2024/07/20 のログ
ご案内:「フレーア・カルネテル邸・書庫」にアイシャさんが現れました。
ご案内:「フレーア・カルネテル邸・書庫」からアイシャさんが去りました。
ご案内:「イフレーア・カルネテル邸・書庫」にアイシャさんが現れました。
アイシャ > 書庫には古今東西の書物が整然と並べられている。
専らこの部屋の主と化している少女は当然のように夕食を終えた後もこの部屋に足を運んだ。
今日はメインディッシュの白身のムニエルがとっても美味しかったので、何か海に関する話でも読みたいところだ。

「ええと…地理の本がいいかしら…。
それとも、歴史の本のほうがいいかしら?
…あっ、郷土料理に関するものもいいわね…」

あれこれ悩みながら少女の足は毛足の長い敷物の間を進んでゆく。
気の利く使用人たちが綺麗に書架内の分類を整えてくれているので、夜間故の暗さはあるが中はとても探しやすい。
少しずつ進んでいけば一番近い地理学の書籍エリアにたどり着いたので、手にしていたランプを閲覧机の上に置いた。

「…気を付けないと」

気になった本は背の丈よりもずっと高い上にある。
書架備え付けの梯子を踏み外さないようしっかりと一段一段、上へと足を進めてゆく。

ご案内:「イフレーア・カルネテル邸・書庫」にクレイさんが現れました。
アイシャ > 梯子をあがって見上げた先には『セレネル海史』の文字。
中身が今の気分にぴったりな本であることを祈りながら梯子を登り切った少女はその背表紙に手を伸ばす。
届かない。


少しばかり眉間に皴が寄った。
一度息を吐いて、もう一度試す。
やっぱり届かない。

伸ばして、伸ばして、それでも届かない。
かくなる上は、踵をあげて背を少しばかり伸ばすしかない。

「ん-…んんー…も、…あと少し……んん…」


すか、すか、と指が美味いこと背表紙に引っかかってくれない。
伸ばしているのだって一番長いはずの中指なのに、これはどうしたことなのか。
何とか爪の先に触れはするものの、あと一歩のところが届かない。

「ん~…!!」

梯子の上で不安定な姿勢をとるほど危ないことはない。
それがわかっていても、今は目の前の本を掴み取ることに意識が向いていた。
顔を真っ赤にして、限界まで背伸びをして、爪先で梯子の細い足場の上に立つ。
細かく震える指先がようやく背表紙を掴んで引っ張り出すことに成功した、のも束の間。
喜びのままに泳いだ両手が本を書き抱くや否や、荷物が崩れ落ちるような派手な音。

「……い、たい…」

どさどさと他の本が落ちてこなかったことは行幸だろう。
床の上で、強かに打った腰を摩って慰めるのは仕方のないことだった。

クレイ >  彼からしてみればたまにある仕事。貴族の館の護衛依頼。傭兵という立場ではあるが彼の場合別の貴族がバックにいるのもあり貴族に信頼はされやすい。
 そういうわけで今日は偶然ここに依頼を受けてこの館にいた。とはいえ私兵というわけでもないので色々と制限はある中ではあるが……
 そんな彼だが一応は学校の先生。明日の学校の資料を作成する為に書庫を貸してほしいと依頼。そこぐらいならばと使用人に了承を得てここに来た。とはいえ色々とチェックを受けるだろうが、どうせ盗むつもりなど無いし構わない。
 色々と本を物色していたが。

「なんだ?」

 なにやらド派手な音が聞こえたのでそっちに歩いていく。何かが崩れ落ちたような音。それこそ侵入者等なら仕事として取り押さえないといけないわけで。
 足音を殺してサッとその音の出所に近寄ると。

「……あー、お嬢様でしたか。お怪我は?」

 ガッツリ貴族相手のお仕事モードで対応。
 そこに居たのはこの家の子女の1人だったのだから当然と言えば当然だろう。
 彼女から彼の認識があるかはわからない。家の外も外を警備していたのだから見ていないかもしれない。

アイシャ > 「うう…」

痛い、もちろん痛い。
このまま変な痣でもついたらどうしようかと心配するほど痛い。
けれど、妙にざわざわと周りが、精霊たちがささめきだしたのを感じた少女ははっとした表情に変わる。
気を付けて、とささやいてくるのは風の精霊だろうか。

漸く取り出すことが出来た本を胸に抱えると、書架の配置を頭の中に巡らせる。
万が一不法侵入者であるならば、どこが一番身を隠すのに安全なのかを考えなくてはならなかった。
けれど、星たちがささめきあうような精霊の警告よりも、今は後ろから聞こえた声のほうが速かった。

「!」

振り返る。知らない顔だ。
家族でも、長く仕えてくれている使用人でもない。
胸の海史を抱き込む指先がきつく革貼りの表紙に食い込む。

「……あり、ません」

ふー、と、細く、長く、息を吐き出す。
ささめく星のような声が聞こえるから大丈夫、加護を与えてくれる精霊は今も近くにいてくれる。
落下の衝撃を引きずっている足腰を叱咤しながら立ち上がると、書架を背に少しずつ男との距離を空けることを試みた。
家族でも使用人でもないその得体の知れない男と落ち着いて独りで対峙するのは、対人恐怖症を拗らせて長い少女にとって死地に放り出されるにも等しい行為だ。

