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参加者(0):ROM(1)
Time:15:10:48 更新
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」からナイトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」からヴァンさんが去りました。
■ナイト > 「あー……。王国式のダンスは、まだ……ないわ。でも、すぐに覚えるわよアレくらい。
ヴァンがダンスの相手してくれるって言うなら、絶対ね」
軽く相槌を返しながら、地味に信頼を寄せた言葉をかける顔は何故か苦笑だった。
教えてくれと少女が頼めば、例にもれずこの男はいつものスパルタで仕上げてくれるだろう。信頼と実績の鬼教官である。
少女の中で、友人は屋敷から抜け出し運命の人と逃避行をしてしまったわけで。
主はその尻ぬぐいをする形に見えている。そしておそらく、この口ぶりから彼も何らかの形でかかわっているような気がして、返す言葉に迷い、また何とも言えない貌になり。
「何と言うか、色々と複雑なご様子で……。
“きゃー。かっこいいー。せいきしさまぁー。”って、その時は声援でも送ってあげるわ。
まぁ、そんなもの好きいないでしょうから、あり得ないないけど」
冗談交じりの話だったが、意外と茶化さずはっきりと言って彼は歩き出す。
そのあっさりとした態度に少し戸惑うが、少女は冗談で終わらせるためにその背中に変わらず戯言を送った。
これから、また少し忙しくなりそうだ――。
■ヴァン > 恙なく、何事もなく終えようと思っていた目論見はあっさり崩れた。
良い思い出を作るビジョンが全く思い浮かばない。
「良い思い出、ねぇ……。ダンスの時間ぐらいはあるから、踊ってみるか? ナイト嬢、ダンスの経験は――?」
夜会で良い思い出といえば一番は交友関係が広がる、あるいは旧交を温めることだ。二人に縁のない言葉でもある。
他には珍味や美酒、やたらと多い休憩室での一時などがあるが――この少女には刺激が強いかもしれない。
友人の安否を確認し、嬉しそうな表情の少女を見ると穏やかに笑った。ひとまずはこれでよし。
「アンリも俺も困るがね。運命の人とやらが現れたら、他はどうでもよくなってしまうものらしい。
ま、剣会では大丈夫だろう。俺より若い奴もイケメンもいるだろうが、強い奴はいない。止めてみせるさ」
小説の定番ではある。問題は、二人以外の残された者には困難が待ち受けることだ。
男の面前で少女にダンスの申し込みをする者がいれば――試験でさえなければ、男は我関せずを貫くだろう。
力を己の拠り所としている言葉をさらりと吐きつつ、歩き出す。
剣会まで一か月もない。準備をしなければ――。
■ナイト > 「ぐぬっ。わ、わかってるわよ、それくらいっ! 誰も悪目立ちしたくて行くんじゃないんだから。
一応、私も他の……真面目そうな騎士に聞いてみるわ。女性の騎士は少ないから、意見を聞けるかわからないけどね。そっちも分かったら教えて。
……ふーん、それと似た服なんだ。じゃあ、あんまりいつもと変わらないのか」
ちょっと残念。そう呟いて肩を竦め、乗り気では無いらしい男の横顔を盗み見ては苦笑する。
初めての夜会は初陣の昂ぶりにも似た胸の高鳴りを少女に与え、この先あるだろう試練の数々も臆することなく迎え撃つ心持ちであった。
ちなみに、伯爵が監視を送り込むとするなら、給仕係や、伯爵の息が掛かった騎士など、二人とは直接面識のない者を使うだろう。
「旦那様も我儘ね。まぁ、頑張りますけどー。
離れず行動するのは了解よ。でも、後半は反対。ヴァン、アンタ本当は夜会出たくなからって壁の花で終わるなんてつまらないじゃない。
良い思い出の一つくらい作れるように、夜会を楽しもうって気で挑みましょう?」
男が陰でなんと言われているか多少は知っている少女だが、始める前から後ろ向きで消極的な態度にはなれないらしい。
そっちの低気圧漂う憂鬱を払うように、明るい笑みを浮かべ、軽い調子で告げてパチリと片目を閉じる。
このように、今の少女は“良い知らせ”を貰ってからは常に前向き、追い風に吹かれ続けているような様子であった。
「あ、そう言えばあの子のことヴァンには話してたわね……。
ふふっ、うんっ! 少し前に、あの子から『元気にしてるから、大丈夫』って手紙が来たのっ!
