2025/03/17 のログ
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ドリィ > 開いた扉の隙間から、未だ僅かに寒を纏う外気が忍び込む。
恐らく今入ってきた客なのだろう。少しの冷涼を引き連れてやって来た相手に、
女が短く、夕暮彩の双眸を配った。
酒場には珍しい風体ではあるかも知れない。草臥れた白衣姿が僅かに眼を惹き。
そんな相手から挨拶が届けば、女の視線が留まる時間が少し、延びた。

「勿論、どぉぞ。
 杯と語らう時間は誰しもに平等ですもの。」

軽く、己が手許の杯を掲げる真似をしながらに、双眸柔和に眇め。
少しだけ、推測を交えるよに言葉を途切れさせてから。

「お務めおつかれさま、 ――…といったトコロ、かしら?」

ジェナス > 程無くしてエールが届く。
木製のジョッキになみなみと注がれたエールはカウンターに置かれた衝撃で多少零れたが許容範囲。

とにもかくにも、ひとまず木製のジョッキを持ち上げてから、一口……というところで、隣の女性から返答が来た。
そこで初めて身体を半分だけ隣席の女性に向けて、女性が杯を掲げる仕草を見せるので、併せて木製のジョッキを軽く持ち上げて。

「――…ありがとうレディ、正解だよ。
 正解者には普段はチョコレートをプレゼントするんだが、
 生憎本日は切らしていてね。」

眼鏡の向こうで黒い眼を細めて、穏やかに笑って見せる。
視線は最初隣席の彼女の蠱惑的な唇に吸い込まれるよう誘われるが、
視線はすぐに女性の夕暮色の瞳へと持ち上げた。

「レディは……冒険者って感じかな。
 手元には宝の地図と、サラミとお酒。
 冒険者でなければ……ただの美人かな。
 失礼、自分はジェナス、こうみえても錬金術師だよ。」

もう片方で学院で教鞭をとらせていただいているけどね。
と、言葉を続けて、一口だけエールをのどへと流し込む。

ドリィ > 女は一人で飲むのも好むが、誰かが隣に居るのも嫌いじゃない。
人間観察は格好の肴だと思っているから、女は遠慮の欠片も無く、相手へ視線を向ける。
向けられた冗句に、戯けたよに片眉を持ち上げてみせ。

「――あら残念。」

チョコレートの代わり、サラミの塩気残る指先を、軽く舐めた。
眼鏡の向こう、柔らかな印象の双眸に眼差し向けつつに。

「ンー…惜しいかも。学者先生かしら、って思ったから、
 ―…当たらずしも遠からず、ってとこじゃない?
 
 あたしはー…、お察しのとおり、
 宝の地図と美味しい酒が大好きなだけのー…、ただの美人よ。
 ドリィっていうの。」

軽く、小頚は傾ぎながら。脚をゆったりと組み直し。

「チョコレートは、授業で正解した生徒さんに配ったのかしら?」

ジェナス > 喉に流れる冷えたエールの感触と、流れ落ちた傍から燃え上がるアルコール特有の熱に、
「クククッ」と少しだけ怪しげな声で満足そうに笑う。
――…笑った理由はそれだけではなく、女性の答案が女性の言う通り、当たらずとも遠からずだったからである。

「……学院勤めの学者先生で正解で花丸だよ。
 錬金術だけでは生活できず、さりとて教員だけでも生活できず、だからね。」

美人という部分を否定しない女性に対して、また小さく喉を震わせるようにして笑うと、
本人が否定しないくらいに確かに美人ではあるのは間違いない。

「……それも正解。
 ごくありふれた何の変哲もないチョコレートだけどもね。
 錬金術師ならスパイスの一つでも入れたところだけども。
 もし冒険に錬金術が必要あらば、ぜひご相談を。」

商売も忘れない、忘れたのは……こんな場面で渡すべき名刺くらいだ。

そしてまた木製のジョッキを持ち上げてエールを一口。
喉へと流し込んだ後に、二口でも十分に酒気の香りまとった吐息を大げさなくらいに吐き出した。

まるで疲れを吐き出すように。

ドリィ > エールの最初の一口が、男の喉を鳴らしめたのに
女はつられたよに己が酒を一口、くぃと呷る。
何とも好い反応で酒と向き合う男との相伴は、それだけで酒が旨くなるものだから。

