2026/03/13 のログ
リーネ > 「――もう少し進んだら、休憩所で一度休みましょう。
 お水を飲んで、また其処から王城まで。」

天馬の歩みに合わせて静かに手綱を整えた。今回は急ぐ旅ではない。
少なくとも、今このひとときだけは。

彼は耳を揺らし、穏やかな調子で街道を進む。
蹄が立てる音と石畳が軽やかな音を立てた。

やがて街道の先には小さな休憩所が見えてくるだろうか。
行き交う旅人や商人たちの為の、簡易ながらの四阿が。
利用している者は特に居ない。その様子を確かめるように、眼差しを細めて。

「丁度良さそうですね。少し、ここで喉を潤しましょう。」

ふわりと降りて手綱を軽く引く。
主人の意図を理解したように歩みを止め、白翼をゆるやかに畳む天馬。
休憩所の脇には、小さな水桶と石造りの井戸。
利用する者達に設けられた、ささやかな設備だった。

井戸へ歩み寄り小さな桶に水を汲む。澄んだ水面が揺れて、
冷たさに心も何処か解き解れて行くようだった。
一息ついた後、水桶へ飲み水を移してやると、天馬は静かに水を飲み始めた。

「ゆっくりで大丈夫ですよ。」

白い鬣が風になびく、その様子を見守りながら。
天馬騎士は四阿の柱へ軽く背を預けた。

リーネ > のどかな午後。
風はやわらかく、空は高い。

「……あと少し。」

王城までの道のりは、僅か。

そう呟やいて、天馬騎士は束の間のひとときを過ごしていた――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道「まれびとの道」」からリーネさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 旧道」にさんが現れました。
> メグメールの街道が表なら、旧道は裏に当たる。
通っている場所がと言う意味ではなく、人通りの少なさや、わざわざそこを選んで通る者がと言う意味でだ。
魔物は勿論、盗賊や、暗殺で使われることも間々ある。
少女もまた暗殺者であった頃は、この道を通り落ち延びようとした貴族の子息や、裏社会で顔を利かせる悪人の首をここで撥ねたことは何度かあった。
それが今では、冒険者として掃除をする側になるのだから、人生とはわからないものだ。

朝日も届かぬ薄暗い森の中を進み、目印の大きな杉の木の下へと歩いて向かう。
冒険者ギルドから受けた依頼は、旧道を縄張りとする盗賊の排除と、馬車を襲う肉食獣と魔物の討伐。
一定のレベルに達した冒険者であれば誰でも受けられて、定期的に貼り出される部類の仕事だ。
通常の討伐依頼とは異なり、必ず報酬が出るとは限らず出来高制と言うのが難点ではあるが、賞金が掛かっていた場合はその金額も報酬として手に入るので、何かの以来のついでに受け合うものも多い。
実は、使い魔や式神などを扱う者であれば、手駒を放っておくだけでちょっとした弱い魔物であれば狩れてしまうので稼げたりもすることを、この少女も最近知った。

半刻程進み、やっと見えた大木の下には黒いローブに身を包む人影が一つ。
その者へと歩みより、少女――黒装束に身を包んだ小柄が口を開く。

「――報告を」

その声は淡々と冷たく、男とも、女とも、老人とも子供ともつかない奇妙な声だった。

> 黒いローブの人物は目深に被っていたフードを下ろし、軽く頭を振って乱れた髪を直す。
その者の正体は、褐色の肌が目を引く額に角の生えた鬼人の女だった。
よく見れば、女の腕には継ぎ接ぎのような縫い目があり、肌は死人のように冷たく顔色は褐色で分かり難いが生気を感じられない。
そのような状態であるにもかかわらず、鬼女は牙を見せて笑い、腰に下げた剣の柄に手をかけて言う。

『盗賊を八人。狼に似た魔物を三体と、魔猪を一頭。残念だが、賞金の掛かった首は無かったな……』

「躯の処分は?」

『魔物は討伐証明の部位と、使えそうな素材は回収してまとめてある。
 人間の方は金になりそうなものだけ剥ぎ取って、あとは他とまとめて山積みにしといた』

「…………了解した。灰にして処分する。そこまでの案内を」

さも当然と言う顔で報告する様に、小柄は長く沈黙して、小さく頷き鬼女へ次の命令を下す。
そうして、二人で旧道を少し外れた森の中へと歩いていく。

鬼女は小柄が初めて造った傀儡の内の一体だった。
その材料は、タナール砦から回収した魔族の躯。それに自分の魂の一部を宿し操っている。
躯を元に作って得られる恩恵は多いが、魂を長く傀儡の中に入れたままにしていると起きる弊害もあるようで……。
生前の技術や知識が得られる代わりに、豪胆で適当な性格まで滲み出し、普段の己ならしないような言動まで出始めていた。
これはそろそろ、一度傀儡を回収してリセットさせた方が良さそうだ。
そう心中で零しながら、茂みを掻き分け、小さな屍の山を処分しに向かう。