2016/10/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に砕華さんが現れました。
砕華 > (秋も深まり、日の入りも随分と、早くなった。
『天高く、馬肥ゆる秋』と、祖国では言う。
秋になり、馬は沢山食べて、天高く育つという意味で、秋になると、動物も植物も、冬のためによく育つ。
それは、人間も同じようで。

『紅一朝』の女主人、砕華の姿は、今日は店の外にあった。
目の前の囲炉裏で、炭を焚き、その上に金網を乗せて、更にその上には、細長く、銀色に光る魚。
少し、上にこびりついている塩と一緒に、炭で焼いて、ウチワと呼んでいる、道具でゆっくりと風を送る。
屈みこみ、火の番をしている砕華の顔は、少しだけ緩んでいた。
開いているのかいないのか、分からないような細目を、少しだけ下げて、パチパチと音が鳴る、魚の油の匂いを、軽く吸い込む。
焦げ臭いようで、その中にある、香ばしい魚の匂いに、思わず、静かに「ぐぅ~」と、腹の虫がなった。

祖国から送られた、今の季節に、最も油が乗り、美味しくなる魚。
この季節に味わわないと、一体いつ、味わうのかと、両親と小一時間ほど、揉めた事もある魚。
祖国では、「サンマ」と呼んでいる、「刀のような秋の魚」とかく魚。
そんな魚が送られてきて、家の中の火で焼くなど、もったいなさ過ぎて、出来るはずもない。
美味しい魚は、こうして墨で、じっくりと焼いて食べるのが、砕華の矜持。)

「………これで、ダイコンオロシとショーユがあれば、いう事はないんだけどね。」

(残念ながら、市場にも、商店街にも、露天にも、ソイソースとダイコンは置いていなかった。
さすがに、ないものを、無理矢理準備することは、砕華に出来るはずもなく、仕方なく諦めたしだいだった。
塩だけは常備していたので、それを使うことが出来ただけでも、この魚を美味しく調理できるので、妥協点としては、十分だったが。

パチッ、と墨が弾けて、黒い灰が飛ぶ。
魚に降りかからぬように、軽くウチワで仰いで、魚の焼き具合を確かめるべく、菜ばしで魚を持ち上げた。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にハナビさんが現れました。
砕華 > (サンマは、少し墨がついて、黒ずんでいるように見えた。
だが、切れ込みを入れられている身の、そこかしこから、ぽたりぽたりと、脂が滴っている。
それが、火で真っ赤になっている、隅の上に堕ちると、「じゅうっ」とかすかな音を立てて、すぐに蒸発する。
その刹那、なんともいえぬ香ばしい香りと、魚の旨みが空気中に漂い、隣で店仕舞いをしていた、八百屋の主人の元にも届く。

「おっ、なんだか美味そうな匂いがするな!
へぇ、魚か。今日はおかんに、焼き魚で一杯やらせてもらおうか。」

八百屋の主人が、気さくに、砕華にそう声をかけてきた。
此処に店を構え、右も左もわからなかったころ、いろいろと、何でも教えてもらった。
そのお礼にと、時折食材などを届けるようにもなり、今ではこうして、声もかけてもらえる。
隣人というのは、祖国でもマグ・メールでも、あまり変わりはないようだ。)

「はい、故郷から、今が旬のお魚を送ってもらったので。
よろしければ、半分ほどお持ちになりますか?」

(魚は、いい感じに焼きあがっていた。
中まで火が通り、白っぽくなった身の節々から、脂が滴って、先ほどのなんとも言えないような香りを、あたりに撒き散らしている。
砕華は、傍に用意していた包丁で、起用にサンマを半分に切り分け、菜ばしでつまんで、紙でできた皿の上に乗せる。
ゆっくり立ち上がり、それを八百屋の主人のほうへ、もって行った。

「おっ、いいのかい?
それじゃ遠慮なく、貰っていくよ。」

八百屋の主人は、満面の笑顔で、それを受け取った。
今日はこいつで、美味い酒が飲めそうだと、上機嫌で店の奥へと引っ込んでいく。
開いているのかいないのか、分からないような細眼でその後姿を見送ると、砕華は残った半分を、紙の皿にのせ、軒先に出していたいすに、腰掛けた。
外で焼いた魚は、外で食べる。これも、砕華の矜持である。)

ハナビ > 久しぶりに、王都へ立ち寄る少女がひとり。
獣耳を外に出し、狐の尾をゆらりと上下に動かしている。
さすがに人間の町にいる間はミレー族に近い格好で、ズボンとブラウス、ベストを着た普通の格好。
ただしオッドアイとその瞳から滲む聖魔が入り混じる複雑な魔力はそのままであるが。

