2026/03/03 のログ
ご案内:「タナール砦付近上空」にリーネさんが現れました。
リーネ > 空は蒼穹ではなく、夜明け前の群青。
其処を裂くように飛翔する羽ばたきの、一影が静かに旋回する。
羽音は風に溶け込んで、地上には届く事はない。
見上げても其れは流れゆく積雲に紛れ、視認は困難。

まだ昇りきらぬ光を受けて純白の翼は青みを帯び、淡い輪郭を湛えていた。
その天馬の背にて手綱を握り直し、静かに呼吸を整える。
――吐く息は白くならない。何故なら高度が奪うから。

常盤色の双眸は、やがて地上へと視線を向けられて。
夜と朝の境界に沈む大地を俯瞰する。

黒き森はまだ眠りの中にあり、流れる川は光を受けて銀の帯が流れて
砦の外郭には、夜警の松明が煌々と揺れている。

その揺れに規則があるか、乱れはないか――。
夜明けは、誰もが油断しやすい時間であるが故に、慎重にもなる。

「………高度、百五十。敵影はありません。」

抑制するように声は低く。
微細な魔力振動にて胸元の翠玉が、かすかな光を放つ。

『――よし、帰還しろ。』

碧の羽飾りから伝うのは帰還命令。
手綱をほんの少しだけ引くだけで、天馬は角度を変えて旋回する。
其処に言葉は無く。視線と重心さえ伝わればそれだけで十分。

リーネ > 旋回の後に白き翼は積雲の影へ滑り込んでいく。
もう、雲の縁は淡い輝きを放ち、夜明け前を示していた。
群青が薄れて行く。空の色が深蒼から藍へ、そして紫影へと。

夜の終わり。

その直前こそ最も美しく、最も危うい。


緊張が走る。


それでも、この色が好きだった。
昼の蒼穹でもなく、燃える様な黄昏でもなく。

静謐たる曙。彼者誰時(かわたれどき)
まだ、誰のものでもない空の色――。

「―――もうすぐ朝が来ますね、セレスタ。」

小さく囁くように天馬の名を呼べば、彼は応える様に翼を大きく打ち、瞬く間に高度を上げる。
その羽ばたきは裂くように鋭くて、けれど空は音を吸い上げて地上には届かない。

リーネ > 常盤色の双眸が、夜と朝の継ぎ目を映す。
視界に広がるのは眩しいほどの蒼天。

群青は夜の残滓と共に淡く溶けていった。
この瞬間だけは、世界そのものが静かで。


戦場も、命令も、誓いも、まだ形を持たない。


白翼がその縁を掠めて煌めきを湛える頃。その姿は一瞬だけ光を帯びる。
その軌跡は、誰の記憶にも残らないかもしれない。
誰ぞ視る事が叶うならば、此れは流れ落ちる一条の流星ではない。


それは、巡る星――。

ご案内:「タナール砦付近上空」からリーネさんが去りました。