2024/05/04 のログ
ご案内:「九頭竜山・麓の洞窟(過激描写注意)」に宿儺姫さんが現れました。
宿儺姫 >  
険しい山々の連なる九頭龍山。
その麓の自然洞窟が一つ───。

山賊でもアジトにしていたか。
はたまた知恵ある魔物が塒にでもしていたか───。

「ま、とりあえず今はこやつらの巣…ということじゃろな」

飛びかかってきた小さな人型の影を無造作に右腕を薙ぎ払い、弾き飛ばす。
それは壁に強かに打ち付けられ、気絶したのか崩れ落ち、動かなくなる。

「ただの小鬼ども…にしては気性が荒いのう」

ゴブリンの巣穴に踏み込んだことは一度や二度ではないが。
尖兵として襲いかかる数匹を嬲り殺してやれば大方その後は逃げ一辺倒になるのが常であった。
しかしこの洞窟に住まう者は、牝鬼を見れば即座に、片っ端から襲いかかってくる。
無論、本物の鬼相手に小鬼程度に遅れを取るわけはないが、それでも襲ってくるということは。

「───我を獲物、として見ているということじゃな」

くく、と嗤いながら洞穴を進んでゆく。

宿儺姫 >  
獲物を狩り喰らう鬼にとって、自身を獲物と見て襲い来る敵がいるのは実に愉快。
襲い来るのが小鬼であるというのはやや物足りないが。

「呵々。我を獲物と見るには華奢すぎるぞ!!」

影から襲い来る者も、正面から飛びかかる者も、その剛腕と豪脚が撃ち落とし、弾き飛ばす。

畏れず立ち向かって来る小鬼を蹴散らしながら進む牝鬼の前に、妙に開けた…大きな空洞が現れる。
さぞ大勢のゴブリンにもてなされるのだろうかと思いきや…、そこは伽藍堂である。

「なんじゃ、肩透かしじゃな…」

大空洞へと踏み入った牝鬼。辺りとぐるうりと見渡してみても特に小鬼達に囲まれる様子もない。
ただ、この巣穴において行われていただろう──恐らくは連れ去られた人間の受けた凌辱の痕跡があちらこちらに残っていた。

ご案内:「九頭竜山・麓の洞窟(過激描写注意)」にシアンさんが現れました。
シアン >  
大空洞の壁面には、人間の細工と比べるならば不細工という他ないがそれでも粗末ながらに、
補強や掘削のための足場が組まれ手元作業のための道具が並び得物や食料が吊るされ……
小鬼という種にしては珍しく多少の“文明”の痕跡が存在していた。

その、原因は、伽藍のど真ん中にある。

尺だけなら小鬼五匹積んでもまだ足りぬ高尺にこれでもかと詰め込まれた筋骨と緑の肌を搭載する、所謂、大鬼(オーガ)。たった今しがた踏み込んできた雌鬼とはまた種は違う、より魔物に近しい存在だがその禿頭の額から大きく伸び上がった一本角といい鮫の大口も顔負けの乱杭歯といい巨躯はもとより顔面まで凶悪な、全身から凶器を思わせる造形の、其れ。恐らくどこかからやってきて小鬼共を統率していたと思わしき、其れ。が……
――身体中。顔面中。これでもかとばかりにぶん殴られた形跡を痛々しく残して、正座させられていた。

「おめぇよ。前に言ったよな、俺。やりすぎんなっつって。お?」

べしんべしんべしんべしんべしんべしんべしん。
その、大鬼の傍ら。大鬼の頭を引っ叩きまくっている男が居る。

「おめぇな。奪うな犯すな食らうなとは言ってねぇだろ。小鬼共をもうちょい……お?」

べしんべしんべしんべしんべしんべしんべしん。
がらんとした空洞に響く快音ですらあるほど大鬼の頭に平手で引っ叩きまくっていた男が。
入ってきた雌鬼のほうへと、赤く化粧された目元に金色の瞳孔を向けて。

