2025/08/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴァルブルガさんが現れました。
ヴァルブルガ > 市。夏場ともなれば朝のうちに店をたたむ者もおり、昼下がりともなれば
だんだんと客も店もまばらになってくる。

最近越してきたばかりのヴァルブルガにとっては、少々朝の喧騒は気が引ける。
そして、どうしても欲しいものがある、というわけでもなければこの時間の方が
なにかとおまけ、をつけてくれたりするのだ。

「さて……」

とはいえ今日は、日々の消費財や食事のために来たのではない。
一応屋根は確保して、次は服、またはインテリア。
ここしばらくは旅を重ねており定住する機会はなかなかなかった。
どこか……浮ついた気分で女は歩く。

財布のひもの締まりも緩くなりそうな顔をしていた。

ヴァルブルガ > 何せ貧民街の方は熱いのだ。すごく熱い。風通しを建物が邪魔しており
それらは無計画に広がっていることもあり、空気の淀む空間が多い。
さらに言えば、安い場所を探せばそういうところに行き当たる。

正直ねて目が覚めて、まず自分の汗の匂いに辟易する。
まぁ夜に関しては……何か対策できればな、と思いつつ、普段着のような
ものも欲しい、と思い、今日はそれらを見に来たのである。

夏である。知り合いもいない……こう、ラフな感じでもいいかなぁ
そんなことを考えながらのんびり市を回る。

ヴァルブルガ > 旅の空。割と好き勝手にやっている。一応目的はあるし、それは旅の本当の目的となっている
自分にとっても十分大事なものだ。
……とはいえ、若い。私は若いのだ。割と美人の方でもある自負はある。

まぁつまりなんだ……ちょっと息抜きのバカンスとしゃれこんでも……
或いは……
バカンスというよりは、本当に十代だった熱意と勢いばかりあり
お金がなかった
あの頃の生活を楽しんでみようか、ということを
ちょっと考えたりしながら、

ホットデニムや、ミニスカートを試着してみたり、オリエンタルな雰囲気の
民族衣装を胸元に充ててみたりする。

主人の家の三権お隣のメアリさんだって、40を超えてから急に
ガーデニングと編み物に凝り始めたけど、きっと関節痛がなければ
彼女だって海に繰り出したかったはずだ。

「海……か」

お金はないが目標はあった方がいいかもしれない。それがご褒美に類することでも。

ヴァルブルガ > 「海かぁ」

何回かの旅の記憶が脳裏に浮かんでくるが、ぱっと思いつくのはやはり主人のご家族とご一緒
した記憶だ……それより前、確か騎士見習のころ演習先で仲間たちとこっそり海を満喫したことも
あった……はずなのに、肝心の光景は思い出せない。

「とはいえ……」

一人旅で海を眺めて過ごしたことはあるが、海岸でバカンス……をしたのは
たまーに男待ちをしていた時くらいで思いっきり楽しんだ記憶もなく。

「……かといって海に行くために男を作るのもさもしい……」

同性の友人でもできればな、なんて考えがふと脳裏をよぎる

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からヴァルブルガさんが去りました。
ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」に影時さんが現れました。
ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」にラファルさんが現れました。
ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」にさんが現れました。
影時 > ――それなりに長くやっていても、あるものとないものがある。

在ると云いうるのは信用。
雇い主から得る信用。仕事をこなすことで得られる信用。
後者については、その場その場の判断の断念や無茶をやると目減りするものではあるが、さておき。
己が武力はそうやって裏打ちされ、収入もまた保証される。変なことを遣らない限りは。
さて、ないと云えるものは何か。懐を漁っても無いものが無いのは色々ある。
例えば、暗殺者ギルドや盗賊ギルドにおける籍。後者については偶に出入りすることはあっても、籍を持っていなかった。

有れば役に立つ――というのは、時と場合による。
飴と鞭、毒と薬のように機に応じて適切に使わなければ、意味がない。そう意味がない。
ならば今がこの時か。偶に出入りするような者より、己に先んじて籍を持っている者が居れば望ましい。
昨今出来た新しい弟子? 否、否。なんと、この分野については一番弟子が先んじている。のだが――……。

「……おぅぃ、ラファルよう。せめて肩車で座ってくんねェかね。はっついていると色々見えねぇんだが」

黄昏時の貧民地区。逢魔が時とも呼ばれる昼と夜の境目の頃合いに、連れ立ち歩く者たちがある。
その内の一人は背の高い男。糊の利いたダークグレイのズボンに白いシャツ、黒いベストに細いリボンタイ。
黒髪をオールバックで撫で付け、丁寧に後ろ髪を束ねた姿は、貴族の邸宅に居てもおかしくない程。
だが、顔が見えない。何か被り物をしているのか? 否、否。違う違う。
声が籠って響くのは当然だ。顔面にべったりと、貼り付いているものが居るのだから。

