2023/11/23 のログ
イーヴィア > (がん、がん、と金槌を振り下ろす度
素体となる魔黒鉱のインゴットが、綺麗に成形され直して行く
剣を作るにあたっての、準備段階へと漸く至り、ふぅ、と一息を入れれば
目の前に並んだ、高純度のインゴットを前に、腰に手を当て、上体を起こせば

――音が止まった其の辺りで、漸く外の。 店内の異変に気が付いた。
何か矢鱈と騒がしい、と思って居たが、これは言い争いか
今日、店内に出勤している面子を思い返して、あ、と思えば
軽く首筋を拭いてから、足早に鍛冶場の外に出て。)

「おーい、おい、なんだ、如何した?」

(ひょい、と顔を覗かせながら様子を探れば、男同士の諍いか。
原因がなんだから判らないから、先ずは状況確認からだが

――何か、隅っこで同じように様子伺って居る女を見かけて
一寸怪訝な表情した後で、身振り手振りで、カウンターに下がって来いと
果たして、通じるかどうかは判らないが)。

アルマース > 派手な喧嘩になったり、長引きそうならもちろん店主を呼びに行く心積もりでいた、が、
槌の音が聞こえているうちは、手を離せないタイミングのこともあろうかと
一触即発の男たちに声を掛けるか掛けまいか結論が出る前に。

「――あ、店長」

肩の三つ編みを跳ねさせ、奥のカウンターを振り向けば、鍛冶場から出て来た店主の姿を認めて安堵する。

当の二人から少し距離を置いて取り巻く気楽な野次馬が、賭けの胴元でも始め出しそうな。
ざわざわと囃し立てる雰囲気も相まって、引っ込みがつかなくなっている中、
いかにも冒険者といういで立ちの二人の男に視線だけ向けたまま、カウンターまで撤退する。

「呼びに行こうと思ってたとこ!
 ギルドで依頼のダブルブッキングしちゃった上にここでまた鉢合わせしちゃったみたいよ。
 何か引っ込みつかなくなっちゃっー――うっわ! いたいいたい」

カウンター前で説明をし終わる前に始まる肉弾戦。
店内で得物を振り回さないだけの理性が残っていたのか、拳で、という話し合いがあったのかは分からないが。
それぞれ背中に負う剣はまだ抜かず、素手の勝負と相成った様子。

――どよめく野次馬、殴られてぐらついた方の男の動きに合わせて取り巻く人の輪も揺れる。
目敏い――と言うべきか倫理が無いと言うべきか――見物人の一人の若者が、張った張ったァ――と声を張り上げ、いよいよ賭け金を集め始める始末。

「えっと――――いっそ賭けとく?」

ちらっとカウンター向こうの店主を見上げた。

イーヴィア > (――一応、知って居る顔では在る。
この辺りの冒険者は、店に来る事も多い故に、覚えて居る
とは言え、喧噪だけでは原因までは判らず――
隣に、戻って来る女から、掻い摘んで事情を聴き出して漸く、凡そを理解した

――やれやれ、と、呆れた様に小さくため息を零す
普段であれば、この人の輪を従業員たちが散らして居る所なのだが。)

「――――……人の店でよ…。」

(――揺れる輪、人と、騒ぎと、喧嘩の二人。
始まりやがったと、一寸頭をガシガシと掻いてから。
此方を見上げた女に、其れは無い、と肩を竦めて見せるだろう。
そうして――人の輪の外側に居た奴から、肩を掴んで、ひっぺがす
店主の介入に気づいた連中から、直ぐに道を開け始め――)

「――――おい、お前ら…、……此処が誰の店か判ってるんだろうな?」

(殴り合う二人の、其の両手首をがしりと掴み
――ぎり、と、ただ、締め上げようと)。

アルマース > 賭けをネタに物見していた人の群れから多少の不満の声も上がったが、
店主の顔を知る者のほとんどは、出入り禁止にでもされては堪らないと大人しくなる。

遠目に見ている女の方は、怒るでもない店主の声色を聞いて、
自分が叱られている気持ちになって、掴まれた二人に同情してしまう。

「ひえ……こわいよお……」

自分の巻き込まれない喧嘩なら、よほど無残な展開にでもならない限り、実際賭けにも一口乗っていたかもしれない。
そのくらいに気楽な野次馬気質なのは、自分も見物客と変わらない。
が、顔は怖くても、普段は怒りっぽいわけでも短気なわけでもない――どちらかと言えば優しいし気も長い店主の、低い声の方が怖くなる。

