2025/07/19 のログ
ご案内:「平民地区 農村地帯」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 広大な城壁に囲まれた王都マグ・メール。
その中でも民家少なく、農地を多く有するエリアがある。
民家から漏れる灯りも少なく、人通り少ない其処は街灯も疎ら。
陽のない時間は月明りばかりが頼りとなる農道を、妖怪は独り歩いていた。
白木で出来た下駄が、カラリと乾いた土の地面を踏んでいく。
今宵の月は、満ちてから数日を経過した有明月。
心許ない月明りは遠くを見通すには足りず、しかし妖怪の歩みに迷いはない。
そしてその妖怪の手にあるのは、生成り色に細い黒の縁取りだけが塗られたシンプルな番傘。
それは白魚のような手に柄を握られ、月明り遮るように天へと向けて開かれていて。
「あめあめ、ふれふれ―――、」
小麦畑沿い、夜闇から響く静かな歌声。
鈴鳴らすような声がゆっくりと、呟くように歌っている。
収穫後の小麦畑は乾燥した麦の根元だけが残された状態。
風に揺れる穂もなくじつに静かで、だだっ広い畑に歌声がよく響き。
「×××××―――、じゃのめでおむかえ、うれしいな、」
一部、さざ波の様な音にかき消される歌声。しかし数秒の後に再び畑に響く。
…と、不意に番傘に落ちる雫がひとつ。いつの間にか雲間に隠れる夜空の月。
さぁさぁと、気が付けば土濡らす雨が空から止めどなく降り注ぎ、番傘がパタパタと音奏で。
ご案内:「平民地区 農村地帯」にエリビオさんが現れました。
■エリビオ > 今宵はギルドで農地を荒らす害獣退治に出向いていた。
仕事は難なくこなせたが巣を特定するまで時間がかかり宵の帳が落ちる中、急ぎ足で帰路を目指していた。
踏みしめられた乾きの農道を歩む中、その黒瞳には月明かりに照らされし影が映り。
耳には可愛らしい歌声が響いてくる。
「誰かいる……こんな時間に?」
独り言呟き前方に目を凝らしている内に
額に冷たいものが当たった。
しゃら、しゃら、と……乾いた夜の大地に、足音と違う音色が交じる。
それは艶めく黒髪も肌も、羽織るマントも等しく濡らしていく雨音。
そして、急ぎ足となって帰路を目指そうとする矢先、月も隠された暗闇の中で着物姿の女性の姿が浮かび上がり。
はた、と駆け足は止まった。
「……じゃのめ、じゃのめ、鬼の目玉……だっけ?
すごいね。君の歌声が聞こえてから急に雨が降ってきた」
月の途切れた曇天の下。まばらな街灯に浮かび上がったのは、漆黒のマントを風に揺らす少年。
片手にはマントを翻して、傘代わりに頭を覆い、黒く濡れた前髪の下、細い目元がゆるく微笑んでいた。
■枢樹雨 > 月隠れ、よりいっそう視界悪くなる農道。
それでもやはり妖怪は、ゆっくだが迷いない足取りで小麦畑沿いを歩く。
長い前髪の下、虚ろ気な蒼の双眸を前方へと向け、遊ぶように番傘をくるくると回す。
街中であれば迷惑となる行為も、周りに誰一人として他者が居なければ問題もない。
透け感のある絽の着物。内側の白絹の襦袢と重なり涼やかなそれ。
雨によりぬかるんでいく地面から雨水が跳ねて裾汚しても仕方のないはずが、不思議と妖怪の衣服は汚れも濡れもしない。
そうして向かう、先。
聞こえたのは誰かの声。
歩み止め、番傘の露先をそっと持ち上げると、貴方からも長い前髪に隠れた顔が見えるか。
外套を雨避けに此方へと視線を向ける、年若い男。
虚ろな蒼の双眸が数度、ゆっくり瞬きを繰り返し。
「じゃのめは、蛇の目。傘の、模様。
―――日照りばかりは、良いとは言えない。だからそろそろ、降るが良い。」
淡々と、抑揚のない声音。
雨音にかき消されてしまいそうなその細い声は、不思議と貴方の耳へはっきりと届く。
更に露先を持ち上げ、見上げた空。
降り注ぐ雨は止めどなくも優しく、霧雨めいて肌に当たって痛く感じることはないだろう。