「んーっ、いい匂い・・・帝国から久しぶりに戻ってきたけど、やっぱりいいなぁ、王都は」

ぐぐーっと体を伸ばして秋の涼しい空を堪能する。その空気に乗って流れてくる焼き秋刀魚の香ばしい香り。
すんすんと鼻を鳴らしてはフラフラとそっちのほうへよっていく。
妖しの魔力に身を染めた今でも、食欲だけは以前と全く変わっていない。美味しそうな物があれば気になるし、興味があることには首を突っ込むタイプであった。

「ん・・・あれかな ねぇねぇお姉さん、そのいい匂いするお魚、なぁに?」

ようやく匂いの発信元にたどり着けば、帝国風の感じを覚える女性が魚を受け取っているところだった。
好奇心が優ったのか声をかけてみることにした

砕華 > (少し肌寒い。そんな時、人間は暖かいものを、自然と食べたくなる。
焼き立てで、今が旬のサンマを、お箸で解して一口、その白っぽく焼けた身を、口の中に含んだ。
一回、二回と味わうように、ゆっくりと噛み締め、唾液と一緒に、喉へと流し込む。
香ばしい香りと、濃厚な味が、口の中一杯に広がり、空腹だった胃の中に、流れていく。

人間は、空腹の時には何を食べても、美味しいと感じるらしい。
では、空腹でなくても、美味しいと感じるものを、空腹のときに食べると、一体どうなるのだろうか。

砕華は、こう思っている。
美味しいものは、さらに美味しく感じる、と。
「ん~…」と、満足したような、其れでイて幸せそうな、そんな表情が、細目の中から垣間見える。
そっと、箸を置き、空を仰いで一言、呟くように「おいしい…」と、ポツリともらした。

しばし、放心していたのか、声を掛けられるまで、ハナビの存在に気づかなかった。
気づかなかった、というよりも、気にとめていなかった、というほうがいい。
既に夕暮れ時、店仕舞いは済ませて、暖簾は店の中に片付けている。
薬屋である以上、店を閉めると、もはや客の入りはないに等しい。
だから、声を掛けられるとは、思っていなかったのだ。

かといって、驚くかと言うと、そうでもなかった。
声を掛けられると、仰いでいた細目がゆっくりと、ハナビを捕らえる。
筋肉質な身体ではあるけれど、どこかまだまだ、幼い印象を受ける、左右で色が違う瞳。
だが、その腰から生やしている尻尾は、人間のものとは明らかに違っている。
神獣族、マグ・メールでは、ミレー族といったか。
それと、一目見て思った砕華は、軽い一礼と会釈を向ける。)

「こんばんわ、これですか?
これは、サンマといって、シェンヤンでは秋によく食べられる、お魚なんですよ。」

(お皿を膝の上に乗せたまま、簡潔に説明する。
その間も、サンマから漂う煙が、非常に香ばしい匂いを、ハナビに漂わせていた。
空腹を促す、魔性の匂いとでも言おうか。)

ハナビ > 先程まで食事に専念してたのに、声をかけられても一切の動揺が見られないこの女性。
歴戦の修羅場を通った本能が囁く。
(・・・この人、慣れてる)
とはいえ、冒険者が多いこの街、実力者が多数いたところで不思議ではないし、仮にこの女性が強者だとしても、争う理由もない。
返事をされてにこりと笑うと尻尾を振りながらそばに近寄っていく。

「こんばんわっ! サンマ・・・? ふーん・・・美味しそうないい匂いだね。ボクも川魚とかはよく焼いて食べるけど、それとも全然違う魚みたいだ」

海に行くことがほとんどないため、食事は主に山川から得る。
そのため海魚についての知識はほとんど持ち合わせていない。
物珍しそうに砕華と皿を見つめていたら、お腹がきゅ~っと鳴った。

「あぅ・・・・・・」

さすがに恥ずかしかったのか、かぁっと顔を赤らめて売ってるお店をキョロキョロと探してみるも、すでに店は閉まっている時間帯。
がくし、と肩を落とすのであった

砕華 > (ハナビが、一体何を思ったのか、砕華は知る良しもなかった。
ただ、店仕舞いの時間帯に、食事をしていたところを、声を掛けられた。
ただ、それだけのこと、何を怪しまれるいわれがあるのか。
ハナビの嗅覚を知らず、砕華はかるく、首をこてん、と傾げた。

不思議な女の子、と言う印象だった。
そもそも、神獣族は、シェンヤンではかなり珍しい部類の、種族にあたる。
マグ・メールでは、奴隷階級として、労働力や、性処理に使われているらしい。
だからこそ、神獣族であろうハナビが、こんなに街中を、堂々と歩いているのは、この街に来て、まだ日の浅い砕華には、不思議だった。

