2024/06/30 のログ
■ラスト > (此れだけの軍勢が入り乱れる戦場は、常に軽い地鳴りが起きているに等しい
だが、刹那に、一際大きな衝撃が巻き起これば、其れが地を揺らし
変化を戦場の至る所に伝えるのは、自明の理だ
吹き飛ばされた魔物達の先、魔族軍の中心に向けて僅かな間、路が生まれる
なれば、乱入者たる鬼の視線が、確かに。 将であろう魔の姿を捉えるだろう
傍目には、襤褸布を纏った浮浪者にも見えよう。 だが、鬼が地を蹴った其の瞬間
誰よりも早く其れに気付き、視線を向けたのは――其れ、で在ったのだから。)
「………面白いのが来たな。」
(大抵は、兵力の差で決着が付く事が殆どであった故に
軍を割り、将にまで飛び掛からんとする輩なぞ久方ぶりだ
想定にない急襲に、他の兵達は反応が遅れる。
路を塞ぐ様に位置して居た兵は少数居れど、鬼の行く手を押し留めるには至るまい
――将を護衛しようと、前に出ようとした側近の方を押し留め
迎え撃つ様に、自らが前へと歩みを進めれば。)
「――――――折角の愉しみを奪うな。 ……兵の立て直しは任せるぞ。」
(――対峙するのだ。 構えるでもなく、ただ、泰然自若と相対し。
鬼を、迎え撃たん、と)。
■宿儺姫 >
割れた軍勢、先で迎えるは威を放つ巨躯の魔族の男か。
傷ついた肉体なぞ気に覓めず、己から散る血風を其の儘に。
対峙するその双剣の持ち主へ。
「貴様が大将首か──」
女鬼がその獰猛な笑みを深め、双眸を見開く、
良い、実に良き強者の気配を感じ取る。
今宵王国の軍が大敗を喫する大因、此処に在り。
「呵呵…!その御首、千切りとららせてもらおうぞ!!」
闘争心湧き立つ女鬼は止まることすらしない。
肉薄する刹那、右腕を振り被り──その爪を振り下ろす。
切れ味は…然程でもない。ただ力で抉り、裂く一撃。
竜鱗で拵えられた甲冑ですら容易く引き裂かれよう一撃を、その図体の首目掛け、放つ──!
■ラスト > (其れが"何"であるかは、己の興味を引く所であった
鬼、と言う存在を正確に知る訳では無い。 特に、大陸違いの異種族であれば尚更。
この大陸で近いのは、軍勢にも多く居るオーガであろうか。
だが、其れも一部の特徴が似通う程度、同じ特性を持つ別物と評した方が正確か
兵としてでは無い、まるで獣として、埒外の暴力、其の権化として爪を振り上げるなら
迎え撃つ己も又、獣として相対するのが一種の礼儀と言う物であろう
躊躇なく、急所である首元を狙う其の爪刃が、剛力を以て振り下ろされれば
――牙を剥く。 口元に弧を描き、獰猛なる獣の如くに嗤い。
片腕で、手首の辺りを掴む。 襤褸の下、隆起する筋肉を以て其の一撃を正面より受け止めれば
自らの両足が、受け止めた衝撃を其の儘に、地面に僅か減り込み。)
「――――――……やって見るが良い、女。 俺の首は、そう易い物では無いぞ…!」
(右腕を、返す刀で振り上げる。
女の鳩尾辺りを狙い、拳を叩き込まんとする。
獲物は用いぬ、まるで女の土俵で相手をしてやると、そんな挑発の意味すら込められた物だ
―――喧嘩をしてやるのだ、と)。
■宿儺姫 >
「───!!」
受け止めた!?
