2023/12/21 のログ
■アティル > 初心者コースと言うだけあって、時々段差がある場所には適切に土が盛られ、落葉で隠れようとも躓く事は無い様に、少ないように配慮されている。
足の裏からはさく、さく、と水分を失い、繊維質を豊富に含んだ落葉の鳴らす音が。
或いは足元が普段の整備された石床や、道路とは異なる感触を足裏に伝えてくる。
自分だけが先に進まない様に、少女の足取りに合わせつつ。
それでもどうしても、歩幅の差と言うのは埋めにくい。
とてとて、とことこ、と少女の足取りを急がせるつもりがなくても、どうしても小さな差が生まれるのはこの段差と、なだらかとはいえ傾斜が生み出す物だ。
振り返った時に、子供の心配をする様な父親の表情……になりきれないのは。
どうしても背後を振り向いた時に目にしてしまう、揺れる2つの宝物にも目が奪われてしまうから。
――邪念に囚われそうになるが首を振りつつ、静かにエスコートを続ける。
今日はピクニックとして誘っているのだから、と。
「なるほど。……人の命……の数だけ、出会いも、交流も生まれる。
ダンジョンも大変だと噂程度でしか知らないので。こういう平和な自然も、彼ら冒険者や、騎士の皆さんが。
そして、それを裏で確り支えるお医者様。後方活動とされる皆様の……おかげですね。」
後方活動。しかし実際は最前線にすら赴く彼女達の先生の様な存在は軽視されてはいけないのだ、と。
今更ながら理解が及んだ。
安全な場所を基盤に、基本にしてそこから少しずつ人が活動できる、生活できる幅を広げる。
斬り広げていく人達の影に隠れがちだが、決してこういった活動を無視してはいけないのだと――。
ふと木の上のリスがコリコリコリと、可愛い音を立てて木の実を齧る様な音が聞こえてきたり。
時には人の姿を見ても驚かない、平和な小動物達が歩み寄ってきたり、といった平和な光景を目に出来るのは、全てが噛み合った結果なのだろう。
護身術という言葉に、くすくすとした笑顔を浮かべた。
自分も、齧った程度には護身術を身に付けている。
それは自分の命を守る為の物と言うより、自分の場合は相手の命を先んじて奪う剣の護身術と言えた。
「出来れば、そうですね。戦争も無くなれば一番です。
争いがあるから護身術も必要になってきますので。
リーナさんの護身術は出来れば目にしたくないですから。」
魔術を収めているにしても、出来れば平和に。
出来れば護身術も必要が無い程に平和ならば、少女の様に輝いた笑みを浮かべる相手をこういう場所――自然を楽しみ、様々な生命を目にする場所に誘う事をためらう事も無くなるだろう。
竜、という事を知らないのでそう思ってしまうのは仕方のない話だった。
少しずつ歩んでいくと、第一休憩所と書かれた自然の広場が目に飛び込んでくる。
シートを準備してこない人の為にはベンチが。
シートを引くには便利な、傾斜の無い平坦な草地が整えられ、すぐ傍を清らかな小川が流れるといった光景。
疲れる前に、休息をとる。基本中の基本を実践する為、ここでぴたり、と足を止める。
「リーナさん、ここで少し休憩を取りますか。
折角ですし、お茶と。おにぎりと――軍用食の、残りくらいしかないのですが。」
サイドパックから取り出してくるのはおにぎり。
穀物を丸めて、中に具を入る。
……形が不ぞろいなのはご愛敬。ほんのりと温かいのは保温効果のあるサイドパックだからだろう。
軍用食は、少し大きな缶詰に肉の塩漬けと豆が煮込まれたシチューの様な物。
少女も何かしら準備はしてくるだろう、という予想はあったが、それだけに甘えるのも悪いと思って準備した物だった。
……なお。おにぎりをつくるだけで時間がかかり、おかずは缶詰になったのが真相だったり、する。
■リーナ > さくり、さくり、さくり、さくり。
色付いて堕ちている彼はを踏みしめて進んでいく二人、平らな道は歩きやすく、子供でも転んだりしないように配慮されているのだろう事が判る。
確りとしている道だから、足元を気にすることなく、唯々、周囲の木々の様子を見て、歩くことができる。
進みやすいからこそ、彼が先に歩き、それについて行く形で、ちょこちょこちまちま進んでいく。
体力に自信があるからこそ、息切れすることなく、付いて行くことができるのであった。
「大丈夫ですわぁ~。」
時折、心配そうに、振り返ってくれる。
視線が少しばかり下に揺れるのは仕方がない事なのだろう、唯々、彼は自制しているようだ。
顔を振って、邪念を振り払う様にしている様に、安堵をしながら、近づいて行く。
「私達トゥルネソルはぁ~ドラゴンとぉ、人のぉ、愛の子ですからぁ。
これもまたぁ、交流の結果ぁと、言って良いと思いますわぁ。
ダンジョンからぁ、帰ってきた冒険者様たちはぁ……皆様、怪我をして帰ってくる事が殆どですからぁ。
医者、だけではありませんよぉ?
