2025/07/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 工房地区」にスピサさんが現れました。
■スピサ >
―――ギィンッ!!
槌の振るう音
火の中に入れ、色を帯びる金属が、それでも跳ね返すことを止めない音。
鋼の種類にも依るものの、すでに固い合金製の代物ほど固い音が出る。
逆に刀のような工程では、音が半分吸われたような独特な金属音が槌を当てることで響く。
―――ギィンッ!! ギィンッ!! ギィンッ!!
―――ギィンッ!! ギィンッ!! ギィンッ!!
槌の音が、工房内で響く。
季節を考えると、鞴で空気を送り込み火がぼうぼうとした炉の熱
その炉で熱を与えられた火塊のような鉄塊と柄。
表面の高品質にさせた鋼が急激な酸素接触によって酸化鉄を帯び、剥がれていく。
粗悪な欠片がはがれていくようで、まるで芯の本物が現れるかのように見えるそれ。
しかし実態は、その本物の鉄塊の表面をまるで飛び火の肌病にさせたかのようにボロボロとはがす。
完成するころには剥がれることで鉄塊は1割、拘れば2割は量を減らすだろう。
酸素に触れさせず、鉄塊に影響を与えず、且つ槌を打つことで中に異物として混ざり合わない。
そんな魔法のような粉を用いることは多い。
肌に沸いて出る汗 炉で乾いていく汗。
裸オーバーオール姿のサイクロプスの単眼は、火熱の鉄塊の表面がまた亀裂を帯び、剥がれる肌を表さないよう
サラリと銀匙で救い上げた軟膏貝の白貝殻の粉末と藁灰の混合物を振りかける。
金属を無駄にして一番心を痛めるのは自身を追い詰める鍛冶師。
表面に帯びたところで再び火に入れると、火の膜が鉄塊を包み込む。
酸素が鉄塊に帯びる前に遮られていく。
「―――。」
押しては引き、押しては退く。
一方的な火力を生み出すならクランク型がいいものの
手押し引きの場合はその火の加減が息を吹きかけるように調節できている。
ゴオオオオオ しゅごおおおお ゴオオオオオ
この息吹の音と共に、炉の前で単眼は火を見つめ、鉄塊を見つめ、槌を握る。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 工房地区」からスピサさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 寂れた教会」にフィオさんが現れました。
■フィオ > 夜の教会。蒸し蒸しと湿っぽい空気は石造りの室内も同様で、少女は文机の前でくたりと突っ伏して溶けている。
子供達を寝かしつけた後、内職の護符作りを始めたまでは良かったが、日が落ちてなお汗ばむ熱気に敗北した次第。
くたーん、と教会の礼拝堂の片隅で垂れている小娘はどこか覇気がなく、じっくりと蒸し上げられていて。
「やーるきーがわかねー、ってやつですよー」
シスターの制服とも言えるトゥニカの下では、肌着代わりのローブが滲む汗を吸い尽くしてぺっとり肌に張り付いている。
今抱きしめられて匂いを嗅がれたら乙女的に恥ずかしすぎる匂いとかしないかしら、等と思いながらも水浴びに出る元気もない。
何事もなければこのままもう少し時間を潰して、夜更けを理由に寝入るのだろう。暑さに負けたダメな小娘である。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 寂れた教会」にクレイプニルスさんが現れました。
■クレイプニルス > 夜の平民地区、そこを一人人目を避けて歩くのは、一人の隻眼の冒険者。
その額にかく汗は、夜の蒸し暑さに関連している……だけではなく。
確かに、その表情は苦しみが表に出ていた。
「あー、くそ。まさか、シャーマン系のゴブリンがいるなんて……」
