロノに比べれば赤目のマノはよく喋るが、その口調に感情を見出すのはやや難しいかもしれない。
……小さきものに注がれる赤と青の視線は、興味と好奇心でらんらんと輝いているが。

「んー、ティネのこれは魔法なのかな。僕たちのは魔法じゃない……と思うけど、よくわからない。生まれつきできること。
 暖かくしたいって2人で強く考えれば暖かくできる。空気よりも自分たちの身体を暖めるほうが得意だけど。
 ティネ、他にどんな魔法を使える? いろいろ見せてくれたら、いっぱい褒めてあげられると思う」

2人の握られた手が下がると、ティネの背後に生じた熱気はすっと消え去り、初冬の気温に戻る。
そして2人の少年は同時に、ふぅ、と深い息をついた。あまり長時間は空気を熱することはできないようだ。

ティネ > 「あ~そうね……ってフォローになってなくない?」

服の上から自分の胸を掌でなぞった。……
あまりこのあたりのことを掘り下げても自分にとっては良いことはなさそうだ。
マノの喋りにしてもどことなく違和感を感じるが、深くは考えない。
自分のほうが人間基準では変なのだから。
注がれる視線がくすぐったくて、ちょっとどきどきする。

「そうなの? 知り合いにも、魔法みたいな魔法じゃないワザを使う人がいたなぁ。
 まぁ、どっちでもいいじゃない、便利なんだし。
 ボクの魔法は、そうだねぇ~大それたものは使えないけど……」

そう言って、二人の少年の足元の影をまるで生きているように躍らせたり、
なにもない場所に小さな灯をともしたり、
風に運ばれてきた落ち葉を偽の金貨に変えてみたり。
いずれも長持ちしない、ささい不思議な魔法だ。

「へへー、どう……、っと」

いくつかの魔法を見せると、ふいに糸が切れたように二人の足元にぽとりと墜落してしまう。
双子同様に、ちょっと疲れてしまったようだ。

マノとロノ > 「「おおーー」」

小人が宙を舞いながら、2人に見せてくれる数々の奇術。
多少なりとも魔術を学んだ、あるいは触れたことがある者であればそうは驚きもするまい芸当であろうが、2人の少年はその1つ1つに感嘆の声を上げ、視線を右往左往とさせる。
いままで声ひとつ発しなかった青目のロノも、マノと声をハモらせて驚きを表現する。

「影を操ったり、落ち葉をお金に変えたり、そういうのも僕たちはできない。
 ティネ、いろんなことができるんだねぇ。すごい! 勉強になる………っあ!!」

軽く手を叩きながらティネを褒めそやすマノ。その口調も淡々としたものから徐々に興奮の色を帯び始める。
しかし、その目の前で小人が飛ぶのをやめ、重力のくびきを受けて墜落するのを見れば、彼らも驚きに目を見張る。
びくりと8本の四肢が痙攣し、さすがにとっさに手を添えて受け止めるような真似はできなかった、が。
地に落ちた小人へとすばやく手が差し出され、マノとロノの空いた手を合わせて作った器でそっと包み、介抱する。

「大丈夫、ティネ? 結構高いところから落ちたように見えたけど……えと、ティネから見ると高いとこから。
 疲れちゃったの? ごめんね、いろいろ無理にさせちゃって……」

先程の嬉しそうな瞳から一転、マノの顔には比較的色濃く、ロノの顔にもうっすら、不安と焦燥の表情が浮かぶ。
寒々しい格好をしている少年2人だが、その掌は一丁前に暖かい。

ティネ > どこかぎこちないながらも素直に驚きを表現する二人に、
ティネの中に少しだけあった怖い印象はいつのまにかどこかに消えていた。

墜落した自分を慮る視線に、ちょっと申し訳ない気分に。
確かにティネの背丈からすれば建物から落ちたようなものだけど、
すっかり慣れてしまったし、怪我もしていない。
……昔はすごく怖かったのだけど。

「あー、だいじょぶだいじょうぶ。
 ちょっとはしゃいだだけだから、すぐ良くなるよー」

はつらつとした様子の笑みを二人に向け、そう大した事ないと教える。
ちょっとおなかがすいたぐらいだ。
でも今すこし、せっかくだからここで温まらせてもらおう。
雛鳥のように軽く弱い身体を掌の上に寝そべらせて、居心地良さそうにすりすりと擦り付ける。