――小柄を通り越して、さらに小さい幼女(ようぢょ)

男が伴う小柄より、もなお小さい金髪の女の子ががばっと顔に貼りついている。フェイスハガーしている。
その重みと重心の位置に、足取りはおろか肩も揺れないのは、貼り付かれる側の体幹の凄まじさを物語る。
方向転換だけが偶に乱れるのは、頭上に乗ったシマリスが方向指示を尻尾で叩いて合図するから。
残る相方たるモモンガの方は、もう一人の肩上に乗って、心配げに飼い主と相方をちらちらと見遣る。

向かう先は寂れた或る酒場。盗賊ギルドの拠点の一つだ。
小柄な方と幼女の方と。両者の答えを確かめれば、真っ直ぐにその足は扉に進むことだろう。

ラファル > 「ぶー。」

 師匠の言葉に対して、そこに居た幼女は、ぶー垂れていた。
 何時からいたのだろう、それは、最初からいた。しかし、だ。
 それに気が付くことができるのは、師匠と――そして、篝は気が付くことができただろうか。
 半裸の幼女は、影時の顔面に引っ付いていた、半裸の幼女が。
 それは、がっつりと、半裸のお腹を影時の顔にこすり付けるように押し付けて、しっかりと抱き付いていた。

 人、それをフェイスハガーと呼ぶ。
 師匠である、影時の言葉に対して、ぶー垂れつつも。フェイスハガーを続行。
 これはラファルのスキルである【無私】だ、これは、忍術の応用と、盗賊の技術、竜の能力を掛け合わせた強力な隠形。
 師匠や、篝のような実力者(PC )であれば、気が付くことができるが。
 一般的な人達(NPC)は、ラファルが認識させる積りが無ければ、何時までも気が付けない。
 だからこそ、盗賊ギルドは、こんな幼女を手放さないのだ。

「だって、最近おいちゃん、相手してくんないしー!
 匂いつけの一つ位しとかないとー!」

 ぷんすこ、そんな勢いで、影時の顔面に張り付く幼女(ようぢょ)
 視線を、篝の方に向ける。金色の竜眼は、きゅ、と細める。

「という事で、よろしくね、ボク、ラファル。
 ラファル・トゥルネソルだよ!
 おいちゃんは、ボクのもんだ!!」

 にぱー、と言う笑顔を向けながら。
 そして、目を瞬いて。

「篝ちゃん。」

 ラファルのクラスはストライダー、盗賊の上位。
 影時の師事により、忍者の免許も皆伝しているが―――。
 忍者とは隠れるものなので、ストライダーを名乗る。
 そして、其れゆえに、盗賊ギルドに伝手があり、それが今回、ラファルが呼ばれた理由。
 
 彼女は驚くだろうが。
 ラファルはこれでも情報収集能力は、バケモノだ。

 篝の問題としている、事に関しても、大体把握済みでもある。
 篝が、真に隠そうとしていることに関しては―――ニマニマと、メスガキな笑みを浮かべている所から、どう判断できるだろうか。
 とりあえず、妹弟子の為に、姉弟子頑張るよ、という所であり。
 篝自体を、害為すとかそういうつもりはないのは、見てわかるだろう。

> 名を口にするだけで、嵐と共に駆けつける。台風のような弟子がいる――。

そう師から噂話程度に聞いたのは、暫く前のことだった。
たとえどのような者でも、姉弟子であることに変わりはなく、礼儀を払い接する。
そのつもりで今日と言う日を迎えたわけだが……。

いつからそこにフェイスハガーがあったのか、周囲の人間は気付かないだろうが、特、隠密に長ける部類の人種は気付くもの。
前を歩く男と、その顔面に張り付いて離れない金髪の幼女を、小柄は無心で眺めながら盗賊ギルドへの道を行く。
右肩に乗るモモンガのそわそわと心配そうな様子を宥めるように、優しく人差し指で撫でてやりつつ、愉快な二人の話に耳を傾けた。

「…………」

じゃれつく幼女とその執事。と言う見た目だが、いかんせん幼女の肌色が多すぎる。
彼女が気配を消していなければ、危うく師は不審者として通報されていたかもしれない。
そんな気がしてならない。
不意に此方へ向く幼女の金色の瞳と、揺れる金糸。細め無邪気に微笑む彼女に対し、此方は。