二人の手が、血流が止まって見る間に色を無くしていくのが遠目にも分かり、
そのまま手首ごと千切れて落ちない? 大丈夫? と、半分本気で心配になる。

鋼を打つにも力加減は必要で、お手の物だと言っていたけれど――
一方で、痛覚無いんじゃないのこの人、と思う頑丈さを見せることもあるから、
働き始めたばかりの新人にとって、店主はまだよくわからない不思議な男なのである。

間に割って入られた男たちが怯み、水を浴びせたように静まる中、
ぱたぱたと騒ぎの中心を迂回して、表の扉を開けに行く。
カラン――と音がしんとした瞬間に鳴っただろう。

「はあい、いらっしゃいませー」

続けて外行く通行人に呼びかける、女ののんきな声も響く。
少しでも興奮に水を差されているなら、営業中の店内である、と正気にもなろう。

イーヴィア > 「――――……俺の店は喧嘩御法度だ。
貴族だろうが王族だろうが、俺の店に入った以上は中立で居て貰う。
……て言うか、説明したし、書いて在るし、良く判ってる筈だよなァ…?」

(ぎりぎり、手首をつかまれて居る男達としては
冒険者である以上、其の腕に多少なりと自信は在ろう
されど、捕まえている腕はまったくもって動く様子無く
店主の説教の間、寧ろ、逃げる事を許されて居ない、様な

熱狂に盛り上がりかけていた所に水を差した形にはなったが
ぶっちゃけ、店で暴れられる身としては、知った事ではない訳で
――多少なりと反省の表情を見せたなら解放もしよう
周囲の興味も次第に逸れた辺りで、ぱ、と手を離し。)

「―――――一度目だから多めに見て遣るが、次やったら出禁だからな。」

(まったく、と、言い捨ててから、踵を返す
カウンターから外に出て行く女へと、すれ違い様に、おしまい、とばかり
掌を握ったり開いたりとして見せつつ

――さて、頭が冷えて大人しくなってくれるなら良いのだが
何せ冒険者、頭に血が昇り切って居た場合は如何だろうか。
カウンターに戻り、微妙に散乱した注文書を整頓しながら
僅かに背中を向けて居るのが、表の女からは見える筈で)。

アルマース > 客は荒っぽいのがまあ多いけれど、女相手にナンパはともかく喧嘩を仕掛けに来る者はいないので、
ここで働いていて、さほど怖いと思ったことは無かったけれど。
怖いのは客より店長の方なんだな――と、認識が改まる。
こわいというか何というか、気が萎れてしまうような心地になるのは、普段とのギャップのせいなのかもしれない。

だから、微妙な空気になった男たちが、店主の説諭の後にどっちが先に退くか退かぬか、
じりじり間合いを見ているところへ乗り込んでいったのは、
店のためでもなく男たちのためでもなく、重たい空気が苦手な自分のためだった。

「はあいお兄さん、ご来店ありがとうございましたっ。
 ね、今日はこれからどうするの?
 飲み行くなら、あっちの酒場で今夜踊るから、観にきてくれる?」

近くにいた方の男の腕を絡め取り、むにゅっと胸を押し付ける。
それで大体頭に上っていた血が別の方へ向くものである。

「――剣は逃げないけど、今夜の酒は今夜しか飲めないよっ。また来てねっ」

跳ねるようにして――そうでもして勢いをつけないと動かせそうになかったので――表の入口へ誘い。
笑顔と投げキッスで送り出して扉が閉まれば、ひと段落というところ。
店内に残り、喧嘩の相手を無くした男も、怒りの矛先を失って落ち着いた様子。

