2023/09/13 のログ
■九音物 > 相手の笑顔は、見て嫌な物じゃない。こびへつらう様な笑い顔を多く見て来た自分からすれば、それはまぁ。毒々しい華ばかり見ていた時に、落ち着ける自然の花でも見た様な感想だった。
惚れた腫れたとは遠い感情なのは間違いない。
「アレはお人好しのどこぞの部隊が農耕の手伝いで借りて行った。
こんな事になるなんて管理側も思ってなかっただろうし」
えっちらおっちら荷車を押していくと段々と空は茜色から薄い夕闇に移り行く。
影が縦長に伸び、夜行性の獣の足音と気配の数が増えてきていた。音には敏感だからこそどうするのか、という結論を促した時に聞こえたのは野宿が無難と言う言葉。
『ん。』という小さな返事と共に先に、一応辛うじて女と認識されているのだろう。先に荷車から離れる様に視線と首の動きで伝えて、少し森の側に台車を寄せていく。後は車輪部分に木と石を噛ませて勝手に動かない様に手際よく進めていた。
「ノーシスが、だよ。こっちもあちらも良い話だけを聞く訳じゃない。
例えばさっきの村でノーシスとクギヤ達で信仰が別れたら?
お布施できるモノやお金が減るし、労力も減る。ノーシスからすれば面白くない。
といって最初から拒絶の姿勢を示せば外交上でも問題があるし、魔族との闘いだ内乱だで慌ただしい世情から、敵視する勢力も出てくる。
表向き受け入れるよ。でも、裏を返せば商売敵にもなる。
………実際だけど、妙な連中が村に紛れてたからね。」
絶対気付いてなかっただろうな、と言う溜息。
村人の中に紛れていたのはノーシスの狂信者と言っても良い人物。
霊桜教での自分の立ち位置にも似ている、『密命あれば何でもする』類の人種。
巫女は温かな、崇拝対象としての存在だ。恐らくあの村で好意的に接していた人物は多かっただろう。
反面自分達はその影であり、血に汚れる事を厭わない。
同属の気配には敏感なのだ。お互いに牽制し合っていただけに、最初にいった『追放で良かった』に繋がる訳だが。
「――クギヤは変わらないね。」
それが、彼女の良い点でもある。そこには今のままで良い。という響きも混ざっていた称賛の言葉。
さっさと魔物避けに獣避けを広範囲に仕掛けていく。
糸や髪の毛を数本引き抜き、獲物の棒手裏剣を支柱にして簡易的な結界の様な物を森の中に作りながらの言葉の遣り取り。
「野宿が無難だね。水場はあるし、体を水で流す位はしてきなよ。
仮にも巫女でオンナノコ……プッ。
いや、巫女が汗臭い恰好で歩くのは可哀想だからね。ここから20メートル真っ直ぐ進めば小さな川があるよ。
そこで体を流して、巫女服もちゃんと洗う事。帰り道、竹筒に水を補充できたらよくできました、のハンコと報告書出しておくよ。」
皮肉の様に笑い声を出すのはちょっとした打算。
だってオンナノコとしてみていないアピールすれば覗きとかセクハラへのハードルが下がるかもしれない!