「……はい、姉弟子……ラファル様。
 どうぞ、今はお気の済むまで影時先生をご堪能ください」

娘はケープのフードを深く被って耳を隠し、口元はストールで覆って顔の大半を隠し。
伺えるのは薄暗い中で光る緋色の瞳のみ。
淡々と感情の籠らぬ、男とも女とも子供とも大人とも取れない奇妙な声で言葉を返す。
伺う瞳も、声も、どちらにも感情の一切を乗せず、嵐のような幼女とは対照的に、静謐をもって対応した。
その言葉の裏にある意味に彼女が気付くなら、どんな顔をするものか等々、無意識に出た言葉は特に考えていないようで。

彼女が何処まで此方のことを知っているのか、其れについては正直わからない。
師の方からもある程度、話が伝わっているものと考えて。
協力的である今は、敵対するつもりはないと態度で示しておく。

影時 > 行くから来てくれ、等と前もって待ち合わせていた――でもない。
子供は風の子。竜の子。呼べばそこが余程遠い処でない限り、風も揺らさずして刹那に直ぐに来る。
そういうものだと、師と呼ばれる、或いはおいちゃんとも呼ばれる男は認識している。
その速さと風使い振り、竜としての素体のスペックだけは、如何に己でも追従しようもない。

では、手合わせ? 訓練?のときはどうか。
読めるものがある。感じるものがある。速いモノに速さで追い縋ろうとするなら、足の速さのみに非ず。
ともあれ、そろそろ合流しようか。
そのタイミングで、弟子の名前を裏路地に入ったところで呼んだら。こうなった。こうなっていた。前が見えない処ではない。

「相手って、お前、訓練とか学院で面ぁ合わせるだろうが、ったくよう。
 歩き覚えのある辺りで良かったぜ……全く」

幼女の身体(ぼでぃ)自体がまるで仮面の如く。
感じるものでない限りは男の顔が普通に見えるだろうが、感じるもの、分かるものであれば余りに余りの状況が分かるだろう。
男の側からすれば、おへそが見えている――段ではない。体温たっぷりのお腹に隠れて前が見えない。
何はともあれ、此れが出来るのが弟子である。一番弟子である。静かな大気のようにも恐ろしい嵐にもなる竜の子。
そんな者達と接しているから、だろう。男の頭の上と今は小柄なもう一人の肩に乗る毛玉達は、しっかりと全員を認識している様子で。

「……と、云うわけで篝。こっちがお前さんの姉弟子のラファル、だ。
 あー。仲良くしてくれると、俺としちゃあ大変うれしいんだが、ね。
 
 とーりあえず場所に間違いはないか?間違いがねえなら、行くか。その前にヒテン、スクナは隠れてろよ?」
 
今の状態だとケープのフードを被った妹弟子の顔は見えないが、どんな表情等をしているかは、考えないようにしよう。
仲良くしてくれるなら、それで良い。そう思い直しつつ、会話や風の音などの反響から、周囲の状況を察する。
光なき暗夜での戦い等は優れた忍者やら暗殺者にとっては、日常茶飯事、よくあることだ。
歩数で数える限りでも、場所は凡そ間違いはあるまい。そう考えつつ毛玉達に指示を出し、腰裏、ベストの下につけた雑嚢の蓋を開ける。
先々を考えると、毛玉たちの存在は伏せておいた方が良い。
二匹がそれぞれ前足と尻尾を振り、挨拶して、ぴょいんと。
飼い主の肩に飛び移り、飛び降り、もそもそと隠れてゆく。雑嚢の中へと潜ってゆく。其れを確かめつつ酒場の扉の前に立てば。

「――……たーのもう?」

――と。不意におどけたような、おちゃらけたような声を放ちつつ、寂れた風情のある中へと入ってゆく。
ナカも外の風景、様子も大差はない。
寂れた中に安酒の匂い、据えた臭いが立ち込め、胡乱げな男達がアルコール混じりながらも、鋭く、粘り気たっぷりに見てくる。
それを浴びながら、男は小柄を連れ、顔面に幼女を被った状態のままでカウンターまで進んでゆくのだ。

ラファル > 「うん。おいちゃん。もてるねー?
 篝ちゃん、別に、里、と言う訳でもないんだし。
 敵でもないなら、様、とか要らないんじゃないかなっ?
 生きてる年齢でいうなら、篝ちゃんの方が、沢山だし。」

