2025/01/17 のログ
■宿儺 >
満身創痍の女鬼の歩みは仕方なくも鈍い。
巨躯の鬼が跡を辿るのであれば、程なくして薄暗い遺跡の壁際に身を預ける女鬼の姿を見つけることが出来るだろう。
「──?」
呼気荒く、辺りから敵意ある魔物の気配が遠ざかってゆくことに違和を感じながら、
ずるずると一旦その場へと、身を崩しへたり込んで。
襲い来る魔物がいなくなったのであれば、少しでも回復に努めるべきという頭はあるようだった。
■羅獄 > 「…………ほむ、近いの。」
鼻を鳴らす。 匂いが強まった。
歩む速さは変えぬ儘だが、先を往く雌鬼が止まったならば、距離は迫ろう
程なくして、雌鬼の耳にも届く程、明確に足音は響き始める。
同時に其れが、小鬼の其れとは違う匂いを纏う事も。
――間を置き、視線の先。 見つけたのは雌鬼の姿。
状態は、凡その推測と相違無さそうだ。
一度その場を離れた小鬼たちも、成り行き次第で隙あらばと
未だ、雌鬼を狙っては居るのだろう、が――意にも介せず。
「おっと、此処に居ったか。
……随分とまぁ、小鬼に手を焼いたようじゃの。」
掛ける声と共に、ぺた、ぺた、草履の音が響く。
姿を見せる巨躯が、へたり込む雌鬼の前に、ゆっくりと近付いて行き。
――その前に、屈み込む。 其の消耗が、どの程度であるかを観察する様に。
■宿儺 >
薄暗い中、更に色濃い影が覆い被さる様に目の前に現れる。
「──、おお。なぜ貴様がこの様な場所におる…?」
その損耗具合は十分に見て取れる程。
全裸に剥かれ、肉体のあちらこちらと傷つき、股座からは凌辱の証が見て取れる。
散々な目にあっただろうことは明らか、だった、が───。
「が…此処で出逢うたが百年目よな……!!」
牙を剥きて笑い、雪辱に燃ゆる翠の眼がギラつく。
まともに動かず、小鬼相手にすら手間取る様を見せていた女鬼が片膝を立て、力を漲らせ立ち上がらんとしていた。
■羅獄 > 「何故も何も、ぬしの匂いを拾ったからのう。
こんな辺鄙な所で香れば、そら興味も湧くじゃろ?」
何故も何も、寧ろ其れを聞くのは己の方であるとばかり
女が残して来た数多の痕跡を、――説明はせずとも、自覚は在るだろうと
そう解答しては、立ち上がらんとする其の姿に、おぉ、と感心した様な声を零した
如何見積もっても満身創痍であろうに、其処で闘志を漲らせるのは流石
流石の己も、手負いの相手に後れを取るとは思えぬ、が。
――せめて其の意気くらいは、応えてもやろう。
「ぬし程に気骨の在る連中が、もう少し居れば楽しめると言うにのう……。」
ゆっくりと、自らも再び立ち上がる。
――果たして、雌鬼の身体は付いて来るのか。
立ち上がれたとて、真っ当に動けるのか、其の様を見守る様に眺めては。
――むしろ、雌鬼の其の戦意を、愉快気に待つのだ。
■宿儺 >
この場においては使えぬと踏んでいたが、
目の前に仇敵が湧いたとあっては話は別。
「呵々、鼻の効くことよ…。
──此奴を使うと一々霊山まで戻らねばならぬからな…幾日かの雪辱を果たさせてもらうぞ」
瞬間。
迸る様な翠の雷が女鬼の額から伸びる両角から奔る。
腹の奥底に一滴まで妖気を喰らい、頑強を極めた鬼の肉体が自壊する程の出力を迸らせる。
翠の雷を纏い、亜麻色の髪が雷針が如き尖り立つ──見た目通りの、最強戦闘形態
満身創痍に瀕した肉体を無理矢理動かすことなど、造作もない。
「ガアッッ!!!」
咆哮と共に放たれた雷光一閃。
迅雷の如き速度で放たれた蹴りは、女鬼の肉体自体が雷を化したかの錯覚を誘う程の速度で、巨躯の鬼の胴へと放たれる。
■羅獄 > 「くはは! わしの鼻も、まだまだ壊れてはおらんからのう。
しかし――ふむ、少々詫びねばならんのう、宿儺の姫よ。
さしものわしも、ぬしの事を少々舐めておったのう…!」
