2025/08/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/回廊」にセーラさんが現れました。
セーラ > 「では、失礼」

帝室により選抜された定期外交使節団の迎え入れの報告書類を持ち込んだ先は文官たちの作業区画。
女が持ち込んだ書類は、既に記載されていた内容等を女が確認し、問題なしと判断したもの。
少しでも王国へ留め置くに際しての不都合があれば、報告を添えて提出するものだ。
今回の書類には不備がないと判断したため、特段書き添えを付けることはなかった。

不揃いな襟足を隠すための大きなリボンが、茹だる様な季節の風にふっくらと揺れる。
そんな季節でも、首元までしっかり詰まったブラウスも、足首まで覆い隠すタイトスカートも、女の素肌を衆目に晒す事はなかった。
強いて挙げるとすれば、紗の袖の下にうっすらと覗くあまりに細い腕と、その先のカフスの下からわずかにのぞく手首くらいのもの。

(…この季節の王国は、やはり暑いわね)

しばらくこの国を離れて、北の帝国で暮らしていた間にすっかり忘れた、とまでは言わない。
けれども王国よりはやはり涼しい地域であったことには間違いない。

季節の過ごし方を忘れてしまうほどの時間が既に経っているのだと思い知らされながら、文官たちの行き交う界隈を通り抜けて、女の足は庭園に沿って続く石畳の回廊へと進んでゆく。

ご案内:「王都マグメール 王城/回廊」にアステリアさんが現れました。
アステリア > アステリアは、実はあまり王城に寄ることは無い。
と言うよりも、イフレーアの家と、学校、その辺りから出るのは珍しい。
妹のプシュケがいるのか、若しくは、友人のマカナがいれば、と言う形でしか、外に出ない。
しかし、だ。
例外と言うのはあった。

「…………!」

びくびく、おどおど、そんな擬音がぴったりな様子の雰囲気で、アステリアは王城の回廊、周囲を警戒しながら歩いてる。
そして、何かを見つけた様子で、とたたたたっ、と急いだ様子で近づいていく。

「セーラ大姉様……っ!」

年上、成人している姉に慌てて近寄り、飛びつく様に抱き着くのは、アステリア。
その手には、頼まれたものがあった。
それは……薬。
母親である、ロゼールに頼まれて、アステリアは、セーラに、持ってきていた。
アステリアが持ってきたのは、やましいものでは無くて栄養剤。
後、少しだけ、元気になれる感じのものだ。
用途などはアステリアは知らないが、セーラなら、母親の意図もわかるだろう。
アステリアは、表向きには、錬金術師で、家族のための薬を作っている。
それで、姉に持ってきたのだけど……。
妹は、セーラを超える引きこもりなのだ。
見つけて、ぐすぐす、涙ぐみながら、姉に抱き着いた。

セーラ > 軽い足音にも、自分の名前を呼ぶ声も、聞き覚えがある。
だから、その音が背後から近づいてきたとしても、慌てずにいられる。

「まぁ、アスティ!…プティとは一緒ではないのね?
貴女…もしかして、独りで来たの?」

女が振り返ったのと、妹が飛びつくように抱きついたのはほぼ同時。
身長差があるので、どうしても女が少し膝を折るかたちになった。
随分と不安だったのだろうことは、大きな瞳にはった涙の膜がなくとも直ぐに理解できる。
手にしていた薬包を届けに来てくれたのだろうことも、それが誰からの頼まれ事なのかも。
第一、この妹に単独行動させられる人物など末の妹を除けば恐らくただ独り。

「…届けに来てくれたのね。
ありがとう、ここまで独りで来るのは怖かったでしょうに」

拒食を長く患っている身には、生き長らえるための最低限の栄養を食事以外で摂取する必要がある。
妹が怖い思いをしてまで届けてくれた薬だ。
もちろん、母の意図するところはもう一つ別にあることも伺える。
彼女を送り出して外の世界に少しでも慣れるように、という考えもどこか伺えたし、何よりそんな妹の手で届けられた薬ならば、自分が飲み残せるはずがないという目論見もあるだろう。

抱きつく背をあやす様に撫でて、怯える妹の柔らかい髪がかけてくる間に乱れてしまったのを指先で直してやる。
この国を出る以前にも、何度も同じようなことをしていたことも懐かしい。

「あなたの作ってくれる薬はよく効くから、助かるわ」

怯えた背が落ち着くのを待つ時間は如何ほどか。
懐かしい行為は、どこか気を張っていた自分のことを落ち着かせるための行為でもあるのかも知れず。

アステリア > 「今日は、プティは……別の用件があったの。
 うん、一人で、来た。
 大姉様に、届けてって、お母様が。」

普通は、妹と共にしか出ないが……やはり、母の言葉が。
あともう一つ、姉が頑張っているというのに、妹が頑張らない訳にはいかない。
昔の格好いい姉も好きだし、今の姉も、放っておけない。
アステリアの今回の薬は、精神的な賦活剤の効果もあるのだ。
セーラが、どうしてもという時に飲めば、一時的に、過去のように、気を張ることができる。
アステリア自身は、其れの理由は知らない。
ロゼールが知っているが、アステリアには言わないままに作らせている。

彼女の心を守るためのものでも在るから、とても大事なものだから。
最近は、前よりも何とか一人で動けるようになってきているから。
アステリア自身への、試練でもあった。

「でも、大事なものだし……大姉様に、必ず届けなさいって。
 だから……頑張ったの。」

学校の様な安全な場所では無い。
この場所、王城は正直に言えば魔窟だから、気を抜けばアステリアは色々な意味で餌食になる。
それこそ、イフレーアの失墜を望むものから言えば、格好の獲物だ。
何せ、アステリアを犯して、孕むにしろ、孕ませるにしろ、イフレーアの血を奪う事もできるし。
犯されたと称して、イフレーアに子供を無理やり認知させることもできる。

アステリアの本当の資質を知るのは家族だけで、今の所それが知られている様子はない。
世間の評価は、アステリアは、薬や、化粧品作成の才能があるという程度だ。
だからこそ、此処に安全に来られた、とも。

最近の経験や、姉がいるからこそ、それほど時間はかからず、妹は落ち着いた。

「大姉さま、この後は……?」

どこか行くなら、付いていく気なのは、見てわかるだろう。
此処を一人で歩く心細さは、姉がいるから緩和されているので。