2025/08/12 のログ
■セーラ > 「そうだったの、だから独りなのね。
あの子も鑑定に出かけたり忙しいもの、仕方ないわ」
家族内だけで共有されている妹の本来の才能を知らない姉ではない。
末の妹のように駆け引きが出来るような性格ではないことも知っている。
改めて自分の元まで無事に辿り着いてくれた僥倖に、安堵せずにはいられない。
口に出すのも厭わしい過去の記憶がちらつけば、妹を抱きよせる腕には自然と力が籠ってしまう。
尤も、女の細腕では苦しくもなんともないだろう。
けれど、痩せた腕は昔よりも肉が薄いから、少し骨っぽい感触に彼女が眉を顰める可能性はあるやもしれず。
母が念を押して届けてくれた薬は、今日まさに欲していたものだ。
拒食で奪われたのは体重だけではなく、何より自分の体を支えるための体力。
自分の力で立って生きていくための根本的な力だ。
人とかかわることが多かったり、貴を張る時間が長い日には、どうしても薬に頼らざるを得ない。
だから、帰宅するのがつらいほどに疲労して届けられたのだろう。
「ありがとう。
アスティが頑張ってくれたから、今日は薬を飲む前に元気が出たみたい。
だから、邸に戻ってから飲むことにするわ。
でも、アスティも独りで母様のお願いを頑張れるようになったのね、凄いことだわ。
邸に戻ったら母様に沢山褒めてもらわなくてはね?」
今日のところは思ったよりも未だ体力は温存されている。
書類の確認作業もスムーズだったし、不安要素がなかったことにも救われたのだろう。
だから、一回分の正規量を飲む必要は恐らくない。
追加依頼が舞い込んでくることさえなければ、妹と共に帰宅したのちに半量も服薬すれば十分なはずだ。
「今日はもう王城での仕事は終わったから、邸に帰ろうかと思っていたところよ。
でも、折角アスティが頑張ってくれたのだから私からも何かお礼をしたいわ。
そうね…こんな暑い日には、皆で冷たくて甘いものでも食べたくはならない?」
例えば、氷菓子であったり、冷たくして楽しむ菓子であったり。
昔は王都の中にもいくつか取り寄せをしていた菓子店があったけれど、今となっては女は既に王都の流行りに疎くなってしまった。
だから、アステリアが他の妹たちから何か流行りの菓子の情報を聞きつけていれば、と、言外に問いかける。
怯えがおさまった様子が見て取れることには緩く追っていた膝を戻しながら手を差し出す。
それは、小さい時と同じく妹と手をつないで先を進もうとする姉の意思表示。
不安なときには必ず一緒に居ると伝えるように差し出したその手も、彼女の記憶していたものよりやはり痩せてしまっているだろう。
■アステリア > 「うん、プティは、とても人気だから。」
人気と言うのは、彼女の能力だ。ものを見る目、だけではなく、人を見る目も。
そして、小さなころから母と共に一緒に出掛けて、人慣れしている妹。
この魔窟でも、普通にやっていけるから、凄いと思うのだ。
そして、姉の抱きしめる姿に、腕に、安堵の様子に腕を回して、姉を抱きしめ返して。
姉の温かな肉体、優しい心に、凄く、凄く安堵の心が浮かぶ。
姉の匂い、久しぶりに感じる、姉の姿が、嬉しく思える。
昔もこういう風に抱き締めてくれたな、と思いつつ。
「でも……大姉様、薬って、ちゃんと飲むために作られてるんですから。
半分にしたり、とかは、しないでくださいね。」
先に、念を押しておく。
薬と言うのは、既定の量を飲んで初めて効果が出るように作られるものだ。
半分だけ飲んで半分残すは、効果半分ではなく、効果なし、になる。
それを知っているから、先にちゃんと釘をさしておくのだ。
半分の効果が欲しいなら、ちゃんと作りますから、と。
実際、たまーに、家で薬を届ける際に、残っている薬を見たことがあるから。
心配だから、妹は姉をじっと見上げて、お願いする。
ちゃんと、飲むときは飲んでください、と。
「後……。
大姉様に、今、褒めてもらえたので。
大丈夫です。」
小さなころから、忙しい母の代わりに、自分やプティを含めた家族をまとめてくれていた姉。
彼女のやさしさに沢山救われていた。
だから、母親に頭を撫でられるのは嬉しいけれど。
でも、姉に、頭を撫でられるのも、大好きなのだ。
だから、撫でて、と頭を擦り付けるさまは、子犬の様で。
「良いですね、大姉様……!
