2024/12/08 のログ
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枢樹雨 > 光量の足りていない照明に、雑多かつ豊富すぎるくらいに並べられた数多の雑貨達。
おかげで若干薄暗い店内は、雨から逃げて入り込む先に選ぶには実際微妙かもしれない。
その店内に響いた物音は良い意味で鮮烈で、悪い意味で五月蠅い。
店主は後者を強く感じたのだろう。鬱陶し気に貴方を見つめるも追い出すようなことはせず、
再び積み上げられた本の影に頭を引っ込めてしまう。

そうして己はと言えば、じぃ…と貴方を見つめる。
鬱陶しいと邪険にする様子もなく、長い前髪の隙間から、図らずも貴方と見つめ合う。
反射的に近い形で発した疑問に答える言葉があれば、それが途切れると共に一歩を踏み出し、貴方の前まで歩いていって。

「着物。…随分と裾が短いけれど、布が足りなかった?…袖もない。」

逃げられる事無ければ貴方の目の前でしゃがみ込む妖怪。
己の着物とは違い、片袖や裾が切られたそれを物珍し気に見つめ、伸ばした両手でその裾に触れようとする。
更に近づいたことで尻尾の柔らかな毛の質感を見ること叶えば、そちらへも視線を映す。

自由を阻害されることを厭い、人外たる証を隠す己とは違う貴方。
改めてその赤味がかった金の瞳を見上げれば、ゆっくりとひとつ瞬きを。

「狐?」

タマモ > ぱっと見でも、この店内の静かな感じから、図書館のような、余り大きな音を立てては…との感じはするが。
本当の図書館のように、小言やら注意やら、そんなものがなければ、なら良いか、と割り切った。
…いや、割り切るなよ、とか言われそうだが、気にしない。

さて、そんな事よりも、目の前にいる…己と同じように、見つめ合うようになった、相手である。
己のすぐ手前にまで歩み寄れば、掛けられる言葉に、軽く思考するような仕草。
…あぁ、と理解したように、ぽん、と手を打てば。

「いやいや、そう言う訳でもないんじゃがな?
そもそも、この程度ならば、そう寒さは感じんから、普段のままじゃが…
そうじゃのぅ、見た目があれ、と言うならば、こうする事も出来るんじゃぞ?」

暑い時期と、普段から動き回っているから、短い方が良いとの理由でこうしてはいるのだが。
そこを気にするならば、こうも出来ると、己の着物へと妖力を流し込む。
この着込んだ着物は、昔から馴染ませている妖力の込められた一着で、状況等に応じて変化が出来る、と。
その目の前で、短かった裾や袖が、覚えのある形に近いものへと変わっていく…戻っていく?
タイミング的に、であったか、触れようとした両手は丁度伸びて来た布に触れ、その感触を与える事だろう。
まぁ、尻尾は隠さないので、そのまま見る事は出来るが。

己と違い、その姿を隠している、そんな相手の事情はまだ分からずだが。
狐である己の事を指摘されれば。

「うむ、その通り、九尾狐と呼ばれておるが…まぁ、この辺りでは…のぅ」

ふふんっ、と最初は自慢げに、己の種を伝えるものの。
その呼び名が浸透していない事も理解している為、はふん、と溜息一つと共に、軽く肩を竦めてみせる。

枢樹雨 > 触れようとした着物の裾が、まるで毛髪かのようにするすると伸びていく。
同時に片腕も伸びる布地によって隠れれば、最も馴染みある和装の形へと落ち着き、その裾に改めて触れて。

「伸びた…。すごいね。私は知っている形しか作れない。」

もとより存在していた布地と、今目の前で伸びた部分の布地と、触れた感触に違いはない。
遠慮のない手はそれを確かめるとしゃがみ込んだままに貴方を見上げ、淡々と抑揚のない声音で言葉を紡ぐ。
己の着物もまた己の力によって形成されたものなのだと、日常会話のように語れば、遠慮のない手は次なる興味の対象――九つの尻尾へと伸ばされる。
その感触を確かめようと、指先で尾の先の辺りを撫でようとしては、聞き馴染みのある名称にひとつ頷き。

「九尾狐、知っているよ。私よりもよほど、人の子が畏れ語った存在。」

この辺りでは、この国では確かに聞いた事がない。
けれど妖怪が生まれた場所では何度となく耳にしたことがあり、そして何度となく語られる様を眺めた。
だからこそ、実物として目の前にある貴方に隠さない興味を向け、触れようとして。

