2024/03/02 のログ
天ツ鬼 >  
歩む先、朧気に外の光が差し込みはじめる。
ひた、と足を留めたのは。小鬼の血の匂いが洞窟の中にまで染み込んで来たからに他ならない。
自らをして連中の血漿に濡れている故、そのせいかとも思ったが

ふむ、と思案してみるも、すぐにまぁ良いか。と歩みを再開。程なくすれば───

「む?」

小鬼の返り血に髪や襤褸を濡らした浅黒肌の女鬼が翠色の鬼火と共に入者たる女の目の前に現れるだろう。
額に伸びた双角といい、あからさまに鬼とわかる風貌。
薄暗い中にあって碧色に灯る瞳が女を見据える

人間?
こんなところにまで?
冒険者か、にしてはここに至るまで一人でか。

通り過ぎるような思考の数々。

…考えるのが面倒になった女鬼はとりあえず、相手がどう出るか、足を止めてその容貌を見据えることにした。

ノーマ >  
「……うわ」

近づいてくる近づいてくる。なんかすごい気配が近づいてくる。
直感というべきか、肌感覚と言うべきか。
ともあれ、探知能力じみたナニカが警戒を告げてくる。

とはいえ、ここで引き返すには少々遅い感じがする。
そうこうしているうちに、浅黒肌のまさに鬼、が見えてくる。

「あー……こりゃ……怖いね、どうも……」

返り血がどうこう、というよりはその存在感。
強大な気配と見えない圧が色々なことを教えてくれる。
これは”怖い”ものだ、と。

「あー……ちょいと聞くけど、ここの大将ってあんたでいいのかな?
 もしやあんたが噂の鬼さん、だったりする?
 いや、まてよ。自分で噂になってるってわかるのか……?」

それゆえ、へらり、と笑ってその鬼に声をかけた。
とてものんびりとした構えで一見無警戒にも見えるが……
 

天ツ鬼 >  
──成る程。

目の前の女は問いをかけてきた。
少なくとも言葉が通じる相手だとヤマを張ってのことだろう。
…声をかけられた女鬼は首を傾げた。
放つ威容からはあまり想像がつかないリアクションである。

「我が貴様の聞いた噂の鬼かどうかは知らんが、
 我が聞いた噂の鬼とやらはそこらに転がっている小鬼のことだったらしいぞ」

どこか気の抜けるような笑みを向ける女は、女鬼の目には随分と無防備に見える。
それでも、洞窟から逃げようとした小鬼を屠ったのはこの女に違いない。
…まぁ、ゴブリンではそれを殺したとて強者たる指針としては微妙なところ。
身構えもしなかった、そのせいか強者とみれば即喧嘩を仕掛ける女鬼と、ひとまず会話が成り立つ。

「──で、冒険者か。よくもまぁこんな山深くまで来たのう…。
 討伐に訪れたのなら奥にまだうじゃうじゃとおるぞ。多分」

いるのなら大将とやらもな、と付け加える。…女鬼が襲われなかった時点で、たかが知れているかもしれない。
そんなことを宣う女鬼は自分もまた冒険者ギルドで九頭竜山の洞窟に棲む人喰いの鬼として、首に金がかけられているとは知る由もないのだが。

ノーマ >  
思ったよりも相手が理性的に答えてくれた。
最悪、いきなり戦いになる可能性もあるか、と思ってはいたのだが。
これなら面倒は避けられそうだろうか。
うずうずとうずく本能を抑えるのも大変なのだ。
 
「あ、会話通じる類の相手でよかったよ。
 にしても、そっか。噂の鬼はあんたじゃなかったのか。
 そいつはよかった。あんたは”怖い”からねえ。」

流石に相手にするには骨が折れそうだ、と薄く笑う。
間違いなく、軽くあしらえる相手ではないだろう。

「ああ、お察しの通り冒険者ってやつ。
 あー、嘘。まだ残ってるの?
 てっきりあんたが全部やっちゃったかと思ったけど。
 ……今の口ぶりからして、歯ごたえなさそうだから放置した感じか。
 戦いが好きなタイプかあ……」

ぎちり、と腕が疼く。
心のうちのナニカが叫びそうだ。

「じゃあ、この辺の妙な気配もあんたなのかねえ。」

それなら、うまくかわして面倒事を避けて奥まで行けるのかな?とちょっと思う。
……ただで通してもらえるかな?