恐らくは、大型のオーガですら叩き潰すだろう威を秘めた一撃を、その剛腕は止めてみせた。
「ぬ、ぐ…!!斯様な‥!?」
掴み上げられたその手首がめき…ッと軋みをあげる。
凄まじき腕力。それを振り解かんと力を籠めた──刹那。
「ぐは───ッッ」
剥き出しの鬼の腹へ、一撃が叩き込まれる。
雄の拳にブ厚い樹脂を被せた巨岩を殴るつけたかのような感触を返しながら、後方へと弾かれるように、飛ぶ。
「──、く、ふッッ……面白い、やらいでか…!!」
わざわざ拳での一撃。得物は使わぬと。
周りにいる魔物の軍勢ですら、手を出さないつもりか。
男の強者たる佇まいに身震いすらも憶える。
厚手の鎧を折り重ねた様な女鬼の腹にうじ黒い打跡が刻まれる。
鋼の如き肉体、と比喩されども…目の前の強者は鋼鉄なぞ軽々しく力にて破砕してみせるのだろう。
沸き立つ沸き立つ。真正面から力の勝負が出来る相手なぞそうはいない。
「──かぁぁぁ…ッ…!!!」
その四肢に力を漲らせ──再び、地を蹴る。
放つは回し蹴り。大木に蹴り込んだとて安々と蹴倒そう筋骨漲る豪脚で以って、男の胴を薙ぎ払う。
■ラスト > (側近の男が、其の衝撃に僅か眼を見開いた
逆だ、力を以て、其の攻撃を"受け止めさせた"事が希少な事
有象無象の兵の一撃など、受け止める事すら不要な程に鍛え抜かれ
そも、脆弱な人間とは比にならぬ程に抜きんでた"個"で在るこの将が
直接の打撃を防いだ、と言う事が、襲い掛かって来た鬼と言う個体の剛力を物語る
側近であるが故に、この将の異常さを良く理解して居るのだ
だからこそ、其れと殴り合う異形の女、と言う事の異常さも又。)
「――――……骨にまで響く感覚は、久しいな。
……其れなりに、殴り殺す心算で殴ったのだが……良いぞ、そう簡単に終わってくれるな、女…!!」
(久方ぶりの喧嘩だ、愉しまねば損と言う物。
戦いを渇望して居ると言う一点に於いて、正しく同類で在ろう愉悦の笑みを浮かべながら
放たれる蹴りを、腰を落とし、片腕で壁を作って受け止める。
――激突の瞬間、地面の方が支えきれずに、将の身体が横へと滑る。
地面が抉れ、其れでも雄の胴は折れる事無く、揺るがない
硬い筈の土壌に片足を減り込ませ、踏み止まれば。 その足を今度は支えに、自ら踏み込み。)
「…………ぬ、おォ………ッ!!」
(蹴り終わりの隙を狙い、今度は自らが片腕を伸ばせば
其の脇腹に向けて拳を振るい、鋼其の物に等しい硬度の肉へと、減り込ませんと)。
■宿儺姫 >
見るに鍛え上げられた豪脚一閃。
明らかに先の一撃よりも疾く、重いそれを──。
「…ッッ。砕けぬ、とは…っ!」
相手が巨竜であったとて、頭部に蹴り込めば昏倒させる程の力を籠めた。
それを片腕で防御り切るとは──。
ぞわり、と悍け立つのは武者震いか、それとも───危機感か。
低い唸りと共に、豪速の拳が放たれる。
避けるか、防御るか。
否、その様な気性はこの鬼には、ない。
本当に牝であるのかと疑わしい程に、荒々しく獰猛な笑みを浮かべた女鬼は蹴りを振り抜いた勢いを殺さず。
此方もくれてやろう、と言わんばかり、今度は爪撃ではなくめきりと握り込んだ拳を打ち放つ。
守るべき腕はそこになく、素通りした雄の凶拳は女鬼の脇腹へ深々と突きささる。
鋼であろうが粉砕するろう拳が、鬼の強靭なる肋骨を折り砕く鈍い音を響かせながら、女鬼の腹を大きく拉げさせる。
──されど、脇腹を狙う拳を意に介さず放たれた鬼の拳もまた巨躯の雄の顔面へと向かい、振り抜いていた。
