2023/11/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」にマーシュさんが現れました。
ヴァン > 陽が落ちて半刻経ったかどうかという頃合い。まだ、松明やランタンがなくとも人の顔がわかる時間だ。
普段は静かな図書館の前がちょっとした賑わいを見せていた。

学院の生徒と思しき少年少女が10人ほど。それより幼い子供達も同じくらいいて、大半は親のどちらかを伴っている。
例年開催しているイベントなのだが毎回人が来ない――比喩ではなく、参加者ゼロだ――ので一計を案じたところの結果だ。

「……菓子の力ってすごいな」

参加する子供には菓子をプレゼントする、ただそれだけなのだが効果はあったようだ。
開催日直前に貼り紙に追記してこの効果なら、半月前に掲示した当初から記していたらどれだけの数が来ただろう。
――あまり考えたくない。参加者増は歓迎だがこれ以上増えては男の手に余る。なにより懐から金貨がどんどん羽ばたいてしまう。
参加者は約30名。主催者としてやることはイベントの説明、点火、あとはお菓子配りだ。
その手伝いをしてくれそうな女性は――。

マーシュ > 去年の今頃は確かに、それを目当てに訪れていた人はいなかったように思う。
薄暮の頃合い、街の中であれば保護者同伴ならば子供がいても問題のない時間帯。

それとは別に学院の生徒らしい、制服をまとった姿も見える。
普段であれば館内にいるか、あるいはそもそも訪れないのだろうけれど。

「………」

一計とやらの効果にしみじみしている相手の言葉に笑うべきかどうかを悩む。
きっと真面目に感じ入っているのかもしれないし。

さて、その一計の産物である手元にあるお菓子の詰め合わせを軽く袋詰めにしたものを見下ろす。
それが何であれ貰える、ということであれば人は集まったとはおもうけれども。
あって困るものでもない。何なら大人だって表情が緩むだろうし。

やることは普段のチャリティと似ているからなんとなくはわかるものの、とりあえず説明を待つ姿勢。
向けられた視線にこっちは大丈夫ですよ、とお菓子の番を兼ねてたたずんでる

ヴァン > 「はい。じゃあ、『ガイの夜』を始めまーす」

にこやかな笑みを浮かべながら集まった子供達とその保護者に語り掛ける。
大半というよりは全員がお菓子目当てなのは明らかだが、来た以上はお菓子分の時間を拘束させてもらう。
幼児たちの興味は男よりお菓子を持っているお姉さんの方に向いたままだ。親が窘めてなんとか皆、身体は男の方を向く。

お菓子はイベントの途中で配ることを最初に伝え、説明を始めた。
200年前、南方ラインメタルの地にて異端派が王族を爆殺しようとして失敗したこと。
犯人は火刑に処され、異端派も本来の教えに戻ったこと。
主教が正しく現在まで伝わることへの感謝と喜びを祝うのが『ある男の夜(ガイ・ナイト)』として伝わっていること。
小さな子供達にも伝わるように、昔話風にして伝える。学生の中には興味深そうに聞き入っている者もいる。

「藁でできたカカシをガイに見立てて、その下の薪に火を点けて火刑を再現します。
点火が終わったらお菓子の配布を開始しまーす。みんなに行き渡る分用意してるから、走らないでー」

点火をすると周囲が明るくなる。予めすぐ燃え上がるよう細工をしていた代物だ。
参加者が歓声と共に炎に目を奪われている隙にすっとマーシュの隣へ移動して話しかける。

「お菓子の番ありがとう。もうちょっとしたら皆にお菓子配る旨呼びかけをしてくれるかな?」

1人で配るより2人でやった方が早いだろう。2回お菓子をもらいに来る子がいないかをチェックする意味もある。

マーシュ > 「────、………」

職掌柄、表情や態度に感情を現さないようにするのは慣れているのだが。
小さい子供に向けて声をかける様子は何というか新鮮さと、同時に普段とは違う相手の様子にむずがゆさのようなものを感じる。
柔らかく、語尾を伸ばして語り掛ける姿。
騎士団の彼の同僚あたりが見たらどんな態度になるのだろう、と益体もないことを考えながら。

んん、と小さく咳払いしてそれらを払拭しつつ。
やがて、その祭祀の由来が語られるのを耳にする。わかりやすい物語仕立ての語り言葉は小さな子供に向けてのそれなのだろう。
これでそれを耳にするのは都合3度目。

