2023/08/01 のログ
ご案内:「王国軍の砦」にシャイナーさんが現れました。
■シャイナー > 燃え上がる砦、転がる瓦礫と死体の数々―――
少数の飛行部隊と地上部隊を引き連れて王国軍を牽制すべく奇襲を仕掛けたのは王都からさほど離れぬ防衛拠点の一つ。
ハテグ、タナール砦、アスピダに代表される重要拠点には今も魔族軍や「血の旅団」、諸外国の侵入者など様々な脅威が
迫っており、必然的に軍事的リソースは特定箇所に集中せざるを得ない状況。
アスピダ攻略作戦で手薄となった、小粒な拠点に過ぎない一つの砦を地上から、空から蹂躙していく―――
「……武装は立派になった。……練度はともかくとして」
細身の剣で鎧の隙間、骨の間さえも鮮やかに通した一薙ぎで屈強な男がその場で真紅の血を噴水のように吹き散らして果てる。
自らが討ち取った兵士の首が無惨に転がるのを光のない瞳で見下ろせば、一般兵でありながらも華やかな鎧を眺めて一言。
かつて自らが仕えた王国とは異なる、現在の王国軍兵士たちを見れば、どこか不服そうについた血糊を振り払う。
「わたし達の仕えた……わたし達の国だったマグメール……。もはや影も無くなってしまった」
続々と駆け付ける味方の兵士たちに、手で進むべき方向を指し示せば、死した王国兵の国章を忌々しく睨み、
自らも砦の内部を静かな足取りで進んでいく。
既に陥落したと言ってもよいが、指揮官の首級をあげていない。
……既に逃げおおせたのかもしれないが。
ご案内:「王国軍の砦」にミシェルさんが現れました。
■ミシェル > 「クソッ、ここに置いとけば安心って言ったの誰なんだ…」
あちこちに火の手が上がり、死体が転がるその砦内の一室、
ぶつぶつと呟きながら周囲の書類や物品を肩掛けカバンに詰めていくローブを着た男装の麗人。
そのローブを見れば、彼女が王国の宮廷魔術師であることは一目瞭然だろう。
そして、その部屋の入口では先走った襲撃者の兵士が数人、魔術で石化して転がっていた。
「はぁ…言っても仕方がないか。とにかくとっとと回収しないとな」
彼女、女男爵ミシェルは発掘した魔導機械や研究論文等の書類の一時的な保管庫だったここが、
襲撃を受けたと聞いて飛んで駆けつけてきたのだ。
敵の撃退は彼女の仕事でなく、ここの指揮官の仕事なのだが、
はたして今も戦っているのやら、もう逃げたのやら…。
とにかく、ここが陥落する前に魔導機械関係のものは全て回収せねばならない。
彼女が書類を詰め込んでいる鞄は、明らかにここにある書類と比べて容積が小さいが、内部は魔術で拡張してある。
ミシェルはそれに、必要な書類や貴重な魔導機械をどんどん詰め込んでいく。
「……さて、と。こんなものかな?じゃああとはオサラバだ」
必要なものを詰め終えた後、鞄を閉じてミシェルは肩にかける。
そして、部屋の入口からこっそりと外を伺い…。
■シャイナー > 決して圧倒的な物量ではなかったが、飛行部隊を伴った多方向からの襲撃と機動戦によっていち早く攻勢を勝ち取った事が幸いした。
あとは隅々まで兵を遣わせて目ぼしいものを奪い去る……或いは破壊してしまえばほぼ役目は終える。
自身も具足を鳴らしながら砦を歩いていたが、不意に一人の部下が慌てて駆けつけて来る。
「……何をしにきた?」
部下は慌てた様子で「魔術師にやられた」と告げる。それを聞き届けた真紅の女騎士は、無言で兵を見つめた後に
こくりと頷き、早足で付いて行く。
白兵戦ならば容易く討ち取れる……それは魔術師が持つ優位性を全て排した上での話である。
無策で挑めば豪傑が束になってかかろうとも容易くあしらわれてしまう。
物々しい足音をぞろぞろと鳴らしながら、兵士の像が並ぶ一室の手前にまでやってくれば、同伴する兵士を一瞥して合図を送る。
魔術に対して耐性を持つ自身が先導して向かえば、石化の術の名残であろう魔力の残滓を感じ取る。
「…………まだ、生き残りがいる。あなたがこの砦の指揮官ならば降伏を宣言し、武装を解いて出て来るがいい」
細身の剣を握りしめたまま、石化の術が直撃せぬであろう間合いを、餌食となった同胞の像の姿から大まかに見計らい、
直立したまま抑揚のない……だが確かな殺気を込めた声調で言い放つ。
「5つ、猶予を与える。5……4……3……」
■ミシェル > 大勢の足音に、慌てて首を部屋内に引っ込める。
ここを守る兵士が思ったより弱かったのか、相手が思ったより強かったのか…恐らく両方だろう。
ここを覗かないはずはあるまい。外の石像に気付くはずだ。
石化は結構魔力を使うし抵抗力のある相手には効かない。
大勢相手には使えない。さて、どう逃げるか…。
「……降伏勧告ねぇ?どうやら意外に紳士的、いや淑女的かな?みたいだ」
脱出の準備をしているところに、聞こえてくる降伏勧告。
賊の軍かと思えばああいう律儀な人間もいる。
高名な何とかとかいう騎士団長の元部下だったりするのだろうか?