■ラスト > 「そう易々と、砕けてはやれんのでなァ…
だが、貴様の其の強さは良いぞ。 俺の配下に加えたい位だからな…!」
(強き者ならば、野放しとして再び相見えるのも又愉しみだが
将としては、其の力を手中に収めたく在るのも又悩ましい
洗練された武とは言い難い。 術理に沿って居るとは言い難い。
だが圧倒的に、個としての強さを持つ異形なれば、紡いだ言葉は決して戯言では無い
振り抜いた拳が、女の脇腹を抉る。 手応えは十二分に、骨を砕く感触すらも伝う。
だが、まるでそれすらも意に介さず、勢い任せに反撃を続行する鬼の
身を削りながら、肉を切らせ、骨を断たんとする其の箍の外れた選択に
――一瞬確かに、嗤った。
ぶち込まれるであろう鋼鉄の拳は、至近距離、逃れられない位置で炸裂する
其の儘振り抜かれれば、肋骨どころか腰骨まで持って行きかね無かっただろう雄の拳が
女の拳によって、攻撃は最大の防御で在ると示すかに離れれば
ぐらりと、一瞬雄の身が後ろへ傾ぎ――)
「―――――其の意気や、良し…!」
(後ろへとたたらを踏む――のでは、無く。
軟であれば、顔面ごと潰され、人相すら分からなくなって居よう拳を
一歩踏み出す事で、敢えて其の儘、顔面で押し返せば
――微かに、血の気配が漂ったであろう其の刹那
振り抜く頭を、渾身の頭突きを。 雌鬼の額めがけて、渾身の力を乗せて、叩き込まんとした)。
■宿儺姫 >
「っが、ぐ…ッッ!!」
なんたる拳。
竜の尾撃にも耐えよう鬼の胴を見事に拉げさせたその膂力。
単純な力勝負で、上を往かれるか。
「(我の肋を容易く破壊するとは…恐るべき剛腕…!!)」
しかし、やることもやれることも変わらぬ。
「こ、此程の剛力。かつての里の雄鬼にも居らなんだぞ」
ただ力で以って叩き、潰し破壊する。
その身にて圧壊することしか知らぬ。
再び、力を漲らせその拳を握る。
腕の筋肉が隆起し、先の一撃以上の力を乗せていることが見て取れる。
しかしそれよりも疾く───
「───!?」
互いの上背の差からすれば、其れは降ってくるに等しかった。
強烈な衝撃に脳を揺らされる。拳を握り込んだまま、片膝をつく女鬼は瞬間、起こった出来事を理解できていない様にその双眸を見開いて。
直後、その足元が大きく球形に石畳が破砕され──その渾身の一撃の威力を物語っていた。
其れでもなお、叩き潰されずに膝をつくに留まったのは有余る膂力の為せる業か。
■ラスト > (驚愕は――傍に居た兵達にも、同様に広がって居た
骨と骨が衝突する痛ましい衝撃音の直後、膝を付いた鬼と兵の目に映るのは
ぼたり、ぼたりと落ちる鮮血。 額が裂けたか、顔面を血に塗れさせた将の姿
かつて、其処にまで至らしめる事が出来た者はそう居らぬ
例え、其れが"喧嘩"と言う、少々特殊な流儀の中であったとしても、だ
見下ろす雌鬼にもまた、流れ落ちる鮮血が、ぼたり、ぼたりと肌に落ちるやも知れぬ
だが、見上げれば。 其処に有るのは、爛々と輝く瞳。 鬼を真っ直ぐに見下ろす、揺らがぬ瞳
投石機の弾が地面に落ちたような衝撃で、丸く凹んだ其の中に
――壊れる事無く、互いに其処に有ると言う事が、どれ程に異常かと言う事を
他の誰もが、肌身に感じているのだ。)
「………俺に、純粋な力で張り合う女が居るとはな。
……貴様、名は何と言う。」
(戦いの最中、一瞬とは言え思考を止めて仕舞った時点で
特に、防御と言う物を捨て去り、攻撃する事のみを信条とするような雌鬼の流儀では
其れは致命的な隙に他ならぬと、嫌でも理解出来よう
