2024/06/08 のログ
ご案内:「ミナスジェイラス家 邸宅」にモルガナさんが現れました。
■モルガナ > 【待ち合わせ待機中です】
ご案内:「ミナスジェイラス家 邸宅」に”徒花”ジョーさんが現れました。
■モルガナ > ミナスジェイラス領。
辺境というほどではないが王都から少し離れた位置にある肥沃な土地。
かの黒王の時代より伏魔殿たるこの国の上流階級にあって一角を誇示している家柄。
代々優秀な三人の娘が後を継ぎ、領地を治め、王に仕え、国の発展に尽力する。
その中枢たるミナスジェイラス家邸宅のバルコニー。扉から入ってすぐに目に入るのは一枚の肖像画。
どこか憂いを思わせるはかなげな印象を覚える髪色の男性。
一目見れば育ちの良さを伺わせる整った顔立ち。退廃を望むかのような感情。
緩やかに、しかし悠然とした佇まいに杖を携え、身なりの良い仕立てに際立つのは上着を伴わないインバネス。
それ等全てが混然一体となった在り方は理想的な貴族、上に立つ者を思わせる。
なにより、邸宅の入口から堂々と掲げられるその絵姿は、歴代の領主の一人なのではないかと錯覚させる。
「……完璧ですわね」
常人には理解できない貴族特有の良いものを良いと掲げ貫く様を背負って満足げに頷く長女。
尚領主たる次女からは許可を取った。というより、代々女性が家を継ぐこの家柄にあって、
男の気配がないのはいささか侮る者もいるだろうという考えもあってのこと。
……そして、絵の主を探して使いが方々に送られる。
というより、まずは王都以外へあからさまに探していると多数使いを送り、
どこにも見つからなければ、王都に伏せていた使いを一気に稼働させて捜索に移る。
最初から潜伏している世捨て人を包囲して見つけ出す為の捜索戦。
あと、それっぽい人にかたっぱしから”あの家に大きく肖像画が飾られている”と噂を流布した。
見つける為なら、実現する為ならこの貴族は手段を択ばない。
使いが接触できるか、本当にやめろと本人が言いに来るか。
どちらにせよ、邸宅へ来るしかない状況を構築して待ち構えて。
■”徒花”ジョー >
世の中には暇を持て余す人間が多数いる。
金が出来れば時間が余り、時間が余れば金がない。
通貨という約束事。人の作り上げた文明であり、人を人たらしめる決まり事。
だが、人が作り上げたルールである以上、理想ではあるがどちらもある人間は非常に有利である。
無論、世捨て人。元より理から外れた不死者には関係のない話だ。
そう、関係のない話"だった"。
ギィ。ミナスジェイラス邸宅の扉が開いた。
誰かが来るという予定は現状ない。ある意味で予定の無い招かれざる客ではある。
だが、それは待ち人でもあった。フードを翻し、杖を携える一人の男。
肖像画に描かれた本人。いつぞや出会った不死者の男、本人だ。
男は普段から無愛想であり、余り感情を表に出すことはない。
だが、今回ばかりは眉間の皺も些か深い。
人の社会に溶け込み、必要以上に人に関わることなく暮らしていた。
それは、ただ静かに暮らして、亡き妻との思い出を護るためのもの。
だからこそ、執着されるなんて思わなかった。まさか、こんな滅茶苦茶に探されるとは思わなかった。
だからこそ、来たのだ。"直接文句を言うために、自らが"。
「……まさか、本当に飾られるとは……。」
真っ先に目に入った自分に、表情だって白けるだろう。
そんな真っ当な人間ではない、と言ったはずだ。
だと言うのに、全く……。はぁ、深い溜め息が嫌に響いた。
「──────……おい!来てやったぞ!」
張り上げる声を、続けて響かせた。
■モルガナ > 訪れればまず出迎えるのは堅牢な門。そして頑強な二人の番兵。
貴方ほどの長い時を生きてきた存在なら、護り手はそれだけでなくそこかしこに潜伏していることは分かるだろう。
近づいてくる貴方を遮るように大きな斧槍で行く手を塞ぐ番兵を、もう片方が手で制する。
二人して、貴方を見て、深く頭を下げてきた。
……噂には多く尾ひれをつけていた。それを信じて訪れる多くの偽物。
それ等を多く見た末に、番兵達は、ミナスジェイラス選りすぐりの慧眼を持つ二人は、
貴方を本物だと見出した。
今までは人だった。だが、この人は、この方は違うと。
浮世離れし過ぎている。それは、欲を持つ者が一昼夜でどうにかできる型ではなく、型さえなく。
故にこそ、周囲の気配が皆貴方へ仰ぐように殺気を解くのが伺えるだろう。
感情を出さぬ貴方、人の世から離れた貴方が門を諍いなく通り過ぎてからは庭師が、使用人が貴方を見る。
頭を下げる。勇猛を謳う長女が待ちわびた客人。
人の合間を縫うように生きてきた貴方が久しく感じなかった多くの、貴方を貴方として見る視線。
「あら。ようこそ。先ほどの言葉、聞こえましてよ?
