2024/07/21 のログ
アイシャ > 未だ痺れの残る小指を摩る少女の眦には僅かばかりの涙。
それの涙を中指で払いのけながら、近づいてくる足音から遠ざかるように体を書架に合わせ滑らせて遠ざかる。
男の頭上から見下ろす風霊たちがひどく騒ぎ立てる様子はなかったのでみっともなく騒がしく急いで下がるようなことはしなかったが、それでも書架二つ分ぐらいは元々居た場所から遠ざかって距離を取った。


「…なによ、そんなのあんまりだわ」

魔法を禄に使えない自分ではもちろん一番上など夢のまた夢。
ぷ、と、また頬を膨らませているうちに男の姿が現れたので、改めて警戒したまま向かいの書架を指さした。

[とってちょうだい。
海洋図の読み解き方の本があるでしょう。
そこの……紺色の背表紙の]

まずはほんとその場所を示した。
それからその指先は閲覧机に置いたランプを示す。

「本はそのランプの横に置いてちょうだい。
置いたら警備に戻ってよくてよ。
部屋に持って帰って読むわ」

クレイ >  
「魔法って人によっては理不尽なものですからね。俺も何度苦渋を舐めさせられたか」

 色々とあったもんですよ肩を竦めた。近接特化の自分は魔法相手に苦い思いをしたことが1度や2度ではない。
 さて、そうしてやってきた場所。指さされた本を見て。

「ああ、あれか……あの本、航海士にでもなりたいんですか?」

 梯子をヒョイヒョイと昇って。1番上に立ってあっさりとそれを取る。
 帰りは梯子も使わない。そのまま飛び降りて地面に着地だ。
 そして指示を受けた通りランプの隣に本を置く。

「じゃ、ここに置いておきます。警備っていうか、休憩時間ですけどね。じゃなきゃ書庫になんて来ないでしょう。俺も必要な本見繕ったら休憩場所に戻りますよ。必要な資料があるので。不安ならこいつ貼り付けておいて良いですよ。しばらくはここにいるんで」

 と頭上にいる精霊を指さして。
 しかし移動する前に少しだけそっちを見て。

「それとも、これ、教えましょうか。俺の授業、こういう地図の読み取り方とかも教えてるんで教えれますよこの程度の内容なら」

 海戦も経験はかなりあるし、地図は必須だ。入門どころか上級クラスだろうと瞬時に読み取れなければ命に係わる。
 だから授業でも地図の読み方は教えているわけで。
 しかし少し笑って。

「なんてね、流石にそこまでビビってる相手からすぐに教えてなんて言われるなんておもいませんよ。クレイです。もし興味が沸いたらいつでもご相談を。一度依頼を受けてるわけですし、クレイって傭兵を呼べとでも責任者に言えば来ると思うんで」

 それ以外でも仕事で来るかもですけどなんて言いながらその場を後にしようとする。
 特に呼び止めたりしないならそのまま自分の資料を探しに行く事だろう。

アイシャ > 「別に…魔法は、テミスが一等上手だもの。
どうしても困ったらあの子を呼ぶわ」

すぐ下の弟は自分以上に外に出るのが苦手なことを除けば学院でも随一だと勝手に思っている。
勿論、魔法がいまだ初級レベルから卒業できない姉の贔屓目があることは否めないが。
再び姿を現した男に警戒を深めたのも束の間、あっという間に目的の本をランプの横に置いた男の早業に少しあっけにとられた顔を晒してしまった。
慌てて、咳払いと共に居住まいを正せば、男への警戒を解かぬままじりじりと目的の本を回収するために間を詰める。

「ち、違うわよ!
別に航海士を目指しているわけではなくて、その」

まさか、夕食のムニエルのせいだとは言えまい。
んん、と、わざとらしい咳ばらいを一つ。

「海のことを詳しく知らないからよ。
……あまり、この邸から遠く離れたことがないの」

正確にはまったくないわけではないが、それを初めての、それも家族でもない男に言う必要はないと判断する。
教示の有無を尋ねるその言葉には知識欲が疼いてすこし唇をかんだものの結局は首を横に振る。
やはり、見ず知らずの人間を信じるには時間が必要だ。
己の名を言外に名乗った男をじっとねめつけた後、懐にランプ脇に置かれた本を抱えて背中を書庫の入り口のほうに向けた。

「そう、クレイというのね。
また背が届かない高さに本があった時は呼んであげてもよくってよ」

気の動顛がすべておさまったわけではない。
本来は持ち帰るべきランプを置いて、本だけを抱えて部屋を後にした。
風精達も男の頭の上で少し旋回した後に少女の後を追いかけてゆく。
しばらくして遠くのほうでアイシャお嬢様、と呼ばわる侍女の声が聞こえたなら、少女の名前は男にも風の噂宜しく伝わるのだろう。

ご案内:「イフレーア・カルネテル邸・書庫」からアイシャさんが去りました。
クレイ >  
 海の事を知りたいとか、ここから離れた事がないと聞けば少し笑って。

「護衛が必要ならいつでもご依頼を。腕前には自信がありますので」

 なんて軽く手を振るった。
 しかしその後の言葉には思わず声を出してフハッと笑ってしまった。

「ええ、その程度の依頼なら格安で請け負ってあげます」

 思わずフフフと笑いながら返答してしまう。
 そして去って行く彼女を見た後に自身も資料を探しに行く。

「まぁ、貴族だし色々あるよなぁ」

 あの手の貴族令嬢もいなかった訳じゃないしなと考えながら普通に本を探しに行く。そして見つけた自分も帰っていく事だろう。自分は色々とチェックを受ける。

ご案内:「イフレーア・カルネテル邸・書庫」からクレイさんが去りました。