例え再び拳を振り上げようとも、脳が揺れた今では、先刻ほどに拳は握れまい
崩れ落ちて居ないだけでも称賛に値する、と。
――名を問うたのは、一種の賛辞だ。 有象無象では無い、名を覚えるに値する、と。)
「……俺はラスト。 魔族領、グレイゼルの領主であり、王だ。
……俺に傷を負わせたのは、貴様が久しぶりだ。 …誇れ。」
(王である、頂点捕食者たる己に手傷を負わせたのだから。
だが、其れでも。 己の方が強者であると言う、其の事実を知らしめながら。
――流れる血を、片腕でぐいと拭い払った)。
■宿儺姫 >
一拍遅れて、女鬼の額から鮮血が噴き出す。
そして、立ち上がる。
女鬼もまた、額から流れる、人のものと変わらぬ赤い血を、腕で拭い去り。
「宿儺。遠方の霊山では鬼姫と呼ばれていたこともあったかのう」
爛と滾る翠眼。
上から言葉を投げかけられるのは。勝敗が喫した後。
そう決めている女鬼からすれば、その言葉は挑発に他ならない。
例え眼の前の超雄が己を強者と認め送った賛辞だとしても。
「──が、誇れ? 勝ち誇るのは、まだ疾かろう…!!」
単純な膂力は、張り合うなどと口にしながらも、格上か。
去れどそれが拮抗の範疇たれば、力を高め一点に集中すれば上回ることは可能。
片手、片足、それで打倒と思えばこそそれが甘かったかと牙を剥き、地を蹴る。
雄を見上げていた女鬼は一転、雄を見下ろす。
真上に跳躍し、その両手を頭上で組みあげ───。
「斯様な戯言、我を完全に捻じ伏せてからほざけ…ッッ!!!」
肋を砕かれたダメージは残る。
しかし避ける守るも知らぬ女鬼は、痛みなど慣れ親しんだもの。
頭上に掲げ両拳、碧雷を纏い振り下ろされる渾身の一撃を、強敵に向け、叩きつけんと──。
■ラスト > 「……完全に、か。
……どうやら、叩きのめされなければ納得出来んらしいな、貴様は。」
(――だが、名は聞いた。 己の知らぬ地の名だ。
名前の紡ぎ方としても、この近辺の出自では無いのだろう
未だ、瞳が死んで居ない雌鬼を前にして、勝敗を決め付けるには早かったかと
口端を吊り上げ、そして跳躍する其の影を、見上げた
迸る雷、先刻までとは比にならぬ、強大な圧力
空気が乾き弾けるかの音が響き、周囲にいた雑兵が、怯える様に其の場から離れて行く中
――その場から離れる事も無く。 自らの右拳を握り締めれば。)
「……なら応えて遣ろう。 貴様に引導を渡して遣る。
出し惜しみするなよ。 貴様の全てで以て俺に挑め。 ……来い、宿儺。」
(――拳から、否。 全身から、女とは異なる白き雷が迸る。
骨が砕けた痛みも在ろう、だが、この瞬間、この一撃に、全てを掛けた雌鬼の意地を
受け止めて遣れずに、強者を求め歩くだのを語れようか。
地面に足を埋める程に踏みしめ、重力に従って落下し来る鬼を待ち受ける
其の両拳が、粉砕の一念をもって振り下ろされるならば
其れを、自らの四肢のみで以て受け止めんとするのだ
両腕を交差させ、十字の中心点で受ける雌鬼の一撃
発した雷によって強化された膂力で以て、漸く並ぶであろう渾身の其れは
まるで杭打ちの如くに己が両脚を地面に減り込ませ
果たして尚も、己が体躯を大地に埋めんと折衝する
だが――沈まない。 其れ以上は、決して沈む事が無い。
女が全身全霊を以て放つ一撃で在るからこそ、力で以て応えるのが流儀
――強烈な砂煙が渦を巻き、周囲の視界を一瞬遮る
程なくして視界が腫れ、周囲が目にしたものは
苛烈な、正しく鬼神の如き一撃を、完全に受け止め切り