「…ク、ふっ。花丸なら、チョコレートは3つくらい貰えたかしら?
 先生に御褒美を貰える機会なんてそうそう無いのに――…ほんとうに残念。」

大仰に残念がって天を仰いでみせては、また男につられて笑う。

「錬金術師は、チョコレートを作るのも御得意なの?
 スパイス入りのチョコレートも大いに興味があるけれどー…

 錬金術師で学者先生の飲み仲間ができるのはー… それ以上に素敵、かも。」

少しばかりに女は考える風、くるりと双眸を中空に向けて、から。
――頬杖の杖を崩し、肘を、ぐぃ、と僅か乗り出すよにさせて、囁いた。

「ね、先生。 スノーウィスプを瓶に簡単に閉じ込められる方法とかー…、
 そんなアイテム、何か御存知ない、かしら?」

ジェナス > エールの酒気が身体に回り始めた所為もあるが、隣席の女性の言い回しが耳に心地よく、
また堪えようとして堪えきれない笑い声を零す。
3個か、チョコレートを3個か、と心の中で繰り返して。

「……そうさな、花丸なら3個と言わず4個あげよう。
 手持ちにないのが本当に残念だよ。」

大袈裟に軽く両肩を竦めた後に、女性の質問にはエールの代わりに、常飲している紙巻の薬を咥えてから、答えるとして。

「錬金術は基本的に物質同士を結び付ける術だからね。
 チョコレートや飴玉を作るのはある意味でその延長線かな。
 興味があるなら是非今度御馳走するよ。」

飲み仲間、と明言されると小さく「飲み仲間ね。」と嬉しそうに呟くが、女性がぐいっと乗り出すように距離を詰めてくれば、
退かず囁く女性を迎え入れるように、柔らかに笑って。

「……あると言えばあるよ。
 あまり安くないけど、冷気を宿した瓶で中に誘うとか。
 後は……そうだねぇ、専用の香で引き寄せるとか。
 瓶と香の2段構えっていう方法もあるけど……。
 ――…今度ウチに見にくるかい?」

方法と道具。
2つほど候補をあげてみたが、どちらも帰れば自室にあるが、今は酒場に持ち込んではいないので、
一先ず誘ってみる。

下心はなくもないが、なんにせよ実物を見せて説明しないと、解りづらいのは当たり前である。

ドリィ > 「4個! そんなに貰えたのに――…なんてことかしら。
 こーれーはぁー… もぉ、自棄酒するしかないヤツ!」

天を仰ぎながらに、さも残念そうに呻いてみせれば、
マスター、同じのもう一杯!――…なぁんて一声を。悔しがりという口実である。

「魔術師と似て非なるものだと聞くけれど――…どちらもあたしにとっては魔法だわ。
 “彼の者が汲んだ水は掌中にてたちまち美酒に変じ、
 息吹き掛けた石塊は黄金へと―…” ――…ね。貴方の掌で、水は酒になる?」

女が諳んじるは錬金術師を謳ったサーガの一節だ。
勿論、詩は伝説を謡った昔噺であり誇張を孕むもの。
けれど、知らぬ錬金術の神秘性はそんなことすら起こり得る愉快をも想起させるものだから。
好奇を孕んだ猫めいた双眸が、青年の穏やかな容貌を覗き込んで問うた。

更に、質問に返るは――――まさに、ビンゴ!というより他無く。

「あるの!? ――――…やだ。先生、最ッ高。
 瓶に、香――… 携帯もできそうだし全然、アリ。

 それじゃあ、ぜひ今度、あらためて見せて貰えるかしら。」

なんということ。これは本当に幻の酒が飲めてしまうかも。
美酒のためなら相手の下心の一つや二つ、謝礼だと思えなくもない。
己に酒を持ってきた店主に、女は続けざまに宣った。

「マスター、先生にももう一杯!――モチロン、あたしの奢りで!」

女は更なる好奇を以て、識るべくして言葉を繋ぐだろう。
酒縁が思わぬ幸運を呼べばこそ、杯は未だ暫く乾くことなく――。   

ジェナス > ――出会いとは偶然、縁もまた然り。

現実逃避というなの酒に逃げた事が思わず幸運を呼び、
見目麗しき美人と酒を共にすることができた上に、
財布に優しい事になるなら、それは重畳である。

奢られる事を拒まず受け入れながら、暫くは美人と酒を堪能する事だろう。

けれど明日は明日で仕事がある。
杯が乾くまでの付き合いの後に別れ、酒場を後にする前に、名刺の代わりにメモ紙になりそうな紙を受け取ると、
そこに名前と仕事場となる場所の地図をさらりとかく。

それを去り際に渡して、都合のいい日に来れば大抵いると告げると、酒を堪能したのちに支払いを済ませて酒場より立去るのだった。

少し上機嫌に鼻歌を歌いながら。

ご案内:「王都――沃野の轍亭」からドリィさんが去りました。
ご案内:「王都――沃野の轍亭」からジェナスさんが去りました。