本当、良かったわ……。ヴァンも、あの時は気遣ってくれてありがとね」
暫く前、カフェで彼と話したことを思い出し、今更ながら軽く説明をする。
手紙の内容はプライベート(ほぼ妄想で補完)なことなので教えられないが、一番大事なところだけは告げて、少女は心底嬉しそうににっこりと晴れやかな笑みを浮かべて彼にも感謝を送った。
不意に振られた冗談話には、本気にした様子はなく。
「あら、それは壁の花になってる上官殿から離れて、誘ってきた知らない男にOKして良いって事かしら?」
笑い、窓の外に向けていた顔を一度俯かせ、そのまま、一歩、二歩と居をを開けて。
くるりと踵を返して振り返り、流し目で男を見やる。
■ヴァン > 「一応、確認してからな? 万が一一人だけドレス姿だったら『場の状況を読めない』と判断されかねない。
俺か? この詰襟とそう大差ない礼服があるから、それを着ることになるな。ここらへんに徽章がついてる」
王城で行われる夜会は王都、いやこの国で最大規模と言っていい。それに参加できるとなれば浮足立つのも仕方ないか。
昨年あたりから夜会への参加数が増えてきたが、それは家の名代としてだ。男個人の立場で参加することはあまりない。
予感だが、碌でもないことが起きそうな気がする。少女の煌めく瞳とは対照的に、男は憂鬱そうだ。
質問に答えつつ、手を動かす。黒で統一された男の服装は布にも関わらず、鎧のような硬さを感じさせる。
試験官として伯爵は誰を送り込むだろう。知己の騎士か、あるいは手駒を給仕等にして送り込むのだろうか。
「無茶を言っているのはわかっているが、伯爵のご要望だから仕方ない。
そうだな、可能な限り離れない方がいいだろう。二人で仲良く壁の花をやっていよう。
魔導通信もあるし、なんとかなるだろうとは思うが」
わざわざ嫌がらせをするためだけに二人へ向かってくる者は――いるとは思うが、そう多くはないだろう。
男に対して友好的な者達も参加するだろうが、騎士も人間関係のしがらみは面倒だ。助けは期待できないし、期待もしていない。
「愛の逃避行……? 手紙か何かでも来たのか……?」
行方不明、音信不通の状態が続いていたとはいえ、手紙一つでこうも――存在しない行間を読み取れるものかと驚かされる。
真実はそんなに良いものではないが、おそらく悪いものでもないだろう。
少し意地悪を言ってみたくなったので、ここではないどこかを見つめている少女へと言葉を投げかける。
少女はさて、どんな言葉を返すことやら――。
「夜会は出会いの場でもあるからな。剣会にはナイト嬢のお眼鏡に適うひともいるかもしれん。強くて若くてイケメンで……」
■ナイト > 少女も伯爵も、双方何とも嫌そうな顔をして男を見た。
ああ言えばこう言う。口が回る男相手に、これ以上続けるのも馬鹿らしくなったとも言える。
――廊下にて。
品定めの視線を受け止めると、強気な笑みを浮かべ、ずいっと伸ばした人差し指で男の胸を突く。
「うん! じゃあこっちはドレスで決まり。騎士服も公の場で着る分には嫌いじゃないけど、可愛さに欠けるから……どうせなら、ね?
ふふっ、夜会なんて初めてだから、緊張するけど楽しみな気持ちの方が大きいわ。
そう言えば、ヴァンはどんな服で参加するつもりだったの? 神殿騎士の礼服……とか?」
あくまで試験だと分かってはいるが、初めての夜会。小説の中にはいろんな形で描かれる、煌びやかな夜の舞台に密かに憧れて。
浮き足達気持ちを抑えきれずに声が弾んで、気を抜けば隠した耳が出てしまいそうだった。
そこでふと思う。こっちがドレスを選ぶとして、その隣に立つ彼はどんな服を選ぶのか。わくわくと期待の籠るサファイアがキラキラと輝いていた。
「対照的ってわかってて、それを真似しろって結構無茶言うわよね。
まぁ、そうね……必要なこと以外は口を開かず、主……この場合はヴァンから離れず……ってとこかしら。
それを真似するだけなら、ユーモアの勉強はいらないかもしれないけど。そこは予習しといたほうが良いのかしら?」
呆れ半分で嘆息し、友人を思い出すと少し複雑な気分になって来る。
愛想笑い一つ浮かべず、まるで自動人形のように決められた仕事をこなす姿。
同じことをやれと言われて真似ることは出来ても、少女では三十分と持たないだろう。おしゃべりもしてしまうし、一言、逆鱗に触れられるようなことを言われれば、無表情の澄まし顔なんてガラガラと崩れてしまうに違いない。
頬に当てた手でむにむにとほっぺたを捏ねながら、苦笑しながら小首を傾げ問う。
「――そう。禁断の恋……っ! 許されざる恋に燃え上がった二人は愛の逃避行の最中なのっ!