「君はどこから来たの?私と同じ場所?地図にも乗っていない、遠い遠い何処か?」

冬を越えればこの肉体を得て、そしてこの国に流れ着いて1年にもなる。
しかしまだまだ知識も経験も足りない妖怪は、幼子の好奇心で持って問いを重ね、小首傾いで。

タマモ > まぁ、普段は着物をこの状態にしないので、逆に見知った者が今の姿を見ると、少し違和感を感じるか。
相手にとっては、いや、普通の着物を着ている者達からすれば、こちらが本来の形だろう。

「うん?知っている形?…あー…なるほど、そう言う類なんじゃな?
なるほど、それでは、知っている形しか出来んじゃろうなぁ」

その言葉から、何となくだが、そこは理解出来た。
腕を組み、大きく一つ頷きながら、それに答える。
己の場合は、己は己、着物は着物で別物、対して相手はどちらも同じ、と言う訳だ。

さて、着物から、次は尻尾に興味が向いているみたいだが…まぁ、それを触れるのは自由だろう。
気を使い、ちゃんと尾の先に触れるところは、好感を持てる。
そして更には、続く己の伝えた事を理解している、その言葉。
ぴくん、と少女の耳が揺れる。

「………おぉ…何だか、久し振りに、ちゃんと妾を理解してくれる相手が…感動じゃ…!」

尻尾に触れる手を、ぎゅ、と己の手が握り、じっと見詰めながら。
何をそんなに感動しているのか、と言われる程の感動っぷりを見せ付ける。
そはそうだろう、だって、ここに来てちゃんと九尾狐を理解する相手って、指折り数える数しか…
…おっと、思考が逸れた。
続く問い掛けに、こほん、と咳払いを一つして。

「うむ、そうじゃな、そこの地図には確かに載ってはおらんのぅ。
とりあえず、その通り、遠い遠い場所、と覚えておけば良いじゃろう」

少し視線をずらせば見える、壁に広げられた地図、そちらを一瞥した後に、そう答えた。
ちなみに、己が相手に同じような問いをしないのは、そうした事を、余り気にしていないからだ。
まぁ、話題に出れば乗っかるが、同じ妖っぽい感覚を感じるなら…多分、シェンヤンと予想も出来るから。

それにしても、色々と出来そうだが、着物の事と言い、他もあるが、何となく知識足らずな感じを受ける。
こちらもこちらで、かくん?と軽く首を傾げながら、そんな相手を見詰めるのだった。

枢樹雨 > 妖、妖怪の類。ともすれば神と崇められる事もある九尾狐と比べるのは些か無理があるかもしれないが、
それでも言葉足らずな己の話をすぐに理解してくれるのは、近しい存在だからなのだろう。
「そう、出来ない」とこくこく頷いて相槌を打てば、鬼角を隠す頭上の白絹が揺れる。

許されるなら触れた九尾のひとつ。
触り心地の良い毛並み――もふもふをしばし味わおうとした矢先、その手を取られ握られるなら、驚き
に数度瞬きつつも名残惜し気に貴方の尻尾をちらちら見遣り。

「この国は、魔の存在はあってもあまり人の子と密接でないからね。…角を折られて売られる事もあると聞いた。」

貴方から向けられる感情に驚いた様子を見せるも、己たちの様な存在が認識されていない事は流石の妖怪も認識済み。
握られていない手で、白絹で隠した角に触れて首を竦めて見せては、その割に怖がっている様子もない抑揚のない声音で。

「そう…。同じ場所かもしれないし、違うかもしれない。遠いことだけ、一緒。」

貴方につられ、先ほどまで穴が開きそうな程に見つめていた地図を一瞥しては、握られた手を軽く上下に揺する。
離してというわけでもなく、"一緒"のリズムに合わせて上下に二度。
しかし今度は貴方が首を傾ぐ。
その様子に妖怪もまた同じ方向へと頭傾ければ、こめかみの方へと流れた前髪の隙間から、仄暗い蒼が覗き。

「なに?」

タマモ > 自身の居た地であれば、確かにそうした類の存在とも、なれたかもしれないだろう。
だが、この地に召喚されてしまい、戻れないのだから、今更足掻いたところでどうしようもない。
その辺りの細かい事情は、面倒なのもあって省いておくが、きっと大丈夫。
そして、出来る出来ないの話に、相槌代わりに頷くのを見れば。
うんうんと己も頷きながらも、ちら、と頭上の白絹に瞳が向いたのは。
続く彼女の言葉から、そこにあるものが、角なのだろうと予想が付いたからだ。

