2025/07/02 のログ
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」にエリビオさんが現れました。
エリビオ > 日が暮れ、熱気も湿度も和らいできた頃合い。からり──と、共同露天風呂の引き戸が開く。
現れたのは、艶のある黒髪を無造作に揺らす一人の少年。

「……誰もいない、か」

洗い場も湯殿も静まり返っているのを見て、ふっと口角を尖らせる。
誰もいないなら、急がなくてもいいのに。なのに彼は早足で湯殿へと向かい──

「いけない!」

寸前で足を止める。
公共の湯では打たせ湯をしてから入るのがマナー。
気づいた彼は、ばつが悪そうに舌をちろりと覗かせ、手近な桶をひとつ手に取った。

ぱしゃっ──
頭から湯を被る音が、石床に小気味よく跳ねる。
一度、また一度。三度目には頭から爪先まで、しっかりと濡れそぼって。
濡れた前髪を掻き上げたその顔には、どこか満足げな表情が浮かぶ。

今度こそ、湯の中へ。
爪先から腰、肩へと、じんわり染み込むような熱が彼を包む。

「ふぅ……っ」

溶けるような吐息とともに、目を細める。
この熱は、悪くない。
日頃の疲れを、心の澱を、そっと溶かしてくれるような、柔らかな熱。

誰もいないことをいいことに、長い手足を思い切り伸ばして──
広い湯船を、たったひとりで独占する。

「……最高。早めに来て、正解だったな」

ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」からエリビオさんが去りました。