何があったのか、すごく……すーっ、ごくっ! 気になるけど、私は友人として、あの子の幸せを心から願うわ……」
手紙の内容は彼が目を通した時と変わり無いはずなのだが、少女の中で妄想として手紙は何倍もの分厚い内容になってしまったようだ。
ある日街中で出会った貴族と恋に落ちてとか、世界中を旅する大商人の息子に口説き落とされ、色々なもしものストーリーが出来上がっているが、その大半は男も何処かで聞いたことがある、若い女性向けの恋愛小説の受け売りである。
現実ではそうそう起きないラブロマンスに憧れて、ここ数日の少女は一人になるときゃーきゃーとはしゃぎ、中々眠れぬ夜を過ごしていたりした。
今もまだ妄想に浸って、「いいなぁ」などと夢を見ているのだった。
■ヴァン > 「そうそう、俺みたいなのが沢山いる。そうなると自然と学ぶものでね……。
素人ならともかく、君も魔術を嗜むだろう。魔方陣を敷いて座標を固定すればいい。……気軽な<転移>は俺も懐疑的だ」
男の言葉選びは周囲の教育の賜物のようだ。座学で学べるかは少し疑問が残る。
転移魔法の事故は座標が「重なる」ことで起きる。通常であれば世界の修正力が働いて転移した者は少し弾き飛ばされる程度で済む。
ただ、他の生物や無生物が占有して周囲に移動できないとなると――伯爵が言う通りのことになる。
知識のある伯爵が拒否感を示すのには理由がある。無理強いしたり、聞きだすのはやめておくのが賢明そうだ。
「ドレスか……いや、問題はないと思う。男も女も、自分の所属と階級を示そうと軍服や騎士服でいることが多かった。
そもそも十年以上前の知識だからな……知り合い何人かに、今のトレンドはどうなのかを聞いてみる。
しかし、ドレスか……帯剣していないのを示すにはいいかもしれんな……」
ドレス、という言葉で視線を隣へと向ける。少女の私服の装いを何度か見たことがあるが、フォーマルで女性的な格好はまだだ。
意外と――というと間違いなく怒るので黙っていたが、人目を惹く姿になりそうだ。
「物静か、聞き上手、素直……対照的だな。だから仲が良くなったのかもしれんが。
残念だ。人の持ち物ってのは性格が出るから、より理解できるかと思ったんだが――君がそれだけ印象に残っていれば十分か。
今君自身が口にしたことを、立ち振る舞いで意識すると良いんじゃないか。
伯爵の口ぶりだと、夜会にはその物静かな子を伴うことはあったようだしな」
荷物については、やはりもう処分してしまったらしい。伯爵ならばそうするだろう。
友達思いのこの少女がいくつか手許に残しているかもと思ったが、どちらにせよ見ることはなさそうだ。
伯爵が護衛に求めているものが何か、この会話で少女にも伝わっただろう。
能力と外見は申し分ないと伯爵が言っていたことは、四か月前に少女に伝えてある。
「幸せの真っ最中……?」
恋に恋する乙女、といった様子の少女を眺める。
手紙の話は少女からまだ聞いていない。あの文面をどう読んだらそう理解するのか男にはわからなかったが、
一緒にいた長さからなのか、小柄が言っていたことは正しかったようだ。
■ナイト > 「へぇー。その減らず口は故郷から伝わったものでしたのねー。
ま、実践で使えるかは読んで確かめるわ」
この男の皮肉さは性格から来るものだが、言葉選びのセンスがそこから来たと分かれば、ついつい半目になって笑ってしまう。
本の貸し出しには素直に礼を言って、話は伯爵と男の方へと移っていく。
『馬鹿を言え、転移の魔法なんて事故が多くて信用ならん。胴と足が分かれることだってあるんだぞ。
はぁ……。そうだな。優秀な護衛が居れば、それは勿論その方が良いだろう。教育のほど頑張ってくれたまえ、聖騎士様』
伯爵は男の提案には顔を顰め、吐き捨てるように言い足を組み替える。
実際、転移魔法の事故が多いと言うのは数十年以上昔の話だ。今は粗悪品が稀に起こす事故くらいで、そのような凄惨な噂は今日日聞かなくなっている。
しかし、もしもの可能性を上げて断固拒否の姿勢を貫く。まるで、その凄惨な事故を見たことがあるような頑なさだった。
もうこの話は止めだと言う前に、先に彼の方から退席の声が掛けられる。
丁度良いと伯爵は頷き、目配せをされた少女は少々驚きながらも彼の後について貴賓室を出た。
「え、ええ。それはそうね、いつものメイド服で参加するわけにはいかないわ、給仕と間違えられても困るし。
服はドレスじゃなくて良いの? 夜会って言うから、そう言うものなのかと思ってた。そっか、騎士服かぁ……ちょっと残念ね。
