2023/12/08 のログ
ご案内:「平民地区 宿の屋上」にアルマースさんが現れました。
アルマース > 正午の鐘が鳴り響く。

太陽の位置を確認し、眩しそうに目を細めた女は、あくびを嚙み殺した。
雲一つない晴れ空の下、物干し竿に白いシーツが並んではためいている。
寝起きのまま何も手入れせず、ボリュームを増している黒髪に指を突っ込んでくしゃくしゃ掻き上げ、あふ、と気の抜けた声。

「――――もう昼かあ……女将さん、終わったよー」

踊り子の仕事のある時は、帰りが夜遅くなることが多い。
いつもならまだ寝ている時刻であることは宿の主も承知であるから、
『いつまで寝てるんだい』と宿の部屋の扉が叩かれたのは、ただただ洗濯作業の人手が欲しかっただけに違いない。

それでも。
『昼飯食わせてやるから洗濯物手伝いな』という女将さんの言葉に、えーだのうーだの言いながら従ったのは、
あれこれ融通してくれたり心配してくれたり、日頃から宿泊客というより娘のように扱ってもらっている自覚があったからだ。

昼ごはんに釣られて重たいシーツを干し終えたが、女将さんの返事は無かった。
いつの間にか作業を全部任されていたらしい。
階下の厨房で仕込み作業をしに行ったのだろう。
お昼は何かなぁ……と鼻をひくつかせて何かしらの匂いを探しながら、洗濯籠を持ち上げたとき。

びゅうっ。

突風に煽られて、干したばかりのシーツが一枚舞い上がり。

「……っあ。あ――――!」

宿場通りに飛ばされていく白い布を追いかけようと、手すりも無い屋上から身を乗り出したけれど。
死にはせずとも怪我はする高さである。
大人しく階段を使って外へ出るしかなさそうだ。

ご案内:「平民地区 宿の屋上」にアドラーさんが現れました。
アドラー > 「さてと」

地図を広げて王都内を歩き回る青い瞳の男。
コートを風に靡かせ、次なる目的地へと歩いていく。

本日は依頼は無いものの、明日に控えた協働の依頼攻略のための道具集めをしている。
依頼内容はモンスターの巣の駆除と、可能であれば攫われた人々の救出。
事前情報として、モンスターは虫に類するものが予想されるとのことだ。

「次は…ん"っ」

虫が嫌がる匂いのポーションや、爆弾の材料となる素材の入った袋を手に持ち
次の場所へ行こうとした矢先、空の上から濡れたシーツが顔面目掛けてぶつかる。
びちゃ、と水の音を響かせながら、頭の先から顔にかけてを薄く濡らして。

「なんだ?…ここは…あぁ」

濡れたシーツを落ち着いた動作で掴んで視界を確保し、周囲を確認する。
そこは何度か友人と来たことのある宿。上を見上げると、見慣れた黒髪が身を乗り出しているのを確認する。
きっと彼女が落としたものだろう

「これをもってそちらに行けばいいか!?アルマ!」

宿の屋上へ向かって大声を発しながら、落ちてきたシーツを示す。

アルマース > 飛ばされたシーツが通行人に襲い掛かり、やば――と呟きが洩れた。
相手によっては面倒な難癖をつけられかねない。あらゆる手段で気を静めねば、と気を引き締めた矢先。
シーツの下から現れた顔と目が合った。

「……お? お! アドラーじゃないの! 良いタイミング~」

屋上でしゃがみこんだまま暢気な声を降らせ、干されたシーツを背景にひらひらと手を振った。

「ごめんごめん、持ってきてくれると助かるー」

人通りの多い場所である。
大声で交わされるやり取りに、何事かと振り向く人もいたけれど、諍いではないと見ればすぐに皆関心を失って流れてゆく。
両脇に赤い植え込みのある宿の扉は、アドラーは何度か見ているはずだ。
中に入れば、シーツを見た女将さんもおおよその事情を察するはずである。

アドラー > 「私にとっては悪いタイミングだけどな」

若干湿った髪とコートにため息をつく。
運がいいのか悪いのか。ともあれ、親愛なる隣人の頼みなら、無下にするわけにはいかない。
宿に入っていくと、彼女が懇意にしている女将さんが挨拶にやってくる。

お互い初対面ではないし、シーツのことを離せばすんなりと通してくれて
そのまま階段を登って屋上までやってきて

「やぁ、元気そうだな。今日は洗濯物か?」

ドアを開けて、屋上へやってくるとアルマへ挨拶をする。
ニコッと笑顔を見せ、片手を上げて彼女の方へと向かっていく。

「天気もいいし、清々しい気持ちで家事をやっている…わけではないか」

雲一つない晴れ空を見上げ、その次に彼女に視線を移す。
ボリューミーな髪型とやや眠そうな顔を見るに、女将に強要されてやっているのだろう。

踊り子の仕事のせいで生活リズムが乱れているだろうに災難だな、などと思いながら
手に持っているシーツを彼女の代わりに干して、今度は飛ばないように洗濯ばさみなどで固定をする。