そう、このクレイプニルス・アークスという冒険者、遠征先でゴブリンシャーマンによる呪いを受けていたのだ。
しかも、その時の仲間に解呪ができる者がおらず……結局、王都まで呪いを受けたまま戻ってきたのだ。
「ちくしょ、ゴブリンの癖に呪文なんて使うんじゃねぇよ……」
まあ、何はともあれ。命にかかわる呪文でなかったのが不幸中の幸いだ。
ともかく、呪文の解呪といえば、教会だろう。
こんな夜に解呪を請け負ってくれる場所があるかは分からないが……仕方がない。目に入った教会に転がり込む。
……ちなみに、今回かかった呪いというのは。
「20分毎に、足の小指をぶつけた程度の激痛が体に走る永続魔法」
である。早いところ解呪したい。そう思いながら、教会の戸を叩いた。
■フィオ > はてさて、なんともアンニュイな夏の夜もそこそこに過ぎた頃、こつこつと扉を叩く音がする。
こんなちっぽけで寂れた教会にやってくるとは。中々に物好きか、或いは何かしらの急患の類だろう。
シスターとしての職務に忠実ではあるものの、特段仕事が出来るわけでもない自分にどうにか出来ると良いのだけれど。
んしょ、と半液状化しかけてた気のする体に活を入れると、ぽてりぽてりと石床を進み、ぐい、と体重をかけて戸を開ける。
「はぁい、教会へようこそ。迷える子羊のために今宵も戸は開かれておりますよー?」
ふんにゃり、と言う擬音が最も似合うだろう脱力系の笑みを浮かべると、じぃと来客に視線を向ける。
身なりからするに冒険者だろうか。だとしたら病気か怪我か呪いか。ともあれ、まずすべきは。
「さぁさ、どうぞ中へ。あんまり涼しくないですが、外より多少はマシですよ」
蒸し暑いのは変わらないが、石のひんやり感が少しばかり暑気を和らげてくれるだろうと、礼拝堂へ通すことにする。
■クレイプニルス > 戸が開かれれれば、そこにいたのはプラチナブロンドの髪と青の瞳が麗しいシスターだった。
ややふにゃりとした笑みを浮かべているのは、寝起きだからだろうか?
まあ、ともかく。夜分に起こしてしまったかもしれない。
「夜分に失礼。神の家たる教会にこのような身なりで入ることをお許しください」
と、背筋を伸ばし最低限の礼を込めた言葉を発する。
ここら辺は、一応貴族であるためか、しっかりしなければという意識がクレイプニルスにはあった。
「はい。ではお言葉に甘えて……いててててててててて……」
と、ここで20分目の激痛が体に走りつつも、叫ぶのは夜分だからと我慢し。
「いてて、では、お言葉に甘えますよ……」
教会の中は気持ち涼しい。やはりこの国とはいえ神の家だからか。
ともかく。
「迎え入れてくれてありがとう。暑さと痛さで、本当にし……倒れるかと思ったよ」
死ぬかと思った。と口走りかけて、教会で使う言葉ではないと飲み込んだ。
そして、ふらふらと教会の中へ……
■フィオ > 冒険者。その身を危険にさらしながらも浪漫や一攫千金を求める者。或いはその腕っぷしのみで糊口を凌ぐ頼もしい存在。
人によっては粗暴な者も入るのだが、やってきた彼はその正逆に位置する風体だ。清潔感のある身なりと確かな礼節が見える。
ともあれ、人の事情に首を突っ込むのはみっともないし、余計なトラブルの引き金でもある。興味はあれど聞きはするまい。
「いえいえー、ふふ、誠実な方は神も快くお許しくださいますよー」
どの様な用事にしろ、神の力を借りて何かしらを施す必要がある。礼拝堂の奥に引っ込むと祭具の棚をごそごそ漁る。
引っ張り出してくるのは、掌ほどの大きさの古ぼけた銀の十字架。この教会では恐らく最も神聖な触媒である。
会話も出来るし、怪我にしろ呪いにしろ、しっかり治すのであれば神具が必須。見習いの拙さは道具でごまかすのだ。