「……まずいとこ見られたな……」

やっべぇ。と、顔に書いてあるぐらい解りやすい表情した。

宿儺姫 >  
──さて、目の前の光景をどう理解したもんか。

「あー……、取り込み中かのう……?」

おそらくはこの洞窟の、好戦的なゴブリンどもを統率していた個体だろう巨躯のオーガ…。
の、頭を乱雑に引っ叩いている男がいる。

自分に見られていると理解れば、何やらバツも悪げな表情を浮かべているが……。

「なんじゃ。貴様がこの洞穴の小鬼どもの頭目か?。
 そやつらと同族には見えんがな~」

乱れ跳ねる白髪をばさりを靡かせ首を振り、溜息を吐く。
襤褸を纏っただけの屈強な鬼の肢体はここまでの小鬼の襲撃なぞものともせず、無傷。
何やら見られてまずいことをしていたのだろうことはわかるが、それ以上のことはわからぬ。
故に牝鬼はとりあえず次の言葉を待つのであるが──。

シアン >  
「……」

入ってきたのは一瞥くれた程度では人間と見紛うほどだがよく見れば……
襤褸のあちらこちらから伺える肉の付き方も額から生えた立派な二本角も、
何から何まで感心するぐらいに戦闘に特化した生き物だとよくよく伺える。

……めっちゃくちゃ強ぇなコイツ……。
と、舌を巻くほどだが、困り眉にもなった眉毛も下がった広角もそのまま肩を一つ竦めて見せて。

「あー。んー。まー。なんだ。取込み中というか説教中というか。
 この馬鹿どもは大鬼小鬼にしちゃちょいと話が解る奴等でね?
 んで、まあ、俺が目付けして、近隣の普通に馬鹿なのが増えんよう言いつけといたわけだが……
 冒険者が魔物とつるんでんのはあんま外聞宜しくないんで……出来れば黙っといて貰えると助かる」

どうにも一応言葉も話も通じるらしい彼女の物言いに、“まずい”を出来得る限り簡単に説明する。
無作為に増えて増えて増えまくる小鬼を狩るのが面倒なので話のわかる大鬼小鬼を躾けて間引きしていた訳だ。
べしん! とまた一発大鬼の頭を引っ叩いたあと、あっち行ってろ、と手で邪険に追い払えば、
大鬼は凶悪な顔面をそれはもう情けなく歪めて泣きそうな面しながらすごすごと奥の方へと引っ込んでいく。

「あと、ここのを狩るのもまあ遠慮できればと思う。また一から躾け直すの面倒臭ぇ。
 飯やら宝物やら目当てなら幾らか蔵から持っていって貰ってもいいんだが……」

大鬼が巨躯を小さく丸めて引き下がっていく方向、とはまた別の方向を指差したりもしながら、
さて彼女はどんな目的で来たのか。傍目、同業には見えないが。と、首を傾げて。

宿儺姫 >  
「ここの小鬼どもが臆さず向かってくるばかりだったのはそういう了見か…。
 ──ふむ、黙っておいてやっても良いが……何、宝物やら飯やらが目当てではない」

顎先に指をあて、変わったことをするやつおおるものだと嘆息。
続く言葉には怪訝な視線を戻しつつも、ひらひらと手を振って。

「でかい洞穴があったから強い某かでも巣食っておらぬかと思っておったんじゃがな。
 巣穴のボスを手懐けておる人間がいようなどとは思いもせなんだわ。…しっかし変わったことをやっとるな……」

