2025/04/29 のログ
宿儺 >  
「助かった? 面倒…?」

相変わらず頭は良くはないらしい女鬼。
見知った男の言葉が何を差しているのかが理解らず首を傾げて。

「そうさな。最近は王国(こちら)におることが多いが。
 さて──何か用か? 知らぬ仲ではない、用とあらば急ごうか」

戦いでついた泥や血を落とす程度のこと。
元より然程も時間がかかるものでもないが。
舐め回す様な視線を気にした様子もないのはそもそも羞恥という概念を持たぬ故か。

影時 > 「お前さんが屠ってた奴らのこったな。
 ……オーガどもか?確か。どうにかして欲しい、とか依頼が出てたのよ」
 
頭の悪さ云々までは、とやかく言うつもりは無い。一から十まで察しろでは世の中は回らない。
ああだこうだと自分の事情を細かく言う必要はない。結果として、面倒が減った。その点を述べれば良い。
歯応えのある戦いに挑むか、若しくは如何にして頑強な敵を屠るか。
愉しみながら仕事をこなせれば万々歳だったが、その点拍子抜けではあった。だが――。

「然様か。まァ、八卦山もひょいひょい行くには、だからなぁ。
 急用、というほどでもないがね。
 獲物として考えるなら、それ以上となりゃぁ下手に躊躇う故も無ェなあ……一丁、付き合え。勝ったら酒をくれてやる」
 
肌が露わであれば、改めて骨相、肉付き、そうした視点から鬼の構造、急所といったものを勘案し易い。
助平な欲も?無いわけではない。鬼の肉孔を穿ったら、どういう手応えがあるのだろうという率直な欲動と。
だが、自分たちの間柄でとなれば、それよりもまずはな事は幾つもある。
さァて、と。襟巻を引き上げ、口元を隠しながら腰掛けた男が立ち上がる。
だらりと両手を下げ、目を細めつつ呼吸を整え、氣を練れば――ばちり。微かに紫電が指先に閃く。

宿儺 >  
「呵々、なるほど。
 しかし連中の相手は、我でもそこそこに骨が折れたぞ?」

嗤いながらそう返す。
あんな場所に並の冒険者が訪れては、単なる餌食であろうと。
もっともこの男は"並"ではないのだろうが。

「―――ほう」

しかし話が思わぬ方向へと流れれば、にたりとその顔に悪い笑みを浮かべて。
この洞窟は広く、水浴みをする泉もあるなかなかの物件。そこに酒を運んできてくれるとは。

「良かろう♪ さっさと殴り倒して、酒盛りといくか♡」

その場に落ちていた襤褸布を雑に羽織り、ギラリと眼光が迸ればm罫線─周囲に浮かべていた鬼火が倍ほどに膨れ上がり、洞窟内を煌々と照らす──。

そんな中、口とは裏腹に先手は譲ろうと言わんばかり、どしりと構えたまま、動かず──。

影時 > 「ははァ。……ふむ。そうなると、真面目に真っ向勝負なンぞしてりゃ面倒だったろうなぁ」

本来、想定される討伐対象の厄介さを女鬼の言葉から勘案する。
そもそもオーガという時点で、単独だと木っ端扱いされがちなゴブリンより戦力的に勝る。
巨躯を誇る魔物の討滅、討伐とは、特に真っ向勝負を余儀なくされる場合、面倒さが膨れ上がる。
並の冒険者を数人集めるだけでは、埒があくまい。
気配を殺し、背後から、あるいは天井より急所を一突き――と、軽く云える手段ではない。

「おうおう言ってくれやがって。
 俺が勝ったら、そうさなァ。……一発ヤらせろや。お前さんのハダカ見てるとどうにも滾りよるわ」
 
女鬼の釣り方、その気のさせかたは心得ていると言っていいのだろうか。
雑嚢が繋がっている倉庫には、仕入れたばかりの酒樽が幾つもある。
最終的に全部となると痛いが、振る舞うと言えば大体乗り易いのではないか、と思うほどである。
とは言え、大盤振る舞いするだけの価値はある。そう思える強者とは、貴重な酒と同じかそれ以上に希少な昨今だ。
(ボウ)と膨れ上がる鬼火が、洞窟の中を闘技場に仕立てるとばかりに、煌々と照らし上げる。
その眩さに目を細めつつ、呼吸を巡らせ、氣を高める。だが、その気配は外に漏らさない。
覆面代わりの襟巻きの下から放つ言葉は本気か、戯れ言葉のつもりか。

「――疾ィィ、ッ……!」

どちらでもある。無きとするつもりはない。先手を譲るつもりなら遠慮なく、とばかりに身を伏せ、地を蹴る。
一息に間合いを詰めつつ、右手を振るう。腰の刀は――まだ抜かない。先手は文字通りの“手”だ。
呼吸を通じて練り上げた氣を掌に集め、硬質化させた掌と爪による抜き打ちじみた一閃で鬼の胸元を狙い切り上げる。
抜き打ちめいているのは、右掌を腰の刀の柄の位置に置いたことにもよる。
抜刀術なる技を知っていれば、見ていればそこから予見するかもしれないが、刃ではなく()が出るとは思うまい。