答えはまるで己が降らしたとでも言うように、雨へと向けて静かに語る。
そうして貴方の方へと戻る視線。
前髪の隙間から覗く蒼は、街灯の傍にある切れ長な瞳見つめ。
「貴方は、だぁれ。」
妖怪は知らない。貴方の事を。
今、この身を支配する妖は、怪異は、貴方のことを知りはしなくて。
■エリビオ > 「鬼の目玉じゃなくて蛇の目だったか。
……うん。きっと畑の作物も喜んでるよ。
俺が害獣退治した畑も罅割れていて作物が可哀想だったから。」
天と地を絶え間なく紡ぐ細い雨糸が街灯の明かりを照り返す様に視線を這わせながら小さく頷き……かけたが。
「っていうことは、これ君がやったんだよね。凄いね。こんな広範囲に天候を左右する魔法なんて見たことないよ。
…… ん?」
語りながら言葉がつまっていく。傘からかすかに覗く隙間に角があり。
薄闇に照らされし姿は、濡れ鼠の己と違ってさっぱりと乾いた様子。
更に黒い眼差しを下げれば泥濘の羽水すらない。
その様を恐れもなく、寧ろ興味津々と長い睫毛を瞬かせて見つめていた。
視線が動いたのは問いかける声があってから。
「俺?俺はエリビオって言うんだ。」
視線を感じて絡めるは人懐っこく眦下げた瞳の容。
前髪に隠れた相手の瞳を覗き込むように薄く首を傾げて濡れ髪が肩に溢れた。
「君の名前はなんていうの?
雨の精霊さん?それとも俺の知らない東方の精霊なのかな?」
■枢樹雨 > 「そう、蛇の目。円と円で描く、模様。
―――害獣、退治?この辺りは、貴方の畑?」
傘持たぬ右の手。その人差し指が宙に円を描き、その内側にもう一つ円を描く。
それが蛇の目であると説明するも、続く貴方の言葉を聞けば意識が逸れる。
土を肥やすも、肥やした土で作物育てるも、そしてそれを外敵から守るも人の子の役割。
ならばと、貴方を見遣るものの、その肌色や手指の様子を見ては首を傾げ。
「雨は、天からの恵みもの。私は呼ぶことはできても、それに応えるかどうかは知らない。」
此度は否定するかのように、凪いだ波のごとき声音が答える。
蛇の目描いた手が前方へと伸ばされれば、雨受ける掌。
しかし相も変わらず着物が濡れる様子はなく、器となるよう折り曲げられた掌に徐々に雨水が溜まっていくだけ。
「私に名はないよ。雨女とも、雨降らしとも、雨壺とも、人の子は呼んでいる。」
問いかけに横へとふられる首。
同時に、保てれていた距離をゆっくり詰める。
そうして差し出した番傘。
大きめのそれに互いが…、どちらかというと貴方を優先的に収めるよう、高めの位置に持ち上げて。
「風邪を引くよ。人の子の身体は弱い。」
■エリビオ > 「へぇ、勉強になったよ。蛇の目の、傘模様。」
相手に倣って指先は空に円を描く。彼女が描く円の内側に、また1つ。3つの蛇の目。
見つめられる視線が擽ったいと肩を震わせる。
「いいや。俺は冒険者ギルドの依頼で来たんだ。
畑仕事する人の作物を荒らす巨大モグラを退治しにきたんだ。
俺の肌からは土の匂いも、お日様の匂いもしないかもね。」
雨に濡れし指先は爪も割れず土に汚れてもないもの。決して農夫とは違うそれに何故かしら申し訳無さを感じてひらり、と横に振った。
そうする間にも黒瞳は具に相手の挙措を観察し、傘から飛び出した手すら濡れぬ様子にほぅ……と感嘆の吐息が溢れる。
「君、面白いね。雨を呼んだり雨に濡れなかったり名前がなかったり……不思議。
君の呼び声で、きっとこの周辺の農家の人たちは喜んでるよ。
それはきっと良いこと……」
言葉が途切れる。そっと、差し出された傘に温かさを感じたから。
同時にすっかりと濡れそぼるマントや制服が清い着物を濡らすのではないかという危惧も。
悦びと不安、双方ないまぜに眉尻下げた微笑みを浮かべ。
「ありがとう。優しいね『雨ちゃん』。
でも大丈夫?服、濡れないかな?」
己と触れることで……とは口にせず。
身長差故に高らかに持ち上げられた傘をそっと受け取ろうと細い指たちに冷たい長い指を絡めようとした。