「ふむ、人とは得てして、人以外をどう扱おうと、脅威に感じておるものじゃ。
そうした行為も、己の優位さを示したいと言う、心持の現れなんじゃろうて、のぅ。
…しかし、角なぁ…身の危険がありそうであれば、隠すのは仕方のないものか」

その予想が確かとなる言葉、相手が尻尾を触れたそうにしているのと同じに、己の視線も…との感じか。
まぁ、そう思いつつも、自然と相手の頭に手が伸びてしまうのは、好奇心ゆえだ。
それを止めようとすれば、もちろん、止めてやる訳だが。

「ふむ、であれば、それを知れただけ十分としよう」

とりあえず、己と同じように、知らない場所があって、そこから来たんだろう、そう思う事にして。
こう、手を握って上下に揺らす、その意図を察して揺らしてくれるとは、なかなかに分かっているようだ。
とかどうとか、また考えを逸らしてしまいながらも。

「あぁ、いや…思いの外、色々と知らぬ事が多そうに見えてじゃな?
もしや、まだ若いんじゃろうか、と思うたんじゃ。
見た目では、そうしたものは分からんからのぅ」

人であれば、大体は見た目通りだ、時折、呪いやら何やら、妙な力で見た目が変わる者も居るのだが。
そうでない存在の多く…でもないが、それなりに、見た目と年齢がまったく違う場合もある。
目の前の女も、そうした類だろうか、と思った事を、別に隠す事もないので、素直に伝えておくのだ。

枢樹雨 > 「それが、人の子。底知らずの欲と、想像力と、行動力。…私みたいなのが生まれるのも、人の子がそう在るから。
 ……でも、角は取っては駄目。」

妖、妖怪、怪異の類。その中でも己は殊更人に近かった。
それが故に、疑問に思うよりも先にそういうものであると享受している。
でも角は困ると、行動と共に示してみるが、其処へと注がれる視線があれば貴方を見遣る。
しゃがみ込んでいるが故に、きっと貴方にとって触れやすい位置にある己の頭。
伸ばされる手を見つめるも、逃げる様子はなく。

「少しだけだよ。」

そう告げて差し出した頭。
白絹越しであれ貴方の指が角に触れるなら、ピクリと小さく肩震わせ、そっと吐息を零す。
妖怪にとっては魔力の貯蔵場所とも言える角。
其処に同じく人ならざる力持つ者が触れるなら、その力を感じ取り、内包された己の力の泉に波紋が広がる。
明確な拒絶を知らぬ身体は相も変わらず容易く他者の力を受け入れ、敏感に震えるに至るわけで。

「っ―――、若い、かな……。君と比べると、若いの、かも?…この身体は、きっと若い。貰ってまだ間もないから。」

僅かに震える吐息。
それに次ぐのは、貴方の疑問への答え。
本人もまだ半信半疑の回答は曖昧で、けれど肉体に関しては明確。
自らの胸元に手を置き、己の肉体を示しては、「気がついたらこの国にいて、この肉体を持っていた」と語り。

タマモ > 「まぁ、それが様々な可能性を生み出す源泉ともなる、ゆえに、面白くもあるんじゃがな?
………いや、取らんぞ?」

人に近い妖、身内に一人、別の意味で人に近い存在が居るからこそ、そこを気にしたりはしない。
とは言え、だから同じ風に扱ってくれる、なんて都合良くもいかない事も、知っている。
その辺りを言葉にしないのは、それを示している意味でもあれば。
角を取ってはいけないと、そう伝える女へと、少し間を空けて、そう答えた。
己とて、耳や尻尾を取られたりとか、想像したくもない。

「おや…」

別に、触れさせてくれずとも…とも思ったが、そう言ってくれるのならば、触れるべきだろう…違う?
ともあれ、差し出される頭、角のあるだろう白絹越しに指を滑らせ、触れてみる。
触れられた時の反応に、布越しとは言え触れた時に感じた感覚に…軽く、一度視線を外し、すぐに戻すと。

「なるほどのぅ…だから、知らぬ事も多い、と。
しかし、なるべくならば、気安く他人には、余り触れさせん方が、良さそうとは思うが…はてさて」

女の言葉に頷きながらも、角の感触を確かめるように、布越しに滑らせていた指先。
それが、その形を確かめるかのように…指を這わせるように、撫で上げる。
そうされて、そう伝えても、そこまで気にするような素振りがないとか、引いたりしないとか、なければ。
調子に乗って、そのまま弄ってしまったりする事だろう。

