2025/08/12 のログ
■ナイト > 「はいはい、連携ね。アンタから習ったことは無駄にしないように、アイツラのこともビシバシ使ってやるわよ。
……あの子に限って嫌になったってのは、あんまり考えられないけど。
仮に逃げ出すなら逃げ出すで、一言くらいお別れを言ってほしいものだわ」
わかってますとも。そう言ってひらりと片手を振って。
友人の話には肩を竦め苦笑する。彼の気遣いには気付いたようで、此方も冗談めかして言葉を締めくくった。
「ふーむ。最適解、ねぇ。警備体制については、近衛隊長とも相談中よ。
うちは屋敷の広さもそうだけど、兵隊の数も多くないから悩みどころなのよね……。
ふふっ、じゃあ、また行き詰ったら、アンタにもアドバイス貰いに行くとしましょう。
――へー、タメで対等……え゛っ」
良い相談相手がいるのは心強いものだ。迷った時の教官頼みである。
後半は聞き流す程度にしていたが、流石に流せない事実に、少女は大げさなほどに驚き、二度見して固まった。
「……歳……いや、近いと言えば、近いのかぁ? 性格も全然……えぇー?
なんか、旦那様のことをそんな風に話す人は初めて見たわ。
だいたいの貴族ときたら、三つ又の蛇だーって嫌な顔するか、おべっかするかなんだもの。
無茶って……いったい何をしてるのかしら? その辺、アンタは聞いてるの?
――もうっ。上手いこと人をその気にさせるんだから。わかってるわよ、騎士の役目はしっかり果たすわ」
色々とツッコミどころが多い話に、疑心いっぱいのサファイアの瞳がジロジロと相手の顔を覗き込む。
とは言え、主からの口止めもあるかと考えれば、無理に聞き出すこともできず。
最終的に行きつくのは、自分の仕事をやり遂げるのみと言う生真面目な騎士の答えだった。
「あれ? なんだ、変なところで謙虚なのね。
アンタ気付いてなかったの? 屋敷のメイド達、みーんなアンタに興味津々だったわよ?
聖騎士様、聖騎士様ーって。もう煩いったらありゃしない。
ふーん。……まぁね。弓は戦場以外で出番がない方が私もありがたいわ」
慌てる様子に、はて、と首を傾げると、ニヨニヨと口を意地悪い笑みが浮かんでくる。
楽しそうにメイド達の様子を語って聞かせ、弓の話になれば肩を竦めて笑って流す。
「んー、腕前はそこそこって感じかしら? 私に比べればまだまだね。
でも、気配消して隠れたり、調べ事したり、そう言うのが上手かったわ。
……正直ね、あの子がスカウトされたからって、誰かについて行くのが想像できないのよ。
あ、別に旦那様と深い仲になってるとか、そう言うことじゃなくて。
前にね、自室だけが自分が安心して眠れる場所だからって……そう言ってたの。
だから、何があっても……あの子は、屋敷へ帰ろうとすると思ってたの」
紅茶のカップを傾け、甘いミルクティーで話の苦味を誤魔化す様に一口飲み。二口飲み。
「あははっ! 悪いわね、変な話して」
顔を上げると、明るく笑ってティースタンドの焼き菓子に手を伸ばす。
■ヴァン > お喋りが長くなってしまった。
ティースタンド中段のスコーンをとった。割れている側面を見せながら、歯を見せて笑う。
「これを狼の口、という。我々のお仲間だな。ここから手で割って……クリームとジャムをつけて食べる。
先にクリームをつけると溶けるからってんで、ジャムを先に塗る人が多い。――どちらが正しいのかはまだ結論が出ていない」
アフタヌーンティーを嗜む者なら知っているであろうことを話しながら、男は先にクリームを塗った。
スコーンで乾いた口内を紅茶で潤し、またスコーンを口にする。
「要所を警備し、各個撃破を避ける。そのための魔導通信だ。
異変が発生したら王都の衛兵に連絡を入れる、それまで持ちこたえられればいい」
淡々と話した後に、少女が固まった。何度目かになるが、この姿を見るのは面白いし楽しみだ。