やってきた目的は強者との邂逅だという牝鬼。
如何にもな鬼の風体ではあるが話は通じ、意思疎通も可能である…ように見えるだろう。

「おお、それならば…飯や宝物はともかくじゃが、酒があるなら喜んでお主を皆がそうではないか♪」

あるか?酒、と。
見る間に牝鬼の表情は緩みを見せる。

シアン >  
「まだまだ仕込まにゃならんこたぁ山程あるけどな。報連相とかさぁ」

左手は腰に、右手指は顎に添えては彼女とは違う意味で嘆息一つ。
強敵と見れば我先にと逃げ出すような臆病風が無くなったのは良いにしても、
侵入者が居るのならば大鬼か自分も居ることだし自分に報告に向かうよう……
今し方出会ったばっかりの相手に愚痴るようなことじゃなかった、と、
はたと気付いて、悪い、と右手を立てる。
王国式なら胸に手を当てて頭を下げるものだがこれは北方式の習慣。

「まあ、変わってるわな、しかしな、効率的だぜ? ほんっっっとこいつら放っとくとめちゃくちゃ増えるから。
 あー。強者か。強者ねぇ。そりゃそうだわな、ナリからしてそれっぽいわ……
 いや、でも、マジ助かる。アンタ見るからに強そうだもんな、殴りかかって来られたら流石にちょっと楽し、あいや怖かった」

肩透かしを食らわせた結果になっていたらしい。招いた、訳ではないのだが何となく悪い気分にはなる。
話が思った以上に通じるので気の緩み、か、彼女の気質を知らないせい、か、ぽろり、
戦闘に関して少しばかり迂闊なことを口走ってしまったものの視線も指と一緒に蔵へ向けて。

「酒。ある。小鬼の一部がやたら器用なのが居てね、猿酒みたいなもんだが今漬けてあんのが奥にそれなり」

緩んだ笑みに、肩の力を抜きながら、指ではなく掌で奥を指し示して。案内しようか? と。

宿儺姫 >  
「成程、酒に興味は在る。しかしその前に───」

女鬼は当然のように嗅ぎ取った。
それはわずかに零した言葉からか、あるいはいくつかの立ち振舞を見てか。

「おるではないか、強者。
 あのうすらでかい大鬼(オーガ)を手懐けるような猛者がな?」

緩んでいた笑みはあれよあれよという間に鋭い牙の見える獰猛な笑みへ。
小鬼程度の相手では燻っておったところ。
話が通じる、であるとか。
意思疎通ができる、であるとか。
それはそれ、これはこれ───。

「くかかっ…!!手並みなぞ見せてもらおうか!!!」

即座、返答なぞ待たぬと。
飛びかかり襲いかかる牝鬼。
靭やかな肉体を蹴跳び上がった先で大きく捻り、指先に煌めく鋭く長い黒爪を以って、男へと振り下ろさんと───。

シアン >  
「ぃよし、案内しよう。美酒には程遠いが偶にゃこういうの、も?」

僅かに漏れた戦闘を厭わぬ言葉か。豊満な乳房よりも、負けず劣らずの臀部よりも、腹や腕に腿や手先に向いた視線か。
種は違えど“同類”の香りはうっすらとだが確実に彼女の“鼻”へと届いた、届いてしまった、らしい。

「……マジかよ勘弁しろよ……!!」

言葉も、声音も、眉根まで困り眉で心の底から『迷惑です』なんて感じで謳っているけれども。
彼女の可愛らしいとさえ言える顔つきが獰猛な獣もかくやという笑みに振り返った口元は……
目に見えた強者が襲い掛かってくる愉悦につい釣り上がり八重歯が覗いていた。

顔付近で腕をバツ印に組めば、一歩踏み込む。跳ね跳び跳ね降ろされる、爪、ではなく手首にそのバツ印を噛ませるように受け止めた、途端。腰が落ちる、踏みしめた地面が陥没する、然し、崩れ落ちない。……思ったより重っっったいわぁ!!! なんて文句もそこそこに背を向けるよう半身を翻し、受け止めた手首を支点として、変則的だが背負投げよろしく彼女を投げ飛ばそうとする。