冒険者様が、薬の材料をぉ、持ってきてくださりますしぃ。
皆が、皆、助け合っての、世界、だと思いますぅ。」
後方活動だけではない、医者だけでもない、商人も、大工も、お針子も。
皆が、それぞれの仕事をしているから、世界が作られていると思っている。
包帯だって、薬だって、医者だけで作るものではない。
様々なものが絡み合って、その結果、と、アティルに伝える。
スクナマルさんかなぁ、コリコリと好みを齧る栗鼠を見るが、法被を着てない、野生だと判った。
近づかずに警戒しているようにこちらを見る栗鼠を見返して。
流石に、人竜……竜の気配のあるリーナの方には来ないようだ、それは仕方がない事だと。
護身術の下り、笑う彼に、ぷく、と頬を膨らませる。本当ですからねぇ。と。
証拠をお見せしましょうか、と、ちょっと危険な目の光、きらん。
「……残念、ですぅ。
護身術で着る事ぉ、信じれ貰えてない気がしましたのにぃ。」
そう言いながらも、別に暴れたいわけでは無いので、それ以上の追及はせずにそっぽ向く。
ぷい、とそっぽを向いたからか、その看板を目にするのが遅れた。
アティルが立ち止まり、その気配に気が付いたから、リーナも足を止める。
「休憩、ですかぁ?」
問いかけてから、休憩所の看板を見つけて、納得をして。
はい、と笑みを浮かべつつ、彼の再度パックから出てくるおにぎりを。
「私も、作ってきましたの~。」
彼と同じように、ボックスバックから取り出すのは、サンドイッチ。
卵に、ハム、サラダ、色とりどりの食べ物だ。
簡単なものが殆どなのは、形が崩れにくいのと、こういう所では、手でつかんで食べる為。
彼がおにぎりをチョイスしたのと、同じ理由だ。
水筒から、お茶を……暖かな紅茶の入ったそれを取り出し。
あと、シートも取り出して、広げる。5m四方の大きなシートだ。
リーナの鞄もマジックバックなので、見た目以上に入る鞄なのである。
それを草むらに敷いて、シートの上に横すわりに座り、さあ、どうぞ、とぽんぽん、と隣を叩いて促す。
■アティル > 逆に自分の方が息切れとまではいかないが、息が弾んでしまう。
疲労というには心地良さの方が混じる。デスクワークばかりもあるが、鬱々とした陰気が晴れる事が自覚できる。
自然と足取りも軽くなるが、といって相手もいてこそのピクニックだ。
大丈夫、という声にも、足取りを進め過ぎない様に何時もよりもゆっくりとした足の進み具合を心掛け、歩幅も小さな物にしている。
それでも自分の方が良きが弾むのは、種族の差と言って良い。
それが少女の言葉に驚いたような、それでいて納得も行くような。
感嘆した表情に繋がる物だった。
「あぁ、トゥルネソル……なるほど。
ドラゴンと人が判り合えたように――。」
其処から先は口を噤むが、続く言葉は相手にも伝わるだろうか。
争いが無くなればと言う意味する所。魔族との和を結べれば。理解し合えればという言葉だったことに。
「いえ、合点もいきました。
……護身術を見せ合うのは、出来れば無しにしましょう?