スカーフ……ああ、そう言うこと。騎士服なら詰襟で誤魔化せそうでもあるけど、検討しておくわ」
貴賓室を出て二人並んで廊下を行く。コツ、コツ、コツ、と二つの足音が鳴り、他に音は無かった。
「? あー、そうね。その可能性はあると思うわよ。――は? 何? ……ふーん……、性格ぅ?
物静かで、聞き上手で、素直で、旦那様の言いつけは必ず守る。情緒はちょっと……残念なトコあるけど、とても良い子よ。
言っとくけど、もしもあの子の荷物が残ってたとしても、ヴァンには……って言うか、男には見せないわよ。
乙女の私物を本人に断りなく暴こうだなんて、言語道断なんだから!」
予想していなかった追及に訝し気に首を傾げ、ジロリと眉間に皺を寄せた鋭い睨みが男に向く。
訳を聞けば一応は納得して、知っていることはつらつらと語るが、まだどこか腑に落ちない様子で。
荷物についても、もしもの話として、大仰な物言いで口を尖らせた。
そして、ふーっと深く息を吐き、遠い窓の向こうに見える空を見上げ、愛の逃避行と言う文字に踊らされた乙女は、ほうっと頬に手を添え。
「――それに、あの子……今頃どこか遠い所で幸せの真っ最中みたいだから……。探して無理に話聞きに行こうとかしないでよね。
邪魔したら、いくらヴァンでも噛み殺すわよ?」
笑顔だが、さらりと口から出た言葉は物騒だった。
■ヴァン > 男の半生は暴力装置そのものだった。昔は奉ずる主教のため、今は己自身とその周囲を守るため。
暴力はより強大な暴力により、たやすくその正当性を失う。強くあり続ける――単純だが非現実的な道。
「そうか。日頃の生活で鍛え済みと。……まぁ、忍耐力を鍛える訓練ってのも思いつかないが。
よし、なら故郷から何冊か本を取り寄せるか。ユーモアはラインメタル発祥と言われるくらいだからね」
試験だと意識すれば多少の口撃など造作もないだろう。
ユーモアの本は……なかなか難しい。聖典や古典の引用、直近の出来事の比喩などがよく使われる。
話す者も聞く者も相応の知識を要求される。剣会の参加者の傾向からして、戦の史実や故事の本も併せて渡すべきだろうか。
「平時ならそうだが、あの時は貴族の間で暗殺だの何だの、色々あっただろう。いつの間にか沈静化していたが……。
<転移>の指輪でも持っているならともかく、世相が今のように穏やかな状態が続くとは限らん。
護衛はつけられる状態にした方がいい」
冷たい視線を受け止め、そのまま見つめ返す。簡単な正論を言うに留めた。
歓迎せざる来訪者について伯爵は来訪があったことすら話さなかったが、会話でわかる。その正体も。
一度ある事は二度、三度がありうる。備えなかった愚か者に、友をさせたくない。
本人が気にしていない風なので収めているが、本来ならば土掘り返して根まで焼き尽くしている所だ。
しかし、その存在が今回は鍵になるかもしれない。
「――ふむ。アンリ、ナイトさんを借りるよ。少し確かめたいことがある。
――まずは、普段とは違う装いをすることも大事だな。服は騎士服から変えられないとして、だ。
髪をアップにしたり、結ってみるとか。装飾品をつけるというのもいいな。スカーフなんかがお勧めだ」
返事を聞かずに歩きだし、貴賓室を出る。これ以上を彼の前で言うのは憚られた。
夜会に護衛ではなく、参加者として赴く際のアドバイスをする。スカーフの下に魔導通信機をつけるように言っている。
しばらく歩いてから振り返り、声が届かないだろうことを確認してから少女に話しかける。
「ナイト嬢、伯爵が話していた『良く躾けられていたメイド』というのは君の友人だと思うのだが――彼女の性格を知りたい。
君が思い出してその子の振る舞いを真似るのもいいし、荷物があるならそこから俺も人となりを知れるかもしれない。
ナイト嬢が言う足りない部分、俺はさっき言った程度だと思っているが、見落としがあるかもしれないからね」
とはいえ、行方不明になって半年近く経つことになる。荷物はとっくに処分されているだろう。
伯爵がもう一人を伴っていた理由を少女が理解すれば、それは試験合格に近づくことになる。
■ナイト > 乗り気では無い様子の表情を見て、少女は片眉を上げ、伯爵は愛想笑いを浮かべる。
どちらも発言を取り消すつもりは無いらしい。
先に折れた彼が話し出す内容に二人で耳を傾けていたが、途中言葉に詰まったことで、一度顔を見合わせる。
(今、脳筋って言おうとした?)