マノとロノ > 「すぐ良くなる……ならよかった。良くなるまで暖かくしてあげるからね」

緊張した面持ちで手の中を覗き込む2人に、笑顔を向けてくる妖精。
その様子を素直に受け取ったマノとロノもまた、安心したように表情をほころばせる。
2人の手のひらの上で気持ちよさそうに寝そべる小人に、マノとロノは手を極力動かさないように注意しながら、冷たい地べたへと座り込む。
そして、握りあった方の手にまた力が篭り、集中するように赤と青の目が薄く閉じると……。
2人の白い皮膚の中に熱い湯が通い始めたかのように、ティネの寝そべる掌がぽうと柔らかな熱を帯びる。
うっすらと汗が滲み、乾いた空気から小人を守るように周囲を適度な湿気が漂い始めた。

「ねぇ、ティネは……えーと、人間じゃなくて妖精なんだよね。
 普段はどういうご飯を食べてるの? あと……この街でどうやって暮らしてるの?」

手の中で介抱しながら、マノの質問攻めは続く。

ティネ > 「うん、ありがと。優しいね、ふたりとも……」

目を細めて手の中で安らぐ。
暖かな掌が二人の力でより暖められて、じんわりと心地いい。
身を覆っていた脱力感は薄らいできたが、いつまでもここに甘えていたいと思ってしまう。

「うん、妖精……だよ。
 いろんなところで寝泊まりしてるんだ。
 ごはんはねぇ、えーっと……ふふ、どんなのを食べてると思う?」

宿の空き部屋や屋根裏に勝手に忍び込んだり、
食べ物は適当にくすねたり……とは、ちょっと言いにくくて、
質問し返して誤魔化してしまう。
マノの遠慮のなさには驚くけど、自分に興味を持たれるのはそう悪い気分はしない。

ふと、自分を包む手に汗がにじみ始めていることに気付く。
なんだかおいしそうに思えて、おもむろにぺろりと舌を這わせてしまう。

マノとロノ > 「ティネが優しくておもしろい人だからね。僕たちが優しくしない理由はないよ」

ティネの言葉に、マノはなんとも率直な自己分析を述べる。

「いろんなとこ。じゃあ、家はないんだ。僕たちと同じ。
 僕たちも家がないから、いろんなところ……大体は道端だね。そういうとこで寝てる。ティネは小さいから風はしのぎやすそうだね。
 ご飯は……うーん、ちょっと考えてみる」

手の中から聞こえてくる声に、赤と青の視線を投げかけながら軽く頷きつつ耳を傾ける2人。
ご飯についてはぐらかされると、生真面目に考える様子さえ見せる。
……実際、この2人には「妖精」という種族の知識はない。この小娘が初見だ。
身体が小さく、翅が生えている以外は人間と変わらない姿形。であれば、人間と同じものを食べるのだろうか。
……とはいえ、そもそもこの子が人間と同じサイズの肉やパンに喰らいついている姿はなかなか想像しづらく。
それ以前に、どうやってこの人間社会でそういった食べ物にありつけるのか。お金を持っているようには見えない。
となれば、食事の見つけ方はおそらく、自分たちと同じように……。

「……んっ…?」

…と、首をひねりながら思考を巡らせていると、掌にチョロッとくすぐったく湿った感覚が走る。思わず艶っぽい声が漏れる。
舌で舐められている、ということはティネの様子と感覚からすぐに分かった。マノは口を尖らせ、ティネに顔を近づける。

「……ティネ、なんだか動物みたい。猫とか、ネズミとか。
 きっと、僕たちと同じ……肉とかパンとか、たまに草とかを食べてるのかな。僕はそう考えた。
 ……手、かじらないでね」

