2016/10/26 のログ
砕華 > 「かなり、マシな国を、選んだつもり、なんだけど…ね?」

(痛みで、少しずつ声が上ずる。
どうしても、途切れ途切れになる、その言葉の節々に、痛みが混ざる。
肩が外れているのだから、仕方がないといえば、仕方がない。
いくら、薬屋をやっていて、テンジクの生みの親だからといっても、生身の人間なのだから。

どうして其処まで、と言う質問には、セリオンは何を言っているのか、というような、あっけらかんとした答えだった。
女の悲鳴など、日常的におこるもの、だからこの程度、なんという事はない。
欲しいと思うものは、全力で手に入れる、魔境、それがこのマグ・メール。
話には聞いていた、しかし好みに降りかかるまで、自覚していなかったとでも、言おうか。
だからこそ、質問したのだ。『どうして、そこまでテンジクを、求めるのか』と。)

「…………目的のものは、手に入ったよね?
さあ、早く…それを持って、出て行ってよ…。」

(砕華は、涙目になりながら、彼女の満足したような声に、騙されていく。
少し落ち着いた、その凶暴性。これでやっと、セリオンはここから離れるだろうと、そう踏んでいた。

しかし、その考えは、甘かった。)

「んぐっ!?」

(セリオンの手が、砕華の口を塞ぐ。
その瞬間、コロンとテンジクが、砕華の口の中へと入ってくる――――。

幸せを呼ぶ毒、一度服用したら、廃人になるほどの中毒性と、依存性を持つ、悪魔の薬。
それが、今正に自分の口の中に――。
必死になって、それを飲み込むまいと、吐き出そうとする。
これを飲み込んでしまったら、きっと砕華自身が、今まで薬で壊れていった、人間と同じようになってしまう。
だからこそ、必死に飲み込むまいと、唾液も出すまいと、頭を振る。
だがじわじわと、唾液で溶け出していくテンジク。
刻一刻と、砕華はその薬を、涙目のまま、体の中に摂取していくしか、なかった。

甘い、甘いお菓子のような味に仕立てるのに、とても苦労した。
警戒なく、食べてもらえるように、コンペイトウのような形に仕上げた。
それが――――――――――。)

『――――――――ご、くん』

セリオン > 「美味しいです? ……いえ、私は知りたくもありませんが。
 やっぱり健康って大事ですよね。薬も煙草もやらずお酒は少なめ、健康的に生きるのがモットーです」

何かを飲み込むような音が聞こえた――それでもう、拘束は良いだろうと、セリオンは両手を砕華から放した。
椅子の正面に周り、少し膝を曲げて顔の高さを揃え、砕華の涙に濡れた目を覗き込む。
人の顔の中で、この表情は特に美しい部類に入るとセリオンは信じている。
笑顔も良いが、やはり涙。恐怖に引きつる涙も、快楽のあまりに流す涙も、いずれもが美しいものであると感じていた。

しかし――しかし、満ち足りはしない。
これだけで許してやろうというほど、優しい人間ではない。

「まさか、ひとつしか持っていないなんてことはないでしょう?」

そういいながらセリオンは、砕華の衣服を脱がせにかかった。
王国の衣服に慣れ親しんだセリオンでは、その肯定もてこずることになるだろうが――
そのまま何事も無ければ、砕華の纏う服をすべて剥ぎ取り、床に広げて行くことだろう。
袖の中に時計やら、或いは暗器やらが見つかるかも知れないが、セリオンが探すのはそれではない。

「売る目的だろうが、人を壊す目的だろうが――まだいくつか、身に付けているんじゃないかなぁって思うんですよ。
 ほらほら、我慢しちゃ体に毒ですよ? 美味しいお菓子、もっとたくさんいかが?」

テンジクが、もっと隠されていないか探すのだ。
もし見つかれば見つかっただけ、セリオンはそれを手元に集めて行くだろう。
が――それで何をするのか。
また口へ? いいや、それで満足するほど、欲の薄い女ではない。


もし、抵抗する心が折れているか、テンジクによりその力が削がれていればだが――
砕華は椅子から引きおろされ、仰向けに、自分の着ていた衣服の上に横たえられるだろう。
両足は潰れた蛙のような形に開かされ、その間にある秘めるべき部位までをセリオンの目に晒すことになる。