けらりと、戯言めいた紡いだ最初の言葉とは反して
後半の言葉は、心底驚いたとばかりに、心根から雌鬼に対して紡がれた。
手負い? 否、そんな評価を下した先刻の己を、全力でぶん殴ってやるべきだ
己が目前で、己との闘いの為だけに、躊躇無く死力を尽くさんとした一匹の鬼
其の――神々しさすら垣間見せる、文字通り"雷神"と呼ぶべき姿を目前に
――己の口元は間違いなく、綺麗な弧を描いて居た筈だ。
「――――――ぬ、ぐぅ……!!!!」
胴に放たれる蹴り。 元より、竜の首を撥ね飛ばす膂力の蹴りである筈だ。
己は其れを受けた事も在る。 だが――其れよりも、比べ物にならぬ程、疾い。
至近距離、まともに受けた其れを避ける間もなく、まともに受け止めれば
其の衝撃で、対面の壁へと吹き飛び、叩き付けられて砂煙へと包まれよう
がらんごろん、と、腰から落ちた大瓢箪が、雌鬼の足元へ転がる音
――一瞬の静寂、暫しして。 瓦礫を撥ね飛ばす豪放な音が響き。
砂煙の中、鬼が、相対する。
「――――――………詫びじゃと思いねえ。
久方ぶりじゃの…、……腰骨が、拉げるかと思うた蹴りはのう…。」
先刻の蹴りが、通って居ない訳では無い。
事実、ぶち当たった脇腹の辺りには、鋼を裂いたかのような裂傷が刻まれて居る
雄鬼が、血を滲ませた所なぞ、相手にとっても初めての光景で在ろう、だが
―――先刻までとは違う。 明らかに隆起した全身の肉と、体躯。
頭部に生えし四本の角が、冠の如くに露わと為り
纏う覇気は、瓦礫から踏み出し、一歩、また一歩と雌鬼に近付くにつれ、膨れ上がる
其の姿もまた、雌鬼は知って居る筈だ。 其れに、かつては、為す術なく敗北した事も。
■宿儺 >
「フゥゥゥッ………!!」
眼光すら稲光と見紛わんばかりの変貌。
古のシェンヤンの同士達が施した鬼への封印はまだその身の力を縛っている。
──にも関わらず、放たれている力は全盛のそれと遜色なき破壊の力。
不完全な状態では、秒単位で肉体が破壊されゆく。
しかし其れよりも…女鬼は目の前の巨躯の雄への勝利を優先した。
「く、呵々っ。その身、微塵に裂いてやるぞ、羅獄の童子よ…!!」
闘争心を剥き出しに、薄暗い遺跡の中を煌々を翠の稲光に照らしあげながら。
再び奔るは、迅雷。
その身を雷が如くに変えての猛襲。
元より長く続かぬことは覚悟の上、覇気と筋骨に覆われたその雄の体躯を真正面から微塵に砕かんと襲いかかる。
拳骨、蹴り、爪撃──力任せに放たれるそれらのどれもが、一撃必倒、被弾を顧みず放たれる乾坤一擲の連撃である。
かつて敗北したからこそ、この様な再会をしたからこその背水の陣。後先など考えぬ闘争欲の化身───。
■羅獄 > ――――嗚呼、永くは持たぬのであろう。
異様なる程の力を振るいながら、しかして、其の力に雌鬼の肉体が耐えきれぬ
否、何かが雌鬼の力に、尋常ならざる枷を嵌めているのか。
……それすらも、この一瞬の為に無視しようと言うのだから見事也
放たれる蹴りに、拳に、"構える"
構えた事なぞ、果たして何時ぶりの事であろうか
そうでなくば、例え己が肉体とは言えど無事では居られぬ
こうまでして己に挑まんとした雌鬼に対する、最大級の賛辞に等しかろう
技では無い、ただ、正面から打倒さんと放たれる其れを
腕で受け、足で受け、皮膚を割かれ、削られて行くに任せて受け止める
上から降る蹴りを受ければ、両脚が床に減り込み
横薙ぎの蹴りを受ければ、巨躯が傾いで横滑る
拳が減り込めば、其処に拳骨の痕すらもが刻まれて
爪は間違いなく、鋼の肌を割いて、血潮の気配を香らせる
嗚呼…愛しき痛みだ。
此処にまで至った、同胞たる鬼の存在に歓喜しながら堪能し
其れを、永く味わえぬ事を惜しみながら
されど、耐えるばかりの木偶では、其れほどに勿体無い事も在るまい