最前線で戦う騎士はあまり貴族の力関係やらを意識しない者も多い。目の前の少女もそうなのだろう。
「お嬢ちゃん、俺の二つ名を知ってるんだろ。初対面のあの敵意は普通じゃない。
それなら俺の姓も知って……っと。北方の生まれだったな。となると、ラインメタル辺境伯シルバーブレイド家は知らないか。
俺は王都での名代――つまり代理人だな」
学院生でもわかるように言葉を選びながら、時々補足を交えつつ自分の立場を伝えた。
男が口にしたのは、王都南方にある辺境の地。東方・南方の外国からの玄関口。紅茶が王国内に入る経由地点でもある。
ヴァン本人は騎士爵に過ぎないが、役目から辺境伯、つまり侯爵と同等の立ち位置にある。
それら諸々を加味して、伯爵級の存在であるということだろう。ヴァリエール伯とうちとけた関係というのも荒唐無稽ではない。
「色んな権益について拡大をしていく中で、他家と衝突することもある。交渉で済めばいいが、そうもいかない場合もある。
貴族の足の引っ張り合いといえば――たとえば、醜聞を掴んで脅迫したり、公開して失脚させたり。
相手の商売を乗っ取ったり、人材を引き抜いたりスパイに仕立て上げたり。ま、大きな貴族は多かれ少なかれ覚えがあることさ」
無茶については例示に留めた。あまり具体例をあげて主への忠義を失わせるのは本意ではない。
その中でも男がやっていることは借款と債権を用いたあれこれ――早い話が金貸しなので、随分穏健な方だ。
「普段屋敷勤めで、外を見る機会がないからだろう。黙っていれば格好いいらしいし?
にしてはアプローチがなかったのは、夜お嬢ちゃんを試験が終わるまで部屋から出さなかったからか?」
意地悪い笑みに対しては、顎に手をあてておどけてみせる。ついでに余計なことを口にする。
男が逗留する度に貴賓室に呼び出され、数時間帰ってこない……貸し出した本があっても、試験だと信じない者はいるだろう。
「……カゲか。
格言で、『犬は人につき、猫は家につく』というのがある。その子は後者なのかもしれないな。
だが、新しい場所を自分の居場所と見定めることもできる。……そうだな、この話はここまでとするか」
仕事の特徴から、男独自の符牒を呟く。盗賊、忍者、隠密……そして暗殺者。トリッキーな戦士。
今、男が得ている情報を組み立てる。伯爵からのもの、少女からのもの、市井からのもの。
ふむ、と呟いてから少女へと話しかける。
「上段のケーキはいるかい? 最近、昔ほど甘いものを食べられなくなってね」
■ナイト > お茶菓子の中で、スコーンは何度か食べたことがあった。
その中で初めて聞く言葉に目を丸め、割れた側面と、彼の笑った口元を見て。
「ふふっ、なかなか洒落た言い回しをするのね。初めて聞いたわ。
私はジャムから塗るけど、どっちから塗ったっていいじゃない、どっちも美味しいんだから。
食べ方なんて、自由で良いのよ」
少女は手に取ったスコーンを一瞥し、逆にジャムから塗っていく。
そして、がぶり。大きく開けた口でスコーンを頬張り、美味しい!と言わんばかりの笑みを浮かべ、ミルクティーを頂く。
口の端に着いたジャムを指で拭いつつ。
確かに、彼の言う魔導通信は伝令いらずで便利だけど、通信妨害は無いのだろうか。
かく乱されることを考えれば、暗号でも用いるべきか。
訓練を受けた屋敷の兵なら、なんとか救援が来るまでは持ちこたえられるだろうし、いざとなればとっておきもある――。
ふむふむと相槌を打ちながらモグモグ、話を聞いていたが……。
「あ゛。あー、まぁ……噂程度にはね。
初対面のあれは、その、悪かったわよ……。反省してる。
とんでもない奴が教官になったって聞いて、色々調べて聞いたら……ほら、ね。つい。
シルバーブレイド? それがアンタの家名? 辺境の方なの?