「……ふむ、怪我ですかね?それとも呪い……?んー、妙な気配も感じますし、呪いっぽいですねぇ、はい。
あぁ、足、ですね。だとしたら、座ってて良いですよ。周りをぐるぐる回りますので、少々お待ちを」
患部と症状を確認したら、とりあえず木製の椅子を指し示して、足を寛げてもらうことにする。
一応魔力なり呪力なりの残滓を感じ取ることは出来るらしい。ポンコツといえども確かに神官なのだろう。
それから詳しい話を尋ねつつ、懐から取り出した聖水を周囲にぽたぽたと撒いていく。解呪の始まりはまず場の聖別から。
その内にほんの少しずつ痛みが和らいでいくかもしれない。神の力が呪いを弱めているのだろう、多分、きっと。
■クレイプニルス > 彼女が持ち出してきたのは、手のひらほどの銀の十字架。
昔手慰み程度に勉強したことがあるが、中々高い解呪触媒だったような。
まあとにかく。
「ああ、すまない。少々、ゴブリンシャーマンに足をやられてね……」
そう言いながら、示された木製の椅子に座る。やっと座れた……ここ三日ほど、歩きっぱなし立ちっぱなしだったのだ。
そして、周囲に聖水がまかれる。どうやら、場を清めるようだ。
なるほど、少々ふにゃッとしたシスターだったから心配もあったが、こういうことはちゃんとしているようだ。
「ふぅ……」
聖水による力で、ゴブリンによる邪悪な呪いの効果が薄まるのを感じる。
それは聖水の力と、場の力によるものか。
それとも、周囲を回るシスターの手際の良さによるものか。
「いい手際だね」
ふと、口に出てしまった。仲間内の冒険者神官とは違う。しっかりとした本職のシスターによる解呪の行程は、クレイプニルスの目にとっては手際よく映った。
「助かるよ。ここ三日、ずっと激痛が走ってね……睡眠も碌に……ふあぁ」
少し欠伸が出る程度に眠気が戻るくらいには、解呪の効果が出てきていた。
左の片目が、眠そうになっているかもしれない。
■フィオ > 少女自身はそこまででもないが、師匠はしっかりと修行を積んだ高位の神官であったのだろう。
教わった通りの所作をなぞった聖別の儀式は、未熟な腕前を持ってしても十分な効果を示すだろう。
とはいえ、師の様に今感じている痛みまで抜ける所までは達していないため、まだ少しばかり痛みもあるだろうが。
「――さて、後はこれをこうして……天におわします我らが神よ、悪辣なる呪を打ち破る力を……!」
儀礼剣を模す形で十字架を握ると、幾度か周囲を切るように素振り。剣印による儀礼空間の構築。
それから、神にその御力の一端を借り受ける奏上を成せば、後は聖なる力を宿した従事を振り下ろすのみ。
その切っ先の延長線上に彼の足が来る様に、呪いを切るイメージで振り下ろせば、ぱんと小さく呪力の弾ける音がする。
こうして、彼に施す解呪の儀式はつつがなく終わりを告げることになる。なお、内心では物凄く安堵しているのは秘密だ。
「……こほん、これでもう足が痛むことはないでしょう――おや、そういう事ならば、眠ってしまってもよいですよ。
今日はもう締めてしまう所でしたし、硬い長椅子をお貸しするのは恐縮ですが、何枚か布を敷けば多少はマシになるかもです」
眠たげな彼に気づけば、少女はぱたぱたと忙しなく動いて、非常に簡易ながらもベッドメイクを整える。
藁を詰めた革袋の枕を置き、木製の長椅子に少しばかりの藁を敷いた後、上から布を数枚被せて寝床代わりの場所を拵えて。
上にかけるものは下手に貸すよりも彼の外套をそのまま使ってもらうほうが良いだろう。こうして寝支度を終えたならば。
「ふふ、私は奥の自室に居ります故、ご用事の際はお呼びくださいな。ではでは、良き夢をー」
礼拝堂の入口にかんぬきを仕掛けると、後はそのまま奥へ引っ込んでいく。そのまま、夜は静かに更けていくはずで――。