宿儺姫 >  
「──おお!受けたか!!やるのうお主!!! ──むっ」

男の耳にはそんな、悦に満ちた牝鬼の声が届くか。
直後には、驚きの声。
自分を投げる人間なぞそうはいない。そのレアな出逢いに喜びの色も交えて…。

「我の一撃を正面から受けるのも程々にまさか投げ飛ばすとは…!
 呵々、やはりあのデカブツは実力で下したというワケじゃな!!」

しなやかな猫の如く。
その肢体を捻り後方の地べたへと着地する牝鬼はより楽しげにその牙を剥く。

「あの独活の大木をどう下した?ぜひ見せて欲しいぞ、人間!」

ああ、これは完全に火が入ってしまった、と、傍にも理解る様相。
位置を入れ替えたことで洞窟の出口は男の背後に向いたことになるだろうが、さて───この牝鬼は見るからに戦る気満々である。

シアン >  
喜色満面。彼女の声音から面相から、受け止めた腕の震えからさえ悦が伝わってくる。
くは、と、笑気とも吐息ともつかないものを口から零しながら、投げた姿を目で追い、

「……お互い様よ。いや、いやいや、本当に。その重さでその身軽さとぁ恐れ入る」

大鬼が乾坤一擲と全身を使って振り下ろしてきた棍棒よりも彼女の片腕は重かった。
腕の筋骨と背骨が悲鳴を上げる前に辛うじて投げ飛ばしたものの、
解いた腕が痺れてぷらぷらと解すように揺らしながら肩を竦める。
この膂力、そのうえであの不安定な体勢から投げ飛ばされて難なく着地する平衡感覚と身軽さ……

「マジ恐れ入る。身体能力は……俺より数段上だなぁ……」

戦力分析しながらも、視線はもう外れず、戦わねば収まらぬといった風情の面相につい笑う。
今の攻防の入れ替わりと後ろから感じる微妙な風向きは出口の位置をしっかと把握出来る、が、
此処で逃げては“勿体無い”のが半分と憂さ晴らしで此処の大鬼小鬼を蹴散らされても困るのが半分。

「無論、実力よ。因みにあの馬鹿は普通に素手でぼこり倒しただけだが……
 あんたは、それじゃあ手に負えなさそうだ。そこより先、見せてやる」

腰を、据える、右手は耳近く左手は顎近くに拳を作っては手首を彼女に向けるに近い位置で構え……
赤い化粧の目元に、両拳に、ばちん、ばちん、と弾ける音と共に紫電が纏わりつく。
これで殴られれば痺れる。これで受け止められるとこれまた痺れる、己の特異体質。
……彼女は一発で痺れちゃくれなさそうではあるが……。

「シアンだ。シアン・デイエン。よろしくな?」

名乗りと、同時。一歩、踏み込む。一歩だが先のそれより余程伸びる、弾くように軸足の右足が地面を蹴り飛ばせば投げ飛ばして空いた彼女との間をその一歩で潰すほど真っ直ぐ飛び、それだけでも矢ほども早いが……その、踏み込みよりさらに早く、空を裂く風切り音も鋭く、左ジャブが彼女の顎目掛けて“発砲”と呼んで差し支えない速度で放たれた。

宿儺姫 >  
「ほう、あの巨躯を徒手で。
 この国の人間は面白いな。里の鬼どもが裸足で逃げ出そう者ばかりじゃ」

大凡それらはなにがしかとの混血であったりはするのだが。
目の前の男はまったくその気配も匂いもしないのが不可思議。
人の身でも怪力乱神と渡り合う肉体を得られる、という事実。
実に面白い。

「くく。堪能させてもらおう──くだらぬ手品なぞ見せるなよ?
 ──我は鬼姫、宿儺。大鬼小鬼、かつて八卦の麓の鬼の里、皆がみな匙を投げた腕白よ」

男の名のりと弾け迸る紫電に、牝鬼は感嘆し名乗りで応える。

──そして放たれる、瞬歩からの一閃。 紫色の電荷を纏うその一撃へ───

バチィッッ──!!