はい、おしまいおしまーい、と軽い声を上げて回るけれど、すでに見物客も散り始めていた。
カウンターの中へ戻って、店主の背中をつつく。

「……ねえ、こわいからっ。笑ってっ」

イーヴィア > (基本的に、荒くれ者に対して容赦しない姿勢を示すのが、鍛冶屋のスタンスだ
放って置いても良い事なぞ何も無い、騒ぎは早々に鎮圧するに限る
とは言え、其の様相を怖いと感じるのもまた、一つの意見では在ろう
女が接客で割り込む事によって、空気がまた無理にでも明るく変わるのは
店としては、ありがたい限り、なのだが。)

「……うん? ……嗚呼、まぁ、割とあんのさ。
こんな店だからな、血の気の多い連中も来るだろう?」

(背中をつつかれ、振り返る。 笑え、と指摘されて
自分の顔を解す様にペタペタと触りながら、何時もの事、で在ると伝えつつ
微苦笑気味にでは在るが、普段の様に、のんびりと笑って見せれば
片掌を伸ばし、相手の肩の辺りを軽く、ぽむぽむと叩いて。)

「ま、有難うよ。 あー言うのは、諫めてくれる奴がいると助かるぜ。
……あ、さっきぶつかられてたろ、大丈夫か?」

(告げる感謝、明るい接客が出来る女だからこそだ、と褒めつつに
何やら、痛い、と声を上げていた先刻を思い出して、具合を問う
手元で書類を整え、山にして置き直せば、其の儘ゆっくりとカウンターの内側、椅子へと座り込み

……砂糖菓子一つ、ぽんと口の中に放り込む)。

アルマース > 「荒ぶる客はそんなに怖くないけどさ……こっちが悪くて怒ってくることは無いし。
 ……イーヴィアが本気で怒ったらもっと怖いんだろうなーって思ったらお腹がきゅってなるよね」

肩に乗った手を挟むように首を傾げ、――そのまま頬ずりしそうになって、はっとする。
今は他の店員がいないとは言え、お客はいるのだった。
触れられないと思うと、なおさらそうしたくなるもので……
膝の裏にカフタンの裾を折り込んで、カウンターの内側にしゃがみこんだ。
イーヴィアの膝に頭をすり寄せて、撫でろと主張する。

「良く分かんないけど女が挟まると引っ込みやすい時があるらしいね。
 ううん、あたしは大丈夫、見てて痛い気持ちになっただけー。

 ……――あ、そうだ、ねえ店長、ご褒美が欲しい」

甘いのじゃないよ、と言って、意味ありげに見上げる視線。
カウンターの引き出しに手を伸ばし、取り出したのは。
店では見慣れぬやけに上質な封筒。
その中に覗く紙には――『温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」ご優待』――との文字。

「友達が客から貰ったやつ。危ないところだから、って誰も行きたがらなくて。
 あたし行ってみたかったんだけど、女二人じゃ危ないって言うし……
 男は『女性と二人で温泉なぞとんでもない』って言いそうな紳士くんしか友達にいないからさー。
 骨休めしに行かない? 働きすぎだし温泉で休まなきゃじゃない?」

ねっ、おねがい、とじいっと見つめる。

イーヴィア > 「店でンな暴れたりはしねぇよ。 強盗とか入って来たら別だけど。
……そうしなきゃ行けない時ってのは在るもんさ。 だから、お前が怖がるなよ。」

(カウンターの内側、しゃがみ込む女を眼だけで追いかければ
擦り寄る仕草に、猫かよ、何て口端吊り上げながら、頭を撫でる
目元に指を触れさせ、頬を擽る様に撫でつつ
先刻の喧騒が消えて落ち着きを取り戻した店内を、ちらりと見回した所で

足元から、ひょい、と差し出されるもの。)

