2023/09/06 のログ
サタン > 侵入者がこの場へと立ち入ってくる時と、仕事を終えた時はほぼ同じ。
唯一の不満と言えば、自らの手を振う事叶わなかった位か。
とは言え、契約は完了した。
圧迫して抑え止めようとした所で、既に奪う物は奪っている。

背後で、静止を促す声がする。
先日の酒場で邂逅した女騎士。
背中を見せている今ならば、拘束するも彼女ならば容易いだろう。

相対する其れが、只の殺人者であったのならば。

「――無様な侵入者風情が、我を拘束すると来たか、笑わせる。
仕事熱心なのは感心だが…無謀に過ぎるぞ?女。」

最初に相手が観察し感じた威圧感。
人の姿をした何か。とでも言うように、ほんの少し、抑え込んでいた魔王の気配の一端でも解き放つかの如く。
その背中は、感覚的な威圧感がより分かりやすい死の気配へと変貌し、近づく事=終わりとでも感じ取れようか。

静止の命令など、気にした風も無く、男はカツン、カツン、とまたゆっくりとした足音で、路地裏から遠のいて行くために、歩みを進め始めた。

セレンルーナ > 圧迫止血を試みるも、血はどんどん流れ出して既に伯爵の瞳の瞳孔は開ききっていた。
助からない…。そのことを察して、首元から血に濡れた手を外すと、ぎっと奥歯を噛み締めていく。
相手が先日酒場でいっしょになった男性とは、気づかぬまま…酒場であったときと雰囲気が違いすぎて気づきようもなかったが、相手は声だけでセレンルーナであることに気づいているよう。

「殺人を犯した犯罪者がいってくれるかな。こちらとて、そういう相手を制圧するための訓練をしてきてるんだから、そう簡単に引き下がれはしないかな。」

そう返しながら立ち上がり、レイピアを引き抜いて背中を向ける相手へと相対する。
しかし、次の瞬間に増す威圧感に、ぞくりと背筋が凍るような感覚が走り抜けていく。
威圧感だけで、心臓をわし掴みにして握りつぶしてしまえそうな死の気配。
嫌な汗が背中を流れ落ちる…けれど、おめおめと、見逃すわけにも行かない。
こちらの命令など聞く義理もないというように、再び足を歩み始めた男は路地裏から出ていくために足音を鳴らして歩みを進めていく。

「――っ待て!」

ヒュワッと風の音が一瞬起きると、ゆったりと歩む男の足に風がまとわりついてその場に縫い止めようとしていくだろう。
その間に近くまで駆け寄って、叶うならばその首筋にレイピアの刃を突きつけようとして。

サタン > 既に手遅れ。
魂も抜け去った存在は其処に居たという気配もこの世界から失われゆくだろうか。
此方が分かりやすい普通の犯罪者では無い事は、理解はしていよう。
ただ、それが職務による義務か或いは元来の正義感か。
警告とも取れる言葉に、返ってくる言葉。
背後で獲物を抜く音が聞こえる。
そして、男の只ならぬ気配を感じ取る様も、静寂の路地裏ならば
僅かな呼吸の乱れも、或いは聞き取れようか。
一歩、一歩と歩む脚に、纏わりついて、その歩みを僅かに阻むかのような風。
此方が姿を消すまでの時間を僅かに引き延ばした、この時を
詰めるかのように、駆ける足音と、風を斬るようなレイピアの刺突の音。
鍛錬を重ねたであろうその一閃は、ただの犯罪者であるならば、首筋を容易く、突き、肌を切り裂くであろう一撃。

「―――虚ろな存在の刃は軽いな。
或いは、それを知らずに居るか……まぁいい。
警告はした――であれば、己が無謀を後悔しろ。」

だが、其の切先は、男の首筋を捉える事は無く、肌に触れぬ僅かな距離で、刺突の勢いを殺すかの如く、魔力で形成された見えぬ障壁のような何かが刃を阻む。
先日に感じた違和感。
そして先の現れる様。
技量も力量も足りぬように感じる一撃。