大空洞に響き渡る轟音。
牝鬼の顎先目掛け放たれたそれは目標を貫く前に、似たような何かと衝突する──。

「呵々…似たもの同士……かのう?」

そう嘯く牝鬼の左腕──おそらく男の一撃を途中で阻んだそれには碧い電荷が瞬光の茨が如く纏われ…。
その鬼の目立つ両角、そして爛と輝く瞳からも、迸るように碧光の雷が漏れ放たれている。

「いやぁ、お主の言う先とやらの姿が余りにも我と似ておった故…──我もつい、見せてしまおうとな…?」

その一撃を防がれた男は動揺するのか、それともより高揚してくれるのか──。

「こいつはどうじゃ!!シアンッッ!!!」

返す刀は雷光が如き回し蹴り。
ただでさえ大木すら横薙ぎにへし折りそうな剛脚が、碧き雷火を帯びて放たれる。
──本来は牝鬼にとっても消耗著しい"奥の手"───この場で出してしまったのは、興が乗りすぎた故か───

シアン >  
呪いがごとき体質に恵まれた肉質と魔獣のような金の瞳孔と――……
先祖のどこかに何かしろが混じっていてもおかしくはない有様ではある。
が、それは当人でさえ知らず彼女の“鼻”にも“目”にも“只人”と映るだろう。
大鬼だろうが雌鬼だろうが一撃を凌いだのは鍛えに鍛え上げた修練の賜物。

「八卦山の宿儺姫か!!?」

名乗り返されたその字には覚えがある。
己が故郷にいるあいだに、己が故郷を出るまでに、幾度か、幾度も、
『あすこには恐ろしい鬼が』云々。
『あすこの姫がまた災いを』云々。
と噂話程度ではあったし聞き流していたものだが老人共がさぞ恐ろしげに呟いていた名である。
まさか、まさかである、まさかこんな遠い土地にあって故郷の伝説に相見える事になろうとは。

くつくつと喉が鳴る、その笑気に合わせて揺れる肩は、
けたたましい音を上げて弾かれた拳が煙を噴き上げて彼女の容貌が変わるのも見てもその儘。

「くく、くくくくくふふふはははは!! 俺と同じようやつ初めて見たわ!!」

故郷でも王国でも色んな奴と()ったものだが雷撃使いはおれど雷光を纏う姿は、初。
嬉しくって、つい、つい、高笑いまでしてしまった。……弾かれれば即間合いを離すつもりがつい、足を止めてしまい、

「って、やっべ。こん、おぅるぁああぁ!!!!」

奔る紫電と濁流もかくやと空気を掻き乱す回し蹴り、に、対して。間合いを離すの忘れた失策に舌打ちするのもほんの一瞬あんぐりと大きく口を開け。かっきぃぃぃん!! と、金属と金属を叩き付けたような音を上げるほど歯を食い縛る。同時、彼女の雷光にも負けずと弾けて暴れまわる紫電が右拳に集中し、右拳を身体がほぼ一回転するぐらいの勢いを付けて、爪先から右拳までを全身駆動させての。迫る横薙ぎへ、右拳の打ち下ろし。
恐らく、威力は同等。あちらが身体能力で上回るならこちらはその分全身を撓らせる技術でカバー。
……但し威力は同等でも此方のが耐久力では劣る、右拳は砕けるだろう、然しだ、全身にあれ食らうよかマシ、右拳もなんなら右腕が砕けてでも、あれは、撃ち落とす。その気概もいっぺんに込めて気合を上げて、叩き付けた。

宿儺姫 >  
牝鬼がその眼を丸くしたのは、互いの間で迸るような紫と緑の電光が迸った後。
炸薬を奏でたかのような衝撃がビリビリと大空洞の空気を揺らし──。

「───、見事。そしてよもや、同郷とはな」

紫電が奔り、その大腿部までもの神経が灼かれる感覚──要するにガッツリ痺れた蹴り脚をぷらぷらとさせながら。
まさかまさかの、男の口から出た言葉に嗤う。

「最早人間の世から忘れ去られた名とも思っていたが、知る者もおるものじゃな。
 くく、しかし懐かしみは死合いには不要。さあてどうする、言わずとも理解るぞ──"砕けた"じゃろう」