「……ご褒美? ……ん…? ……って、山脈の温泉宿じゃねぇか。
また随分と景気の良いもん持ってやがるな…。 ……は、俺?」

(その地名と施設には覚えが在る。 九頭竜の温泉地。
休みでも欲しいのかと、初めは思ったが、そもそも非常勤だった女
別に只休むと言えば良いだけの話な訳で、畏まる話じゃない
行く事は別に止めはしないが、二人分の招待。 其の相方に己を指定されれば
俺かよ、と、僅かに女の目を見下ろして。)

「……、…まぁ、危ないっつーか…、……場所が場所だからな。
御前、其の言い方っで俺が受けたら、紳士じゃ無いですって言ってるようなもんだろうが…!
……まぁ、向こうに用事が無い訳でも無いから、別に構いやしないけど。」

(普段で在れな、流石に店を早々に不在とする訳には行かなかったが
――九頭竜は鉱石採掘も可能な土地だ、少しばかり探索する事も出来よう
そんな打算と共に、前向きなつぶやきを零したのは、寧ろ珍しかろう
確かにここ最近、少し依頼が立て込んで居たのも在る
店を離れる事と、微妙に悩ましい選択では在る、が

――古株従業員の一人に、ちゃんと休む時は休め、と
釘を刺された、と言う秘かな事情も在った

――しばらく悩んだのち。 見上げる女の目には
仕方ねぇな、と、折れた様に了承する鍛冶屋の姿が映るだろう)。

アルマース > 「人の感情のぎりぎりを攻めてしまう癖があるから身につまされるっていうかあ……」

今はもう怖がるどころか、猫であったなら喉を鳴らしていそうに気持ちよくくつろいでいる。

「色々貢ぎたがる客がいるもんなの。本当は一緒に行きたかったんだろうけどね。
 おかげでこういうのは割とよく流れてくるんだー。
 ここの区内にも源泉引いてる宿があるっぽいけど、山脈の源泉の方でもどっちでも良いって。
 行ったことない有名どころは、全部行ってみるつもりだからあたしはどっちでも良いかな。
 ……。……イーヴィアは紳士だった……?」

紙を捲ってご優待の詳細を読みつつ、紳士って何だっけ……イーヴィアのカテゴリは筋肉では……? と不思議そうに零す。

「わあい! 年の瀬は店が忙しそうだし、いつでも良いけど、寒いうちに行きたい!
 雪の温泉っていうのが粋らしいけど寒くないのかしら」

楽しみが出来て心底嬉しそうに、ご優待の紙を封筒にしまい直す。
それをイーヴィアの膝の上に乗せて。

「んふふ。楽しみ~。もうひと働きするかー」

言質を取って満足し、隠れていたカウンター下から立ち上がる。

イーヴィア > 「其れはもう、スリリング綱渡りしてる御前が悪い。」

(紳士は紳士だ、何て反論しながらも、猫撫でする手は止めずに居る
常識的で良識的なのが紳士であると言うなら、己も紳士であって良い筈だ、と
一応は主張しておきつつに、いつ行きたいかについては、女の主張と店の予定とを色々鑑みる
直ぐには言えないが――まぁ、なるようにはなるだろう。)

「どっかで閉店日を作るし、其の時にでも、だな。
湯に浸かってるから寒くないんだろ? まぁ、雪は冷たいだろうけど。
……ま、其れには…、……まずは、今の内に仕事だな。」

(女が立ち上がったのから少し遅れて、己も又立ち上がる。
今日中に出来る工程は済ませておきたい、客注の鍛冶仕事
道具を用意しながら、店仕事に戻る女の背をみやっては。)

「その時に、4本目も渡して遣る。」

(もちろん、そっちの仕事だって忘れてはいない)。

アルマース > お前が悪い、には、仰せの通り――とどこか芝居がかってにっこりするだけ。

構ってもらって喧嘩騒ぎで目減りした気力を補充した後、
互いの持ち場へ戻り、閉店の声がかかるまでもう一仕事。

そう、依頼品の代金の支払いも完済せねばならないのである。
温泉を楽しむためにも、働くべき時は働こ、と足取り軽く売り場へ出てゆくのだった。

ご案内:「ヴァルケス武器防具店」からアルマースさんが去りました。