アルマース > へへ、と笑って誤魔化せる相手で幸いであった。
他に飛ばされそうなシーツが無いかチェックしながら、やがて聞こえてくる足音を笑顔で迎える。

「――おはよ、アドラー。水も滴る何とやらだねえ。
 シーツありがと。地面に落ちなくて良かったあ……」

受け取ろうと手を伸ばしたが、手際良くシーツを干すのに、再びありがとう、と。

「女将さんが昼ごはん食べさせてくれるって言うからさー……
 まあだ眠たいけど、たまには早起きも悪くないね。
 あなたは? 本日の冒険へ繰り出すところだったの?」

そこへ再び、階下から足音が上ってくる。今度は女将さんだ。
手にしたトレイの上には、野菜と塩漬け肉の薄切りとほろほろのカッテージチーズを挟んだパンと、肉の餡を小麦の皮で包んだスープ、干した木苺の入ったクッキー。
どれも二人分である。

「わあいご飯だ! 女将さんありがと~。
 アドラーくん、時間あるの? 無いならあたしが二人分食べるけど?」

天気も良いしそこまで寒くない。屋上でご飯のつもりで女将さんからトレイを受け取りながら、ちらっとアドラーを見上げた。

アドラー > 「調子の良いことを。
 ま、確かに地面に落ちて洗い直しになったり、他人にぶつかって君が責を負わされるのは、面倒だな」

やや湿っている自分に対し、ニコニコと笑顔を見せる相手をジト目を向け。
運が良いのか悪いのか。少なくとも友人が不運にならなくてよかった。
ため息を吐きながらも、直後には微笑みを彼女を向けて

「なるほど。まるで母親のようだな、女将さん。
 本日の冒険は休みだよ。代わりに明日協働での依頼があるから、今日はその準備だな」

先ほど手に持っていた袋は腰に下げていて、それを示しながら教える。
そして聞こえてきた階段を昇る音に視線を向けると、女将が食事を持ってきてくれたようだ。
丁寧に二人分用意してくれているみたいで。

「急ぎではないし、せっかくのご厚意だ。いただかなければそれこそ失礼だろう。
 ありがとうございます。いただきます」

目的の道具も逃げるわけじゃない。昼食もまだ食べてない故、ここは女将さんの気遣いに甘えるとしよう。
丁寧な言葉遣いで女将さんに礼を言うと、二人分食べるという彼女に

「二人分食べると太るぞ」

トレイを持って反撃できないのをいいことに彼女の頬を指でぷにっと押して、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

アルマース > 「ほんとほんと。アドラーが来た日、女将さんも『あたしもあと十年若ければ』って、――いっっだ!」

接客用の笑顔のままの女将さんに派手に尻を叩かれて、ぐらついてスープが波立った。言ってはいけないことだったらしい。
『ありがとうね、ごゆっくり!』と女将さんが階下へ戻ってゆく。
叩かれた尻がじんじんするけれども、トレイで手が塞がっている。
恨めしく女将さんを見送って……

「……そうねえ、うちの母さんに似てるとこはあるなあ。
 急いでないなら良かった、干されていきなよ。
 動けば太んないし~」

ミルクチョコレート色の頬がつつかれるのに、片頬をふくらませて対抗する。
往来を見下ろしながら昼食にすることにして、シーツを避けながらトレイを置いた。
座って足をぶらつかせるのは、高所恐怖症だとオソロシイものかもしれないが、日を浴びるのが好きな自分にとってはピクニック感覚だ。

「ン? キョウドウって、とうとうパーティーメンバー見つかったの?」

座りなよ、とトレイを挟んで隣の床面を示しながら、一度聞き流した言葉に問う。

アドラー > 「ふふ…そんなことを?あの女将さんなら私でなくても引く手数多だろうに」

尻を叩かれる様子を笑いながらも、女将さんに笑顔を見せ、その後ろ姿に手を振る。
女将さんが去った後にそんなことを想われていたのかと問いかける。
あの美人な女将さんだから年齢など関係なくモテるだろうに

「はは、想像が容易にできるな。
 ん、君と一緒ならそれも悪くはないか。食べようか」

つついた頬が膨らむ様子は面白くて、トレイを挟んで彼女の横に座りながら日に当たる。
高く風が吹く場所は旅で慣れているからか、大きな恐怖心はなく。
その景色と日光を堪能しながら、女将さんの用意したパンを手に取り、一口食べる。