 今は、と言う言葉の裏には、そういう事なのだろう意図が、しっかりと込められている。
 殺しきれない感情がそこに在るのだろうことは、ラファルにはクスクス、笑って見せる。
 にぱっと、笑いとして、口角を上げるラファルには、それこそ楽の感情以外は見つからない。
 篝に対しての反応は、どう見ても、年頃の幼女なのだ。
 ヒテンマルと、スクナマルは、このオヤビンは全く、と言った様子で、ラファルを見やる。

 このようぢょ、ヒテンマルとスクナマルと同等レベルとか何とか。

「?なんか、喧嘩する理由あるの?」

 仲良くしろと言う師匠に、きょとんとした目を向ける。
 ラファルの方には、敵意を抱く理由はない、匂いを付けるのだって、単なる習性だ。
 まあ、ボクんだとか挑発したのもあるかもしれないがそれはそれ。
 人間的な感覚をこのようぢょに期待しても、という所がある。
 お腹がすけば、人間もしゃもしゃしてしまうことだってあるんだから、未だに。盗賊だけど。

 そして、到着するのは、とある盗賊ギルド。
 師匠が足を運び、入っていくので、そろそろ、とラファルは隠形を解いて、地面に降り立つ。
 ラファル自身が見られるのは構わないが―――。
 まあ、師匠と妹弟子が変な目で目で見られるのは。
 舐められるのは、ラファルとしては、面白くない事なのだ。

 そして、カウンターにいる、荒くれたマスターにとことこと、寄る。

「ミルクちょーだい!」

『は?帰れガキ』

「ミルクちょーだい!!」

『舐めてんのか殺すぞ。』

「じゃあ仕方がないね。
 これあげるから、ムーランルージュ。三つ。
 三人で飲みたいから、奥でね。」

 ラファルは、1800ゴルドを取り出し、カウンターに出す。

 それを、受取ったマスターは、首で軽く奥を指し示す。
 鍵を受け取り、ラファルは二人に振り替える。

「じゃ、いこっか。」

 にこーっと笑いながら、盗賊ギルドの奥へ、案内するように歩き始める。

「これから会うのは、幹部だからね。
 何を聞くのか、何を聞きたいのか、何をしたいのか……ちゃんと、考えておいて?」

 慣れ親しんでいる通路を、進みながら、篝に向かい、師匠に向かい、伝える。

> 「ラファル様は、ご令嬢です。何より、姉弟子であられますので。
 ……敬称を付けるなと言うご命令であれば、従います」

揶揄い悪戯っぽく笑う幼女をどう扱うべきか、悩みゆっくりと緋色を瞬かせ。
最終的には相手の指示に任せることで考えを切り上げる。
彼女が一番弟子であることは変わらず、商家の令嬢であることもまた然り。
拾われ、成り行きで弟子となった己とは身分が違うと端から割り切っている。
なれば先の言葉は何だと尋ねられると……、己でも理解に苦しむのだが。

相変わらず師の顔は隠れて見えないが、声の雰囲気から予想して“仲良く”との言葉に素直に首肯しておく。

「はい、先生。仰せのままに。

 ――……しかし、この年頃の娘にまで手を出すとは、流石先生です。
 見境がありませんね、失望しました」

と、真面目か、本気か、冗談かもわからない苦言を付け加え、さして気にした風でもなく静かに後に続くのだった。
先日訪れた酒場の前まで来れば歩みが止まる。
降り立つモモンガが雑嚢の中へ飛び込むのを見送って。
先陣を切って店内へと足を踏み入れる師の影となり、するりと後に続く。
店の様子は先日と同様、ガラの悪そうな面々がグラス片手に固まり、此方の様子を伺う視線をくれる。
しかし、ラファルがパッと地面に降り立てば少し空気が変わる。
娘は目を瞠り、カウンターへと向かう小さな背中を見据えていた。

マスターとの慣れたやり取りも、ぽんっと惜しみなく金を出すのにも言葉が出ない様子で。
此方に振り返った幼女の笑顔に小さく頷き返すしかなかった。
そして、これから進む先を聞いてまた驚く。

「……幹部。顔見知り、なのですか?
 聞くこと……えっと、ん。しょ、承知、しました……」

驚きを隠せないまま、先導する小さな背中を追いかける。

影時 > 「モテもてだぞうウハハハ――とか、云ってられンのも今のうちかもしれんかねぇ。
 雇い主殿、もとい、お嬢様にも幾つか布石がてら伺ったりもしたが、ちと骨が折れることになるやもしれん。
 分かり易く、鬼が出るか蛇が出るか、となってくれりゃぁ良いのだがね。
 