間断なき連撃の、隙間を縫う事すら出来ぬならば、己もまた、肉を断たれる肚で拳を振るうだけの事
「―――――――やれる物ならば、やって見せい、宿儺の姫よ!」
――拳が、雌鬼の拳へと放たれる。
一撃では無い、己からも何発も、雌鬼の、止まる心算の無い連撃に応えるように
自らもまた、其の剛腕を持って雷光を撃ち落とさんとするのだ
腹か、胸か、脇腹か、顔面か。 何処に当たるかなぞ判らぬ、当たれば何処だって構わぬ。
其れは、まるで喧嘩。 他の何人もが介入出来ぬ。
鬼同士にのみ赦された――至高の、大喧嘩だ。
■宿儺 >
雷光と衝撃波が交差し、炸裂する。
遺跡自体が振動するかの様な攻防が幾度も続く。
軽い攻撃など一つ足りと在りはせず、その全てが必殺の威力。
しかして雷神の如く荒ぶる女鬼の肉体はその力に耐えきれず、自壊して往く。
蹴り込んだ脚の太い筋骨から、弓が如く引き絞られた拳を放った腹の筋から、
筋繊維が引き千切れる様な音を自らの耳で聞きながら、鮮血を舞わせながらそれでも攻防を続けてゆく。
己に降り注ぐ攻撃の全てを己が拳足で撃ち落とし、攻撃がそのまま防御となる攻めの一辺倒。
やがては拳すらも血風を纏い──初に見た、満身創痍の姿もさながら、より血に濡れながら。
「くくっ……、こうで、なくては……!!
貴様に、言われるまでもない!!!!」
限界が近いだろうにも関わらず、闘争が、肉体を打つ応酬が何よりの娯楽であると高らかに嗤い叫ばんばかり。
最早、自身でも己の肉体の限界など意識すらしていないのだろう。
幾度も巨躯の鬼の拳と叩きつけ合い、砕けかけた腕を振り被り、更に渾身の、落雷が如き一撃を叩きつけんと振り下ろす──!
■羅獄 > 自壊して行く雌鬼の身体とは裏腹に
雄鬼の肉体からは異様な程の蒸気が昇り立つ。
鋼が、熱して行く様に。 其の肉が血が、異常な迄の熱量を発して居る証。
雷光が奔り抜けた場所から血が余り滴らぬのは
裂けた傷跡が、其の儘雷に焼かれて居るのと、尋常ならざる筋繊維が
出血を押し留めて居るのと、両方が要因であろうか
拳法だのと理知的な技なぞ、此処には存在しない
只管に、思うままに拳を蹴りを振るい、其の先に在る物こそを求め
刹那の闘争にこそ、求め焦がれ、渇望した充足を得るのだ
所詮は鬼、己も、雌鬼も、同じ穴の狢なのだから。
雌鬼の拳が左胸へと減り込み、身体が傾ぐ。
其れを無理やり、肉体の頑健さだけで建て直せば、放たれる乾坤一擲に向け
自らも拳を固めて、一歩、敢えて更に足を踏み出すのだ。
受ける事など微塵も考えぬ。 避ける事など、愚の骨頂だ。
遺跡の床も壁も、この大喧嘩で原型を留めぬ程に損壊しては
何処かで天井の一部が崩れた気配すらある、が
そんな些細な事は、今は。
「ぬぅ……! っ……が……!!」
顔面に、こめかみに。 雌鬼の振り下ろした拳が確かに、ぶち当たった。
一瞬、歪んだ木造りの人形めいて、雄鬼の動きが一瞬止まる
だが、次の瞬間、拳の下、雄鬼の眼光が、雌鬼の顔をぎらりと見据え
構えた拳を、返す刀、渾身の力を持って――――
「――――――我が名は羅獄…、……鬼神、羅獄よ……!!!」
振り上げる、拳。 其の一瞬、雌鬼の視界で、四本の角が、蒼き焔を帯びる
皮膚が、肉体が、暗き青みがかった色合いへと変化し
鬼としての、異形の姿を発露させる。
――かつて、災害とまで呼ばれし鬼神の姿を、再び。
時間切れなど赦さぬ。 雌鬼が、其の力を、途切れさせぬ其の内に。
雌鬼が、己と等しい、鬼神である、其の内に。
―――決着を、果たさんと。 其の胴に、焔纏う拳を、叩き付け返さんと。
■宿儺 >
まだ倒れぬ。
雨程に拳を浴びせ、嵐程に乱撃を見舞う。
一撃一撃が、生命を魂ごと砕かんという程の猛撃。