私が有限不実行な者に思いまして?」
気配は感じ取っていた。というより、邸内がざわめく気配を感じて訪れるのを待ち構えていた。
二階の手すりにもたれかかって愉快そうに顔を綻ばせて。
「改めまして、歓迎いたしますわ。
ふふ、血の気の多い門番達も、流石に貴方から感じ入る者はあったようですわね」
■”徒花”ジョー >
これだけ名の知れた貴族であれば当然の護りだ。
目に見える範囲でも、そうでない範囲でも此の家の主に命を預けている。
殊勝な事だ。最も、彼等は仕事をしているだけで悪意があるわけじゃない。
殺気を向けられようと涼しい顔をし、礼をされれば礼で返す。
人であれ、なんであれ、その文明に付き合う以上の当然の礼節を不死者は知っている。
すれ違う人々が皆、彼女の小間使いなんだろうか。まぁ、興味はない。
「…………。」
手すりから身を乗り出し、此方を出迎える女性を見上げる。
あの時よりも随分と愉快そうな顔をしている。
ふぅ、なんだろうな。口元から漏れる溜息が止まらない。
「……歓迎されることには感謝しよう。
別に。彼等は仕事をしていただけだ。俺に敵意がないとわかった以上、無意味な事はしない。それだけのことだ。」
腕っぷしに自信があるならそれくらいでいい。
襲ってくるのであればいなすつもりではあったが、平和的に終わったので此方から言うことはない。
もし、有無を言わさず襲ってくるようであれば文句の一つ位言ってやるつもりだった。
トントン、と杖で軽く床を鳴らせば気だるそうに首を回した。
「しかし、なんだ。一体何のつもりだ?肖像画に留まらず、此の蛮行……。
騒がしくて敵わん。一体何のようで俺を探していたんだ。くだらない用事なら帰るぞ。」
■モルガナ > 世捨て人たる道を選んだ貴方からは、やはり心中の、これまでの心境からこの距離感は知らず疎ましく思うだろうか。
だが、相応以上の礼節を、貴方は見せた。
魔王が、竜が当たり前のように、暇潰しと称して、人間を好きだからと言って、
人の意を介することなく国に干渉し闊歩するのがこの国。
礼節とは、気遣いとは、相手の意図を汲んでのもの。
そう言う意味では無作法な強者が多い中、それは貴族にとって人に向けるに真の礼節であった。
人は強者の愛玩ではない、個を個と接する在り方。
「あれだけ貴族に礼を尽くしたのに、貴族が恩を返そうにも居場所も分からず足取りも掴めない。
であれば、大々的に動き謳う。
おとぎ話ではよく聞かせる話でありましょう?」
曰く、どこぞの姫に奇跡で扮した娘が落とした靴を手掛かりに、
曰く、主思う猫が魔法で変じた騎士を探して姫が一計を案じ、
曰く、想いを寄せる侍従に呪いをかけた魔女を探し王子が姦計を忍ばせる。
貴族とは時に大々的に動くものなのだと。
「貴方は”令嬢”を二人も救っておいて礼は不要は流石に不躾と思いません?