其の上で、鬼の両手頸を戒め、力比べの様相で、其の自由を奪えば。)
「…………捻じ伏せて遣ろう。」
(――其の儘、押し込む。 女の手首を圧して、唯の、純粋な膂力のみで
其の身を、地面に組み敷き、其の背を地に縫い留めて仕舞わんとする、か
ねじ伏せると言う言葉を模して。 ――今度こそ、何方が勝者と呼べるかを、知らしめてやる為、に)。
■宿儺姫 >
勝つにせよ、負けるにせよ。
このような出会い、そうはない。
数度拳を交わし、打ち据えたのみで終わるなど余りにも勿体無いが過ぎる。
そして渾身の一撃を迎える雄は…おそらく同類。
性を隔てつつも、似たもの同士であることは肌が感じている。
故に、この一撃からも逃げることはしないだろうことは理解っていた。
「砕けよ、ラスト…!!!」
己の全力をぶつけるに相応しい雄の名を咆えながら振り下ろされる一撃は──。
衝突した、二人を中心に暴風と雷が迸る。
それは、雄の部下らしき魔族がその場を離れた判断正しく…その場を崩壊させる程。
しかし───。
「っ……莫迦な」
巨竜の首ですら圧し折れるだろう一撃を、眼下の雄は完全に、防御けきっていた。
これほどの雄は、同族であってすら見たことがない。
さしもの戦狂いの鬼とてその光景には瞬間、呆気にとられていたか。
「──っぐ、あ、ぁああ゛あッッ!!!」
両の手首を掴み締め上げられ、崩落した石畳へとその背を強かに叩きつけられる。
圧倒的膂力。頑丈な筈の女鬼の両腕が、痛烈に圧された手首を中心にその骨が砕けてゆく音が響いた。
「ぐぅ…ゥゥゥッ…!!!」
獣が唸るかのように、眉間に皺を寄せ、己を地面に縫い留める雄へと鋭い視線を向ける。
最早両腕は用を為さぬ、跳ね除けようと残る力を籠められるは、両の脚と胴のみ──…。
■ラスト > 「……其れは俺の台詞でも在る。
馬鹿力も、此処まで極まれば清々しい程だな…。」
(――怪力自慢の魔物は多くいる。
己が舞台にも、オークやオーガ、巨体自慢の者達が、重装兵として従軍して居る
だが、其れ等とは比較ウにならない。比較するまでもない膂力を、鬼は見せたのだ
この場において、これ以上雌鬼に挑もうとする愚か者は居まい
今の一撃を絶え凌ぎ、あまつさえ逆に組み敷しけるなぞ、正気の沙汰では無いのだ
此方を見据える眼光はなおも鋭い食う、勝負を諦める様子は無い
手足が例え断たれても、尽きる事もなさそうな闘争心の儘に
尚も抗おうとして居る様を眼下に見下ろしながら
砕いた手首では、まともに力は籠められまい
だが、其の上でも隙あらば首を獲らんとする様相に。
最後の一瞬迄勝負を諦めようとはしない姿に
此れこそが――己が求め、そして忘れかけて居た物だ、と。)
「……此処でやめて置けと言っても、貴様はもう止まらんのだろう
……なら、徹底的に壊して遣ろう。」
(砕けた手頸を片腕に纏めて戒めれば、右の拳が降り上げられる
自らの重みと共に地面に押さえ付けて居る雌鬼の、其の両脚を
筋肉と言う鎧の隙間を縫う様に拳を叩き付ければ、容赦無く骨を砕きにかかる
中途にした所で、この鬼は止まらぬ。 ならば、認めざるを得ない程に、徹底的に壊してやる他ない。
一撃で壊れなければ、二度三度、幾らでも拳を振り下ろして、丸太の様な蹴りを放つその足を
無力化して行く。 ……蟲を、標本とする前準備の如くに
そうして、四肢を奪い、無力化した所で。
再び振り上げた拳の切っ先が、果てに――雌鬼の、顔面に向けられる
――己は、女であろうと戦場に現れたからには、容赦無く殴る、と
脅しではなく、事実を一言、教えながらに