「しかし…僕の武装が何なのか分かってるのかな?
猶予を与えたこと、バカめと言ってやろう。2……1……」
部下とともに部屋に突入してくるか、それとも部屋の外から攻撃を放つか。
どちらにせよカウントダウンが終わる瞬間、ミシェルは出てくるだろう。
……魔術で壁を抜け、扉とは離れた廊下に。
「はは、お嬢さんご機嫌よう!バイバーイ!」
そして、二指の敬礼で挑発しながら、ミシェルは走り出した。
■シャイナー > 己が降伏を勧告した後、同伴した兵士のうち片方に顎で後方を指し示せばそそくさと去っていく兵士が一人。
魔術師の手の内は非常に多彩だ、決め打ちなど何の意味もなさない。
及び腰である事は認めざるを得ない、不用意な突撃は時に巨大な爆薬にゼロ距離で火を灯すが如き迂闊な行為となる。
この砦の拠点としての役割はほぼ機能不全まで陥れた今、単なる後始末の域を出ない。
緊張感を欠いた、こちらを小ばかにするようにも聞こえる女の声……己の器を知らせまいとするには理想的な振舞いだろう。
むっとした表情の兵士を左手で制止し、黙って行く末を見守る。
この場で易々と事が収束するなどと言う楽観視はしない。
与えた僅かな時間が詠唱の機会を与えたとしても、相手の手中を暴かせるという収穫にはなる……多少の命の代償を伴うかもしれぬが。
意気揚々と、己の勧告に応じる様子のない声で告げる女を冷めた表情で眺めていた真紅の騎士は、重ねられたカウントダウンの末、
女が発した愉快な声と共に壁を通り抜けて去ってしまう。
「……各員、砦の外へ待機。上空の隊には、わたしを巻き込んでも構わぬと伝えて爆撃の命令を」
行きなさい 狼狽える兵達を冷たい声で突っぱねれば、視界の向こうに見える女めがけて走り出す。
全力の六割にも満たぬ、逃げようと思えば容易に逃げられる程度の速度で。
しかし、騎士が宣言した通り、本当に外部の者はこの女騎士もろとも集中砲火するようで、たびたび地響きや揺れ、
天井の崩壊などで逃げる側も追う側も大きな危険を負うだろう。
■ミシェル > (ひゅー…さぁて、どう逃げるかな)
全力疾走しつつも、ミシェルは思案する。
砦の内部は敵だらけ。味方はほぼほぼいないだろう。
背後には、強そうな鎧を着たおっかない女。
体力に秀でていそうなのに追い付かないのは、油断しているのか策があるのか。
「……って、うわっ!?」
瞬間、爆発音とともに床が揺れる。それは当てずっぽうではなく、明らかにミシェルを狙っている。
それが何度も、辺り一面瓦礫に変える勢いで撃ち込まれる。
魔術師としては体力に優れるミシェルは、紙一重で瓦礫を避けて進んでいく。
「はぁ、はぁ、そうかいそうくるかい…なら…!」
その時、前方の天井が崩落する。
埋もれる通路。しかし上には大穴があき、空が見える。
「よし、しめた!来い!!」
ミシェルは瓦礫を駆けあがり、手を伸ばす。
そこに飛び込んできたのは爆撃ではない。どこからかすっ飛んできた、箒である。
ミシェルがそれをしっかり掴むと、箒は主人を一気に空に引っ張り上げる。
「ははは!逃げ道を作ってくれてありがとう!」
ミシェルは箒の上に乗ると、ぐんぐんと上昇させながら杖を取り出す。
そして、上空の敵戦力を睨みつける。
「さぁて、教育の時間だ。魔術師の空戦を見せてあげよう」
空を見る。大きな雲が浮かんでいる。
ミシェルがそれに杖を振ると、それはたちまち黒く、大きくなり、そして、
ゴロゴロと音を鳴らし、雷を降らせ始めた。
■シャイナー > 己の宣告通り、空に待機していた隊は遠慮なく砦を攻撃しているようだ。