そう言いながら、血行を促進し暖かくティネを包む掌は離さない。半球状に小人を受け、舐められれば舐められるまま。

ティネ > 「そうなんだ。
 ふふふ、いろんなところに潜り込めるものね。羨ましい? 小さいの」

にこりと笑う。
マノの言葉は子供ゆえの率直さなのか、はたまた大人びているのか。
ティネには少し判別しかねるところだった。

「あ……」

少年の発した声にどきりとして、自分のしたことを遅れて自覚する。
覗き込んでくる大きな瞳を盗み見る顔が紅い。

「うん。だいたいあってるよ。
 ボク……ネズミにも喧嘩で負けちゃうから」

小動物呼ばわりされて、けれど憤る気にはなれなかった。
かじらないで、という控えめなたしなめに、自分の行いを受け入れられた気がした。
見下ろすなか、浅ましくも映る様子で、汗の珠を舐めていく。
自分が飢えていることをようやく知ったように。

……あらかた見える範囲を舐めてしまえば、それをやめて上体を起こす。
切なげな潤んだ瞳で見上げた。

「……ねえ、ボク、もっとほしい。
 おなかすいちゃったんだ……
 汗、じゃなくてもいい……おねがい……」

それを二人は許してくれる気がして、飢えた小鳥のようにぱくぱくと口を開く。
何かを欲して。

マノとロノ > 「あー……ネズミには負けちゃうんだ。そうだよね、そんな小さな身体だとね……」

ティネという人物、小人、妖精という存在が徐々に飲み込めてきた(気がする)マノ。
彼女に感情移入し、ネズミに相対したと考える……自分と同じかそれ以上のサイズの巨躯のネズミ。それが牙をむき、追いかけてくる。
……ぞっとする話である。実際、彼らの表情はにわかに曇り、掌に震えが走った。

「……気をつけて暮らさないとね。ネズミに見つからないように、高いとこを選んで潜り込まないと。
 うーん……羨ましい、といえば羨ましいかも? 一度は、ティネみたいに小さくなって、ティネの見てるような世界を見てみたい。
 ずっと小さいまま、ってのはちょっと怖いけれど」

掌を小さなぬめりが行き交う感覚に顔を歪めながらも、率直に感想を言い放つマノ。
自分たちはこのサイズで作られ、この娘はこのサイズで作られたのだ。
身体のサイズを大きく変える魔法や術もあるだろうが……使えたら苦労はしないし、この子も苦労はしていまい。

掌の全面が汗と唾液でテカテカと艶めいている。その様子に、マノもロノも特に不快感を見せてはいない。
そして、中にいる小人にさらにおねだりをされると、2人は同時に首をかしげ、そして繋いでいた手を束の間解いて、自らのポーチを探る仕草をする。

「もっと。うーん、僕たち干し肉しか持ってないけど、食べられるかな?」

マノが懐から小さい干し肉の欠片を取り出し……それでもまだ妖精の頭よりも大きいサイズ。
ロノの手も借りてちぎって小さい欠片にしようとするが、固く、なかなか手頃なサイズにはならない。
諦めて、親指くらいの大きさの肉をティネに差し出す。

ティネ > 「だよねー。
 結構楽しいこともあるけど、それ以上にしんどいし、実際。
 ボクはふつうの大きさが羨ましかったりする」

あまり深刻ぶった様子もなく言う。
この大きさにはとっくに慣れているティネだって大変な思いをしているのだ。
ちょっとだけそれを体験できる、なんて都合のいい魔法は少なくとも今は使えない。

ティネの懇願に、与えられるのは親指ほどの――抱えるほどの干し肉の欠片。
申し訳なさそうに首をふるふると横に振ってそれを手放す。
ティネでは文字通り歯が立たないし、それに……

「ボクがいまほしいのはね、きみたちの……」

ふわりと手から浮かび上がって、双子の片方、マノの唇にくるみのような大きさの頭を押し付け……
唇の間に、小さな舌を差し込み、ちろ、ちろ……と舐めはじめる……。

マノとロノ > 「そっか、やっぱりこの大きさのお肉じゃダメだよね。
 しんどいかぁ、僕たちで力になれることがあればいいけれど……」

肉を拒否されれば、マノはこくりと軽くうなずき、小さくなった肉片をポーチに戻す。致し方ない。
目の前の小人は小さく、若く、しかしながらマノやロノと比べれば多少は歳が行っているくらいだろうか。
この体躯で、十数年という時を乗り越えてきたに違いない。とはいえそれでも、何か助けになることがあればしたくなるのが人情。