「麻薬で痺れた頭に、性的な快楽を注ぎ込めば如何に……うーん、私が学者だったら論文のひとつも書くところなのですが」

砕華 > 「…………ええ、とっても美味しいですよ。
健康的に生きる、というのは私も、つくづくそう思います」

(その声に、もはや傷みも何も、なかった。
飲み込んだ、確かに薬は飲み込んだ。だが、それがテンジクだと、本当に信じたのだろうか。
拘束が解けた瞬間、セリオンの顔面に、砕華は体を捻り、膝を叩き込む。
その反動で、砕華は、腕をまるで蛇のように絡め、セリオンの首を締め上げる。
その腕は、しなやかで細いが、まるで鞭のように、強い。
先ほどまでのそれとは違った、まったく別の砕華が、そこにいた。)

「痛み止めを、ありがとう。
おかげですっかり、痛みが消えたよ、一時的にだけど、ね?」

(――――――偽者、だった。
さっきのテンジクは、こういった客を騙すために、仕込んでおいた偽者。
油断を誘い、反撃のチャンスをまっていた、砕華の顔は、やっぱりさっきのように、開いているのかいないのか、分からないような細目だった。
だらりと下がった肩の骨、其処から走る痛みが、今は一時的に、消えている。
もっとも、トケイのなかで1時間、長い張りが一蹴したら、またずきずきと痛み出す。
それまでに、肩の骨を嵌めればいい、だがまずは、この無礼な客に、制裁を加えるべきだろう。)

「さっきの殴打、すごく痛かった、だからこれはお返し。『――フウヒジン』」

(砕華は、片手で印を組む。
下がっている肩だが、指先だけでも動けば、印を組むことができる。
指先から、生み出した風の刃で、セリオンの二の腕を、ざっくりと切り裂くのだ――。
ゼロ距離で、避けられることも、難しいだろう。)

「私ね、テンジクで何をするとか、そんなの何にも、思ってないの。
私がそれを使うときは、別の目的があるとき。
そして、その目的を、貴方は知らなくていいの…うふふ」

(ざくり、ざくりと、同じ場所を風の刃が、切りつけていく。
肉を抉りながら、血を走らせながら、切り裂く刃を生み出す、その顔は――狂気で、歪み始めていた。
砕華もまた、狂人なのである。)

セリオン > 油断をしていたか――と問われれば、否。
獲物が生きている限り、完全な油断をしない狩人の性質は備えている。
だがそれ以上に欲が深い。
美しい獲物を見たら、激しく損壊せずに犯してやろうという欲が出る。

「お――」

膝。
流石に至近距離から、完全に避けるのは無理だった。
骨が骨を打つ音とともに、セリオンの首が大きく仰け反る。
常人なら昏倒――ひ弱な者なら首の骨を危ぶむレベルの痛打である。
しかし倒れることも許さぬ、首へ巻きつく腕。
瞬時朦朧となる意識の中、獲物と見ていた女の声を聞く。

もしこのまま、首を絞め続けられていたら――それは寧ろ、危なかっただろう。
抜け出す力を得る間も無く落とされて、その後にどうなっていたかも分からない。

「――っと!」

だが、鋭い痛みがあった。
飛んでいた目の焦点が合致した時には、既に左腕が半ば使い物にならなくなっていたが――

(落ちていた――何秒? 5秒もあるか? 腕、利き腕――右、動く、左は……?)

意識を取り戻してからの数秒で、今の状況を把握する。
トンでいた間に何があったのか。自分の片腕はろくに動かず――いや、原因は直ぐに向こうが教えてくれた。
連続で襲ってくる不定形の刃が、自分の腕を抉っているのだ。
丁寧に傷口を狙って、幾度も幾度も――皮膚が裂けて肉が、そのうちには肉が裂けて骨が削られることとなるだろう。

(……無理か!)