天ツ鬼 >  
さて、この女鬼は基本的に鈍感である。
頭も悪く、難しいことを考えるのは実に苦手とする。
しかしそんな女鬼も、鋭いとされる部分がある。
それはことさら"本能"や"野生の勘"と呼ばれる部類のもの。
要するに、理屈なく反応することがあるのである。
故に女鬼は、目の前の女…ノーマが内に秘める"疼き"をなんとなしに感じ取った。

そう、飽くまでも理性的に会話をしているように見えているだけである。

「──括り殺したのは我に飛びかかってきた命知らずを2、3匹。
 残りは尻尾を巻いて奥に一目散よ。群れの主がいるかは知らんが、出てこないところを見ればたいしたタマでもあるまい」

そう告げ、歩みを進めノーマとすれ違う、その様に。

「そんな矮小なモノと遊ぶよりも"怖い"鬼と遊んだほうがよき時を過ごせるのではないか?
 クク、疼きを隠せぬようではまだまだ…未熟かあるいは我と同類か──」

鬼が囁く。
理性的に応えるべきは鬼か、それとも来訪した女だったのか。
それで女が何かしら、その疼きに起因した行動を見せたのなら──すれ違い様──丸太の様に隆起した太股がしなり、手始めにと言わんばかりの蹴りが女を襲うこととなる──。

ノーマ >  
本能とは
すなわち、その個体の奥に潜み逃れ得ぬもの。
その存在理由であり、その存在意義に関わるものである。
普段は抑え、外には出さぬようにして。
時折発散させていたそれは、しかし

「まあそりゃ、あんた相手じゃどうにもならないだろうねえ。
 飛びかかっただけ、そいつらは凄かったのかもしれないけど。」

命の危機にさらされての決死行だったのか、それとも無知ゆえの無謀だったのか。
それは最早わからないが、確かにそれらはこの"怖い"ものから逃げなかったのだ。

「ああ、もう……ほんと”怖い”なあ……
 勘弁してほしいんだけど」

鬼が囁いた。
心の奥に潜むソレが、びくり、と反応する。

――瞬間

ぎしり、と空気がきしむような音がした。

「あは、ははははは!!
 怖い、怖いねえ。あんた怖いよ。あはははははは!」

それは異常な光景だった。
緩い雰囲気だった女が哄笑をあげ、鬼の太い足を柳のように細い腕で受けたのだ。

天ツ鬼 >  
鬼はその眼を見開く。
どう出るか、試すための一撃ではあった筈。
なすすべなく薙ぎ払われるか。
咄嗟に危険を感じ身を避けるか。
どちらかだろう、と思っていた故に。

「──よもやその細腕で易易と…とはな」

狂笑につられるように鬼もまた牙を剥き出し嗤う。
怖い、などとよくも言ったもの。
例え噂通りの鬼がこの場にいたとしても、嬉々として屠る姿が全く想像に難くない──!
女鬼自身にとっては嬉しい誤算。
雑魚を掴まされ辟易したところに現れてくれた、己の力を十全に発揮して尚足りるかわからぬ──人間(怪物)

受け止められたままに脚を振り抜いてやろうと更に力を籠める──

ノーマ >  
相手の力量が高いことは最初からわかっている。
だからこそ、細腕に様々な要素を加えて殴りに行った。
小手調べ、という面はあるにしても簡単に受け止められるわけでもない一撃であった。