 ……おっと。鬼は別の喧嘩馴染みになるから、出るとすりゃぁ蛇か」
 
冗談交じりか本気か。幼女のお腹越しに放つ声は、間近で受ける側はくすぐったくもなるか。
首肩に実際に掛かる重みの分だけか、肩を竦める仕草ばかりはやや大儀そうにある。
肩に乗っかる重み自体は初めてではなくとも、軽くはあっても何気ない仕草は少しばかりは影響を受ける。
ともあれ。初見、初対面から変な火花が出たり、露骨にぶつかり合う兆候は、きっとない。無さそうだ。
ただ、この妹弟子側が宣った“今は――”という言い方だけは、フードの下で何をどう思ったか。
暇な時にでも確かめ、弄ってみると面白そうではある。だが、それもこれも。問題が解決してからお愉しみか。

問題。そう、問題。
“愉しく”“愉快痛快”に事が済めば良いが。そうではないなら、少なくとも自分たちの側はそうなるように事を運びたい。
鬼が出るか蛇が出るかと云えば、前者については印象深い実際の鬼が思い浮かぶ。では、出るなら後者だろう。

「褒めてねェだろう篝よ。
 小さい子なら誰彼構わず、という趣味ばかりは無いぞ?俺は、と……ほう、これはこれは」
 
苦言、かこれは。本気か冗句か。いずれにも聞こえうる言の葉を聞いていれば、ぴょこりと仮面的な幼女が降りる。
見るものは――いまい。だから自分たち以外には、不意に金髪竜眼の幼女がふっと湧いて出たようにしか見えないだろう。
奇妙にざわめき出す有様に、どーもどーも、と奇術師めいた仕草で手を上げつつ進み、懐を漁る。
胸ポケットから取り出す片眼鏡を右目に付け、胡散臭そうな笑顔を口元に貼りつけて見ながらカウンターへ進む。
聞こえてくる言葉は、符牒。その遣り取りを聞き、続いて。

「あ、此れもくれ。おつりはとっといてくれ。後で用があるからな?
 ――ああ、勿論だとも。嗚呼、この先はだ。
 二人とも偽名や通り名はあるか?名前を呼び合うなら、それを使う。俺は適当に名乗るから合わせてくれや」

早速の先達ぶりの面目躍如、といったところか。
カウンターの奥に見えた良さげな蒸留酒の瓶を指差し、ばしりと硬貨を置いて引き換えにそれを貰う。
奥に向かいつつ無論と頷き、ご対面の前に短く打ち合わせよう。此処から先は本名は使えない。口に出さない。そういうセカイだ。

ラファル > 「じゃ、命令。ボクと君は対等。
 上は師匠である、影時だけ。良いね?」

 ラファルは見ての通りに幼女であり、そして、ドラゴンだ。
 人間との常識や序列などに関しては、どうでも良いというのがようぢょの考え方だ。
 序列を決めるのは、実力なのだ、そして、今はまだ序列をつける必要がないし、戦ってもないので、対等。
 篝にはわからないかもしれないが、ラファルはそれが正しいと考えている、と。

「え?良いじゃん、繁殖欲旺盛なんだし。」

 強いものが、雌を侍らせるのは当然だから。
 彼女がそういう関係だろうが、ラファルは、良いじゃんと言うのである。
 サムズアップしてみせて、ジャンジャン繁殖しようぜ、とか言うのだ。

「うん、此処のギルドマスター直属幹部のシードルはボクの上司だよ?
 此処はストレイフールズっていう盗賊ギルド。
 入るなら、口を効いてあげるよ。ここは、情報収集と、冒険者系シーフの育成をメインにしてるんだ。
 禁則は殺人と、許可のない窃盗。正義と言う訳じゃないけど……一応悪ではないよ。

 その分、情報は、本当に……ね?
 王城に忍び込んだり、機密書類だろうが、手に入るから。」

 篝の身の上、状況などは、既にラファルは、情報を収集済みだ。
 だからこそ、何を求めるのか、を決めておくといいよ、と、にっこり笑おう。

「おいちゃん? 蛇って、ボクらぶちぎれ案件だよぉ?」

 ドラゴンだ。人竜だとしても。
 半分だとしても、ドラゴンなのだ、蛇よわばりは、全てのドラゴンに対しての喧嘩売りだ。
 あのリスをもって、全力ダッシュでパンチを繰り出すレベル。
 ンゴゴゴゴゴゴ、と、半眼で、影時を、師匠を睨みつけるレベル。
 これはまだ、警告のレベルではあるが、尊敬する師匠に、此処迄言わせるレベルだという事だ。