枢樹雨 > ちらりと貴方を伺う視線は外さない。
触っても良いが、取らないと言われても取られたら困るからこそ。
じぃ…と、見つめる視線は変わらないが、強いて言えば上目遣いに変わったくらい。
そうして触れる指に、伝わるくらいの震えを見せれば、視線は僅かに伏せられて。

「だって、尻尾触らせてくれたから………っ、もう終い」

妖怪なりのギブアンドテイク。
九尾にとっての尾が大事なものであると、それなりに知識も持っているからこそ、差し出した己の角。
しかしその指が"少しだけ"と言うに収まる範囲を超えるなら、数度震えた後、僅かに濡れた双眸を前髪の隙間から
覗かせ、背を丸めて縮こまり、貴方の手から逃れた後に両手で角を隠して。

「触り過ぎは、駄目。気持ち良い事、したくなるよ。」

零れた吐息に交じる湿り気。
与えられるあらゆる刺激への好奇がまだまだ失せぬ妖怪は、あらゆる刺激に拒絶を示さない。
だからこそ、身体疼かせる干渉が交わりへと繋がること示しては、ゆっくりと立ち上がり。

「そろそろ行くよ。……私、枢(くるる)。君の名前も、教えて。」

気が付けば丑三つ時。
街歩きよりも興味そそられる出会いに恵まれひとまず満足したのか、妖怪は肉体を休める時間に入ろうかと見せの外を見遣る。
しかし思い出したように貴方を振り返れば、近くなった視線を交わし、貴方の名を強請って。

タマモ > 屈んで見上げる形となっているなら、こちらからも向ける視線に、視線と視線がかち合う事となるか。
上目遣いに見上げる姿、触れる指先の動きに、その視線が僅かに伏せられるも。

「まぁ、この程度であれば、何ら問題もあるまい。
…おっと、残念、分かったのじゃ」

大事ではある、そもそも、尻尾は己の力の象徴でもあるのだから。
その代わりに触れていた、それを示さずとも、言葉か行動に示せば、手を離すつもりではあった。
終わりを伝え、縮こまって手で隠すようにすれば、そこで手は離しておこう。

「あぁ、なるほど…それはそれで、悪くはないが、それは次の機会にでもしておこう」

いや、お前自分で安易に触れさせるな、っぽい事を言っておいて、それか?とか言われそうだが。
それはそれ、これはこれ、気にしたら負けだ。
ともあれ、そんな言葉を伝えながら、立ち上がるのをのんびりと見詰める。
そろそろ時間、それを伝える言葉に、窓から外を見れば、確かに結構な時間となっているか。
…こんな時間まで、開いてる雑貨店とか、なかなかに凄いものだ…とも、そんな考えを浮かべながらも。

「うむ、またどこかで会う事もあるじゃろう。
っと、枢と言うか、覚えておこう…妾の名は、タマモじゃ、覚えておくも忘れるも、お主次第」

そろそろ、己も戻るとしようか。
とも考えていたところで、相手からの名乗りを聞けば、そう言えば…と、ぽむ、と手を打って。
振り返る女へと、挨拶代わりにひらりと手を振りながら、己の名で返しておくのだった。

枢樹雨 > 己が嫌がれば、素直に引いていく手。
意志を押し付けることも、己の自由を阻害することもない相手と認識すれば、角を隠していた両手を離し、頭上の白絹を軽く直して。

「ん、良いよ。気持ち良い事は、好き。」

その気持ち良いにも数多種類があることをこの妖怪は知らぬが、新たな発見があれば其処へ興味を向けるだろうことも確か。
さらりと貴方の言葉に応えては、立ち上がった際に裾もまた直し、それが当然であるようにしゃんと背筋を伸ばす。
ふと視線を向けた積み本の向こう側からは、店主の寝息が漏れ聞こえていて。

「タマモ。…名は、忘れないよ。恐らく。」

繰り返した貴方の名。覚える様に、ゆっくりと紡いでは、下駄を鳴らして扉の傍へ。
そうして答えるように片手を挙げると、もう一方の手で扉を押し開き。

「またね、タマモ。また出会えたら、君がこの国に来た時の事を聞かせて。」

淡々と抑揚のない声でそう言い残すと、妖怪は店を後にする。
店主の寝息と貴方とが残る雑貨店。
流石の週末でも人通りの少なくなった平民地区の細道を歩けば、妖怪はいつしか霧のように消え去り、その場から去っていって――…。

ご案内:「平民地区 雑貨店」から枢樹雨さんが去りました。
ご案内:「平民地区 雑貨店」からタマモさんが去りました。