ふーん……代理人とは、アンタ家から信頼されてるのね」
王都の貴族の名前も半分ほどしか記憶していない少女では、辺境の貴族など知る由もなく。
さっぱりわかっていない呑気な顔で頷き、今度はスコーンにクリープの塗って齧りつく。
「ふむ……。貴族同士も色々面倒なのね。
戦争になったら、私もやれることは増えるんだけど、内乱はねぇ……。
色々と黒い、悪ーいこと……してるんだ。うちの旦那様も、その一人と……」
主への忠義はある。だが、それ以上に陰らぬ正義感がある。
話を聞くにつれて鋭くなるサファイアは、静かに閉ざされ、少女は何を思うか沈黙し、紅茶をくーっと飲み干す。
「ああ、それねー。
最初はみんな煩かったんだけど、私がどんどん窶れて疲弊していくのを見てる内に、誰も声を掛ける勇気がなくなったみたいよ。
最後は鬼畜聖騎士ってひそひそされてたわ。
一応言っとくけど、私はちゃんと試験を受けてるって毎回説明はしたわよ。何人が信じたかはわからないけど」
渋面になり、嫉妬混じりだったメイド達の目が、徐々に恐れに変わっていく様を思い出す。
兵法諸々織り交ぜた座学が身に着くと同時に、お互いに不名誉な噂話が残ったのは言うまでもない。
「何それ? わ、私は犬じゃないわよ? 猫でもないけど。
――えっ! いいの? やったー! いただくわっ」
呟きは聞いてはいたが、言葉では返さなかった。
友人が穏やかに暮らせていれば良いと思う心と、寂しさから帰ってきて欲しいと思う心、両方が少女の中にある。
また会いたいと、思う心がある。
不意に聞こえた声に勢いよく振り返り、爛々と目を輝かせ、嬉々として皿とフォークを手に取り。
遠慮の欠片もなく、嬉しそうにケーキへと手を伸ばすだろう。
■ヴァン > 食べ方は自由でいい、という言葉には大きく頷いた。
男の故郷では「ミルクティーはミルクが先か紅茶が先か」と同じくらい論争になっている。
「大方、俺が敵陣を大きく迂回した結果本隊が壊滅した、“味方殺し”だって作り話だろ。
方々の女に手を出しまくったってのは事実だが……。
ヴァン=シルバーブレイド。現当主アーサーの三男。兄貴たちは故郷にいる。
ラインメタルは王国の隅っこさ。貿易や羊毛が主な産業だ」
スコーンを食べ終えた後、再び紅茶を口に含んで渋みを堪能する。
己の出自を伝えても、あまり少女は態度を変えないだろう。その方がやりやすい。
「街の住民や村同士だって諍いはある。貴族はそれが家同士ってだけだ。あまり気にするな。
そういう黒い、悪ーいことを上がやってるから下が潤う、食っていけるって一面もある」
正義感を否定するつもりはないが、必要悪というものがこの世にはある。
目の前の少女騎士には清濁併せのむ、ということを覚えてほしいととりなすように話す。
限度を越えそうな危うさを伯爵は感じさせるが、男の勘はまだ大丈夫だと告げていた。
「それはつまり。『あのナイトがここまでになるなんて』ってことか?