(言い直しても然程意味は変わらんが……)
口は挟まず大人しく声が途切れるまではそのまま聞く体勢を貫く。
野蛮だなどと言っている本人が一番、と言うのは言葉にするまでもなく。裏で糸を引き盤上を操る伯爵とは対照的に、武力をもって問題を退けてきた男である。暗躍を得意とするようには未だ見えないが……。多少は歳を取って変わって来たか。
行方知らずとなった手駒に追手を掛けるのを止めたことも、解せぬ所はあったものの、結果的には上手く収まってしまったが故に高く評価している。
何処までがこの男の計算だったのか、詳しく聞き出してやりたいものだ――。
伯爵にとって、この夜会は都合が良かった。
友の力、あり方を観察すると言う意味もあるが、一番はこの数か月の内に積りに積もった借りを清算する方法を悩んでの事。
他家へ暗殺を企て、大きな騒ぎを起こしてしまった尻ぬぐいに、この男の助言を聞き入れたのが一つ目の借り。
屋敷の警備の見直しや、兵士の訓練、その上この跳ねっ返りの狂犬を躾けられたのが二つ目の借り。数え始めればきりがない。
友人同士と言えども、貴族同士の関係はドライで利己主義にならざるを得ないことは良くあることだ。
ここらで上手く貸し借りの清算を行えれば、それは伯爵にとって非常に都合が良い。
狂犬に関しては、四カ月で多少なり改善が見えればそれで良し。
改善が見えずトラブルを起こすようなら、これ以上労力を割く必要は無いと判断して従士教育は切り上げさせるつもりでいる。
能力のある者には時間も金も掛ける意味があるが、そうでない者に慈悲をくれてやるつもりは、雇い主にはないらしい。
無論、そんな主の思惑など知らずに、自信満々な少女はふふんっ♪と鼻を鳴らしてニッと笑みを浮かべた。
「承知したわ。嫌味は聞き慣れてるから、有象無象の雑魚どもが負け犬の遠吠えでもしてると思って聞き流すわ。
ユーモア……は、正直あんまり自信ないけど、何か参考になりそうな本を一冊貸してくださる?」
その自信は何処から来るのか、日頃の性悪メイド達との応酬からか。
特に不安を感じることも無く、片目を閉じて肩を竦めて見せた。
『――ん? 嗚呼、夜会……では無いが、会合にはナイトを護衛として付けたことはある。幸い、無駄な話をするような場では無かったので、トラブルは無かったがね。
それ以外は、良く躾けられたメイドが居たのでそれを伴うことはあったが、大概は一人だ。護衛を付けずに出歩いて叱られる年齢では無いと思っていたんだが、まったく、困ったものだ』
嘘は交えず当たり障りのない真実だけを告げ、軽口を叩いて琥珀の瞳は冷たく男を見据えた。
これ以上、余計なことは聞くなと言う牽制のつもりなのだろう。
■ヴァン > 少女とその雇用主の言葉に対して、苦虫を嚙み潰して耐えたような表情をする。
「――もちろん、君を気遣っている」
剣会で騒ぎが起こるとしたら、その渦中にいるのは少女ではなくきっと男の方だ。過去のトラブルに少女を巻き込みたくはない。
剣会について友人は畑違いであまり知らない。考え直すことは期待していないが、釘は刺しておこう。
「わかった。二人とも、まずこれを頭に入れておいてくれ。
剣会は他の夜会と多少、趣が異なっている。騎士・軍人が多いから権謀術数というより脳き……直接的な解決を好む者が多い。
それと、剣会は帯剣可能だ。武力で身を立ててきた連中だから得物は身体の一部といって過言ではない。
