2023/11/06 のログ
ご案内:「タナール砦」にサテラさんが現れました。
ご案内:「タナール砦」に”徒花”ジョーさんが現れました。
”徒花”ジョー >  
タナール丘、砦群の一角。
国防の要であるこのような戦地には滅多に来ない。
来るときは精々、魔族の古い友人に出会いに行く時位だ。
このような仕事では、滅多に来ることはない。
かつん、かつん。灼けた大地を杖で踏み鳴らし、戦地を進む。

「……この辺りは魔族の領域のはずだが……」

片手に持った地図を一瞥するジョーの顔は渋いものだった。
というのも、受けた依頼が今一釈然としないのだ。
内容は【砦で難民と成った民間人の救出】と言うが、こんな戦地にいるほうが珍しい。
いるとすれば、おそらくは魔族側から逃れた人間だろうが、こうも都合よく行くものか。
依頼主のツテで付けられた二人の傭兵も何も知らない様子だ。

「……うんざりするな……」

溜息を漏らさずにはいられない。
目標地点目前で目を凝らすと、確かに薄っすらと人影が何名か見える。
ざっと数十名ほどだろうか。思っていたよりは多い。

「……アレか?」

見た目はそのように見えるが、身なりが随分と整っている。
魔族の方から逃げた奴隷、というふうには見えない。
人に擬態した魔族…にしてはおかしい。訝しむジョーの瞳が、僅かに見開いた。

「人間と、魔族……?」

そう、難民と言われた連中には魔族が混じっていた。
青肌の人と異なる風体の男が、付近の人間を慰めている。
あれは難民とは呼べない。どういうわけかその場から動けないようだ。
きな臭さが一気に増した、その時だ。

サテラ >  
(――間に合って)

 ナグアルの治安維持部隊から、行方不明者が多数報告されたのが一昨日のこと。
 その後、五区を出入りした中で怪しい連中を調べ、実行犯を特定したのが昨日。
 その怪しい商人の元に殴り込んだのが昨夜。

 そして、行方を吐かせて夜通し走り続けて、砦を目指して今に至る。

 夜間は人目を避ける必要もなく、四つの脚で走れたが、昼間になれば人目を避けつつ、人間に擬態しなければ道中で足止めされるのは必至。
 しかし、速度はどうしても落ちてしまう。

(転送魔法が使えたら――)

 サテラは四元素以外の魔法はどちらかと言えば不得手であり、転送魔法も馴染みのある場所や安定した座標でなければ使えない。
 頻繁に戦闘が繰り返され、魔力の流れも乱れる砦周辺など、とてもではないが頼りに出来る習熟度ではないのだ。

 だから、ただ走り、飛び、空を蹴り。
 長い時間をかけてようやく、砦の壁を飛び越え。
 ようやく、その視界に愛する民を納める事が出来た。

(間に合った――!)

 人間と魔族が混ざった一団。
 彼ら彼女らがなにも出来ずにいるという事は、誘拐される時に何かをされたのだろう。
 しかし、なんであれ関係ない。
 己が、全員を助けて連れて帰ればいいだけの事なのだから。

「――みんなっ!」

 土煙を上げて地に降りれば、掛けた声に民が顔をあげ、希望を見せる。
 数人の人間が視界に入っていたが、民達に手を出そうとするなら、その前に制圧すればいい、その心算で地面を蹴るために、人間体の細い膝をぐっと屈めた――。
 

”徒花”ジョー >  
「…………」

この不死者の両目。翠の双眼は人よりよく物を映す。
動けない民間人達はどうやら暗示の類で動けないようだ。
意思を無視した支配の魔術。手の込んだ魔術だが、わざわざ難民に掛けるものではない。
かつて、戦地で名を馳せた感が脳裏に過ぎらせる最悪の結末────。

「まさか……────!」

目を見開き、声を張り上げようとした。
だが、全ては轟音と土煙がそれを遮った。耳を劈く火薬の音。
両目を潰すほどの眩しい光る。紅蓮の炎が夜中の夜明けとなっている。
爆風がマントと衣服を激しくはためかせ、土煙を防ぐために顔を腕で覆った。

「(きな臭いと思ったが、わざわざこんな用意を……しかし、これでは……)」

戦地では、人が考えるよりも簡単に生命が軽んじられる事がある。
此れはその典型。民間人を"罠"にした爆撃。
恐らく、彼等の足元に大量の爆薬が仕掛けてあったのだろう。
生存者は恐らくいない。多量の"肉"が灼けた大地に試算し、血が大地により一層灼け付いた。
更に向こう側に人影も見えたが、果たしてアレは無事──…。

「……!おい!!」

土煙が舞い上がる最中、左右にいた傭兵が駆け出した。
両手にはダガーナイフ。爆炎を巻き上げ、随分とわざとらしく向こう側にいる人影、サテラへと飛びかかる。
受ける前から、胡散臭い依頼だとは思ったが、これは想像以上だ。
声を張り上げて静止しようとするも、当然止まらない。凶刃がサテラへと迫るが……。

サテラ >  
 その瞬間はスローモーションに見えた。
 それは、サテラの高すぎる動体視力が見せた悲劇か。

 轟音と土煙に混じる、血風と砕け散る肉片。
 己を見つめて希望を感じたまま、高く飛ぶ首――。
 
「あ、あ、あああああアアアアアア――ッ!」

 叫びながら炎の中に飛び込んでも、すでに、誰ひとりとして抱きしめられる民は、残っていないだろう。
 冷静な己が、全て手遅れだったのだと頭の中で囁く。

 鼻は血と火薬の臭いで役に立たなかったが、煙の向うから近づく気配は肌が感じ取っている。
 あまりにも小さく、取るに足らない――けれど、神経を逆なでする悪意と殺意。

「――妖精剣(シルヴァン)ッッ!」

 鮮緑の魔法陣から顕れた柄を手に取り、細身の剣を引き抜くと同時。
 音よりも早く、ダガーを持った傭兵二人の首が宙を舞った。

 ソニックブームによって、爆炎と炎が吹き飛ぶ。
 その場に残っているのは――誰の亡骸かもわからない、生命の残骸だけ。

 状況を監視していたのだろう、駐屯していた兵士たちは何もわからないままだったろう。
 そして、何もわからないまま、首と胴が生き別れる事になる。

 数十の人間を瞬きの間に斬殺したのは、怒り任せの音速の刃。
 最後に、その翠眼の男が残ったのは、本能的にその強さを察していたから。
 今、この場所で、たまたま最も男が強かったというだけの理由。
 だからこそ、男にその凶刃が向かわない理由はない。

 音速を超えた人体の動きに、空間が爆ぜ、視界を曇らせていた煙が吹き散らされる。
 そして、愚直なほどに真っすぐ正面から突進するサテラは。
 翠眼の男へ、その首に向けて、妖精の剣を横薙ぎに振るった。