男は相手の本来の素性を知りはしない。
だからこそ、感じたままの言葉を紡ぐ。
そして、先の一撃への返礼として、レイピアを突き出す女の眼前に
1つの火球を生み出す。
単純な下級の火魔法。
学院の生徒でも行使するのはさほど難しくない単純な魔術。
だが――その一球に練り込まれた魔力の質量は、上級魔術に匹敵する総量と、果たして相手は見抜けるか否か。
火球は、生み出された直後、膨大な熱量で炸裂し、路地裏を白煙で包んだ。

セレンルーナ > 牽制の一撃では、この男は止められない。
これほどの威圧感と殺気を感じさせる男なのだ、只者ではない。
もしかしたら、人間ですらないのかもしれない。
だから、選択肢は一つ。
例え相手を傷つける事になっても、それで命を奪ってしまう結果となったとしても、どうあってもこの場で止めなければならないと決意とともにレイピアを突き出していく。

「―――っ」

しかし、切っ先が男の首へと届くことはなくあと少しで肌に触れるという所で見えぬ何かに阻まれる。

「虚ろな存在ってなんのことかなっ、刃が軽いとか侮辱にもほどがあるかな。」

魂と心の欠片による存在。
セレンルーナ本人はそのことを自覚していないけれど、その力量は確実に本来のセレンルーナから2~3ランク落ちる。
ぎりぎりと阻む障壁に切っ先を押し付けて、そこを突破しようとする合間に眼前に火球が光る。

「―――っ」

下級魔法であれ、込められる魔力が多ければ多いほどその威力が増すのは当然の結果。
だからこそ、魔術師などは生まれ持った魔力によって優劣が明らかに決まる。
無意識に魔力を視る目を持っていれば、そこに込められた魔力量を一瞬で見通す事が叶うだろう。

「――水と風よっ」

膨大な熱量が炸裂すゆ寸前で、二つの魔法を同時に繰り出せば水による防壁と熱を上へと逃がす竜巻のような風がまい起こるだろう。
炸裂した光が収まり白煙があがったそこに、フードを被った人物の姿はなかった―――。
が、しかし。竜巻とともにその身を空へと舞い上げたセレンルーナは、重力と自重、そして再び風の魔法で加速をつけて真上から男へと刃を突き刺そうとするだろう。
その姿は、ローブは熱に焼け焦げてボロボロとなり、なかに着た執事服も所々焼け焦げて火傷した肌が見えていた。
そして、顕となった顔にも軽い火傷を負いながら、グリーンブルーの瞳は真っ直ぐに敵を見据えている。

サタン > 或いは、本体ならばこの障壁を僅かに穿つか傷つける事も叶っただろうか。
だが、現実の其れは強固にして綿密に編み込まれた魔力の壁として刃を阻んでいる。
騎士にとってその刃の重みを軽いと称されるのは確かに侮辱なのだろう。
だが、届かずとも、興味を惹く結果すら生み出せない一撃が、男をして虚ろと称してしまう。

「――まぁ、其れを感じ取れぬのならば、興覚めか。」

生み出される閃光と熱量の爆裂。
寸前に身を守り、逃れる術を行使したのは正しい判断か。
白煙立ち昇る場を、上空より狙い穿とうとするグリーンブルーの瞳が捉える男の姿。
全くもって面倒極まりないが、男は簡単な隠蔽の魔術を行使し、其の実像は、相手の瞳にはモザイク掛かったかのように、
その表情も正確には把握する事、難しくなるだろうか。
加速を掛け、空より貫こうとする刃の切っ先へと、右腕を持ち上げれば、掌は握り込んで拳となし、迫る刃へと迎撃の一撃と、
その腕を振り抜いて打ち飛ばし、既に事切れた伯爵の場まで距離を作る一撃となるだろうか。
刃と拳がぶつかる際に、生み出された感触は、まるで竜の鱗を突くかの如く、硬質な感覚が相手の手には感じ取れるはず。

セレンルーナ > 本来のセレンルーナであれば、魔力の流れを見て戦うスタイル上、魔力の障壁の僅かな綻びまでを見つけ出して綻びを広げるような戦法をとって障壁を突破し得る事がかなっただろう。
しかし、魔力を視るスキルもランクダウンしている今のセレンルーナでは、そこまで微細な魔力の揺らぎを捉えきれない。