だが、それだけ。
不思議だろうと、神獣族であろうと、砕華の人の判断は一つ。
お客であるか、そうでないかの違いだけだ。
目の前で、話しかけてきたハナビは、砕華にとって『お客』である。
だから、ハナビとは友好的に接する。

ガだ、仮にハナビが敵対行動をとったら、その限りではないだろう。
背中に背負っている、護身用の長刀は決して、見掛け倒しではないのだから。)

「サンマは、海の魚ですから、川では取れませんから。
よければ、これをどうぞ。私は先ほど、味わいましたので。」

(空腹ではない、といえば嘘になる。
だから、食べるならばこれをどうぞ、とお腹を押さえて恥ずかしそうに、残念そうに肩を落としたハナビに、箸と一緒に食べかけの、サンマの半分を差し出した。
開いているのかいないのか、分からない細目を向け、またかくん、と首を横へと傾けて。)

ハナビ > まるでお人形さんみたいだ、と感じた。
こてんと首をかしげる仕草、細くて長い目。そして綺麗な黒い髪に整った顔立ち・・・。ただ、背中に背負ってる刀がいろいろ台無しにしてしまってる気もするが、それはそれ、これはこれ。

対して少女は無手である。武器らしい武器は何一つ持っておらず、防具もない。もちろんミレー族のような外見をしているため男どもはよく寄ってくるが、大抵は返り討ち。今回も時間を置けばまた寄ってくるのであろう。

「うぐ・・・で、でも、悪いよ・・・?」
見た目からはわかりにくいが、少なくとも一口食べただけで満腹、というはずがなかろう。
さすがに堂々と貰うのは気が引けた。せめてかわりに何か差し出せればよかったのだが、食べ物があればお腹など鳴らしていない。
むぐぐ、と困ったように周囲をキョロキョロしてかわりに何かあげれるものがないか探すのであった

砕華 > (ハナビの体型を、その眼差しで少しだけ、観察させてもらった。
神獣族が、このように、落ちてきたとはいえ、日が射す街中を、堂々と歩ける。
武器らしいものは見当たらない、しかし、適度に鍛えられている、柔らかそうな筋肉。
それを見る限り、何か武芸のようなものを、嗜んでいるのだろう、と推測した。
そうでなければ、神獣族が街中を、堂々と歩けるはずがない。

知り合いの、貴族に奉公している神獣族は、身の安全が保障されていた。
時折、買い物に来る神獣族と、目の前のハナビを見比べて、明らかに体つきが違う。
学んでいる武芸が、どのようなものかまでは定かではないが、素人目に見ても、ハナビは少し、周りとは違う感じがした。)

「あら……、そうですか。
とっても、美味しいんですのに……。」

(砕華は、意地悪く眼を細め――元々細目であるが――、口の端を持ち上げた。
箸を器用に、親指と中指、一本一本を指の間にはさみ、人差し指を挟んで、持つ。
先端を使い、白っぽく焼けた身を解すと、皿の上で纏めて、挟んで、毀れないように手を添えて、口に持っていく。
一口、二口としっかりと、口の中で味わい、滲み出した唾液と一緒に、喉へ通す。
ほのかに甘く、濃厚な魚の味が、口いっぱいに広がって、また幸せそうな表情をする。
不躾だけど、お箸を咥えたまま。)

「本当に、いらないんですか?
このお魚は、秋にこそ美味しくなって今、正に食べごろだというのに。」

(傍らにおいているのは、七輪。
その中には、いまだに赤々と燃えている、炭がそのまま残っていた。
皿のその上の金網には、今正にサンマを焼いていた、皮の焦げ目が、くっきりと浮かんでいる。
其処からも、ほのかに感じる、脂の香ばしい香りが、あたりに広がっていた。)

ハナビ > 体格こそ小さいものの、鍛えられた体は隠しようがない。
筋骨隆々とはいかないものの、立派なアスリート体型。
他のミレー族のような華奢な感じはなく、しなやかに締まっているのが見えるだろうか。
そして同時に、微かに甘い媚薬に近い香りもまた、肌から汗と共に漏れている。

「うぐぐ・・・・・・た、たべたい・・・・・・」
ごくり、と喉がなった。箸の使い方はそこまで得意ではないが、美しい白身が砕華の口元へ行くたびに唾液が口内に溜まる。
食欲には勝てぬ、と諦めた・・・問題は対価であるが。
今は後先は考えずに、目の前の焼き魚に心を奪われていた。尻尾を振りながらおずおずと近づいていく。