大きめの葉を重ね、水に浸した蔦と枝で吊り鍋を作ると自分の竹筒から水を入れて料理の準備を始めていた。
……少しだけ、相手に甘いかもしれない自覚はあるが。
血生臭い世界にいればこそ、まぁ普通の世界を思い返させる相手の穏やかさ。笑顔というのには心が休まる側面があるのは確か。
何より、呼び名は気に入らないが自分をモノとして扱わない相手は嫌いではないのだから。
■ミホ・クギヤ > 「――ああ… あ、そ…」
牛いないの?そうか、って。ショボーンとした顔をするけれど、冗談だ。
いたところでココまで引っ張って来られないのだから変わらない。
いやいや私のお勤めさねと、九音の助力で軽くなった分、速度を稼ぐべしと踏ん張りを強めた。
しかしそんな頑張りは誤差の範囲で迫る夕闇。
本格的に暗くなっては野営の準備もし難く、ダメならダメで傷の浅いうちに諦めようと。
伝えてキビキビ動いてくれる九音に対してこちらがどうもウロウロしているのは、野営慣れていないのだろう。
「…釘屋達、か。そこは僕達で良いと思うんだけどね物の字?」
もっと大事な話をしているのだけど、一神教のノーシスが本音じゃ私達を受け入れたくないなんて百も承知。
しかし魔術全盛の当世は、神もあれば仏も悪魔もあってそれぞれが実在のものとして種々様々な恩恵を授けてくれる。
となると神々をそれと形作る信仰力なるものも、月額サービスとどれほどの違いがあるものか。
ご利益宗教が現実的な見返りを用意し始めたらそれこそただの商売と変わりなく、であればこそ…
否定したところで実存する他の神々を、一切合切敵に回せない以上は一神教だって付き合い方を考えてくれると思うのだ。
「――まあまあ、言いたくても言えなかったにせよ、言わないでいてくれたんだ。忍耐に感謝すればいいんじゃないかな。」
妙な連中となると穏やかでないが、それも堪えてくれたなら善哉と。
話しながらも動き回る九音をなんとなく目で追って、焚き木でも拾って来ようかね?となるが動き出しは遅く。
とりあえず安置された荷車に、そこに鎮座する祠に、ここらで一息つかせてくださいなと拝んでおいた。
「仮にもって何だい、いくらなんでも笑うこたなかろうに。
…汗の一つもかかないで香のニオイぷんぷんさせてたらそりゃ生臭だって―― それじゃお言葉に甘えようか。」
手際が悪いのは分かってる。
焚き木選びも下手ならこういう所での火起こしも遅いし、
火の番くらい出来ると思うけど、もう親切に甘えてしまった方がスムーズだろう。
吹き出されると、ナンデそこまで否定するかね?…そんなに酷いのか?と腰に手を当て。
『女の子』の『子』の部分に一人でウケたのだと思っておこう。
――装束の洗濯はここでか?と躊躇うが、なんか色々あって臭ったりしていたかもしれぬ。
火でがんばって乾かせばいけるか?と、万一の備えに用意した作務衣を持って行くが、ここで作務衣なのが女の子を笑われる所以か?
既に煮炊きの支度を始めている九音から離れて、水浴びへ。
モノノジ、と呼ぶのは彼の名前が不吉らしいと聞いた気がするからだ。
字を変えても音に問題があるのなら、そのまま呼ばない方がいいかもしれないという。
あるいは不死性仲間というような親近感もあるのかもしれないが。
■九音物 > 「――――明日は僕が運ぶからクギヤは、荷台で寝ていていいよ。疲れてるでしょ。」
ショボンとした顔と声に乗せられた。冗談を冗談として受け流せなかったのは失態だ。
あ、という間の抜けた表情と舌打ちはこっそりと。
僕達で良い、という声には返事が無かったのは、自分なりに思う事と由来もあるからだ。名前にしても、自分自身の好き嫌いにおいても。
「むしろ追放される今日まで荒事にならなかった事。
ここはクギヤ達が褒められるべきことだよ。」
忍耐への感謝というよりは、彼女達三番隊の働きだけではなく、日頃からの住民との接し方やノーシスとのやり取りの賜物だろう。
ともすれば物騒な荒事になっていたかもしれないだけに、向こうの忍耐より身内の対応の方が良かったと思っていた事もある。
「――え、だって子って。クギヤも立派なれでぃーでしょ?