鬼畜……言われなれてはいるが、正面きって言われないのは辛いな……。
オーケー。多分誰も信じないだろうな。……次からは食堂でやるか……?」
それくらいのことは実際にやってのける自信はあるが、無実の罪で糾弾されるのは避けたい。
周囲の目がある所での試験を考えたが、それはそれで彼等の休息の場を奪うことになるだろう。
「あぁ。君は若いから大丈夫だろう」
今伯爵家が抱えている問題で、誰もが満足する落し所は存在しないだろう。誰もが少しづつ何かを失う。
ヴァリエール伯とはまた話し合わなければならない。
嬉しそうな少女にはにこにこと笑いながら、己の頬を軽く摘まんでみる。
食べ過ぎは太るぞというジェスチャー。テーブルの下で足を蹴られたかもしれない。
■ナイト > 「カバーって……あれ、嘘の話なの? あー、そっちは本当なんだ……。
ダメだ、アンタのことどう評価していいのか私には難しすぎるわ。
ヴァン=シルバーブレイド。ヴァンね。
ラインメタルってのは初めて聞いたから、後で帰ってから調べてみるわ」
想像通り、然程驚いた様子もなく、少女は相変わらずの自然な態度で男に接する。
どれもこれも今更で、ヴァンと言う男の評価は、少女の中で出自程度で変わるものではないらしい。
「……。わかってるわよ、そういう……連鎖があることくらい」
わかっていても、どうしても腹が立つ。苛立ちが勝つ。
潔癖と言うには奔放で荒々しい正義感を抱え、今はそれを抑えつけることとする。
この憤りは、まだ見ぬ敵に向けられるのか、それとも飼い主へと向けられるのか、その未来は未確定のまま。
続く話には暗い顔が明るく……は、ならないが、苦笑にはなる。
「ええ、そうしてもらえると助かるわ。そうでもしないと、ずっと不名誉がついて回るもの」
ため息交じりにそう告げて、いざ、ケーキ奪取へと取り掛かる。
形を崩さないように慎重に皿へと移す最中、にこやかな声に顔を上げ。
そうよね?なんて微笑みかけたが、男のジェスチャーを見て、にこにこ笑顔のままそーっとテーブルに皿を置き。
――ガンッ!!
と、テーブルの下、つま先で男の脚を蹴りつける。
当たったとしても、避けられたとしても、笑顔は崩さず顔を上げ。
「――ふふふっ。改めて、私はナイト・ブラックフォード。
北の彼方から来た魔狼の末裔。ヴァリエール家の騎士よ。
肩書とか、そう言うの疎くって。この通り、ぜーんぜん、気にしないの。
ごめんなさいね?」
にっこり花のある笑顔の裏に、怒り狂う狂狼のオーラを漂わせるのだった。
何だ何だとざわつく周りをよそに、二人は最後までアフタヌーンティーを堪能したことだろう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/料理店」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/料理店」からナイトさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯・天然温泉」に飛鳥さんが現れました。
■飛鳥 > 夜、メグメール(喜びヶ原)自然地帯の天然温泉にて――
「く、うぅぅぅ~……っ。やっぱり、一日の終わりは温泉が一番だよねぇ~……」
立ち込める湯煙の中、喜びの声を漏らしているのは異国出身の東洋人女性。
くノ一と言えば温泉……というのは、どうやら故郷でのみ通用する冗句の様で。
温度の低い温泉は長時間浸かるのに丁度良く、じんわりと一日の疲労を溶かしてくれる。
「……それにしても。大陸って所は危険なんだか平和なんだか……不思議だなぁ。
子供や駆け出し冒険者が平気で夜間自然地帯に行くなんて、国じゃ考えられなかったけど……」
名を飛鳥(あすか)というその女性は独り、小首を傾げてううんと唸る。
彼女がこうして自然地帯の温泉に居るのは、単に慰安の為という理由だけではない。
実の所、王立コクマー・ラジエル学院経由で受けた依頼を絶賛こなしている最中なのだ。
依頼内容は所謂パトロールで、夜間の自然地帯で子供や駆け出し冒険者を見つけた場合
可能な限り支援をし、場合によっては貴族を優先に街へと護送して欲しいというものだった。
今、この時期は夏。学院の長期休暇を理由に向こう見ずな冒険に出る者が増えてしまうのだとか。
「子供って本当、良くも悪くも自由と言うか……ふふふっ。
でも、学院みたいな教育機関が結構なお金を出して生徒を護る姿勢は好ましいし、
……何より! そう、何より! "結構な報酬"だから! 暫くは余裕のある生活になるかもっ」
上機嫌に鼻歌交じりの声を弾ませて、両手で掬った温泉を腕に塗り込み洗身を。
何事も無くとも報酬が支払われるという事が確定しているからか、一度緩んだ笑みが引き締まらない。
もし誰かの来訪があり何か起こったとしても……報酬額が額なので、一応ちゃんと気は引き締めている。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯・天然温泉」にエリビオさんが現れました。
■エリビオ > 夏を迎え青々と繁る梢の隙間から薄白い湯気が棚引いている。それを見つけたのは偶然のこと。
ギルドの依頼帰りで自然地帯を歩いていた帰りに見つけた天然温泉に入ろうとしたのは、汗ばむ肌を流したかったから。
汗に濡れた衣服を手早く剥ぎ取って一糸まとわぬ姿となってから、足を入れる―――― その、前に。湯に浸かる前に掛け湯をするのが常識だと思い出した。
手で救う湯を、ざぶん、と躰へ掛けてゆく一瞬肌が粟立つような心地の後、溢れる湯の熱が身へ染み入るようで。ほ、と息を吐きながらニ度、三度と湯をかけた後。
なみなみ称えられたその湯へと静かに慎重に差し入れていく長い足。
「熱ッ」
既に先客の女性がいるとは知らずに湯に浸かる声が、相手に聞こえるかもしれない。
■飛鳥 > 「……っ!?」
悠々と湯に浸かって鼻歌なんぞ歌っていた飛鳥だったが、
湯気の中に立つ波紋と水の音で一早く何者かの来訪に気付く。
(……ひ、ひぇ~っ! ちょっとちょっと、本当に人が来ちゃったじゃない!