「易易? あはははは!本気の蹴りじゃないくせに。
 怖い怖い。本当に怖い」

狂笑をあげて、相手の出方を見ようとして

「なに?力比べってところかな?
 鬼らしいねえ!あははははは!!」

打ち合ったまま止まっていた相手の足にさらなる力が込められる。
体は耐えられるが、足元の地面がぴきり、と悲鳴を上げる。

「あはははは、ところでさ。
 あんた、こういうのって搦め手なしの真っ直ぐなやつのほうが好きかな?」

狂った笑いを浮かべながら、女はどこか冷静に問いを投げる。
投げながら、圧の増していく足を受け止めたのとは別の手でつかもうとする。

天ツ鬼 >  
よく嗤う。
女鬼が今のノーマに抱いた印象はまず、それだろう。
闘争に興じ、気分が高揚する──は、人であろうと鬼であろうと誰にでも在ること。
それでも度合いというものがある。
直前までの女の表情、雰囲気と余りにも変貌している。
抑え込んでいたものなのか、それとも──。

「呵々。全力でなくとも鬼の蹴りを受け止められたとあってはのう…!!」

メキメキと更にその太股が隆起する。
さらなる力を込め、振り抜くつもyいで。
それは言葉そのまま、力比べにも似る。

そんな鬼の行動から感じ取ったか、女からの問いかけには獰猛なる笑みを返す。

「どのような闘争でも構わぬが、小賢しいことを考えるのが性に合わぬだけよのう!!」

その問いの真意は何か。
相手に、此方に合わせる余裕があるのか。
剛力で以って圧しにかかる鬼の剛脚。
受け止めるノーマの身体が揺らがねば脚は動じずそこにあり、掴むことも容易く行える。
鬼はといえば、相手の動きなぞ知ったことかと力を籠めるのみなのだ。

ノーマ >  
笑う 嗤う
ソレの本質は、嗤い、踏みにじり、蹂躙していく装置だ。
だから、笑う。異常なまでに。

「あははは、プライド?矜持?尊厳?
 ただの闘いなんだから、気にしても仕方ないじゃん。
 あはははははは!」

ぎしり、と接触点が軋む。
恐ろしいまでの、鬼の力。
それに抗すべく、足を掴む。

「そう?性に合わない?あははは、なら言っておくけどさ。
 うちがしたことに文句言うなら早めにしてよね?」

太い足であった。
女の細腕ではすべてを握りきれない。
それでも、ぎり、と恐ろしいまでの握力で絞める。
だが、その程度で鬼の足を破壊することは不可能だろう。

そう、思われた時――

ばじりっ

掴んだ手の中でナニカが弾けた。
鬼の足を強烈な電撃が走り、灼いた。
それは魔術とも異なる、異常な現象であった。

天ツ鬼 >  
ただの戦いと女は笑う。
細かいことを考えるのが得意でない鬼だが、それにはやや同意し兼ねた。
闘争という力の衝突はシンプルなものでもある。
しかし喰らう戦いと守る戦いはまるで違う。
後者でこそ尋常ならざる力を発揮した人間を過去に鬼は見てきていた。
力が宿るは肉体のみに非ず、精神もまた然り。


「よぉく笑うのうお主!ただの闘争!とはいえ、賭すものは多ければ多いほど───強かろう!!」

それがプライドであれ、己が矜持であれ、
気にする必要こそなくとも、賭したものはやはり強い。
──目の前の女からそれを感じることは、おそらくできないが。

自身の脚にかかる圧。
強靭なる鬼の四肢、簡単に破壊されてしまう程でこそないが、
目の前の女が尋常ならざる力を持つことは、身体で理解が出来た。
しかし強いといえど、ただの力では──
そう、鬼が更に力を強めようとした瞬間。

「──グゥッ!!?」

女鬼が呻く。
女の手から発せられたのか。
文字通り強烈な稲妻にでも打たれたかのような衝撃が女鬼の肉体を貫き、弾き飛ばす。
洞窟の壁に強かにその身を打ち付け、互いの距離が僅か、離れるか。