そこで汗のニオイ気にしないのがクギヤだよね。」
火起こしや薪を集めたりと言ったフィールドワークは自分の方が手際が良い。
……まぁ、それもあるが。本当に少しだけ荷台に乗っていて楽をした後で実際に荷車を押した時の重さに悪い事を下かなという気分が混ざった結果。少なくとも今夜は彼女には休息を取らせるべきだろう、と考えた結果だった。
簡単に保存食を幾つか鍋に入れて、臭み消しに香草を鍋の上にポイ。
風を斬る音は短時間に、鍋に香草が落ちていく頃にはみじん切りに近い形になっていた。
干した穀物と野菜、蛇っぽいナニカのお肉。塩味が足りないので代わりに少量の酒を入れて甘さと美味さを誤魔化す事にする。
流石に、巫女を酔い潰させる訳にもいかない。
こう、ふつふつと酒を煮込めばアルコールもある程度は飛ぶだろう、多分。
「何かあったら大声――が難しかったら手足で水を打ってよ。
一応助けにいくから。
……いや、うちの宗教にも『いた』でしょ。常に汗のニオイさせないで香りを撒いていた」
いた、という過去形は彼女に伝わればいいのだが。
鍋料理にした理由は、少しの間なら放っておいても焦げ付かない。
紙鍋とも少し違うのだが、葉鍋と蔦の水分で延焼もせず適度にゾースイとして煮込めるのが強み。
そう、水場に行くなら、体を拭くなら覗くつもりはある。
作務衣を持っていくあたり、やっぱりどこか世間ずれと言うより華ではなく花の印象から抜けきれないのだが。
モノノジ、という呼び名を最初された時は怪訝そうな顔をして相手を見た記憶が残っている。
一時期自分の呼び名だと分からなかったくらい理解出来なかった。
その呼び名の裏側、彼女の思いやりを想像できないのはこの爺の悪い所。
悪意には敏感だが善意にはあまり敏感ではない。その辺りが扱いにくいとされる所以でもある。
■ミホ・クギヤ > 「――はは、それはダメだよ物の字。
祭主は三番隊。こんな落ち着きの無い事になってしまって、礼は尽くさなければね。一応は。
心ある人が一緒に押してくれると言うのなら、やぶさかではないが! 昼寝はやり過ぎだよ。」
ショボンを真剣に受け止めてくれたらしく、申し出ありがとうと笑って、そうではなく今日の調子で頼むと言う。
慰めの言葉には はいはいどーもね と照れくさそうに肩をすくめるのみで。
「おうよ、二十三だよ、こんな歳になるなんて誰が思ったものか。
…いやでもニオイ気にしないわけじゃなくて、そこはほら、止むを得ない線ってもんがあるものでしょう?
もういいから近寄ってくれるなよ。」
汗臭いのは普通に嫌だけど、野宿しようって状況でそこまで気にしてもと。
何が気になると言えば一番は他人にニオイを気付かれる事なので、距離を取ってよ、しっし って逆に嫌そうに。
「――あの方は別格!」
主教の愛妾なんて、という察しで合っているのか微妙なところではあるけれど『いた』なんて表現を使う対象が葦原会にはそういない。
お狐様であるし、神官の下働きとしての「巫女」とは一線を画する存在であっただろうと言い、川の方へ消えて行く。
…川辺にて、そんなに臭い?とクンカクンカするが、自分のニオイって分かり難いし、物の字は感覚鋭そうだし。
いやいやこれくらい大丈夫… と思い込もうとするが自信は無くて、眉根寄せながらぬぎぬぎ。
衣は大部分が巫女の作業着として標準的だけど、下着のみマグメール風のもの。
白の機能的なデザインで非常に無難。ただし金属部品は廃されて、結んだりで対応出来るように改造されている。
それもとっとと脱ぎ去って、日暮れの水面には気を張りながら、ちゃぷんと腰が浸かる深さまで進み出よう。
■九音物 > 【継続します】
ご案内:「田舎道」から九音物さんが去りました。
ご案内:「田舎道」からミホ・クギヤさんが去りました。