痺れに痺れた己の蹴り脚。
しかし痛み分け、とするには払った代償が大きいのは男のほうか──。
大笑いを見せ、正面から拳を打ちみせた気骨には惚れ惚れしよう。
その後先考えぬ気性にもどこか親近感を覚えるが…。

「であっても雄であれば尻を捲りて逃げる心積りなぞ、なかろう!!」

次の手番は譲ろう、などと鬼は口にしない。
目の前の相手から闘争の意思が失われなければ、暴れ続ける。
痺れの残り右脚を地面に叩きつけるようにして踏み縛り、その両の腕を頭上に掲げる。
肩、そして腕に隆起する筋繊維が示す、組み上げられたその拳の破壊力。
漲る力をそのまま解放する、というイメージをそのまま形にしたような───一撃。
万物爆ぜよと力の限り叩きつけるだけの、怪力乱神の真骨頂。

シアン >  
大空洞そのものを引っ掴んで揺すったような衝撃とつんざく音色はおそらく外にまで響き渡った。
九頭龍の山脈が咆哮を上げた、と、聞いた人がいたら聞いた獣が居たら等しくそう思っただろう。
その、中心部で、音だけでも常人ならば鼓膜が弾けて心の臓も止まりそうなものだが……
片や蹴り足をぷらりと片や右拳をぷらりと揺らして笑っているのだから傍目恐ろしい光景。

「さあて? どうしようかねぇ。ここらでお開きして酒宴でも、てぇ、わけにゃ、そりゃ~いくまいよ」

目元で弾ける紫電も口元に浮かぶ笑みも衰えないが顔といい首といい衣類にもじわりと汗が浮かんで染みる。
彼女の片足はいくらか勢いと筋力を削いだろうが此方の右腕は指から手首とその先まで、折れた。
痛い。滅茶苦茶痛い。脂汗も冷や汗もしとどに出るというもの。
それでも、肩と二の腕と肘から先の筋肉を器用に動かし、骨が折れて尚右手が拳を作る。
そのせいでさらに痛い……!

「応ともよ!!」

尻を捲って逃げるなど、論外。気勢を上げては両拳ともを再び構えて――

「右腕くれたらぁ!!」

此れは、彼女にとってもまさかかもしれない。
砕けた右拳が再び、紫電を纏う。筋肉で、無理矢理拳を固めて、電力で、更に無理矢理感電させて筋肉を凝固させて硬く硬く握り締める。其れを、地面を踏み込めば地面を陥没させて一メートル程度のクレーターまで作るほどの踏み込みで、真上から打ち下ろされてくる拳目掛けて合わせアッパーの要領で跳ね上げた。

彼女は、痺れた蹴り足分やや踏み込みが甘い、自分は、痛くて痛くて身体が縮こまりぎみで勢いがやや甘い、なら……

互いに同程度の甘さなれば再び威力は同等だろう。
右腕が暫くの間完全に使い物にならなくなる、が。
右腕の犠牲で彼女の蹴り足+拳も痺れさせる事が出来るなら、上等である。

宿儺姫 >  
「──ッ、おお…っ!!」

一切合切爆ぜよと振り下ろした爆撃にも似た両拳。
それを、下から迎撃とは───。

数度目となる轟音。
張り裂けんばかりの空気の震動とニ色の雷の迸り──!