「っ、……術の、類か…!? いや…そのような匂いはせなんだな…」

笑みを浮かべ、身を起こす。
蹴り込んだ下肢が灼かれ、黒煙をあげる
これは直ぐには使い物にならんか。と。それでも無理矢理に立ち上がって見せる。

ノーマ >  
ただただ強くあれ。ただただ殺せ。
彼女を構成する思想はソレであったが、ソレを作ったモノたちが作ったものは装置であった。
感情の。気持ちの力など信じない、冷徹かつ、愚かな思想。
それらを飲み込み、女は笑う。

「あははははは、そう?そうなの?
 強い?強くなる?それなら、見せてもらおっかな!」

力だけではない。思想の違いもまた、ぶつかり合う。
女は変わらず狂った笑いを浮かべて……

「うちの体は特別性なんだ。あは、あはははは!
 卑怯?卑怯っていうなら言っていいよ、あははは!
 文句は聞くからさあ!」

鬼の足を灼いた女の手からも黒煙が上がり、女も吹き飛ぶ。
互いに洞窟の壁に打ち付けられるが、女は笑いを止めない。

その腕は……焼け、爛れていた。

「立つんだ?アハハハ、さすが、流石だね。やっぱり”怖い”なあ。」

鬼が立つのを待っていた……ように、見える。
爛れた手が、鋭い爪の生えた人とは異なる手に変わる。

「怖いよ、あんたさ。あはははは!
 久々に、とても”怖い”な。あはははは!」

一呼吸を置いて、女は地面を蹴って疾走る。
わずかばかりできた互いの距離をすぐに詰めて、異形の手で殴りかかる。

天ツ鬼 >  
「──呵々。卑怯などと口が避けても言おうものか」

そんな方便や憤りは力及ばなかった者の遠吠え。
策を弄する相手であろうが、術を行使する相手であろうが。
何も関係なく、ただ力でねじ伏せれば結果はただ一つ、勝利。

「文句があるとするならば──少々笑いすぎじゃなあ!!」

楽しいと口にするでもなく。
怖いと口にしながら笑う女。
焼け爛れた手が異形の姿へと変わるのを見れば、女が只人でないことは明らかとなる。
…が、それも鬼にとってすればどうでも良い。

立ち上がった以上は迎え撃つ。
襲いかかる一撃など物ともせず、鬼もまた殴りかかる──強靭な肉体、その耐久性に全てを任せ、暴れまわるのが女鬼の闘争法。

──だった、が。

「───!」

ぞわり。
殴りかかるその異形の手。
それに感じたのは、本能的な身の危険。
咄嗟、反射的に己の腕を盾に、己の身を防御(まも)っていた──

ノーマ >  
「それは、それは。いいね、立派だ、流石だ。
 強者の言葉だ。怖い怖い。あははははは!!」

卑怯などとは言わない――
ソレはすなわち、自分への、力への絶対の自信と、信奉。
強固な意志の現れだ。それはとても”怖い”
潰さなければ、壊さなければ、砕かなければ

「あはははははは、嗤いすぎ?ごめんごめん!
 これしか、知らないんだ!あははははは!」

謝りながら、女は笑う

疾走る。疾走る。
その速度は速く、洞窟の幅など瞬の間に詰めて――
振るわれるのは異形の拳。

めぎゃ

軋む音がした。歪む音がした。
それは盾となった鬼の腕と、女の拳から響く異音。

女の異形の拳は、確かに止まっていた。
ぽたり、ぽたり、と拳から血が滴る。

天ツ鬼 >  
それしか知らぬと、女は笑う。
只人でないのは最早、百も承知。
では何者なのか──殴り合ってみれば理解るかといえば、否。
理解るのは特異な能力を有している。…そして、強いということ。