時々兜へ落下する小さな瓦礫やレンガ片をものともせず、山積みになっていく瓦礫で不安定となった
廊下を軽やかな身のこなしで追跡し続ける。
細身の剣を暗がりの中で幾度も煌かせ、確実に迫りくる騎士は迫力とは裏腹に物静かだ。
このまま体力が切れるまで…… そう思っていたが、不意に天井に穴が開けばどこからともなく訪れる箒。
……陸が包囲されているならば空、理には適っている。
「…………」
逃げていく女を見上げ、剣を納刀する。
そうして、上空の待機している飛兵達が迎撃する予定だが……ただあっさりと手中に収まる器ではなかったようだ。
突然荒れに荒れる大空。
グリフォンや野生化した飛竜……低級の飛行生物を駆る兵士たちが次々と雷に打たれ、ぷすぷすと黒煙を放ちながら
墜落していく。
まさしく、魔術と呼ぶにふさわしい所業に怯む者も現れて高度を低くしながら散り散りに逃げ出していく者も。
しかし……
■シャイナー > ―――……ピシャァァァン!!!!―――
■シャイナー > 凄まじい雷鳴。
無数の飛行兵が駆る生物の断末魔が重なって響いて来る筈だが……聞こえない。
雷鳴の方向から、おどろおどろしい羽音を響かせながら、遠目に空中の魔術師を見つめるのは……
あちこち空洞化し、骨などが見えたおぞましい竜の屍。眼窩から赤い光を放ちながら嘶く異形。
……そして、そこに騎乗する先ほどまで鬼ごっこを続けていた真紅の騎士が、肉厚の巨刃を携えて
嵐の中魔術師をじっと見つめていた。
「…………叩き落とす」
巨刃の剣を向ければ、手綱を引く。屍竜がおぞましい声をあげると同時に翼を羽ばたかせ、
空を裂きながら真っすぐに滑空していく。
■ミシェル > 雷は高いところに落ちる。
ましてや空を飛んでいるなら尚更。
しかし、魔術の雷は敵味方を見分けるのだ。
「イイーハァーッ!!」
雷が落ち、阿鼻叫喚の最中をミシェルは縫うように飛んでいく。
巨大な飛べる獣に乗る連中とは違い、箒は小さくスマートだ。
攻撃を放つ根性のある敵も、空中のミシェルには当てられまい。
「ほら、よそ見するんじゃないよ!」
杖を振るい、魔力の矢で敵を落とす。
所謂マジックミサイル。低威力なれど必中。
しかしそれで普通の敵は十分落ちる。
攪乱し、逃げようか。その時。
「…ッ!?」
轟く雷鳴。そちらを向けば、巨大な竜。いやその死骸。
その背中に乗るのは…先ほどの女隊長。
「うえぇ、臭そうだ」
ミシェルは鼻をつまみ顔をしかめる。
なんたるおぞましい術の使い手だろうか。
本人がやったのか協力者がいるのかは不明だが。
「はっ、まぁ来なよ。追いつけるならね?」
迫りくる巨大な影に、ミシェルは背を向けて一直線に飛行を始める。
二度目の追いかけっこが始まった。
■シャイナー > 一騎、また一騎と撃ち落とされて行く自軍。
生き残りには、手でジェスチャーして「撤収せよ」の指示。
次いで、再び仲間内で通じているサインを送る。
雷に打たれて即死には至らなかった兵士……自重で立ち上がる事もかなわない獣を諦めて
何処かへ姿を消していく者もいる一方、地上から弓を引き絞る者まで。
それなりの体躯を誇るが、既に死している故か生物でありながらも「乗り物」と呼ぶ方が相応しい屍竜。
そのまま箒に乗る女が背を向けて逃げ出すならば、高度が下がり始めたところで一度羽ばたき雲に届かん程の高さまで。
女を真っ向から追い続ける真似はせず、地上から加勢する兵士たちの援護射撃を待つ。
飛兵を撃墜する程の射手ならば野に堕ちたとはいえ数多くいる。
大弓の太く巨大な矢、同じく魔術師ゆえか微かに追尾する魔法弾……これらがひゅんひゅんと飛び交って女の行路を阻んでいく。
