2025/08/13 のログ
■デボラ > 「さて、と。」
約1名、しばらくこの店に寄れなくなる。
問題児が一人、あてどなく夜の街に出たその背中を見て。
「あーさてさて。参ったねぇ〜〜〜」
店中央の空いたテーブルに両手いっぱい、指の間に挟んだたくさんの人数分の大ジョッキ。そして往復してドカンとおつまみの山を置いて
「みんなあたしに楽させとくれよ本当にさあ。奢りだよ。テキトーにやってな。」
黒いインナーに白いシャツ、ウェーブのかかった髪をバンダナであげ、南洋柄のラップスカートを腰に巻き、サイドのスリットからさっきはジャックナイフのように足を抜き放った。
手間のかかるガキたちを酒とおつまみであやしている間に、酒場のカウンターと引き続いた宿のカウンターにて。宿を求めてきた人の記帳を承る。
「ごゆっくり。」チェックインした冒険者を見送り。
ご案内:「宿屋/酒場」にラッツィオさんが現れました。
■ラッツィオ > ダイラスの倉庫街に居を構えている男は、住処を離れて仕事をするときは宿屋を借りることが多かった。
いくつか行きつけの宿はあるものの、昨夜初めてこの宿を利用することに決めたのは、店先に立っていた豊かな黒髪の美女に見惚れたから。
昨夜のチェックインの時にも軽口を叩いたものだが、あっさりとあしらわれたという記憶。
賑やかな物音に部屋を抜け出したきた男は、ちょうど階段を上がってくる冒険者とすれ違う。
初対面の相手でも「ご苦労さん」と声をかけてすれ違うのは、この宿を仕切る女の快活さが影響しているのかもしれない。
受付に立っている女のところへ近づき、カウンターに腕を預けて。
「随分と賑やかだったじゃねぇか。昨夜もだったし、いつもああなのか?」
酒場のほうへクイッと顎をやって、乱闘めいた騒ぎが階の上にまで聞こえていたことを示す。
と、そこで誤魔化すように咳払いし。
「ンン、なんだ。別にうるさいと文句を言いに来たわけじゃねェ。
美女が怪我でもしてないかと思って降りてきたンだが、余計な心配だったな?」
肌を露出している部分の多い彼女の服装、下品に思われない程度に眺めて、傷やアザがないかを観察した。
■デボラ > 二階から宿泊客の一人が降りてきた。
「おや色男。起こしちゃったかい。ここにいい抱き枕があるんだけど…冗談さね」
夏の日差しのように笑う。男の指す酒場方向を肩越しに振り返れば、少年の心を忘れない大人というクソガキたちの痴気が乱れ咲く。
「まあ大体こんな感じさね。冒険者なんてのをやってる人間はさ、わかるだろ?」
明日もしれぬ暮らしを渡るために金を投げる。
具にもつかないことをやってミッションをひととき忘れる。そんな人種。
肌の露出を走る目に。
「…なんだい、恥ずかしいね。こんなおばさんにさあ?」
軽く戯けるが、傷やあざを見たのだろうと察する。幸にして懸念は、なかった。冒険者たちはアホだが…
「あの子たちはああ見えて見栄っ張りでね。意外と紳士なのさ。もしあたしが怪我なんてしたら大変だよ。あの子たちは大騒ぎさ。」
カウンターで両手をついて、何か飲むかい?デボラはそう聞く。
ビール、エール、ミード、ウイスキー、ワイン。一通り大衆的な値段で揃えている。宿の火雲ラーのサイドに曲がって続くバーカウンターにはメニューが置いてある。
■ラッツィオ > 「参ったな。美女に色男なんて持ち上げられたら、眠れなくなっちまう」
自分もそうだが、外見通りの年齢推測が通じない街である。
まるで若輩者のような口振りなのは本当に老練なのか、あるいは彼女の性格か。
いずれにしろ悪い気がするはずもなく、照れ隠しに顎の周りに生えた無精髭を撫でた。
「俺は冒険者じゃあねェが……。
若い頃はあんな感じの仲間とつるんでた。毎夜騒ぐのが楽しくてな。
あんたのことを信頼してるから、あれだけ騒げンだろう。
悪評がついたら宿を借りるのも苦労するなんてこと、知らないほどバカじゃあるまい。
――じゃあ、昨夜と同じエールを2杯、1つはあんたに」
ポケットから代金ぶんのコインを撮み出して、テーブルの上に置く。
飲み物を取りに向かう彼女の背中、成熟した大人の色気が漂う曲線美を目で追いつつ。
戻ってくればエールを受け取って、大きく傾けて喉に流し込んでから。
「……ああ、そうだ。さっきの言葉、冗談のつもりだったのかもしれねェが――
抱き枕、借りられるのか?」
エールを半分ほど飲み干してから、ぐい、とカウンターに身を乗り出す。
阻むものこそあるが、彼女の目の色が分かるほどには近くに顔を近づけ。
■デボラ > 確かにこの街の住民は、外見通りの年齢をしていない。
かくいう彼女自身は若い方の40代だが、亜人、あるいは人外、霊的存在などなど、人間の尺度が通じない存在も数多。
彼のいう通り、羽目を外すということは、やはり信頼なのだろう。