悪寒を感じた鬼の判断は正しかった。

「ぐ───」

よもや、その異形の拳が拉げ砕ける程の一撃。

「お、おぉッ……!!」

相手の攻撃から身を守るなど女鬼をして稀なこと。
が──、その咄嗟な判断は正しく。
人のモノと比べれば遥かに強固な筈の鬼の腕の骨は砕けていた。
だらりと、力の伝わらぬ己の腕などいずれか振りに見ただろうか───。

「人のことは、言えぬが…」

「加減を知らんのか!!!」

己の肉体が自壊するほどの力を笑いながら振るう…。
女鬼が感じた身の危険は十分すぎるほどに的中していた。

拳を受け止めたままに、目の前に在る女…ノーマの身体を目掛け、
無事なほうの腕を思い切り、振り抜いた。
掛け値なし、鬼の膂力を全て振り絞った全力を以って。

ノーマ >  
強い敵だ、怖い敵だ、敵だ、敵だ、敵だ。
敵は倒さなければ、敵は殺さなければ、敵は喰らわねば
衝動のままに、女は笑い、突き進む

「ぐ、ぅ、あ、はははは、あはははは!」

打ち込んだのは、言葉通り拳も砕けよという一撃。
それは双方の腕と拳を破壊し、無惨な有様にする。
異形の拳からは骨が突き出し、血が滴っていた。

「あは、あはははは。加減?加減、なんて、ねえ?
 それに。抑えてたのに、誘ったのは、そっちじゃない?
 あははははは!!」

砕けた拳の激痛走る中、それでも女は笑う。
闘いへ誘ったのはおまえだと。
狂気を呼び起こしたのは、おまえだと。

「それに、壊れたって……っっ」

渾身の腕が振り抜かれる。
鬼のすべてがこもった脅威の一撃。
砕けた拳ではどうにもならない。足では間に合わない。
その鋭い振りは女の顔面に吸い込まれていく。

――にたり、と女は笑った
笑って、口を、開けた
人にあらざる牙が生えた口を

ごぎり ぐじゃり

砕ける音、折れる音、裂ける音、水音
嫌な、音がした

天ツ鬼 >  
振り抜く直前、見えたものは。
笑う女の、一際異質な笑み。
闘争に誘ったのは己自身。
相手を人間であると見縊ったわけではない。
しかし──ここまでの怪物であると思っていなかったのも事実だった。

「ッッ、が、ぁ…ッ!!」

女鬼の表情が歪む。
嗤うではなく、耐えかねぬ苦痛に。

振り抜いた筈の女鬼の腕はそこには"無く"

「──、化物め」

人から見れば化物たる、鬼の口から漏れる言葉。
滲むじとりとした脂汗が頬を伝う。
下肢は灼かれ、拳を受けた腕は折れ。
そしてその顔面を振り抜いたもう一方の腕は──二の腕から先がなくなり、赤黒い夥しい血が溢れ溢れていた。

ノーマ >  
ごずん

女の体は壁に叩きつけられ、首は異様な角度に曲がっていた。

それでも女は、ゆらりと立ち上がる。首をごきり、と戻した。
 
「あ、ふ、は、は」

ぽだぼた、と女の口から血が滴り落ちた。
それは、鬼のものか自身のものか。

辺りには白いものが散乱する。
みれば、それは鋭い牙の破片だとわかるだろう。

ぐじゅり、と異様な水音をたて
生き残った手で口に咥えた鬼の腕を取る。

「おあ、まあ、うあい、あ……ん、んー」

女の口からこぼれたのは、言葉にならない言葉。
牙の砕けた口を閉じ、もごもごと、動かす。

「ふ、ぅ……鬼に、化け物、なんていわれる、とは、ねえ。
 けど、流石に、今のはやばか、った、なあ」

ややたどたどしいが、しっかりした言葉を口にする。
代わりに、笑いは収まっていた。

「ほんと、死ぬかと、思ったあ……
 ギリギリ、だった、よ。」

息も絶え絶え、という風情の言葉が漏れる。
実際、紙一重であった。
衝撃は強く、骨どころか首ごと飛んでいてもおかしくはなかった。
体を柔らかくし、全身をバネのようにして、衝撃を逃し、なんとかなった。
それでも、損傷は酷い。