護身術を奮うより、出来ればリーナさんには美味しい物を食べた時の笑顔で。
それと、平和な世界に生きて欲しい物ですから。」
危険な目の光。その直前にあったドラゴンと人の愛情の結晶。
その言葉が無かったら笑いながら受けていたのかもしれない。
だから危なかったと思いつつ。本心は、出来れば危険とは無縁で会って欲しいというのは事実。
多分、手合わせなどしようものなら自分が文字通り、物理的な意味でも吹き飛ぶ。多分。間違いない。
「お言葉に甘えて。……この時期と命が芽吹く季節の山は良い物ですね。
空気が美味しい、とはよく言った物です。
それ以上に、美味しそうなサンドイッチですね。
お互いの食事、交換しましょうか。」
サンドイッチの様子は本当においしそうだ。
色とりどりで、それでいて自分の物より形が整っている。
缶詰を出そうとしたが、お互いの持ち寄った料理の量と。
何より温かい紅茶を準備してくれたのだから、それは必要ないので出さなかった。
ハンカチできちんと手指を拭き取りつつ、おにぎりは都合6個。
沢山少女が食べる事を忘れてはいないので、少し多めに準備していた。
中には魚の塩焼きの解し身。梅干し。昆布。
それと、変わり種で海苔ではなくて青菜に胡麻をまぶしたおにぎり
ちょっとピリっと辛い、わさび菜の漬物が入るおにぎり。
最後の1個は海のドラゴンと呼ばれる事もある巨大魚の干し肉を甘辛く煮漬けしたものが並ぶ。
靴をきちんと揃えて脱ぎ、少女の隣に誘われるがままに腰を下ろす。手を合わせて、礼儀というよりも感謝の心を姿勢と態度で示すように口に出す言葉。
「いただきます」
最初にどれを食べようか、と悩むのはサンドイッチの種類もある。
ただ、その。どうしても自分の作ったおにぎりという物が美味なのかどうなのか判らない。
塩加減はおにぎりによって少し違う。
ちゃんとした目分量ではないので、少しずつ塩気に差が出来てしまっていた。
極端にしょっぱすぎたり、塩気が足りないというのは無い、と思うが。
気にする様に、少女を見てから。手を伸ばしたのは卵のサンドイッチ。手でつまみ、少女が最初に手に取った食べ物に合わせる様にして、自分の口に運ぼうとしていた。
■リーナ > 彼に遅れるというわけでは無い、歩調を速めても疲れるというレベルではないからだ。
一応医療従事者として、体力はそれなりにあるし、そもそも種族が種族だ。
彼のペースで歩いても、問題なくついて行けるのが、その証拠と言うべきなのだろう。
「本当の意味ではぁ、分かり合えてないとぉ、思います、よぉ?」
そう、トゥルネソルは一匹のリヴァイアサンが、人間のトゥルネソルに嫁ぎ、彼女が率いる竜の部族が、と言う話なのである。
ドラゴン全体とわかり合っていると、言い難い。
真の意味で言うなら、判り合えていると、言えないのだ。
それは、悲しい事ではあるが、事実であり、だからこそ、魔族との―――それに、人同士の争いが、無くならないのだ。
考えれば悲しく思い、今度は、此方がその思考を消すように、頭を振って見せる。
「ぷく。
アティルさまは~、そう言う言葉を~、いろんな方にしているのですねぇ。」
食事の時に笑顔になる、美味しいものを食べて、様々な人と過ごすのは好きだ。
ただ、今それを言われても、と思う所もある。
争いを望んでいる訳でもないし、護身術を見せたいわけでもなかった。
だから、じー、と不満そうに見やるも、直ぐに、気を取り直すのだった。
「はい~。
それでは、それではぁ。交換いたしましょう~」
おにぎりと、サンドイッチを交換するという提案には頷いた。