パーティから誰かが亡くなったと聞けば葬儀に顔を出し、席を用意してやったりもした。
若い冒険者が官憲に捕まった時に後見をした。そんなこともある。
「そうだね、じゃあご馳走になろうかね」
お題を指でこちらにす、と寄せて集める。
一旦カウンターの向こうの台所に消え、やや冷えたエールをジョッキに二つ、両手にそれぞれ持ってくる。
共に飲み干す彼女の喉の動き。さばけた所作の端々に匂う気配はしなやかで、艶かしい。
胸元に落ちる汗の香りは人間のそれと微妙に異なっている。迫る鰐目を受けて立つ。カウンターの上に肘をつく両手を組んで薄く笑う。
「さあ、どうだろうねえ。うちの馬鹿(ぼうけんしゃ)どものお守りでちょっと忙しいんだ。まあ、あたしも女だからねえ。
……なんかそういう風が吹いてくる、なんてこともあるかもさ。近々嵐が来るとか、来ないとか。嵐はいいねえ、あとぐされがなくて。」
天気の話だよ?と付け加えた。
■ラッツィオ > 「そこで殊勝に断ったりしないのが、あんたのイイところだな。
若い連中に好かれてるのもよく分かる、と――…
考えてみりゃァ、こっちは宿帳に名前を書いてるが、あんたの名前は聞いてないな」
彼女がエールを取りに行ってる間に宿帳をめくり、"ラッツィオ" と名の書かれた場所を、戻ってきた彼女に示す。
とはいえ、この仕事をしていれば、あえて思い出させずとも頭に刻まれているのかもしれないが。
褐色の喉元が上下に動き、液体を飲み込んでいく様は艶めかしい。
見せつける角度を熟知しているかのような女の所作だ。
ならば、その姿を眺めるくらい、酒代のおまけで眼福に預かってもいいだろう。
「そうだな、嵐はいい。ちィとばかり煩いが、他の音を掻き消してくれるからな。
丘の上じゃ海のような嵐はなかなかやってこないが、今夜はちょっと風が強くなりそうだぞ。
さっき窓の外の匂いを嗅いだら、湿っぽかったからな」
先にエールを飲み干して、空になったジョッキをカウンターに置く。
自由になった手で、彼女の前腕に触れようとする。
掴むではなく、ただ肌の温度を確かめるだけの触れ方で。
「――そろそろ、店じまいの時間じゃないか?
騒がしい小鳥たちには、朝までもつ餌も水も与えてやってるだろ」
■デボラ > 「あたしの名前かい?バーのママってことじゃあ、ダメなのかねぇ。」
とん、
カウンターの上に、来客への挨拶を書いたメッセージカードの隅に、「デボラ」と書かれている。
あるいは、15年以上前に、流れのダンサーだった彼女をあるいは覚えているかもしれない。
「思ったより嵐が早いんだねえ…」
少し、心ここに在らずのふう。
彼女の嵐は月の周期と共に来る。
(そうだね、この勢いなら多少は…)
(湿っぽい……)
体の一番深いところが、水を滴らせる。
彼女の腕に触れる、彼の手に、わずかに身じろぐ。
反射的に、家族のことを思う。
「あ、そうだね!」
自らに追い縋る血統の引力を振り切る。
壁にかけた時計は、確かに店じまいの時間だった。
「店じまいか!…でもねえ、あたしを乗りこなすのはちょっとホネだよぉ?今日はよく寝て、明日に備えなね?
あたしはいつでもここにいるからさ。」
■デボラ > 「ダイラスの女は海っていうじゃないか。まあまあ、よく考えて、準備をしてからさ。」
それは、実は彼女こそそうであったりする。
「ちょっと台所で野暮用片付けてくるけど、何かあったらいつでも呼んでね。あたしはこの階の宿直室にいるからね。」
そして、台所の入り口脇の小棚から、吸入器を出して何かを喉で吸っている。薬物、ではないが、わずかに落ち着きが見られる様子で。
ほんとごめんね!と相手にに詫びていた。
■ラッツィオ > メッセージカードの裏に書かれた達筆を眺める。
"デボラ" の響きと波打ち跳ねる黒髪、酒が入ったことで体温が上がり、鼻を擽るようになった彼女の匂い。
恵まれた肢体を惜しげもなく使い、男も女も魅了しながら円を舞う。
ぼんやりとした記憶が脳裏に過ぎり、彼女の笑みと重なって、霧散していった。
数秒か、呆けた顔をしていただろう。
誤魔化すように笑い、「ごちそうさん」と改めて告げて。
「俺も、もう何日か泊まらせてもらうつもりだ。
なにか手伝えることがありゃァ言ってくれ、酒と美女の頼みには弱い性質だからな」
今夜の雨風は、まだ嵐とは呼べないほど。
店じまいのためにカウンターを出て歩き出す彼女の背中、豊かに動く尻を最後に目に収めると。
「ああ、なにかあったら声かけさせてもらうさ。
それじゃあデボラ、おやすみ。
明日の朝飯も期待してる」
彼女が厨房に消えていくのを見届けてから、階段を上がって借りた部屋に引き返す。
雨と風が少しばかり強くなり始めていた。
ご案内:「宿屋/酒場」からデボラさんが去りました。
ご案内:「宿屋/酒場」からラッツィオさんが去りました。