自身以上に頑強な肉体、滅ぼすには、まだ足りぬかと笑みが深まる。
自らの肉体の限界など最早思考の片隅にもない。
そうして放たれた、乾坤一擲の一撃。
確かな一撃は巨躯の鬼の身体を揺らがせる。
手応えアリ、しかし標的滅さず。
為れば、もう一撃。
駄目押しにその鮮血滴る両腕を組み上げ、叩きつけんと振り上げる。
「────!?」
しかしその無防備となった胴を捉えたのは──蒼く燃え盛る拳。
それは女鬼の嵐が如き猛撃を留めるに十分、そして───。
「ゥ゛、ごあ゛────」
自壊寸前の女鬼の肉体を破壊するに、十二分たる威力。
堅牢な腹筋を貫かれ、くの字に折れ曲がった女鬼の肚から返るのは、衝撃によって肋が砕け、臓腑を押しつぶしその奥の野太き強靭なる背骨まですら圧し折る──確かな感覚。
数瞬の交差、振り抜かれれば巨竜の尾撃でも受けたかの様に女鬼の身体は跳ね飛ばされ、背後の遺跡の壁へと深く埋め込まれることとなろう──。
「───、ぅぐ、ふっ……」
ごぼり、と赤黒い血を口から吐き零すも──、瓦礫から這い出し、未だ闘争の灯の消えぬ眼光が巨雄を見上げて。
■羅獄 > 間に合った、と、言うべきだろう。
もう数種んでも時間を赦して居たら、恐らくは――雌鬼の肉体の方が
其の力を御し切れず、壊れて仕舞って居た様に思う
拳に宿る焔は、魂火の如くに揺らめきながら
吹き飛んで行った雌鬼の元へと向けて、ゆっくりと歩みを進める
雌鬼が、自力で瓦礫から這い出した頃
其の眼前に佇む雄鬼は、かつて見せた事のない程に傷に塗れ
かつて見せた事の無い程に、其の血肉に熱を宿して居たろう。
それこそが、鬼神たる姿。 雄鬼の、かつての姿に他ならぬ。
「――――……それでもまだ、瞳に光を宿すか、宿儺の姫。
……否、否。 ……わしと同じ、雷の鬼神よ。
惜しむらくは、ぬしの其の姿が、戒められておる所だのう…。」
本当に。 心から其れが惜しまれる、と。
零す様に告げれば、片腕が雌鬼の両手首を束ねて掴み、其の身体を持ち上げる。
腰骨が完全にへし折れて居る以上、下肢を動かす事なぞ出来ぬであろう
鬼の強靭な治癒力だ、充分に身体を癒せば問題は無かろう、が
後先考えぬ力の行使に、己が渾身の一撃、易々とは行かぬ
「天晴だのう。 余りにも楽し過ぎて、年甲斐も無く興奮が収まらなんだ。
まるで、気分は若鬼だの。 それにしても、良き拳に、良き蹴りであった。」
片掌が、雌鬼の頬に触れ、其の顎先を軽く上向かせる。
血を吐いた唇を、まるで紅でも塗る様に、其の血を広げて飾れば
くつくつと哂いながら、雌鬼を吊り上げつつに――額を寄せ
ごつりと、互いの角同士を、ぶつけ合おうか。 ――雌鬼を、其の強さを、認めるかに。
■宿儺 >
闘争の意思こそ消えねど、
体幹の要が圧し砕けてはさしもの女鬼も肉の力だけでは立ち上がること適わず。
諸手を捕まれ、蓑が如く吊り下げられる。
自壊による損傷も加え、より朱に彩られた浅黒。
穿たれた肚は堅牢な形を見事に拉げ、腹の中で爆ぜた臓腑が、口からだけでなく、股座からも鮮血を零す痛ましい姿。
されど眼光だけは眩いばかり、惜日敗けた相手とて、己が出しうる全力を砕かれては口惜しさも一潮だろう。
「──、呵々。
我の力を縛る、古の僧の呪いがなかなかにしぶとくて、な…」
ごふ、と喀血を交えつつ、応えはするものの、その肉体には帯電の残滓が僅か残るのみ。
ここが限界、と目に見えて明らかな状態だろう。
「───。」
ごつ、と互いの角が触れ合う。
投げかけられる言葉も、女鬼を認めるかの、雄の言葉──しかし。
「──次は圧し殺す」
讃えられようが、死に体であろうが、口零すは純然たる闘争の権化。
■羅獄 > 「―――――其の意気や良し。」
何時も、そう言っている気がするが。
にいと笑い、其れから、ゆっくりと歩き出す。
