2025/10/26 のログ
ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」に彷徨う獄吏さんが現れました。
彷徨う獄吏 > 陽が落ちて薄暗い影が村全体に広がり始めた頃、突然姿を現した巨大な魔物を前に村の守備隊は騒然となる。
鳴り響く警鐘に悲鳴と怒号が入り交じり、村人の多くは逃げ出して家屋に隠れようと逃げまどい、その隙間を縫うように兵士達が走り回る。
暗がりの中で獄吏が歩くたびに重たい枷と繋がる鎖が音を立てて、爛々と輝く赤い瞳は何度か周囲を睥睨した後、村外れの厩舎に狙いを定める。
そこには盗賊の襲撃に備えた柵と石積みの壁が立ち塞がっていた。

「─────!」

咆哮を上げた獄吏は土煙を立てて壁まで突進すると、手に持っていた杈を振り上げて柵に向けて振り下ろす。
盗賊相手には十分だった防壁も、魔物はたった一振りで打ち崩してレンガを蹴り飛ばして乗り越えたところで恐慌状態の家畜を見つけ。
時折櫓に上った兵士達が射掛ける石弓の矢が突き立つのも煩わしそうに唸るだけで構わずに手に持った鎖を振り上げた。
そして独りでに蛇の如くのたうつ鎖は家畜の牛や豚に首枷を嵌められる。
その段になって守備隊も気が付くことだろう、今回の魔物の目的は村人ではなく食料の略奪だと。

彷徨う獄吏 > 村で作物を育てるだけでも長い月日を要するが、家畜を育てるとなれば年でも足りない。
青褪めた守備隊の兵士達が集結するように叫び、櫓以外からも弩の矢が雨のように降り注ぐ。
胴体や頭と言った急所は魔物の身につけた鎧や革に阻まれ、露出した四肢には辛うじて突き刺さるものの致命傷には程遠い。
魔物はそれよりも、首枷をつけられた家畜たちが暴れて逃げ出そうと動いていることに気を取られる。

『──、──。』

魔物の口が禍々しく声で詠唱を始めると、鎖を握り締める掌に眩い紫電が走り、首枷を付けられていた家畜たちにも伝わって悶絶しながら崩れ落ちる。
そうして目的の家畜たちがおとなしくなったことで、魔物はようやく先程から「煩わしかった」矢の雨の方向に向き直る。
壁の上と櫓の上の両方から射掛ける射手たちをギロリと赤い瞳が睨みつけている時、櫓の上から放たれた矢が兜に直撃する。

「───!」

それが魔物の怒りを買ったのか、魔物は櫓を標的を定めて鎖を振り回しながら歩みを向ける。
その鎖は明らかに最初よりも長く大きくなり、振り回すたびに風を切る音が大きくなっていた。

彷徨う獄吏 > 矢を射掛け続ける兵士達には、魔物のその動作が鎖を振り回して矢を弾き落とそうとしている程度にしか見えていなかった。
櫓から矢を放った兵士が再装填しようとした時、風切り音と共に伸展された鎖が櫓の柱に直撃して激しい振動が襲う。
鎖はその回転の勢いのまま櫓の柱に巻き付く手応えを確認した魔物は掌で鎖を一周させて強く握りこむと、その鎖を勢いよく引っ張り込んだ。
その動作だけで櫓はバランスを逸してメキメキと音を立てながら崩れていき、櫓の傍にいた兵士までその瓦礫に巻き込まれる。

土煙が治まると、櫓は完全に崩落して、それに巻き込まれた兵士達の苦悶の声が響いている。
他の兵士達が攻撃の手を止めて呆然とその光景を見ている間、魔物は泰然と伸ばした鎖を手繰り寄せて元の長さに戻していた。
そんな機械的とも言える魔物の反応は、主目的はあくまで食料であり、獲物が現れない限り守備隊は「煩わしい」相手でしかなかった。
それでも戦意を失わず撃退のために兵士達が集結してくる気配には、魔物も禍々しい棘が並ぶ杈を構えて戦いを続ける意思を見せる。

彷徨う獄吏 > 魔物の腕には何本かの矢が突き立ち血も流れているが、大したダメージではなく目の前の守備隊に対する認識は変わらない。
剣や槍を構えた兵士達の攻撃を杈の棘で受け止めた瞬間に勢いよく動かし、得物の折り曲げたり取り落とさせたりして使いものにできなくさせる。
杈を避けて反対側から攻めかかる兵士達には、まるで虫でも払うように鎖束を唸るように振り回して打ち据え吹き飛ばす。

「────!」

なおも攻撃を続けようとする兵士達を威圧するように魔物は短く咆哮する。
数では圧倒的に上回っている兵士の包囲網を少しずつ削る魔物は、徐々にその足を先程の家畜の方へと運んでいく。
その意図に気づいた兵士達は増援を呼ぶように叫ぶが、着実に魔物は気絶した家畜に近づいていった。

彷徨う獄吏 > やがて厩舎の傍まで戻ってきた魔物は、家畜の首から伸びる鎖を掴み直す。
背後を向けたことで兵士達が駆け寄ってくる気配を感じるが、最早脅威でないと理解した魔物は適当に杈を振り回すだけだった。
それだけでも風切り音を立てて暴れる杈の威力を目の当たりにした守備隊の兵士達は踏み込むことを躊躇してしまう。

『─、───。』

果敢な兵士の槍が肩口に突き立つのも構わず、魔物は鎖を掴んだまま何事もなかったように詠唱を終える。
魔物の足元に魔法陣が描き出され、同じものが家畜が倒れ伏す地面にも出現すると、そこに吸い込まれるように巨体の姿は掻き消えてしまう。
つい先ほどまで暴威を振りまく魔物がいたことすら信じられないほどの静寂が戻り、破壊された設備の復旧だけでも数日もの時間がかかったことだろう。

ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」から彷徨う獄吏さんが去りました。