習俗などを学んでいる学院生徒などは興味を持っているようで。
己もまた、それが焚刑に処された意味を考えると、さまざまに思考が散ってゆく。

火はもっとも原始的な崇拝の対象の一つ。
それの持つ意味や、齎されたものやこと。今己たちが自然に使って、その意味を考えない事象にすら関わっていることを思うと
火が用いられたことにも意味があるのだろうと考えてしまうのだけれど。

ただ、明く燃え上がる焔と歓声にそれらの思考は一度中断されて。
存外近い明るさに目を細める。

それらを背に、歩んできた主催者──、男の言葉に首肯した。

焔に見入る姿から、関心を向けるように軽く拍手の要領で手を打ち鳴らす。
視線を集めることには少し抵抗感はあるが───ふ、と呼気を吐き出したのちに。

「───お菓子の配布は、こちらです。一人一つ。ちゃんと数はあるのでゆっくり並んでくださいね?」

声を通して、言葉を紡ぐ。
簡易に並べた卓に、籠に盛られた菓子袋。簡素な包装のそれは、もしかしたらそこも手伝っていたかもしれないが。
穏やかに口許を緩め。

膝を折って、小さいこと同じ視線に立つと菓子袋を差し出した。己の手にはもうそうではないが、小さな子にとってはそれなりに大きな袋。
落さないように気を付けて、と言葉を掛けたり。付き添いの大人と一言二言言葉を交わす。

祭祀について己にこたえられることはないから、そういった問いかけには、男のほうを示すだろう。

ヴァン > 普段の仕事で子供と接することは比較的少ない。
貸出カウンターでのやり取りでは言葉を交わす必要はないし、利用者が困った時に聞きに行く先はたいてい女性だ。
強面ではないが、黙々と作業している男は話しかけづらいのだろう。

子供向けの説明はそれなりにうまく伝わったようだ。異端派は現在でもいるが、王都の日常からはほど遠い。
学生の中には『異端って、聖猫派みたいな?』という声が漏れる。異端派の詳細については「わからない」としておいた。

隣から発せられる声に真っ先に反応したのは子供達、次いで学生。
ゆっくりという言葉がわからないのか、我先にと子供たちがわらわら集まりだす。学生たちは会話をしながらゆっくりと歩み並ぶ。

平民地区で買ったものや己が経営している酒場で作ったものが多いが、少しだけ富裕地区の有名菓子店のものを混ぜてある。
菓子袋1つにつき2つか3つだが、参加者を驚かせるには十分だろう。
女が子供に応対する傍らで、菓子袋を簡易卓の後ろにある鞄から取り出して卓上の籠へと盛り付ける。

今回はオリジナルと違うことが多い。本来はもっととっぷりと日が暮れた頃合いに開始する。
火も本来は最初煙で燻し、徐々に足元の薪が加熱されて炎が立ち上る実際の処刑に近いものだ。
夜遅くては子供は参加し辛いし、長時間炎を眺めるのも飽きてしまうだろう。まずは参加して知ってもらうことからだ。

「……意外とお菓子の効果ってのは大きいもんだな。軽く考えてた」

参加者は菓子を受け取った後、周囲に腰掛けたり離れたベンチから炎を眺めている。
男は軽く息をついて、余った菓子袋を1つ開いて飴玉を口に放り込む。炎が消えるまでしばらくかかるだろう。
点火前、炎を眺めて信仰を確認したら自由解散と告げた。さすがに貰ってすぐ帰る者はいないようだ。

マーシュ > 駆けだす子供たちの素早さときたら、制する大人のほうが間に合わない。それもまあわかっていたことだったから。
互いにつっかけたりすることのないように。怪我もそうだが、参加したのに心象を損ねたら催しの是非にもかかわってしまう。

「お菓子は行儀良くしてくれる子が好きですよ。───はい、ええ。」

中身について聞かれると詳細を知ってるわけじゃない、でも中身がそれぞれに違うということも聞いてはない。
拙い問いかけに応じつつ。時々並ぶ子たちの列の間に身を入れて距離感を保ったりと試みながら。
次いで並ぶ学院生徒たちはそこまで御しがたくもない。