それにあの声、男の、子……かな? うぅ、マズいなぁどうしよう……っ、
手拭い一枚しか手元に無いじゃん、って言うか装束! 声がした方に置いてあるのに~!)
忍びとして熟練している飛鳥であれば、少ない情報から相手の位置や
背格好、おおよその年齢まで勘づく事は出来る……のだが、しかし。
しかし、この飛鳥という女。まっこと残念な事に自他共に認める"粗忽者"!
一時的に、咄嗟に身を隠していた岩から離れ、脚を進めようとしたその時、
悲しいかな――最早お約束と言って良い程の盛大なドジを踏んでしまう事となる。
「え、ぁっ、何、ちょっ、滑……っ、ひゃあああああ――っ!!」
湯の底の苔に脚を取られ、盛大な水飛沫と声を上げながら。
岩陰から現れた人影が盛大にすっ転び湯に沈んでいく光景を少年は目にする事になるだろう。
■エリビオ > 忍びと違い気配を察しきれず、ちゃぷん、静かだった湯面に控えめな波紋拡げて完全に肩迄を滑り込ませ。
「……… ふぅ…」
やや熱めの温度と硫黄のほのかな薫りとが、内外から己を満たしていく心地に、唇の隙間から零れる声は至極快さげな響かせていた。
だが、流石に岩陰から現れた人影には、そして転倒でもしようものなら。
「!」
すぐさまそちらに瞳を向けた。目に映るのは投げ出された足だろうか。
その黒瞳には溺れているようにも見えたのだから立ち上がり。
「大丈夫!?」
気遣わしげに尋ねかけて歩み寄り、見た目より逞しい腕が彼女の細腕をとって立ち上がらせてしまおうとする。
もしも叶えば、「よかった」と呟きながらはんなりと眦を下げた微笑みを浮かべるだろう。
■飛鳥 > 湯煙の量はそれなりのもので、少年が湯に沈んだ飛鳥を認識するには近づく必要があっただろう。
少年が見下ろせば、水面には没した者が立てているであろう水泡がブクブクと立っている。
獣や魔獣の類を警戒しない少年が気遣う様な言葉を届けながら腕を湯の中へ伸ばしたのと殆ど同時――
「…………ぷっはぁ!」
ざばり、と大きな大きな水音と飛沫と共に少年の前に現れたのは
異国を感じさせる艶めく黒髪のセミロングを振り乱しながら勢い良く立ち上がり、
だぷんっ、ぶるんっ、と。たわわなたわわな大きな乳房を弾ませる、裸体の女性の姿だった。
一瞬裸体の全てが丸見えになってしまうが、女はすぐに手にした手拭いで身体を頼りなく覆いながら
「……はぁ~っ! はぁ……はぁ……あぁ、びっくりした……。
なんでこんな所にだけ苔が生え、て…………ぁ…………」
女は少年の姿を漸く視界に収めると永く永く思える一瞬の間、石になったかの様に固まった後――
「……ほ、本日は、お日柄も良く……ぜ、絶好の温泉日和……よね? ぁ、あははは~……っ」
女が立ち上がり、『よかった』と微笑む少年のマイペースさと対照的に
醜態を晒し裸体を晒した気恥ずかしさやら情けなさから視線を右往左往させながらアイサツなど交わすのだった。
■エリビオ > 「っと!」
引きずり上がる前に立ち上がる姿に一瞬警戒して腕を引くのは一瞬。
露わとなる豊満な裸体に目元を赤くして魅入ってしまう。
その視線をふい、と横に逸らしたのは体を隠されてから。
「獣じゃなくて、同じ湯浴みをしていた人―― それも女の人がこんな所にいるなんて。
苔?転んじゃったのかな。俺も気をつけないと。」
再び重ねる視線はその顔だけを見て薄く傾げて黒髪をさらりと肩に零すのだった。