……と思考を巡らせているマノの唇に、暖かいものが触れる。
マノはおもわず目を見開くが、ティネが自分の唇に触れていることを察すると、麻痺したように身体を引きつらせ、息を呑む。
…しかしやがて、ティネの欲するものを察する。

 「……うん、いいよ」

初めて、青目のロノの口が言葉を発した。マノと全く区別の付かない声色と口調で。まるで腹話術だ。
そして、マノの口腔の中で桜色の舌が動き、歯に載せるように先端を差し出した。唾液を舐めやすいように。
自らの唇に顔を埋め、舌を出し、中に湧き出す少年の唾液を貪る妖精。マノは彼女を気遣うあまり、首を振ることも、喋ることも、口から息を吐くことすらできない。
鼻で呼吸を続けるが、ティネの頭上で鳴る鼻息は興奮しているように聞こえるかもしれない。

 「……キス、なのかな? これは……それとも、口移し?」

ロノは2人の非対称な接吻に顔を寄せ、まじまじと眺めながら呟く。
マノは手から妖精が離れたのを期に、濡れた掌を服の裾ですばやく拭うと、再び妖精の下に添えるように手をおいた。また地面に落ちることがないように。

ティネ > 目の前の薄紅の扉が微かに開いて、手の中とは別種の生暖かな空気が流れる。
ほとんど唇の間に挟み込まれるように首をねじ込んで、
差し出された舌の先端から、ちゅうちゅうと水音を立てて唾液を啜り、こくこくと飲み下す。
そのたびに、飢えが癒されるのを感じた。
頭上の孔から吹き出す息の荒さに気づいて、喜びが末端まで根を張り始める。

「どっちだろうね?」

くすり。笑って、覗き込むロノにも同じように飛びついて、同じように唇を吸うだろう。
……出会ったばかりの、子供二人に、すごくだめなことをしている気がする。
でもあまり、利口なことを考えられない。

「ねえ、キスしてほしいところ、ある?
 ボク、もっと飲みたいな……
 きみたちに、餌付けしてほしいんだ」

再び掌の上に座る。上気した肌。淫蕩な表情で脚を広げ、二人を見やる。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」からティネさんが去りました。
マノとロノ > 人間の形をしていながら、口にまるごと頬張って余りありそうなほどに小さな妖精の頭部。
その儚くもしっかりと硬い感触を唇に感じ、さらに小さな妖精の唇で口腔を吸われる感覚。細い喉が、唾液を嚥下する振動。
キスという行為はマノとロノの間では何度も、他の人間とも数える程度だがやったことはある。しかし、妖精とのキスは新鮮な感覚だった。
吸われるままに吸われ、ロノへと交代を求められればそのように。
とはいえ、2人の唾液も吐息も、全く変わらぬ味と匂いに感じられるだろう。

唾液を飲み、お腹が膨れたのか、それとも別の感情が働いたのか。目の前の妖精は笑顔だ。
対して少年2人は、この行為をキスと認識したのか、徐々に顔が赤らんできているのが目に見えてわかる。
キスしている間の鼻息も徐々に荒く熱くなっていく。
……そして、差し出した手の上に座り、同様にのぼせたような顔を見せ、脚を開く妖精の姿。
貫頭衣の中はつぶさに窺い知れないが、どうも下着に準ずるものは履いていない様子。
ごくり、と唾を飲み込む喉の蠢きが見て取れる。改めて実感したのだ、目の前の妖精は「女」であると。

「キス、してほしいところ……」

妖精の発する言葉をうまく飲み込めなかったのか、二人の少年はしばし見合い、考える素振りをする。
唾液は口同士でキスして与えるものだし、たっぷり与えたつもり。汗のように、他の体液を欲しているのか。
……もじもじと服の裾を弄りながら、しばらく黙って考え込む2人であった。

(つづく)

ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」からマノとロノさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にソル・グラディウスさんが現れました。
ソル・グラディウス > 陽も沈み、辺りも暗くなってきた時間帯。
ぽつぽつと街灯が灯っていく中、一人の男性が平民地区の通りを歩いていく。

「…よっしゃ」

ギルドでの依頼を早めに切り上げて、やって来たのは公園。
そこにあるベンチへと真っすぐと向かえば、どかっと腰掛けて背もたれに身を預ける。
依頼でずっと奔走していたために足には疲労が蓄積しており、ベンチに座って足を地面から離せば名状しがたい開放感に襲われる。