きっと最初は半信半疑で参加したのだろう親子も、学院生徒も。
その手に菓子袋がいきわたり始めて、落ち着けば表情がほころんでいる。
そういって姿を見るのは好ましい。

並ぶ人垣も、お菓子もほどほどに尽きて。
最後の一人に手渡し終えたころには、陽射しはそれなりに傾いている。
夕闇が周囲を包み始めた中の、火の赤が躍る様は美しくもあるし、心の底がざわりと揺れるような心地もする。
それが不安と呼ぶべきか、恐怖と呼ぶべきかは惑うが、でもなぜか安らぎもするのだ。

己が守る祈りの灯とはまた別のその姿、に。

残った菓子袋の一つを開けて中身を口にする男に目を向けて、しみじみとした言葉に頷いた。

「飴を嫌う人はいないですからね。」

関わりのない人に話を聞いてもらうためのきっかけとしては良いものなのではないかと言葉を編む。
その入り口にとどまるだけの人もいるだろうし。中には興味を持ってさらに踏み込んできてくれる人がいるかもしれない。
それぞれに寛いで──さすがに子供の多くは帰り始めているが。
夜の遅い時間の外出も、あの頃の己にとっては冒険のように思っていたのを思い出す。
規則が厳しい施設だったから、夜半の外出など望むべくもないのもその理由の一つとして挙がるが。

ヴァン > 炎は広場を明るく照らす。早速菓子を食べている子もいれば、大事そうにしまって友人や親と会話する子もいる。
皆が皆、炎を眺めている。炎には人を惹きつける力がある。参加者だけではない。

広場から少し離れた所でこの行事を眺めている者達がいる。男を敵視する者、興味本位の者、その思惑は様々だ。
お菓子で子供をつる、という作戦に感心したように頷いている司祭がいる。
男が人を集めていることに不愉快そうな表情の司教もいる。一昨年までは男一人。去年はこの男女二人。そして今年。

「多少は喉の渇きも癒える。それになにより――甘い」

手招きをした後その手を口許に添えるのは、内緒話でもするつもりだろうか。
顔を寄せたならばその手を相手の後頭部へと伸ばし、飴玉を口移ししようとする。
舌先で飴玉を保持し、しっかりと相手に渡せるように絡めようと。

男達がいる場所は炎から離れていて、やや暗い。振り返りもせずに帰る者もいれば、軽く頭を下げる者もいる。
とはいえ、炎の近くから暗がりを見ようとしても机があって人が2人いる、ということぐらいしかわからない。
――暗視ができる種族は、確か参加者の中にはいなかったように思う。

マーシュ > ───明かりとして、温もりとして。夜の獣の露払いとして。
様々に用いられる『火』というものに惹かれるのは、人が最初に手にした力であるからか。

けれど意外だったのは、この祭祀を今年も行ったこと。
つい先だって、監視が増えたと耳にしたばかりだったから。
端緒となりうるこの行事を、形を変えたとはいえ開催するのはそれなりにリスクのある行為なのではないかと思うのだが。

それを遠巻きに眺めている者たちの存在を知らない女でもそう思うのだが──
本人はあまり気にしていなさそうな風情で飴玉を楽しんでいる。

手招きに応じた先で、素直に耳を寄せたら後頭部が抑えられた。
言葉じゃなくて、与えられたのが───

「む、……っむむ、……」

甘い。

既に軽く表面が蕩けて舌に蜜が絡むのに、きゅ、と目を細めた。
抵抗する理由はあるが、意味はあまりない。
じわりと眦に熱が集うのを感じつつ、口移しに差し出される飴玉の甘味を甘受して。
肩口から女の髪が柔らかく滑り落ちる。

ヴァン > ラインメタルで行われている行事に教会が難癖をつけることは辺境伯と事を構えることを意味する。
そうなれば異端審問庁単体の問題ではなく主教全体、そして王国全体の問題に繋がる。
シェンヤン・魔族の国という明白な外患がある中で、主教の一組織一部門が扱うには重すぎる。

「んっ……ふ、ちゅ……」

舌先同士が触れて、ちろちろと擽る。舌の上に乗った甘味を塗りたくるように舌の裏や口蓋へと触れさせる。
身体を寄せて、左手を女の腰へと回す。抱き寄せ、支える程度のゆるやかな動き。
一つの飴玉を舐めるのをひとしきり楽しんだ時間は十数秒に過ぎないだろう。唇を離すと悪戯っぽく笑う。