「な、なんという…。
 シアン、お主──さては阿呆かッッ!」

かつて在った鬼の里。
無論そこにも力自慢の雄鬼はいただろう。
それでも当時の宿儺とここまでの力比べをする者なぞ稀であった。
ましてや、鬼よりも頑強さでは劣るであろう人の身で───

「───ッ…!!」

振り下ろした筈の両腕が頭上へと跳ねあがる。
砕けた筈の拳で、よもやの渾身の一撃……。
先程の衝突で、それこそ痛み分けとはならないだろう勝負に右腕を賭けるなぞ──。
瞬間、無防備を晒した牝鬼は眼下にあるだろう男の貌を見て、嗤う──。
その笑みの意味は、ここまでやるとは侮りがたし──次の一撃は、モロに喰らうだろうという予感か。

シアン >  
筋肉で、電力で、何とか保っていた拳がついに解ける。
小指から親指までが根っこからあらぬ方向へと拉げた。
手の甲からは皮膚と筋肉を突き破り骨が飛び出た。
手首から肘にかけてはどこもかしこも割れるわ折れるわ砕けるわ……。
肩も外れてしまって肩と腕とをつなげる筋肉まで千切れかかるわ……。

衝突の、犠牲。その、代わり――
彼女の両腕が跳ね上がった。
望外の戦果とさえ言える。
彼女の右足に右拳に左拳。
五体のうちこれだけ痺れさせれば後は削いだ膂力に対して無事な左腕で殴り勝てればいいと思っていた、が。

「んははははははは!!!」

望外の戦果と。後、恐らく、彼女にとってもそうはない経験から来るであろう『阿呆』との罵倒(ほめことば)に、大口開けて笑い。
左腕に、右腕と同程度かそれ以上に雷が迸る。既に自分の帯電も越えた。左腕の服も皮膚も破ける、焼ける、が、お構いなく……
無防備に晒された胴体へと、左フック、が、スカる。目測を誤った? 否。左拳を右側へと回すほど引き絞って――
左肘打ちを、胸部、彼女の左乳房に突き刺し、豊満に備えられた脂肪が邪魔だが肘鉄で出来うる限り目標へと近づけ、
左肺(もくひょう)へと電撃を流し込む。
悪くても、呼吸困難、良くて、意識途絶。少なくとも戦闘続行が困難なぐらいのダメージはあるだろうと。……いや、常人ならほぼ死ぬが彼女なら死にゃせんだろうと、頑丈なのを分かっているからって無茶をする。

「……酒を振る舞うの忘れてねぇんでなぁ」

命迄取るつもりはない。情け、ではなく。酒を用意する約束がある、理由はそれだけである。

宿儺姫 >  
「ぐ、ふ───!!」

牝鬼の胸を紫電が貫く。
瞬間、肺が灼ける───、さしもの鬼といえど、それには表情を歪め───。

「が、ひゅっ……!!」

呼吸は途絶。灼かれた肺からは気道を昇り鉄臭い血液が喉奥へと。
がは、と喀血する鬼の強靭な膝が崩れ落ち───。……はしなかった。

ズン!!!と痺れた脚を突き刺す程の勢いで地面へと突き立てる。

「ごぶッッ…、お、おぉ゛……ッッ、効いたぞ…ッ。
 さ、さすがの我も、臓腑まで鋼とは、ゆかぬわ──」

膝をつくことを嫌ったか。
なんとか自重を支える程度、ではあるものの、倒れはしないのだった。

「くく、負けて酒を振る舞われるというのも、格好がつかんわ」

しかし、さすがにこのダメージは痛み分けか──。と、ゼイゼイと荒く呼気を乱しながら。

シアン >  
手応えは、十分。然し――

「ほう……!」

やはり、頑強さは人の比ではなく己ともまた比ではない、どころか、魔物より……
以前に城塞都市付近で軽く小競り合いしたあの魔導人形よりも硬いのでは無かろうか?
気絶、迄は高望みとはいえ、臓腑を焼かれて損傷して尚膝すら付かぬとは驚いた。
感嘆の声音が堪らず出る。