今日はここでしばらく憩おうと思ったのはつい先ほどである。
いつもならもっと遅い時間に依頼が終わるのだが、今日は少なめの依頼で時間を調節してここに出向いたのである。
座ったまま足をぐぐっと伸ばして、懐から酒の瓶を取り出す。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にノーガルトさんが現れました。
ノーガルト > (九頭竜山脈の麓から、ようやく帰ってきたのは随分と暗くなった時間帯だった。遠く離れているというのもあるが、いろいろと時間を食う事柄が多すぎて。)

「……つかれた。」
『………やれやれ、だな。』

(さすがに、事務手続きなどが必要だとは思いもよらなかった。事情を説明し、後はあの2人に任せることにして、開放されたのはひるも過ぎてのことだった。こっちに帰ってくる際の馬車の中で一眠りしたものの、がたごとと揺れる馬車の中ではゆっくり眠れるはずもなく。)

「とにかく、まずは腹ごしらえからだな。その跡で、宿に帰って寝る。」
『ああ、それがいいだろうな…。タダでさえレベル3を使ったんだし…』

(近道となる、公園の中を素通りしながら、ノーガルトはソル・グラディウスの前を通過した。)

ソル・グラディウス > コートの内ポケットから出した酒の瓶を揺らし、中の液体を凝視する。
琥珀色の液体が瓶の中で波を起こせば、満足そうな顔をして瓶のコルク栓を指で摘まむ。
指を曲げてぐっと力を込めて引っ張れば、瓶からコルク栓が徐々に引き抜かれてポンッという軽い音と共にコルク栓が瓶から離れた。

瓶の口に、口づけすればそれを傾けて、中の液体を口の中に流し込む。
喉が焼けるようなアルコールが体に染み渡り、それだけで心地よい気分となる。
瓶を水平に戻し、口を離せば一息ついて周りを見渡す。

「……」

目を細め、眼前を通り過ぎた外套の男性に目を細める。
やけにデカい…もしかして、自分より大きいかもしれないと思いつつも、もっと注目を寄せたのはその背中に装備している二振りの剣だ。
背中の剣から感じる魔力に興味深そうに頷いて、彼の背中を凝視する。

ノーガルト > 「……酒か、羨ましいな………。」

(ポツリ、と呟いた。そういえば最近、酒にありつけていない気がする。宿に帰ったら、安酒でもいいから一杯やるか、と思った矢先だった。)

『……ん?ノル、酒は後回しだ。近くに魔剣の気配がする。』
「なに?………どこだ?」

(だが、その眼はしっかりと開かれた。魔剣の気配を感じ取る、他の人間の耳には届かないダインの言葉を聞けば、ノーガルトは顔を上げる。)

「……あの男か?」

(その視線の先には、ソルの姿。周囲に人はいないし、それしか考えることが出来ない。踵を返し、ノーガルトはソルの元へと、近づいていく。)

「…よう、いい夜だな?」

ソル・グラディウス > 目を細め、踵を返してこちらへと近づいてきたその男を見据える。
通り過ぎたはずなのにいきなりこちらに声を掛けてきたことに警戒する。
酒を一口、口の中に含ませれば立ち上がる。

「あぁ……まぁ、そうだな。」

首を鳴らし、ボトルネックを掴んで目の前の男性を見据える。
いざこうして相対すれば、自分より身長が大きく珍しいなどと考えつつ瓶を持ってない方の肩を回す。

「変な茶番は無しにしようじゃねぇか。…で、用件は?」

また、酒を一口飲めばそう発言する。
青年の顔はほんのりと赤くなり、アルコールが回ってきていることに気付けるだろう。
瓶を持ってない方の手で、背中の剣の柄を軽く触れれば彼の金色の瞳が僅かに煌めく。

ノーガルト > (背中に背負っている剣が、ダインの言う魔剣だろう。それ以外に可能性はない。もし、自分の探している魔剣で、それの所有者だとしても、あまり意味はないが。)

「茶番……か。まぁ、待ってくれ。俺は別に、お前とやりあうつもりはないんだ。」

(逸れに、こんな街中で剣を抜けば、憲兵が飛んでくる可能性もある。穏便にいこうと、ノーガルトは両手を突き出す形で静止を促した。)