セリオンは、自分の左腕を諦めた。
避ける術も無ければ防ぐ手立ても無いのだ。ならば、切り裂かれるまま――骨さえが削られ、腕の機能が死んで行くのを激痛とともに知りながらも、守ることを捨てた。

「目的など、どうでもっ――」

論争には応じてやろうと思ったが、思考が痛みで切断される。
言葉の争いを受けぬのは、己の流儀ではなかったが、生死の境に気取っていられる状況ではなかった。
セリオンは、右手の拳を固めた。
ここまでにさほどの時間も無かったが、既に左腕の骨は半ばまで切れ、左腕は二の腕からぶら下がっているだけとなっていた。

獣の名を冠する女は、笑った。
そして笑いながらも吼えた。

「がああぁっ!」

左腕が落ちる、二度と味わうことも無いだろう間隔に寒気さえ感じながら――
固めた右拳を、セリオンは振るった。
狙いは――腹。へそより拳ひとつ下である。
密着の間合いによる加速の不足は、腰と足、肩の回転で補って、体重すべてを拳面に載せて。
もはや相手は獲物ではない。殺されぬ為の、渾身の一撃であった。

砕華 > (本当は、穏便に済ませられるなら、それでよかった。
テンジクに似せた、ただの鎮痛剤を持って、この店を離れれば、もうこれ以上のことは、しないつもりだった。
其の後で砕華は、痛み止めを飲んで、外れた肩を嵌めて、何事もなかったかのように、明日からまた営業する。
それでよかったのに、欲をかき過ぎたせりオンは、さらに其の上を求めてしまった。
だから、こうして手荒なまねを、しなければならなくなってしまった。

叩き込んだ膝は、確実にセリオンの意識を、奪い去っていた。
そのまま、締め落とせばよかったものを、結局砕華も、欲深いのかもしれない。
左腕が切れる、其の激痛を味あわせてしまったがゆえに、セリオンの意識を、覚醒させてしまった。
左腕を、切り裂いていく――其の、刹那。

細腕一本で、締め上げていた体が、ひねられる。
強いといっても、絡みついた蔓程度の、丈夫なものという意味だけ。
力任せに、振り解かれると、結局はあっさりと、脱出を許してしまう。
風の刃は、其の瞬間、左腕を切断する。
だが、其の左腕の代償とした一撃は、確実に砕華の、柔肌を直撃していた。)

「――――――ぐふぅっ!!!」

(ぼとり、と落ちる左腕。
だが、其の左腕を代償にした一撃は、確実に砕華の腹部に、ヒットした。
懇親の一撃を、細身の女主人が受ければ、どうなるのかは想像に難くないだろう。

体をくの字に折り曲げ、其の反動が体を浮かせて、壁まで吹っ飛ばされる。
三段棚に激突し、売れ残っていた薬が、棚と一緒に、砕華とともに倒れて、店の中に散乱する。

ドガン、ベキバキッ!

木製の棚の、へし折れる音と、砕華が転がる音が、店の中に響く。
埃だろうか、もうもうと立ち込める、薄暗い店の中でも、よく見える白い煙。
其の煙の中で、砕華は棚を枕に、昏倒していた。)

「―――…ったたぁ………。」

(意識は、いまだにあった。
だが、腹部を押さえながら、ゆっくりと起き上がっていく上体。
其の口の端から、つぅ、と一筋の、赤い筋が通っていた。

棚にぶつかったことで、あちこち打撲で、ずきずきと痛みが走る。
鎮痛剤が効いていても、やはり追った直殿痛みは、消しきれない。
誇りまみれで、着崩れたキモノを整えるまもなく、砕華はくす、と笑みを浮かべていた。
あいているのかいないのか、わからないような細目で。)

セリオン > 人間を全力で、拳で殴る――考えればいつ以来のことか。
殺しても良いと考えての力加減で殴るなど、はたしていつ以来のことか。
いつしか対峙するものは、人妖を問わず全て格下と、自分の獲物であると定めていたが――

「ちっ……バランスが悪い」

片腕、肩からぶら下がっていた数キログラムの物体が無いのだ。
ただ立つだけでも、意識して姿勢を保たなければ倒れかねない。
だから仮に追撃するなら、相手が立ち上がる前、低い位置へ降りた頭へ、もう一度拳を――

拳は、再度は握られなかった。
代わりにセリオンは、切断された左腕を拾い上げると、自分が閉めた玄関扉を、外へ向かって蹴り開けた。


「……良い勉強となりました。次は言葉を交わす前に、貴女の四肢を全て砕いてからとしましょう」

立ち込める煙も、この環境においては埃と談じることもできない。
或いは毒物で、しかし相手が耐性を持っているということもあるかも知れない。
追撃もできる状況ではある。
だが、あの着崩れた衣服の中から、どんな凶器が出てくるかも分からない。
そして何より自分の腕――脇を締めて止血を測るも、急ぎ手当てが必要なことに代わりは無い。

