2016/08/20 のログ
ルーミス > 降り注ぐ粉塵をその髪に浴びながら、不敵な笑みと伴う双眸は彼女を捉えたままだ。
学舎の堅牢さを知る己としては、このような微震など気にするにも値しない。
いわば"キリ"に属する錬金術士はその限りではないのかもしれないが。
杖を元の通り仕舞い込み――

「まァな。ぶっちゃければ見逃したってどうということもねェが……手柄は欲しいものだろ?」

誰だって。
そこまで言ったところで、空気が変わる。
一瞬、前髪の合間にて煌いた深淵。世界を統べるに値する、その光が己を捉えた。
ぞくりと、背筋に何かが走る。己が非常事態に晒されるほど、しかしこの錬金術士は不敵に微笑む。

「……ありがたいことだ」

速く、疾く龍の身が、障害物に阻まれ狭苦しい通路を駆け抜ける。
そのまま一息に、その身が腹部へとぶつかった。
何かを口にする暇もなく、連れ去られる。二つの影が瞬く間に遠くなっていく。

ユリゼン > 「飢(かつ)えておるのう! くっくっく。よい。我らは竜に挑むものを無碍にはせぬ」
「それが当代の習いと聞いておる。我が愛し子らと、そなたら人の子らの約定ゆえな」

その言や良しと笑い、次の瞬間には衝突の衝撃に晒される。
錬金術師の腹にめり込んだ角から衝撃がダイレクトに伝わって頭蓋が揺れた。
タックルの要領で胴を捉え、しっかり抱きかかえまま錬金術師たちの頭上を越えて地上に飛び出していく。
そのまま遮るものなき蒼穹の高みへと舞い上がり、地上の喧騒を遠く離れて。

「うむ、やってやったのじゃ。有言実行じゃな」
「なに案ずるには及ばんのじゃ。元より戯れなれば―――っくしゅん!!」
「……帰るかの。こう見えて多忙な身でな、数学の宿題がたまっておるのじゃ」

学院の女子寮めがけて降りていく。

「そなた、錬金術師よ。名を何という?」

ルーミス > 「あァ、そうか。その約定を結んでくれた誰かに感謝しなきゃな」

衝突の衝撃は並ではなかったが、全霊の力を込めて耐える。
そのまま呆然としている錬金術士たちの頭上、遥か高く。
蒼穹の高みとは言葉こそ美麗だが、ひやりと肌寒い標高にまで舞い上がった。

「――やれやれ、これで恩を売れず仕舞いかよ。……んだ、大丈夫か?」
「私が携わった大事な身体だからな。風邪を引いてもらっちゃア困る」

女子寮へと、降り立っていく二つの影。
問われればその頭を緩やかに抱え込み、笑った。

「知らなかったのか? ―――偉大なる錬金術士、ルーミス・リーデンハイム。しっかり記憶に留めておけよ」

ユリゼン > 「素性のわからぬ人間はどれも同じに見えるのでな。名乗らねばわからんのじゃ」
「……っくしゅん!! この身は寒さに弱すぎるのじゃ…っちゅん!! どうにかせよ錬金術師よ」

開けっ放しの窓から自室に侵入し、さらってきた錬金術師をベッドに下ろす。
竜のモチーフがあしらわれたゆるい部屋着に袖を通して。

「くく。名乗りまでよく似ておる…そなたグリュネイの妹か何かではなかろうな?」
「ユリゼン・ウェントゥスというのがわしの名よ。仮初のものじゃが、この身を示す名には相違あるまい」
「ところでルーミスよ、そなた功名を望んでおったじゃろ? ちょうど良いものがあるのじゃがな…」

数学のノートと付箋だらけの問題集を広げ、勉強机のとなりに椅子をひとつ引いてきて勧める。
ドリー・カドモン素体に標準搭載された言語プロトコルの賜物か、今日の日付の付箋がついたページを示して。
ノートをめくり、解きかけで詰まっていた問題を見せる。

「偉大なる錬金術師とやらには造作もあるまいが、人界の知恵を欲する者がここにおっての」
「これが済めば戻ってもよい。というか、終わるまでおちおち寝ておれんのじゃ!」
「事が成ればそなたの手柄よ。いかがじゃな?」

ルーミス > 「不便な話だな……ま、私だって似たようなものだけどな」
「……やれやれ、手間のかかる。お前が寒いということは私も寒いってことだ。我慢しろ」

窓から侵入した一室の、ベッドに降ろされた身。
さらわれてきたとはいえ態度は寸分の狂いもなく尊大で、足を組み部屋を眺め回した。

「……? いや、私は一人っ子だぞ。……グリュネイか。腕っ節の良い奴が他にもいるとなると……聞き捨てならねェな」
「あァ、名前くらいなら知ってるよ。言ったろ、私も関わっていたんだ」

功名。なにやら座れと促された椅子に腰を下ろせば、龍が取り出したるはノート、問題集。
どうやら家庭教師のようなものらしい。

「……ふん。このくらいの問題も解けないとは……もう少し脳に時間を割くべきだったか」
「仕方ねェな……手柄になるのなら、私でよけりゃ協力するよ」

言うなり早速、二人三脚で取り組む数学の宿題たち。
錬金術士というだけあって造作もないのだが、量が量だけになかなか終わらず。
それがいつ終了を迎えたかは二人のみぞ知ることか―――

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 実験区画」からルーミスさんが去りました。
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 実験区画」からユリゼンさんが去りました。