2025/10/27 のログ
ご案内:「無名遺跡」に彷徨う獄吏さんが現れました。
■彷徨う獄吏 > 埃っぽい空気の漂う遺跡の石畳を重々しい足音と鎖同士がぶつかり合う金属音が響く。
薄暗い通路を歩む魔物は、誰も繋がれていない鎖を握りながら通路を進み、何かを探すように赤い瞳を巡らせる。
丸太のような両腕に幾つも刻まれていた矢傷は、既に痕を残して塞がっていた。
「……?」
通路を進む魔物は、不意に何かに気を取られて脚を止める。
今まで進んできた通路とやや雰囲気が変わり、蝋燭が灯された燭台の並ぶ通路に出る。
通路には幾つか鉄の扉が並んでおり、微かだが生き物の気配もする。
魔物はそれが目的のモノか測りかねていたが、他にアテもなく扉を探りながら歩を進めた。
■彷徨う獄吏 > 分厚い鉄の扉も魔物の剛腕なら開けるのに十分で、開かれた部屋には何もない。
魔物が狭そうに扉を潜って部屋に入った途端、何か粘ついたものが這い回る音と共に降りてくるのは粘液の身体を持つ別の魔物。
それは迷い込んだ者に襲い掛かる罠であったが、魔物は携えた鎖と交互に眺めて肩を落とす。
確かに他の魔物は探していたし、囚人の調教にも使えそうに見える…ただ問題があるとすれば。
「………」
どのようにして首枷を付ければいいかわからない。
とりあえず投げてみた鎖は、粘っこい音を立てて粘液に沈むだけで何の効果もない。
金属や肉を溶かす性質がないように見えるのも好都合だが、これを持ち帰る方法が頭に浮かばなかった。
■彷徨う獄吏 > 魔物が鎖を投げつけたことで、粘液もまた魔物を感知して襲い掛かろうと蠢き出す。
それはゆったりとした動きからは想像できないスピードで鎖を伝い、魔物の腕まで絡みつく。
濃緑色の粘液が触れると、何かピリピリとした感触と熱を感じるが肉を溶かされるような痛みではない。
魔物は知らなかったが、精製することで媚薬にもなる淫魔が作り出した魔法生物だった。
『─、──。』
粘液の体積も潜むためか多くなく、魔物に纏わりつく前に全身が伸び切ってしまう。
魔物はやや面倒そうに詠唱をすると、握り締めている鎖が突然熱された鉄のように真っ赤になる。
身体の大半を鎖にまとわりつかせていた粘液はひとたまりもなくその身体を蒸発させられ、粘度を失った残骸がボトボトと床に転がる。
いつもなら焼け落ちる鎖も粘液に冷やされたことで元の温度に戻るに留まり、魔物はそのまま部屋を出ようとしてふと気が付いた。
先程の魔物を蒸発させたせいで、媚薬成分のあるガスが部屋を充満して通路にまで漏れ出していた。
■彷徨う獄吏 > 魔法生物の媚毒の効果はそれほど強力ではないが、開け放たれた扉からも出れた薄桃色のガスが通路にまで漂っている。
魔物はそれに理性を奪われることこそなかったが最初よりも興奮気味な様子で通路を出てくる。
それ自体は因果応報だったが既に他の部屋にも扉の隙間からガスが入り込む事態は、そこに潜んでいた者からすればたまったものではなく。
「………」
魔物は粘液を一息に蒸発させたことを少し惜しく思いながら、他の扉の気配を探るように通路を進み始めた。
元の目的は調教用の魔物を連れていくつもりだったが、場合によっては別の目当ても見つかるかもしれないと期待していた。
扉の向こうの気配を探るように耳を澄ませ、先程より気配を追うことに集中する。
■彷徨う獄吏 > 「………!」
魔物が耳を澄ませていると扉の一つが内側から叩かれているような音を聞く。
二つ先の鉄扉に進む魔物がそれを蹴り明けると、何かがぶつかったような音と共に勢いよく扉が開く。
部屋の中には四足の犬じみた別の魔物が、開いた扉に吹き飛ばされて部屋に転がっている。
ガスの影響を受けて発情した様子で立ち上がる魔犬には幸いにして首があった。
「───!」
歓喜とも威嚇とも取れる咆哮を上げた魔物に怯むことなく、というよりは牝を求めて部屋の外を目指す魔犬が凄まじい速度で突進してくる。
魔物は真犬の涎を垂らして開かれる口から覗く牙を、杈を咥えこませるように突き出して受け止める。
噛みついた杈にぶら下がりながらなおも身を捩る魔犬の巨体を軽々と石畳に叩き付ける。
苦悶の声を漏らす魔犬も相応に頑丈で、その一撃で気絶することなくじたばたと四肢が空を掻いている。