「私はセリオン、人の快楽を肯定するもの。近頃は神にとって変わろうとしていましたが、少し気が変わりました」

拾い上げた左腕を、かつては自分の一部であったものを、セリオンは投げた。
砕華の顔面めがけて飛んだ腕がどうなるか、それを結局は見届けぬまま、セリオンは玄関口へと大股に走り、

「まずは人を超え、それから貴女を手に入れましょう。
 一切なりふり構わず、私の持つあらゆる手段で、怠慢せず――」

敵対の表明か、愛の告白かも分からぬ言葉を吐き捨て、セリオンは白昼の通りへと走り去る。
後に残るのは血痕と、切断されて打ち捨てられた左腕ばかり。

いや、後ひとつを無理に数えるとしたら――去り際の言葉は真実であるという確信だろう。
この敵に対しては、全ての欲も驕りも不要。手負いの獣が一頭、学びを得た確信が――。

砕華 > (傷の具合は、痛みが消えかけているので、わからない。
だが、少なくとも腹部に、多大なダメージを追ったことは、間違いない。
そこから感じる、重さと、ぬるっとした感触。
おそらく秘部から、出血してしまっているのかもしれない。
軽く、さすりながら立ち上がる砕華に、何かが飛来した。)

「ぎゃんっ!?」

(女のような、黄色い悲鳴があがる。
立ち上がろうとした、其の顔に、セリオンから離れた腕が、クリーンヒットした。
そのまま後ろ手に、再び倒れこみ、扉が開く音を聞いた。)

「……快楽を肯定するもの、セリオン…ね。
私は、心に決めた人以外から、あんまり追いかけられたくないんだけど…」

(まるで、愛の告白のような、そんな台詞だった。
言葉を聴けば、確実にそんなことはないが、砕華にはどこか、そういうように聞こえた。
ゆらりと、まるで幽霊のように立ち上がる、砕華の体。
左腕を握り締め、薄く開いた瞳の置くには、明らかな憤怒の感情が、浮き彫りになっていた。)

「……どうするのさ、この惨状…。」

(棚は壊れ、売れ残っていた薬はぶちまけられて、売り物にならない。
オマケに、セリオンが暴れたせいで、せっかくの冬虫夏草も、使い物にならなくなってしまった。

はぁぁ、と盛大なため息が漏れる。
もう二度と会いたくないけれど、きっとまた会うことになるだろうな、と思う。
ああいう獣は、手負いになったからこそ、恐ろしいのだ。

だけど、砕華には、どこか笑みを浮かべていた。
ちょっとだけ、本当に少しだけ、楽しかった。
やはり、体を動かすのは、大事だなと、改めてそう思った。

この日から一週間。
薬屋「紅一朝」の扉は、開かれることはなく、代わりに『臨時休業』の看板が、立てられることになった。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からセリオンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から砕華さんが去りました。
ご案内:「平民地区」にハナビさんが現れました。
ハナビ > 「………」

ドウシテコウナッタ
ソレガワカラナイ

最初にこの惨状を見て思ったことはそのことだった。
メグメールに用事があったので、妖狐の姿から私服に着替えてミレー族のように振舞いながら歩いていたところ。
こないだ立ち寄った店がある通りまで来たから顔を出そうかと思ったら、臨時休業中の張り紙

おそらく相当店の中で争いがあったのか、今でも血の匂いと真空波のような斬撃痕が外側からすら見える。

「…しかもこの血の匂い…」

どう考えても`あの人`だよなぁ、と肩を落とす。
二人の関係は知らないが知り合い同士が派手な争いをしてたと思うとなんか、こう

「ボクもその場に居たかったな」

ちょっと勿体無い感じがふつふつと湧き上がってきた

さて、当事者ふたりのどちらかはいるのだろうか
それとも同じように野次馬でも来るか
はたまた、自分を目の敵にしている警備長の使いとかで誰かが強襲して来るかもしれないが

それはそれとして ひとまず周囲をぶらぶら

ご案内:「平民地区」に砕華さんが現れました。
砕華 > (朝から出かけていた、砕華が帰ってきたのは、すでに昼も回ったころだった。
店での騒動は、隣に住んでいる、八百屋の主人が、憲兵に通報していた。
そのため、翌日の早朝に、憲兵に呼び出されてしまい、事情聴取を行っていた。