「……まだ、やる?」

口についた血を舐め取って、女は問いかけた。

天ツ鬼 >  
「……鬼が人に喰らわれようとは、のう…」

──人ではないのかも知れないが。

「……腕を砕かれ、片腕をもってゆかれ、脚も用を為さん。
 文字通りもう手も足も出ぬわ。…好きにせい」

痛ましい姿で言葉を紡ぐ女同様、女鬼の消耗も大きい。
人と異なる肉体で在るとはいえ構造はほぼ同じ。
失血が招く緩慢な動きは、見れば明らか。
粒のような汗をじっとりと全身に浮かべ、浅くなった呼気に身を揺らしながら、その場に崩折れるようにして腰を下ろしていた。

小鬼ではつまらぬなどと欲を見せすぎたか。
見た目に侮ったつもりもないが、よもやの怪物。
痛み分け、とするには…まだやるのかと問いかける向こうに分がある。
故に、好きにしろと宣った。
どの道この様ではしばらくはまともに動けない。
この洞穴が小鬼どもの塒であるとするならば、目の前の息も絶え絶えの女が何かせずとも先は見えたようなもの、と。

ノーマ >  
「んじゃ……悪いけど、腕一本……だけ、もらう、よ」

ぐじゅり、ともいだ腕に食らいつく。
鋼の強度の腕をものともせず、ぐじゅり、ぐじゅり、と口にしていく。

ほどなくして

「……ふう」

一息をついた女は、まだふらつく足で腰を下ろした鬼の近くまでよって座り込む。
力ない座りようは、まだ本調子でないことを伝えていた。

「さすがに、うちも限界。これ以上は、無理。
 ちょっと休むよ」

はあ、と大きな息をついた。

「……これで、おしまい、にしよう。お互い、流石にきついって。
 はあ……ああ。」

そこで、思い出したように女は鬼に向かい合う。

「こんだけ、やって、いうのも、なん、だけど……全力って、やばい、ねえ。
 で、鬼さんは、さ。やりたい、だけ、戦えた、かい?
 それ、と……鬼さんは……あーいや、今聞くのも、あほらしい、けど。うちは、ノーマ。あんたは?」

天ツ鬼 >  
それもまた勝利者の特権。
言葉は返さずとも暗に"もっていけ"と肩を竦め目配せする。
鬼の肉を喰らう、人の姿をした、何か。
そこに何か、業の深さを感じずには居られぬものだが──今は、良い。

「…嗚呼、終わりで、結構。満足に動けも、せぬ。───が、我を生かしておくなら、次は負けぬぞ」

どこからそんな余裕が出てくるのか、あるいは余裕がなくともそう嘯くのか。
向かい合う女はやりたいだけやれたか、と問う。
さて、と鬼は薄く嗤い。

「今やれることがないのだから、やれるだけはやったじゃろう。
 嗚呼、名を名乗ってもらえるのは有り難いのう…我に名は…そうじゃな、アマツキとでも呼べ。
 互いに名を知っていれば、再び相まみえることが出来る、からのう」