ですので、お礼をさせていただこうかと思いまして。
それに、この絵ですが……」
微笑みを絶やさず廊下を歩み、階段を降り、そして絵の前で立ち止まれば、つい、と、
表情から笑みが消える。
真摯。
蛮行でも愚行でもない、ましてや侮辱でもない。
これは、必要なのだと、貴方を見つめ返す。
「いすれこの絵は奥へ飾りますわ。領主の間へ。
これは、道標。人が、人の上に立つ者に必要な”立ち方”を一目で示す為のもの。
私には、この家の後々には必要なものです。」
独りで無謀に挑んだ女騎士は、静謐を伴い始めていた。
真っ当な人間ではないという。だが、己はその真っ当な人間から矜持の形を見出したのだと。
これは、譲らぬと。
■”徒花”ジョー >
「……笑えない御伽噺だな。礼はいらんと言ったはずだ。
俺はただ、"人"として出来ることをした。余計なお節介だ。お前が、お前らが何か思うことがお門違いだ。」
こんな国でも、どんな情勢でも、礼節を、ただ心を忘れないだけだ。
人を越え、理を超え、ありとあらゆる枷を取り払った。
自らを何と評するかは興味はないが、確かにただ"武力"の観点だけ見れば負けない自信はある。
ひけらかすのではなく、そうなれば決して負けないという力への自負。
故にそれは無闇に振るい、明かすものではなく、持つだけ。
如何に武力を持とうとも、役に立つことなど早々ない。社会で生きるものなら尚更の事。
気づけば、男は彼女の隣りにいた。瞬間移動。空間移動する魔術の一つ。
但し、そこの詠唱も術式も必要としない。
長い年月より生きてきた上で学んだ力の一つ、術式省略。
間近で彼女を見る男は訝しげで、視線はやや冷めている。
「……仮に俺が救った事としても、だ。俺が救ったのは"令嬢"ではない。
此の国に住まう、"人"二人だ。立場がどう、というわけじゃない。」
立場で選んだわけではない。種族で言う人でもない。
ただ、困っている者がそこにいた。それに手を貸した。
本当にそれだけの事だ。賞賛が必要なものではない。
この話は、あの時貰った一言の礼一つで終わっている。
そう、"些細なこと"だ。既にこの話は、終わっているのだ。
「……肖像画についてはもういい。お前の好きにしろ。
だが、もうこんな大掛かりな事はやめておけ。どうしても会いたいなら、俺の場所位教えてやる。」
「だが、再三、何度でも言ってやる。
肖像画に描かれている人物は、お前が目指すような導ではない。」
静かに、真っ直ぐに。両の翠は彼女を射抜く。
■モルガナ > 「人、ですのね」
こんな国でも、どんな情勢でも、礼節を、心を、人は忘れた。
人同士が、人と魔が、人が獣が。
心を持つ者はいる。だがそれは輝く原石だ。
だから、奪い合う、穢される。落とされる。
それが、この国。
皮肉にも人を謳う者達が、人の枠を外れた者に心で大きく劣る。
「どう思おうが、お門違い。そうですわね。
貴方をそうだと言いませんわ。押しつけがましいですもの。
ただ、貴方から感じたものを、私の中で形になったものを絵として紡いだということ。」
ここに描いたのは彷徨った不死ではない。在り方なのだと。
貴方を讃えるためのものではないのだと。
「ただ、より美化して描けば、礼は要らぬと行方を眩ます貴方にもう一度会うくらいは出来ましょう?
それに、造詣は同じですけど、自分と憤慨するには美化しすぎじゃありませんこれ?」
仕立てはいい。決して負けないものが見れば実戦的ではないところが随所に伺える。
例えば靴。例えば裾の長さ。例えばインバネスのはためく長さと伺える柔らかさ。
杖も細く嵌められた宝石も輝きが過ぎる。
促されて、落ち着いてみる余裕を持てるなら、意図的にずらした点の集合体であって。
もしどこかでこの絵の情報を手に入れた者が、貴方のことを追っている誰かだとして、
この絵を参考に、ミナスジェイラスがわざわざ描かせたのだから正確なのだろうと”見誤れば”膨大な隙を招く情報の集まり。
縮地。いつぞやまみえたシェンヤンの仙法に似た動きを見る。
そして、冷ややかな目を見る。
「また、私がいつか死ねば、貴方のことを忘れる人が増えて行くんですものね。
でも、後々言い伝えの起点となる一枚の絵ぐらいは、残しておきたいんですのよ。
それに、目指してはいませんわ。」
敬意はある。だが、盲目ではない。野心にも似て、しかし野心と言うには真っ直ぐな瞳。
「私が生きているうちに、貴方と並んで追いこすぐらいでいますので。
それに、これは先祖には残るでしょうけれど、これは私の絵ですもの。
他に増やすなんてとんでもない話ですわ。」
憧れも盲信もない。そこにいるのは、強者を認める者。
敬意を示すのならば、その在り方を見たのならば超えるのだと。
この大きさは貴族の大仰な趣味ではなく、己をより高める誓いなのだと。
「それにしても……、どうしても会いたいと言うなら、教えてくださるんですのね……♪」
侮っているわけではない、その瞬間、凛とした瞳が嬉しそうに綻んでそう言葉が漏れて。