勿論、隠すことなど、ひとつもなかった。
薬屋で店番をしているときに、修道院服の女に襲撃されて、かなり大きな騒動になった。
その際に、其の修道院女の、左腕を、この国で言う『魔法』で切り飛ばし、撃退した。
その際、肩を脱臼して、大怪我を追ったことも、ちゃんと話した。

その後、砕華が向かった先は、商人組合だった。
店に、何らかの損害が出た際に、その修復金を、一時的に給付してくれる制度がある、という話を聞いたからだ。
店を開けて2週間、こんな大きな損害が出て、早々にたたむなんてこと、砕華にしてみたら、言語道断だった。
その手続きを行い、破損状態で、給付金が変わってくることを説明され、明日にもう一度、店を訪ねてくる。
それでいい、と納得した砕華は、左肩に包帯を巻いて腕を吊り、頭に包帯を巻いた、痛々しい姿で帰ってきた。)

「……あの女、絶対に弁償させてやる……。
せっかく、冬虫夏草を見つけて、店も軌道に、乗ってくるかもって思ってたのに…」

(口を開けば、悪態ばかりが出てくる。
開いているのかいないのか、わからない細目はいつもよりも吊りあがり、きつい印象になっている。
いつもなら、大きく足を上げて、石畳を踏みしめたりはしないのに、今日は少し、足取りが強い。
店の前まで帰ってくると、其の痛々しい惨状と、砕華自身が掛けた、『臨時休業』の看板を見、大きなため息をついた。)

「………受けたお仕事、断らないと…」

(『紅一朝』始まって、一番最初の仕事の断りだった。
今まで、どんなことになっても仕事だけは、続けられることが、砕華の自信だった。
だが、肩を脱臼して、動かないとなると、薬を作ることも、勿論できない。
しかも、店は、血やらナニやらどろどろ、とても店を開けられる状態ではなかった。
それを思い、もう一度大きなため息をつくと、そしてまた悪態をつく。)

「あの女……この借りは、絶対に返してやる…。
金3000じゃ足りない、5000くらい、払わせてやる…」

(ハナビが、店から目を離しているときに、起こった出来事である。)

ハナビ > 「…あ」

店の惨状を野次馬に紛れて眺めて居た
酷い有様とはまさにこのことだろう
なんせ殺人現場に等しい状態だ。
いや実際未遂まで行ったのだろうが。
そんな中店の主人がこれまた感情を隠しきれないほどの荒い足取りで帰って来たのを匂いと感覚でわかった。
その後で目視でも確認

「うわっ、凄い怒ってる…」

襲撃犯と知り合いと言うべきか否か…いや友達ってほど親しい間柄ではないが、怨敵ってほどでもない
あえて言うなら喧嘩仲間のようなものだが…

「まぁでも手伝いくらいしないとなぁ」

あの怪我の様子じゃしばらくまともに仕事ができないだろう
店のことはわからないが何かできることがあるかもしれないと人混みから抜け出して声をかける

「砕華、大丈夫?」

群衆からひょっこり顔を出し、痛々しい包帯をつけた知人を見やる

砕華 > (外見からでも、柱に傷があったり、入り口のところに血痕が残っていたりと、かなり酷い。
中は、もっと酷い状況だが、居住区画にしている、二階が無事だっただけ、まだいいか。
これでもし、生活区間まで使えないとなると、本当に泣いてしまったかもしれない。

決して、この建物も、安くはなかった。
たまたま、幸運が重なって、2週間前に購入ができた。
だからこそ、砕華はこの場所が、とても気に入っているし、このままここで、薬屋をし続けるのもいいな、と思っていた。
そこへ、水を差されたものだから、普段は温厚な砕華でも、怒りは生まれる。
野次馬たちの間をかいくぐり、店の前でしばし、立ち尽くしながら、何度も悪態が出てくる。

「あの女が、ほんっとうに許せないよ…」とか、「弁償金は、5000でも足りないかも…」など。

開いているのか分からない、細目を吊り上げながら、半壊した店の中へ、というところ。
「がちゃん」というより、「ぎぎぎ…」というような音を立て、きしんだ扉を開けたところだった。)