実はこちらも恥ずかしい。脂肪少なく引き締まった体は胸板から割れた腹部、その下まで丸見えなのだから。
されど隠すものもなければ眦だけ細めた淡微笑を浮かべ、つんつん、と固まった相手の頬を突こうとする。
「大丈夫かい?俺は『素敵』なものが見えて眼福だけど、お姉さんは災難だったね。
まぁ犬に噛まれたと思って……」
その唇から不意に挨拶が溢れたのなら、きょと、と瞬きを繰り返し。
クッ、と喉を鳴らして今度こそ本当に笑った。
「あははは。そうだね。今日はとても良い日。絶好の温泉日和だ。
裸を見たことも苔のことも忘れるよ。
……改めて、一緒に温泉に浸からない?とてもいい場所だもの。」
そろり、再度伸ばした手は彼女の細い指達に絡めて腰を下ろさせようとするが、払いのけられるだけの緩い力だ。
その手に導かれたのなら共に肩まで湯に浸かるだろう。
■飛鳥 > 頬を突きつつ声をかける少年。その指を甘んじて受け入れながら女は釣られて笑みを浮かべ
「……犬に……噛まれた? ふ、あはははっ! へぇ、大陸にもそんな表現があるんだねっ。
いやはや、意図せず絶景をご覧に入れちゃったみたいでお粗末様でした……って、
随分とヨユーの有る少年だなぁっ。お姉さんちょっと色々びっくりだよ。ふふふっ」
少年が内心恥じらっているという事に女は気付かない様だ。
流暢に言葉を綴る少年の姿からは余裕が感じられ、女はその様子を見て内心諸々の整理をつけた。
その指が腕から指に向けられて絡まされれば、促されるまま腰を降ろして再び湯に浸かり――
「……あっ。えっと、あたしは飛鳥(あすか)! 姓は持たない只の飛鳥だよ。少年の名前は?
見たところまだ若そうだけど……学生さん? 冒険者? 独りで夜の自然地帯なんて危ないぞ~?
偶然会ったのがあたしみたいな善良明解なお姉さんだったから良かったものの……
魔除けの類は持ってる? 何かあれば護ってあげられるけど、ちゃあんと用意はしなきゃダメよ?」
早速おせっかいを焼きに行くのはもう性分としか言いようがないだろう。
女は湯の中をすい、と少年の正面すぐに近寄る様に移動しながら言葉を投げる。
■エリビオ > 恥じらう姿から饒舌に語り始めるならば、クツクツと笑みの余韻を声に滲ませ。
「この言葉はマグメールの言葉じゃないよ。俺が勉強して覚えたもの。東方から来る人が多いから、色々と言葉を勉強させてもらった……お姉さんもその類かなと思って言ってみた。
ふふ、お姉さん、可愛いね。お粗末様でしたって……。
こういうとき、男の方がしっかりしないと女の子は困惑するって教えてもらったから。だからこうみて俺は大人なんだ。」
湯の中で正面を向き直れば更に言葉が弾む。少しだけ黒瞳を瞠ってしまうもすぐに細めさせ。
「俺はエリビオって呼んで。コクマー学院の生徒だよ。後はギルド員としても登録してる。
心配してくれてありがと。夜じゃないと咲かない花を集める依頼を受けてこの時間に自然地帯にきたのさ。
魔除けの類はもってるし、危なくなったら魔法で何とかするさ。」
ぴん、と立てた指先から翡翠の光が集まり、その光を照り受けた顔は何度も彼女の顔を見つめる。
「……あっ。もしかして、コクマー学院でパトロールを受けた人かな。
生徒とか子供を守る護衛依頼。校内新聞で書いてあった。
何かあれば巡察する忍者を頼れ、って」
■飛鳥 > 少年の返答に一寸目を丸めるのは、感心から来た反応だ。
「へぇ……っ。東から来る人って結構多いんだ? あたし、まだ会った事なくってさ。