まだ、負けを認めぬのかと、そう問うのだ)。
■宿儺姫 >
口で囀る暇があるならば相手を叩き、潰す。
言葉を投げ下ろすは勝者の余裕か。
しかし己はまだ負けていない。
己が求める闘争は死合いで或る、故に──。
「ッ、ぁ、が───!!」
女鬼の唸る様な、悲鳴。
並の鉞を振り下ろそうと断たれぬ強靭な両脚を無双の剛力にて砕き折られ…。
鬼はその四肢から力を失う。
鋼の鎧のような腹を貫き、その四肢まで砕いてみせた拳が振り上げられる。
それが降り下ろされれば鬼の頭蓋は砕け、完全に決着がつくことは明瞭だった。
「っ、ぐ……」
その女鬼の表情は、かくも悔しげな。
それまでに浮かべた、ダメージや損傷の際に見せた苦悶の表情よりも遥かに、苦渋を舐めた様な貌だった。
…このような強敵、そうはいない。まだ戦り足りぬ。が……。
「──我の負けじゃ。恐れ入った」
悔しげに紡ぎ出した言葉は、完結に。しかし。
「次は貴様を砕いてみせるぞ…粉々にな…!」
諦めの悪い、そんな素振りは変わらなかった。
■ラスト > 「……言った筈だ、意気や良しと。
貴様が足らんのは初めから判って居る。」
(拳が、振り遅される事無く制止した儘、幾ばくか
結果雌鬼の唇から零れた言葉は、漸く敗北を認める物
手足を折られて尚も粘ろうとした苦渋の表情には
くつくつと笑いながら、理解を示そう。 ――何せ、其処は同類、故にだ。
負けは認めながらも、早々に次の機会を伺うと言うなら
くつくつと笑いながら、其の逆襲すら歓迎の意向を示すのだ。)
「所詮張り合いの無い戦場よ、貴様の様な不確定要素が紛れて居たとて
其の方が余程楽しめると言う物だ。」
(故に――今は、大人しくして置けと言う
少なからず己が軍勢を薙ぎ払って居るのも事実
将としては、其れを無視する事は出来居ないのだ
これ以上抵抗をするようならばその時は、其の顔面を砕く他無い
……だが、認めた途によって拳を下ろす。
手首を戒めていた片腕も、其の拘束を程なくして緩めれば
代わりに、雌鬼の身体を、ひょい、と肩に抱え上げて。)
「暫くは、貴様の身柄を預かって遣る。
何、タナールまではそう遠くない都市だ。 貴様の手足が戻り次第、駆け込む様にすれば良い。」
(だが、逆に言えばそれまでは、諦めて己が領地で治療を受けろ、と
そう、告げながら、戦利品の如くに雌鬼を肩に抱えつつ
――同じように、既に趨勢の決して居る戦場から
先んじて、踵を返そうとするのだ。 後の事は、側近の男に任せる、として)。
■宿儺姫 >
人間の女を遥かに超える目方の女鬼を軽々とその肩に抱く。
あれだけの膂力たれば造作もないことか、と。
じくじくと実感する力の差に嘆息する。
真っ向から力と力でぶつかり、然程も息を切らせた様子を見せぬ超雄に。
「あ゛ぁ……随分と偉そうじゃな…王だとか抜かしておったか…」
王を名乗る者ならその傲岸不遜な物言いも頷ける。
どの道、破壊された手足が効かぬでは何も出来ぬ、抵抗すらも。
「治療は不要。
この程度なら放っておけば直に治る。──それよりも」
旨い酒がそこにあるならいいが。
そう言葉を零しながら、男が踵を返し向かう先。
話には聞いたことのある、城塞の或る都市へと。
已む無くしばしの時、身を窶すことになるのだった。
……無論、その間にもいくらも男との再戦要求を繰り返していたのだろうが──。
ご案内:「タナール砦(過激描写注意)」から宿儺姫さんが去りました。
ご案内:「タナール砦(過激描写注意)」からラストさんが去りました。