「……あら、ハナビさん。こんにちわ」

(さっきまでの、怒りの色はどこへやら。
ぱっと言うような、擬音が聞こえてきそうなくらい、一瞬で表情が変わった。
群衆から、顔を出した顔見知りの、神獣族の少女・ハナビに視線を向けて、扉を開けっ放しに。

中を覗き込めば、外から見るよりも、酷い参上だった。
薬を乗せていた三段式の棚は、見るも無残に倒壊している。
床には、薬の粉が散乱していて、風に紛れて、店の中を舞っていた。
そして何より、カウンターの少し隠れた場所。
べっとりと、大量の血痕がこびりついていた。)

「……大丈夫に見えますか?」

(大丈夫か、の言葉に返すのは、少しそっけない言葉だった。
その言葉の、裏を返せば「大丈夫じゃない」と、いっているようなものだが。)

ハナビ > 「あ、あはは…大丈夫じゃないね…特に中が…」

パッと雰囲気が変わったのは流石である 八つ当たりをしないのは大人であり商人だからだろうか。
しかし店の中が見えてしまえば普段はお気楽なハナビでも苦笑を浮かべる。

「あー、えっと…掃除手伝うよ その怪我じゃ掃除も一苦労でしょ?」

薬品関連はわからないから仕方ないが、基本的な掃除など力仕事なら手伝うこともできるだろう
店番や宅配などもまぁなんとかできる範囲
これでも冒険者なので雑務は一通りはこなせるのであった。

「ただの強盗、じゃないよね…」
血の匂いが強くなれば犯人はやはり確信に至る。
ぽりぽりと頬を掻きながら、主人の判断を仰ぐ事になる
一人になりたいなら、それもいいだろうし。と勝手はしないつもりで。

砕華 > (とても、大丈夫といえるような、雰囲気ではなかった。
店の中は滅茶苦茶、カウンターの前では、愛用していた乳鉢も、割れて使い物にならなくなっている。
商売道具すら失い、この店は今、まさに営業停止にまで、追い込まれてしまっていた。
臨時休業で済ませられるかどうかは、商人組合から支給される、給付金しだいだろう。

苦笑を浮かべるハナビに、砕華は以前と変わらない、微笑を向けていた。
内心、まだ内蔵が煮えくり返るぐらい、怒り心頭なのだが、それを表情には出さないだろう。
商人は、表情をころころと、変えてはいけないのだ。)

「いえ…当分は、このままです。
憲兵の調査が、まだ終わっていないので、片付けることができないんですよ。」

(片付けられるならば、ゆっくりでも、片付けていった。
幸い、片腕だけでも、小さな破片などは片付けることができるし、雑巾がけも、できなくはない。
だが、それができない事情が、今はあった。
事件である以上、憲兵の調査が入って、許可が下りなければ、片付けることができないのだ。
それが終わるのは、早くても明日中。
つまり、今日一日は、この惨状のまま、置いておかなければならない。)

「ただの強盗なら、私も困りはしなかったんですけどね…。
こんな状態ですが、お茶くらい飲んでいかれますか?」

(別に、一人になりたいとか、そういう考えはなかった。
マグ・メールの話を聞いて、2週間滞在して、大体の事情や情勢は把握できていた。
だからこそ、こういう事件には、いつかは巻き込まれるだろうな、と覚悟はしていたつもり、だった。

けれど、其の覚悟の範疇を超えた、被害が出てしまった。
店の中を荒らされ、砕華自身も、大怪我を負わされてしまった。
今は、鎮痛剤(自生)を打って痛みを抑えているが、本当はとても痛い。
内臓も、少しやられてしまったのか、今朝からずっと吐き気がしていて、ろくに食事をとっていない。
空腹はあるので、胃腸をやられたわけではないようだが、当分は食事も制限しなければならない。)

ハナビ > 「う、うん…」

これは困った
手伝いどころじゃない、手をつけてはいけないレベルにまで来ていた。
まぁとはいえこの街の憲兵は正直役に立たない人が多いが、今回はさらに相手が悪い。
犯人は行方不明で片付いてしまうのだろう。
商会からの給付金もどれほどになるか怪しいものである。
老舗ならともかく新設の店では互いのメリットになるかどうかが判断が難しいためだ。