サンドイッチは、沢山作ってきている、まあ、リーナじしん、アティルが前に見た通り。
少しばかり、多く食べる子なのである。
彼女の感覚で二人分となると、確かに、多すぎるかもしれない。
男性なら大丈夫か、どうかと言う感じだ。
それぞれのサンドイッチは、二つずつ、其れも、大きなサイズだ。
アティルの分として作ってきたサンドイッチ。
ボックスの中にある半分を差し出して、空いたところに、貰ったおにぎりを格納する。
いっぺんに食べられるわけでは無いんだし。
後、紅茶のカップを二つ取り出して、それぞれに紅茶を注ぐ。
脇に、砂糖とミルクを準備して、これで好いだろう。
「いただきます。」
東方の礼儀だったか、この間の、姉と叔母の家庭教師の男性を思い出して、
それを合わせるように戴きますをして。
一番最初に手にするのは、矢張りおにぎりだ。
彼が自分の為に、と作ってくれたのだから、其方を食べるのが礼儀と思う。
なので、小さな唇を、大きく開いて、ぱくり、と一口。
■アティル > 「表面的な理解でも、最初は良いと思いますよ。
ゆっくり、時間をかけて本当の意味で理解し合える時が来ればいい。
争っていてばかりでは、スタートラインに立つのも一苦労でしょう。」
例え表面的でも。
例え一個のカリスマ性であろうと。
例えそれが力であろうと。
争いと言う物が無ければ少しずつ距離を縮めていく事は出来る筈。
争い、血や利を求めるばかりでは表面的な理解に漕ぎ着けるのも一苦労と言える。
「えぇ……?いろんな人にはしてないですよ。
そもそも人との交わりと言うか、本当の意味で力を抜いて交流しているのはリーナさんだけですし。」
ぱくん。サンドイッチを口に運んだ。
事実、こういう言葉は社交辞令ではなく本当の意味で口にする事は無い。
言葉の揚げ足を取られ、隙を見せればぼこぼこにされるどころか火だるまにされるのが貴族の世界。
人の心を豊かに、和やかにさせる笑顔を見せる少女にはそうあってほしいという貴族のワガママと言って良かった。
紅茶は最初から砂糖を入れるのではなく、口にするものに合わせて味を調えていく派。
大ぶりなサンドイッチだが、かえってその方が見栄えが良い。
パンのふわりとした柔らかさや、卵の純朴な旨味。
落ち着く物音に少女の声と自分にとっては最高とも言えるリラックスできる時間も併せて。
ゆっくりと咀嚼をして、呑み込むまでに見せる表情は言うまでも無く満面の笑み。
紅茶はストレートで口に含み。がっつくのではなく、一口一口。
大切に、味わう様に口に運んでいる。勿論表情が物語る通りにその味は。
「……美味しいです。」
1つ食べると、直ぐもう1つに手が伸びてしまう。
子供ではないけれど、童心に戻った様に食べる事に意識を取られる時間。
少し、はっとしたように隣を見てしまうのは2つ目のサンドイッチを半分近くも食べてしまった頃だ。
「大きなサンドイッチって、小さなサンドイッチを作るより難しいと聞きます。
料理を作るのも上手なんですね。」
■アティル > かくて休憩をはさみつつキャンプは無事に終えてスタート地点に戻って来る。
その頃には少女はけろりとしていたが、男の方が膝が笑っていたというのは内緒の話。
隠せていたかどうかは――少女の言葉や笑顔。視線からも伝わる事だろう。
種族の差に甘えず、自分も少しでも鍛える必要に迫られた……気がする。そんな平和な一日を経てまた日々の喧騒政争へ。
少女は平穏な日常と、命を救う活動の日々に戻るのだろう。
ご案内:「王都近郊ピクニック場」からリーナさんが去りました。
ご案内:「王都近郊ピクニック場」からアティルさんが去りました。