倒れずに何とか形を保っていた石壁を、片腕で、ぎい、と押し倒せば
其の上に、雌鬼の身体を横たえて遣り
辺りを見回し、落ちていた大瓢箪を見つけて拾い上げれば
其の栓を抜き、注ぎ口へと、傷を負った己が指先を添えて、雌鬼の口元へと傾け。
「煽れ。 臓腑は焼けるが、今更痛みも何も無かろう。
裾分けだ、わしの霊気が在れば、傷の癒えもましになろうからの。」
鬼神たる己が血交じりの、酒精。
底を尽いた雌鬼の霊気を、満たすには至らずとも、僅かは与えられる。
気付けの様な物だ、と、そう告げて、飲ませようとするが。
もし、咽頭を揺らす気力が無ければ、自ら煽り、口移しで流し込んでやろうと、すら。
何れにしても、其の姿で遺跡から出る事は叶うまい
今宵出会った時よりも、圧倒的に満身創痍が度を越したなら
今は何処かに消えた小鬼にとっても、都合の良い餌であろう
――それは赦さぬ。
■宿儺 >
口は出ようと手も足も出ず。
されるがままに身を横たえれば、寄せられるは酒精。
「────、ッッ…‥!! …かは…っ……。
……敗けた後の酒など美味いモノではないな……」
潰れた腹の内が灼けるようであった、が。
勝者の振る舞いを敗者が拒否しようもあるまい。
赤黒い血に濡れた口元を注ぐが如く酒精を呷れば、ごほ、と咽ぶ。
「──……」
辺りから、様子を伺う小鬼どもの気配を感じる。
中には、雌を狙う豚鬼や巨鬼などの遺跡の魔物の気配も交じるか。
……この遺跡から出ようというよりも喧嘩を優先したのは流石に浅はかであったか、と冷え始めた頭はそんなことを思う。
「っく……、はァ……。
しかし、鬼神か……我がかつての全盛であっても、どうであったかわからんな…在れは」
鬼、という広くも同種であれば、雄と雌の大きな差か…と悔みもする。
かつての里では、自分に張り合える雄など数える程だったというのに。
■羅獄 > 「不味い酒も煽ってこそ、勝利の美酒も酔えるもんじゃろ。
くかか、叩き伏せたらまた手籠めにしてやろうと思っとったが…。
……流石に、胎を避けて殴る程の余裕は無かったのう。」
咽る相手を尻目に、己もまた酒を煽る。
逆に己にとっては、格別に美味い酒、と言えるのだろうか。
次第に、纏って居た焔が薄れ、肌の色も元の気色を取り戻す。
――――鬼神であった姿が元来であるとすれば
寧ろ今こそが、変じて居ると言えるやも知れぬが。
雌鬼の身体に、消毒も兼ねて酒精を零し、血を洗い流して遣れば
瓢箪の栓を閉め、こん、と床に置き。
「―――なぁに、ぬしとわしでは、生きた環境も違う。
わしは、喧嘩よりも殺し合いの方が多かったからのう。
人間どもが、鬼とみるや、血相変えて討伐に来る時代じゃ。
そんな時代に、食い散らかしていた分の差であろ。」
――むしろ、雌鬼で其の域に至る事の方が、余程に驚きだと
告げて、雌鬼の隣に、どっかと腰を降ろす。
体躯に刻まれた、雌鬼の与えた傷の数々は、今なお残り
其の拳が、届いて居なかった訳では無い事実を物語る。
「わしは、今本気で愉しみだからのう。
わしに届くとしたら、ぬしの様な鬼じゃと、勝手に思うとるよ。」
世辞、では無い。 本当に、そう期待して居るのだ。
■宿儺 >
「──腹を気遣うタマか貴様」
そう口にする女鬼はやや恨めしげな目線。
それはそうだろう、胎を避けて殴ろうが殴るまいが、
手籠めにするのであればどのみち腹が爆ぜんばかりの魔羅で穿つことになるだけである。
「…さて、生まれや時代を理由に勝てぬとは、
鬼の口からは言いたくはないがな」
口惜しげな言葉はありつつも、宿儺の声色もどこか晴れやかである。
出し切れる全ては出し切った上での敗北は、ある意味心地よくもある。
それがまた、腹立たしいのではあるが。
「ぐ…ぬっ……ふぅ………。