「お前は、何者なの」

クレイ >  
「……ふむ」

 戦場が長い彼はそれなりに感情に敏感だ。特に恐怖には鋭い。それを見せた相手というのは常に攻撃のチャンスだから。
 しかしここは攻撃する場ではない。相手の様子を見れば。クルリと向きを変える。
 そして本棚の裏、つまりは彼女とは本棚を挟んで会話する構図にして。

「依頼でここの館の護衛を受けているただの傭兵ですよ。とはいえ外部も外部の護衛。お嬢様はご存じないかもしれませんね」

 物を挟めば恐怖感も和らぐだろうというある種の配慮。実際この程度の本棚など障壁にすらならないが、少なくとも自分相手にビビる少女だ。それを認識などできないだろうと。

「で、一応先生の真似事もしていましてね、資料作りのために書庫をお借りした次第です。で、本を探していたら音がしたので……お手伝いが必要でしたら手伝いますよ」

アイシャ > 気を付けて。気を付けて。
精霊たちは少女にしか聞こえない声でささめく。
気の立っている小動物に似た気配のまま少女は男への警戒を解かずにいたが、その姿が不意に本棚の裏側へと消えると殊更肩を震わせた。
逡巡ののち、言葉なく”お願い”を告げられた風霊たちは微かな空気を震わせて本棚越しの男を警戒するためにそのはるか頭上に舞い降りる。
いわば、彼を遠巻きに監視するようなものだ。

「…護衛」

そんな話を少し前に聞いた気がする。
あれは誰から聞いたのだったか。
不安な指先はそれでも海史から離れないまま、聞こえてきた声に返事をなげる。

「手伝いなら結構よ。…教師は真似事でできる仕事ではないと聞くけれど」

先生、と聞いてまず脳裏によぎる次兄の姿を思い出す。
けれど、先程垣間見た男は、次兄の姿とはあまりに違いすぎて、混乱はなおも消えない。

クレイ >  
「ま、特別講師ですからね。週に数回、多い時でも1日1回しか授業しませんよ」

 だから真似事なんですと笑って答える。ビビってる相手に対してわざわざ戦争について教えて殺しの技術叩き込んでますとか余計な事は言わない。
 頭上に精霊が来た事は感知しているが、別に何かをするわけでもないので攻撃する気も無く背中から本棚にもたれかかって完全に力を抜いている。

「手伝いは要らないか……でも、その本仕舞う時にまた落ちると危ないですよ。放っておいてと言われそうですが……そうもいかない。音がしたのに無視したとか気がつかなかったとなったら護衛として失敗だし、怪我しそうなお嬢様放置したとなったら余計に問題だ。俺の信用に関わる」

 俺の立場もわかってくれるだろばかりに少しだけ苦笑いのような声を出しながらそう答える。
 もしこの状態で放置したとなれば本当に色々と問題だ。

「まぁ一応他の使用人に声かけるって手もあるけど……それで事が解決するなら最初から1人で来てないと思うのですが」

 使用人に遠慮したのか、内緒で来たのか。理由はわからないが一緒に来なかった理由があるんじゃないのかと。そう尋ねた。

「そういうわけで、俺の立場上放置できないわけで。最低限本を読み終わるまではここに居させてもらって、本を返す仕事はさせてもらいますので」

アイシャ > 「…それは、本当に教師を名乗れるものなのかしら」

本棚越しに聞こえてくる笑い声に口を尖らせる。
少なくとも兄は、もちろん家の仕事もあるからだろうがずっと忙しそうに見える。
笑われることよりも、何なら侮られている気すらして、本棚越しに男に手をあげようとすれば書架の縁で強かに小指を打ち付けてしまった。
小指から薬指、手のひら、手首と伝ってじわじわと襲ってくる痺れにあがる小さな呻きを殺しながら、それでも虚勢を張ることは辞められない。

「心配してくれてありがとう、部屋で読むから結構よ。
それに、自分のことくらい自分でどうにかできます」

新しい虚勢をはりながら、小さく頬を膨らませた。
けれど、自分の向かいにある書架に新しく気になる本が収まっているのを見つけてしまう。
『海洋図の読み解き方~航海士入門』。
余り分厚くはない本だが、角度を測るようにその背表紙の位置を確認する。
それは、梯子の上でどれだけつま先立ちで頑張っても届かない位置にあった。

「……でも、そんなに手伝いたいというなら一つ手伝わせてあげてもよくってよ。
お前の背丈なら、届くんでしょう?…その、高いところでも」

自分の身長の低さをこれほど恨めしく思ったことはない。
少し突き出した唇が本棚越しの男に言葉を投げかける。

クレイ >  
「一応は特別講師って肩書はあるので、面目上は学園教師ですよ疑い無くね」

 小指を打ち据えた音がすれば思わず少しだけ笑ってしまったが、すぐに元の自分を取り繕う。
 しかし相手の虚勢を聞けば。

「なるほど、じゃあ確かに俺の手伝いは……ん」

 その後の発言を聞けば本棚の向こうで少しだけ目を細める。
 少しは信用を得たという事なのか否か。
 まぁどちらでもいいが。

「まぁそりゃ届きますよ。なんなら魔法込みなら梯子が無くても1番上の取れますので」

 身体強化を利用すればそれこそ垂直の壁だろうと握力の強化と爪の強化で登れる。
 しかし本棚を傷つけるわけにもいかないのでそれはしないが。

「じゃ、そっち向かいますので」

 先に宣言する。隠れるならその内に隠れろよ。ゆっくりと、今度は足音をしっかりさせながら歩いてそっちに向かう。