「俺からすれば鋼とさして変わらぬ強度だがなあ。
 ……ううむ、数段上どころか格上って感じだぜ、ははは、まったく」

痛み分け。其れに一つ頷けば、戦いはこれで終わりとばかり、身体の力をすとんと抜いた。
此処から彼女が拳でも繰り出せば綺麗に突き刺さって次いでに地面か壁にでも刺さるだろう。
其れぐらい何もかも緩めてしまって、腰に括った巾着からさらしを取り出せば、
左手で拉げた指を伸ばし手の甲から突き出た指を押し戻してごきごきと嫌な音を立ててから右手をきつく縛り上げる。
激痛が腕から走って脳髄に駆け巡るが、溜息をつきながら応急処置をしながらに、

「勝っても負けてもねぇだろ。置いとけ。ダチと酒を()るだけだ」

戦友(ダチ)と彼女を、右腕はだらりとぶら下げて左手指で指せば笑う。
こんだけやりあったんだからダチでいいだろ、なんて。

宿儺姫 >  
「莫迦を言え。
 人と鬼を並べて考える時点で貴様はぶっ飛んでおるわ」

しかも小細工であるとか搦手であるとかが一切無し。
まるで同族とでも遣り合っているかのようにすら錯覚する程である。

眼前の男──シアンがその力を抜くのを見れば、やれやれと牝鬼もまた、大きく息を吐く。
呼吸の阻害が簡単に治りそうもない。
鬼の常識から外れた自然治癒能力を以ってしても今しばらくはかかるか。

「ダチ?呵々、喧嘩に興じた仲となれば相違ない、か。
 では酒を振る舞ってもらうとするか…──お主痛うないのかそれ…」

何やら厭な音を立てて応急処理をしている男を怪訝な横目で見つつ、向いている方向は先程男が指し示した方角。

臓腑を灼かれては損傷も著しいが、酒でも飲めば治るだろう、という鬼のよくわからぬ算段。
ダチ呼ばわりについても否定はせず、嗤って飛ばし。まんざらでもないといった様子。
──過去にも、そういった経緯で縁をなった者がいたのだろう。おそらく、それは人間にも。

シアン >  
「んははははは」

体重差も種族差も顧みない真っ向切ってのぶん殴り合い。
莫迦呼ばわりもなるほど彼女でなくともそう呼ぶ、
遠目に見ていた大鬼だってきっとそう呟いている。
それまで笑い飛ばして、いててて……とは、笑って揺れたせいで腕の傷に響いた。

彼女も、痺れはとかく肺腑は流石にきついものがある様子だ。
肩でも組んでくか~? 何て。
つい今し方まで文字通り火花も散らしてやり合ったが今ときたら旧友にでも出会したかのような気楽さで。

「そうそう、相違無い。飲んでけ飲んでけ。小鬼が仕立てた割にゃあいけるんだぜ?
 あ、これ。めちゃ痛ぇ。一人だったら蹲って泣いてるかもわからんな」

もはや、どこの筋肉を動かしても指先一つぴくりとも動かない右腕。
流石に酒を飲んでも治りはしないが酒で痛みはいくらか誤魔化し、治すのは街に戻ってからだ。
彼女が厭うこともなければ『ダチ』は決定事項として頷いて。

「ここじゃ空気が悪ぃ。外で飲もう。あてはたいしたもんはねぇが、まあなんだ。旨い酒とツマミはまたそのうちになぁ」

肩を組んだか組まなかったかは、さておいて。少なくとも肩は並べて蔵へと案内すれば素焼きの壺にコルクで蓋されたものを引っ掴んでは二人して、器もないので回し飲みだが爽やかな風と丁度出始めた月や簡単な保存食なんかをアテにして、飲むことに。もし飲み比べなんかしたらその勝負は男が早々にぶっ倒れる羽目になっての早々に決着が付く訳だが、どう話が弾んだかそんな勝負が始まるか否かは、見守る者なく当人達だけの語り草になるだろう――……。

ご案内:「九頭竜山・麓の洞窟(過激描写注意)」からシアンさんが去りました。
ご案内:「九頭竜山・麓の洞窟(過激描写注意)」から宿儺姫さんが去りました。