「じゃあお茶は僕がいれるよ」
片腕でやるのは苦労するだろう
それに顔色も優れない。怪我も相当酷いようだ

「怪我、少し診ようか? お医者さんじゃないけど鍼で痛みを止めたりは出来るから」

物理的な損傷は治せないが、気の流れを良くしたりはできる
ひとまず案内されるままに中に入りそばにいようとしてみた

砕華 > (砕華も、この町の憲兵に、何か期待している様子は、なかった。
貴族を相手に、薬を売ったこともある。
その際に、柄の悪い貴族を相手にしたこともあり、その下にある騎士団というのも、腐敗が進んでいると、聞いた。
こんな国が、なぜ祖国と渡り合っているのか、という疑問がわいたが、それはすぐに消えた。


圧倒的な数の暴力が、それだった。
子飼いにしている憲兵や、城直近のものを合わせると、その数は祖国の比にならない。
勿論、熟練度の違いはあれども、数というのは時折、それすらも凌駕してしまうほど、凶悪なものになる。
真面目にすれば、その数を生かしきれるというのに、残念なことだ。

組合との話は、今日の朝でしっかりとつけてきた。
勿論、初めてまだ2週間程度の、若女主人がしている店など、給付金はすずめの涙、程度だろう。
しかし、『シェンヤンから来た、異文化の薬を売る店』)というネームバリューは、非常に大きい。
マグ・メールにはない薬を売る店を、組合が手放すことは、どうやら良しとしなかった様子。
とはいえ、返事も明日以降に持ち越し、ということにはなったが、それはお互いの妥協点だろう。)

「あ、そうですか。それならお願いしますね」

(片手では、せいぜいお湯を沸かすことくらいしか、できない。
勿論、茶葉を準備したり、無事だった食器類を並べる、位のことは十分できる。
それでも、ハナビがお茶を淹れてくれるというなら、断る理由もなかった。
二階へと招き入れれば、そこは簡潔な住居スペースになっていた。
普段は、人に言えないような薬を依頼するための、窓口になっているが、住居も兼用している。
隅に追いやられた、やわらかい敷布団の模様は、マグ・メールにはないものだった。
他にも、奇妙な形をしたポットなど、この国ではあまり見られないような、つくりになっていた。)

「……え?あ、え……うっ……」

(最初は、断ろうと思った。
痛み止めを打っているから、大丈夫だと言おうとしたが、意からこみ上げてくる嘔吐感が、それを許さなかった。
昨日の、あの女に受けた最後の一撃が、確実にダメージとなって体に残ってしまったようだ。
口元を押さえ、軽く屈みこんで、必死に競りあがってくる汚物を、押し留めた。)

ハナビ > 二階に一緒に歩いて行き、居住スペースへとお邪魔する
敷布団や変わった形のポッド、確か急須と言ったか。
確かにメグメールでは見慣れないものばかりだが。

「お邪魔しまーす…わぁ、シェンヤン風一色なんだね」

数ヶ月前までは八卦山に篭っていたのでシェンヤンにはたまに顔を出していた。
物の扱い方はある程度までは知っている。
お湯を沸かし茶っ葉を尋ねようとしたところで、むせるような声と嗚咽をこらえるような音。そして迫り上がる胃酸の匂いに手を止めた。

「…横になって。砕華もその腕じゃ胃薬とかも作れないでしょ。応急で整えるから」
少しだけ強い口調で言った
それくらい悪そうに見えた。
砕華を抱くように背中に手を回すとそのまま敷布団に押し倒すように寝かせる。
そしてうつ伏せにさせると服の上から点穴の上を軽く指で押して状態を確認していく

「…もう 胃がダメになってたら薬だって飲めなくなるんだよ ここ、痛む?」
軽く押すのは背中にある胃の点穴。
胃に悪影響があれば軽く押すだけでも相当な鈍痛が走る場所だ。
他にも消化器官や痛覚など全身の状態をチェックして行き。

「…服、脱がしても平気?」
処置に入るには服を脱がさないといけない。拒む様子も見られたせいか、表情は真剣だった

砕華 > (土器で作られた、ハナビの思うとおり、急須。
故郷のものに、できる限り近づけようとして、この部屋はこさえられている。
キッチンもまた、部屋の中央で火を焚く、イロリと呼ばれるものだった。
天井から釣り下がっている、鋼鉄製の紐の下に、大きなポットがつるされている。
其の中には、冷めてしまったお湯の名残が、なみなみと注がれていた。)