勤勉なんだねキミ、お姉さん感心だっ! 可愛いねって……こぉらこら、大人をからかうんじゃないのっ。
……あははっ。しっかりしないと、かぁ。う~ん紳士っ! 子供扱いした事は謝らないとかな?」
言葉を弾ませる少年に可愛いと言われれば仕返しとばかりに、軽くその額を小突こうとしながら
少年の落ち着きと友好的な態度を見て、正面からすぐ隣、肩が触れ合えそうな距離へと移動する。
「……エリビオくん、か。宜しくね! ぁ、や~っぱり学院生だったかぁっ。
花を、集める……専行は魔術方面かな? あんまり鍛えてる感じはしないし……、
あぁやっぱり! そっかそっか。魔法ってすごいよね。あたしの故郷には無い技術なんだぁ」
相手が学院生であり、"魔法"と聴けば何やら得心がいったような様子で頷いた。
その指先からヒスイの光が集まると、『わ、便利』と瞼を見開き驚く様子を見せ――
「……うん? お~っ、察しも良いんだね! 大成しそうだな~キミっ。
その通り! こう見えて学院から依頼を受けて巡回の依頼中……サボってないからね? ヘンな報告しないでね?
さっきあたしの裸を見たの、忘れなくて良いから。なんなら"使って"も良いから……ね? 取引取引っ」
少年から依頼の事を問われると、頷きの後で大人げない取引を持ち掛けたりしつつ
にしし、と無邪気な様子で歯を見せて笑う。『忍者を頼れ』と言われれば――
「ふふんっ。なるほど、学院からもそう言われてるなら
帰路の安全はこの飛鳥お姉さんにど~んとお任せなさいなっ」
少年の隣で得意げにフフンと胸を張る。 た、っぷん。 再びたわわな乳房が小気味良く揺れ弾んだ。
■エリビオ > 小突かれた額を両手で覆い、眉下げる大げさに痛がるフリを見せながら。
「イタタ……本当に可愛くて綺麗だと思っただけなのに……。
そうそう東から来る人は色々いるよ。忍者だったり侍だったり、妖怪もいた。
きっとこの国にいるなら楽しい出会いが飛鳥お姉さんにもあると思う。
ふふっ、紳士だなんて。お姉さんは人を喜ばせる言葉が上手だね。」
詰める距離にほんのち目元を紅く染めて伏目になりながらも。
自ずからも肩を近づけて、微かに触れ合わせる。
「よろしくね。飛鳥お姉さん。
俺の専攻は魔術……だけれど、鍛えてはいるよ。
この体が目に入らぬかぁ!……なんて。」
ざばり、と湯から少し体を持ち上げれば6つに割れた腹筋を見せつける戯れ。
翡翠の光は淡くも周囲を照らし、互いの顔も、その湯に浮かぶ豊満な胸も露わにしていく。
「もう。おだてても何も出ないよ!たまたま、目に入っただけ。
サボるだなんて……四六時中気をつめていたら疲れるでしょ?息抜きは大事。俺もよくサボるから分かる。
でも『使わせてくれる』なら、俺は黙っているよ。」
弾む会話は鬱蒼とした深夜の自然温泉に柔らかな雰囲気を齎す。
心から滲む笑みはやがてたぷん、と主張する胸に流れて睫毛を伏せ。
「うん。帰りの安全はお願いするよ。飛鳥お姉さんといると楽しそう。
……ねぇ。」
熱たゆたう吐息にのせて耳元に囁きかけ。
「使わせてくれるなら、この大きなおっぱい、見せてほしいな。
俺、綺麗なもの好きなんだ。」
避けないならば弾む胸に手を寄せて、さわさわさわ……くすぐるような指使いで淡く触れようと。
■飛鳥 > 大げさに痛がるフリは"フリ"であると忍には気付く事が出来るが――
「ふぅ~ん……? なになに~? もしかしてお姉さん今、口説かれてる?