宿儺 >  
「俗な物言いよの。──ま、わかりにくいよりは良かろ」

己の裸身が他の者にど映っているかなどさしたる興味もなし。
しかし先刻相手をしたオーガも戦いの最中というのに魔羅を膨らませていたか…などと思い出す。
雄などそんなものやもしれぬ、と腹の中で納得するのだ。

「疾いな!!だがその程度ならば視えるぞ!?」

地を蹴り、疾風の如くに迫る。
鬼の反射神経はしっかりとそれに反応し、同時に前へと出る。
そうすることで互いの射程距離、そして動くべき間合いにズレが生じる…などと女鬼が理解し動いている筈はない。
億千の闘争経験、そして…相手が何をしてこようがどの道、前に出て圧殺する以外の戦法を持ち得ない故の前進である。

当然、相手の切り上げなど意にも介さず拳を振り上げ───真っ直ぐに振り降ろす。
氣を纏った一閃は胸元の襤褸布などなきものとし、女鬼の浅黒の肌に傷を残すには十分か。
しかして、それでも振り降ろす拳の一撃は止まらない───。

影時 > 「俗人離れしてるつもりは無ぇぞう。
 とーはいーえ、せっかく取っておいた酒をただで呉れてやンのもちぃとなぁ?」
 
ヒトと鬼の価値観が同じではない、合致しないのはよくよくわかっていることではないか。
なまじヒトのナリに似ている分だけ、欲が起こるのは勘違いも甚だしい了見ではないか。

――考えるだけバカバカしい。

偶には強い女を打ちのめし、雌として組み敷く悦もまた一興だろう。結局はそれだけだ。
何度挑むだけ、戦うだけの価値は、貴族どもがかけた賞金で保証されている。
金はあればあるだけ越したことはないが、強敵とは唯々金銭だけでは購えない。代え難きものだ。

「力自慢はお前さんに譲ってやる。
 そうかそうか、見えるか! 成ァる程!……であれば、まだまだ速く出来るってこったな!!」
 
己を超える膂力自慢の忍者も昔戦ってきた中で、幾人も居た。
単純な暴力任せの敵に同じ暴力で張り合うのは、安直が過ぎる。弱敵と戦うばかりでは、技量を保つ程度にしかならない。
故にこそ戦う機会を得やすい強敵とは、それだけでも価値がある。
氣を篭めた手刀が確かに襤褸布なぞ意に介さず、切り裂く。手応えがある。だが、それだけだ。
この対敵を深く深く切り裂くには、やはり鋼鉄を以て当たることが一番間違いない。

それを思い知りつつ、振り下ろす拳の風圧に飛び込むように踏み込む。
振り抜く右手を伸ばすように女鬼の左手側をすり抜け、地に掌を付けながら前転。当たれば圧殺必至の拳を躱すのだ。
すぐさま身を起こし、片膝をついた姿勢から引き戻す右手が載る先はひとつ。

「ひゅ、ッ……!」

左腰に差した刀だ。膝を伸ばし、振り向きざまに今度こそ抜き打つ刀が虚空を裂く。
切先に充ちる氣が刃風と成り、敵の右腰から左肩にかけてを一気呵成に切り上げる斬撃として飛ばす。
会得した剣法によると、荒風(スサカゼ)と呼ぶ技だ。刀の鋭さと長さを篭めた威力は手業の比ではない。
だが、その程度では終わるまい。離れたならば寧ろ近づくことこそが肝要とばかりに、目まぐるしく再び踏み込もうか。

宿儺 >  
襤褸布がほつれ、豊満な乳房が躍り出る。
羞恥に意を殺される少女であれば勝負もついていただろうが。
女鬼といえば切り裂かれた己の胸元に笑みを零す。
なまくらな刀程度通りもせぬ肉体に傷をつける。
識ってはいたがやはりこの男は強い、と。歓びのほうが勝ってしまうのだから。

「くく、力自慢は譲る、か? 良いことを教えてやろう」

「力が強ければ、地を蹴る力もまた強いぞ!」

刀を構える男に向けての突進。
言葉の通り、地を蹴り砕き奔る女鬼の五体は疾風と化す。
太刀の風をその身に受けようが怯まず、紅を纏った血風となりて襲い掛かる迄。
そちらもまた踏みこむのであれば好都合。寄りては蹴り砕く剛脚一閃。人の身など軽々と分断する様な暴威の一撃。
相手が死んでしまっては酒がどうこうの話もないのだが──、一度闘争に興じてしまえば細かいことに頭などまわらない。

影時 > 着衣が切り裂かれる――程度で怯む、という考えは心得違いも甚だしい。
そう云う乙女が鬼のような種で現れるや否や?
現れるかもしれないし、そうではないかもしれない。否、否、それ以前の話だ。
その程度で怯む手合いならば、此処まで強くなるとも、封じられるようなものにはなるまい。
なまくら刀では通らぬ肌身はさながら、鉄のよう。
であるならば、鉄を斬るように刀を振るわねばならぬ。そうした剣術もまた、故郷では必要だった。