「――帰り道には気を付けて。大通りをなるべく複数人で帰るように」

人の形をしていた藁人形はあと数分しないうちに崩れ落ちるだろう。行事も終わりが近い。
近寄って火傷をする子供はさすがにいないだろうが、火の始末は大事なことだ。
参加者に伝わるように声を張ると、その声を聞いた者達は立ち上がり、徐々に帰路につきはじめた。
声が発された方向に視線を向けるが、おそらくしっかりと姿はわからないだろう。
声の主が女性と抱き合っているのを見てとったら、多少なりとも表情に出る筈だから。

マーシュ > 祭祀を邪魔されない。
することへのメリットよりも、デメリットのほうが多いことを互いに承知している、のだろう。
それは、本来の祭祀が行われる場所ではなくとも適用されるのか。

────それもそうだけど。なぜ今己は飴玉を介して口づけされてるのだろう、と困惑と、羞恥。
逃れようと思えばそうできるのにそうしないのだから結局それを選んだのは自分自身だということも含めて。

吐息が絡む。甘味と唾液の絡んだ蜜音が緩く響くのに肩が震え。

「───っ、……ぅ」

づ、と舌先が触れ合い。文字通り甘味が舌の上、口の中を擽るのに目を閉じた。
抱き支えられるのに身を預けて、しばらく。濡れた音が途絶えて、唇が離れる。
吐息の降れる距離で、見やる笑みに若干恨めしさのこもった眼差しを投げかけた。

「………っ」

主催者としての言葉が張り上げられる。
そのままの姿勢で身を固くするのは、自然じゃないだろうか。
こちらに注意を払うものもあまりない、影の位置ということもあって見とがめられはしなかったようではあるが───。
言葉にならない、しづらいものが若干表情に浮かぶ。

………視線を落とすように軽くうつむいて。額を相手の肩口に預ける。
……それくらいなら今更で、特に問題もないだろうとは思う。

ヴァン > 口づけの後の視線を受け止めつつ、なだめるように髪を撫でる。
肩口に押し付けられた頭は羞恥の表情を隠すためだろうか。しばらくそうしていたが

「――おっと、そろそろ月が出てくるな」

とんとん、と腰に回していた手であやすようにして、身体を離すように伝える。
視線をめぐらせると、ちょうど藁人形が崩れて地面に倒れたところだった。
芝生がある場所でもないのでそのまま放置しても問題はないだろうが……。

参加者は神殿の敷地内、入口のあたりへと皆向かっている。2人の周囲には誰もいなくなっていた。
時間にして30分程度の短い行事であったが、昨年までに比べれば上々の出来栄えといえるだろう。あとは

「……マーシュ? 月明かりがでてきた」

先程口に出したと思っていたが、頭の中で思っていただけだったかな、と思いつつ。
月光に照らされるまま、柔らかく腕を回して抱き寄せている。
燃えさしに水をかけて後片付けを済ませた後、図書館の宿直室で軽い休憩をとることにしよう。

マーシュ > 髪を撫でる手に、いたたまれなさ。どちらかというと原因はその手のもち主にある気がするのだけれども。
己が肩口に額を預けている理由を分かってくれているのかいないのか、だが。
聞こえた言葉と、仕草にゆる、と身を引きはがす。

「はい。──────、もう夜…お祭りも終わりですね」

焔はずいぶんと落ち着いて、燃え墜ちる人形の──形代とはいえ骸の様な姿。
黒ずんだ灰の中にうずもれ行く姿。
とはいえ、片づけない理由もないだろう。
参加者たちはめいめい引き上げているのだから、その姿を見送った後にでも、と考えて。

「…………?……ええ、………綺麗な月夜になりそうです」

同じ言葉を二度耳にする。その言葉につられるように空を見上げ。
離れるように促されたから身を離そうとした、己の腰にまだ腕が巻き付いてるのにとりあえず離れる理由もすでにない。

火の始末を終えたのちは、促されるまま図書館の中へ───。

ヴァン > 「マーシュのおかげで、無事に終わったよ。1人だとどうなっていたか……」

祭りも終わり、という言葉に今一度、毎年やっていた行事が終わったのだと実感する。
月明かりに照らされた姿を、建物の隙間や窓越しの視線がいくつか感じ取れた。
向けられた視線をそれぞれ受け止めてから、名残惜しそうに身体を離す。

「さて、片づけが終わったら宿直室で軽く打ち上げといこう。余ったお菓子と紅茶でね」

甘い物をどれだけ摂取したかは、2人と神のみぞ知るところ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」からマーシュさんが去りました。