『……血気盛んな男だ。』
「…少し黙ってろ、ダイン。用件というほどでもないんだが、俺の名はノーガルト。実は、とある魔剣を探していてな。お前の持っているその剣が、もしかしたらと思って…。少し、見せて欲しいというだけなんだ。」

(ダインの言葉に少し苦笑をするものの、ノーガルトの用件は戦うことではない。必要なとき以外は、あまり剣を抜きたくないのだ。)

ソル・グラディウス > やりあうつもりはないと言われ、動きを止める。
であればなんだと言った表情で相手の目的を聞く。
時折、誰かと会話しているような口振りをする彼にもしかして所有者に話しかけるタイプの魔剣かと目を細める。

「…魔剣探し。クラーラの回し者か?…でもねぇか。
 もしそうなら俺の剣については知れ渡ってるはずだしな」

彼の発言を聞き、興味深そうに彼を見てそう発言する。
魔剣を探している。それの関係で『雷鳴』と言う異名を持つ彼女を思い浮かべるが発言や行動を分析して彼女とは関係ないと結論付ける。
であれば、個人的な趣味や使命かと納得した様子で酒を一口飲む。

酒瓶から手を離せば、背中の剣の柄を掴んで鞘から引き抜く。
鞘から抜くときに鳴る鉄が擦れる独特な音を響かせれば、中々サイズのある剣を軽々と回し、地面へと突き刺す。

「見るだけなら勝手にしろ。」

そう言って、剣から離れる。
彼の前に突き立てられた剣。それは尋常でない魔力を放っており、近づけば何処となく空気が変わり温かくなるだろう。

ノーガルト > 「……クラーラ?」

(知らない名前だった。さて、魔剣を探しているものが自分以外にもいるともなると、そっちにもあたってみることも視野に入れてもいいかもしれない。幾分情報が少なすぎるので、例え役に立たない情報でも、欲しい。)

「………ほう?」

(あっさりと両手剣、それも盾剣の銘を持つブロードソードを軽々と持ち上げ、そして突き立てるその力に、ノーガルトは思わず声をあげた。さて、確かに大きな剣だが。)

「………どうだ、ダイン。」
『確かにデカイし、魔力もかなりのものだ…が、意思が見えない。』

(見せられた大きな剣に、ノーガルトは少し前のめりになった。顎に手を置き、口の動きが見えないような仕草をしても、声はやはり、近くにいると聴かれてしまうもの。ダインの声が聞こえていないため、ほとんど独り言になってしまうのだが、こればかりはどうしようもない)

『…俺たちとは性質が違う、残念だがこいつも俺たちの兄弟ではない…。』
「そうか……。すまなかったな、感謝するよ。残念だが、これも俺が探している魔剣じゃなかった。」

(大きさで言えば、先日から話に出てくるハバキリに近いものがあるらしいが、残念ながら形状が違うらしい。ほのかに周囲が暖かくなる両手剣から一歩離れた。)

ソル・グラディウス > 「いや、気にするな。…こっちの事情だ」

彼女の名前を聞いて、わからないと言った風に復唱する彼を見て予想が確信へと変わる。
やはり彼女とは接点がないようだ。では、彼は何の目的で剣を探しているのだろうか?
色々と予想しつつ、自分の剣を見る彼をジーッと凝視する。

気になったのは彼の背中の剣。それと彼の発言。
耳を澄ませてやっと聞こえたダインという単語。少なくとも、二つの剣のどちらかは意思を持っており、それと会話しているように思える。
しかし、実際に触れてみないことには確証は得られずにいた。

「ふぅん…そうかい。なら安心だな。お前の探している剣刀だとして、『返せ』って言われたらたまったもんじゃねぇし」

剣から離れた彼を見て、柄に手をやってそれを引き抜けば背中の鞘へと戻す。
剣に触れた際に目が煌めくが鞘に入れて剣を手放せばその煌めきも消え失せる。
赤い顔でまた酒を口に含ませれば、ある要求を彼へと突きつけた。