「あ、ボクは、【テュポン】ね。
 此処は、ストレイフールズ、盗賊ギルドにようこそ。
 メインは、情報収集と、冒険者系のシーフの育成。
 法度は、許可のない殺人と、許可の無い、窃盗だから。」

 先程、伝えたことを改めて伝えるし、ラファルのコードネームを伝えておく。
 入るなら、歓迎するよ、と、篝ににっこり笑うラファル。

> 「対等……。はい、了承します。
 ……ラファル。

 ――……先生、ラファルには情操教育が必要だと判断します」

姉弟子がそれを命令だと言うなら素直に受け入れ、敬称を省くこととする。
しかし、だ。あっけらかんとした、繁殖旺盛だとか、歯に衣着せぬ彼女の物言いは、幼女の口から出て良い内容ではなく。
それについて、差し出がましいとは思いながらも、ついつい半目で師へと意見する。
先生として、その辺ちゃんと教育する気はあるのだろうかと、若干の疑いまで掛けられるのは言うまでもない。

色々と。色々と気になるお嬢様との話は、また師が必要と感じ、気が向いた時にでも聞かされるだろうか。
これ以上、多くを詮索することは、今この場ですることではないので、口を閉じ。

「……どうだか」

こと、色に関しては信用がない師である。
ため息交じりに一言零し、此れより先は戦場に入る故、冗談戯言の類は控えておく。

「殺人、許可の無い窃盗の禁止……把握しました」

既に先日登録した身であるが、ギルドの名前もルールも知らなかったらしい。
姉弟子の説明を聞きながら何度か頷き、何を聞くか……については、まだ迷っているようで目を伏せ考え込む。
その隣で、ちゃっかり目ざとく上物の酒に目を付け予約する余裕を見せる辺り、師は娘と違いやはり場慣れしていると言える。

「テュポン。承知しました。
 ……では、私のことは火守(ほもり)とお呼びください。
 その名で此処に登録しましたので」

師と姉弟子、それぞれを一瞥し、既に入ってしまったことを伝える。
このギルドでもまた、彼女の後輩にあたるわけで、先輩からの笑顔の歓迎に深々と頭を下げるのだった。

影時 > 「ま、そうだな。ラファルの言う通りに計らってくれンなら、俺としても有難い。
 手合わせはナンボしても良いし、ああだこうだと話し合ってくれても構わん。一緒に迷宮に潜るのも良いねぇ」
 
ひとは見かけによらない。そのヒトが竜が変じたものでもある場合も、ヒトがヒトデナシになって変じている場合もある。
前者の例については、この国に来てトゥルネソル家の面々と関わるようになってから、よくよく思い知った。
単純な実力的な差、違い等は、己がああだこうだと宣う気はない。妹弟子たる少女も薄々と分かるだろう。
とはいえ、先達から学び得るものとは十分にある。
理不尽も不可思議も一緒くたに味わうにしても、下手に単独行をするつもりなら、二人で行ってくれる方が安心も増す。

「残念だが、篝よ。――それもうとっくに試した後、だぞ?
 あれこれ試してようやく、という具合でなァ。……ヒテンもスクナも居たら、篝の側に回りそうだなァ……」
 
実は、というまでもなく。既にやった、試した後なのである。少なくとも幾つか、細かな所はマシになった。
フードの下から響く篝の声に、軽くなった肩を上下させて嘯き、続く声に頬を掻く。
親分の女遊び、女好きに関する酔狂については、妹弟子ならぬ毛玉達もやや呆れ気味なのも否めない。
妹弟子の両肩か頭に乗っかって、そーだそーだ、とか言わんばかりに尻尾を振ったり、立てたりする様が目に浮かぶ。

「姉弟子の方の実績の二文字についちゃあ、保証する。――実績があるからな。
 傾向と方針については、改めて承知した。どっちも必要でなけりゃあそうそうする気にはならんよ。
 
 ……すまんすまん、物の喩えの方でだが、勘弁してくれ。後で埋め合わせはしてやるから」
 
妹弟子の身の上、経緯については、先だって雇い主たるリスに報告している点もある。
その情報が弟子に行くのも、おかしいことではない。
語る実績には、そんなこともあったなあと思い出しつつ、効果音付きで睨むちまい姿に背を曲げ、ぽふぽふと頭を撫でてやろう。
どうやら篝が属した、属することになった場所もこの系列で相違はなさそうだ。
そうであるなら、面倒は少ない。奥に進んでゆけば、奥まったところに扉が見えてくる。
ドアノブを掴む前に、感覚を研ぎ澄ませ、気配を確かめ――開く。