キミってすっきりした目してる割にやる事やっちゃうタイプかぁ~? ん~?」
ほんのり目元を赤く染める姿を見れば嬉しそうな笑顔を明らかにして、
抵抗されなければ、ぐいっとその腕に抱き着く様にして距離を詰めてしまおう。
その指から放たれた淡い光が、たっぷりと熟れた乳房が腕に押し付けられる様を映す様に。
「飛鳥お姉さん……! 自称するのと呼ばれるのって全然、なんか……違うねっ。もっと呼んで?
えぇ~? ほんとかなぁ~? あんまり鍛えてる様には見えないぞ~?…………わぁお」
飛鳥お姉さん、と少年が呼ぶと矢張り明らかに喜んだ様子を見せる。
『この身体が目に入らぬか』と少年が勇んで身体を持ち上げれば、
六つにしっかりと割れた腹筋を前にして思わず感嘆の息を漏らしながら
その腹筋を片手で軽く撫でようと手を伸ばしてしまう。
「あ~、もしかして照れてる? 照れてるな~っ? あはははっ!
おだてたりなんてしてないよ。キミは冷静で、礼儀があって、紳士だよ。
それ等は魔術の腕や冒険者としての名声なんかより、ずっと大事なものさ。素直な気持ちだよ。
お~? ここでサボり常習犯を晒すとは。弱みを見せるタイミングもわかってるじゃんか……ふむ。
あっはっは! 動じないねぇ~、ふふふっ。あ~あ、楽しいな。楽しいね? お姉さんは既に楽しいよ。
こんなに楽しいから……よぉ~し、持ち帰られる"お土産"をもうちょっとあげちゃおうかな~?」
少年の手を引いて再び湯の中に腰掛けさせると、己の身体を包んでいた手拭いを湯の中ではらりと外す。
少年の肩と触れあっている方の腕を再びその腕に絡ませ抱き着きながら
もう片方の手で、さわさわと淡く胸に触れようとしているその手を掴み
『使わせてくれるなら』『見せて欲しいな』と告げられた胸元へと誘って
――もにゅんっ、と。たっぷりとその掌が、収まりきらない程大きく実った乳房の片方に押し当てられるだろう。
「……どお? どお? 柔らかい? 嬉しい? さぁさ、素直な感想を伝えたまえ?」
少年の掌に自分の掌を重ね、五指で自分の胸を揉ませる様に誘いながら
女はにんまり、ニマニマ、悪戯っぽく好意的な笑みを浮かべて少年の反応を伺っている。
■エリビオ > 「口説く?どうだろう?今は飛鳥お姉さんと仲良くなりたいな、と思ってる。
だって裸の付き合いでもこうして楽しく触れ合える人、凄い好きだから。」
抱きつかれた腕は胸の谷間に深々と埋めたし。
腹筋を撫でられればひくひく、と溝を震えさせてしまう。
――そして今は彼女の手に導かれて、掌に収まり切れぬ豊満な乳房を押し当てられて。
自分から触ろうとした癖に、かぁ、と目元が火照ってしまう。
だって隠すものは何一つない裸体が目の前にあるのだから。手に温かな膨らみがあるのだから。
「わっ、自分からしてくれるなんて、飛鳥お姉さんサービス良すぎ!
お土産持ち帰れないかも!いつまで紳士でいられるかな!?」
興奮に饒舌となるのを、戯言を零して誤魔化そうとするが――
むにむに、指先が埋もれる乳房を揉み上げ。
触れる乳首を掌で転がしながら。
「は ……ぁ。柔らかいし、温かいし、とっても幸せ。」
湯に逆上せたのとは別の真っ赤な顔で、とろり、熱たゆたう黒瞳で笑う彼女を見る。
「ねぇ、俺からも触っていい?飛鳥お姉さんにいっぱい触りたい。感じたい。」
もう片方の掌が彼女に向けて、そろり、遠慮がちに伸びていく。