その様な言葉を吐きつつ、神出鬼没ではその首を狙うのも一々苦労ではないか」
苦しな声を漏らしつつも、上体を起こし、その場に胡座を修める。
身を隠すものなど何もないが、羞恥の類をまるで持ち得ていないのは相変わらずか。
■羅獄 > 「なにを、わしとておなごの胎ぐらい気を遣う頭は在るわい。
流石に胎が潰れとっては、愉しめるものも愉しめんからのう。
それとも何か、気を遣う位なら抱けと言う意味か?」
物は言い様である。 高揚感と満足感の両方が、未だに肚を漂い。
其の内で、満足感の方を取って、大人しくして居ると言うだけの事。
身体を起こした隣に視線向け、鍛え抜かれた筋繊維のみで背を立たせる姿に
余り言うと、潰れた胎でも孕ませてやるぞと、笑いながら言い放って
「強さは積み重ねじゃろ。 ぬしの其の強さも、ぬしが積み重ねた物。
わしの方が、ほんの少し、人よりそれが多いだけでのう。
……、…だが、そうだの。 ぬしが望むなら、居所を判り易くしてやっても良い。」
鬼とは、自由気ままな存在だ。
ひとり者が、何処か一所に留まり続けるのは稀であるし
己だけではなく、雌鬼とて、同じで在ろう。
……だが、もし雌鬼が、其処に不満を持つのであれば、だ。
自らが今いる遺跡の、この場所、この空間を。
己が、一時の塒と定めても構わぬ、と。
そうすれば――用件を伝える事も、顔を合わせる事も、容易くなろう、と。
■宿儺 >
「良いように捉えるヤツめが。色事に然程興味はないわ。
しかしまぁ…里には褥を好む女鬼もいるにはいたか…」
戦狂いであったため鐚一文理解は及ばなかったが。
酒に狂うもまた鬼の有様。この雄の生き様もまた鬼らしいと言えるのか。
「一々ここまで降りるのは適わんが…直つの洞穴でも穿ってしまうか。
──まぁ、何にせよ……」
一度は身を起こしたが、やはり億劫そうに、身を横たえる。
自壊寸前であったのだから、鬼神の酒を以てしてもすぐさま全快とは往くまい。
「しばし休む。…退屈凌ぎの肴にも事欠かなぬであろう」
辺りには魔物の気配が満ちている。
弱った雌の匂いを嗅ぎつけ、ってのものだろう。
格下を蹴散らす様、とはなろうが。
同族の戦いぶりを肴に退屈を紛らわせるというのも、悪くはない───
■羅獄 > 「欲深いのが鬼の宿命よ、酒も色も喧嘩も、欲には違いない。
ぬしは戦い一辺倒じゃが、わしは色事もいける口と言うだけだからのう。
……其れに、雌としてもぬしは気に入りじゃ。 不服かも知れんがの。」
方向が違うだけで、欲深いと言う点ではさしたる差も無い筈だ
遊興を愛する者も居れば、食を好む者も居よう
雌鬼の側に興味は無くとも、そんな事は関係あるまい
己が望むなら、相手の都合なぞ気にせず、力づくで奪うのが鬼のやり方だ。
「それもよかろ、わしも多少は弄って見るからのう。
さもなくば、わし等の喧嘩じゃと、其の内天井が落ちて来かねん。」
幸い、材料には事欠かぬ。 一部屋持たせる分には、如何とでもなろう。
近道の階段でも布くかのう、なぞと、戯言めいて告げつつに
――隣、雌鬼がまた、身を癒す事に専念し始めるならば
大人しくしとれ、と、其の太腿辺りに、軽く掌を乗せるだろう。
「なれば、ひと眠りできるようにせねばのう。
褥と決めたからには、少々掃除もせねばならん。
……さて…、……ぬしの後では、暇潰しにもならんじゃろが。」
――幸い、己は動ける。 ならば、褥を護るには自ら動かねば。
瓢箪を、雌鬼の傍に置いたまま、ゆっくりと立ち上がる。
己も手負いには違いない、行けると魔物が判断し、襲い掛かって来るならば
相応の対処をするだけだ。 ……何せ、今は非常に気分がいい。
雌鬼の眼を、多少なりと楽しませる役割くらいは、喜んで買ってやろうでは無いか――。
ご案内:「無名遺跡(過激描写注意)2」から宿儺さんが去りました。