つまり、もし騒ぎがあったら藁小屋に火球をぶちこむようなもので、とても酷いことになる」
野蛮で嫌だよなぁ、とぼやく男に伯爵がなんとも言えない視線を向ける。直接的解決をしてきた男が何をのたまうか、という目。
もしかしたら伯爵が試したいのは少女だけではなく、男も含めてなのかもしれない。
それと共に、伯爵が少女への招待状を握り潰した理由も何となく推察できそうだ。
少女の言葉を聞いて伯爵へと視線を向ける。大丈夫と判断する機会があったのだろうか。
来客に対する振る舞い、日々の業務の過ごし方、同僚や直近の上司の言葉……顎に手をあてる。わからん。
二回目に少女が男を呼んだ時は呼び捨てだったが、伯爵は気付かなかったのかスルーしたのか表情が変わらない。
「そうだな……君は揶揄や非難に対し、真向から立ち向かう傾向がある。もちろん必要な資質だ、否定はしない。
ただ、夜会では軽くいなしたり、ユーモアを装って死角からチクリとやる事が求められる。これは君の主の十八番なんだが、まぁいい。
あとは……アンリ、これまでずっと夜会には一人で行っていたのか?」
負けず嫌いは良い点だが、過ぎれば厄介ごとを呼び込む羽目になる。平時の冷静さを少女には求めたいところだ。
以前カフェテリアで、貴族の会合などで伯爵の護衛をしたと少女は言っていた。それには夜会を含むのだろうか。
先日宿におしかけてきた人物を思い出す。友はあまり話題にしたくないだろうが、必要なことだ。
■ナイト > 二人に勧められ、警戒しながら浅く椅子に腰かけ耳を傾ける。
いつになく堅苦しい形式ばった話し方は彼らしくない。
指導役として初めて屋敷に来た時よりも真面目腐った振舞が気になって、話が半分くらいしか頭に入ってこなかった。
この口調がずっと続くとか……。げんなりと目に見えて嫌そうな顔をしているのが相手にも伝わったのだろうか。
伯爵へ軽く断りを入れてから、男はいつもの調子戻った。
伯爵はと言えば、騎士として、貴族としての振舞を見せようとする友人の姿を高みの見物で眺めていた。
ここでもっともらしい理由を付けて、威厳を持たねば駄目だと言ったところで、相手は何だかんだと理由を付けて躱すのが目に見えているので、あえて口は挟まず、軽く相槌程度に頷いて返した。
一通り話を聞き終えた少女は、なるほど、と腕組みをして考え込んだ。
剣会。名前くらいは聞いたことがあるが、実際にその誘いが少女のもとに届いたことは無かった。
チラリと横目で主を見れば、にこりと、口元だけ嗤った品の良い愛想笑いが返される。
つまり、招待状は届いていたが先に主の手で握りつぶされていたのだろう。
別に、騎士同士の夜会なんて、そこまで興味もないので構わないのだけれど。
「……用件はわかったわ。
ヴァン――……様が、私を気遣ってくださっていることもね」
悩む時間はそう長くはなく、数秒の沈黙の後に少女は口を開く。
口元には自信に満ちた負けず嫌いの笑顔を浮かべ、フンッと鼻を鳴らして顎を上げる。
「でも、旦那様はこの四カ月の私を見て、問題ないと判断されたのでしょう? なら、私は騎士としてその期待に応えるべきだわ。
ヴァンも覚悟を決めて、貴方の教えられる出来る限りを私に仕込むつもりで全力できて。
夜会までに足りない部分を補って、私や貴方の事を軽んじてる馬鹿共に目にもの見せてあげるから!