ラファル > 「えー?」

 情操教育と言うのはちょっとどうだろうか。獣に必要なのだろうか?いや、無い。
 本能のままに生きているラファルだからこそ、だ。
 そんなこと言わないでよ篝ちゃーんと、言う雰囲気だがしかし、それは残念ながら無視されるかもだ。
 だって対等と言っちゃったんだもの。
 篝ちゃんが、情操教育をしても良いのよ?と、誰かが言うかもしれない。

「詳しいルールは、そうだね、ボクが教えてあげるよ。
 よろしくね、火守。」

 新人には、教育する担当が必要だ。
 それならば、先達で、同門のラファルが適任だろう。
 シードルに伝えて、許可をもらう必要が一つ増えたな、と。
 妹弟子に、色々とできるのは、嬉しいものだ。
 三姉妹の末娘、という事もあり、ラファルはワクワクドキドキする。
 むしろ、張り切った。えへんぷい薄い胸板をドーンと叩くまで。

「後。おいちゃんの名誉のために言うけどさ。
 ボク、服着るの、今でも大嫌いだよ?」

 裸族だ、純粋な裸族だった。
 おいちゃんの教えに従って、服を着ているのだ、と。
 ちゃんと、情操教育は、実を結んでいるのでもあるのだ。

 そして、扉が開かれる。

「シードルさーん、礼の件で、来たよー。
 ンで、これが手土産ね?」

 ラファルは、軽く笑いながら、扉を開いた師匠の脇からするりと部屋に。
 手土産と言って取り出すのは、この国の機密の数々。
 ラファルは有数の情報モンスターだ、王城に忍び込むのも楽々するし。
 何なら、重要書類を、書き換えるなんて朝飯前でもあるのだ。
 そんなラファルは、幹部に機密情報の束を渡しつつ。

「新人、ボクが鍛えるよ?」

 いいよね、と笑って、許可を得るのだ。
 ラファルが教えるのは珍しいからか、直ぐに許可が下りる。
 篝はラファルの下で、この盗賊ギルドで自由に動けるようになる。
 そして、目配せする。


 今なら、知りたいこと、したい事、確認しなよ、と。

> 既に教育後であると聞けば、ゆーっくりと師へ振り返り、姉弟子を見て、もう一度師へ。

「……コレで? ……はぁ、理解、しました。」

これで教育後とは。以前がどうであったのか、恐ろしくて聞けない。
元より人でなく竜であるとも聞く。これでマシになった方なのであれば、それ以上の締め付けは反発を生むだろう。
姉弟子に妹弟子がものを教えると言うのは聊か角が立つかもしれないが、対等であると言うならば、指摘することもまた妹の役目か。
文句ありげに声を上げる姉弟子を無言で見つめては、スーッと視線を逸らす。
彼女が淑女になる頃までに、立派なレディーになっていることを祈るばかりだ。

師からの太鼓判を押された幼女は、このギルドでも高く評価されているのだろう。
ギルドマスター直属とは、そう言うことだ。

「ん、ご教授、感謝します。
 ……あー。服に関しては、必要な時に着てさえいれば、自由だと判断します。
 私も、煩わしい時は服は着たくない、ので」

特に、風呂から出た後、寝る時とか。
変なところで同意しつつ、妙な仲間意識が早速芽生えてしまうが、それはそれとして。
姉弟子を怒らせ、宥めにかかる師。二人の様子をぼんやりと眺めながら、開かれた扉の先へと視線を向ける。
シードルと呼ばれた女性、彼女がギルドマスターか。
姉弟子の紹介に合わせ、軽く会釈をして挨拶をする。

「……え、と……。
 確認、したいこと……。

 ――暗殺者ギルド、は……ここで、経験を積めば入れますか?
 盗賊ギルドで働けば、スカウトされると聞きました」

迷いながら、やはり最初に尋ねるのは暗殺者ギルドについて。
殺人はタブーとされていると知りながらも、此処に入った目的なのだから、それを尋ねずにはいられない。

影時 > これでも、だいぶ、頑張ったのだ。
性的なあれこれは向こうの家風的なものもある。己もだいぶ染められた、引っ張られた点は否めない。
郷に入っては郷に従え、というのではないか。であるからして、こうした。こうなった。
一番弟子は厳密に云えば純血の竜種ではないにしても、原種以上に野性に染まっている気質がある。