名だたる将、侍が纏う鎧は色々だが、古式ならば術者が念を篭めた小札を綴ったものがあり。
当世に至っては、南蛮渡りの板金鎧に倣った堅牢に練り上げた甲鉄仕立てもあるのだから。

「――ッ、ぉ!?」

踏み込めば、相手もまた踏み込む。躱すか退くか。刹那の判断を赦さぬとばかりに女鬼の論が押し寄せる。
男の速さは培った技もあるが、重々しい防具を極力排していることにも由来する。
所以はどうあれ目方が重いならば、重いなりのやり方は当然ならばある。その目方が筋骨に由来するならば、遣り方は単純至極。
その実演こそがまさしく剛脚一閃。技量も伴わぬナマクラは蟷螂の斧にも劣るとばかりに叩き伏せる暴力の具現。
なんの、とばかりにその蹴り足に振り抜いた刀を合わせ、踏ん張り。

「は、ッ、道理にゃ違いねぇが、よう――何度も戦ってるなら、受け凌ぎ方を凝りもする、ってものよ……!」

運動力と相俟って鉄槌も同然な蹴り足と、刀がぶつかり合う。ただの刀ならばこれだけで折れる。
蹴り足にしっかりと刃を立て、打ち込みつつ地を蹴り下がるならば、直撃よりは遥かにマシにはなる。
単に力には力ではなく。剣速による運動力を合わせ、目減りさせる。
それでも尚、生じて余りあるぶつかり合いは、着衣を幾重にも切り裂き、身を軋ませる。

だが、そうだ。こうでなくては。そうでなくては。生きてる甲斐がない。

――身を削るような強敵こそ、やはりこの世には何よりも必要なものだ。
間合いを取りつつ、そんな実感を今も重ねて得ながら呼吸を巡らせ、口の端を釣り上げよう。

宿儺 >  
「む…!?」

女鬼の表情が曇る。
蹴り込んだ脚を刃にて留める。
似たことは過去幾度もされたことがある──が。
よもやまさか、その身が折れず曲がらずどころか、女鬼の脚に一本の刀傷を手向けていた。
肉よりも遥かに頑健な骨格にてその刃を阻むも、その蹴り足からは赤黒い血が滴っていた。

「…そのような細身で我の蹴りを留めるとは」

如何に鋼で造られようと女鬼の眼には薄ペラな刃にしか見えはしない。
一撃の下、叩き折れて当然と思っていたが故の驚嘆か。
その面に笑みまでも貼り付けている男を見やれば、女鬼もまた嗤う。

こういうヤツであったか───と。

幸い洞穴は広い。
多少本気で暴れたところでどうこうなりはしないだろう。
沸き立つ闘争心に応えるかに、亜麻色の髪が揺らめく。
買ったら酒を、などという約束事はすっかり意識の外へと追いやられている。

「些かも不足なし!参るぞ、影時──!!」

浅い傷なぞ動きを鈍らせるにも至らない──愉しげにそう吠える女鬼は再び地を蹴り、男の目前へと躍り出る───。

ご案内:「洞窟(過激描写注意)」から宿儺さんが去りました。
影時 > 凌ぎ方の工夫も出来なければ、如何に強靭に鍛えられた業物とて折れる。
こんな馬鹿野郎に任せてられるかい――等と、制作者たる女刀匠からどやされること疑いなしだ。
刃の横、鎬で受ければ折れるのは疑いなしならば、刃を正確に立てることが肝要。
単なる人型の敵と思うな。それ以上のものと思え等と、したり顔で宣う程度までは容易い。
問題は、その認識を踏まえて、相応の対応、構えが出来るか否か。

――出来る。出来るからこそ今まで生きてきたし、そうでなければ木っ端同然に死ぬ。

「鬼殺しならぬ龍殺しの刃だ。
 ……そんな大層なものを預かってこン位出来なきゃ、とうの昔に死んでる処に居たんでな」

純粋な鋼かもしれないし、ただのハガネではないかもしれない。
龍は龍でも、どれほどの規模の想定であったか。その格、規模等、諸々は聞き及んでいる。
しかし、正しく使えなければ、刃が負う使命云々も関係なく女鬼のチカラは、木っ端よろしく叩き折ろう。
男ほどの剣士、使い手でなければ、己がままに振るえない。武の器足りえない。
刀刃は使い手に抗議するように震えながらも、毀れもなく鬼火の光を受けて冷たく、妖しく輝く。

さぁ、どのように斬ろう。如何様に抗えるか。
忍びよりも一介の剣士としての技量を、此処では問われる。小賢しさなぞここでは相応しくない。
結局、勝とうが負けようが酒をふるまうのは、自分たちの在り方を思えば、眼に見えている。

「おうともよ。来やがれ、宿儺ァァ――!!!」

身の軋み程度で、心魂の滾りは萎えず、衰えない。
咆哮を重ね、刃と四肢をぶつかり合わせる。今ここでどちらが勝ったのかは――二人のみぞ知る。

ご案内:「洞窟(過激描写注意)」から影時さんが去りました。