一方、真紅の騎士は天高くに留まり巨刃の剣から凄まじい重量の騎兵槍へと換装。竜の自重と、高度からの重力加速度に任せて
狙いを絞った魔術師を一撃で貫き……狙いを外そうとも巨躯で弾き落とし、そのまま絶命させんと降下を始めた。
■ミシェル > 「あぁもうヤになるな、雁首揃えてさ」
高度が下がったミシェルを狙う地上からの弓矢や魔法弾。
しかしミシェルが杖を振れば、巻き起こるは風。
彼女に纏わりつくように突風が吹き荒れる。
巨大な矢といえど物理的な存在であれば、横風には弱い。
狙いを逸らされた矢がミシェルを掠めもせずに飛んでいく。
そして、残った魔法弾には杖を向け一発一発低威力の魔法弾で消し飛ばしていく。
ついでに、その射手も雷で狙い撃って。
「っと、お嬢さんは…そうくるかい?」
こちらを目掛け飛んで、いや落ちてくる巨大なランス。
そして、それを追うように降下してくる巨大な影。
凄まじい速度で迫りくるそれの気配を背中で感じつつ、ミシェルはタイミングを計る。
3、2、1…。
「今だッ!!」
最大限に引き付けたミシェルは一気に箒の頭を引く。
すると箒は槍を掠めながら急上昇し、その背後の竜も間一髪交わしながら…。
「ほら、これもプレゼントだ!」
杖を向ければ閃光が迸る。
それは、常人であれば視界を奪うに十分なもの。
■シャイナー > 下手をすれば小規模なれど無数の王国軍よりも手を焼いているであろう魔術師。
女は知らぬが、名門貴族出身の宮廷魔術師ともなれば相応に手を焼くのも致し方のない話だろう。
一方で、拠点を潰した以上これ以上の戦闘続行はアスピダ帰投に支障を及ぼす可能性も考慮して撤収指示を送る騎士。
だが、ただの雑兵集団ではない。
一向にあしらわれ続ける援護射撃だが、魔術師を生業とする者にとってはこのような回避行動および戦闘の続行そのものが
女に対する唯一とも呼べる「確実な」追い詰め方であることを心得ている。
……いかに魔術師と言えど、鍛えられているのは「魔術師と比較して」の話。
そして、膨大な魔力を有していようとも必ず何かしらの形で限度……或いは減衰は訪れる。
狩猟とは個と個で行うものだけではない、雑兵の些細な一手も積み重なれば次第に疲労と言う形で知らぬ間に追い詰められよう。
「…………っ!」
急降下にあたって、眼下に捉えた女が躱すのを確認すれば、重量のある騎兵槍を破棄する。
手放された巨大な鋭い円錐上の塊は自由落下で凄まじい穴を地上へ残す一方、女は再び高度を保とう……そう思っていた矢先に
不意に閃光が爆ぜる。
直視すれば、まず視界が奪われていた……はずだった。
だが、奇しくも真紅の騎士の片目は既に「見えていない」
後れて左目に差し込んでくる眩い光には、顔を逸らす一方で距離を離していた事もあって騎乗中に目が眩む事態は免れた。
既に騎兵槍を破棄した今、残る武装は巨剣と槍、白兵戦目的の細身の剣。
思いの外機敏に動き続けるだけの耐久は有しているようだ。
脳裏で切り上げ時を思案しつつ、再び騎竜を駆って高空に羽ばたき、なおも続く地上からの援護射撃で消耗を狙い。
■ミシェル > 杖の先端から放たれた閃光は、奇妙な緑色の煙を放ちながら飛ぶ光の球となり、
シャイナーの横をすり抜けると空高く飛び上がり弾け飛んだ。
それを追うようにして上昇するミシェル。
いつの間にか雷もやみ、空は元の晴れ間を取り戻している。
「……まぁ、消耗させれば、とか考えてるんだろうなぁ」
ミシェルは既に、この竜の屍に乗った女戦士が物理的な攻撃しか行使できぬのを見抜いていた。