そして、火球の炸裂に上空へと風によってその体を舞い上がらせれば、見下ろす形で黒衣の男の顔を視認できた――はずだった。

「?!」

しかし、グリーンブルーの瞳に映るその顔は見えているはずなのに、見えずに霞が掛かったかのよう。
その事に驚いている暇はない。
切っ先を男へと向けて、自重と重力、風の加速によって障壁を破ろうと向かっていた切っ先は、握りこまれた男の拳へと激突することとなった。

「ぐっぅっ――っ」

腕を振り抜かれれば、そのまま華奢な体は吹き飛んでしまい、ガっと地面を転がるようにして伯爵の骸近くまで吹き飛ばされていた。

「―――つっぅ……っ」

火傷がヒリヒリと痛み、打ち付けた節々が軋む。
切っ先がぶつかった感触は、まるで鉄に切りつけたかのような…否、もっと生物的な竜の鱗にぶつけたようなそんな硬さがあって、ビリビリとレイピアを持つ手に痺れが走っていた。
子供のように、いいようにあしらわれている状況。
そして、本来認識している自身の実力ほどに出せない力に歯噛みしながらも、ふらつきながらセレンルーナは再び立ち上がって男を睨んでいく。
ローブもボロボロとなった今、煤に汚れたプラチナブロンドの短い髪が風に揺れて、鋭く睨め付けるグリーンブルーの瞳が顔のわからぬ男を見据えて、戦意は未だ消えていない事を示す。
本体のセレンルーナは、真面目で高潔であり清廉である。
それは、欠片となった今もその輝きが消えることはないと示していた。

サタン > 強者たるならば、この遣り取りも或いは興の乗る一幕であっただろうが、
虚ろな存在相手では役不足。
騎士の矜持に免じ、己が腕を振るうにしたが
受け身を取れぬがままに、弾き飛ばされた相手を、紅い瞳は見やる。

「――戯れも飽きた。
せめてもう少し、取り戻したのならば、多少は相手ともなろうが…。」

先の一合で、魔王としての姿で宿す、竜種の硬質な皮膚による
拳打で生み出した衝撃で与えた、相手の腕に生じた痺れ、
最初の火球の炸裂のダメージ等も合わせれば、
此方を睨む瞳に未だ戦意が失われていないと、見て取れたとしても、
元より相手となり得ないだろう事は、相手も理解はしていよう。
そして、今宵の男の仕事は既に終わっている。
このまま打ち砕いたとしても、魂と心の欠片の存在など倒したとて
得る物もあるか、判断は難しい。
だからこそ、男は一方的な宣言を紡げば、足下に転移の魔術陣を展開し

「――最早、相手をする意味も価値も無い。」

男は一言、そう言葉を告げると、貴族の骸は突如として炎が上がり
その身は、瞬く間に灰へと還り、その灰すらも跡も残ることなく焼失してゆく。
そして、この魔王は自らが展開した陣に魔力を宿し、発動。
その姿はこの場から消えてゆくのだった――。

セレンルーナ > 「…取り戻したならって…何を…っ」

圧倒的な実力差。相手が強者であることは確かではあるものの、こんなにも自分の体の動きは鈍かっただろうか…。
こんなにも食らいつけぬほどに弱かっただろうか。
認識と実際の差に内心戸惑っているセレンルーナへと、意味の分からない言葉とともに終りを一方的に告げられてしまう。

「――なっ!…っ!!」

意味も価値もないという言葉に、ぎりっと奥歯を噛み締める瞬間にも、伯爵の骸から炎があがりあっという間に灰へとなっていった。
これによって、相手が伯爵を殺害したという証拠が消え去ってしまった。
そして、灰となる骸を振り返っている合間に転移の魔法陣が発動すれば、その魔力のゆらぎに前へと視線を向けたセレンルーナの前から、男の姿は忽然と消えていた。

「虚ろな存在……?取り戻したのなら……?一体、なんのことを…。」

くっと歯噛みしたあとに、男に言われた言葉を思い出して自らの手をセレンルーナはみやっていた。
裏路地に一人佇むセレンルーナの存在は、やはり薄れるかのように希薄で…しかし本人には分からなかった。

ご案内:「王都 富裕地区」からサタンさんが去りました。
ご案内:「王都 富裕地区」からセレンルーナさんが去りました。