「……っ……っっ……!」

(神獣族のハナビなら、この匂いは敏感に察知できるだろう。
胃酸が競りあがり、もう少しで口の外へ飛び出してしまいそうなほど。
すっぱい匂いが立ち込め、砕華は必死になって、胸を押さえて胃酸を押し留め、胃の中へと逆流させていく。
脂汗が額に浮かぶほど、苦痛で顔をゆがめていた。
そこには、かつてカウンターのオクで、お客を相手にしていた薬師の姿はない。)

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

(何とか、胃酸を吐しゃするのは避けられた。
しかし、大きく荒く、息をつきながらしばらく、かがみこんだまま動けなくなる。
されるがまま、うつ伏せになり、敷布団の上に寝そべると、息苦しさに余計に息が荒くなる。
息をしすぎて、「ひゅー、ひゅー」と、吸い込む音が笛のように、しばらく鳴った。

ハナビがツボを刺激するたびに、砕華の体は、かなり痛めつけられているのが分かるだろう。
実際に受けたのは、脱臼している肩への殴打と、腹部による強烈な一撃だけ。
しかし、其の一撃を受けた際に、華奢な体はかなり後方へ飛ばされ、三段棚を破壊しながら、転がった。
その際に、至る所に傷ができていたのだろう、それこそ、よく動けるなというレベルで。)

「いたっ、いたたたっ…!
は、ハナビさんそこっ……っ、いたい、いたいっ!」

(胃だけではない、骨や、筋すらもところどころ痛む。
押すところ、押すところ痛みにもだえ、特に胃の場所は、鈍痛と言うよりも、激痛だった。
もんどりうって、うつ伏せに寝ているからだが、少し暴れてしまう。
其の痛みが引いていき、服を脱がせるかという問いに、答えることもできず。
ただ、自分でオビを解くあたり、かまわないということだろう。
筒まし下ながら、形の整った胸は、サラシによって隠され、下着はマグ・メールのショーツではなく。
シタオビという、シェンシャン特有のものをつけていた)

ハナビ > 「これは重傷だね…」

実のところ、超再生を持つ獣人である今のハナビにはわからない苦痛ではある。
しかし砕華を知ってる人からすれば、この痛がり方は尋常じゃなかった。
常人どころか腕に覚えのある人だって下手すれば死亡、下手しなくても入院を要するレベル。
医者ではないハナビができるのは民間療法と気功の類だが、症状を和らげて自分で調合したり医者に通うくらいまで痛みを抑えれれば御の字であった。

「痛み止めを飲んでるんだろうけど、これじゃ飲んでも効かないし…確か痛み止めって胃に悪いんでしょ?」

一般的には痛み止めに分類される薬は同時に胃酸の神経まで麻痺させて胃酸過多になる傾向がある。
砕華が調合した薬なら胃薬も混ぜているかもしれないが外傷まではカバーしきれないだろう。
その結果このような嘔吐反応に出ているのかもしれない。

「…いいよ 後はボクがやるから楽にしてて」
痛みで暴れる程の苦痛。ハナビの気配にピリピリとした張り詰めるような集中力が出てくる。
服をそっと脱がせて行き、背中を露出させる。
普段なら性欲を刺激するような美女なのだが、今はそんな余裕はない。
半裸に剥いてから再びうつ伏せにさせると、自身の毛を抜いて妖気を通し硬質な鍼へと変化させる。
先端には狐火が宿っており消毒と温熱療法を兼ねている。

「打撲みたいなのが多いな…」
温熱療法は腫れには効果がない。
そこは後で冷やすとして目下急ぐべきは苦痛と吐き気の緩和。
神経を司る点穴に鍼を当ててトントンと指で押し込んでいく。
次第に痛みが薄れて行き、全身がやや痺れるような感触はあるだろうが、痛みそのものも緩和されていくだろう。
続いて回復力を司る点穴にも鍼を打ち、このまま少し様子を見る

「痛み止めは即効性があるけど、同時に動くのも難しくなるから少しじっとしてて。大丈夫、そばにいるから」
脂汗を拭き取り、身体をさすりながら包帯を変えたり、腫れてる場所に氷嚢を当てたりとしている

「痛みさえ落ち着けば、気功で少し整えることができるから、後は薬の効果も効いてくると思う…」
心配そうに顔を覗き込みながら耳をぺたんと下げていた