まだ若いから、という見方は出来る。
とはいえ、永劫を生きるような種がどれだけ年月を経たら、不意に悟ったかのように落ち着きを得るのか?
竜種を研究する学者でも何でもない、ただの抜け忍風情にそれが分かるなら苦労はしない。
ただ、最低でも。人前に出る時は、一枚でも多く服を着るべし。それで漸く、裸族的な思考に歯止めをかけている。

「……冬はせめてもう一枚位は着てくれたら、なぁ。
 あぁ、と。火守の。テュポンのが言ってるのは、ちと違う。いつでもどこでもまっ()がホントは一番、ってことだからな?」
 
フードの下に浮かべている表情は、きっと半信半疑めいた顔であろう。
篝の表情をそう想像しながら、ラファルが云わんとするところを補足し、説明する。
獣がそもそも服を着るか、という至極基本的な点が根本にある。それだけ一番弟子の野生は強いのである。
期せずとは言え、励みになることができたのだろう。えへんぷい☆と叩くさまに目尻を下げ、笑う。

あとは、だ。扉を開いた先に用がある。
するりと先触れよろしく入る幼女が、何処からともなく取り出すものを待ち受けるものに報告がてら渡し、用件を述べる。
目配せを受ければ、頷き。

「……――どーも。シードルさん。シャッテン・フェレライです。
 こちらのテュポンの紹介を受け、その師としてお伺いに参りました。
 其方への加入並びに、幾つかの確認と相談、依頼を行いたいと思いますが、いかがでしょうか?」
 
偽名が意味するところは、影、暴食。転じて“影喰らい”。昔の二つ名を強引にこの辺りの土地らしい音に直したもの。
アイサツと共に会釈、名乗りつつ腰裏に手を遣り、雑嚢からものを取り出す。
どさり。響くは革袋に詰まった貨幣と宝石の音。先達からの紹介だけではなく、依頼者としても用件があると。その意を示す。

ラファル > 「だって、必要感じないんだよ?」

 そうなのだ、なまじ、防御力が高いから、肌で、鱗で全て弾くのだ。
 寒さに関しても、超高空を飛ぶ種族ゆえに、寒さにはくそ強い。
 なので、本当の意味で、服に意味がないというのが正しい状況であり。
 それを以て、服を着るのが嫌いなのである。
 柴犬が服を着ないのと同じ理由と判ってもらえればいいだろう。

 それでも、理解をしてくれる妹弟子に、姉弟子はなつく。
 ようぢょはようぢょである。
 野性味あふれるドラゴンだった。

「服の意味が分からないよ、シャッテン。」

 此処は盗賊ギルドであり、そして……、ラファルは先輩だ。
 部外者(師匠)と、形式上の部下()を前に、言葉が先輩になるのは仕方のない事だろう。

「シードルさん、そういう事で……よろしくお願いしまー。」

 顔のつなぎまではラファルの仕事。
 後は……、シードルの仕事と、成るだろう。

ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」からラファルさんが去りました。
ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」にシードルさんが現れました。
> 「寒さを感じないのであれば、着なくても良いと判断しますが……。
 ん……、常、は……少し、問題があります。
 自然の中であれば、良いのですが。人間社会で生きるには、侮られます。
 奇異の目で見られること、また、相手の目の毒にもなる……。
 先生の教えがテュポンに伝わったことに、今、安堵しました」

家風云々は知らないが、竜に繋がる一族である。普通の感性はしていないだろうことは想像がつく。
娘とて、まともな教育を受けたとは言い難いが、人間社会における常識はある。
服を着る意味が無いとまでは思わないので、懐く姉弟子を見る目が半目になるのも仕方ない。
常に裸で生きているなんてのは、せいぜい見世物小屋で飼われる奴隷くらいのものだと思う。
社会で生きる以上、ついて回る礼節や常識は野生で生きる者にとってはさぞや面倒臭いことだろう。

師の努力に敬意を示しつつ、時は進み幹部へのご対面――。

「――っ! …………、」

偽名を語り、要件を告げると共に置かれた革袋。
その口から僅かに見えた宝石の輝きに目を大きく見開き、フードの下の耳がピクピクと震え、金属の音を拾う。
娘にはない、師の経験から来る巧みな交渉術に興味を向け、腹の探り合いを始めるだろう両者の様子に注目する。