「よし、俺の剣は見せた。…っつーわけでお前の剣を見せろ。」

手を差し出し、唐突にそう言った。

ノーガルト > (相手の事情といわれてしまうと、それ以上踏み込んだことを聞くことは出来なかった。初対面でズカズカ入り込むような神経はしていない。地面に突き刺さったままの両手剣を眺めながら、幾度かダインと会話をする。曰く、魔力の大きさ、そして意思があるかどうか。結局、目的のものではなかったので、軽く肩を竦めることになるのだが。)

「いや、魔剣の類を返せというつもりは無いし、第一これの所有権は、お前にあるんだろう?だったら、俺がどうこう出来る様な代物じゃない。」

(特に、これが魔剣だというならば、確実に所有権というものが存在しているはずだ。持ち主ではないノーガルトが、この剣に触れたら体が区割り落ちてしまう、などという事もありえるかもしれない。ゆえに、ノーガルトはただ、眺めるだけで触れようとはしなかった。鞘に戻っていく剣を眺めながら、腕を組む。)

「(あの大きさの剣でも、ハバキリではなかったのか…。じゃあ、一体どこにあるというんだ?…一度、王都の文献をあさる必要が…)」
『…おい、ノル。』

(気がつけば、ソルの手が差し出されていた。考え事をしていると、どうしても周りが見えなくなる。)

「……ん?」
『オレを見せて欲しいそうだ……。まったく、話はちゃんと聞け。」
「え?…ああ、すまん。だが…触れるのは危ないぞ?」

(ノーガルトは、背中の剣、ダインを抜いた。漆黒の曲剣であるダインは、黒い刀身であるにもかかわらず、夜の闇に非常に映えていた。)

ソル・グラディウス > 「なら安心だ。話の分かる奴で助かった。…魔剣使いは賢い奴が多いようだな」

そう言った後、酒をグイッと飲み干し、瓶を手放して地面に半ば捨てる形で置く。
顔は薄く赤くなり、完全に出来上がった様子だが、正常な思考回路は持っているようだ。

首を鳴らし、剣と会話しているであろう彼を見据える。
触れるのは危ない。その発言に顎に手を添え、興味深そうに剣を眺めた。

「ふぅん…所有者以外は拒絶するってのが魔剣が基本的に持つスキルなのか。
 いや、俺なら問題ない。触れても焼かれても潰されてもすぐ治る」

一応、背中の剣の柄に片手を添えて、そう発言する。
目は金色に煌めき、光を放つ。暗い時間帯になった公園ではそれが良く映えるだろうか。
空いたもう片方の手を伸ばし、彼の持つ『ダイン』と呼ばれる剣を受取ろうとする。

ノーガルト > 「馬鹿な魔剣使いは、勝手に自滅していくものさ。力に溺れたり、な?」

(魔剣といっても、決して万能というわけではないことを、ノーガルトは肝に銘じていた。ダインがいるから、などと奢れば確実に身を滅ぼす。だからこそ、ノーガルトは滅多に剣を抜かなかった。)

『……変人扱いされる前に、オレに話しかけるのは辞めることだな。』
「お前が話しかけるからだろうが…。いや、こいつはそういう危険じゃない。…いいか、気をしっかり持て。」

(出来れば、頭の中で会話できるような力が欲しかったところだが、そんな能力はあいにく、ノーガルトにもダインにもなかった。差し出したダインの柄を握った瞬間、ある感情が怒涛の如く流れ込む。)

『殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せころせころせころせころせコロセコロセコロセコロセ殺せころせコロセ!!!』

ソル・グラディウス > 「はは、違いない」

彼の発言に乾いた笑いを挙げ、同意する。
魔剣を制し、それに振り回されなくなるまでは一人前とは言えない。
その過程でどれだけの弱者が排他されてきたか。魔剣とは賢人と阿呆を区別する便利な道具だ。

「…気をしっかり?」

彼の言葉に首を傾げた瞬間、それは起こった。
柄に触った瞬間、流れ込んで来た感情。
『殺せ』という単語と殺意、敵意のようなものに驚き、目を見開く。

(いや…!)

触った部分を通して流れ込む感情。
それとは相対して温かく、安心するような力が自分の魔剣から伝わってくる。
目を瞑り、深呼吸する。ダインから流れるよろしくない感情に流されないよう、深呼吸して心の平穏を保とうとする。