2025/05/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に篝さんが現れました。
■篝 > 日暮れ時――。
帰還した冒険者達でギルドが賑わい始めると、必然的にギルドの向かいに構えるこの酒場も人が増えてくる。
ギルドに隣接した酒場がいっぱいで入りきれなかった者や、寝床も一緒に確保したい根無し草の多くが此方の店へ足を運ぶ。
街の外の世情を聞くには、街に住む者よりもまれびとの話に耳を傾けるのが良い。
酒で口が軽くなった冒険者たちは、こっちが何も聞かずとも、あっちから「聞いてくれよ」と愚痴を零してくれる。
黙って頷き、時々酒を勧めてやれば良いだけなので楽だった。
「…………」
洞窟へゴブリン退治に向かったは良いが、壁にぶつけて剣が欠けたと嘆く駆け出し冒険者。
それを慰めアドバイスする先輩冒険者もいれば、馬鹿だと笑い上戸で馬鹿にする中堅冒険者もいる。
そんな彼らの話を大きな長テーブルの隅に座り聞く寡黙が一人。
チビチビと舐めるように酒を飲みながら、中堅冒険者がこっちに同意を求めてくるのを眺め首を傾ぐのだった。
■篝 > 小柄は顔も頭も布で覆い隠す黒づくめ。
ストールの隙間から覗く赤い瞳しか見えず、酒を飲むために少し布をずらすくらいでしか肌を見せない。
相席しただけの僅かな時間の中でも寡黙であることは皆がよく理解していた。
暫く考える素振りを見せた後、小柄がグラスをテーブルに置く。
皆が「お?」と視線を向ける。
「……洞窟での、依頼に……長剣を持ち込む行為は愚かです」
男とも、女とも、大人とも、子供ともわからない奇妙な声に眉を潜める者、驚く者、反応は様々だった。
が、それを気に留めず淡々と抑揚のない声で小柄は続ける。
「――が、酒に呑まれ他人を嗤う行為はそれ以上である……と、考えます。
快、不快で言うならば……不愉快です」
率直な感想を言い終え再びグラスを傾け始める姿に、顔を見合わせた他の冒険者たちは肩を竦めたり、つまらなそうに酒を煽ったり、また千差万別であった。
■篝 > 急に白けてしまった場の空気に密かに戸惑い。
「…………?」
ほんの少し頭を右へ傾けるが、誰もその原因が小柄にあるとは教えてくれなかった。
唯一、駆け出し冒険者だけは困ったような笑顔とフライドポテトを小柄へ向ける。
その意味もよくわからないまま、小柄は黙々と差し出されたポテトを齧るのだった――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から篝さんが去りました。
ご案内:「とある貴族の屋敷・庭」にナランさんが現れました。
■ナラン > 朝から降っていた雨はすっかり止み、切れ切れの雲の合間から星々の輝きが見える。地上と同じく空にも風がほとんど無いのか、月の端を遮る雲はゆっくりと動いている。
王都郊外、とある貴族の屋敷。
余程力のある貴族なのか、屋敷を囲う壁の中には大きな庭があって、今の季節色とりどりの花が頼りない月光の下でもなお彩を競っている。庭には潅水の用途も兼ねているのだろう、小さな噴水からせせらぎが横切っていて、いまはそのさらさらという流れの音だけが夜の庭を満たしている。
その庭に、迷い込むような影がひとつ。
庭を迷路のように区切る背の高い生垣の合間から、噴水を見付けるとほっとしたようにその流れの方へと向かう。スカーフを被ったその姿は女の様だ。下生えを踏むその白い脚はなぜか裸足で、華奢なヒールのついた靴はつづいて現れた白い手にぶら下げられている。
噴水の端に腰掛けると、女は靴を傍らに置いて自らの踵に触れる。
僅かに顔を顰めて、そっと覗き込む様に足元を見ると果たして踵は朱く擦り剝けてしまっていた。
「…… 大丈夫だと、思っていたんですけどね…」
■ナラン > 護衛対象を無事送り届けて、今宵の夜会の警邏までが仕事。
警邏の仕事自体は全く問題なかったけれど、招待側の貴族の意向で普段の恰好で夜会の会場に現れるのが良しとされず
その場でお役御免―――とはならならず、お仕着せをあつらわれた。
ドレスは、まあ動くのに問題がなかった。髪をスカーフで隠すのも了承してもらえた。
ただ靴は、ヒールのあるものにそもそも馴染みが無く
散々躊躇い、何度も歩いたり走ったりして これならば、と思い切った、ものの。
歩いている内に痛むようになり、それからしばらくして不思議と痛みがなくなった。
しかし、本当はなくなったのではなくて、痛みに対して鈍くなっていただけの様だった。
踵に指を這わせながら、はぁ、と思わず吐息がこぼれる。
行動に響く怪我は、冒険者として致命傷だ。明日にでも治すための治療で、早速稼いだぶんを使うことになってしまいそうだ。
■ナラン > 脚をやわらかい草の上に投げ出して、噴水の淵に後ろ手を付いて改めて辺りを見た。
この辺りには薔薇がとくに植えられているようで、白、薄い赤、ピンクに深紅、紫に、薄い青に―――あれは、緑色といっていいのだろうか?
溜息の代わりに深呼吸をすると、その空気の中の花の香りが解る。
一際つよいのは矢張り薔薇だけれど、どこからか他の香りも混じっている気がする。
香りを辿るようにして顔を巡らすと、果たして小さな白い花が連なっている繁みが視線の先にあった。
歩き回ってみたいけれど、そもそもこうして夜に寝所を抜け出していることも褒められたことではない。
(…明日、明け方に発つ前に、頼んでみよう)
だめもとだけれど、許可してもらえるならきっと素晴らしい光景を見ることが出来るだろう。
傍らに置いた靴に視線をおとして、片方を手にしてもういちど履いてみるかほんの少し逡巡する。
しかし本当にほんの少しのことで、女は再び裸足のまま立ち上がった。
もう片方の靴を手にすると、振り返った先にひやりとする踏み石を見付けて
その石が示す方向を辿るように足を運んで、噴水をあとにする。
生垣の向こうに女の姿が隠れれば、その場には再び、小さな流れの囁きのなかに、咲き誇る花たちだけが残り
その彩のある静寂は、明け方の鳥の囀りが届くまで破られることは無かったろう―――
ご案内:「とある貴族の屋敷・庭」からナランさんが去りました。