一緒に、氷菓子、食べたいです!」
最近、氷菓子が人気なのは、友人から聞き及んでいる。
まだ、食べたことは無いけれど、姉が案内してくれるのは、とても喜ばしい。
目を輝かせて、うんうん、と頷く妹。
小さな手を、温かな姉の手に重ねて握り、嬉しくて、顔がほころぶ。
痩せているのは分かるけれど、でも、姉の手は、柔らかかった。
■セーラ > 末の妹は昔から彼方此方で声がよくかかる。
彼女の鑑定眼は随分昔から一目置かれていたが、それ以上に彼女の性格というか積極性もあって呼ぶ声に拍車がかかっているのは今も変わらないことらしい。
双子の妹がいない不安と寂しさに顔を曇らせていたのを知らぬ姉ではなかった。
だからこそ、そのアステリアが理由があるとはいえ今回のように行動を起こしてくれたことはあまりに感慨深い。
自分が王国を離れた後、きっと彼女なりに色々考えて、少しずつ自分の速度で成長しているのだ。
姉ではあるけれど、どこか母のような気持ちで見守ってもいたから、確かにゆっくりながらも成長している妹の姿は眩しくてならない。
きっとこの先もその成長はアステリアらしい歩みで進んでいくのだろう。
自分は、いつまでその成長する手を引いてやることが出来るのか、そんなことを思いもするも余計なことかと口に出さずに見守るだけにとどめるつもりでいた。
本人の成長は、本人の伸びしろに任せるのが一番。
それは、母が子供たち全員を見守ってくれていた視点にどこか共通するものかもしれず。
「あら、私の小さな薬師様には全部お見通しね。
そろそろ新しく処方してもらわなくてはいけないかしら」
妹の言いたいことは勿論わかる。
けれど、薬も飲んで効果を得るためにもやはり体力がいるのだ。
だからあまりにも体力がない時や体調が落ち着いているときには半量にしてしまうのだけれど、既に見咎められているらしい。
折角作ってくれているのに、とおもう罪悪感があるからこそ本人から念を押されたなら肩を竦めずにはいられない。
ここは彼女の言う通り、用途に適した処方のものを用意してもらうべきなのだろう。
小動物によく似た仕草は妹が昔から甘えてくれる時に見せたもの。
ああ、これもやはり懐かしくてたまらない。
「ふふ、よかった。
今日は暑いからきっと特別美味しいわ」
何より妹が勇気を出してたくさん頑張ってくれたお礼と、そのご褒美。
特別以上に美味しいに決まっている。
手をつなげば、姿かたちに多少の変化は有れども王国で過ごしていたころとあまり変わらない。
小さなその手の存在を確認するかのように握り返しながら、ここから先は嬉しそうな妹の案内に任せるとしよう──。
■アステリア > 末の娘と、上の娘は、双子である。
それで、此処迄の差と言うのは、身体的特徴とコンプレックスにある。
輝かしい妹、そして、その陰に、望んで潜む姉。
半身がいないことは、とても、とても、寂しく思うしつらくも思う。
ただ、今後の事を考えなかればならなくなっている年齢でも、在るのだ。
それを考えての、母の行動、そして……周りの縁だと思う。
姉に甘えるが、甘えているばかりではいられないというのは、アステリアも感じている。
アステリアは、引きこもりであり、箱入りだが……両親に兄や姉たちのお陰で、無知では無い。
一応、一般的な常識は、弁えていられるのだ。
姉に、自分からちゃんと伝えたり、苦言を呈したのも成長と言えるのだろう。
「大姉様に合うように、しっかり、作るから。
後……大姉様。……ううん。ちゃんと、お薬、どんなのが良いか、教えてね。」
後、との後に、何か言おうとしたが、慌てて修正。
アステリアは、家族の化粧品を作っているが、最近姉の肌の様子などを見て、提案をしようと思った。
しかし、やめておいたほうが良い、そんな、気がした。
双子の妹程では無いが、見る目はあるのだ、だから、化粧に関しては言わないほうが良いと感じた。
まだ、早い、と。
だから、慌てて修正して、姉を見あげる。
「大姉様、何処に連れてってくれるの?」
純粋な興味。
王都には、様々なお店がある、アステリアも友人に連れて行かれた場所もあるけれど。
それと同じなのか違うのか、それもワクワクする。
姉と一緒の買い物は、何処か、心が温かくなる。
姉の手をつなぐ妹の感覚から言えば、過去と言うほどの時間では無くて。
姉との時間を、楽しみながら、二人は、王城から戻るのだろう―――。
ご案内:「王都マグメール 王城/回廊」からセーラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/回廊」からアステリアさんが去りました。