「あぁ、ノーマという女性でな。私と一緒に組んでくれたんだ」

つい最近知り合った冒険者の女性の名前を出す。
出会いは酒場、その後は森の中や遺跡探索で偶然鉢合わせることがあって、その流れもあってパーティーを組むことになったと説明する。

アルマース > 「あらあら、そんなこと言って親父さんをやきもきさせちゃだめよ」

言ったらどんな顔をするかしら――と悪戯を考えてにまにまする。
髪をざっくりと三つ編みにしながら、結わえるものが無いので、ぐるっとして髪を分けて毛先を押し込んでぎゅっぎゅとして、頭の後ろでお団子にする。
激しく動けばほどけてしまうけれど、さらさらの髪質ではないから、その程度でもまとまるのである。

いただきまあす、とスープのお椀を手に取って、スプーンで具を掬って口に運ぶ。
酸味と甘みのバランスの良いトマトベースのスープ。さすが料理上手の親父さんである。
今頃は階下の食事処も賑わっていることだろう。

パーティ組んで冒険って楽しそうだよね――と話してからそう時間も経っていない。
早速メンバーが見つかったのかと目を輝かせた。

「え! 良かったじゃない。どんな人? 金髪碧眼で白い服の似合う小動物系ヒーラー?
 それだと仲良くなれないな~。そうじゃないなら会ってみたあい。
 冒険中のアドラーの鬼っぷりを聞いてみたあい」

アドラー > 「ふふ、そうだな。揶揄うのは君だけで充分だ」

彼女の頬をぷにぷにとつつきながら、食事を楽しむ。
やや空いていたお腹に野菜と肉、チーズとパンの組み合わせは最高だ。
その味に舌鼓を打ちながら、相手が髪をまとめる様子を横目で確認する。

パンを食べていると口の中が渇き、スープのお椀を手に取って啜る。
彼女がここに居る理由がわかる味だ。

「前から思っていたが、その小動物系ヒーラーというのは何なんだ?
 ん~…手合わせをした事無いが、もしかしたら私より強いかもしれないな」

呪文のように唱える彼女の言葉に疑問符を浮かべながら
どんな人、と聞かれれば容姿や雰囲気よりも強さの話になる。

「きっと仲良くなれるさ。…私は依頼中、そこまで怖くしてるつもりはないんだがな」

小動物というにはそこが知れない仲間ではあるが、アルマとは仲良くできるだろうと確信めいたものは感じる。
そして、鬼っぷりという言葉には、ジト目で彼女を睨みながら反論をして

アルマース > 「あたしは揶揄う側なんだけど……?」

またも頬をつつかれるのに、これも揶揄われているのか――と思い始める。
眇めた目には、あからさまに気に召さぬと主張する色。

「え、守ってあげたくなる感じの……?」

不思議そうに言われて改めて考えてみると、思い当たる節はひとつしかなくて。

「――……あの子の奥さんがそんな感じの人だったから。
 あたしの中の気に食わない女像がそれなのね……。
 ……そろそろ供養しないといけないねえ」

呪文――ノロイに違いないのかもしれない。
振り払うように首を振って。

「つよい女、良いね! いつか会えると良いなあ。
 そんな目しないで。アドラーくんにも知らない一面があるのかもしれないなーって思っただけよ。
 あなたはきっとどこでも紳士なんでしょ」

信じてる信じてる、と宥めた。
パンからはみ出そうなサービス精神旺盛な具材を指で押し込み、あむっと一口。

アドラー > 「そうか?ならば、私を揶揄ってくれたまえ、アルマ」

自分が揶揄われる側に行くのが嫌だと主張する相手にニコニコと笑顔になりながらも
それならばどのような行動をするのか、相手に一旦主導権を渡してみて。

「守ってあげたくなる、か」

男性の庇護欲をかき立てられるか弱い女性。
そのような人物は冒険者ギルドに居るが、パーティーを組む相手としては微妙な所。
自分の仲間となる場合は相手の強さや出来ることに焦点を当てる。小動物でか弱い女性は…仲間として組むには少々頼りない。

「…身体の傷は時間をかければ治せるが、心の傷はな。
 恋とは厄介なものだ。情熱的な恋をすればするほど、叶わなかったときに心に良くない物を残す」
 
彼女の初恋の相手。
アルマがその人に抱いている感情について肯定も否定もせず。
今は友人として、寄り添って。

「絶対に会えるさ。いつか彼女と一緒にこの宿のご飯を食べに来よう。
 はは、まぁ、君の予想通り、私にも紳士じゃない時はある。

 というか、知ってるだろ?」

無事依頼を終えたら祝杯はこの宿の美味しい店と共に挙げようか、などと考える。
そして、次なる言葉には悪戯っぽい笑みを浮かべる。
其れこそ、この宿の彼女の部屋で見せたのが普段は見せない青い瞳の男の一面で。