二人とも、楽しみにしてなさい!」
少女は、売られた喧嘩は買う主義である。
夜会の招待状もまた、それに分類される括りにあるらしい。
自信たっぷりに啖呵を切った少女は目に闘志を燃やし、立ち上がり薄い胸を張る。
プライドの高い少女のこと、主の前で期待されていると感じれば、信頼に応えようとするのは想像に易い。
こうなることを見越していた伯爵は、そうかそうかと頷いて、男の方へもニコリと口だけの笑みを向けて。
『そう言うわけだ、来年まで待つなどと言わず、今年の夜会でお前の成果を見せてくれ。ヴァン』
■ヴァン > 伯爵からの目配せを受けると、男は嘆息してから話し出す。執務室でいいだろうに、と小さくぼやいた。
男は再度席に掛けるよう告げながら、二人の視界に無理なく入る場所へと歩きだす。咳払いしてから話し始める。
「ミス・ブラックフォード、よく来てくれた。私のもとで従士として学んで四か月、だいぶ良くなってきたと思う。
そこで、自分に帯同できるに足るか伯爵は試験をしたいそうだ。だが、私は時期尚早だと考えている。
とはいえ君の困難に立ち向かう前向きな姿勢を私も伯爵も知っている。私の一存で延期とすることに君も納得し難いだろう。
私が持っている情報を提示するから、そのうえで判断してほしい」
“ミス・ブラックフォード”? “私”? 普段と別人だ。悪いものを食べたか、頭でも打ったのだろうか。
伯爵が隣にいるから、普段とは違う喋り方なのだろうか。
「……なぁアンリ、いつも通りでいいか? いいよな?
――俺が難色を示す理由は、アンリが指定したのが“剣会”だからだ。あぁ、正式名称はなんと言ったかな……忘れた。
一定以上の階級と勤務年数がある騎士・軍人だけが参加できる夜会だ。俺達は王都部会、王都とその周辺在住の者が所属している。
王城で開かれるし、お偉いさんもそれなりに来る。――俺を嫌っている連中も。
俺は“剣会”にはもう十年以上参加していない。皆が楽しくわいわいやっている場を、赴いてわざわざぶち壊しにすることもないしな」
伯爵の同意を得る前に男は普段の話し方へと変わる。一対一で話す時は、どちらとも堅苦しくない、フランクな接し方をしているのだ。
胸元から取り出した手紙を親指と人差し指で摘まんでひらひらとさせる。話から察するに、男宛の招待状らしい。
男は自嘲気味に笑っている。年配の騎士からは特に嫌われている、という自覚があるようだ。
もっとも、普段の男の振る舞いをみたら好きになるか、嫌いになるかの二通りだろう。
「君が騎士になった時期を考えると、今年初めて招待状が来ると思う。昨年も来てたかもしれないが……」
ある時期での階級・年数を集計して判断されるので、届いていたかどうかは男にもわからない。伯爵に目を向ける。
■ナイト > この屋敷のメイド達が呼ぶ“聖騎士様”と言えば、その人間は一人しかいない。
呼び出されることは毎度のことなので構わないのだが、意地悪メイドのニヤついた顔には引っ掛かりを覚え、眉間に皺を寄せる。
『なんでアンタばっかり!』と嫉妬交じりでやっかまれ、噛みつかれるならまだしも。
あれはまるで雇い主へナイトの失敗を告げ口しに行くときの顔ではないか。
何となく、気が重い。貴賓室へ向かう足取りも重く、扉をノックするのに少しばかりの勇気が必要だった。
「ナイト・ブラックフォード、呼び出しに応じ参上いたしました」
軽く扉をノックして、名を告げてから開く。
いつもなら挨拶と同時に扉を開け放っているのだから、かなり慎重になっているようにも見えるだろう。
部屋の中には呼び出した張本人である男が立っている。
そして、その奥にいるだろう嗅ぎ慣れた雇い主の臭いが漂っている方へと視線を向けて、小さく息を吐くと、堂々と胸を張り部屋の奥、二人の顔が良く見えるだろう椅子の前で足を進める。
「……で、私にお話があるのはどちらかしら?」
カツンッ、とブーツが床を叩いて止まり、サファイアの瞳が二人のそれぞれ一瞥する。
壁に背を預ける聖騎士とは異なり、ゆったりと深くソファに腰掛け足を組む黒髪の男――ヴァリエール伯爵は琥珀色の瞳を細め告げる。
『用件は一つだ。そう緊張することはない、まずは掛け給え』
穏やかに淡々と話す顔に笑みは無く、琥珀は向かいに立つ男へ目配せをする。
詳細の説明は男に任せると言うことだろうか。