無論理屈などはない。ただそういう気分になれるというだけである。
しかして、そういうことならばと、ふらつきながらも女鬼は立ち上がる。

「──やれやれ、満身創痍じゃ。
 ほれ、さっさと出るぞ…。それだけの力がありながら、小鬼どもの慰み者にはなりとうなかろう」

ノーマ >  
通常の食事だけでは足りない。強者の肉を食らう。
食らうことを、本能に刻みつけられてしまっている。
深い業を、鬼の肉とともに嚥下する。

「はは、うちは、さ。できれば、殺したく、はない、の。
 というか、まだ、やる気……なん、だなあ……やっぱ、"怖い"よ」

嘯く鬼に、苦笑する。
賭すものがあるほどに、強くなる――それは真実かもしれないな、と女は思った。

「うわ、早まった、かな……なんて、ね。
 次は、うちが、負けて、ても、おかしくない、ねえ」

名前を伝えることは、縁の始まり。
確かに、またどこかで相まみえるかもしれない。
しかし、もうあとには引けない。

「そりゃ、そうだ、ね。うちら、お互い……こんな、とこで、小鬼、程度、にやられ、ちゃ。
 ふう……悔いが残るって、もんだよね?」

ノーマもふらつきながらも立ち上がり、鬼と共に洞窟を出ていくだろうか。
まるで、戦友のようにも見える有様で。
しかし、互いの道は別々に。

天ツ鬼 >  
自身の腕が咀嚼されている様なぞ、普通の人間ならば怖気も走ろうというもの。
しかし鬼からすれば、他者を喰らうことなぞ特別なことでもない。気分が良いものではないが。

「やり合うておる時から、やたらとお主は怖がる、のう…。
 あれだけ笑っておったのだから楽しいとは思えんのか?」

やれやれ、と洞窟の入り口へと向かう間もそんな言葉を投げながら。
この日、ようやく互いの意見が合致したものが、小鬼程度の犠牲になるのは御免だ、ということだったが。
それはそれで、互いに互いがゴブリン程度の餌食になるのは勿体ないと思えたのかも知れず。

洞窟から出、斜にかかった山の赤光が照らす姿はまさに襤褸の如く。

「ではな、ノーま。必ずまた殺り合おうぞ。次は負けぬ」

息も絶え絶えの癖に言葉は力強く。
違う道を歩み出しながらも次の縁は予感していた。
なにせ己の腕を喰らった怪物。鬼の血肉を取り込んだのだ。

自身の肉がその一部になったのなら、さぞ闘争を好きになってくれることだろう。
まったく理屈も何も整わぬこと、そんなことえお鬼は帰路にて愉しげに考えていた───

ご案内:「九頭竜山・自然洞窟(過激描写注意)」から天ツ鬼さんが去りました。
ノーマ >  
「そりゃ、怖いさ。怖い、怖い。
 相手が強いのは、怖い。死んじゃうかもしれないしね。
 あっちは……おかしくて笑ってるわけでもないからねえ」

鬼の奇妙な問いかけに、肩をすくめて応える。
本能というべき部分は、ソレしか知らないのだ。

「……ま、楽しい、というか……気分はよくなっているのかもだけどね」

それが鬼の求めた答えかはわからない。
わからない、が

「……できれば、やりあいたくはないけど。
 ま、その時はその時、かな。ああ、まったく……」

怖いねえ、とつぶやき。
女は自分の帰る方へと去っていった。

ご案内:「九頭竜山・自然洞窟(過激描写注意)」からノーマさんが去りました。
ご案内:「平民地区 緑化公園(過激描写注意※)」に天ノ宮亜柚楽媛さんが現れました。
天ノ宮亜柚楽媛 >  
「はあっ♡ はあっ♡ ぅ、――ふあっ♡ はおっ♡ おっ♡ んぉぉ
 おお……っ♡♡ おっ♡ んふぃぃぃいい~~~~……ッ!♡♡♡」

朝と言うには若干遅く、昼と言うには些か早いそんな時間。
王都の各所に設えられた公共トイレの一室から、押し殺そうとも
出てしまったといった感じの甘ったるく爛れた喘ぎが漏れ響いた。
それから数分の後、両手ふきふきトイレから姿を現したのは、黒艶
の長髪と笹葉状の尖り耳、黄金の双眸が神秘的な趣を湛えた超絶的
美少女であった。