そして、弓矢の類も恐らくは持っていない。
魔術の類が使えるのなら地上での追いかけっこでとっくに使っているだろう。
「でもそれは誤りだね。僕も真剣に戦う気は無いんだから」
消耗を狙う。それは魔術が使えない者が魔術師相手に戦うには正しい一手だ。
ただし、それは魔術師に一人で相手を全滅させる意図があればの話。
ミシェルは今まで壁抜けと雷以外は逃げに徹し、低級の魔術しか使用していない。
元々魔導機械関係の資料を取って帰るだけの予定だったのだ。
「それに、軽い方が上昇も速いだろう!?」
ミシェルはぐんぐんと高度を上げる。弓矢も、魔法弾も届かぬ高度へ。
あの赤い鎧の女以外付いていける飛行戦力は無いだろう。
そうして、矢の当たらぬ高度まで至れば箒を水平飛行に戻し、
地平線の向こうに何かを伺いながらシャイナーの方に視線を向ける。
■シャイナー > 静けさを取り戻した空。
しかし、少なくない量の火薬や火炎魔法の類でも使われたのか、もともと火の気の絶えなかった砦から放たれる煙で未だどこか濁った空の色を醸し出している。
砦を壊滅させ、空を仄かに炙った元凶は奇しくもその気はなかったが一人の魔術師の奮闘によって多大な犠牲を払う。
魔族や魔王かと錯覚するほどの技量……或いは、王国がそれに匹敵する人材を既に輩出していたというのか。
相手の素性も読めぬ以上、未だ応戦を続ける兵士たちを見れば、騎士は表情には出さなかったが女の言葉をちらと耳にして思案する。
「…………ならばこれ以上は、時間の無駄らしい」
しばらく制止し、女が高く高く昇っていく様を見届ければ、残る武装に手を伸ばす事なくしばしの沈黙。
みるみる小さくなる影を見つめれば、手綱を引き、そっと地上へ引き返していく。
……騎士がとった選択は、戦闘続行ならぬ撤収。
眼前の魔術師がなまじ強力だったのか、王国軍がハリボテだったのかは分からない。
だが、無用に兵士の命を浪費する事もないと判断して、低空まで降りれば慌てて弓を下ろす兵士たちに、この場を破棄してアスピダへ戻るよう呼び掛けた。
戸惑う兵士たちを尻目に、自らが魔術師に目も暮れずそっと羽ばたいて去って行けば慌てて兵士たちが後を追う。
ちら と小さすぎて見えなくなった女を光のない瞳で一瞥すれば、クシフォス・ガウルスらがなおも防戦を続けるアスピダへ合流しようと。
「無用に死にたくない者は、わたしと共にアスピダへ。暁天騎士団に加勢し、王国軍を退ける。
……アスピダを二の次にしてでも、あの魔術師の首級をあげたいものは?」
目を細め、静かにそう告げれば所属不明……おそらく「血の旅団」らしき兵士たちがぞろぞろと退いていく。
……王国が血眼になって奪還を目指す、山間の要塞へ向かって。
ご案内:「王国軍の砦」からシャイナーさんが去りました。
■ミシェル > 「……追ってこない。諦めたか」
ミシェルは背後を伺い、屍の竜が地上へ帰っていくのを確認すれば、空中で静止する。
そして、しばし待てば彼女の方へ飛んでくる影あり。
同じローブを身に纏い、箒に跨った宮廷魔術師が二人。
先ほどの閃光は信号弾も兼ねており、それは王都にも届いたようだ。
「流石に引っかからないか…ちぇ」
これ以上追ってくるようであれば、味方と引き離したところを増援の魔術師と囲んで叩こうと思ったのだが…。
引き際を弁えるのは名指揮官の証と言えるか。
「はぁ、しかし…今度は鎧を着てない時に会いたいものだね」
ほっと息をつき、そんな言葉をこぼす。
そして、二人の魔術師と合流すると、己もまた王都へと飛んで行った。
ご案内:「王国軍の砦」からミシェルさんが去りました。