「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡ ―――や、やっ
ばいのぅ……ヒトというのは本当にヤバイ。なんじゃあれ……あん
なん毎日の様にひり出してへいちゃらな顔しとれる連中の体構造は
どーなっとるんじゃ…。妾、ソロで堕天するトコじゃったぞ……♡」

普段は雪白の柔頬を色っぽく紅潮させて、額から顎先へと珠汗を
伝わせる女神様は、ヒト種の有する快楽への耐性にド肝を抜かれて
いた。
その身がほのかに漂わせる饐えた汚臭は汲取式トイレが常々発する
ガスの付着か、はたまた女神様の尊孔からむりむりみちみち産み
落とされた穢れの塊の残滓なのか。
どちらにせよ公衆トイレを後にして、昼前の雑踏に紛れた身体は
程なくそれを霧散させることだろう。
何故ならば、お尻からの排泄行為が余りにも気持ち良すぎて本来で
あれば出す必要のない奥の奥にて熟成中であった物までぜぇんぶ
出してきたから。
その際桃尻に付着した汚れもまた、トイレ草で拭うではなく女神
ぱわーで綺麗サッパリ洗浄したので、いまの媛は穢れの存在しない
パーフェクトな聖体なのだから。

天ノ宮亜柚楽媛 >  
とはいえ、そこはヒトの身体。
どれほどに清めようともその身は穢れと無縁ではいられない。
いや、お尻拭っておまんこ拭わず、おしっこ汚れはばっちり残って
おったわてへぺろ☆ などといううっかり案件ではない。
行為自体は終えたと言えど、受肉してよりはじめての大排泄。
その余りに濃厚な肉悦の残滓が未だべっとりこびり付いている
その身の奥から、とろりと生暖かな樹液が溢れパンモロショーツ
のクロッチに沁みを広げたというだけの事。
甘酸っぱくもえちちなその匂いはまだ若い乙女の性フェロモン、と
言うかぶっちゃけオナニー臭であり、お澄まし顔の巫女もどきが
すれ違いざまにそんなフレグランスをお届けしてくるのはある種の
テロ行為―――なのだが、自分の匂いには案外気付かないというヒ
ト種の弱点をきっちり発現させている女神様は完璧無自覚。

「さて、朝っぱらからすっかり滾ってしもうたわ。これはもうアレ
 じゃな。征くしかあるまい? いざ、娼館街へと……!♡」

排泄快楽云々とはまた別に、これは以前から考えてはいた事だ。
ヒトの世のルールを奇跡の力で逸脱する事を覚えてしまった軽犯罪
女神様は、寝床問題については完璧に解消出来たのだけど、それでも
盗みはいかんじゃろという一線は踏み越えていない。
となると燃費の悪いヒトの身体は美味しいご飯を求めるわけで、
しかして駄女神の総資産は銅貨3枚。我ながらよくもまあ使わずに
貯金出来ているものよなと思うくらいの極貧状態。

ご飯を食べるにはお金が必要で、お金を得るには労働が必須。
だけども女神様があくせく働くってどーなのよ。
そうして悩みに悩んだ亜柚楽媛が遂に到達した真理というのが

『セックスも出来てお金も稼げるとか最高じゃろっ♡ 娼婦! 娼婦
 じゃっ! 今のトレンドジョブは娼婦一択じゃよっ!』

という実に浅はかで短絡的な結論。
ちょい前までは、" はじめて " をそんな風に終えてしまうんは流石に
のう…とためらいも覚えていたのだけれども、その " はじめて " を
終えた今ならなぁんも問題はあるまいて!

天ノ宮亜柚楽媛 >  
意気揚々歩き始めた駄女神様の後ろ姿は、程なく緑化公園から立ち
去っていった。目指すは白昼の娼館街! 多分お昼すぎとかに到着
する事だろう。

ご案内:「平民地区 緑化公園(過激描写注意※)」から天ノ宮亜柚楽媛さんが去りました。